人事委員会

平成10年(不)第3号懲戒戒告処分事案

第17回口頭審理調書

2000年12月13日(水)


(Web管理者記)

┌────────────────────────────────────┐ │         第 17 回 口 頭 審 理 調 書         │ ├───────────┬────────────────────────┤ │ 事 案 の 表 示 │   平成10年(不)第3号事案        │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 請   求   人 │   竹永 公一                │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 処   分   者 │   埼玉県教育委員会             │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 期       日 │   平成12年12月13日          │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 場所及び公開の有無 │ 埼玉県庁  第三庁舎  講堂   公 開   │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 開会及び閉会時刻  │ 午後2時32分開会   午後3時48分閉会  │ ├───────────┼────────────────────────┤ │           │ 委 員 長   坂 巻  幸 次       │ │ 審 理 委 員   │ 委   員   久保木  宏太郎       │ │           │ 委   員   渡 邉  圭 一       │ ├───────────┼────────────────────────┤ │           │  事務局長   加村 トク江         │ │           │  次  長   渡辺  三男         │ │ 審理事務補助職員  │  主  幹   吉野   昇         │ │           │  主  査   小山   堅         │ │           │  主  任   高田  裕之         │ │           │  主  任   星   友治         │ │           │  主  事   海野  直子         │ ├───────────┼────────────────────────┤ │           │ 請求人側                   │ │           │  請求人 竹永公一              │ │           │  代理人 桜井和人  中山福二  堀 哲郎  │ │           │      野本夏生  佐々木新一 鍛治伸明  │ │           │      池永知樹  岩下豊彦  谷村勝彦  │ │ 当事者の出席状況  │      和田 茂  米浦 正  竹下里志  │ │           │      林  哲  宮良敦子        │ │           │                        │ │           │ 処分者側                   │ │           │  代理人 鍛治 勉  飯塚 肇  白鳥敏男  │ │           │      根岸 玲  赤松峰親  桝澤 智  │ │           │      和田幸男  伊東良男  松田敏男  │ │           │      古川治夫              │ │           │                        │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 審理の記録     │       別 の と お り        │ ├───────────┼────────────────────────┤ │ 付属書類      │         な   し          │ └───────────┴────────────────────────┘ ------------------------------------(01)------------------------------------         平成10年(不)第3号事案 第17回公開口頭審理 平成12年12月13日(水曜日) 午後2時32分開会 ○委員長(坂巻) ただ今から、平成10年(不)第3号懲戒戒告処分事案の第17    回口頭審理を行います。     人事委員会としては、不服申立て制度の趣旨のもとにこの審理を進めてまい    りますので、両当事者及び代理人におかれましては、秩序のある審理が行われ    ますよう御協力願います。     傍聴人の方も、不服申立て制度の趣旨を御理解の上、静粛にお願いいたしま    す。     なお、審理に際しまして、3点ほど注意事項を申し上げます。     両当事者の発言は、速記者が記録を取りますので、その都度、名前を言って    発言してください。     録音機の使用や写真撮影を行うことは禁止いたします。     傍聴人は、傍聴券の裏に記載してある傍聴規則を守ってください。特に、審    理関係者の発言に対して批判や野次を加えたり、拍手をしたりすることは厳に    慎んでください。     審理の進行の妨げになるので、場内では携帯電話やポケットベルのスイッチ    は切っておいてください。     以上のような点を守らない傍聴人には退場していただくことになりますので、    御注意を申し上げます。     書面の確認をいたします。     まず請求人側から申し上げますと、2000年12月11日付けで証拠申出    書(13)、それから、甲第149号ないし156号が提出されております。    それから、甲号証重複による訂正申立書が提出されております。そして、本日    提出されました本日付けの最終意見書、それから請求人本人の12月8日付け    最終意見陳述書。それから本日付け岩下豊彦さん及び宮良敦子さんの意見書が    提出されております。     それと、12月12日付け、乙号証に対する認否書。以上が提出されまして、    これらについては、既に副本は処分者側代理人の方にお渡ししてあると思いま    すけど、よろしいですか。 ○処分者代理人(鍛冶) はい、結構です。 ○委員長(坂巻) それから、処分者側から提出されているのは、本日付け意見書。    それから、本日付けで、同じく甲号証に対する認否書が提出されております。     いずれもこれは、請求人側に渡っておりますね。 ○請求人代理人(桜井) はい。 ○委員長(坂巻) それでは、書面の確認は以上でよろしいですね。 ○請求人代理人(桜井) はい。 ○処分者代理人(鍛冶) はい。 ○委員長(坂巻) 本事実の口頭審理は、本日をもって終了する予定ですが、審理開    始から今日まで、長時間たっており、請求人から提出されました審査請求書の    記載内容で、変更になった点もあるものと推察されますので、不利益処分につ    いての不服申立てに関する規則第6条第4項により、審査請求書の記載事項に    変更を生じている場合には、届け出るよう、お願いします。最終陳述の進め方                  ―1― ------------------------------------(02)------------------------------------    については、双方から陳述書が出ております。