平成八年(行ケ)第二号
職務執行命令裁判請求事件

    被 告 第 二 準 備 書 面

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平成八年(行ケ)第二号
職務執行命令裁判請求事件

                    原 告   内 閣 総 理 大 臣
                          橋  本  龍 太 郎

                    被 告   沖 縄 県 知 事
                          大  田  昌   秀
 

    被 告 第 二 準 備 書 面
 

一九九六年八月三〇日
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                        右被告訴訟代理人
                         弁護士  中 野 清 光
                          同   池宮城 紀 夫
                          同   新 垣   勉
                          同   大 城 純 市
                          同   加 藤   裕
                          同   金 城   睦
                          同   島 袋 秀 勝
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                          同   仲 山 忠 克
                          同   前 田 朝 福
                          同   松 永 和 宏
                          同   宮 國 英 男
                          同   榎 本 信 行
                          同   鎌 形 寛 之
                          同   佐 井 孝 和
                          同   中 野   新
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                          同   宮 里 邦 雄

                    右被告指定代理人  又 吉 辰 雄
                          同   粟 国 正 昭
                          同   宮 城 悦二郎
                          同   大 浜 高 伸
                          同   垣 花 忠 芳
                          同   山 田 義 人
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                          同   比 嘉   博
                          同   兼 島   規
                          同   比 嘉   靖
                          同   謝 花 喜一郎

福岡高等裁判所那覇支部 御中

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   目   次

第一 本件における裁判所の審埋の範囲について ・・・・・・・・・・・・・・一
 一 砂川事件の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一
 二 破棄された東京地裁判決の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二
 三 最高裁判決の検討と高裁判決批判 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・五
 四 最高裁判決の述べる司法審査固有の審判権の限界の意味 ・・・・・・・二二
 五 高裁判決に対する判例評釈 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二四
第二 駐留軍用地特措法の法令違憲性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・三四
 一 憲法前文、九条、一三条の平和主義―平和的生存権の侵害 ・・・・・・三四
  1 平和的生存権誕生の歴史的背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・三四
  2 国際社会と平和的生存権 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三八
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  3 日本国憲法と平和的生存権 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・四〇
  4 平和的生存権の具体的権利性、裁判規範性 ・・・・・・・・・・・・四八
  5 平和的生存権の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・五七
  6 平和的生存権の直接的侵害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・六〇
  7 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・六二
 二 憲法二九条違反 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・六三
  1 財産権保障の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・六三
  2 駐留軍用地特措法の財産権制約目的 ・・・・・・・・・・・・・・・六五
  3 制約が必要最小限度か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・六九
  4 米軍の駐留目的と米軍基地の実態―立法事実論 ・・・・・・・・・・八四
  5 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・八九
 三 憲法三一条違反 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九〇
  1 土地収用法一八条について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九〇
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  2 土地収用法二四条、二五条について ・・・・・・・・・・・・・・・九二
  3 土地収用法二三条について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九三
  4 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九四
第三 駐留軍用地特措法を本件土地の使用のために適用することの違憲性 ・・九五
 一 適用違憲、運用違憲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九五
  1 適用違憲の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九五
  2 運用違憲について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九七
 二 安保条約目的条項を逸脱する米軍の駐留の憲法九条、前文への違反 ・一〇一
  1 砂川刑特法事件最高裁判決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・一〇一
  2 憲法九条及び平和的生存権に基づく外国軍隊の駐留に対する制約 ・一〇二
  3 憲法九条及び平和的生存権に基づく日米安保条約目的条項の制約
