所沢高校 Non-Official 資料81015d

人権救済申立書
日弁連へ提出
1998年10月15日(木)

（Ｗｅｂ管理者記）－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－
　この「人権救済申立書」は、私の独断で改行等の整形を行っております。
　また、通常、丸数字は「(数字)」に変換しておりますが、原文に「(数字)」も使用
されているため、この文書ではそのまま丸数字を使用しました。従って、パソコンの
種類によっては丸数字が表示されない場合があります。ご了承ください。

　　　　　　　　　人権救済申立書
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９９８年１０月１５日

　　　　　　　　　　　　　　　　　当事者の表示　　別紙当事者目録記載のとおり
　　　　　　　　　　　　　　　　　代理人の表示　　別紙代理人目録記載のとおり


　　　　　　　　　　　　　　申立の趣旨

一、埼玉県立所沢高等学校長内田達雄の行った下記各事実は、所沢高校在校生・卒業
　生である申立人らに対する人権侵害行為に該当するので、埼玉県立所沢高等学校長
　内田達雄に対し、今後二度と同種の人権侵害行為を行わないとの勧告を求める。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　１　１９９７年度入学式
　　　「日の丸・君が代に関する決議文」を尊重した入学式を行ってほしいとする生
　　徒総会及び職員会議の共同決定を無視し、生徒会の申し入れにも話し合いの態度
　　を全く取らないまま、１９９７年４月９日、独断で、生徒・教職員の総意に反す
　　る内容の、「入学式」を強行した事実。

　２　１９９７年度卒業式
　　　１９９７年１１月、生徒総会及び職員会議において、１９９７年度の「卒業式」
　　に代わるものとして「卒業記念祭」を行うことが生徒・教職員の総意により共同
　　決定されたにもかかわらず、この決定に反し、「卒業記念祭」とは別個に「卒業
　　式」を行う旨を強硬に主張し、多数の生徒が再三「卒業記念祭」のみ行うよう意
　　見表明したにもかかわらず、話し合いの態度を全く取らないまま、１９９８年３
　　月９日、「卒業式」を強行した事実。
　　　及び、この「卒業式」を生徒総会で決定された「日の丸・君が代に関する決議
　　文」にも反する内容のものとして強行した事実。

　３　１９９８年度入学式
　　(1) １９９７年１１月、生徒総会及び職員会議において、１９９８年度の「入学
　　　式」に代わるものとして「入学を祝う会」を行うことが生徒・教職員の総意に
　　　より共同決定されたにもかかわらず、この決定に反し、「入学を祝う会」とは
　　　別個に校長の権限で「入学式」を行う旨を強硬に主張し、多数の生徒が再三
　　　「入学を祝う会」のみ行うよう意見表明したにもかかわらず、話し合いの態度
　　　を全く取らないまま、１９９８年４月９日、「入学式」を強行した事実。
　　　　及びこの「入学式」を生徒総会で決定された「日の丸・君が代に関する決議
　　　文」にも反する内容のものとして強行した事実。

　　(2) １９９８年４月３日、９８年度所沢高校新入生全員に対し、別紙２記載の教
　　　育委員会名の文書及び別紙１記載の自らの文書を送付した事実。

　４　上記一連の行為に際し、一貫して生徒を話し合いの対象とせず、生徒の意見表
　　明を尊重しなかった事実。

　５　上記一連の行為に際し、一貫して、長年にわたり所沢高校において確立してき
　　た、生徒と教職員の話し合いを前提とする、生徒の学校運営参加のシステムを踏
　　みにじった事実。

二、埼玉県教育委員会の行った下記事実は、所沢高校在校生申立人らに対する人権侵
　害行為に該当するので、埼玉県教育委員会に対し、今後二度と同種の人権侵害行為
　を行わないとの勧告を求める。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　　１９９８年４月３日、９８年度の所沢高校新入生全員に対し、別紙２記載の教育
　委員会名の文書を作成し、前記内田校長を介して送付した事実。

三、町村信孝文部大臣（当時）の行った下記事実は、所沢高校在校生・卒業生である
　申立人らに対する人権侵害行為に該当するので、文部省に対し、今後二度と同種の
　人権侵害行為を行わないとの勧告を求める。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　　所沢高校の１９９７年度の卒業行事、１９９８年度の入学行事につき、生徒の意
　見や生徒からの事実経過の確認を一切行わないまま、別紙３記載の各発言を報道機
　関を通じて公表し、これら事実に反する発言により所沢高校在校生・卒業生の名誉・
　尊厳を傷つけた事実。





　　　　　　　　　　　　　　申立の理由

第一、事実

　一、埼玉県立所沢高校における自治・生徒の権利

　　埼玉県立所沢高校は、「自主・自立・自由」を一貫して学校の基本方針とし、生
　徒の自主的・自治的活動を援助・推進してきた。学校内において生徒一人一人の人
　権は最大限尊重され、活発な生徒会活動が行われ、学校運営は、生徒と教職員が話
　し合いにより決めていくルールのもとに行われてきた。

　１　所沢高校では、生徒が憲法上の人権を享有し、学校生活において人権尊重が貫
　　かれることを前提とした学校運営がなされてきた。
　　　この生徒の権利を明文で確認したのが、「生徒会権利章典」（甲第１号証「生
　　徒手帳」（１９９８年度・抜粋）１８・１９頁）である。
　　　「生徒会権利章典」は、１９９０年度の生徒総会において、生徒の総意として
　　決議され、それ以来、毎年の生徒総会で確認され、尊重されて今日に至っており、
　　毎年学校作成の生徒手帳（甲第１号証（１９９８年度・抜粋））にも記載されて
　　いる。
　　　生徒会権利章典には、以下の権利の保障が規定されている。
　　┌─────────────────────────────────┐
　　│①　学校は生徒と教職員によって構成されており、その構成員一人一人の│
　　│　　個性は認められ一人一人の主張は尊重される。　　　　　　　　　　│
　　│②　生活向上のための自治的かつ民主的な活動の自由は保障される。　　│
　　│③　服装、頭髪を含む表現の自由は保障される。　　　　　　　　　　　│
　　│④　思想の自由は保障される。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　　└─────────────────────────────────┘
　　　これは、憲法上保障される権利を生徒自らが再確認したものであり、生徒会権
　　利章典制定後、毎年生徒たちは、上記の生徒の権利の学校内での実現・保障のた
　　めに活動してきた。

　２　所沢高校における生徒自治及び生徒参加
　　　所沢高校において、生徒会活動（甲第１号証２７頁以下「埼玉県立所沢高等学
　　校生徒会会則」参照）その他の自治的活動は大変活発であり、甲第２号証のとお
　　り、生徒の権利と自治を実現するための活動を展開してきた。
　　　生徒会は、生徒の総意を受けて活動する自治的機関として尊重され、生徒総会
　　等を通じて形成される生徒の意思は、学校運営において、最大限尊重されてきた。
　　　そして、学校における諸行事、諸活動の決定過程に生徒の参加、意思の反映が
　　前提とされ、生徒意思の尊重、生徒との話し合いによる合意形成を基本とする民
　　主的な学校運営が行われてきた。

　　(1) 協議会
　　　　所沢高校では、１９８２年７月５日より「生徒会活動に関する職員・生徒の
　　　協議会規定」（甲第１号証５５頁以下参照）が施行され、このルールに従った
　　　学校運営が行われてきた。
　　　　その経緯について規定前文は、以下のとおりに説明している。
　　　┌──────────────────────────────────┐
　　　│前文　　我々は、我々自身によるすべての自主的活動を確立し、また、職員│
　　　│会議に我々の総意が尊重されるように、生徒総会の名において要望書を作成│
　　　│し、職員会議の傍聴を要求した。しかし、この要求は職員会議によって否認│
　　　│され、職員会議より職員・生徒の協議会の設置が提案された。そして、ＨＲ│
　　　│委員会、ＨＲ討議を経て、ここに職員・生徒協議会を設置するに至った。　│
　　　└──────────────────────────────────┘
　　　　この「協議会」規定は、生徒会諸機関の決定事項を職員会議が否決する場合
　　　は職員代表１０名、生徒代表１０名による協議会を開き、十分に協議する（第
　　　２、３条）旨定めている。さらに協議会を行った後も生徒側が職員会議の決定
　　　を納得しない場合は、職員会議は再度審議しなければならない（第５条）と規
　　　定されている。
　　　　この協議会は、設立以降、実際の学校生活において機能し、現在に至ってい
　　　る。学校生活において生徒会の意思決定と職員の意思決定が異なる場合は、教
　　　職員・生徒会の協議会等を通じた話し合いにより双方納得のうえ決定していく
　　　という運営が定着し、民主的ルールとして確立した。
　　　　ここにおいて、教職員・学校側は、生徒会の意思決定に反して、自らの意思
　　　決定を一方的に生徒に強制せず、意見が対立する問題については、生徒総会
　　　（又は生徒総会に次ぐ議決機関としてのＨＲ委員会）及び職員会議の両方で可
　　　決されない限り行わないこととされてきた。

　　(2) 協議会実施の歴史
　　　　協議会に基づく話し合いによる学校運営は現実に機能してきたもので、近年
　　　では以下のような取組がなされた。
　　　①　１９９２年、毎年９月の所沢高校祭校外パレードにつき、生徒側の力量不
　　　　足、熱意の欠如等の理由から職員会議がパレード不開催を決議したが、生徒
　　　　が開催を要求したため協議会が開かれた。生徒は開催に向けて、「パレード
　　　　やりたい有志」を作る等、真剣な取組を始めたため、協議の結果、開催され
　　　　ることに決定した。
　　　②　１９９３年、毎年７月の球技大会につき、体育館改修工事を理由に職員会
　　　　議で中止が決定されたのに対し、生徒が是非開催したいと希望して、協議会
　　　　が開かれた。協議の結果、体育館を使用しない一部開催となった。
　　　③　１９９６年、所沢高校祭後夜祭での「ミス・ミスター所高」の企画につい
　　　　て、職員会議が「女性差別にあたるのではないか」として開催要求を否決、
　　　　協議会が開かれ、その年は名称を変更して企画が行われた。翌年も協議会が
　　　　継続され、生徒側は教職員の問題提起を受けて、「女性差別にあたるか否か」
　　　　について自主的に勉強会を行ったが、結局１９９７年には、生徒側の参加希
　　　　望者が少なかったためこの企画は開催されなかった。
　　　④　１９９３年、それまでの「生徒心得」の現状にあわない部分を改定しよう
　　　　という議論が職員会議で起こり、規則等検討委員会を生徒と教職員で設置し、
　　　　規則改定について検討を開始した。１９９６年に規則等検討委員会の改定案
　　　　がまとまったが、職員会議で否決され、協議会が開催された。その後一年間
　　　　協議会で再検討が行われ、９７年の職員会議、生徒総会で可決され、９８年
　　　　４月より施行されるに至った（甲第１号証２０・２１頁参照）。

　　(3) 学校行事等の特別教育活動領域における生徒・教職員の共同決定の原則
　　　　所沢高校において、学校教育・学校運営への生徒参加のあり方は、問題とな
　　　る事柄の性質により一様ではない。
　　　　例えば人事、入学者選抜、単位・卒業認定等については、教職員により学校
　　　教育法、埼玉県高等学校施行規則、埼玉県立所沢高等学校学則（甲第４号証）
　　　に従って決定される。この分野について、生徒の参加は慣行上確立していない。
　　　　これに対し、規則・服装等、施設（例えば水飲み場の設置等）については、
　　　生徒の参加権が行使され、尊重されてきた実情がある。
　　　　そしてとりわけ、所沢高校において、生徒参加が制度的に明確に保障されて
　　　いる分野として、学校行事を含む特別教育活動領域がある。
　　　　この分野においては、生徒・教職員の共同決定が原則とされており、かつ多
　　　くの場合、生徒が原案作成権を保有している。
　　　①　所沢高校祭
　　　　　所沢高校の文化祭に該る「所高祭」については、特別委員会として生徒か
　　　　らなる実行委員会が組織されている。実行委員会は所高祭の運営の中心的活
　　　　動を担うとともに、生徒の意見を集約したうえで、予算を含めた所高祭全般
　　　　の原案を作成する権限を有する。具体的には、実行委員会内におかれる総務
　　　　が原案を作成し、実行委員会においてこれを承認することとなる。この原案
　　　　作成権限は「行事執行規定」（甲第１号証４４頁以下参照）７・９条に明記
　　　　されている。この原案作成をより実効あらしめるため、９５年以降、生徒で
　　　　構成される「バックアップ委員会」が設置された。
　　　　　教職員は、(ａ)実行委員会担当の教職員が原案作成過程に参加し、(ｂ)提
　　　　出された原案を職員会議が承認し、(ｃ)原案を職員会議が否決した場合の協
　　　　議会で話し合う、等の形で関与し、生徒をバックアップしている。
　　　　　教職員は、生徒を主体とする所沢高校祭の原案作成・実行を責任を持って
　　　　援助するものであり、教育的配慮に立ちつつ、生徒の意見が真に生かされ、
　　　　実現するよう最大限の努力を行っている。
　　　　　このように、所沢高校祭においては、生徒の原案作成・生徒と教職員の共
　　　　同決定の原則が確立している。
　　　②　体育祭
　　　　　体育祭についても特別委員会として、生徒からなる実行委員会が組織され、
　　　　企画、運営を行い、予算を含めた原案作成・提出権を有する（「行事執行規
　　　　定」１０・１４条）。バックアップ委員会の設置、教職員の関与については、
　　　　所高祭と同様である。
　　　③　修学旅行
　　　　　２年生の修学旅行については、１年の頃から学年の生徒による旅行委員会
　　　　が組織され、行き先の選定、スケジュール、見学先・コース選定、事前学習
　　　　などはクラス討議・学年の生徒のアンケート等で希望を集約した上で旅行委
　　　　員会が原案を作成し、教職員の学年会議の承認を得て決定する。
　　　　　教職員は、原案作成過程・実行段階において生徒の意見が真に生かされ、
　　　　実現するよう責任を持って援助するものである。
　　　④　卒業関連行事
　　　　　従来所沢高校において、卒業の際の学校行事は、学校主催の「卒業式」、
　　　　生徒主催の「門出式」の２つがあった。
　　　　　このうち、学校主催の「卒業式」は簡素かつ短時間に行われ、生徒主催の
　　　　「門出式」が実質的な卒業生を送る行事として年々重みを増し、内容も充実
　　　　していった。
　　　　　この「門出式」については、１・２年生で構成される「門出式実行委員会」
　　　　が中心となり、専ら生徒により自主的に運営されてきた。３年生は別個に
　　　　「卒業準備委員会」を作り、門出式実行委員会と調整・話し合いをしつつ、
　　　　式の進行・内容を決定していた。
　　　　　一方、学校教育措置に密接に関連する卒業式にあっても、３年生で構成さ
　　　　れる「卒業準備委員会」が、３年生の卒業式についての希望を教職員に伝え、
　　　　これを尊重して、学校側の「総務」（１年から３年の担任代表及び、校長、
　　　　事務室長で構成される）と、３年学年団（担任教職員集団）が、準備・実務
　　　　を行っていた。
　　　　　例えば、生徒側の意見で、従来卒業式で行われてきた「卒業生・在校生の
　　　　言葉」及び卒業記念品贈呈が門出式に移行するなど、その時々の生徒の希望
　　　　が卒業式に反映されてきた。
　　　⑤　卒業式・入学式について、生徒会は後述する「日の丸・君が代強制反対決
　　　　議」を生徒会活動方針として１９８９年以降毎年承認してきた。この「日の
　　　　丸・君が代強制反対決議」は１９８９年以降学校生活において尊重され、９
　　　　７年度までは「日の丸・君が代」は学校行事に一度も持ち込まれたことはな
　　　　かった。
　　　　　１９９６年には、当時の校長が一時、卒業式における「日の丸・君が代」
　　　　導入の意向を示したが、生徒側は「日の丸・君が代強制反対決議」を尊重し
　　　　てほしいと再三にわたり要求し、教職員も生徒の意見を尊重するよう要求し
　　　　た。結局校長は「混乱のない方法をとる」と言明し、卒業式に「日の丸・君
　　　　が代」を持ち込まなかった。
　　　⑥　以上のとおり、特別活動領域については、生徒参加が行事執行規定、また
　　　　は長年の慣行により制度的に確立しており、生徒・教職員による共同決定の
　　　　原則が学校慣習として制度化されている。
　　　　　所沢高校における学校行事の運営・決定は、生徒と教職員の民主的話し合
　　　　いで行われ、生徒総会、職員会議双方の承認を経て初めて実施される民主的
　　　　なシステムが貫かれてきたのである。