これは口頭でやられる予定です    ね。 ○請求人代理人(桜井) はい。 ○処分者代理人(鍛治) はい。 ○委員長(坂巻) それでは、簡潔にお願いいたします。     まず、請求人側からお願いいたします。 ○請求人代理人(桜井) では、請求人代理人の桜井から、代理人の意見陳述を申し    上げます。なお、この後、鍛治代理人、それからそのほかの代理人からも意見    陳述があります。     今から11年前の1989年11月20日、国連総会で子どもの権利条約が    満場一致で採択されました。その日の午後、世界75か国の子供たち数百人が    集まって子供たちの記念祝賀会が開かれ、当時のデクエヤル国連事務総長があ    いさつしたり、ユニセフの親善大使として活躍した女優のオードリー・ヘツプ    バーンがこの条約の精神と内容をまとめた文章を朗読するなどした後、各国の    子供たちの発言や全員が手を取り合っての合唱があって、この祝賀会は終わっ    たのであります。     私はかつて、高等学校の教員として青少年の教育に携わったことがあります    が、その間、長い間、この請求人の竹永先生と同じ、生徒会の顧問をいたして    おりました。思い出されますのは、市内の三つの高等学校の生徒たちが、三校    特活研究会、特活というのは特別活動ですね、というものを計画、組織し、三    校の教職員、生徒全員が参加して、討論、スポーツ、フォークダンスなどで楽    しい1日を過ごしたこと。また、これも生徒たちの発案による全校生徒参加の    キャンパスファイアーの行事などであります。     所沢高校では、この子どもの権利条約成立の7年前の1982年に、教職員    と生徒との協議会が設置され、また、この条約成立の年である1989年に所    校(ママ)祭、体育祭の改革が行われ、翌1990年に、日の丸、君が代の強    制に反対する生徒総会決議文、及び生徒会権利章典の作成があり、そして19    98年に卒業記念祭、それから入学を祝う会の実施、及び教職員と生徒との定    例連絡会議の設置と、こういった具合に民主的な学校作りが進められたのであ    ります。     所沢高校で、長年にわたり、生徒から生徒へ、教職員から教職員へ、脈脈と    受け継がれてきた学校作りの成果は、私にとって極めて新鮮な驚きであり、ま    た深い感動を覚えるものでありました。     所沢高校におけるこうした試みは、子どもの権利条約が保障する意見表明権、    そしてまた、これと一体をなし、その重要な内容をなすところの参加権の実現    であって、高く評価されるところであります。     請求人の竹永先生は、生徒会顧問として、1998年の卒業記念祭、入学を    祝う会に積極的にかかわりました。この二つの学校行事は、生徒を主体とし、    教職員がこれを指導援助し、そしてPTAが全面的に支援いたしました。この    二つの行事は、自主、自立という所沢高校の学校運営、校風の新しい大いなる    発展として成功しました。     教育の危機が叫ばれ、教育基本法の見直しが論議される昨今でありますが、    所沢高校におけるこうした実践例は、明日の日本の教育への道を照らし出すも    のであります。     請求人の入学許可候補者説明会における本件発言は、良心的な教師として、    所沢高校の校風に沿ったものであり、説明会に出席した子供や保護者に対し、    言わば所高精神、所沢高校精神といったものを理解してもらいたいという一念                  ―2― ------------------------------------(03)------------------------------------    から出たものであります。     請求人に対する本件処分は、内田校長を免罪するものであり、請求人をその    一員とする所沢高校の教職員のみならず、所沢高校の学校作りに参加してきた    在校生、OB、そして、これを支援してきた保護者たちに対する重大な挑戦で    あります。     処分者は、請求人に対する本件処分により、学校教育現場における文部省、    教育委員会、校長の管理体制を強化し、民主的学校作りに励む教職員、生徒を    萎縮させることを企図したのであります。しかし、それは時代に逆行するもの    であり、「学校が楽しい」という、これはパンフレット、立派なものができて    おりまして、甲第151号証として提出してありますが、この学校が楽しいと    いう生徒たちの明るい声を消すことはできないのであります。     県人事委員会におかれては、全世界の子供たちのためのマグナカルタとも言    われる子どもの権利条約の精神に即した判定をなされるよう、心から求める次    第であります。     以上であります。 ○請求人代理人(鍛冶) では、引き続きまして、請求人代理人鍛冶の方から意見を    述べたいと思います。     まず、事実誤認について述べます。     処分者は、請求人の発言が校長の説明に反したという事実を前提にして地方    公務員法違反という判断を加えているのでありますが、そもそも、その前提た    る事実認定自体が誤っており、本件処分は直ちに取り消されるべきであると考    えます。     処分者によりますと、請求人は、4月9日は入学を祝う会のみを行い、教職    員も校長の行う入学式に反対するという趣旨の発言をしたというのであります。    しかし、請求人は、そのような趣旨の発言は一切しておりません。録音テープ    の反訳書等から明らかになった請求人の発言は、概ね次のとおりのものであり    ます。すなわち、請求人は、所沢高校における学校運営が生徒の自主性を最大    限尊重する方向でなされてきたこと。そのような確立されたシステムの中で3    月9日の卒業記念祭が計画され開かれたこと。さらに、4月9日の入学を祝う    会及び入学式について、生徒、教職員、校長らによる話合いがなされているこ    となどの経過を説明し、その上で、更に話合いを続けるが、いずれにしても混    乱のないように最大限努力しているので、安心して当日を迎えてほしいと述べ    たものであります。     まさにこれが請求人の発言の趣旨であります。     これを、4月9日は入学を祝う会のみを行い、教職員も校長の行う入学式に    反対するという趣旨だととらえた処分者側には、明らかな事実誤認があると言    わざるを得ません。     さらに、処分者側は、処分事由説明書記載の処分事由だけでは自らの主張を    維持できないと考えたのか、不当にも、本件口頭審理が始まってから新たな事    項を処分事由として追加してきました。     これらの事項自体にも事実誤認が見出せるものでありますが、そもそも本件    処分の当否の判断に際しては、その対象が処分時に処分事由とされた事由に限    られることは当然のことであります。処分者による新たな処分事由の追加は不    当極まりないものであり、これら不当に追加された処分事由は、本来、本件処    分の当否の判断に際してその対象にならないはずでありますので、一切無視す    べきであります。     次に、請求人の発言の正当性について述べます。     所沢高校においては、生徒と教職員による民主的話合いを通じた意思形成の                  ―3― ------------------------------------(04)------------------------------------    中で学校運営が行われ、話合い、生徒参加の民主的ルール、いわゆる所沢高校    システムが制度として確立されてきました。     その中でも、とりわけ学校行事を含む特別活動領域は、生徒、教職員の共同    決定の原則が明白に確立してきた分野であります。