2000年問題(Y2K)と日本のコミュニティの未来
中川一郎
(バークレイ、カリフォルニア)1999
年2月28日
私は、現在アメリカのカリフォルニア州のバークレイと言う町で、心理療法や気功を教えたりしている臨床心理学者です。「地球の集まり」と言う環境やエコロジーに関する事を学んだり実践する会の「世話役」もしながら、環境問題や継続できる社会のあり方に関わってきています。最近私の住むあたりでも、コンピューター西暦2000年問題が(
The Year 2000 Problemを略して「Y2K」と呼ばれています)少しずつ深刻な問題として浮かび上がってきており、Y2Kの準備に関しても様々な形で関わっています。
そんな中、日本の市民運動などを活発にしている人達に連絡し始めて明らかになったのですが、日本でのY2Kに対する知識や準備が(特に市民のレベルでは)全く皆無の状態であることを知りました。そして文献やレポートなども含めて調べれば調べるほどY2Kに関する知識や問題の認識が無いことを知り、日本が今非常に深刻な状態であることを確信して、このような呼びかけの文章を書くことにしました。こちらカリフォルニアでも、まだまだ一般の人達はジョークにしている程度の人が多い状態ですが、状況を把握し始めている人達はコミュニティーレベルで用意を始めています。世界規模の大きな問題が潜んでいるわけですが、日本にふるさとを持ち、家族や多くの友達がいる一個人として、今の日本の深刻な現状を深く心配しています。
「2000年問題」とは?
それではまず、まだ余り知らない方のために「2000年問題」とは、どういう問題なのかを、簡単に説明してみます。「2000年問題」とはコンピューターのメモリーの使用を減らす為に、西暦を4桁使わずに2桁で扱うことによって起こる問題です。現在ほとんどのコンピューターでは、「1999」は「99」と記憶されていますが、2000年の元旦に「2000」を示すために「00」と成ります。これがなぜ問題かと言うと、「00」が示されたとき、コンピューターのプログラムは様々な反応を起こす可能性が有るからです。あるコンピューターは「1900年」と読むために間違った計算や操作をする可能性があります。また他のコンピューターやマイクロチップは勝手に操作をやめてしまうことも知られています。
歴史的に言うと、Y2Kは10年近く前に認識され始めました。でも、ほんの2−3年ほど前までは、「コンピューター・バグ」(コンピューターのエラー)と呼ばれ、問題規模の小さいものだと考えられてきました。しかし最近に成って、この問題はたコンピューターのメイン・ソフト等だけのものでなく、世界中に散りばまっている莫大な量のコンピューター・チップ等の問題でもあることが分かり、「コンピューター爆弾」とあだ名されるようになりました。そして問題点が明らかになるにつれて、Y2Kはテクノロジーでは解決出来ないテクノロジーの問題であることが分かってきたのです。
現在、世界中に約10万のメインフレーム、約3億のパーソナル・コンピューター、そして250から500億の埋め込まれたコンピューターチップが有ると言われています。その中でY2Kに反応するものは(時間や年代の機能を持つもの)
0.1から3パーセントと推測されているが、1パーセントで計算しても2億5千万から5億のチップが問題を起こす計算になります(Note 1)。コンピューター産業研究所のガートナー・グループは、世界規模では1800億のソフトウェア・コードを調べなければならない、とのレポートも出しています(Note 2)。
これらの膨大な数で明らかなように、問題を起こす可能性のあるものを2000年元旦までに全て見つけて直す事は、時間的にも労力的にも完璧に無理なのです。コンピューターのソフトを書き直すことの難しさと時間と労力の掛かりようは、プログラミングを少しでも知っている人には歴然ですが、コンピューターのチップのほうが一段と対処しにくいのです。コンピューター・チップはほとんどの場合埋め込んであり(そのため「埋め込みチップ」と呼ばれる場合が多い)、問題のあるチップを探し出すだけでも相当な時間と労力を要します。その上実際取り替えるとなると、コスト、技術、そして時間の問題が起こります。もちろん問題を起こすチップやメインフレームの中で重要な役割を担っているものは限られているとしても、現在のコンピューター社会は複雑に繋がり関わり合っているために、少数のチップの問題が膨大な問題を起こす可能性が非常に大きいのです。
