学校教育における親の役割と私たちの取り組み

発行日 1997年11月1日(土)
埼玉県立所沢高等学校PTA

 私たち所沢高校PTAは、4月に赴任された内田校長が、“生徒達の意志を尊重し、
話し合いで解決していく”という、これまで所沢高校の在り方に否定的であり、これ
からの校長先生の学校運営に大変不安を覚えるとして、県教育局に対し、管理職への
指導を要請しました。現在、県教育局、校長先生、PTAの三者で話し合いが持たれ
ています。
 発端は、今年度(1997年度)の入学式ですが、その事に触れる前に所沢高校に
ついて説明いたします。


〔これまで所沢高校で大事にされてきたこと〕

 所沢高校では自主・自立の校風のもと生徒達の意志が尊重され、いろいろな行事を
生徒自身が主体的に企画・運営しています。また、このような活動の中で先生方と生
徒の意見に違いがある場合は、双方の代表者による協議会を開き、学習・検討をし、
お互い納得のゆく方向を見つけていくという制度もあります。日々の学校生活の中
でも、先生方は、生徒の人格を尊重して、子ども達の納得がないままに物事を一方的
に進めていくことはありません。この様に自分達の意見をしっかり出し、十分な話し
合いをし、そして、結論を自分達で見出すことが保証されていること、そこに所高の
生徒達のエネルギーの源があると言えます。
 卒業式においても3年生の生徒卒業準備委員会が3年担任団の先生方と一緒に式の
企画などに加わる制度が所高にはあります。
 昨年度は、その準備委員会でとったアンケートに「日の丸・君が代に問題を感じる
人もいるのだから式で強制はしないで欲しい」という意見が多かったため、ホームルー
ムでどうしたいかの話し合いを持ちました。その結果、全部のクラスで例年通りの卒
業式をという結論になったので、前校長先生にこの3年生の総意を口頭で伝えました。
 ところが、3学期の始業式で前校長先生が「卒業式で国旗掲揚・国歌斉唱を実施す
る」と表明したため、生徒達は自分達でもこの問題を学び、前校長先生と何度も話し
合いを持ちました。生徒達の意志を尊重し、支持して、先生方・PTAも何度も前校
長先生と話し合いを持ちました。その結果、従来通りの生徒達が先生方と協力し、作
り上げる素晴らしい卒業式となりました。
 1990年高等学校学習指導要領が改訂され、「入学式や卒業式などにおいては、
その意義を踏まえ、国旗を掲揚すると共に国歌を斉唱するよう指導するものとする」
とされた時、生徒達は学習を重ねて、「揚げるのも揚げないのも、歌うのも歌わない
のも個人の自由だけど、学校という公の団体が個人に強制してしまうことは憲法19
条(思想及び良心の自由はこれを侵してはならない)、教育基本法10条(不当な支
配)からして問題であり、思想の統制、画一化につながる恐れがあるとして、それら
の強制に一切反対します」との「決議文」を採択しました。
 この決議文を毎年、生徒総会に図り、承認され、今日に至っています。

〔今年の入学式では・・・〕
 今年度の入学式については、生徒会は4月1日、新しく赴任されてこられたばかり
の校長先生に「入学式に日の丸・君が代を掲揚したり、歌ったりする場合は私たちに
連絡して下さい」と要望していました。PTAでも昨年度の卒業式が例年通り行われ
るに至った経過のわかる理事会だよりなどの資料を添えて、「例年通りの入学式を行っ
て欲しい」との申し入れをしていました。
 入学式の原案は、例年通りで行うと、3月21日の職員会議で審議、決定されてい
ました。入学式前日、4月8日の職員会議で校長先生から「日の丸・君が代を実施し
たい」との話があり、8日、入学式の当日9日と長時間にわたり話し合われました。
また、8日の夜には生徒会本部の生徒たちが校長先生と話し合いました。9日朝、P
TA常任理事数名が校長先生の意志の確認をしましたが、明確な回答は得られないま
までした。
 予定より30分遅れて、校長先生・教頭先生・事務室長の3名が職員会議を中断し、
「私たちで入学式を行います。」と宣言をして、新入生・保護者の待機していた式場
に来られ、入学式を始められました。演台に小さなスタンド式の日の丸が載せられ、
30分遅れた理由の説明もないまま「開式のことば」があり、その直後、ラジカセか
ら「君が代」が流されました。ざわめきの中、教頭先生により入学許可者の名前が生
徒の返事を待たずに、しかも、十分聞えない中に読み上げ続けられたため、新入生や
保護者から抗議の声が出ました。
 成り行きを見守っていた生徒会の生徒達もいままでの所高の取り組みを無視したや
り方に抗議をし、校長先生に説明を求めました。その訴えに、ほとんど新入生・保護
者が起立で賛同しました。しかし、それらの抗議を無視して式は続けられました。
 新入生が会場に留まるには限界の状態になったため、校長先生からの入学許可の宣
言の後、新入生は会場から一時教室に移動しました。その間、先生から保護者へ事情
の説明がありました。校長先生も話をされましたが、大半の人には聞えなかったよう
です。その後、新入生が拍手と吹奏楽部の演奏に迎えられて再入場し、先生方の呼名
がやり直されました。