そして、歴代の校長も長年    にわたりこの共同決定の原則を尊重してきました。     このことは、子どもの権利条約12条に定められた「子供の意見の尊重の原    則」、あるいは「参加の権利」が、所沢高校においては制度、慣習として確立    されているということであり、所沢高校においては、子どもの権利条約が定め    る意見表明権、学校参加権がまさに具体的な権利として高められているという    ことであります。     そして、今回の請求人の発言を見ると、この具体的な権利である意見表明権、    学校参加権を実践するものにほかなりません。この点において、請求人の発言    は極めて正当なものであると言えるのであります。     以上の点のみでも請求人の発言が正当なものというに十分でありますが、ほ    かにも請求人の発言の正当性を裏付ける事情があります。     まず、請求人の発言は、入学行事問題についての本件入学説明会当日までの    事実経過を説明したにすぎないということであります。請求人は、入学説明会    において内田校長の意見に反対する意思表示をしたものではないのであります。     次に、請求人の発言は出席者の要求に応えたものであるという点であります。    所沢高校においては、今回の入学説明会の直前に卒業行事の分裂開催などがあ    り、これについてはマスコミも盛んに報道しておりました。新入生や保護者た    ちは、なぜこのような状況が生まれているのか知りたがっていました。請求人    の発言は、このような要求に応えたものにほかなりません。     また、請求人の発言は新1学年団の合意事項に沿ったものであります。請求    人ら新1学年団の教師たちは、本件説明会において新入生や保護者たちにどの    ような説明をするかについて、直前まで真剣な議論を重ねてきました。請求人    は、新1学年団の代表として、この議論における結論を本件説明会において発    言したにすぎません。     さらに、請求人の発言は、生徒たちの自主的な取組を尊重、擁護していこう    という意図に基づくものであります。決して混乱を意図したものではありませ    ん。     以上述べた点から、請求人の発言が正当なものであるということが明らかに    なりました。     次に、校長の発言の違法性について述べます。     以上述べたとおり、請求人の発言は様々な意味において正当性を有するもの    でありますが、これに対して、入学説明会における内田校長の発言こそが違法    なものであり、この発言によって、当日の会場に無用な混乱が引き起こされた    のであります。     処分者側は、内田校長は入学式を行うことを決定していたなどと盛んに主張    しておりますが、それは明らかな誤りであります。内田校長が、入学式、入学    を祝う会の問題について態度を明確にしたのは、3月23日に職務命令を発し    たときであります。それまでは、せいぜい、入学式をやらないわけにはいかな    いという内田校長の考え方が示されていただけにすぎません。     これに対し所沢高校の職員会議は、1997年10月23日、入学式は行わ    ない、生徒主催で教員が参画した入学を祝う会を行うという決定を行っており、                  ―4― ------------------------------------(05)------------------------------------    その後、本件入学説明会までに、この決定を変更したり、これと異なる決定を    行ったということはありません。     所沢高校においては、1989年2月17日を施行日とする職員会議規程が    内部規則として定められ、これに則った職員会議運営、学校運営が慣行として    も確立しておりました。     この規程によれば、職員会議は校務に関する事項を審議決定することをもっ    て目的とするとされており、職員会議が議決機関として明確に位置づけられて    おります。     内田校長も、所沢高校着任後、当然にこの規程の存在を知ることになります    が、特に異議を唱えることはありませんでした。それにもかかわらず内田校長    は、自ら有効と認識していたはずの職員会議規程に反し、職員会議の決定に基    づく入学行事とは異なった説明を合格者や保護者に行ったのであります。     結局、内田校長は、入学行事問題に関する自分の考えは、それ自体すなわち    校長の決定であり、職員会議でいかなる決定がなされていようとも教職員は校    長の考えに従わなければならないと判断した上で、あえて本件入学説明会にお    ける発言を行ったのであります。これは、学校教育法などの趣旨に明確に反す    るものであり、違法としか言いようがありません。     さらに、それだけではなく、内田校長は、入学式の中で校長が入学を許可す    るなどと述べ、入学許可候補者や保護者に対し、あたかも入学式に出席するこ    とが入学許可の条件であるかのごとく誤解させる発言を行っており、これもま    た極めて異常な発言であります。     学校教育法や学校教育法施行規則、埼玉県立高等学校通則、埼玉県立所沢高    等学校学則等のいずれを見ても、入学式への参加を入学許可要件とする根拠は    全く見あたりません。にもかかわらず、入学式に出席することが入学許可の条    件であるかのごとく説明した内田校長の発言は、単に当日の会場を混乱に陥れ    たというだけではなく、発言そのもの自体、違法としか言いようがありません。     以上、内田校長の発言こそ違法なのであり、処分されるべきは請求人ではな    く、むしろ内田校長の方であると言えます。     次に、適正手続違反について述べます。     本件処分手続においては、数々の適正手続違反がありますが、ここでは、そ    の中でも最も重大な適正手続違反について述べます。     それは教育委員会における本件処分案の審議についてであります。教育委員    会における本件処分案の審議においては、処分者側が起案もた書類の一部を資    料として各委員に配布したのみで、その他の資料は配布されませんでしたし、    その他の情報が各委員に提供されるということもありませんでした。     ここで重大なことは、本件入学説明会における請求人の発言を録音したテー    プが本件審議の資料として提供されなかったということであります。本件処分    は、請求人が内田校長の説明に反する説明を行ったことを理由になされたもの    であります。請求人がどのような発言をしたかが最も重要な問題であります。    そして、請求人の発言内容を直接的に示す客観的な証拠がこの録音テープなの    であります。この録音テープは、請求人が入学説明会でどのような発言をした    か、ひいては本件処分を決するための最良かつ唯一の客観的証拠なのでありま    す。この証拠が教育委員会における審議の場面で一切提供されていないのであ    ります。     更に言えば、単に資料として提供されなかったというだけでなく、意図的に                  ―5― ------------------------------------(06)------------------------------------    隠された可能性すらあります。処分者側である本件処分案の起案者舩津は、処    分案の起案前に本件録音テープの存在を知っていました。つまり、舩津ら処分    者側は、教育委員らが本件処分案を審議するに当たって、最良かつ唯一の客観    的資料である本件録音テープの存在を知りながら、あえてこれを教育委員らに    よる審議の場に提出せず、かつ、その存在すら知らせずに教育委員らに審議を    させ、教育委員らをして、舩津ら処分者側の提案どおりの処分を引き出させた    のであります。     