でも「99」が「00」に代わり、コンピューターが誤作動することによって起こりうる問題が、なぜそれほどの深刻なものになる可能性が有るのでしょうか? その理由の一つは、問題の起こりうるソフトやマイクロチップが、私たちの生活の基盤となるような機能に相当な量で関わっているからです。通信、交通、流通、金融、教育、情報管理、農業、経済、金融システム、医療、電気・ガス・水道、防衛等々、コンピュータ化された社会では生活に関するほとんど全ての分野に関連しているのです。アーリントン・インスティチュートのジョン・ピーターソンによると、アメリカ人の生活は朝起きてから昼頃までに平均70個のコンピューター・チップに関わっているとのことです。これは日本人にも当てはまり、東京など大都市に住んでいる人達はこの数を相当超えるだろうと想像されます。
もう一つの理由は、私たちの社会のシステムは非常に複雑であり、ほとんど全てが関わり合いながら機能していることによります。これは一見良いことのように思えますが、実は非常に問題が多く、そのシステムの一部が故障したり、誤作動するとそれに関わる全てが影響を受けるのです。例えば、最近こちらサンフランシスコで、丸1日にわたって電気が止まってしまいました。これは有る技術者が一つの電源のブレーカーをオンにすることを忘れたために起こったのですが、そのためにほとんどサンフランシスコの町全体のブレーカーに影響を与え、それをもとに戻すまでに1日かかったのです。もちろん、電気が来なくなったために、ビジネスも交通もコミュニケーションもほとんど全て麻痺しました。この場合はコンピューターの問題で起こったものでは有りませんが、これはほんの小さな問題がどれ程広範囲に影響するかという良い例だと思います。
2000年問題が一人一人の問題であり、また同時に大規模の影響を及ぼす可能性まで有ることのもう一つの理由は、世界中の様々な所で、様々な形で、そして同時に問題が起こると予想されるからです。2000年の1月1日以外にも問題を起こす可能性の有る日付は幾つも有るのですが、それらも基本的には多くのコンピューターやチップの誤作動が同時に起こると考えられるのです。ですから、もし一つの会社が完璧なY2Kの用意を出来たとしても、その関連の会社が問題を起こしたり、水道や電気のシステムなどが問題を起こせば大きな影響を受けてしまうのです。これは個人のレベルでも、企業のレベルでも、国のレベルでも同じ事が言えるのです。
日本の食べ物の流通システムを例にとってもう少し考えてみましょう。日本の場合、食の自給率が非常に悪く40%ぐらいである事が知られています。ですから、日本人の食べる半分以上が海外から運ばれてきているわけですが、もしオイルの産地である中近東の国が問題を起こしたらどうでしょう?もちろんガソリンの供給が不十分になり、運搬のためのトラックなどが走らなくなってしまいます。あるいは国内で電気の供給がストップするようなことが起こったらどうでしょうか?もしガソリンがどうにか保てたとしても、電気が来ていないとポンプが動かなくなり、車が動かなくなってしまいます。電気が来ないとコミュニケーションが出来なくなります。そして、大手企業の場合全てコンピューターで産物などの流通を制御していますから、トラックが動いたとしても配達が無理になります。国内での生産も海外の資源などに頼っている場合が多いですから(例、化学肥料や農薬)、もし海外からの資源の流通が停滞したり停止すると大変です。こんな風にいくらでも問題点をリストすることが出来ますが、同じ事が社会の全ての範囲に起こりうるのです。
2000年問題によって何が起こるのでしょうか?