   の存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一〇四
  4 日米安保条約目的条項を逸脱する米軍駐留の実態 ・・・・・・・・一〇五
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  5 安保「再定義」による日米安保条約目的条項逸脱の固定化 ・・・・一〇九
 三 様々な基地被害ないしその危険をもたらしている在沖米軍基地の使用
  のために駐留軍用地特措法を適用することによる平和的生存権侵害 ・・一一七
 四 憲法一四条、九二条、九五条違反 ・・・・・・・・・・・・・・・・一二一
  1 沖縄への基地集中の差別的実態 ・・・・・・・・・・・・・・・・一二一
  2 沖縄県民への差別的処遇の違憲性 ・・・・・・・・・・・・・・・一三六
  3 沖縄県に対する差別的処遇の違憲性 ・・・・・・・・・・・・・・一三七
  4 沖縄県内の軍用地についてのみ駐留軍用地特措法を適用すること
   の違憲性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一四一
 五 憲法二九条違反 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一四四
  1 公共性概念について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一四四
  2 原告の主張する公共性の不存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・一五〇
  3 本件各土地を提供することの反公共性 ・・・・・・・・・・・・・一七〇
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  4 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一八七
第四 本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一八八
 一 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一八八
 二 強制使用認定の要件について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・一八九
  1 使用認定の二つの要件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一九〇
  2 二要件に共通する「駐留軍の用に供する」ことの意義 ・・・・・・一九一
  3 「必要性」の要件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二〇二
  4 「適正且つ合理的」要件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二一〇
 三 キャンプ・ハンセンにおける本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・二二〇
 四 瀬名波通信施設における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・二三五
 五 嘉手納弾薬庫地区における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・二四〇
 六 キャンプ・シールズにおける本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・二四八
 七 トリイ通信施設における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・二五七
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 八 嘉手納飛行場における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・・二六七
 九 キャンプ瑞慶覧における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・二七六
一〇 普天間飛行場における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・・二八七
一一 牧港補給地区における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・・二九八
一二 那覇港湾施設における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・・三〇四
一三 陸軍貯油施設における本件強制使用認定の違法性 ・・・・・・・・・三一一
第五 公告縦覧代行と地方自治 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三一六
 一 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三一六
  1 公告縦覧代行義務の不存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・三一六
  2 主務大臣の処分違反の不存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・三一七
 二 公告縦覧代行の法的性格 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三一九
  1 公告縦覧の法的性格 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三一九
  2 公告縦覧代行の法的性格 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三二〇
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 三 「機関委任事務」における主務大臣の指揮監督の性格 ・・・・・・・三二七
  1 「機関委任事務」についての従来の説明 ・・・・・・・・・・・・三二七
  2 国・主務大臣と地方公共団体の長との関係 ・・・・・・・・・・・三二九
 四 地方自治の本旨に反する「機関委任事務」の執行拒否―地方自治の
  保障と知事の職務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三三七
  1 憲法による地方自治の保障 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・三三七
  2 地方自治の本旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三三九
  3 自治行政権と法令審査権 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三四一
 五 本件公告縦覧代行と違憲状態―具体的内容 ・・・・・・・・・・・・三四九
  1 住民の意思に反する本件公告縦覧代行 ・・・・・・・・・・・・・三四九
  2 住民の生活、人権、財産権、福祉(地域振興)を侵害する
   本件公告縦覧代行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三五一
 六 違法な公告縦覧申請及び代行申請 ・・・・・・・・・・・・・・・・三五四
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  1 無効な立会・署名に基づく公告縦覧手続の違法性 ・・・・・・・・三五四
  2 地籍不明地に対する公告縦覧手続の違法性 ・・・・・・・・・・・三五四
第六 職務執行命令訴訟の意義と地方自治法一五一条の二の要件欠缺
  について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三五七
 一 職務執行命令訴訟の意義と裁判所の審査権 ・・・・・・・・・・・・三五七
 二 審査権についての原告主張に対する反論 ・・・・・・・・・・・・・三六二
 三 公益侵害の不存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三七七