〔その後の校長先生の対応は・・・〕
 校長先生にこのような状況を引き起こした責任者として新入生・保護者に対して、
謝罪とお詫びの文書を出すようPTAとして要請しましたが、校長先生は「今は、出
せない」と言い、先生方だけで文書を出すことも許可されませんでした。
 また、説明会の開催も要請しましたが、これも拒否されたので、PTA主催で説明
会を2回開催しました。しかし、2回目は校長先生は欠席されました。
 校長先生と生徒達、先生方、保護者それぞれの間で話し合いがなされましたが、双
方納得するには至りませんでした。校長先生は生徒の前で「子ども達の意見は聞くが、
決めるのは私」「学習指導要領に則って行った」「生徒は式を乱してはいけない」、
保護者への説明会では「学校のことは学校に任せて下さい」等々、繰り返されました。

〔要請文を採択〕
 5月31日に開催されたPTA総会では、まず、5月15日付で校長先生に出され
ていた公開質問状の回答が口答で示されました。その後、質疑応答がおこなわれまし
たが、いずれも出席者の納得できるものではありませんでした。PTA会長より教育
長に対し“管理職に指導を行うよう、また改善が見られない場合、校長の配置転換を
含む対応を要望する”要請文が提案され、圧倒的多数の支持を得ました。全会員に要
請文について知らせた上で決議を問うべき、と、臨時総会の開催が決まりました。
 各支部8ヶ所で臨時総会に向けての説明会を行った後、7月5日臨時総会を開催し、
要請文は採択されました。


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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 埼玉県教育局教育長 荒井桂様                 要 請 文  所沢高校では長い間、自主自立の校風のもと、生徒たちの意見が尊重され、いろい ろな行事を生徒たちが自主的に企画・運営してきました。こうした生徒たちの活動を 先生方も暖かく見守り、何事をするにも充分な話し合いを重ね、納得のいく形で学校 生活が進められてきています。自分たちで考え討議し、それが反映される場が保証さ れていること、ここにこそ所沢高校の生徒たちのエネルギーの源があると言えるでしょ う。  私たち保護者も、無気力に陥る若者が多い時代に、子どもたちがこうした校風の中 でのびのびとエネルギッシュに青春を送っていることに驚きかつエールをおくるもの です。まさに今望まれている個性・創造力を培う教育がなされていると言えるのでは ないでしょうか。  しかし、今年4月赴任された内田校長は、今までの生徒、先生たちとの話し合いの 結果を尊重せず、充分な話し合いもないままに、入学式において従来の形でない式を 管理職3人でしかも稚拙なやり方で強引に行い混乱を招きました。そこには新入生及 び保護者を暖かく迎え入れようとする姿勢は感じられませんでした。  そればかりか、問題は、その後の生徒たち、保護者、先生たちへの対応に学校の責 任者として、また、教育者としての誠意が感じられないことです。  生徒に対しては、生徒総会、ホームルーム委員会主催の話し合いなどが行われたも のの、一方通行的であり、ほとんどの生徒が納得しないままに終わっています。  私たち保護者に対しては、「学校のことは学校にお任せ下さい」を繰り返すばかり で、素朴な質問に対してすら真筆に応えようという気持ちが感じられず、あまりの誠 意のなさに「所沢高校の校長としてふさわしくない」という声があがっています。P TA活動に関しても「学校のことにPTAは口を出さないでほしい」という発言を繰 り返しています。定例の場(常任理事会・理事会・PTA総会等)以外の会には「必 要ない」となかなか出席していただけない状態です。これらのことは、常任理事たち が当局に何度か足を運び、事情を話し「説明の場に出席して下さるよう声をかけてい ただきたい」と伝えているので充分ご承知のことと思います。  事の発端は、稚拙なやり方で強引に行った入学式でしたが、それに対し何の反省も なくこころの伝わらない対応をするばかりの内田校長に対し、わたしたち保護者は不 信感を強め、いまや教育者としての資質を疑わざるを得なくなるにいたっています。 今後の学校運営はもちろんのこと、まさに所沢高校の自主自立の校風そのものが崩さ れ、生徒たちがやる気をなくしていくのではないかと危惧しています。  21世紀を担う有為なる若者を育てようとされている教育長には、所沢高校の現状 をふまえ校長等管理職に指導を行うよう要請いたします。また、校長に改善がみられ ない場合には、校長の配置転換を含めて適切な対応をするよう強く要望するものです。  以上、決議いたします。                              1997年7月5日                        埼玉県立所沢高校PTA臨時総会

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