　　(4) ９８年４月からは新たに「教職員と生徒との定例連絡会議」（甲第１号証５
　　　７頁以下参照）が設置された。協議会規定は、協議会が実施されるのは、生徒
　　　会の決議を職員会議が否決した場合であるとしている。しかし、そのような事
　　　態のない場合も、生徒と教職員が継続的に意見交換し、学校側が生徒に情報公
　　　開を行い、学校運営の決定過程に生徒の参加をより実現しようという趣旨で、
　　　定例連絡会議が設置されたものである。双方で議題を提出し、定期協議を行う
　　　こととなった。

　　(5) 以上のとおり、所沢高校においては、生徒と教職員による民主的話し合いを
　　　通じた意思形成の中で学校運営が行われ、話し合い、生徒参加の民主的ルール
　　　が制度的に確立されてきた（これを「所沢高校システム」という）。その中で
　　　とりわけ、学校行事を含む特別活動領域は、生徒・教職員の共同決定の原則が
　　　制度上確立してきた。
　　　　そして、学校長は、埼玉県立高等学校管理規則第１６条（「校務の民主的且
　　　能率的な運営を図るため職員会議を置く」）及び埼玉県立所沢高校職員会議規
　　　定（第１条「職員会議は、校務に関する事項を審議決定することを以て目的と
　　　する」）の規定に基づき、長年にわたりこの共同決定を尊重してきたものであ
　　　る。
　　　　これはまさしく子どもの権利条約１２条に定められた「子どもの意見の尊重
　　　の原則」「参加の権利」を尊重する学校運営の制度・慣習として形成・確立さ
　　　れたものである。

　二、日の丸・君が代強制反対決議とこれまでの学校行事

　１　１９８９年度、所沢高校生徒会は、生徒総会において、「日の丸・君が代に関
　　する決議文」を決議した（甲第３号証）。
　　　これは「我校内での儀式その他における「日の丸」掲揚及び「君が代」斉唱の
　　強制に一切反対します」というもので、君が代・日の丸そのものに対し反対の意
　　思表示をしたものではなく、その強制に反対したものである。この決議は現在に
　　至るまで生徒総会で毎年（１９９６年度、９７年度も）、生徒会活動方針として
　　承認されている。
　　　その趣旨は、憲法において保障され、生徒会権利章典にも明記された「思想の
　　自由」が学校内において侵害されることがあってはならない、思想の統一・画一
　　化を生んではならない、ということである。生徒会は、生徒の権利を守る取組の
　　一貫としてこれを決議し、その実現に努めてきた。
　　　生徒は毎年、卒業式、入学式前に、「日の丸・君が代に関する決議文」の存在
　　と生徒の意思を校長に伝え、強行しないよう申し入れてきた。そして１９９７年
　　３月末までに在任した校長はこれまでのシステムに従い、生徒の意思を尊重して、
　　卒業式・入学式等各種行事の式場には日の丸掲揚・君が代斉唱を導入することを
　　しなかった。

　三、９７年度入学式

　１　１９９７年４月９日に予定されていた入学式につき、生徒会・職員会議は従来
　　どおりの入学式を行うことを合意し、準備を進めていた。
　　　ところが、９７年４月１日に赴任してきた内田達雄校長は４月９日入学式当日、
　　生徒会・職員会議の決議を無視して、教頭、事務室長とともに、入学式会場に突
　　如日の丸を持ち込み、君が代のカセットテープを流し、日の丸掲揚、君が代斉唱
　　を強行導入した。

　２　生徒会本部の生徒は内田校長赴任の当日、「日の丸・君が代に関する決議文」
　　について説明にいき、従来のやり方を尊重し日の丸・君が代を持ち込まないよう
　　申し入れ、従来と違うやり方をする場合は事前に連絡してほしい、と述べた。こ
　　れに対し、校長は格段の意見を述べなかった。
　　　生徒会本部生徒は４月８日、再び校長に面会し、同様の申し入れをしたが、校
　　長は「意見は承っておきます。」と述べるだけだった。同日、校長は職員会議で、
　　日の丸・君が代実施を教職員に表明した。教職員は、生徒会・職員会議の決定を
　　覆すこの表明に反対し、８日及び９日朝も、職員会議を開催し校長との協議を続
　　けた。しかし校長は同日午後１時３０分、教頭とともに「私たちだけで入学式を
　　やる」と宣言し、職員会議の最中に退席して入学式会場に向かい、事務室長を含
　　めた三人で入学式を始めた。
　　　そして、演壇にスタンド式日の丸が設置され、教頭が持参したラジオカセット
　　テープレコーダーで君が代を流し、もって、入学式に日の丸・君が代を強行した。

　３　日の丸・君が代の突然の強行に対し、入学式は騒然とし、著しい混乱が生じた。
　　生徒会本部役員や新入生、保護者が校長に抗議をしたが、校長は抗議に耳を傾け
　　ず、入学式を強行した。
　　　混乱がおさまらないため新入生担任団は、いったん新入生を教室に戻し、その
　　後改めて入学式をやり直した。新入生にとって折角の高校生活スタートの一日は
　　台無しにされ、希望に胸をふくらませていた新入生の心に忘れえない汚点となっ
　　て残った。

　四、９７年度入学式以降の生徒会・職員会議の動き

　１　９７年度入学式以後の校長の態度
　　　生徒会決議を無視した入学式の「日の丸・君が代」強行に対し、生徒は到底納
　　得できず、校長に対し話し合いを要求した。しかし校長は、「生徒は指導の対象
　　であって、対等な話し合いの対象ではない。」とし、「説明」ならする、という
　　態度に終始した。
　　　１９９７年４月３０日、ＨＲ委員会と校長の面会が行われ、５月２日及び６日、
　　校長による全校生徒対象の説明会が行われた。
　　　しかし、校長は「学習指導要領は法律の一種だから守らなければならない」
　　「学習指導要領に書いてあるから『日の丸・君が代』はおこなう。あらかじめ生
　　徒に伝えることではない」「生徒と教員は立場が違う。対等に話はできない。話
　　し合いなら私は参加しない」等と発言し、生徒の意見を聞いて話し合いながら合
　　意形成をしていこうという姿勢は全く見られなかった。
　　　６月２７日に校長から最後の説明会が行われたが、校長は入学式の混乱につき、
　　「悪かったとは思っていない」、卒業準備委員会の決定を尊重するかについては
　　「学習指導要領に則っていれば尊重する」との回答に終わった。
　　　なおこの頃、ＰＴＡも、入学式の混乱について、再三校長に説明を求めたが、
　　納得できる回答は得られず、７月５日ＰＴＡ臨時総会においては、校長の配置転
　　換を含む指導を埼玉県教育局に要請する要請文が採択された。

　２　卒業準備委員会の動き
　　(1) ３年生卒業準備委員会は、６月１７日、３年生対象にアンケートを実施し、
　　　以下の回答を得た。
　　　┌──────────────────────────┐
　　　│校長先生のおっしゃる厳粛な卒業式に賛成ですか？　　　│
　　　│　ＹＥＳ　２０名（７％）　ＮＯ　２６６名（９３％）　│
　　　└──────────────────────────┘
　　(2) ７月１６日、卒業準備委員会は校長に面会し、９７年度卒業式の運営につき、
　　　「従前どおり日の丸・君が代を行わない式にしてほしい」と申し入れた。
　　　　これに対し校長は「卒業式で日の丸・君が代を実施する。決められたことな
　　　ので、行わないという選択の余地はない。」とし、またパフォーマンス等楽し
　　　くやりたいという卒業生の希望に対しても、「厳粛できちんとした式をやるか
　　　ら認められない」と回答した。
　　(3) 卒業準備委員会は、校長の現状の態度のまま卒業式を行えば、入学式同様の
　　　混乱が卒業式で発生することは不可避的である、混乱を避けるために卒業式で
　　　なく新しい形態の行事を行う選択肢が考えられる、旨議論し、その結果を受け
　　　て、式の形態について三年生に以下の内容でアンケートを実施し、以下の回答
　　　を得た。
　　　┌────────────────────────────┐
　　　│新しい形態の式を考えすすめていくことが一番良いと委員会は│
　　　│判断しましたが、この考えに賛成しますか？　　　　　　　　│
　　　│　　　　　　　ＹＥＳ　８５％　　ＮＯ　１３％　　　　　　│
　　　└────────────────────────────┘

　３　卒業記念祭・入学を祝う会の創設
　　(1) ８月２０日頃、生徒会本部、ＨＲ委員会、卒業準備委員会、門出式実行委員
　　　会が合同で話し合いを持ち、この四団体で今後とも「卒業」の取組について話
　　　し合いを継続することを決め、前記アンケート結果に従い、新しい形態の式の
　　　実現の検討を開始し、９７年度の卒業の取組に協力してあたるため「四者会議」
　　　を発足させた。
　　(2) 生徒会本部は９月５日、１、２年生にアンケートを実施し、以下の結果が出
　　　た。
　　　┌─────────────────────────────────┐
　　　│校長先生の言う「厳粛な卒業式」に賛成できますか　　　　　　　　　　│
　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　賛成７．６％　　反対７２．７％　　│
　　　│新しい形式の式に賛成しますか　　　　　賛成７８．５％　反対３％　　│
　　　└─────────────────────────────────┘
　　　　このアンケート結果等を踏まえ、各クラスで卒業の取組についてロングホー
　　　ムルーム（１０月９日）その他を活用した討論が重ねられた。
　　　　四者会議はこの頃、「混乱を避け３年生を暖かく送りだしたい」と、新しい
　　　卒業行事を模索した。そして、学習指導要領には「卒業式」「入学式」を必ず
　　　行わなければならないという規定がないことを確認したうえで、生徒主催の
　　　「卒業記念祭」を提案し、賛同を呼びかけた。
　　　　１１月１１日、生徒総会が行われ、ここで、例年どおり、「日の丸・君が代
　　　強制反対の決議文」が承認された。そして、「これまでの卒業式を廃止し、新
　　　たに生徒主催で卒業を祝う会を行う。名称は卒業記念祭とする。」「これまで
　　　の入学式を廃止し、新たに生徒主催の入学を祝う会を行う」旨の決議がされ、
　　　生徒の総意として最終決定した。
　　　　この生徒総会決議はその後の１１月２０日の職員会議でも承認された。
　　　　また、従来の卒業式の準備機関たる「総務」から、新たに卒業記念祭にむけ
　　　て生徒をサポートする機関としての「総務」に改組されることも決定されてい
　　　た。
　　　　「『式』を廃止し、卒業記念祭、入学を祝う会を開催すること」は、生徒た
　　　ちが討論のうえ生徒総会を通じて総意として確認した、生徒の正式な、手続き
　　　に則った「意見表明」であり、職員会議の承認を受けて正式決定となった。
　　　　以後、生徒たちは、手作りの記念祭を成功させ、卒業生を温かく送りだせる
　　　よう、準備に本格的に取組みを始めた。四者会議は、記念祭のプログラム原案
　　　を作成し、これを１２月１日、クラス討議で検討し、翌２日、ＨＲ委員会にて
　　　プログラムが決定した。１２月１９日には、職員会議名で「卒業記念祭につい
　　　てのお知らせ」文書が父母に配付された（甲第５号証）。

　五、校長の妨害行為

　　しかし、その後内田校長は、既に決定済みの卒業式廃止・卒業記念祭実現を一人
　で覆そうとし、妨害行為を開始した。

　１　１２月２４日、２学期終業式に、校長は「日の丸・君が代のある卒業式を行う」
　　と突如言明した。
　　　翌２５日、校長は３年生保護者に「①　『卒業記念祭』は、校長の卒業認定や
　　卒業証書の授与がなく、単なる生徒会活動に過ぎない。②　第一部で厳粛で清新
　　な卒業式を法令等に則って実施し、第二部として『卒業記念祭』を実施するよう
　　指導する」とする葉書（私信）を送付した（甲第６号証）。
　　　これは、この間築きあげてきた卒業記念祭についての民主的合意形成の過程を
　　一切無視して、生徒たちの取組を否定するものにほかならなかった。

　２　こうした校長の一連の行動に対し、１月８日、生徒一同による抗議文が採択さ
　　れ（甲第７号証）、校長に渡された。
　　　１月１３日、卒業式問題をめぐり、校長による全校生徒に対する「説明会」が
　　持たれた。しかし校長は「学習指導要領に則った厳粛で清新な式を行う」と繰り
　　返し結論を押しつけるだけで、生徒と話し合って解決をはかる姿勢は一切ないま
　　まに終わった。

　３　１月２３日、校長名で職員室黒板に「お願い」（甲第８号証）と題する文書が
　　掲示された。
　　　その内容は、①卒業式なしの卒業記念祭は認めない、②生徒会及び３学年担任
　　団からの保護者への記念祭のお知らせ文書の配付を禁止する、というものであり、
　　いつでも職務命令に転化しかねないこうした文書を発することにより、教職員を
　　拘束し、卒業記念祭の妨害を行った。これに対し、職員会議は「お願い」に対す
　　る拒否決議（甲第９号証）を採択した。

　４　１月３０日、３年生が卒業式強制に反対する決議文を採択し、校長に提出した。
　　　２月９日、四者会議は校長に卒業式問題で申し入れを行うが、校長は全く見解
　　を変えず、卒業式をあくまで行うと言明した。この際校長は３年生の決議文を
　　「認めない」と述べた。
　　　２月１０日、校長は保護者宛に、「第５０回卒業式・卒業記念祭のご案内」
　　「第５０回卒業式・卒業記念祭のご連絡」なる文書（甲第１０号証）を保護者宛
　　発送し、あくまで卒業式を強行するべく準備を進めた。
　　　２月１７日、四者会議が校長に再び要請に行ったが、校長はあくまで卒業式を
　　強行すると固執し、話し合いの余地はなかった。

　六、卒業記念祭当日

　　３月９日、校長は９７年度卒業式を強行した。卒業生１８人を含む約８０名が出
　席し、約１５分で終了した。
　　四者会議は激論の末、混乱を避けるため、当初予定より３０分卒業記念祭開始を
　遅らせることとし、卒業記念祭が実施された。全校生徒１２００名を含む約２００
　０人が出席し、卒業生を温かく送りだす感動的な手作りの会として成功した（甲第
　１１号証）。

