食糧生産はすべてに優先する

Chico

ブラジルNGO食糧サミットコーディネータ、
シコ・メネーゼス氏に聞く

聞き手 印鑰 智哉



以下の文章は8月29日、ブラジル、リオデジャネイロのブラジル社会経済分析研究所(IBASE,ブラジルの代表的NGO)において、スタッフで、ブラジルNGO食糧サミットのコーディネータをつとめる Francisco Menezes氏のインタビューを翻訳したものである。

食糧輸出大国ブラジルは同時に3200万人におよぶ飢餓線で苦しむ人々を持つ矛盾を持つ国である。政府は一方で食糧の輸出を拡大しつつ、国民の日常食は海外から安く輸入しようという政策を取りつつあり、ブラジルのNGOは現在のブラジルにおける飢餓状況のいっそうの悪化を懸念して、FAO食糧サミットに向けて活動を活発に行なっている。

今後、細かいフォローアップなどはJCAの会議室で行なっていくので、関心のある人はぜひ、JCAネットにご参加ください。

この問題でのコンタクト:印鑰 智哉 (INYAKU, Tomoya) tomo@jca.ax.apc.org


ブラジル政府は年の初めに食糧サミットのための準備委員会を作りました。こ の委員会には政府関係者の他、市民社会の代表者が入っていました。ブラジル 政府の言う市民社会の代表者とは、NGO、Contag(農業労働者総連合)など の社会運動、そして、食料産業の企業家たちでした。私は、ブラジルNGO連 合(ABONG)の代表として参加しました。

●NGOの提言をブラジル農業省が拒否

私たちは、サミットへの議論にもっと充実した参加が得られるように、委員会 がセミナーを開催すべきであると提言しました。委員会の政府関係者も賛同し て、政府がセミナーの開催費用を保障し、このセミナーは今年の4月22日に 行われました。

このセミナーには幅の広いNGOの参加がありました。このセミナーの最大の 目的はブラジル政府の提案の中身を議論することでしたが、ブラジル政府の提 案文書は完成しておらず、その部分的な文書で討議せざるをえませんでした。 それでも市民社会の代表者たちはいくつもの修正や新たな提案などをしました。 それらは政府関係者の意見とは異なる多様なものでした。このセミナーが終わ って、セミナーより市民社会の代表者が少ない委員会に議論は移り、提案文書 を完成させる段階に入りました。

政府関係者と市民社会の代表者の立場の間には、明確な違いが存在していまし た。そこで委員会では文書の中でこの違いの存在が明記されるようにしました。 「市民社会の代表者たちは○○の事態について憂慮しているが、政府はそれは xxによって解決できると考えている」などというように。

こうして違いを明記した文書を大統領府に送り、承認を待ったのです。今日に 至るまで公式には文書はまだ戻ってきていません。しかし、現実には農業省が この文書に反発し、ブラジル政府の立場に即していないと再検討を命じ、文書 を徹底的に書き換えてしまったのです。

委員会が作った文書で何が一番、農業省にとって受け入れ難かった点なのでし ょう? これはとりわけ日本の人たちともいっしょに考えたいことなのですが、 農業省は、市場が食糧生産と分配を制御できる力を持っており、政府はそれに 介入する必要がないということ信じているのです。ネオリベラルなとらえ方で す。私たち、市民社会の代表者たち、NGOの代表者たちは、それに対してノ ーと言いました。

私たちは市場にも公的な規制が必要であることを主張しました。私たちは極め て大きな不平等な社会の中に住んでいます。もし、こうした状態で形成される 市場にまかせておけば、将来はもっと不平等がひどくなる可能性が高くなるか らです。この点がもっとも対立する点です。

私たちは国は食糧自給をめざすべきだと主張し、それに対して国はそれは必要 ないと答えました。食糧自給はもはや考える必要がない。今、大事なことは、 一番安いコストで生産できる国に生産させるということだというのです。もし、 国際価格よりも高いコストで生産するような国は海外から輸入するということ になります。

