「主権在民」の基盤としての市民の政策、法律づくり

  私は市民が政策をかたちづくってもつべきだと考えている。 地域のゴミ対策についてだけではない。有事法制についても、日米関係にかかわっても。 場合によっては、政策を法律として成立させ、政治の場で実現させる。 こうしたことがあってはじめて、「主権在民」の民主主義政治は実現する――そう私は考えている。

  市民が政策をもてば、政府の政策、政党の公約、政治家の「マニフェスト」に是は是、非は非として自由に対していける。 市民に自らの政策がなければ、政治のそのときどきの都合に左右される。 たとえば、総選挙用にすえられた若手幹事長の人気によって、 あるいは政党の「野合」めいた突然の合併によって―― こうしたことは「政党政治」であっても、決して「主権在民」の民主主義政治ではない。

  市民の政策づくりにつながる市民の法律づくりについてはどうか。 政府の役人が議会を使って法律をつくり、市民に強いる政治は「議会制民主主義政治」を標榜しても、 「主権在官」の政治ではあっても、もちろん、「主権在民」の政治ではない。 与党の数にまかせての立法による政治も「主権在民」の政治ではない (この場合の決まり文句は「文句があるなら、次の選挙で決着をつけろ」)。 多くの人の反対を無視して与野党合意してやってのけた有事法制づくりも、 民主主義と自由の根幹にかかわる「愛国法」を賛成多数ですぐさま成立させた民主主義と自由の本場の、 そうあったはずの国の政治も「主権在議員」であっても「主権在民」の民主主義政治ではない。

  こうした危険をいち早く察知していたのが、中国革命の立役者・孫文だった。 彼の政治原理は「民族」「民権」「民生」の「三民主義」だが、「民権」は彼によれば「民」が政治を管理することだった。 その政治は「立法」「行政」「司法」の三権に「考試」「監察」の二権を加えた「五権憲法」の政治だが、この政治を管理するのが 「民」の「選挙権」「罷免権」「創成権」「複決権」の四権だ。この四権がないと、 「民」は政治を管理することができず、政治は独走して何をやらかすか判らない。 今スイスの「民」は「罷免権」を除く三権を持つが、あとは世界各国の「民」はようやく「選挙権」をもつに至っただけで、 これでは「主権在民」の民主主義政治は行われていないことになる。孫文はそう説いた。

  「罷免権」は「民」が無能、不正役人をやめさせる権利である。「複決権」は「民」が悪法を変え、やめさせる権利。 「創成権」は「民」が必要な法律をつくる権利――「選挙権」にこの三権を加えて四権を「民」がもたない限り、 「主権在民」の政治はない。「選挙権」ひとつをもつだけでは民主主義政治はあり得ない。孫文はそう手きびしく主張した。

  私は次の体験をもっている。八年前、一九九五年の「阪神・淡路大震災」にかかわっての体験である。 兵庫県西宮に住む私も被災者のひとりだが、政治の側の無為無策、無責任は目に余った。 それは被災者がもっとも必要とした公的援助を一年経ってもまったく行わなかったことに端的に出た。 私は仲間の市民とともに九六年、まず、公的援助を求める政策をつくり、その実現を求めた。 しかし、政治は動かなかった。そして、言った。「法律がない」。それなら私たち市民の側で法律をつくろう ――実際、私たちは法案を作った。しかしこの国の今の制度では、「市民法案」はそのまま法律にはならない。 私たちは法案を議員に送り、この「市民法案」に賛同する議員と共闘する「市民=議員立法」運動を二年余にわたって展開して、 私たちの「市民法案」はそのままのかたちで法律にならなかったが、それがキッカケとなって、 九八年、不十分ながら公的援助の法律はでき上がった。先日の十勝沖地震の被災者にも、 この法律に従って曲がりなりにも公的援助はなされるはずだ。

  この過程のなかで、新しい「主権在民」の政治のかたちが見えて来た。 今、市民がAという問題について政策をつくり、それを法案として「市民=議員立法」のかたちで実現をはかるなら、 そこにおのずとでき上がるのは「A市民=議員立法」党だが、同じようにB問題について、C問題について、 「B市民=議員立法」党、「C市民=議員立法」党ができ上がる。市民も議員も同じ人がいつも同じ党のなかにいるとは限らない。 問題によって、法案によって、A党にいたのがB党に移り、C党の人がA党に乗る。 この移動は、自民党、民主党、自由党という議会のなかのタテ割りの政党政治の固定した構造をヨコの動きでぶち破って政治を活性化し、 より「主権在民」の政治に近づける。

  私は今、地元の三つの場所で三つの種類の市民の政策、法律づくりにとりかかっている。 一つは被災地芦屋で、有事における市民の人権と「民権」に基本をおいた「市民安全法」 (連絡は電話0797・38・2585へ)。ついで、大阪ではより広範囲な問題での政策、法案づくり(0729・98・1113)。 三つ目は大阪大学大学院国際公共政策研究科の特殊講義「現代政策論」において(担当・木戸助教授 06・6850・5628)。 これはことばをかえて言えば、「主権在民」の政治の基盤づくりだ。参加歓迎。

西雷東騒(2003年9月30日付け毎日新聞・東京版)より