　七、９８年度入学式・入学を祝う会をめぐる問題

　　卒業式後校長は、卒業式強行に関する反省を一切行わないまま、入学式強行、出
　席強要を行った。

　１　３月１８日、新入生と保護者を対象とする入学説明会（入学許可候補者説明会）
　　が実施された。校長が挨拶したが、この間の経過を一切説明することなく、「当
　　日は第１部に入学式（入学式の中で入学を許可します）、第２部に『入学を祝う
　　会』を行う」との内容のプリントを配付し、入学式強行の姿勢を鮮明にした。こ
　　のプリントに「入学式の中で入学を許可します」とあったため、新入生・保護者
　　から「入学式に出ないと入学は許可されないのか」という質問が出た。しかし、
　　校長は「入学式の中で入学を許可します」とのプリントの記述どおりを繰り返す
　　だけであった。
　　　第一学年担任を代表して竹永教諭が、この間の経過を説明し、職員会議、生徒
　　総会で決まったとおりの『入学を祝う会』のみをおこないたいと考えているが、
　　混乱しないよう校長と引き続き話し合いを続けていく」と説明した。また、生徒
　　会役員の生徒から、『祝う会』『入学式』についての生徒会の立場の説明がされ、
　　新入生から拍手が起こる等した。

　２　３月２０日、生徒会は入学を祝う会の準備にあたる有志を生徒の間で募集した
　　ところ、約１００人の生徒が応募し、これら有志を中心に「入学を祝う会」の準
　　備が進んでいった。生徒は２０日及び２３日、校長に申し入れに赴いたが、校長
　　は入学式強行の姿勢を変えなかった。生徒は、２３日、卒業式強行への「抗議文」
　　及び入学を祝う会への「要請文」を校長に提出した。

　３　県教育委員会は３月２０日及び２３日、入学説明会に関する事情聴取のため所
　　沢高校に来校したが、事情聴取は行われなかった。校長は２３日、教職員に対し、
　　入学式に出席するよう職務命令を発するとともに、「入学許可候補者説明会にお
　　いて、竹永教諭は最初の校長挨拶のなかの校長の説明と異なる内容の説明を行い、
　　保護者、候補者に混乱を与えた」との「職員事故報告書」を県教育委員会に提出
　　した。
　　　２６日、県教育委員会は竹永教諭の戒告処分を通知した。処分理由は、３月１
　　８日の入学説明会で「・・・４月９日は『入学を祝う会』のみをおこない、教職
　　員も校長の行う『入学式』に反対するという趣旨の発言をした。このことは、地
　　方公務員法第三三条に違反（信用失墜行為）するものであり、教育公務員として
　　の信用を著しく傷つける」というものであった。
　　　これはそもそも処分自体明らかに不当であるうえ、教職員の処分を通じて入学
　　を祝う行為への取り組みを萎縮させ、祝う会を含む生徒の自治的活動を妨害する
　　ものにほかならない。
　　　３月３１日、在校生、卒業生ら有志、ＰＴＡは処分撤回を求め、所沢高校教職
　　員一同は、「処分撤回要求書」を県教育長宛に提出した。
　　　なお、ＰＴＡはその後５月３０日ＰＴＡ総会において、「竹永先生に対する不
　　当処分撤回に向けての緊急決議」を採択している。
　　　現在竹永教諭は人事委員会に処分取り消しを求め、手続き中である。

　４　４月３日　教育委員会・校長の行った、保護者・入学生に対する文書送付
　　　４月３日、全新入生の自宅宛に、県教育委員会、校長からの文書が同封されて
　　郵送された。これは、県教育委員会名での「高等学校に入学するためには、校長
　　による入学許可を受けなければなりません」という文書（甲第１２号証）と、ほ
　　ぼ同趣旨の校長名による文書（甲第１３号証）であった。
　　　これは、「入学式に出なければ入学許可されない可能性がある」との脅しによ
　　り、新入生を不安と恐怖に陥れ、入学式に出席を強要するものにほかならなかっ
　　た。
　　　桐川卓雄埼玉県教育長は「正当な理由なく入学式を欠席すれば、入学は認めら
　　れない。ボイコットは『正当な理由』にはあたらない」（４月５日付朝日新聞）」
　　と語り、一層不安感を煽った。
　　　事実、新入生と保護者は不安と恐怖を味わった。
　　　新入生はそれまでに、説明会その他を通じて、何故入学を祝う会が行われるこ
　　とに決まったか、生徒と校長で何が対立しているのか、について知らされていた。
　　新入生は当日、入学式に出席するか否か等、自分がどう臨むかを考え、決定しつ
　　つあったと思われる。
　　　しかるに、入学不許可という脅しにより萎縮させられ、入学式への参加が不法
　　に強要され、意思決定を自由になしえない状況におかれた。
　　　その後入学式まで、教育委員会、校長は、「式に出なければ入学は認められな
　　いのか」と幾多の質問を受けたが、最後まで、結論を述べず、判断を留保したま
　　ま当日を迎えた。

　５　町村信孝文部大臣（当時）の対応
　　　町村文部大臣（当時）は４月９日の入学式に先立ち、本件につきコメントを発
　　表し、「自分の意見が通らないからといってボイコットするのは、民主主義の根
　　幹を揺るがすものである」等と生徒を中傷し、校長を支持する言動を繰り返した
　　（甲第１４号証）。
　　　町村文部大臣は、所沢高校生徒から一切事情を聞くことなく、教育委員会・学
　　校側の報告のみに従ってコメントしたものである。

　６　校長は、４月８日、教職員に対し、４月９日の「８：３５～９：３５のショー
　　トホームルーム及びロングホームルームの時間はいわゆる公欠は認めないので入
　　学を祝う会の準備はこれ以外の時間に行うように全ての教職員は生徒を指導する」
　　という職務命令を発した。
　　　校長があくまで入学式を強行しようとし当日混乱が予想される中で、新入生に
　　『入学を祝う会』の趣旨を伝える機会は、入学を祝う会に先立つ１時間目しか
　　なく、かつ入学を祝う会自体の会場整備も１時間目しかできない状況となった。
　　にもかかわらず、生徒の準備を公欠と認めないことにより、校長は積極的に『入
　　学を祝う会』を妨害したものである。
　　　この職務命令については、８日、９日と職員会議で議論され、決着がつかない
　　まま当日を迎えることとなった。

　八、「入学を祝う会」当日

　　４月９日、校長は午前９時から入学式を強行し、日の丸掲揚・君が代斉唱を強行
　した。出席は約６割に止まり、約４割の生徒は参加しなかった。
　　校長は式次第に従い呼名を行い、これが終了した段階で初めて、「欠席した生徒
　を含めて入学を許可する」と述べた。
　　この後に行われた「入学を祝う会」は全新入生が参加し、在校生の手作りの温か
　い歓迎を受けた。

　九、校長は入学式に欠席した生徒の入学も許可したものの、一連の混乱について生
　徒に謝罪することなく、今日に至っている。


第二、子どもの意見表明権・学校運営への参加の権利

　一　子どもの権利条約の批准と締約国の義務

　１　子どもの権利条約の批准と国内法上の地位・効力
　　　子どもの権利条約は、１９８９年１１月２０日、国際連合第４４会期総会にお
　　いて採択され、翌１９９０年９月２日に国際条約として発効した。
　　　子どもの権利条約は、その後、日本においても批准手続が完了し、１９９４年
　　５月２２日から発効した。
　　　「日本国憲法９８条２項により、日本が批准した条約は、憲法よりは下である
　　と解するのが一般であるが、法律よりは優位に立つ」と解釈されており（日本弁
　　護士連合会『国際人権規約と日本の司法・市民の権利』１９９７年桐書房２２
　　頁）、この子どもの権利条約も、批准により自動的に、憲法に次ぐ国内法として、
　　学校教育法などの法律、学校教育法施行規則などの省令、告示として出されてい
　　る学習指導要領等々法律以下の下位法規に優先する法的効力を有することとなっ
　　た（上位法優先の原則）。
　　　従って、子どもの権利条約に違反する国内法規及び行政その他の処分・決定は、
　　無効となる。

　２　締約国の実施義務
　　　子どもの権利条約は、「締約国は、この権利条約において認められる権利の実
　　現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる。」（４条）
　　と定めており、同条約の批准に伴い、日本の立法・行政当局は、権利条約に規定
　　された子どもの諸権利を制度的に具体化する法的義務を負った。
　　　「子どもの権利条約をたんなる『理念』の宣言のようにとらえ、子どもの権利
　　の具体的保障は従来どおり日本社会の動向のなかで立法政策などにゆだねていて
　　よいのだといった考え方は、法的に正しくない。条約における子ども諸権利は、
　　批准によって国内法上の法原理と公認されたのであって、そのしかるべき制度化
　　が法的に要請され、立法・行政当局には条約内容の制度的実現の法原理的義務づ
　　けがもたらされるのである。子どもの人権・権利保障という法原理的見地から、
　　すべての子ども関係の法制度や運用が見直され改正・改革がなされなければなら
　　ない。」（兼子仁「教育法学における原理と制度」神田修編『教育法と教育行政
　　の理論』（三省堂））のである。
　　　ところで、このような立法・行政当局による条約内容の制度的実現の方法とし
　　ては、「新たな実定法整備」という方法だけではなく「慣習法による制度化」と
　　いう方法が存することに留意すべきである（兼子仁「教育法学における原理と制
　　度」神田修編『教育法と教育行政の理論』（三省堂））。

　３　後退禁止原則
　　　前記２のとおり、子どもの権利条約４条の規定は、立法・行政当局に対し、条
　　約に定める権利の制度的実現を推進すべき義務を負わせている。よって、すでに
　　条約に定められた子どもの諸権利が制度として実現している場合、立法・行政当
　　局が、一方的にこの法原理の後退を招く措置をとることは、第４条の実現推進の
　　義務に反することとなり、許されない。子どもの権利条約４条は、この［後退禁
　　止原則］の趣旨を含むものである。
　　　前記上位法優先の原則にも照らせば、この「後退禁止原則」に触れる処分・決
　　定は本条約に規定された権利及び締約国の実施義務（４条）に反し、その効力を
　　否定されると解されるべきである。

　二　子どもの権利条約の意義と「意見表明権」

　１　子どもの最善の利益の尊重原則
　　　子どもの権利条約は、子どもの「人格の完全かつ調和のとれた発達」（前文）
　　を重視し、また、子どもが「社会において個人として生活するため十分な準備が
　　整えられるべき」であり、「国際連合憲章において宣明された理想の精神並びに
　　特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべき」
　　（前文）であることを宣言し、子どもにかかわるすべての活動（公私の福祉機関、
　　裁判所、行政機関、立法機関を含む）において、常に「子どもの最善の利益」が
　　第一次的に考慮されるべきであることを確認している（３条）。
　　　また、「締約国は、子どもの生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保
　　する。」（６条２項）とあるように、同条約は、子どもの成長発達の権利を最大
　　限確保することを重視している。
　　　後述する子どもの「意見表明権」（１２条）は、「子どもの最善の利益」を確
　　定する上での手続的権利としての重要な意義を有するとともに、子どもが、自ら
　　意見表明権を行使することによって成長発達していくことに鑑み、子どもの成長
　　発達権を確保するための要の権利としての意義を有するものである。

　２　権利行使主体としての子ども
　　　従来、子どもは、基本的人権の享有主体であるとされながら、現実には、「未
　　成熟」「半人前」な、大人による保護の対象・客体として扱われてきた。子ども
　　の権利条約は、子どもを保護の対象・客体として見るのではなく、独立した人格
　　として尊重すべきことを確認するとともに、子どもを、人権享有の主体であり、
　　かつ、その人権を自ら行使する主体としてとらえているところに大きな特徴がある。
　３　子どもの権利条約が、子どもを権利行使の主体として捉えている点が端的に現
　　れているのが、「意見表明権」の規定（１２条）並びに表現・情報の自由（１３
　　条）、思想・良心・宗教の自由（１４条）、結社・集会の自由（１５条）、プラ
　　イバシー・通信・名誉の保護（１６条）などの規定である。
　　　とくに、中核となるのは、１２条の「意見表明権」の規定であり、同条は、
　　「自己の見解をまとめる力のある子どもは、自己に影響を及ぼすすべての事柄に
　　ついて自由に意見を表明する権利」があること（意見表明権の保障）、「その際、
　　子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される」こと（子ども
　　の意見の尊重原則）、「子どもは、自己に影響を与えるいかなる司法的・行政的
　　手続においても、聴聞の機会が与えられる」こと（聴聞の保障）を保障している。
　　　子どもは、自ら意見表明権を行使することにより、自己にかかわる諸問題を自
　　分で考え、解決していく能力を獲得し、自立した人間へと成長していくのであり、
　　意見表明権は、子どもの成長発達権（６条２項）及び自己決定権（憲法１３条）
　　につながる重要な権利である（永井憲一「国際教育法と子どもの人権」『子ども
　　の権利条約の研究』（法政大学現代法研究所））。
　　　この１２条の「意見表明権」の保障には、①個人の手続的権利と②集団として
　　の意見表明権・「参加権」が含まれる。

　４　意見表明権は、「子どもの最善の利益」を確定するために、まず、子ども自身
　　の意見を聞くべきであるという手続的権利としての意味を有しているが、単に意
　　見を表明させるだけでは足りず、子どもの表明した意見が「正当に重視」（ｂｅ-
　　ｉｎｇ　ｇｉｖｅｎ　ｄｕｅ　ｗｅｉｇｈｔ）されるべきことを求めている点が
　　重要である。意見表明権が、子どもの成長発達権及び自己決定権につながる重要
　　な権利であることに鑑みれば、「正当に重視」するとは、年齢と成熟度の高い子
　　どもが表明した意見は、「子どもの最善の利益」を子ども自身が意見表明したも
　　のとして、大人が「正当な重み」（ｄｕｅ　ｗｅｉｇｈｔ）をもってこれを受け
　　とめ、その要求の実現のために最大限の配慮をし努力することを意味すると解す
　　べきである（勝野尚行『子どもの権利条約と学校参加』（法律文化社））。

　５　子どもの意見表明権の行使の形態には、種々のものが考えられるが、学校の全
　　生徒をもって組織する生徒会は、子どもの意見表明権を具体的に行使するうえで、
　　極めて重要な組織である。
　　　生徒が、生徒会活動を自発的、自治的に行うことを通して、生徒一人一人が自
　　主的、実践的な態度を高め、人格形成を行っていくことが期待されるのであり、
　　また、生徒会の規約に基づく組織としての活動を通して、将来の社会生活に必要
　　な公民としての資質、特に自治の精神及び国民主権（憲法前文・１条）の精神を
　　養うことに役立つのである。現行の学習指導要領においても、生徒会活動は、教
　　育的に価値の高い生徒の自発的・自治的な活動としての本質が十分に発揮される
　　ようにすべきものとされている。
　　　このように、生徒会は、子どもの意見表明権行使を具体的制度的に保障する重
　　要な組織であり、生徒会を通じて、子どもが表明した意見は、子どもの人格形成、
　　自治及び国民主権の精神の涵養という観点から、最大限尊重されるべきものと解
　　される。
　　　したがって、校長、教職員としては、子どもが、生徒会を通じて民主的に決定
　　し、生徒の総意として表明した意見については、これを最大限に尊重すべきであ
　　り、これを一方的に否定することは、民主主義・国民主権の憲法原理に反し、子
　　どもの意見表明権を侵害するものとして許されないと言うべきである。