「2000年元旦、そしてそれ以前とそれ以後に何が起こるかは、あまりにも関連する要素が有りすぎて、誰にも分からない」と言うところがY2K専門家の共通した意見です。もしかしたら、限られたコンピューターや会社の問題にとどまり、しばらくの流通などの停滞以外は問題なし、と言う程度にとどまるかもしれません。または世界のさまざまな箇所で問題が起こり、何週間から何ヶ月にわたる社会活動の停止状態に陥るかもしれません(例:資源流通の世界的な停滞や停止などによる食料などが届かなくなる状態)。また、最悪の状態としては、オイル・タンカーの座礁、原子力発電所や原子力兵器の事故、世界規模での飢餓、猛毒の化学物質や汚染物の放出等、想像を絶するような状況さえも起こりうるとされています。
最近行われた「第三回コンピューター西暦2000年問題に関する顧問会議」(平成11年1月22日)では、小渕内閣総理、古川内閣副長官、竹島内閣内政審議室長なども出席しましたが、公文俊平国際大学教授は「今分かっている限りでももう既に問題の深刻さが相当な所であると断言しても良いと思う」との報告をしています
(Note3)。また、アメリカでもY2Kに関しては信頼のおける情報を提供しているアーリントン・インスティチュートは、どの様な状況が展開するかは確定できないにしても「とても大きく、大規模な範囲で、苦しい」状況におちいる可能性も有ることを知らせています(Note4)。その上、世界的にも権威のある経済学者のエドワード・ヤアーデニ博士は(Dr. Edward Yardeni:Chief economist of Deutsche Morgan Grenfell)、70%の可能性で世界的な大不況になるとの予想をしています。
アメリカのようにY2Kに関して相当用意が出来るとされている国でさえも、多くの会社や公共のシステムは十分に用意が出来ない可能性が高まっています。例えば、今年二月のアメリカの上院議員会によるY2Kに関するレポート(
Note 5)では、アメリカ国内でも様々な分野でのY2K対応が遅れているため、非常に深刻な状態になるであろうとの警告がされています。特に、このレポートの中心人物であるベネット上院議員とクリストファー・ドッド上院議員は、この国家規模のレポートをもとに、2000年問題は「世界規模での危機」であり、「アメリカにかつて無かった一番深刻で破壊的な可能性をひめた出来事である」、「そして、私たちにとって何よりも優先するべき課題である」と呼びかけました。
現在、アジアの様々な国も含めて、Y2Kの準備を十分にしていない国は多くの被害をこうむり、経済的にも大きなダメージを受けるだろうと予想されています。上記したアメリカ上院のレポートにも、海外の投資と多国籍企業に経済を頼る国が一番ダメージを受けやすいとされ、国レベルでの準備が不十分で経済や社会の混乱が起こると予想された場合、大会社が投資やビジネスを引き上げる可能性があることを予想しています。実際、ウォールストリート投資銀行は、Y2Kによる日本経済のダメージの可能性を予想して、日本との取引を取りやめる計画を進めているとの報告も有るのです
(Note 6)。
その上、アメリカの大手の会社も膨大なお金と技術者を使って対応しようとしてきてはいますが、2000年1月1日の「妥協の利かない締め切り」(
Non-negotiable Deadline)までに間に合わない予想をしている会社が多いのです。また、例外として少数の大会社(石油会社のシェブロン他)が公式に「時間切れ」を認め始めてはいますが、生き残るためにこの深刻な問題を公表していない会社が大多数で、中小企業はY2Kに関して何もしない予定の所も多いとの調査の結果も出ています。
アメリカは世界でも一番コンピューター化され、複雑な流通システムなどを持つ国であるため、全てにわたって非常にもろい社会でもある事が今回の2000年問題で浮き彫りになってきました。全てのシステムが複雑に関わり合い、効率を高めるために人間の操作を減らし、本来必要であるその重複性を無くしてしまった社会にとって、Y2Kという問題は社会の根底までも揺るがし、そこに住む一人一人に大きな影響を及ぼそうとしているのです。これはもちろんアメリカに次いで二番目にコンピューター化され、仕組みが非常に複雑に成ってしまっている日本社会にも、そのまま当てはまるのです。
それでは日本の現状はどうなのでしょうか?