以上の点は、刑事手続に例えるならば、検察官が、被告人の有罪、無罪を左    右する客観的証拠を所持しながら、あえてこれを裁判所に提出せず、裁判所も    起訴状や被害届のみで被告人の有罪を認定してしまったようなものであります。    この手続上の違法は極めて重大なものであることは、だれの目にも明らかであ    ります。     このような重大な適正手続違反は、本件処分が取り消されるに十分な違法性    を有しております。したがって、本件処分は取り消されるべきであります。     次に、本件処分の違法性について述べます。     請求人の発言は、地方公務員法33条に言う信用失墜行為には当たりません。    自治省の公務員部能率安全推進室の監修にかかる、「地方公務員実務提要判定    編」第4巻によりますと、信用失墜行為は次の四つに分類されます。すなわち、    (1) 傷害、暴行、(2) 金銭関係、(3) 風紀関係、(4) その他の四つであります。     請求人の発言が、傷害、暴行、あるいは金銭関係、風紀関係に当たらないこ    とは明らかであります。ですから、(4) の、その他に分類できるかどうかが問    題となります。     今述べた資料には、(4) その他に分類されるものとして、幾つかの処分例が    挙げられております。     それを見ますと、多くは交通違反関係などであり、多少なりとも本件と対比    できる事例は3例のみであります。この3例を見ると、校長を誹誇する言動を    なした、あるいは校長を中傷したという点が信用失墜行為とされたり、終業式    という厳粛な雰囲気が要求される壕を乱した、あるいは、生徒及び保護者に対    し大きな不安を与えた、あるいは地域住民の学校に対する不安感を募らせたと    いう点などが信用失墜行為とされております。     請求人の発言が校長を誹誇、中傷するものでないことはもはや明らかであり    ます。また、請求人の発言によって説明会の会場が混乱したり、新入生や保護    者に不安を与えたなどということもありません。もちろん、地域住民に不安感    を募らせたなどということもありません。むしろ、混乱や不安を引き起こした    のは、入学式に出席することが入学許可の条件であるかのごとく説明した内田    校長の発言であり、請求人の発言は、この内田校長の発言によって生じた混乱    や不安を鎮める役割を果たしたものであります。     結局、請求人の発言は信用失墜行為のいずれの類型にも当てはまらないもの    であり、地方公務員法にいう信用失墜行為には当たらないというべきでありま    す。これを信用失墜行為に当たるとして請求人を処分したことは、明らかに違    法であります。     最後になりますが、内田校長は、本件入学説明会において、請求人の本件発    言をその場で訂正することをせず、請求人の懇切丁寧な説明を黙認しました。    それにもかかわらず、内田校長は請求人の本件発言を事故として扱い、事故報    告書を作成して提出し、処分者側も、これを鵜呑みにして教育委員らに審議さ    せ、本件処分が強行されました。内田校長が説明会当日に隠しどりした録音テ    ープには、内田校長自らの不規則発言も録音されておりました。そこには、                  ―6― ------------------------------------(07)------------------------------------    「入学を許可しなきゃいいんだよ」などという、当日のすべての出席者の尊厳    を踏みにじる極めて悪質なものも含まれておりますが、さらに、「これは大変    なことを言ったなあ」などと、請求人の発言を待ち受けていたかのような言葉    も含まれております。それに加えて、職員会議録の改ざんや抜取り等の事実を    考え合わせると、本件は、内田校長の独断で敢行されたとは思われず、当局に    よる意図的なものを感じざるを得ません。     以上述べたとおり、本件処分の不当性あるいは違法性は十分明らかになりま    した。後は、人事委員会において本件処分が取り消されるのを待つだけであり    ます。     私の方からは以上で終わります。 ○請求人代理人(岩下) 続きまして、請求人側代理人の岩下の方から陳述させてい    ただきます。     私は所沢高校の教員で、現在、竹永さんと一緒に3学年の担任をしているも    のです。98年3月18日の入学説明会をはじめ、本件処分にかかわったほと    んどすべての場に竹永さんと同席しておりますので、証人的立場から、主とし    て当日の竹永発言の正当性について意見を述べたいと思います。     まず、本件の処分対象となった入学説明会での竹永さんの発言が、どういう    必然性をもってなされたか、いかに正当なものであったかを理解していただく    ため、改めて、内田校長着任以前に確立していた所沢高校の民主的学校運営に    ついて述べることから始めたいと思います。     所沢高校の教育活動の特色を簡潔に言えば、生徒の意見を尊重した学校であ    ること、様々な場面で民主的な学校運営がなされている点であると思います。    こうした校風は、もちろん一朝一夕にできたものではなく、長い年月を掛け、    幾多の試行錯誤をしながら、先輩教職員、生徒が作り上げてきたものです。     さて、一つ目の、生徒の意見を尊重した学校運営とは、つまり、生徒の自治    を大切にし、制度としてもそれを保障してきたということです。例えば、体育    祭、文化祭といった行事を、企画から運営まで文字どおり生徒の力でやり切っ    ています。近年、生徒の自主性、自治能力の低下が取りざたされていますが、    なぜ所沢高校ではこうした力が発揮されているのでしょうか。それは、生徒の    意見尊重を基本に据えているからにほかなりません。自主活動とは名ばかりで    教師の指示命令で動かされているのでは、生徒が育つはずもありませんし、生    徒の決定が尊重されなければ意欲を引き出すことはできないでしょう。     もちろん、生徒の意見尊重とは、放任ではありません。生徒が物事を決定し    ていく際、我々は必要な助言はします。しかし、結論は生徒が出します。簡単    なようですが、我々には包容力や忍耐が必要となります。教師側の結論を押し    つけてしまう方がはるかに楽なんです。しかし、あえて面倒な道を選んでいる    のが所沢高校なんです。そのようにしてもなおかつ生徒と教職員の意見が食い    違う場合があります。そのときに開かれるのが協議会というものです。ホーム    ルーム委員会や生徒総会の決定を職員会議が否決した場合、これは開かれます    が、協議会では、生徒、教職員、双方の合意する新たな案を作り上げます。事    柄によっては、合意に至るまで延べ十数時間の話合いが続くこともありました。     時間的に言えば確かに非効率的です。しかし、効率よりも、話合いを重視す    ること、教師の意見を一方的に生徒に押しつけたりしないこと。このことが所                  ―7― ------------------------------------(08)------------------------------------    沢高校の生徒の自主性を育む支えとなっているのだというふうに思います。     二つ目の、民主的学校運営という点ですが、ここでは、職員会議のあり方に    ついて述べたいと思います。     所沢高校では、職員会議をいわゆる決定機関として位置づけてきました。先    月県教育委員会において改定される以前の高等学校管理規則の運用と解説には、    次のようにありました。     学校経営の民主化は戦後の教育の最も重視するところ、職員会議においては、    職員をして十分その議を尽くさせ、その意見は十分尊重して学校運営に当たら    なければならぬことはもちろんである。