　三、　子どもの参加の権利の保障

　１　「参加の権利」の意義
　　　「参加の権利」とは、子どもが、自己に影響を及ぼすすべての事柄の決定過程
　　に参加する権利である。子どもの権利条約は、直接、参加の権利という文言を使
　　用していないが、子どもの参加は権利条約が提起する子どもの人権の基本として
　　理解されており、今日の実施の段階においても、条約の実施状況を審査するうえ
　　での重要な視点として確立され、活用されている。
　　　そもそも、子どもに市民的自由が保障され（１３条から１６条、３７条）、さ
　　らに自己に「影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する」
　　権利を有すること、及びその意見が、「その子どもの年齢及び成熟に従って正当
　　な重みをもって考慮される」ことを保障する１２条を併せて読めば、子どもが自
　　己に関わる問題に関して、参加を保障されている（その形態、程度は様々であろ
　　うが）ことは、当然と言わなければならない。即ち、子どもに「影響を及ぼすす
　　べての事項」の決定にあたり、子どもの意見が「正当な重みをもって考慮される」
　　には、決定プロセスへの子どもの参加の保障が不可欠だからである。
　　　それは、歴史的にも、「保護を受ける対象としての権利」にとどまっていた従
　　来の子どもの権利を、権利条約が、「子どもを権利行使の主体とする人権」へと
　　発展させ、変革させるにあたり、その鍵をなす基本的な視点として、理解されて
　　いたものである。今日、実施に関して重要な視点として確立され、活用されてい
　　るのは、当然と言わなければならない（後述第四章カープ委員意見等参照）。

　２　「参加の権利」形成の歴史的経過

　　①　「子どもの権利の法的保護に関する諸原則の声明」
　　　　まず、「子どもの参加の権利」を最初に提起したのは、子どもの権利条約の
　　　検討が本格的に始まった、１９７９年１月１９日の「子どもの権利の法的保障
　　　に関するワルシャワ会議」の声明である。この声明は、子どもの参加の権利に
　　　ついて、下記のように述べている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　　　　『教育計画の内容や型式の決定においては、国家・親・教職員及び子ども自
　　　身、そして彼らの委託を受けた諸機関のすべてが、重要な役割を担うのである。
　　　（中略）その四者のうちどの一者でも他者を排除して過大な責任を負うことは
　　　危険である。それゆえ、法により、その責任を単一の機関に負わせる場合には、
　　　その機関は、他のすべての当事者が、その決定に参加できるよう保障しなけれ
　　　ばならない。』（４項）。
　　　　『子どもが責任を果たしうる年齢になるにしたがい、その将来を決定するよ
　　　うな出来事に関する自己の意見は一層重要となる。法的に成人に達する以前の
　　　段階においても、身体的・精神的な健康に関するいかなる主要な決定について
　　　も参加できなければならない。』（１０項）。
　　　　このように、すでに、子どもにかかわる重要な項目に関して、参加が要求さ
　　　れ、それと歩調を合わせて意見表明が提起されていたのである。

　　②　子どもの権利条約１２条の制定過程
　　　　１９７９年１０月５日、ポーランドから提起された子どもの権利条約の原案
　　　は、前記ワルシャワ会議の声明を引き継いで、「本条約の締結国は、自己の考
　　　えをまとめる力のある子どもに対して、自身に関する諸問題、特に結婚、職業
　　　選択の自由、医療、教育、レクリエーションについての意見表明の権利を与え
　　　なければならない」（７条）とした。
　　　　これが、今日の権利条約１２条に引き継がれていることは、その文面からも
　　　明白である。そして、そこに列記した諸問題は、ワルシャワ会議の声明が、教
　　　育・保健などについて参加をうたった問題を受けて整理されていることも明白
　　　である。そして、このポーランド案を土台にして、対象の例示を落として、自
　　　己に「影響を及ぼすすべての事項」とされ、さらに「年齢と成熟に従って正当
　　　な重みをもって考慮される」が加えられて、今日の形にまとめられたのである。
　　　　こうした歴史的経過に照らして、権利条約１２条に「参加の権利」の趣旨が
　　　含まれていることは明らかである。

　　③　権利条約の３つの柱の一つとしてのＰＡＲＴＩＣＩＰＡＴＩＯＮ
　　　　国連子どもの権利委員会の発足当時の委員であったＴｈｏｍａｓ　Ｈａｍｍ-
　　　ａｒｂｅｒｇは、子どもの権利条約が規定している子どもの諸権利は、下記三
　　　つのＰの柱から成っていると提起した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　　　　『三つのＰ』
　　　　　　①ＰＲＯＶＩＳＩＯＮ　　　　　　子どもの基本的要求を満たすこと
　　　　　　②ＰＲＯＴＥＣＴＩＯＮ　　　　　子どもの保護
　　　　　　③ＰＡＲＴＩＣＩＰＡＴＩＯＮ　　子どもの参加

　　　　この三つのＰは、ユニセフ・ＤＣＩ共同編集にかかる子どもの権利条約解説
　　　書「Ｂｒｉｅｆｉｎｇ　ｋｉｔ」にも取り上げられ、特に「参加」（ＰＡＲＴ-
　　　ＩＣＩＰＡＴＩＯＮ）は従来の「子どもの権利宣言」（１９５９年）などには
　　　なかった本条約の大きな特徴であることが強調されている。
　　　（自由と正義４２巻２号２０頁以下論文、太田堯「国連・子どもの権利条約を
　　　読む」、喜多明人『新時代の子どもの権利』、Thomas Hammarberg『The UN 
　　　Convention on the Rights of the Child』（Human Righta Ouarterly）
　　　１９９０年　参照）。

　３　子どもを「完全かつ対等なパートナー」とする国際原則
　　　以上のような歴史的経過をふまえて、権利条約制定後の国際文書も、子どもの
　　参加の権利を明確に宣言している。

　　①　「子どものための世界サミット」
　　　　１９９０年９月３０日、子どもの権利に関する条約の実施のために、「子ど
　　　ものための世界サミット」が、日本の首相を含む世界１５１ケ国の首脳を集め
　　　てニューヨークの国連本部で行われた。この「子どものための世界サミット」
　　　で採択された「子どもの生存、保護及び発達に関する世界宣言」とその「行動
　　　計画」は、子どもの参加について、権利条約の基本原則であると共に、その実
　　　施の重要なポイントとしての位置づけを与えている。
　　　　宣言は、「子どもは自由社会において責任ある生活を送るために準備される
　　　べきである。子どもは早期にそれぞれの社会において文化的生活に参加するこ
　　　とを奨励されるべきである。」（１５項）とし、直ちに実行することを約束し
　　　た１０項目のプログラムは、「できるだけ早く『子どもの権利に関する条約』
　　　が批准され、施行されるよう努力する」ことを掲げるとともに、「協力的・教
　　　育的な文化的・社会的な環境の中で子どもが大人に成長することを可能にする」
　　　ためという位置づけで「すべての子どもに教育の機会を与えるためのプログラ
　　　ムを実施するために行動する。」ことを掲げ（２０項）、更にその次のステッ
　　　プとして、「さまざまな協力関係が必要であり、特に子どもたち自身の協力を
　　　求める。我々は、子どもがこの努力に参加するよう呼びかける。」（２２項）
　　　とし、子どもの協力・参加を不可欠のものとして重視している。
　　　　また行動計画は、「子どもの福祉に関する国際社会の抱負は、１９８９年に
　　　国連総会において満場一致で採択された『子どもの権利に関する条約』にもっ
　　　ともよく反映されている。この『条約』は、放任、虐待、搾取から子どもを保
　　　護し、さらに、生存、発達、そして、一人ひとりの子どもがその成長と福祉の
　　　ために必要な社会的、文化的、教育的その他の努力に十分参加することを含む、
　　　子どもの基本的人権を保障するための普遍的な法的基準を定めるものである。」
　　　（４項）として、権利条約の普遍的・法的基準に子どもの参加が含まれること
　　　を当然の前提としている。

　　②　「少年非行の予防のための国連ガイドライン（リヤドガイドライン）」
　　　　本ガイドラインは、１９９０年に開催された第８回国連犯罪防止会議におい
　　　て採択された文書であるが、その適用範囲として、「世界人権宣言（中略）な
　　　らびに子どもの権利条約による広範な枠組みのなかで、（中略）解釈され、実
　　　施されなければならない」と定めている。従って、子どもの権利条約を解釈す
　　　る上でも、リヤドガイドラインの趣旨が斟酌されるべきである。
　　　　リヤドガイドラインは、下記のように、家庭、地域社会、学校等において、
　　　子どもを「完全かつ対等なパートナー」として承認することをくりかえし求め
　　　るとともに、とくに教育の過程においては、子どもの能力を最大限に発達させ
　　　るために、子どもを「積極的かつ有効な参加者」とすることを求めている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　　　　『このガイドラインの解釈にあたっては、子ども中心の態度が追求されなけ
　　　ればならない。青少年は、社会において積極的な役割とパートナーシップを認
　　　められなければならず、単に社会化と統制の目的物とみなされてはならない。』
　　　（基本原則３）
　　　　『子どもや青少年の人格の適切な発達に十分な留意がなされなければならず、
　　　彼らは社会化と統合の過程において、完全かつ対等のパートナーとして受け入
　　　れられなければならない』（社会化の過程１０）
　　　　『教育制度は、（中略）以下の事項についても特別の注意を払わなければな
　　　らない。（ｂ）青少年の個性、才能、ならびに精神的・身体的な諸能力を最大
　　　限可能なまでに促進し発達させること。（ｃ）単なる対象物としてではなく、
　　　積極的かつ有効な参加者として青少年を教育過程に参加させること。』（教育
　　　２１）

　　③　国連子どもの権利委員会の解釈・運用
　　　　その後の条約の実施に責任を持つ国連の子どもの権利委員会の、権利条約１
　　　２条に関する解釈・運用は、一貫して子どもの参加権を、意見表明権と一体を
　　　なし、その重要な内容をなすものとしてとらえている（後述参照）。
　　　　１９９８年６月５日、国連子どもの権利委員会は、日本政府報告に対する総
　　　括所見（甲第１４号証）の中で、「子どもたちの参加権（１２条）」（'their 
　　　right to participate(article 12)'（１３項）、「子どもの参加（１２条）
　　　の一般原則」（'the generalprinciples of　・・・　the participation of 
　　　children(article 12)'（３５項）との用語を明確に用い、「社会のあらゆる
　　　分野、とくに学校制度において、一般の子どもたちが参加権（第１２条）を行
　　　使する上で困難に直面していることを、とりわけ懸念する。」（第１３項）、
　　　「子どもの参加（第１２条）の一般原則が、政策に関する議論および意思決定
　　　の指針となるのみならず、いかなる法改正ならびに司法上のおよび行政上の決
　　　定においても、かつ子どもに影響を与えるあらゆる事業および計画の発展およ
　　　び実施においても適切に反映されることを確保するために、さらなる努力が行
　　　われなければならない」（３５項）と述べている。
　　　　このように、国連子どもの権利委員会が子どもの参加権を実体的な内実を持
　　　つ重要な権利としてとらえていることは明らかである。

　　④　まとめ
　　　　以上のように、子どもの権利条約の解釈準則となる国際法原則は、子どもに
　　　対し、「完全かつ対等のパートナー」として、自己に関わるすべての事柄につ
　　　いての決定過程に参加する権利を保障したものと解される。

　四、子どもの学校運営参加権

　１　子どもの権利条約による学校運営参加権の保障
　　　以上のとおり、子どもの権利条約１２条は、子どもの参加の権利を保障したも
　　のである。これを子どもの成長発達にとって極めて重要な学校教育の領域に即し
　　て言えば、この１２条を中核としつつ、３条（子どもの最善の利益尊重原則）、
　　６条（成長発達権）、１３条（表現・情報の自由）、１４条（思想・良心・宗教
　　の自由）、１５条（結社・集会の自由）、２８条（教育への権利）、２９条１項
　　（ａ）（子どもの人格、才能並びに精神的及び身体的な能力を最大限発達させる
　　教育）等の諸規定により、「子どもの学校運営参加権」が、より明確に保障され
　　ているというべきである。
　　　子どもは学校の一構成員として、教育の決定過程に参加する権利を有するので
　　あり、さらにこの権利を実効性あるものにするために、子どもの意思を確認し、
　　その意見・選択・判断を最大限に尊重しつつ、その最終決定にできるだけ反映さ
　　せる適正手続ないし学校運営のシステムを確立することが、法的に要請される。
　　　そして、この「参加」の意義は、単に、子どもが「情報を受けて、役割を与え
　　られる」というだけにとどまらず、子どもと大人が決定を共有する共同決定の原
　　則を示している（喜多明人「子どもの意見表明・参加の権利」『子どもの権利　
　　基本法と条例』（三省堂））。

　２　現行憲法・教育基本法にみる子どもの学校運営参加権
　　①　憲法１３条は、「すべて国民は個人として尊重される」と規定する。
　　　　憲法１３条により、子どもも大人同様、個人として尊重され、尊厳を持つ存
　　　在として取り扱われなければならないことは当然である。子どもの尊厳の尊重
　　　において、その中核をなすのは、子どもの権利条約１２条の子どもの意見表明
　　　権・参加権であり、１２条は、子どもを尊厳を有する存在として取り扱うこと
　　　を前提としているものである。
　　　　即ち、完全な自己決定能力を有する大人においては、自己決定権の保障が個
　　　人の尊重の中核となるが、成長発達途上にある子どもの尊厳を尊重にとっては、
　　　意見表明権・参加権の保障・尊重こそが不可欠に重要である。
　　　　よって、子どもの意見表明権・参加権、さらに学校における、子どもの学校
　　　運営参加権は、憲法１３条に基礎を置くものといえる。
　　　　国連子どもの権利委員会のカープ委員は、日本の審査にあたり、以下のよう
　　　に述べ、「本条約は、人間の尊厳に関するものです。・・・子どもがその個性
　　　と人格を受け入れられなければ、それは人間としての尊厳を侵されたことにな
　　　るのです。自分に関わることについて、その意見を聞かれなければそれは本当
　　　の意味でのパートナーとなる機会を奪っているのであり、それはその人間とし
　　　ての尊厳を侵していることになるのです。日本において、子どもは、未来の創
　　　造者であると言われています。これに含まれているメッセージは将来の創造の
　　　ために今、子どもをパートナーとするということです。」右の趣旨を明確にし
　　　ている。
　　②　学習権（憲法２６条）の保障と子どもの学校運営参加権
　　　　子どもの学校教育における「意見表明権」「参加の権利」の保障は、子ども
　　　の権利条約により根拠づけられるだけでなく、憲法・教育基本法にも根拠を持
　　　つものである。
　　　　そもそも、子どもは、人間として、憲法に定める基本的人権を享有している
　　　のであり、憲法１３条（個人の尊厳）、２１条（集会・結社・表現の自由）の
　　　保障は、権利条約をまたずして、子どもにも当然及ぶものである。
　　　　また、憲法２６条（教育を受ける権利）は、「国民各自が、一個の人間とし
　　　て、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために
　　　必要な学習をする固有の権利」である学習権の保障を含むものである（最高裁
　　　学テ判決）が、自己にかかわる諸問題の決定過程に参加することにより、自己
　　　にかかわる問題を自分で考え、解決していく能力を獲得し、自立した人間へと
　　　成長・発達していくのであるから、憲法２６条の保障する学習権は、子どもの
　　　学校運営参加権を含むものと解すべきである。
　　③　教育基本法
　　　　教育基本法前文第２段の「個人の尊厳を重んじる」という文言は、憲法１３
　　　条をふまえ、学校教育において、教職員は、学生、生徒を人間らしく取り扱わ
　　　なければならず、学生、生徒が自主的精神をもっていることを認め、それにうっ
　　　たえて相手に判断して行動させる必要があることを意味する（文部省教育法令
　　　研究会『教育基本法の解説』）。
　　　　また、同法１条の「自主的精神」とは、自己決定性・自律性の趣旨であり、
　　　「平和的な国家及び社会の形成者」とは、単なる成員、構成者という消極的な
　　　ものでなく、積極的に国家及び社会を形づくっていくものという趣旨である。
　　　　さらに、同法２条の「自他の敬愛」という文言は、教職員と生徒間、教職員
　　　相互間、生徒相互間に、対等平等な人間的関係を形成すべきことを要請するも
　　　のであり、同法８条の「良識ある公民」とは、社会団体の一員として、積極的
　　　に社会を形成していく場合の国民を意味しており、高等学校教育の目標を定め
　　　た学校教育法４２条１号は、「国家及び社会の有為な形成者として必要な資質
　　　を養うこと」を掲げている。
　　　　このように、教育基本法は、独立の人格を有する学生・生徒が、教職員と対
　　　等・平等な人間関係の中で、積極的に諸問題の決定過程に参加し、自己の意見
　　　を表明していくことを要請したものと解される。
　　④　まとめ
　　　　以上のように、現行憲法、教育基本法は、子どもの個人の尊厳を重んじなが
　　　ら教育するだけでなく、子どもを人権・権利の積極的な行使主体として育成す
　　　ることを強く要請しているのであり、子どもの意見表明権及び学校運営参加権
　　　は、子どもの権利条約のみならず、憲法１３条、２１条、２６条及び教育基本
　　　法前文、１条、２条、８条によって、法的に保障されていると解される。