ガートナー研究所のランクづけでは、アメリカ、オーストラリア、英国、デンマーク、カナダ、ホーランド、スイス等が「
A」のランクに入れられ、Y2Kに関する準備が比較的に良くできているとされています。その次のランク「B」には、ブラジル、ニュージーランド、メキシコ、スペイン、等があげられています。そして、日本のY2Kに関する用意は第三ランクの「C」とされ、中国やロシアなどに比べると良いにしても、ドイツやフランス等と共に深刻な状態であるとされています(Note 7)。
そして、アメリカ上院議員会によるレポートにも、アメリカにとって大切な経済パートナーである日本とベネズエラは、Y2Kの対処に要する時間と金銭を誤算し十分な用意が出来ていないことも警告されています。実際、アメリカでの対応予算が98年の8月から99年1月までに約10億ドル増額されているに対して、日本では予算要求額が、昨年248億円だったのが、本年平成11年
2月には55億円少ない193億円に修正されている事実もあるのです (Note 8)。
そういう状況のなかで、日本の一般人の人達はまだまだ十分な情報を得る機会を持たず、専門家が何とかするだろう、等といった感じが多いようです。これは2000年問題がまだ単なるコンピューターの問題でしかないと考えている場合が多いからのようで、有る程度知っている人でも、発電器を買うこととか食べ物をどの様に保存するかくらいの問題意識と対処に関する知識しか無いようです。アメリカでさえ政治や経済の事を優先させているため、まだ十分な情報提供はされていない状態ですが、日本の現在の経済状態や社会の様々な問題を考慮すると、日本の2000年問題に関する問題と課題は想像以上かとも思われます。
私も「世界規模の危機」状態であると感じている一人ですが、特に日本の状態は心配です。しいて言えば、高度にコンピュータ化された社会でありながら用意が遅いこと、非常に限定された情報しか提供されていないこと、都会の人口密度が非常に高いこと、小さな島でありながら所狭しと原発が有ること(53基)、有害な薬物や化学物質を扱う工場が多く有ること、資源はもちろんのことエネルギーまでほとんど海外に頼っていること、食料の自給率が非常に低いこと、陸が少ないため非難する地域が限られていること、等々ざっと書き出しただけでも、相当な危険要素が山ずみです。インフラストラクチャー(水、電気、流通等を含めた社会の骨組み)が壊れると、大都会は死のゾーンになるだろうとも言われているだけに、日本は今非常に危険な状態に有ると思れるのです。
何が出来るのでしょうか?何をするべきなのでしょうか?
何もしなければ、最悪の場合、今ある文化の崩壊や、世界規模の飢餓等さえも起こりうると言われています。その反対に、素早く、大規模に、コミュニティーや社会のレベルで取りかかっていけば、惨事を免れる可能性が高まると考えられています。また、いま我々は非常に繊細で危険な状態にいながら、こうして一つしかない地球環境を破壊しながら突っ走っている社会を、継続できるコミュニティ(環境と調和のとれた社会)に変えていくことの出来る偉大なる機会を迎えている、と言う風にも考えられています。
(Note 9)
それでは、2000年迄限られた時間しかもう無いわけですが、「素早く、大規模に、コミュニティーや社会のレベル」で用意をしていくにはどの様にすれば良いのでしょうか?
まずは、早く正確で役に立つ情報を得て、皆で現状を正しく把握することが先決です。こちらカリフォルニアでも、少しずつ勉強会やサポートのサークルが出来たりし始めていますが、日本でもなるべく早くそういった形の情報の場、そしてサポートの場が作られていくことが必要です。そういった場などを生かしながら、皆で速急にY2Kに関する状況を正しく把握し、コミュニティーレベルでY2Kによる被害や惨事の対処の方法やプランをしていくことです。そして、国や自治体などがY2Kに関する用意をもっと積極的に、そして協力的にしていくことを出来るだけ早く要求することも大切です。これには原発や化学工場などのY2Kに関する対処のレベルや、安全対策に関する調査やレポート等を求めることも含まれるでしょう。自分たちのコミュニティーの安全は自分たちで確保しなくてはならないのです。