●ラテンアメリカ諸国の動きとNGO

次に、ラテンアメリカの状況について簡単に説明しておきます。ブラジル以外 では食糧サミットへの政府の立場を決める上で、市民社会からの参加はほとん どありません。ラテンアメリカの他の政府は国を代表する立場を決める上で、 市民社会の代表者を呼びもしませんでした。パラグアイのアスンサンで地域会 議が行なわれた時、私たちはこの会議に参加していたラテンアメリカのNGO にごく簡単な質問を送り、簡単な調査をしました。その質問とは、食糧サミッ トの公式文書準備の過程におけるNGOや社会運動の参加はどうかというもの でした。その結果は、NGOに参加を認めた国は皆無でした。ブラジル政府の ように立場の異なる人びとを含んだ委員会を作ったところはなかったのです。 その意味ではブラジル政府のやり方がもっとも民主的でした。他の国では政府 が何をやっているかさえ知らないところがあったくらいです。自分たちの国の 立場を外国のコンサルタント会社に書かせている国もあるのです。

メキシコの場合はとりわけ強調すべきでしょう。メキシコ政府は市民社会から のどんな参加をも拒みました。その結果、市民社会の側が食糧に関するフォー ラムを形成し、食糧に関する主権についての全国フォーラムが開かれるにいた りました。このフォーラムはとても市民社会が代表されていたものになってい て、意義深いものでした。

メキシコは伝統的農業国で、とうもろこし栽培を生み出した国です。すべての とうもろこし栽培はメキシコから生まれました。しかし、メキシコは、現在の 政府のネオリベラルの政策の元で悲劇的な状況になっています。つまり、比較 優位の考え方で、メキシコは自国でとうもろこしを生産するよりも北(米国) から買った方が有利だとして、とうもろこしの国際価格が安かった時に、とう もろこしの大量買い付けをしました。そして今現在、米国のとうもろこしの不 作によって、とうもろこしの値段は大幅に上昇しました。しかしながら、メキ シコ政府は数年の農業政策によってとうもろこしの小規模生産を整理してしま ったので、メキシコはとうもろこしの生産を再開する状態にないのです。再開 するにしてもとても時間がかかります。

この結果、メキシコは穀物、とうもろこしや小麦の不足に苦しむ状況にありま す。こうした状況に対して大衆的なデモも起きています。メキシコのレオン市 では、女性や子どもたちは止まっていたとうもろこしを運搬する列車を襲って、 中身をからっぽにしたそうですが、その時彼女たちは「私たちは飢えている。 私たちはトルティージャがが必要だ」と叫んでいたそうです。トルティージャ はとうもろこしから作った彼らの主食です。

このメキシコ政府の政策がもたらした結果はわれわれにとって重要な例となる でしょう。

●文化への暴力としての自由貿易

また同時に、食文化に対する暴力という側面も見逃すことはできません。北か らくる食物は、北の文化の基準で作られたものです。たとえば、メキシコでト ルティージャを作る時のとうもろこしは白いとうもろこしです。しかし、メキ シコ政府の政策により、もはや白いとうもろこしは生産できない。米国からの 輸入されるのは黄色いとうもろこしで、そのためトルティージャの品質はとて も落ちてしまった。メキシコ人の中にはとても食べられないという人もでてき ています。これは食文化に対する暴力であると私たちは考えています。

パラグアイのアスンサンで6月に行なわれたFAOのラテンアメリカとカリブ 海地域会議には多くのNGOや社会運動の代表が参加し、その参加団体は宣言 文を採択しました。このラテンアメリカ大陸で食糧問題で活動をリードしてい る団体の参加によって作られたこの宣言文はとても中身があり、力のあるもの になっています。しかし、残念なことに、FAOはその各国の大臣による会議 の中で、市民社会の代表の発言に10分しか割かなかったのです。われわれの 会議の結果を聞くのに10分しか割かなかった。ということは、FAOは市民 社会の参加の重要性を十分認識していないのです。