　３　子どもの学校運営参加権の具体的内容
　　①　憲法、子どもの権利条約及び教育基本法によって、子どもの学校運営参加権
　　　を保障する趣旨は、子ども自身が参加権を行使することによって、子どもの最
　　　善の利益を尊重し、子どもの成長発達権を最大限に確保しようとすることにあ
　　　るから、学校教育・学校運営に関する全ての領域について、可及的に子ども
　　　（生徒）の参加権が保障されると解すべきである。
　　　　近時、議論されている領域として、校則の制定改廃手続における生徒の参加
　　　権の保障、停学・退学等の懲戒処分に際しての聴聞手続の保障、学校における
　　　カリキュラムの策定、教科書の選択、教材の選択、図書館の本の選定等におけ
　　　る生徒の参加権の保障などがある（広沢明「子どもの権利条約と国内の課題」
　　　『子どもの権利条約の研究』（法政大学現代法研究所））。
　　②　とりわけ、特別活動（ホームルーム活動、生徒会活動、クラブ活動、学校行
　　　事）の領域は、生徒の自主性が特に重要な分野であり、生徒の参加権保障が強
　　　く要請される。
　　　　現行の高等学校学習指導要領も、第三章特別活動の章で目標として「集団の
　　　一員としてよりよい生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てる」こと
　　　を掲げている。
　　　　特別活動のうち、生徒会活動、クラブ活動について生徒の参加権が最大限保
　　　障されるのは当然であるが、学校行事についても、生徒の参加権は最大限保障
　　　されるべきである。即ち、学校行事は、内容が多彩で、個々の行事がさまざま
　　　な特色を持っており、各教科科目に比べて、各学校の実態に応じて創意工夫を
　　　加えながら弾力的に実施されるべき領域であり、とくに、生徒の自主的・実践
　　　的な活動や生徒自身による計画・創意工夫にゆだねられるべき領域だからであ
　　　る。
　　　　現行の高等学校学習指導要領解説でも、学校行事は、「各種類の行事に生徒
　　　が参加し協力することによって行われる教育活動」との位置づけがされ、「可
　　　能な限り生徒の自主的な活動を助長することが大切」とされている。
　　　　とすれば、学校行事の領域については、生徒と教職員の共同決定などのかた
　　　ちで子どもの意見表明権・参加権が最大限尊重されるべきである。
　　③　子どもの参加権の行使のうえで学校の全生徒をもって組織する生徒会は、極
　　　めて重要な組織である（前記意見表明権の論述参照）。
　　　　生徒会は、子どもの学校運営参加権行使を具体的制度的に保障する重要な組
　　　織であり、生徒会を通じて子どもが表明した意見は、最大限尊重されなければ
　　　ならない。また、校長・教職員は、学校運営の決定過程に可及的に生徒会を通
　　　じた生徒の意思を反映させるよう、参加権行使を具体化する全校的システムを
　　　確立すべき責任を負うことが権利条約から要請される。

　五、「所沢高校システム」による学校運営参加権の具体化

　１　前記四のとおり、憲法、子どもの権利条約及び教育基本法等によって、一人一
　　人の子どもに、学校運営参加権が保障されているが、その具体化にあたっては、
　　子どもに関わるあらゆる企画・運営等についての決定システム・プロセスに、子
　　どもの代表の直接参加あるいは子どもの意思・要求が反映される制度・条件を整
　　備することが必要となる。
　　　この条件整備については、１９９４年の子どもの権利条約の発効により、政府
　　は、学校教育参加権の制度的具体化のため、「すべての適当な立法措置、行政措
　　置その他の措置を講ずる」（４条）法原理的義務を負った。
　　　しかるに、現在、全国的な立法・行政措置は取られておらず、１９９８年国連
　　子どもの権利委員会は、日本に対し、「子どもの意見の尊重（１２条）の一般原
　　則が、子どもに関わる立法政策および計画に全面的に統合されていないこと」
　　「とくに学校制度において一般の子どもたちが参加権を行使する上で困難に直面
　　していること」に懸念を表し（１３項）、「子どもの参加（１２条）の一般原則
　　が政策に関する議論および意思決定の指針となるのみならず、いかなる法改正な
　　らびに司法上および行政上の決定においても（中略）、適切に反映されることを
　　確保するために、さらなる努力が行われなければならない（３５項）」と勧告し
　　ている（甲第１８号証・日本の権利条約実施状況に関する総括所見）。

　２　しかし、条約内容の制度的実現の方法としては、前記一２のとおり、「新たな
　　実定法整備」という方法だけではなく「慣習法による制度化」という方法が存し、
　　教育の分野などでは、各学校単位に存する「慣習法による制度化」という方法が
　　適切な場合がある。
　　　よって、全国な立法・行政措置が取られていないとしても、権利条約批准前よ
　　り、または批准後、各学校単位で生徒・教職員らが自主的に確立した生徒の学校
　　教育参加のシステムが存在する場合、これは、権利条約の要請する参加権を「慣
　　習法により制度化」したものと言えるのであり、こうしたシステムは、権利条約
　　に法的根拠をもつ制度として、承認され、尊重されなければならない。こうした
　　学校教育参加のシステムの具体例として、千葉県立東葛飾高校、千葉県立小金高
　　校、私立湘南学園および埼玉県立所沢高校などの例が、報告されている（「高校
　　生活指導」１２５号）。

　３　生徒の学校運営参加権は、このような確立された慣習法上の生徒参加のシステ
　　ムが存在する場合は、権利条約の制度的具体化により、具体的権利性を獲得する。
　　　そして、前記一３のとおり、立法・行政当局は、条約上の最低限の義務として、
　　こうした各学校単位での「慣習法により制度化された生徒の参加権」を後退させ
　　ない義務を負う。

　４　前記のとおり、所沢高校においては、下記のような生徒参加のシステム（所沢
　　高校システム）が、「協議会規定」「生徒会権利章典」「行事執行規定」「職員
　　会議規程」等の学校内規及び学校慣習法により確立されてきた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　記
　　①　１９６０年代から、広く生徒に関わる事項について、生徒が、生徒会諸機関
　　　の意思決定等を通じて意見表明し、これを教職員が正当な重みをもって受けと
　　　め、生徒と教職員が様々な形態での民主的な話し合いを行い、意思形成するこ
　　　とを通じて、学校運営がなされている。
　　②　とくに、文化祭・体育祭・卒業式等の学校行事を含む特別活動領域について
　　　は、教職員と生徒が協議・決定してゆく共同決定の原則が確立している。
　　③　①②いずれの場合においても、生徒会諸機関における決定事項が職員会議で
　　　否決された場合は、教職員・生徒の代表で構成される「協議会」が開催され、
　　　この協議会における自由な討議を通じて、問題を解決することとされており、
　　　学校は、生徒諸機関の意思決定に反する学校運営を強行してはならないとされ
　　　ている。
　　④　校長は、①～③のような生徒・教職員による決定を尊重した学校運営を行わ
　　　なければならない。

　　　このように、所沢高校の生徒たちは、一人一人が「所沢高校システム」の中で、
　　「完全かつ対等なパートナー」と位置づけられ、「積極的かつ有効な参加者」と
　　して、学校運営参加権を長年にわたって保障され、行使してきたのである。
　　　このような「所沢高校システム」は、正に、前記１～３で述べた子どもの権利
　　条約が保障する学校運営参加権を慣習法により制度的に具体化したものであり、
　　所沢高校の生徒は、このシステムを通じて、具体的権利としての学校運営参加権
　　を獲得している。
　　　そして、立法・行政当局は、権利条約上の最低限の義務として、慣習法による
　　学校運営参加権の制度的具体化である「所沢高校システム」を後退させない義務
　　を負う。
　　　したがって、校長は、子どもの学校運営参加権を具体化した「所沢高校システ
　　ム」に基づいて学校運営を行わなければならず、このシステムを無視して、「最
　　終的判断権限」の名の下に、校長の独断で学校運営がなされることは、子どもの
　　権利条約４条の後退禁止原則に違反し、所沢高校の生徒一人一人の有する学校運
　　営参加権を侵害する重大な人権侵害行為として、許されない。
　　　他人の人権侵害を招来することが明白な部分、学校の予算・時間等の制約から
　　実現不可能な部分、事故発生の危険が極めて高い部分等について、必要最小限の
　　範囲で変更を求めることができるにとどまり、かつ、変更を求める場合にも、極
　　力、生徒との協議・説得の過程を経ることが必要とされているというべきである。
　　　したがって、校長、教職員が、上記の範囲外の学校行事の内容等にに関して、
　　一方的に子どもの意見を否定することは、子どもの意見表明権、参加権の侵害と
　　なるものである。


第三　いわゆる「学習指導要領の法的拘束力」論及び校長の裁量権について

　一、「学習指導要領の法的拘束力」論

　１　本件において、埼玉県教育委員会（以下、「県教委」という）及び校長は、前
　　述のとおり、「日の丸・君が代に関する決議文」を踏まえた上で卒業式及び入学
　　式に代えて卒業記念祭及び入学を祝う会を行うとする生徒総会及び職員会議の決
　　議を覆し、日の丸掲揚・君が代斉唱のある卒業式及び入学式を強行した。
　　　県教委及び校長は、卒業式・入学式を強行する理由として、高校学習指導要領
　　には法的拘束力があり、学習指導要領第三章第三３において、「入学式や卒業式
　　などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱する
　　よう指導するものとする。」と規定されていることを掲げている。

　２　しかし、そもそも、学習指導要領及び上位規範に、入学・卒業に際し「入学式」
　　「卒業式」を必ず行わなければならないとの規定はない。
　　　そして、学習指導要領第三章第三３は、「入学式や卒業式などにおいては、そ
　　の意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものと
　　する。」としているにとどまる。
　　　とすれば、入学式・卒業式を行わない場合については、学習指導要領は何ら規
　　定をしていないものである。
　　　よって本件のように、学校の内部自治により、１９９７年度卒業式・１９９８
　　年度入学式が廃止され、生徒主催の行事のみを行うと決定された場合に関しては、
　　そもそも学習指導要領の「国旗・国歌」に関する規定の適用場面ではない。

　３　また、そもそも、国旗・国歌を定義する現行法の定めはなく、日の丸を国旗と
　　し君が代を国歌とする法的根拠は存在しない。
　　　仮にそのような法的根拠が存在するとしても、日の丸・君が代の是非は思想・
　　良心の問題であって、何人といえども強制することは許されない（憲法１９条）
　　から、日の丸・君が代を儀式において行うことを内容とする学習指導要領の条項
　　は、法的拘束力を持ちえない。

　４　なおこの点、１９９０年１月１８日の最高裁判決（伝習館訴訟判決）は、「高
　　等学校学習指導要領は、法規としての性質を有するとした原審の判断は、正当と
　　して是認することができ、右学習指導要領の性質をそのように解することは、憲
　　法２３条、２６条に違反するものでないことは、学力テスト最高裁大法廷判決の
　　趣旨とするところである。」と判示したがこの判決をもって、学習指導要領の法
　　的拘束力が無制限に認められたものではない。
　　　そもそも伝習館訴訟判決が先例とした１９７６年５月２１日のいわゆる「旭川
　　学テ最高裁判決」は、学習指導要領を「教育の機会均等の確保等の目的のために、
　　必要かつ合理的な基準を設定することができる」として、「全国的な大綱的基準
　　としての性格をもつもの」として是認したにとどまり、旧学習指導要領について、
　　「右指導要領の下における教職員による創造的かつ弾力的な教育の余地や、地方
　　ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分に残されており」、「その内容にお
　　いても、教職員に対し一方的な一定の理論ないしは観念を生徒に教え込むことを
　　強制するような点は全く含まれていない」ことを学習指導要領の合憲・合法性の
　　根拠としたものである。
　　　しかし、以下の二点において、学テ判決に照らしても、日の丸・君が代の儀式
　　における強制に関しては、学習指導要領の法的拘束力は認められない。
　　　即ち第一に、日の丸・君が代を儀式において行うことを内容とする前記学習指
　　導要領の条項は、旭川学テ最高裁判決のいう「その内容が教職員に対し一方的な
　　理論ないし観念を生徒に教え込むことを強制する」ものにあたる。そして第二に、
　　本件では、①日の丸・君が代の強制に反対する生徒会決議が存在すること、生徒
　　の自主的創造的取り組みにより、②従来の卒業式・入学式にかわる新しい行事が
　　提案され、職員会議もこれを承認していることから、学テ判決のいう「創造的か
　　つ弾力的な教育の余地」「地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地」が認めら
　　れるべきである。
　　　よって、右判例に照らしても、本件において学習指導要領の法的拘束力は認め
　　られない。

　５　さらにそもそも、学習指導要領は、生徒を対象とするものではないから、いか
　　なる法的拘束力も生徒には及ばない。

　６　子どもの権利条約批准後においては、学習指導要領の内容自体が、上位規範で
　　ある権利条約に適合的に解釈されなければならない。
　　　とりわけ特別活動に関しては、生徒の参加の権利を中心に据えて新たに解釈さ
　　れるべきであり、学習指導要領の解釈として、少なくとも「日の丸・君が代」に
　　比べ、生徒の参加の権利・自主性の尊重の方が格段に高い価値を有するものとし
　　て解釈されなければならない。
　　　国連子どもの権利委員会における日本政府報告の審査においても、「学習指導
　　要領が極めて厳格にそして硬直的に教育課程を決めているように思えます。考え
　　方、態度の変化が求められます。もし民主的社会となりたいのであれば、この条
　　約をそのための協力な道具として用いることができます」と、学習指導要領の厳
　　格性が権利条約の趣旨にそぐわず、政府の態度変更が必要であると指摘されてい
　　る。
　　　よって、「日の丸・君が代」を理由に生徒の参加の権利・共同決定原則を抑圧
　　することは、上位規範である条約の本旨に反し、学習指導要領の解釈としても許
　　されない。