Y2Kの情報をむやみに提供するとパニックに成ると心配する人も有ります。確かに、あまりにも深刻な情報ですから、パニック状態が起こる可能性もあります。しかし様々な理由をもとに、正しい情報をなるべく早い内に提供することが大切である、と言うのがY2Kを良く知る専門家の共通した意見です。国際大学の公文教授もその一人であり、「むしろパニックは起こっても当然であるから、出来ることなら軽い目のパニックを早めに起こしておく方がよい」とも「実際に何も情報を提供しないでおいて人々がショックを受けたときには、怒りと共に陥るパニックの度合いを確実に高める」とも意見しておられます。
ここで強調すべきことはコミュニティー・レベルで準備をすることの大切さです。もちろん個人的や家族のレベルで基本的な緊急食料や水などの確保をすることも大切ですが、なるべく多くの人がしっかりとサポートしていける形を作っていかなくては、様々な問題が起こってきます。もし人々が個人主義またはサバイバル的(自分の生存を守る事を中心にしたあり方)なアプローチをとると、非常に困難な状態に陥る可能性が高まるのです。例えば、銀行のコンピューターが問題を起こす可能性を聞きつけて、お金が引き出せなくなる事を心配して、多くの人が銀行から現金を引き出すと、銀行や金融システムが破綻する可能性がでてきます。または、みんなが過度の保存食、水、ストーブの灯油等を買いだめし始めたら、一気に値段が跳ね上がったり、足らなく成ってしまうでしょう。一人一人が自分だけを守るような事を始めてしまうと、コンピューターやチップが実際に問題を起こさなくても、社会全体の心理状態が異常をきたしパニック状態が起こってしまいます。
また、もし実際に長期にわたって生活の基本となる物の流通などが停滞したり停止した場合、やはりコミュニティレベルで用意出来ていないと、恐ろしい状態になる可能性が出てきます。例えば、一つの家族が十分な食べ物やソーラーエネルギーでの電気等を確保していたとしましょう。でも、もし周りの人達が十分な用意が出来ていなければ、この家族は持っていない人達のターゲットになってしまうでしょう。そして盗まれたり、略奪されないように、柵やゲートを持たなくてはいけないかもしれません。人を信用できなくなり、自分や家族を守るために非人道的な態度を保たなくてはならないかもしれません。もっと極端な状態では、無法でモラルの全くなくなった状態が起こり、暴力などによってのみ社会が動くような状態まで考えうるのです。アメリカは拳銃等が購入出来るために、Y2Kの準備として拳銃などを用意している人もいると聞きますが、これはサバイバル的用意の典型であり、状況を悪くするだけなのです。
その反対に、コミュニティレベルで用意が出来ていると、相当難しい状態がY2Kによっておこったとしても、十分に乗り越えることが出来るでしょう。ここでは、実際にどのようにコミュニティを作るのか等については詳しくかけませんが、コミュニティとして対処していくとき、一人や家族単位では出来ないことが可能になります。限られた資源や道具も旨く使いあうことが出来ます。一人一人の特性を生かして様々な役目をすることにより、よりよい生活環境を作ることが出来ます。例えば、大工仕事が出来る人達は、必要な道具や施設を作ることが出来るでしょう。薬草や医療に詳しい人達は、コミュニティの健康維持に貢献する事が出来ます。そしてコミュニティがしっかりと維持出来ているほど、皆の安全やモラルを無理無く保つことが出来るのです。これは、一人で全ての物を担いで険しい山に登ろうとするのと、多くで役目を分担して助け合いながら登るのとの違いに似ています。その二つのアプローチの違いは、サバイバル的な方向は誰もが「損」をし、コミュニティ・アプローチではそれに関わる全ての人が「得」をするということです。
Y2Kの準備と対処に関して知っておくべきことは?