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第一 本件における裁判所の審査の範囲について
 一 砂川事件の概要
   沖縄の米軍基地をめぐる職務執行命令訴訟にたずさわる者にとって今や周知と
  なった、貴重な先例として砂川事件がある。その事件の概要は、次のとおりであ
  る。
   米軍立川基地(当時)を拡張するため、東京都北多摩郡砂川町(現立川市)の
  土地を収用する目的で、東京調達局長(現防衛施設局長)が駐留軍用地特措法と
  土地収用法による所定の手続を経た後、東京都収用委員会に対して裁決の申請を
  した。
   そこで同収用委員会は、土地収用法の規定に基づいて裁決申請書や添付書類の
  写を砂川町長に送付した。
   土地収用法によると、市町村長はこれらの書類を受け取った時はただちに、裁
  決の申請があった旨及び収用の対象となる土地の所在・地籍・地目などを公告し、
  公告の日から二週間その書類を縦覧に供するとともに、公告の日を収用委員会に
  報告しなければならないことになっていた。しかし、砂川町長は、基地拡張反対
  の立場からこうした手続を拒否したのである。
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   そこで東京都知事は地方自治法一四六条(現在削除、現一五一条の二に相当)
  各項に基づいて、指定期限内に右の手続を履行するよう文書で命令したが、町長
  は履行しなかったので、東京地裁に職務執行を命令する裁判を請求する訴えを提
  起したのである。
 二 破棄された東京地裁判決の内容
  1 周知のとおり、砂川事件の一審の東京地裁判決は東京都知事を勝たせ、砂川
   町長に職務執行を命じた。町長は最高裁判所に上告し、最高裁はこの上告を容
   れ、右東京地裁判決を破棄し、事件を東京地裁に差し戻した(一九六〇年六月
   一七日第二小法廷判決。民集一四巻八号一四二〇頁。判例時報二二七号七頁。
   以下、「最高裁」判決という)。
    そこで、右東京地裁判決の構造を検討し、それと最高裁判決とを対比するこ
   とによって、最高裁判決の論理を明らかにし、いわゆる代理署名訴訟について
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   言渡された福岡高等裁判所那覇支部一九九六年三月二五日判決(以下、「高裁
   判決」という)が最高裁判決の論理に反するものであることを明らかにする。
    なお、最高裁判決による差戻後の東京地裁判決は、再び都知事を勝たせた。
   この判決は確定したが、それには、「差戻審中における宮崎町長の死去、新町
   長による不上告、という経緯となった。」(兼子仁「自治体法学」学陽書房一
   一五頁)という事情がある。
  2 最高裁判決によって破棄された東京地方裁判所昭和三三年七月三一日判決
   (判例時報一五九号四六頁。以下、「破棄された東京地裁判決」という)は、
   次のように判示している。
    「町長は国の機関として処理する行政事務については都知事と上命下服の関
   係にたち、上級機関である都知事の命令に拘束されると解すべきである。それ
   故町長は都知事の職務執行命令に対してはそれが形式的要件(当該命令が所定
   の方式を具備すること、都知事が当該事項につき命令権を有すること又は命令
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   事項が町長の権限内の国の事務に属することその他の要件)を欠き又は不能の
   事項を命じている場合等を除き、その命令に服従する義務があり、その命令が
   実質的に違憲又は違法な行為の執行を命じているとの理由でこれを拒否し或は
   無視することはできないものといわなければならない。」
    「職務執行命令訴訟制度の趣旨は・・・・・町長の権限に属する国の事務を
   強制する場合には、特に慎重を期して裁判所に関与させようとするものである
   から、いいかえれば、行政部内における上級機関の下級機関に対する監督権の
   行使方法として特別に法律が裁判所に権限を付与した本来行政に属する争訟の
   制度ということができる。それ故国の機関である町長が国の事務に関しては都
   知事の命令に拘束されること前述のとおりであるとすれば、この訴訟における
   審理の対象もまた都知事の職務執行命令の前記形式要件に関する事項以上に出
   ることは許されず、裁判所は遡って当該命令の実質的な適否につき審査するこ
   とはできないものと解すべきでる。」
  3 宇賀克也助教授は、右地裁判決について、次のように述べている(地方自治
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   判例百選(第二版)一二一頁)。
    「原審判決の結論は、以下の三つの前提の結合によって導かれている。第一
   の基本的前提は、職務執行命令を求める訴訟において裁判所が審査すべきであ
   るのは、受命機関が下命機関の当該訓令に拘束されるか否かという点であると
   いうことである。第二に、国の機関委任事務の遂行という局面に関しては、下
   命機関である都知事と受命機関である町長は、上命下服の関係に立ち、したがっ
   て、一般に下級機関が上級機関の訓令に拘束されるのと同程度に、町長は、都
   知事の職務執行命令に拘束されるということが前提とされている。そして、第
   三の前提は、下級機関は、上級機関の訓令が形式的要件を欠き、又は不能の事
   項を命じている場合等を除き、それに拘束され、当該訓令の実質的審査はでき
   ないということである。」
 三 最高裁判決の検討と高裁判決批判
  1 宇賀助教授は、最高裁判決について、解釈が分かれうるとした上で、次のよ