　７　したがって、学習指導要領（儀式における日の丸の掲揚・君が代の斉唱に関す
　　る条項）を根拠にして、生徒の意見表明権・参加の権利に基づく所沢高校の自治
　　のシステム及び「日の丸・君が代に関する決議文」を覆す卒業式及び入学式の強
　　行は憲法及び子どもの権利条約に反する。

　二、いわゆる「学校運営に関する校長の裁量権」論について

　１　校長の裁量権の限界
　　　校長は、学校において「校務をつかさどる」（学校教育法２８条３項）旨の規
　　定が存在する。
　　　しかしながら、校長の権限といえども憲法・教育基本法、子どもの権利条約の
　　制約を受けることは明白である。
　　　公立学校長を含む公務員は憲法及び憲法以下の法令を尊重・遵守すべき義務を
　　負い（憲法９９条・地方公務員法３２条）、子どもの学習権、基本的人権を侵害
　　する裁量権行使は許されない。
　　　最高裁学テ判決が判示したとおり、「個人の基本的自由を認め、その人格の独
　　立を国政上尊重すべきものとしている憲法のもとにおいては、子どもが自由かつ
　　独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入」は「憲法２６条及び
　　１３条の規定からも許されない」のであり、「教育は不当な支配に服することな
　　く」（教育基本法第１０条）行われなければならない。
　　　そして、子どもの権利条約批准後は、子どもの意見表明権、尊重原則、参加の
　　権利により、条約上これらを遵守しなければならないという制約が校長に課され
　　るのである。

　２　本件における学校長の裁量権
　　　前記のとおり、意見表明権は、特に年齢と成熟度の高い子どもが表明した意見
　　は、大人が正当な重み（ｄｕｅ　ｗｅｉｇｈｔ）をもってこれを受けとめ、その
　　要求の実現のために最大限の配慮をし、努力をすることを要求するものであり、
　　高等学校である所沢高校生徒については、学校長は、この原則を遵守すべき義務
　　を負う。
　　　また生徒参加の権利は、所沢高校においては、権利条約の「所沢高校システム」
　　の制度的具体化により、具体的権利性を獲得し、とりわけ特別活動領域について
　　は生徒・教職員の「共同決定の原則」が確立している。
　　　この共同決定方式は、必要な場合には、決定過程に参加する教職員が生徒と協
　　議するなどして、生徒の権利行使の逸脱を事前に是正することを可能とする極め
　　て合理的なシステムである。
　　　よって、学校長の裁量権は、参加権を具体化した共同決定システムに覊束され、
　　こうした生徒の具体的権利を侵害し、共同決定制度を覆すこととなる裁量権の行
　　使は、参加権の侵害及び後退禁止原則違反として許されない。
　　　仮にあえて、校長が生徒と教職員の共同決定を拒否できる場合を想定すれば、
　　それは、①他の生徒の人権を侵害する態様での活動や、②生命・身体に危険を及
　　ぼす態様での活動、③予算、施設管理等物的な限界がある場合など、極限的な事
　　態に限られることになろう。しかしこれとて、意見を十分に受けとめたうえで、
　　何故その意見を取り入れられないかを説明し理解を得ることが不可欠であって、
　　説明と納得の手続を経ずに、一方的に決定を覆す行為は、裁量権逸脱として許さ
　　れない。

　３　本件については、前述のとおり、
　　①　所沢高校の確立された意見表明・参加システムにより、少なくとも学校行事・
　　　特別活動領域においては生徒及び教職員の共同決定方式を採用していること
　　②　本件の卒業式・入学式の廃止、「卒業記念祭」「入学を祝う会」開催の決定
　　　についても、生徒総会決議を踏まえて１９９７年１１月の校長も出席した職員
　　　会議でこれが了承されたこと
　　③　本件の卒業記念祭に関する生徒総会決議において、他の生徒の人権を侵害す
　　　る態様での活動や生命・身体に危険を及ぼす内容は盛り込まれていなかったこ
　　　と
　　④　校長は、行事に関し確立した意思決定システムに従ってなされた決定に反す
　　る卒業式・入学式の実施を主張し、強行するにあたり、何ら生徒に対する説明と
　　納得の手続を行っていないこと
　　が認められる。
　　よって、本件の場合、校長の裁量権逸脱は明らかである。


第四、本件における人権侵害行為

　一、本件における意見表明権・参加権の侵害

　１　本件の事実経過は、前記第一のとおりであるが、現校長が行った意見表明権・
　　参加権の侵害は以下のとおりである。
　　①　１９９７年度入学式
　　　　現校長は、「日の丸・君が代に関する決議文」を尊重した入学式を行ってほ
　　　しいとする生徒会及び職員会議の共同決定を無視し、生徒会の申し入れにも話
　　　し合いの態度を全く取らないまま、１９９７年４月９日、校長の独断で、生徒・
　　　教職員の総意に反する内容の「入学式」を強行した。
　　②　１９９７年度卒業式
　　　　１９９７年１１月、生徒総会及び職員会議において、１９９７年度の「卒業
　　　式」に代わるものとして「卒業記念祭」を行うことが生徒・教職員の総意によ
　　　り共同決定されたにもかかわらず、校長が同年１２月以降、この決定に反し、
　　　「卒業記念祭」とは別個に校長の権限で「卒業式」を行う旨を強硬に主張し、
　　　生徒会、四者会議等を通じて、生徒が「卒業記念祭」のみ行うよう再三意見表
　　　明したにもかかわらず、話し合いの態度を全く取らないまま、１９９８年３月
　　　９日、校長主催の「卒業式」を強行した。
　　　　この「卒業式」は生徒総会で決定された「日の丸・君が代に関する決議文」
　　　にも反する内容のものとして強行された。
　　③　１９９８年度入学式
　　　　１９９７年１１月、生徒総会及び職員会議において、１９９８年度の「入学
　　　式」に代わるものとして「入学を祝う会」を行うことが生徒・教職員の総意に
　　　より共同決定されたにもかかわらず、校長がその後、この決定に反し、「入学
　　　を祝う会」とは別個に校長の権限で「入学式」を行う旨を強硬に主張し、生徒
　　　会等を通じて、生徒が「入学を祝う会」のみ行うよう再三意見表明したにもか
　　　かわらず、話し合いの態度を全く取らないまま、１９９８年４月９日、校長主
　　　催の「入学式」を強行した。
　　　　この「入学式」は生徒総会で決定された「日の丸・君が代に関する決議文」
　　　にも反する内容のものとして強行された。

　２　これら各行為は第一に、生徒の意見表明権を侵害するものである。
　　　前記のとおり、意見表明権は、特に高校生のように、年齢と成熟度の高い子ど
　　もが表明した意見に対しては、子ども自身が「最善の利益」を表明したものとし
　　て、大人が正当な重み（ｄｕｅ　ｗｅｉｇｈｔ）をもってこれを受けとめ、その
　　要求の実現のために最大限の配慮をし、努力しなければならない、という法的義
　　務を含むものである。
　　　しかるに校長は、生徒が、クラス討論を重ね、生徒総会の決議という正式なルー
　　トを経て表明した「『日の丸・君が代に関する決議文』を尊重した入学式を行っ
　　てほしい」（９７年度入学式）「卒業式・入学式に代わるものとして生徒主催の
　　行事を行う」（９７年度卒業式、９８年度入学式）という真摯かつ学内の意思決
　　定手続に従った意見表明に対し、「正当な重み」を持った受けとめを全くせず、
　　その要求の実現のための配慮・努力を全くしなかった。
　　　それどころか、校長は、一貫して「生徒は指導される立場であり、対等に協議
　　することはできない」「説明はするが、協議はしない」という態度をとり続け、
　　生徒の意見の尊重義務を懈怠・放棄する言動・態度に終始した。
　　　これはまさに子どもの権利条約１２条の生徒の意見表明権、意見尊重の原則に
　　違反する人権侵害行為である。

　３　これら各行為は第二に、生徒の参加権を侵害するものである。
　　　前記のとおり、校長は、子どもの学校運営参加権を具体化した「所沢高校シス
　　テム」（前記２５頁参照）に基づいて学校運営を行わなければならず、このシス
　　テムを無視して、「最終的判断権限」の名の下に、校長の独断で学校運営をする
　　ことは、子どもの権利条約４条の後退禁止原則及び、上位法優先原則に違反し、
　　所沢高校の生徒１人１人の有する学校運営参加権を侵害する重大な人権侵害行為
　　として、許されない。
　　　しかるに、校長は「所沢高校システム」（前記２５頁参照）に基づいて決定さ
　　れた「『日の丸・君が代に関する決議文』を尊重した入学式を行う」（９７年度
　　入学式）「卒業式・入学式に代わるものとして生徒主催の行事を行う」（９７年
　　度卒業式、９８年度入学式）という決定を一方的に覆した。
　　　のみならず、校長は「生徒会の提案を否決した際は、協議会を開催し、教職員
　　との話し合い・納得の手続きにより解決をはかる」という話し合いシステムも一
　　切履践せず、「日の丸・君が代に関する決議文」に反する内容の入学式・卒業式
　　を強行した。
　　　これは、所沢高校がこれまでの慣行により築き上げた生徒参加のシステムを一
　　人で覆したものであり、子どもの権利条約４条の後退禁止原則及び、上位法優先
　　原則に違反し、所沢高校の生徒一人一人の有する学校運営参加権を侵害する重大
　　な人権侵害行為である。

　二、１９９８年度入学式に際しての、教育委員会・校長による新入生に対する人権
　　侵害行為

　１　事実経過
　　　内田校長及び県教育委員会は４月９日の「入学式」に向けて二つの強権的な手
　　段を用いた。
　　　一つは、県教育委員会が、３月１８日の入学説明会において生徒会の決議を尊
　　重した経過説明を行った竹永公一教諭（新１年生担任教員団代表）を校長の意に
　　反する趣旨の発言を行ったとして戒告の懲戒処分にしたことである。この処分決
　　定は、内田校長からの報告受理（３月２４日）から教育委員会の決定（３月２５
　　日）まで２日間の間に、しかも、本人からの事情聴取という最低限の手続きさえ
　　履践されずになされたものであり、現在、竹永教諭は、不当処分として県人事委
　　員会に審査を請求している。
　　　そして、もう一つが、教育委員会と内田校長が、全新入生及びその保護者に対
　　し、「入学式に出席しないと入学を許可しない」旨の手紙を送ったことである。
　　(1) 平成１０年３月３１日付けの県教育委員会の手紙の内容は別紙２のとおりで
　　　あり、この手紙は別紙１の内田校長の手紙と同封されて、新入生の保護者のも
　　　とに郵送された。この教育委員会の手紙には「お子様が埼玉県立所沢高校の生
　　　徒となるためには、入学式に出席し校長による許可を受けなければなりませ
　　　ん。」と明確に記載されている。要するに、入学式に出なければ入学を許可し
　　　ないというのがその内容である。
　　(2) また、４月３日付けの内田校長の手紙の内容は別紙１のとおりであり、この
　　　校長の手紙においても、「埼玉県の他のすべての高校においても、入学式の中
　　　で入学許可候補者に対して入学許可を行っている」「高等学校へ入学するため
　　　には、校長による入学許可を受けなければなりません」「入学式において、校
　　　長から入学許可を受け、所沢高校生として新たな第一歩を踏み出して下さい」
　　　などと記載されており、その意味するところは、同封された教育委員会の手紙
　　　と同じく、入学式に出席しなければ入学が許可されないということにあると受
　　　け取ることができる。
　　　　事実、内田校長は、４月８日、生徒の弁護団である弁護士津田玄児が提出し
　　　た右通知の撤回を求める意見書の受け取りを拒否し、「（生徒に）入学式に出
　　　ていただけない時は、速やかな対処を考えたい」と回答し、入学式に出席しな
　　　い生徒に対して入学を許可しない事態がありうることを改めて示唆している。
　　　　その後校長はＰＴＡ、マスコミの問い合わせや抗議に対しても「入学式にお
　　　いて入学を許可します」と述べ続けた。

　２　通知の法的問題点
　　(1) しかし、まず、法的には、入学式に出席しなければ入学が許可されないとい
　　　うことはあり得ない。
　　　　学校教育法施行規則第５９条第１項は、「高等学校への入学は、・・・入学
　　　者の選抜に基づいて、校長がこれを許可する」と規定している。しかし、この
　　　入学許可を「入学式」において行わなければならないとする規定は国及び県の
　　　レベルの法令には存在しない。
　　　　また、学校教育施行規則第３条に基づいて定められる埼玉県立所沢高等学校
　　　学則は、第１７条で「入学選抜に合格し、必要な手続きを完了した者は入学を
　　　許可する」と規定しているが、この「必要な手続き」には、当然のことである
　　　が入学式への出席は含まれていない。
　　　　埼玉県立高等学校通則第１９条（昭和３０年教育委員会規則第５号）は、
　　　「入学を許可された者は・・在学保証書を校長に提出しなければならない」と
　　　規定しているが、入学許可をいついかなるかたちで行うのかについては全く規
　　　定がない。
　　　　入学選抜に合格した者については、自ら入学辞退をしたと看做される手続懈
　　　怠がない限り、入学を許可されるべきであり、入学式の欠席を理由として入学
　　　を許可しないこととなれば、それは法律・学則の根拠に基づかない違法行為で
　　　ある。
　　　　よって、文書の内容は法的根拠に基づかない虚偽の内容を含んでいることが
　　　明白である。
　　(2) さらに、教育委員会に関しては、その権限逸脱はより明白である。
　　　　そもそも教育委員会においては、学校自治を覆すような裁量権行使は「不当
　　　な支配」として許されず、裁量権行使は原則として校長を通じた指導・助言に
　　　とどまるべきである（兼子仁「教育法（新版）」法律学全集１６巻の１参照）。
　　　　しかるに、県教育委員会は、校長を越えて直接、新入生に法例に根拠のない
　　　内容の文書を送りつけたものである。
　　　　この文書送付に関して、教育委員会の会議においては全く議題にのぼらず、
　　　議決もされなかった。しかもこの文書送付にあたっては、教育長の決裁も下り
　　　ていない。このようにして、法的根拠のない文書を教育委員会名をもって、あ
　　　たかも「公的装い」を凝らして新入生全員に送りつけたのである。