最初に、Y2Kにより起こりうる惨事は天災での状況とは違う面が有ると知ることが必要です。その違いのために、天災等のための情報や対処方法をそのまま当てはめてY2Kの準備をしょうとすると、不十分なものになる可能性が出てくるのです。例えば、アメリカの赤十字社も自分たちの天災などの救助活動の経験等をもとに情報を提供していますが、緊急対処を基本にした物であるため、長期の問題やコミュニティレベルでの対策法などには触れていません。
また、コオ・インテリジェンスのトム・アトリーは、Y2Kによる惨事と天災との違いを説明しています。彼によると、天災は 1)局地的であり、2)一時期のものであり、3)ほとんど警告なしに起こり、4)「神の行い」である、と説明しています。そして、Y2Kによる惨事は、1)世界規模で、2)長期であり、3)予想されて起こり、4)人間のしたことであるために人を責めたり、やり玉に挙げたりする事になりうる、とリストしています。(
Note 10)
日本では阪神大震災での経験がありますが、Y2Kに関しては上記のような違いをふまえて対処していくことも大切だと思われます。例えば、大震災では災害は大きかったにせよ、局地的なダメージでしたから、損害を受けなかった所からの援助を受けることができました。しかし、Y2Kによって惨事がそれぞれの町や都会で起こるとしたら、そのような援助を受けられない可能性が有るのです。
もう一つ大切なことは、なるべく事前に十分な用意をすることです。用意が出来ていればいるほど、問題が実際に起こった時に対処しやすいのです。アメリカ赤十字の会長エリザベス・ドールは、惨事が起こってしまってからでは新しい人間関係や組織を作ることの難しさを強調していますが、とにかく出来る限りみんながコミュニティとして助け合いながら行動を取れるように用意をすることが必要です。例え十分に準備が出来ていなくても、事前に皆がコミュニティとしてのつながりを持っているだけで、相当対処の仕方が違うという事実が、過去の緊急事態の経験から分かっているのです。
また、自分たちがしっかりと現状を把握し準備をしていくんだ、という自立した態度を持つことも大切です。誰かがやるだろう、政府や自治体がやるだろう、と安易に構えることは状況を悪化させるだけです。分からないことが多すぎる上に、様々な絡み合った政治や経済の理由で、政府や自治体の準備が遅れたり十分出来ない事になる可能性は非常に高いのです(このあたりは、日本に住む皆さんの方が良く知っているでしょう)。自分たちでY2Kに対する準備を始め、政府や自治体に情報やサポートを正しい形で要求しながら、様々なレベルでのネットワークを広げることが要求されています。
コミュニティ作りやコミュニティ・レベルでの準備はどのように?
コミュニティ作りや準備に関しては、住むところの生活環境、社会状況、ネットワークの有無等、さまざまな要因によって影響されるでしょう。でも一番身近な所では、近所の人達に話しかけていき、情報を提供し交換をするところから始めることでしょう。もう現在良い近所つき合いが有る場合は、もちろんそれを生かしてもっと援助し会合えるネットワークを作り、実際にどの様にみんなで準備をしていくかを話し合っていくことが出来ます。もし、近所つき合いがなくても、簡単なチラシなどを使ったりして、少しずつ情報の提供をしたりしながら近所のつながりを作っていくこともできます。今まで近くに住んでいながら知り合うことの出来なかった人達と出会うことも楽しいものです。今まで複雑化した社会のペースに流されて、忘れ去っていた近所つき合いや仲間意識を取り戻すような感じです。近所以外にも、同好会や草の根グループなどに参加していれば、そこを中心に話し合ったり活動していくことも良いでしょう。
私はバークレイで「地球の集まり」という会に参加していることを書きましたが、現在その会友たちとY2Kに関する情報の交換をしたり、サンフランシスコの日本人のコミュニティで講演したりしながら情報を提供したりしています。この会はY2Kの事以外にも、食事に関する集いを定期的にしたり、リサイクルや堆肥の作り方などを学んで実践するような集まりをしたりしています。そしてコミュニティにとって役に立つことを無理なくやって行こう、と言った感じですから、Y2Kに関する活動やコミュニティへのサポートも自然発生的な感じで起こっています。こういった会のあり方などをもっと知りたい方は連絡してください。なるべくこちらから日本の人達のサポートに成りたいと願っていますから、お手伝いします。
草の根グループ達の役割、そしてグローバル・ネットワークによる活躍
Y2Kの準備に関して、草の根グループの大切な役割は言う必要も無いほど明らかです。正しく役に立つ情報やサポートをコミュニティに提供したり、町や村レベルなどの準備に関して率先して動いていくことが大切です。そして、もう一つのレベルとしては、現在日本に存在する全てのグループ(非営利団体、非政府団体、草の根グループ、学生グループ、同好会、等々)が協力しあう形だと思います。なるべく多くのグループが一つのネットワークとして動き、市民運動としてのY2Kの情報を与えたり、準備の援助をしていく形です。それは一つには全く時間が足らないということが大きな理由ですが、これにはもちろん環境のグループも、子供の教育に関るグループも、もちろん反核に関するグループも全てが含まれます。このあたりに関しては大きな規模で草の根コミュニティーを促進することを目的とされたグローバル・アクション・プランが参考になるかもしれません