●FAOの公式会議について

食糧サミットはこの問題に関して多くの人が関心を持ってもらう上で極めて有 効な機会であると思いますし、国際的な情報や経験の交換の上でも重要な機会 となるでしょう。この点はもっとも重要だと思います。何かいっしょに活動で きるような可能性があるでしょう。たとえば、メキシコの食糧に関する主権に ついての全国フォーラムに招待された時に、ブラジルの反飢餓運動についての 経験について私は話しました。そしてその話しは彼らにとても有効で、ブラジ ルでの運動の標語である「飢餓は待っていられない」をさっそく運動に取り入 れました。そうした経験の交流はとても価値のあるものだと思います。

その反面、公式会議にはほとんど期待を持っていません。まあ、一種のお祭り でしょう。飢餓を議論しながら、高価なカクテルを飲んでいるような。実際、 宣言や行動計画は9月におおむね決まり、11月の会議は署名という段取りに なるわけですが。この宣言や行動計画はおおいに問題です。

とりわけ生産の方にばかりに議論が集中していて、他の重要な課題を無視して います。その1つは、食糧をどうやって得るかという問題です。あるいは食糧 生産資源の分配の問題。たとえばブラジルの場合は食糧生産については大きな 力を持っていますが、その住民は食糧を買う力がありません。そして、食文化 あるいは食糧の品質の面も議論されていません。私たちの食糧安保はそうした ものを必要とするのです。ただ単に食糧の量の問題だけでなく。しかし、公式 会議はこうしたわれわれの懸念から遠い。公式会議の文書は、市場の力こそが 食糧安全保障に本質的だという、GATTの路線を反映させたものとなってい くでしょう。

また、政府は実際会議で署名したことも会議が終われば、結局、実行されない ことが多々あるわけで、その点についてはわれわれは幻想は持っていません。

ただこうした世界中の動きがあることを利用して、われわれの提案を世界に示 すことはとても重要です。食糧サミットで諸政府の採択することを期待などせ ずに、 日々の課題として提案を示すことです。われわれ RIAD(インターアメ リカ農業民主ネットワーク)は他の地域のネットワークグループと連携を取り ながら、提案をしているのですが、GATT、WTOを含めて議論しなければ 食糧安保の問題は話しにならないだろうと思います。つまり、食糧安保の目的 を達する方法を定義した国際条約を作る必要があるということです。

この条約の中身は、それぞれの国は基礎食糧の生産を保障する上で自立した決 定権を持ち、この基礎食糧の生産についてはWTOの基準の中には置かれない というものです。つまり、たとえある国がその国の主要食物生産に補助金を与 えているからといって、その国を非難できないことになります。たとえば、メ キシコがとうもろこし生産を保護したからといって、メキシコ政府を貿易協定 に違反しているとして非難することはできません。食糧は第一であって、食糧 生産は他の議論に先んじるということです。

こうした立場をFAOがすぐ取ることは期待していません。しかし、今から提 案をすることによって、1999年のGATTの条約の改訂時には、国際的な 食糧貿易の一般の規則と人びとの生存に本質的な基礎食糧は保護されなければ ならないという2つのことを分けさせる上でいい状況を作ることができると期 待しています。

●行動について

10月16日は世界食糧デーです。この日にいくつかの国で食糧サミットに向 けたデモを行います。食糧サミットを単なる定期的な会議として、その意義を 十分認識していない政府の意識を変えることが目的です。メキシコやブラジル ではかなり大きな動きになると思います。11月には、食糧サミットの公式会 議が行われる前に開かれる市民社会の代表者による会議に参加する予定です。


印鑰 智哉 (INYAKU, Tomoya) E-mail: tomo@jca.ax.apc.org