　３　人権侵害性
　　(1) 以上のように教育委員会や校長の手紙は、内容的には欺瞞性に満ちたもので
　　　あり、言うなれば、新入生に出席を強要するための脅迫であり、明らかに違法
　　　である。
　　　　新入生には、入学説明会における説明や卒業式をめぐるマスコミの報道を通
　　　じて、校長主催の「入学式」と生徒主催の「入学を祝う会」が別々に実施され
　　　る理由が概ね理解されていた。そして、そうした説明や情報を踏まえて、新入
　　　生が入学式に出席すべきかどうかは、本来、新入生の個人の自由な意思決定に
　　　委ねられるべきであった。ことは新入生の内心に関わることであり、しかも、
　　　本件の経緯からすれば、入学式に出席するかどうかは、内田校長の学校運営を
　　　支持するかどうかの判断と重なるのであるから、その意思決定は可能な限りの
　　　尊重がなされるべきであった。
　　　　しかるに、教育委員会や校長の手紙が、この意思決定の自由を不当に奪うも
　　　のであることは言うまでもない。「入学式に欠席すると入学を許可されないの
　　　では」という恐怖感は、内田校長の学校運営を支持できないので入学式を欠席
　　　したいとの考える新入生の気持ちを萎縮させるには十分である。
　　　　結果的に、約６割の新入生が入学式に参加したが、入学の不許可という不利
　　　益に対する恐怖から、入学式に参加した新入生も多かったと思われる。
　　　　教育委員会や校長の行為が入学式への参加の強制に用いた手段は、卑劣な違
　　　法行為であり、同時に、新入生の内心の自由を侵害するものである。
　　(2) また、実際に、入学を祝う会には新入生のほぼ全員が出席し、入学式には約
　　　４割の新入生が欠席したという新入生の行動の意味を考える必要がある。
　　　　約４割の新入生が入学式に欠席したのは、生徒会、職員会議の決定を無視し
　　　て入学式を強行した校長のやり方を支持できないからである。それは、入学式
　　　への欠席という形をとった新入生の意見表明に他ならない。
　　　　他方、出席した６割の新入生のなかには、入学不許可を恐れてこの意見表明
　　　を断念せざるを得なかった者が少なくない。
　　　　教育委員会や校長が新入生に送った手紙は、新入生の内心の自由を侵害する
　　　だけでなく、新入生の意見表明、表現行為に対する重大な事前抑制であり、意
　　　見表明権、表現の自由を侵害するものである。

　三、町村信孝文部大臣（当時）による人権侵害行為

　１　所沢高校の卒業式、入学式をめぐる問題がマスコミ報道され、世間の注目を集
　　めるなかで、町村文部大臣（当時）は国の教育行政の責任者として、その見解を
　　記者発表している。しかし、その発言の内容は、生徒主催の「卒業記念祭」「入
　　学を祝う会」が開催されることになった経緯や内田校長による所高システムの破
　　壊、生徒の意見表明権の蹂躙といった問題の本質を全く捨象し、生徒が卒業式、
　　入学式に欠席したことのみを捉え、その立場を利用して生徒を一方的に非難する
　　ものである。一連の発言は、所沢高校の生徒に対する名誉毀損ないし侮辱と言わ
　　ざるを得ない。

　２　町村文部大臣（当時）は、所沢高校の入学式を目前に控えた１９９８年４月７
　　日、閣議の後の記者会見で、「入学式、卒業式は学校の重要行事だ。形態は校長
　　の判断通りにやってもらいたい」（４月７日付読売新聞夕刊）と述べ、校長主催
　　の式典が望ましいとの意向を示した。また、卒業式において約４００人卒業生が
　　式を欠席したことについて、「生徒が意見を持つのはいいが、意見が通らないか
　　らといって、実力行使に出るのは、民主主義社会の根本を揺るがすもの」と生徒
　　側の行動を批判した（４月７日付読売新聞夕刊他）。
　　　この発言により、３月の卒業式を欠席した約４００名の卒業生は、「民主社会
　　の根本を揺るがすもの」すなわち民主社会の破壊者との汚名を着せられることに
　　なった。
　　　そもそも、自分の意見が通らないからといって、実力行使に出たのは、校長の
　　側である。生徒は、「所沢高校システム」として確立した民主的な意思決定シス
　　テムに則って物事を進めてきたのであり、それを独断で権力的に無視し独走した
　　校長の行動こそが「民主社会の根本を揺るがすもの」なのである。
　　　１９９７年１１月の生徒総会、職員会議により、「卒業式に代わるものとして」
　　卒業記念祭の開催が決定された。これは所沢高校システムの共同決定原則にのっ
　　とって話し合いにより決定し築き上げてきたものであり、この経緯からすれば本
　　来卒業式は存在しないはずなのである。しかるに、校長が一方的に右共同決定を
　　覆して強行する卒業式に、生徒が出席することは、自ら築き上げてきた民主的意
　　思決定のシステムを自ら崩壊させるに等しいこととなる。こうした意味で到底卒
　　業式に出席できないと考え、「所沢高校システム」の破壊に抵抗した生徒が圧倒
　　的多数にのぼるのは、当然である。
　　　また、そもそも子どもは権利行使の主体であって、子どもの納得と理解も得ず
　　に大人の決めたことを勝手におしつけることは許されない。これこそが権利条約
　　の本旨である。
　　　文部大臣は、国の教育行政の最高責任者であり、子どもの権利条約に従った教
　　育行政を率先して行うべき義務を負うものである。その文部大臣によって、生徒
　　は自分たちの行動を全面否定され、その社会的評価を大きく損なうことになった。
　　しかも、個々人が大事にされる自由な校風を愛し、所沢高校の民主的なルールを
　　尊んできた同校の生徒にとって、「民主社会の根本を揺るがすもの」とのレッテ
　　ルを貼られることは、これ以上ない屈辱である。町村文部大臣（当時）の発言は、
　　同校の生徒に対する重大な侮辱である。
　　　同時に、この発言は、教育委員会や校長が入学式に出席しなければ入学を許可
　　しないと受け取れる通知を新入生及びその保護者に送り、新入生の入学式参加を
　　心理的に強要した教育委員会や校長を加勢するものである。文部大臣が「形態は
　　校長の判断通りにやってもらいたい。」と述べることは、教育委員会や校長の通
　　知にお墨付きを与えることに等しい。また、「意見が通らないからといって、実
　　力行使に出るのは民主主義の根本を揺るがすものだ」との発言は、卒業式につい
　　てのものであるが、その後の入学式をも意識した発言であることは明らかで、入
　　学式に出席しない生徒を民主社会の破壊者であるとの印象を与えようとしている。
　　こうした文部大臣の発言は、教育委員会や校長の通知と相まって、新入生の入学
　　式出席に関する意思決定の自由を抑圧するものであり、内心の自由の侵害である。

　３　また、町村文部大臣（当時）は、入学式後の４月１０日、閣議後の記者会見で、
　　新入生の約４割が校長主催の入学式に欠席したことについて、「最終決定権は生
　　徒になく、校長にあるのは当たり前。生徒の自主性は大切だが、最終的に決める
　　のはだれかというルールを無視してよいということではない。（入学式などの）
　　ボイコットは民主主義の履き違え」（４月１１日付読売新聞埼玉版）「自主性と
　　野放図は違う」（４月１１日付埼玉新聞）などと改めて校長を支持し、生徒を非
　　難する発言をした。
　　　要するに、町村文部大臣（当時）の発言は、校長の独裁的な学校運営を支持す
　　るというものであり、子どもの権利条約に謳われている子どもの意見表明権など
　　に対する配慮は微塵も感じられない。入学式への不参加は、新入生にとって、こ
　　れから入学しようとする高校において先輩達が築き上げてきた自治的制度を踏み
　　にじり、崩壊させることに加担することなる。こうした行為に加担できず、どう
　　しても出席することが出来なかった新入生が多数に及んだことは当然である。あ
　　る新入生の女子生徒は「所高生の自主、自由さに憧れて選んだのだから、それが
　　失われたのなら、入学を取り消されてもいいと思った」（４月１０日付毎日新聞
　　埼玉版）と当時の心境を語っている。
　　　また、前記のとおり入学式への欠席は、生徒会、職員会議の決定を無視して入
　　学式を強行した校長のやり方を支持できない、という正当な意見表明に他ならず、
　　「民主主義の履き違え」「野放図」などと非難されるいわれは全くないのである。
　　　前文部大臣の発言は、生徒に対する侮辱であり、新入生は入学の喜びもつかの
　　間、このうえなくその品位を傷つけられた。

　４　さらに、町村文部大臣（当時）は、５月３１日、長野県飯山市内での講演で、
　　所沢高校の問題を取り上げ、「扇動する特定の左翼政党がいて、生徒も先生もＰ
　　ＴＡも、支援弁護士グループも、特定政党に牛耳られているから、ああいう事件
　　になる。」「学校では・・校長であり、それに従うのが民主主義だ。」（６月１
　　日付朝日新聞）などと発言している。
　　　いったい何を根拠にこのような発言をするのであろうか。これまでの発言にお
　　いて、町村文部大臣（当時）がこの問題の本質を全く理解していないことは容易
　　に想像しうるところである。
　　　所沢高校の生徒は、球技大会、体育祭、文化祭などの学校行事を自主的に運営
　　しており、生徒はその伝統を誇りに高校生活を送っている。今回の卒業式、入学
　　式に代わるものとしての「卒業記念祭」「入学を祝う会」は、生徒会が生徒に対
　　するアンケートに基づいて発案し、生徒総会で決定したことである。
　　　その発想の原点は、お世話になった卒業生をこれまでと同じく所高らしい自由
　　な雰囲気のなかで送り出したい、また、押しつけのない所高らしい雰囲気のなか
　　で新入生を迎えたいということである。所高生であれば誰でも共感できる極めて
　　素直な発想である。
　　　そして、この押しつけでない素直な発想に原点があるからこそ、圧倒的多数の
　　生徒が「卒業記念祭」「入学を祝う会」に賛同・協力し、内容的にも感動を呼ぶ
　　ものとなったのである。このことだけから見ても、生徒が「特定の左翼政党の扇
　　動」と無縁に、全く異なる次元で行動したことは明らかである。
　　　前文部大臣の発言は、こうした生徒の気持ちに思いを馳せることなく、生徒、
　　職員、ＰＴＡ、支援弁護士を根拠もなく誹謗中傷する名誉毀損行為であり、法的
　　に是認されるものではない。

　５　まとめ
　　　子どもの権利条約は、１６条で「いかなる児童も、・・・名誉及び信用を不法
　　に攻撃されない」と定め、また、３７条は「いかなる児童も、・・・品位を傷つ
　　けられる取り扱いを受けないこと」を保障している。むろん、日本国憲法がこれ
　　らの権利を人権として保障していることは言うまでもない。
　　　町村文部大臣（当時）の一連の発言は、所沢高校の生徒の名誉、信用、品位を
　　侵害するものであり、重大な人権侵害である。


第五、終わりに

　　国連子どもの権利委員会、日本政府報告書審査で明らかとなった「意見表明権」
　「参加の権利」の内実

　一　国連子どもの権利委員会と本件事件
　　　この申立書で指摘してきた所沢高校で自治的に確立し、運用に供されてきた
　　「所沢高校システム」は、１９９８年５月２７・２８日に行われた、第１回日本
　　政府の報告書に対する国連子どもの権利委員会での審査において、議長をつとめ
　　たカープ委員が、日本政府に条約第１２条に基づく学校における子どもの意見表
　　明・参加の権利を確立すべきだと言及した内容と良く合致し、これに応えるもの
　　となっている。
　　　またその確立したルールを理由もなく否定し、生徒との協議にも応ぜず、納得
　　のいく理由も示さないまま、生徒の要望を踏みにじった校長およびこれを支えた
　　県教育委員会・町村文部大臣（当時）の対応は、同じくカープ議長が日本におけ
　　る子どもの意見・参加を妨げる現実として問題にしているところそのものである。
　　　委員会はこの見解に立っての総括所見を採択している。今回の校長・県教育委
　　員会・町村文部大臣の対応は、国際的な基準からすれば、子どもの権利に関する
　　条約が子どもに保障する基本的な権利を客観的に侵害するものとして評価される
　　ことは間違いない。

　二　国連子どもの権利委員会の１２条解釈
　　　本審査において、権利条約１２条が「意見尊重の原則」「参加の権利」として
　　の二つの概念として定式化され、特に学校において重視されるべき、具体的な内
　　実を持った権利であることが明らかにされている。
　　　右審査において議長をつとめたカープ委員は、日本の学校における子どもの意
　　見を聞き、参加を得るシステムの不在を問題にしており、「子どもに意見を聞く
　　という考え方が、子どもの権利実現のためのシステム全体の中に本当に導入され
　　ているのか」を問題とし、「１９９４年５月２０日の、権利条約批准に際しての
　　文部大臣通知の内容は極めて制限的なもので」「それは権利について述べている
　　わけでも、」「子どもから意見を聞くということについて述べているわけでもあ
　　りません。」「子どもの希望を受け入れる義務はなく、それは、その他の利益と
　　のバランスを取られるべきであるとされています。」「それは機会については述
　　べていますが、考慮に入れるということについては述べていません。」と政府解
　　釈を批判した。
　　　カープ議長はさらに、「子どもの意見に耳を傾けるという特別のシステムは、
　　子どもの意見を知るという点においてまだ発達していません。日常的な生活の中
　　で、子どもの意見を聞き、子どもを本当に参加させるための手続を子どもは必要
　　としています。子どもを本当に参加させるためには、子どもに情報を与え、問題
　　を子どもに説明し、そして、真に対話のための雰囲気、つまり、そこでは子ども
　　が尊重され、意見をいうことそれ自体が尊重され、自分の意見が考慮に入れられ
　　るということを実感できる雰囲気が必要です。」
　　　「子どもの意見を聞くということは、子どもの意見を本当に考慮に入れるとい
　　うことを意味しますし、また、その意見が現実に考慮に入れられることを保障し
　　なければならないことを意味します。もし子どもの考え方が受入れられないので
　　あれば、子どもに意見を聞いた人は何故意見が取り入れられなかったのかを子ど
　　もに説明する義務があります。自分の意見を考慮してくれたこと、その決定に理
　　由があるのだということを理解すれば、望まない決定を子どもたちが受け入れる
　　のを容易にします。子どもは合理的な人間なのです。対話を創造するということ
　　は、子どもの意見を聞くという原則を実現する唯一の方法なのです。」と指摘し、
　　「この条約は単なる書類でも単なる情報源でもありません。それは生きた文書で
　　それ経験されなければなりません。全ての子どもが毎日の生活の中で、条約の意
　　味を実感しなければならないということです。本条約は、人間の尊厳に関するも
　　のです。・・・子どもがその個性と人格を受け入れられなければ、それは人間と
　　しての尊厳を侵されたことになるのです。自分に関わることについて、その意見
　　を聞かれなければそれは本当の意味でのパートナーとなる機会を奪っているので
　　あり、それはその人間としての尊厳を侵していることになるのです。日本におい
　　て、子どもは、未来の創造者であると言われています。これに含まれているメッ
　　セージは将来の創造のために今、子どもをパートナーとするということです」と
　　強調した。
　　　これが、右委員会の条約に対する確立した解釈に立っての指摘であることは、
　　これまでの他の国への審査の結果を見れば明白である。
　　　委員会はこの審査を受けて６月５日、「社会のあらゆる分野、とくに学校制度
　　において、一般の子どもたちが参加権（第１２条）を行使する上で困難に直面し
　　ていることを、とりわけ懸念する。」（第１３項）、「子どもの参加（第１２条）
　　の一般原則が、政策に関する議論および意思決定の指針となるのみならず、いか
　　なる法改正ならびに司法上のおよび行政上の決定においても、かつ子どもに影響
　　を与えるあらゆる事業および計画の発展および実施においても適切に反映される
　　ことを確保するために、さらなる努力が行われなければならない」（３５項）と
　　の総括所見を採択している。この見解はカープ議長の独自の見解ではない。また
　　見解・総括所見は、日本報告の審査に当たって突然出されたものでもない。従前
　　からの委員会の条約１２条の解釈の立場に立った、確立した見解をカープ議長が
　　代表して述べたもので、このような理解に従って総括所見が採択されているので
　　ある（ちなみに「インフォーメーション・子ども人権連」連載の平野裕二氏の第
　　４会期から第１３会期までの報告から、学校に関連して参加が問題とされた事例
　　を拾ってみると、別紙４のとおりとなる）。
　　　こうした国際的な権利条約の解釈・運用に照らせば、本申立書において摘示し
　　た、校長、県教育委員会、文部省の対応が、所沢高校在校生・卒業生である申立
　　人らの、子どもの権利条約１２条の権利を侵害した重大な人権侵害行為に該当す
　　ることは明らかである。