(Note 4)。
アメリカでも環境保全団体等はY2Kに関して非常に遅れをとっているそうですが、Y2Kはコンピュータの問題であり、環境とは関係ないと思われていたからでしょう。とにかく、このY2Kというとんでもないものは全ての全てに関わってくるので、そのあたりをしっかり強調して、大きなネットワークを作り、一丸となってコミュニティを援助していく方法をとることが必要だと思われます。これはもう、テクノロジーの問題でもなく、環境の問題でもなく、核の問題でもなく、政治や経済の問題でもありません。これは、全世界の人に関わることで、「全ての問題」です。興味や分野などの壁を全て取り払って協力することが求められるのです。
現在、私は日本の市民運動などに関わっている人達に呼びかけを始めています。出来るだけ早くフォーラムかコンフェレンスのようなものを様々な所で持てないかと相談しています。これは、出来るだけ多くの人達が(草の根も、政治家も、一般人も、コミュニティーのリーダーも)集まって、最大限に学びあい、ネットワークを即座に作れるような機会が今必要だと思うからです。ぜひ貴方も周りの人やグループに呼びかけを始めて下さい。私達の方からも情報提供など、出来るだけ手伝わせていただきます。
継続できる社会への転換の時を迎えて
ここまで読まれて、「信じられない、とんでもない、無理だ」なんて思われるかもしれません。不安や心配で一杯になった人もおられるでしょう。私も、初めてY2Kの深刻さを知ったときは世界が崩壊するかのような恐ろしさと、今まで私達が築いてきた全ての物まで無駄になってしまうのではと想像すると、胸が破裂するような気持ちでした。でも「妥協の利かない締め切り」(
Non-negotiable Deadline)がもうあと10ヶ月程で来てしまいます。今も、世界中の時間の機能を持ったマイクロチップやソフトが、一斉に2000年に向けて時を刻んでいます。時間がたてばたつほど、対処する時間と出来ることの選択肢が減っていっているのです。自分の気持ちを素直に受け止めることによって心理的ショックを乗り越えていくことは必要ですが、と同時にもう躊躇したり人に任せておく時間は残っていないのです。
また2000年問題は、これからの日本や世界の在り方を大きく変えて行くだけの出来事であり、大きな機会でもあると確信しています。このままの社会の在り方で進むと、もう相当壊れてしまっている地球環境が、全く生存不可能な状態になることは明らかになってきてるわけですが(それもこの20−30年の間に)、この機会に本当の意味で継続出来る社会(
Sustainable Community) にトランスフォーム(転換)出来る機会でもあり、しなければならない時でもあると思われるのです。そういった見地からみると、私達は非常に大切で素晴らしい時期にいることになります。
もちろん、全てが出来るような時間はもうありせん。2000年迄に新しい社会を作ることは不可能です。でも、「精一杯出来るだけする」時間はあります。そして、もしY2Kという世界的な「津波」あるいは「ハリケーン」が来ても、日本のコミュニティーが良い方向に転換していく為の流れは作って置くことが出来ると信じています。今こそ一人一人の知恵と能力を働かして、即座に動かなくてはなりません。どうぞ今こそ、あなたの、そしてあなたの仲間の知恵と能力を働かせて下さい。
連絡先
中川一郎
地球の集まり(Earth Gathering)1407 Addison Street, Berkeley, CA 94702
Tel (510) 848-9497 Fax (5100 841-1105
E-mail;
jyoraku@earthlink.net
Endnotes
Y2K
Resource List
ウエブサイト
http://www.y2kjapan.com/jp/index.asp
http://www.kantei.go.jp/jp/pc2000/index.html
http://www.mha.go.jp/2000.html
http://www1.nikkeibp.co.jp/NMM/worldwatch/1999/aw199902.html
http://www.redcross.org
http://
www.earley.orghttp://www.y2k.gov.my/index.htm
http://www.ncb.gov.sg/ncb/yr2000/y2k/index.html
文献
Y2K Citizen's Action Guide: Preparing yourself, your family, and your neighborhood for the year 2000 computer problem and beyond
, Utene Reader, 1998 (www.utne.com/y2k)