   うに述べている(前掲書同頁)。
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    ひとつには、原審判決の第一の基本的前提自体は是認したうえで、第二の前
   提を否定したとする解釈が成立しうる。換言すれば、国の機関委任事務につい
   ては、下命機関と受命機関の関係は、そもそも、上級機関と下級機関の間の一
   般的関係とは異なり、受命機関は、違法な職務執行命令には拘束されないから、
   職務執行命令を求める訴訟においても、裁判所は、実質的審査をなしうると解
   するのである。いまひとつは、第一の基本的前提自体を否定しているとみる解
   釈である。すなわち、訓令違反であるということと、裁判所が職務執行命令を
   発することとは、論理必然的に結びつくものではなく、国の機関委任事務につ
   いても、受命機関には下命機関の訓令の実質的審査権はないが、代行権や罷免
   権を発生させるためには、裁判所の判断を経なければならず、その際、司法機
   関である裁判所を介在させた所以は、単なる形式的審査のみならず、職務執行
   命令の適法性についての実質的審査を行わせるためであるという解釈も成立し
   うるのである。以上のうち、第一の解釈は、国の機関委任事務につき、受命機
   関にも、適法性についての実質的審査権を肯定し、その結果として、職務執行
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   命令訴訟における裁判所の実質的審査権が導かれると解するのに対し、第二の
   解釈は、受命機関の実質的審査権を否定しながら、裁判所には、これを肯定す
   るもので、職務執行命令訴訟は、受命機関が訓令に拘束されるか否かを審査す
   るものではなく、実質的にも適法な職務執行命令についてのみ、代行権や罷免
   権を発生させるための制度であるとみるものである。」
  2 二の3に述べた宇賀助教授の、破棄された東京地裁判決の分析と、右地裁判
   決を破棄した最高裁判決との関係から言って、最高裁判決は、宇賀助教授の第
   一の解釈または第二の解釈のいずれかに必ず帰着しなければならないのである。
   実際、最高裁判決は、「職務執行命令訴訟において、裁判所が国の当該指揮命
   令の内容の適否を実質的に審査することは当然であって、したがってこの点、
   形式的審査で足りるとした原審の判断は正当でない。」と言っているのである
   から、指摘命令の内容の適否について、受命機関に実質的審査権を認めるか、
   そうでなければ裁判所に認めるか、しかないのである。受命機関に実質的審査
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   権を否定し、かつ、裁判所の審査すべき対象は受命機関の審査権の範囲に限ら
   れるとすることは、明らかに最高裁判決に違背するのである。
    高裁判決が、「裁判所は、本件訴訟において、本件命令の実質的適否、すな
   わち、都道府県知事が法律上本件命令に係る事項を執行すべき義務を負うか否
   かを判断する際に、右法令により都道府県知事に審査権が付与されていない事
   項を審査して右義務の有無を論ずることはできないといわなければならない。
   これに対して、被告の審査権の範囲にかかわらずおよそ本件命令の適法性一般
   について裁判所は審査すべきであるとの被告の主張は失当を免れない。」と判
   示しながら(一九八、一九九頁。宇賀論文のいう破棄された東京地裁判決の第
   一の基本的前提である)、「特措収用法三六条五項が、使用認定に関する事務
   など元来原告において管理執行すべき駐留軍用地の使用に関する事務のうち従
   たる地位を占める署名等代行事務をこれから切り離してその管理執行を都道府
   県知事に委任するに当たり、原告が先行行為として行う使用認定が適法か違法
   か、あるいは、有効か無効かについて、改めて当該都道府県知事の判断を介入
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   させる余地を与えようとしたものとは到底解されないのであって、都道府県知
   事は審査権を有しない先行する使用認定についての違法又は無効を理由として
   署名等代行事務を拒否することは許されないといわざるを得い。」と判示する
   のは(二〇九、二一〇頁。宇賀論文のいう破棄された東京地裁判決の第二の基
   本的前提である)、明らかに最高裁判決に違背するのである。
    裁判所の審査の対象を受命機関の審査権の範囲に限定した上で、受命機関の
   実質的審査権を否定するのでは、最高裁判決が、「裁判所が国の当該指揮命令
   の内容の適否を実質的に審査することは当然であ」る、と宣した意味が全く没
   却される。本件の場合、総理大臣のした使用認定の適否を審査しないで、署名
   等代行や公告縦覧代行を命じる命令の「内容の適否を実質的に審査」したこと
   にならないのは誰の目にも明らかである。
    なお、さらに問題なのは、使用認定の違憲無効さえ、司法審査の対象とはな
   らない、としている点である。被告は、右福岡高裁那覇支部の審理において、
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   駐留軍用地特措法を各土地に適用してした使用認定は違憲無効であることを詳
   細に主張した。ところが、高裁判決は、「使用認定が有効か無効かについて、
   改めて当該都道府県被告の判断を介入させる余地を与えようとしたものとは到
   底解されない」、「この理は右無効の原因が憲法違反である場合においても同
   様というべきである」、として(二二七頁)、本件使用認定が違憲無効である