第六、以上の次第で、申立人らは本申立に及んだ次第である。 
　　　今後、同種人権侵害行為が繰り返され、所沢高校の「自治・自由・自立」が破
　　戒されないよう、一日も早い救済の勧告を求める。





別紙１
　「　平成１０年４月３日
　　　　入学許可候補者　様
　　　　入学許可候補者の保護者　様
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県立所沢高校校長　内田達雄

　　　　入学式に向けて
　　　　合格おめでとうございます。入学許可候補者の皆さんは、希望に胸を踊らせ
　　　ていることと思います。校長として、皆さんが入学されることを心より歓迎い
　　　たします。
　　　　４月９日に行われる平成１０年度入学式について、一部に、入学式を行わず
　　　に入学を祝う会のみを実施しようとする動きがありますが、学校では、入学許
　　　可候補者説明会において校長が説明したとおり、学習指導要領に基づいて、入
　　　学式を実施し、その後入学を祝う会を実施いたします。このことについて、改
　　　めて学校の考えを説明いたします。
　　　　入学式は、中学校を終えた皆さんが、高校生活を始めるに当たって、高等学
　　　校への入学を許可される重要な学校行事です。埼玉県の他のすべての高校にお
　　　いても、入学式の中で入学許可候補者に対して入学許可を行っています。学校
　　　教育法規則では、高等学校の入学は、「校長がこれを許可する」と定められて
　　　おり高等学校へ入学するためには、校長による入学許可を受けねばなりません。
　　　　また、学習指導要領において、学校行事の儀式的行事は、「学校生活に有意
　　　義な変化や折り目をつけ、厳粛で清新な気分を味わい、新しい生活の展開への
　　　動機付けとなるような活動」とされており、本校でも、学習指導要領に基づき、
　　　入学式を３年間の教育活動の一環として位置づけて計画したところです。
　　　　なお、入学を祝う会は、生徒が中心となって運営する会であり、生徒の自主
　　　性を尊重するという観点から、望ましい教育活動の一環と考えておりますが、
　　　入学式とは趣旨を異にするものでありまして、校長としては、入学式の後に実
　　　施する計画といたしました。
　　　　入学許可候補者である皆さんは、入学式の本旨を理解し、４月９日の入学式
　　　において、校長から入学許可を受け、所沢高校生としての新たな第一歩を踏み
　　　出して下さい。　」


別紙２
　「　平成１０年度埼玉県立所沢高等学校入学許可候補者の保護者の皆さまへ

　　　　お子様の合格おめでとうございます。お子様は中学校を無事卒業されこれか
　　　ら始まる高校生活に向けて期待と希望に胸を膨らませていることと存じます。
　　　　現在埼玉県立所沢高等学校では、入学式を行わずに入学を祝う会のみを行お
　　　うとする動きが一部にありますが、このことについて、埼玉県教育委員会とし
　　　ても考えを申し上げ、保護者の皆様のご理解をいただきたいと存じます。
　　　　学校で行う儀式的行事は、学習指導要領では、特別活動の学校行事の一つと
　　　して明確に位置づけられており、入学式は、各学校が儀式的行事として実施す
　　　べきものであります。　また高等学校への入学は、「校長がこれを許可する」
　　　と学校教育法施行規則に定められておりますので、校長は、入学を許可する儀
　　　式である入学式において、入学許可候補者に対して入学の許可を行う必要があ
　　　ります。
　　　　したがいまして、お子様が埼玉県立所沢高等学校の生徒となるためには、入
　　　学式に出席し校長による許可を受けなければなりません。保護者の皆様には、
　　　入学式の趣旨をご理解のうえ、お子様が入学式に出席するようご指導いただき
　　　ますとともに、お子様ともども入学式に参列されますようお願い申しあげます。
　　　　平成１０年３月３１日　　　　　　　　　　　　　埼玉県教育委員会　」


別紙３
　　町村文部大臣（当時）の発言

　　①　１９９８年４月７日、閣議後の記者会見での発言
　　　「入学式、卒業式は学校の重要行事だ。形態は校長の判断通りにやってもらい
　　　たい。」
　　　「生徒が意見を持つのはいいが、意見が通らないからといって、実力行使に出
　　　るのは、民主主義社会の根本を揺るがすもの」

　　②　１９９８年４月１０日、閣議後の記者会見での発言
　　　新入生の約４割が校長主催の入学式に欠席したことについて
　　　「最終決定権は生徒になく、校長にあるのは当たり前。生徒の自主性は大事だ
　　　が、最終的に決めるのはだれかというルールを無視してよいということではな
　　　い。」
　　　「（入学式などの）ボイコットは民主主義の履き違えである」
　　　「自由と野放図は違う」

　　③　１９９８年５月３１日、長野県飯山市内での講演で、所沢高校の問題を取り
　　　上げての発言
　　　「扇動する特定の左翼政党がいて、生徒も先生もＰＴＡも、支援弁護士グルー
　　　プも、特定政党に牛耳られているから、ああいう事件になる。」
　　　「学校では・・・・校長に従うのが民主主義だ。」


別紙４
　　①　コスタリカ
　　　　コスタリカの審査では、教育省が子どもたちが集まって自分たちが受けてい
　　　る教育が最も適切なものかどうかを話合う機会を設けるパイロット事業を行っ
　　　ているとの報告がなされた（第４会期）
　　②　ナミビア
　　　　ナミビアの審査では、学校では各レベルで生徒会代表評議会が設置されてお
　　　り、高校生になれば、教職員・親も参加する学校運営会議に参加できる。生徒
　　　は校則制定等に当たって学校当局・親・学校運営会議と協議のうえ自分の意見
　　　を考慮してもらうことができる。学業や課外活動に直接関わる決定に関して生
　　　徒が異議申立てを行うための手続も整備されている。・・学校での体罰は禁止
　　　されており、代わりに「内面からの規律」をスローガンに、生徒・教職員・親
　　　の協同に基づく自律を基調としたアプローチが強調されているとの報告がなさ
　　　れた（第５会期）
　　③　フランス
　　　　フランスの審査では、学校においては各段階に生徒評議会が設置されていて、
　　　年齢に応じて学校運営委員会に生徒代表が教職員・親と対等な立場で参加する
　　　ことができるとの報告が、評価された（第６会期）
　　④　チリ
　　　　チリの審査では、学校における子どもの参加を促進するために、高校段階で
　　　の生徒の結社の自由を正式に認め、生徒センターを設置できるようにしたほか、
　　　学校当局に対する生徒の苦情申し立てを受け付ける生徒オンブズパーソンを創
　　　設するなどの取り組みを行っているとの報告がなされた（第６会期）
　　⑤　スペイン
　　　　スペインの審査では、学校評議会・生徒代表委員会・生徒会の３つのレベル
　　　で参加システムが存在しており、とりわけ学校評議会は教育共同体の関係者
　　　（教員・生徒・親・行政当局）が全員参加するもので、決定権も幅広く、また
　　　１３歳以上の生徒代表は投票権も有しているなどの報告がなされた（第７会期）
　　⑥　ポーランド
　　　　ポーランドの審査では、教育法では学校評議会にも、参加できる生徒代表を
　　　指名できることになっており、また１９９１年から一部地域で教育委員会に
　　　「生徒の権利オンブズマン」が設けられていることがなされた（第８会期）
　　⑦　デンマーク
　　　　デンマークの審査では、子どもの自己決定、行動の自由に関して、親が制約
　　　を加える権利を有することが問題にされ、学校においても市民的自由は完全に
　　　保障されているとの報告に対して、学校評議会その他の方法で子どもの権利行
　　　使を奨励することも必要とか、自己決定をする前提として情報を提供すること
　　　の重要性や、権利行使のための組織の構造の必要性が指摘された。
　　　　総括所見では、第３条、第１２条、第１３条、第１５条を中心とする条約の
　　　規定を国内法や手続に盛り込むこと、学校や地域で子どもの意見表明を保障す
　　　るような仕組を確立することなどが勧告された（第８会期）
　　⑧　イギリス
　　　　イギリスの審査では、学校運営に対する生徒参加の問題について、国連子ど
　　　もの権利委員会が評議会的な機関の設置を求めたのに対し、政府から「学校に
　　　より状況が異なるので評議会的な機関を設置することを法律によって要求する
　　　のは実際的ではない、かわりに、年齢の高い生徒については若干の発言の余地
　　　を認めるよう指導をしている」との回答がなされた。
　　　　これに対し、委員会は「この点についてどのような地域格差があるのかを調
　　　査して改革の材料にするよう」指摘し、「子どもたちは学校運営に参加する権
　　　利があることを知っているのか」との質問が出された。
　　　　さらに委員会は、イギリスにおける学校運営に対する子どもの参加が校長な
　　　いしは学校管理機関の裁量に任されている実態について、「民主主義を強化し
　　　社会参加の準備をする上で、子どもを学校運営に関わらせることは重要」であ
　　　ると指摘し、「子どもの意見の尊重は恩恵として考えるのではなく、権利とし
　　　てとらえなければならない」「子どもが成熟したやり方で意見表明できるよう
　　　にするのも親や教職員の責任であり、そのための訓練の機会を奪うのではなく、
　　　むしろ奨励しなければならない」などと指摘し、右実態の改善を求めた。
　　　　総括所見では、学校運営に関しても子どもたちが意見を述べる機会を確実に
　　　与えられるようになる手続を導入すべきだとの勧告がなされた（第８会期）
　　⑨　ウクライナ
　　　　ウクライナの審査では、学校参加を含めて子どもの参加が問題とされ、子ど
　　　もの権利の促進に子どもたち自身が参加することは、とくに地域レベルでは重
　　　要であるとの総括所見の勧告がなされた（第１０会期）
　　⑩　ポルトガル
　　　　ポルトガルの審査では、総括所見で子どもの参加権（１２条）が全面的に実
　　　施されていないことへの懸念が表明された（第１０会期）
　　⑪　バチカン
　　　　バチカンの審査では、表現の自由・結社の自由・プライバシー・教育などに
　　　関して、親の有する権利を保護する形で解釈するとの留保が問題にされ、さら
　　　に学校運営について親の参加権については細かく規定されているのに、子ども
　　　自身の参加については触れられていないことが問題にされた（第１０会期）
　　⑫　モンゴル
　　　　モンゴルの審査では、政府から「中等学校には、学校評議会を設けること、
　　　そこに子どもの代表も含めることが保障として確立されたが、すべての教職員
　　　が生徒の意見表明権を尊重するわけでなく、とくに成績評価などをめぐって子
　　　どもが不満を持つことも少なくない」との報告がなされ、これに対し委員会か
　　　ら、「意見表明を単なるスローガンとしてはならない」「教育のスタイルや内
　　　容、学校環境そのものが子どもの意見表明を促進するようなものになっていな
　　　ければならない」「教員養成・研修のあり方を改善する必要がある」などの指
　　　摘がなされた（第１１会期）
　　⑬　アイスランド
　　　　アイスランドの審査では、教員会議に生徒代表が参加することが認められて
　　　いたそれまでの初等学校法を改め、教員評議会、父母評議会、生徒評議会の３
　　　つの機関を独自に設けることとした改正が、かえって教育プロセスへの生徒の
　　　参加を制約しないかが問題にされたが、政府からは「教員会議に生徒代表の出
　　　席を快く思わない教職員や校長が多く、十分な運用が確保できないため改正を
　　　行った、生徒は生徒評議会を通して意見表明や苦情申し立てを行うことができ、
　　　また最低年２回は３評議会の合同会議を行うことが義務づけられているので、
　　　以前よりよい意見表明の場となる」との説明がおこなわれた（第１１会期）
　　⑭　韓国
　　　　韓国の審査では、韓国子ども憲章などに「子どもの意見の尊重」に関する言
　　　及がないことが問題にされ、「参加の主体としての子どもに関して社会でどの
　　　ような議論がなされているのか」「子どもが本当に市民的自由を行使できるよ
　　　うにするため、どのような努力をしているのか」「子ども自身の団体はあるの
　　　か。何才から団体を作ることができるのか」「平和的デモを行う権利は保障さ
　　　れているのか」などの質問や、「学校やコミュニティで参加を経験しなければ、
　　　社会の十分な成員として成長していくことはできない」などの指摘があり、
　　　「子どもを単に『小さな大人または未成熟な大人』とする考え方および取扱が
　　　支配的であるが、それを変革するための措置は十分ではない」などの懸念が表
　　　明され、家族・学校・社会生活に対する子どもたちの参加、意見・表現・結社
　　　の自由を始めとする基本的な自由の促進の努力を求める総括所見が出された
　　　（第１１会期）
　　⑮　フィンランド
　　　　フィンランドの審査では、総括所見で子どもの参加がまだ全面的に考慮され
　　　ていないとされ、参加権に関する一般の意識を高める方向での系統的な取り組
　　　みが奨励された（第１１会期）
　　⑯　ジンバブエ
　　　　ジンバブエの審査では、総括所見で学校・社会・家族生活において、子ども
　　　の意見尊重に対　して、十分な注意が払われず、子どもの市民的自由は親の同
　　　意・しつけに従って行使されるべきとされていることが、条約と一致するかど
　　　うかについて懸念が示され、家庭・学校・社会において、子どもの意見の尊重
　　　を確保し、かつ、子どもの発達しつつある能力に応じた権利の行使を促進する
　　　目的で適切な措置がとられるよう勧告がされた（第１２会期）
　　⑰　ナイジェリア
　　　　ナイジェリアの審査では、学校生活におけるすべての子どもの参加に関する
　　　指針を発展させることを含めて詳細な報告がなされ注目された（第１３会期）。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上　


　　　　　　　　　証　拠　資　料

　　甲第１号証　　　　１９９８年度生徒手帳（抜粋）
　　甲第２号証　　　　所沢高校生徒会の歴史
　　　　　　　　　　　　（ふきのとう書房『学校が楽しい』１６・１７頁）
　　甲第３号証　　　　「日の丸・君が代」に関する決議文
　　甲第４号証　　　　埼玉県立所沢高等学校学則
　　甲第５号証　　　　「卒業記念祭についてのお知らせ」
　　甲第６号証　　　　１９９７年１２月２５日付内田校長私信
　　甲第７号証　　　　１９９８年１月８日「校長先生の一連の行動に対する抗議」
　　甲第８号証　　　　１９９８年１月２３日付内田校長「お願い」
　　甲第９号証　　　　「お願い」に対する拒否決議
　　甲第１０号証　　　５０回卒業式・卒業記念祭のご案内
　　甲第１１号証　　　１９９８年３月１０日付毎日新聞記事
　　甲第１２号証　　　１９９８年４月３日付埼玉県教育委員会文書
　　甲第１３号証　　　１９９８年４月３日付内田校長文書
　　甲第１４号証　　　新聞記事抜粋
　　甲第１５号証　　　１９９８年６月３日付所沢高校新聞
　　甲第１６号証　　　５月１７日付「四者だより」
　　甲第１７号証　　　「学校が楽しい」（抜粋　１８～３２頁）
　　甲第１８号証　　　国連子どもの権利委員会総括所見
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