こうありました。     こうした戦後教育の基本理念を学校運営に生かしてきたのが所沢高校だと思    います。     同様のことは、校内の様々な組織についても言えます。分掌の代表の民主的    な選出の仕方はもちろん、日常の運営など、極力民主的になるように留意して    きました。     代表は特別な権限を持つのではなく、組織内の連絡調整、あるいは意見の取    りまとめといった役割を果たします。ですから、あの入学説明会でも、そうし    た民主的システムにしたがって、1学年の代表である竹永さんは学年の総意を    代表して発言したのであって、個人的な意見でないことは言うまでもありませ    ん。     こうした民主的な学校運営は、教職員一人一人の参加意識、責任感を高める    働きを持っています。校長の考えにただ唯々諾々としたがっていくだけの考え    ない教師が、どうして生徒に考えることを教えられるでしょうか。歴代の校長    も、所沢高校のこの民主的システムを基本的に認めてきました。教職員が十分    議論して決定してきたことを覆すことは一度もありませんでした。しかしこれ    は、校長のリーダーシップがなかったということではありません。その時々の    校長の教育的力量、品格の高さ、人間的信頼があれば、その意見は自然に教職    員、生徒に浸透し、結果として両者の考えが一致していくということです。     「桃李もの言わざれども下おのずから蹊をなす」という格言がありますが、    これこそ、リーダーシップを持った校長の本来の姿があるわけです。     以上述べたような、学校運営の民主的システムを根底から壊していったのが    内田校長だったのです。     内田校長は話合いの姿勢と言葉を持っていませんでした。内田校長着任以前    も、入学式、卒業式問題で、校長と教職員の間で意見の対立もありました。し    かし、粘り強く話合い、双方譲り合って合意をし、混乱なく実施してきました。    ところが、内田校長にはそういう話合いの姿勢が最初からありませんでした。    以後、生徒、保護者、教職員、だれに対しても胸襟を開いて話し合うというこ    とがありませんでした。そういう状況の中で、卒業記念祭、入学を祝う会とい    う、新しい卒業・入学行事が作り上げられていったのです。     では、入学説明会当日に話を移します。     そもそも、入学式に代えて入学を祝う会を行うということは、職員会議と生    徒総会で決定されていた事項です。その決定に沿って、生徒も教職員も、入学    を祝う会成功に向けて準備を進めてきたのですから、初めての行事でもありま    すし、入学説明会で、その経緯や成功に向けての生徒、教職員の思いを伝える    ことは当然のことです。     また、その10日前に行われた卒業行事にかかわって、様々な報道がなされ、    新入生や保護者の問に不安な気持ちがあることは容易に想像されました。です                  ―8― ------------------------------------(09)------------------------------------    から、本来なら校長が説明すべき問題でしたが、内田校長は一言も触れません    でした。校長としての説明責任を全く果たさなかったのです。この点について    も、竹永さんは学年代表として適切な説明をしました。     新入生や保護者の不安に応え、職員会議の決定や行事準備の経過、あるいは    生徒、教職員の思いを伝えることのどこがいけないのでしょう。高校生活スタ    ートの日を不安なく迎えられるように必要な説明をすることは、教師として当    然やらなければならないことのはずです。     その上、この日の説明については、学年会で長い時間かけて議論してきまし    た。その議論の中では、「入学を祝う会一本でやりたいが、その時程を現時点    で新入生に配布するのはどうだろうか」とか、「とにかく混乱は避けるべきだ」    とか、「当日まではまだ時間があるのだから引き続き校長と交渉していくべき    だ」とか、そういった様々な意見が出されました。長い議論になりました。     そうした中で、学年として次のような合意がなされました。     まず、自主、自立の校風と教育方針、卒業記念祭の概略を伝える。さらに、    入学当日に関しては、一つ目として「新入生がバラバラになるのは避けたい」、    二つ目として「入学を祝う会一本でやりたいが、校長との話合いの詰めができ    ていないので、4月9日までは日数があるのでできるだけ話合いを詰め、当日    はできるだけ混乱がないようにしたい」という、二つの考えを伝えることにな    りました。説明会当日の竹永さんの説明は、全く学年会の合意に沿ったもので    した。     ですから、4月9日の登校時間についての保護者の質問がありましたが、竹    永さんは、校長が示したとおりの時間を答えたんです。どの点から見ても、竹    永さんの発言は妥当なもので、処分されるいわれはどこにもないのです。     一方の校長は、説明責任を放棄したばかりか、保護者に対し傲慢な態度を取    り続け、ついには、質問に対し、「いつまで続けるのか」等と恫喝を加え、会    場全体からどよめきが起こりました。保護者に混乱を与えたのは内田校長自身    なんです。このことは、校長自ら隠しどりした録音テープをここで聞かせても    らえば、だれの耳にも明らかなんです。     また、内田校長は、説明会開始直前に、学年のあいさつ状を配布しないよう    言ってきました。「教育の基本は信頼 学校の主人公は生徒です。」そういう    あいさつ状です。これのどこがおかしいんでしょう。教師が生徒を信頼し、生    徒が教師を信頼してはいけないんでしょうか。学校の主人公が生徒では困るん    でしょうか。こういう感覚の人物が校長であった、そのことを人事委員の皆さ    んに分かっていただきたいのです。     さらに、校長は、隠しどりのテープの中で、新入生や保覆者の人格を傷つけ    るような発言を何か所もしています。中でも、最後のほうに出てくる「顔を見    れば分かる、だからその中にジーパンがいたわけよ。もうね、入学を許可しな    きゃいいんだよ。」、こういう発言があった。この発言は断じて見過ごすこと    はできません。あの時点で、特定の保護者の子供に対し入学を許可をしない意    志を持っていたということです。この一言こそ、信用失墜行為でなくて何でし    ょう。また、これだけの発言を見過ごした県教委も責任を問われなければなり    ません。     だからこそ、事実が公になることをおそれ、本件の最高の証拠であるこのテ    ープを、審理の最終回である今日まで、ついに出さなかったのではありません    か。                  ―9― ------------------------------------(10)------------------------------------     以上申し述べてきましたとおり、3月18日の竹永さんの発言は、職員会議、    学年会の決定に沿ってなされたものであり、全く正当なものです。本来指弾さ    れなければならないのは、内田校長の非民主的な学校運営であり、処分される    べきは、入学説明会で問題発言した内田校長自らにほかなりません。     にもかかわらず、なぜ県教委は竹永さんを処分したのでしょうか。     それは、自主、自立の伝統を守り、新しい入学卒業行事を作り上げようとし    た所沢高校を敵視し、その先頭に立って奮闘していた竹永さんを事件のでっち    上げによって処分し、所沢高校を変質させようとしたのがねらいだったとしか    思えません。     審理を通じて、処分の不当性は十分立証されたと確信いたします。人事委員    の皆さん、県教委と内田校長の時代錯誤の教育観によって、一人の良心的教師    が無実の罪を着せられたということの重さをお考えください。私たちにとって    事実は明白なのです。すべてこの目で見、この耳で聞いてきたのですから。皆    さんが、教育の条理に立って真実を見、勇気ある裁定を下されることを信じて、    陳述を終わります。 ○請求人代理人(宮良) 続けて意見を述べさせていただきます。私は、請求人側代    理人の宮良と申します。     二人の娘が所沢高校を卒業しました。また、1996年から3年間、PTA    の役員として活動させていただきました。竹永先生が処分されたということを、    私は自宅の電話で聞いたときの衝撃を今でもはっきりと覚えています。「なぜ」    という思いと、「やっぱり」という、相反する思いがありました。     「なぜ」というのは、処分の事実関係が分かっていなかったからであり、    「やっぱり」というのは、内田前校長先生が赴任してこられてからの1年間、    校長先生が、そして県の教育委員会が何をしてきたのか、また何をしてこなか    ったのかをしっかり見てきたからです。     入学説明会で何があったのを知るために、私はこれまでの審理にすべて参加    してきました。一人の教員を処分したからには、しっかりと事実関係を調べて    処分が下されたものと考えるのが当然でしょう。しかし、これまでの審理で明    らかになってきたことは、事実そのものの誤認であり、ずさんな手続であった    ことに大きな憤りを感じます。     竹永先生の発言は、処分書にあるような信用失墜行為には全く当たらないこ    とと同時に、信用失墜行為を行ってきたのは内田前校長先生であり、県の教育    委員会であったことを、人事委員会の皆様に訴えたいと思います。     97年4月、赴任したばかりの内田校長先生は、前年度に決定されていた入    学式の内容を独断で変更し、管理職三人だけで入学式を強行しました。そのと    きに入学した生徒たちは、今年の3月、卒業していきました。ここに、所沢高    校2000年度卒業生保護者有志の方たちがつくられた卒業文集「かけはし」    があります。保護者の方々の思いのこもった文集です。この「かけはし」に込    められた保護者の方々の思いを、人事委員会の皆様だけでなく、教育委員会の    方々にもぜひ聞いていただきたく、引用させてください。     「『なぜ、どうして…』3年前の入学式は戸惑うばかりでした。主役である    子供たちを完全に無視した前校長の態度は憤りを超えて悲しいものでした。1    5歳の子供たちが初めて自分で選択した進路を、教育者である、それも校長に    よって閉ざされたようなものでしたから。所沢高校は大丈夫かなと。しかし、    騒然となるなか、在校生たちが…今まで所沢高校で培ってきた大切なことが、                  ―10― ------------------------------------(11)------------------------------------    ないがしろにされてしまう…そんな危機感から、新入生のためにも所沢高校を    守りたいという気持ちを、一生懸命に自分たちの声で抗議してくれました。そ    のような先輩の姿に勇気づけられたかのように、新入生からも次々と声が上が    り、保護者からも出ました。そのときすでに子供たちには一体感が芽生えてい    ました。これこそが所沢高校の姿だと納得させられた思いで、そのまでの不安    でどきどきした気持ちが、次第に感動へと変わっていきました。」そんなふう    に述べられています。     混乱の入学式以後、先生方は校長先生に対して何度も、保護者に対しての謝    罪と説明会の開催を求めてくださいましたが、校長先生は応じてくださいませ    んでした。結局、PTA主催で説明会を開かざるを得ませんでした。しかし、    説明を求める私たちに対して、校長先生は、「学校運営に関することはPTA    のPに口を出してもらっては困る。」と話されたのです。     その後の校長先生のあまりの誠意のない対応に、保護者の多くは、次第に、    不信感を通り越して、教育者としての資質を疑わざるを得なくなりました。そ    んな状況に危機感を感じた私たちは、最後の望みを教育委員会に託すために、    7月にPTA臨時総会を開き、校長先生に対して県の指導をお願いする要請文    を採択したのです。それ以降、何度、教育委員会に足を運んだことでしょう。    処分者側の責任者として証言された舩津氏は、当時、PTAとの窓口になって    くださった方の一人であり、私も何回かお会いしています。当時の保護者の思    いは、たとえ理解していただけていなかったとしても、伝わってはいたはずで    す。それなのに、当時の状況はよく分かっていなかったと証言されました。そ    して、たった1本の苦情電話で竹永先生は処分されました。     校長先生をなんとか指導していただきたいというPTA臨時総会で採択した    要請文を持って何度も何度もお願いに行った1年間は、一体何だったのだろう    と、悔しさでいっぱいです。     さらに舩津氏は、処分に際して録音テープも聞かず、根拠は校長先生が作成    した事故報告書だけと証言されました。証拠の確認が必要だったのではという    尋問にも、「校長が嘘をつくはずがないと思ったから」と述べられました。私    たちは一体何を頼りにしていたのだろうと、悲しいばかりです。     17回にも及ぶ公開口頭審理に常にたくさんの傍聴者があり、多くの保護者    の方が来られていることはお分かりのことと思います。     また、所沢高校PTAは、3年間続けて、竹永先生の処分撤回の運動をPT    Aの活動方針として取り上げてきました。このことが何を意味しているのか、    考えていただきたいのです。生徒も保護者も所沢高校が大好きなのです。どん    なに校舎が古くて汚くても、生き生きと高校生活を送る我が子の姿を通して、    保護者は所沢高校の教育に信頼を寄せていくのです。その教育を支えてくださ    っているのが、竹永先生をはじめ多くの先生方であることを知っているから、    今回の処分の意味を考え続けているのです。その結果として、竹永先生の処分    を、個人的な処分はなく所沢高校の教育に対する問題ととらえているからこそ、    処分撤回の活動がPTA全体の取組になり続けているのです。     しかし、98年3月の入学説明会に出席された入学予定の生徒たちも保護者    の方々も、こんな所沢高校の教育をどれだけ御存じだったでしょうか。所沢高    校を選び受験されたのは、一連の卒業記念祭の報道の前です。私自身、入学前    は、制服のない、自主、自立をうたった学校程度の認識しかあり要せんでした。                  ―11― ------------------------------------(12)------------------------------------    合格の喜びも束の間、これから入学する高校が全国的に大きなニュースになっ    ているという事実に、どんなに不安を感じられたか、想像するに難くありませ    ん。     そんな中で開かれた入学説明会だったのです。     これまでの経過を、そして現在の状況を率直に語られる竹永先生のお話は、    処分に該当するようなものでなく、新入生、保護者の不安を解消してくれるも    のだったと、第4回の審理で、説明会に出席した二人の保護者の方が証言なさ    っています。     また、入学後の第1学年懇談会では、「98年度入学行事に関する意見書」    をまとめ、県に提出しています。さらには、多くの保護者の方が同じ思いで意    見書をまとめ、審理の途中で人事委員会に提出しています。     こんなにも多くの保護者が、竹永先生の発言は教育公務員として当然の発言    であると訴えている事実をどう考えられるのでしょうか。竹永先生の発言は、    むしろ校長先生が説明すべき内容であったことは明らかです。     学校の最高責任者は校長だと言いながら、なんらその責任を果たすことのな    かった校長先生こそ問題にされるべきだったのです。     所沢高校は、待つということを本当に大切にして生徒を育ててくださいまし    た。このことがいかに根気のいることか、親としても多くのことを学ばせてい    ただきました。     待つということの根底には、生徒たちに対する先生方の信頼があります。竹    永先生は、あきれるぐらい生徒たちを信じてくださる先生です。話合いの手続    を踏んだかどうかは、厳しすぎると思うぐらい指導なさるけれど、あとはじっ    と待っていらっしゃる先生だと感じています。     私も何回か、我が子のことを御相談したことがありました。いつも返ってく    るのは、「子供を信じなさい、揺れることは悪いことではない。」という言葉    でした。そんなことを言われても親としては心配でと思ったこともありました    が、今は本当に大切なことを教えていただいたと感謝しています。     うまくいくこともあるし失敗することもある。そのすべてを認めて、子供た    ちを包み込んでくださる先生です。先日、「子供たちに助けられているとしみ    じみ感じる。この仕事は辞められない。」とポツリとつぶやく竹永先生の声を    聞きました。「生徒は指導されるもの」、「先に生まれたから先生なのだ」と    言ってなばか(ママ)らなかった内田先生の姿を思い出します。     人事委員会の皆様、学校教育への不信が叫ばれる中で、多くの生徒たちが、    多くの保護者が信頼を寄せることのできる教育を実践してきた所沢高校のどこ    が問題なのでしょうか。竹永先生はなぜ処分されなければならなかったのでし    ょうか。2年半にわたる審理を経ても、処分の正当な理由は何一つ分かりませ    んでした。     前回の審理で遠藤前教頭先生が、入学式の決定に際して、「管理職だけでは    入学式はできない。」と何度も証言なさっていました。3年前それをやられた    のはあなた方です。できないと分かっているのになぜ強行したのですか。その    ために傷ついた多くの子供たち、すべてのことはそこから始まっているのに、    と叫びたい気持ちでいっぱいでした。     処分直後に、PTAを母体として発足した所沢高校教諭の不当処分撤回を支    援する会は、これまでに2,000人を超える方々から御支援をいただいて活                  ―12― ------------------------------------(13)------------------------------------    動してきました。竹永先生の処分に対して早急にかつ公正な判断をお願いする    という趣旨の署名も、1万4,188筆になり、既に今日人事委員会に提出い    たしました。     さらには、本日、現3年生の保護者の皆さんが人事委員会に対し、「竹永先    生の処分に対して公正な判断をお願いする」文書を提出しました。現3年生は、    この問題の直接の経験者であり、竹永先生と2年9か月を共に過ごしてきた学    年です。結審を前に、学年の総意として、どうしても人事委員会の皆様に届け    たい強い思い、聞いてください。     「入学前には、埼玉県教育委員会及び校長先生から手紙が届いたり、マスコ    ミからの情報が飛び交ったりと、不安を抱えての入学でしたが、子供たちはの    びのび自由に所校生活を満喫し確実に成長しました。この問題を直接経験した    私たち3学年保護者は、半年後の卒業までには処分が撤回され、親子とも気持    ち良く、心残りのない卒業を迎えたいと願っています。今年の文化祭では、そ    んな私たちの気持ちをできるだけ多くの方に伝えようと「署名活動」と「ひと    言メッセージ」をまとめましたので、ぜひ、目を通していただきたいと考え提    出いたします。この中には、生徒、保護者をはじめ、支援してくださる方々の    気持ちがたくさん詰まっています。公正な判断をお願いいたします。2000    年11月18日、埼玉県立所沢高校、3学年保護者一同。     本日提出しています。ぜひお読みになってください。     寄せられた一言メッセージの中の幾つかを、最後に聞いてください。     「・入学説明会の時は、3年全PTAがしっかり聞いていますから、皆先生    の応援団ですよ。いつも誠実にがんばっていらっしやる先生に声援を送り続け    ています。」「・説明会のお話は、所校ならではのすばらしいお話でした。ど    こにも問題とされなくてはならないものはありません。この間違いを皆の力で    正したいと思います。」「・何年たっても色あせず、鮮明に悲しい気持ちにな    ります。早く、処分撤回され、皆、明るくすっきりと卒業記念祭を迎えられる    よう、祈っています。」     どうぞ、多くの方の思いを受け止めてください。そして、あの入学説明会の    場にいた3年生が卒業する来年春までに公正な判断をくだされることを、そし    て竹永先生の処分が撤回されることを願ってやみません。よろしくお願いしま    す。     終わります。 ○請求人(竹永) では、請求人竹永本人から、最終意見昧述を述べさせていただき    たいというふうに思います。     不服審査請求をしてから約2年半がたとうとしています。17回に及ぶ公開    口頭審理も本日をもって最後というふうになります。今までいろいろなことが    明らかになってきたと思いますが、最終意見陳述として、所沢高校での私たち    の教育実践を振り返りながら、入学説明会の私の話についてもう一度考えてい    ただきたいというふうに思います。     また、最終意見陳述に当たっては、現在の所沢高校の教職員、また他校へ異    動してからも応援をしてくださる教職員、退職してからも応援をしてくださる    教職員、そして、一つ一つ話合いの手続を踏みながらものごとを決めてきた生    徒たち、それを支えてくれた保護者たち、そして、多くの支援する方の気持ち    を代弁する気持ちで話をしたいというふうに思います。     そもそも、卒業式とか入学式の出席についてなんですが、これは人事委員の    皆さんも、もちろん教育委員会側の方々もそうだと思いますが、卒業式や入学                  ―13― ------------------------------------(14)------------------------------------    式に出席をしたくないなどという生徒はいないと思うんですね。それはどこに    もいないと思います。しかし、不幸にして所沢高校では、内田校長による入学    式の混乱を目の当たりにした生徒たちは、自分たちでなんとか、なんとか自分    たちの卒業行事を考えなければいけない。非常に不幸な環境だったのではない    かというふうに思います。どう考えても、晴れて3年間の高校生活の節目とし    ての卒業式、そこに出たくないなどという生徒がいるわけはないはずです。そ    の点を本当によく考えていただきたいというふうに思います。     内田校長赴任以前の所沢高校における卒業式についてですが、生徒たちは、    卒業生も在校生も、非常に意義のある楽しい行事として考えていました。卒業    式とそれに引き続く門出式という2部構成で行っていたのですが、厳粛さもあ    り、またユーモラスな場面もあり、生徒たちも本当にそれを楽しみにしてきま    した。ですから、内田校長が赴任して混乱をした入学式を経験してしまった、    また見聞きしてしまった生徒たちは、このままでいくと自分たちの卒業式も、    もしかすると非常に混乱してしまうのではないか、そう思うのは当然だったと    思います。前の2人の代理人の方がその点は詳しく述べていますが、生徒たち    は、一番望んでいたのは、今までと同じような卒業式と門出式ができることだ    ったと思います。     そして、校長との話合いをしながら、話合いというか、校長の意見を聞きな    がら、それがどうしても実現できそうもないということで、自分たちがなんと    かしなければいけない、そういう思いで、しかも一つ一つの手続を踏んで全体    の意見をまとめて、そして卒業記念祭を作っていったわけです。     もちろん、きちんとした手続の中には、繰り返し何度もいろいろな方が述べ    ていますが、生徒の側では生徒総会を踏まえ、教職員としては職員会議で様々    なことを検討し、そしてやっていこうと。そういう流れで、生徒たちは本当に    一生懸命卒業記念祭を作っていったと思います。中心になったのは、もちろん、    卒業生を送る側、2年生、1年生でしたが、彼らは、自分たちで新しい行事を    作っていく、しかも気持ちとしては卒業生を温かく送り出したい。しかも失敗    は許されない。11月の生徒総会決定後、ほぼ半年、半年ないわけですね。そ    の中で、いろいろなことを模索しながら、いろいろな手続を踏みながら、そし    て校長ともいろいろ話しながら、卒業記念祭を作っていきました。非常に立派    だったと思います。     卒業記念祭当日は、記念祭が始まる瞬間に、体育館の中は照明を落として真    っ暗でした。卒業生が入場してくると、スポットライトが浴びて、ブラスバン    ドが演奏を始めて、そのときに私は、中心になっている何人かの子供たちと一    緒に会場の前にいたんですが、もう、一人一人の役割が決まっていたんですが、    涙で仕事ができそうもないような状態。生徒たちは、うれしくて、よし、ここ    までやってきたんだ、やっとこれで自分たちの手で卒業生を明るく楽しく送り    出せるんだ。その生徒たちを、終わるまではがんばろう、もう少しだからしっ    かりやろう、そういうふうに進めてきて、1回目の卒業記念祭は終了しました。    非常に感動的な、とってもすばらしい、在校生も卒業生も本当に生き生きした    すばらしい顔をしていました。     しかし、新聞報道等では、分裂開催であるとか、卒業生も在校生も卒業式を    ボイコットしたと、センセーショナルな見出しで報道されました。在校生にし    ても卒業生にしても、そういう報道自体は決して本意ではなかったと思います。    自分たちは、今までの所沢高校で培われてきた民主的な手続を一つ一つ踏んで    きて、そして、どこにも抵触しない、問題はないということを確認しながら進                  ―14― ------------------------------------(15)------------------------------------    んできて、そして自分たちで記念祭をつくり上げてきた。しかしそういう報道    がされたわけです。     もちろんその報道は、新入生の保護者、又は新入生本人、当然見ることにな    ったというふうに思います。説明会の席で私たちは、先ほど岩下さんも述べま    したが、どういうことを新入生や保護者に伝えるべきなんだろうか。もちろん、    いろいろな不安もあると思います、その不安をいかに取り除こうか。入学行事    の日、いかに安心して学校に来てもらおうか。その点に絞って学年会では長い    間議論をして、話し合う内容を決めました。     しかしそのためには、事実を事実として、生徒の取組は生徒の取組として、    教職員の考えは教職員の考えとして、また、その時点での校長の意向は意向と    して、きちんと伝えなければならないだろうというふうに、全体での合意も得    られましたし、私自身もそういうふうに考えました。     では、私は、説明会の席で生徒の取組を全く伝えないことがよかったんでし    ょうか。教職員の考えや、今までのいろいろな事柄を全く伝えなければよかっ    たんでしょうか。事実経過を事実として伝えることがなぜ処分に当たるのでし    ょうか。     最近、情報公開という言葉であるとか、開かれた学校というようなことであ    るとか、いろいろ耳にすることはあります。しかし、事実を事実として伝えて    罰せられるのであれば、情報公開、開かれた学校なんてどこにあるんでしょう    か。これから新しい時代を担っていく生徒たちが、自分たちの一つ一つの話合    いのルールのもとに、民主的な手続のうえで一つ一つ決めてきたこと、そのこ    とをきちんと伝えることがなぜいけないのでしょうか。     私自身のことだけではなく、教育全般の問題として、1日も早く処分撤回の    裁定をお願いをしたいと思います。     終わります。 ○委員長(坂巻) 終わりですか。     では処分者側、どうぞ。 ○処分者代理人(鍛冶) 処分者代理人の鍛冶から申し上げます。     本件についての処分者の意見は、処分者の本日付けの意見書に記載したとお    りでありますので、そのとおり陳述をいたします。     処分者が主張しております、本件の処分の対象となった事実等は、本件の審    理に顕出されております各書証、各証人の証言等で明らかになっているもので    あります。また、学校長の権限、本件の入学式を行うことができること。これ    に関する法律上の根拠、解釈等につきましても、処分者の主張が正しいもので    あります。     請求人の行為は教育公務員として認められるものではなく、その行為は、地    方公務員法第33条に規定する信用失墜行為であることは明らかであります。     そして本件は、請求人の主張によって、入学式という重要な学校行事を行う    こと。その入学式で国旗を掲揚し国歌を斉唱することの当、不当、その是非が    問われているものであります。     人事委員会におかれましては、本件に顕出されております証拠をよく検討し    ていただき、また、法令等の解釈についても十分御検討していただき、本件戒    告処分を承認するとの裁決をしてくださいますよう、求めるものであります。     以上でございます。                  ―15― ------------------------------------(16)------------------------------------ ○委員長(坂巻) 以上をもちまして、平成10年(不)第3号事案の公開口頭審理    を終了します。     当委員会といたしましては、これまでの審理の結果に基づきまして裁決書を    作成し、両当事者に送付いたしたいと思っております。     大変長い間、両当事者並びに関係者各位、大変御苦労様でした。     これをもちまして本日の審理を終了いたします。     御協力ありがとうございました。 午後3時48分閉会                       調書作成事務職員  高田 裕之                  委員長  坂巻  幸次                  委 員  久保木宏太郎                  委 員  渡邊  圭一                  ―16― ------------------------------------(end)-----------------------------------
(Web管理者記)
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