   かどうかについて何の審査も加えなかった。
    本件使用認定が違憲無効であれば、署名等代行や公告縦覧代行を命じる命令
   は、その前提を欠いて、無効または違法であることは自明の理である。使用認
   定の違憲無効について審査しなかった高裁判決は、「裁判所が国の当該指揮命
   令の内容の適否を実質的に審査することは当然である」とした最高裁判決に違
   背すること明白である。
  3 芝池義一教授は、主務大臣と都道府県知事の関係について論述するにあたり、
   最高裁判決に触れて、裁判所の実質的審査権を、命令の拘束力とそれに対する
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   受命機関の服従義務の範囲の問題にはね返らせない考え方と、はね返らせる考
   え方とがあることを指摘し、さらに後者を二つの考え方に分けている(地方自
   治大系〔第二巻〕一八六、一八七頁)。
    はね返らせない考え方が宇賀助教授の第二の解釈に相当する。
    そして、はね返らせる考え方の一つは、地方自治法一五〇条の指揮監督権の
   行使たる命令も、それが実質的にも適法である場合のみ、法的拘束力を有し、
   受命機関に服従義務がある、とするものである。これは、宇賀助教授の言う第
   一の解釈と同じである。芝池教授の言うはね返らせる考え方のもう一つは、一
   九九一年の改正前の地方自治法一四六条に基づく職務執行命令訴訟手続の第一
   の段階をなす主務大臣の職務執行命令と、一五〇条に基づく主務大臣の指揮監
   督権の行使たる命令とを区別し、後者をその本質において行政指導的なものと
   とらえ、その拘束力を否定するものである。
    地方自治法一四六条の命令と一五〇条の命令とを区別する解釈も挙げるだけ、
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   芝池教授の論述の方が、都道府県知事の自主独立性を尊重する点において、宇
   賀助教授の論述より幅が広いと言えよう。いずれにしろ、芝池説からも、右2
   に述べた主張が強く支持されることは明らかである(現に、芝池教授は、後に
   紹介する判例批評において、この点、強く高裁判決を批判している)。
  4 近藤昭三教授は、国の機関委任事務について、「思うに、職務執行命令の適
   法性について関係機関相互に対立があり、その対立の決着について裁判所の介
   入が認められているのであるから、適法な命令にのみ服従義務が生ずるとする
   方が行政の法適合性によりよく合致し、そう考えても右に述べた現実の行政過
   程における不都合は生じないであろう。」と記述して、適法な命令にのみ服従
   義務が生ずるという見解(宇賀助教授のいう最高裁判決の第一の解釈)を支持
   している。
    そして、最高裁判決との関連で次のように記述している。
    「最高裁は、『裁判所が当該指揮命令の内容の適否を実質的に審査すること
   は当然』であるとし、その根拠を職務執行命令訴訟の存在理由に求め、この制
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   度の趣旨は職務執行命令の適法性が裁判所により是認されてはじめて、国の代
   執行権・罷免権の発動が正当化される点にあると説いている。
    思うに、原審判決の論旨はそれなりに首尾一貫しており、行政の統一、迅速
   性を重視したものといえる。これに対し最高裁判決は、法律判断機関としての
   裁判所の権限の十全性を尊重すると共に地方自治機関の自主性をよりよく保障
   するものである。そして最高裁のこの点の判示よりすれば、地方公共団体の長
   の服従義務を通説のように解することは、命令に無効原因に該当しない違法の
   瑕疵がある場合には服従義務がありながら義務違反に対する制裁を欠くことに
   なる。この点からいっても、服従義務について前述のように解する方が妥当で
   あり、最高裁の判決に論理整合性を与えることになる。」(地方自治判例百選
   (第一版)一〇九頁)
    近藤教授が高裁判決を読まれれば、前記2に引用した知事の審査権の範囲に
   いての判示を強く批判されるであろう。
  5 金子宏教授は、最高裁判決について、次のように述べている(ジュリスト二
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   〇八号所収「地方自治法一四六条における職務執行命令訴訟の諸問題」一〇九、
   一一〇頁)。
    「前提の最高裁判決が、その趣旨を、『地方公共団体の長本来の地位の自主
   独立性の尊重と国の委任事務を処理する地位に対する国の指揮・監督権の実行
   性の確保との間に調和を計る』ことにあるとしているのは正当であり、この趣
   旨を重視する場合には、職務執行命令訴訟において求められているのはまさに
   職務執行命令の適法性の確認なのであって、裁判所は法適用機関としての本来
   の権限の範囲を逸脱しない限り、職務執行命令の適法性を実質的に審査しうる
   し、すべきであると解するのが、地方自治法一四六条の正しい解釈ではないか
   と思われる。前述のように、下級の行政機関は、上級機関への服従義務と国法
   を遵守する義務と性質の異なる二つの義務を負担しているのであるが、一四六
   条がわざわざ独立の法判断機関の判断を経させているのは上下の行政機関の間
   で法の解釈について対立がおこった場合どちらの解釈が正しいかを判断させ、
   正しい法の執行を保障すること、すなわち組織法的関係から離れて一般国法の
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   見地から命令の適否を判断させること、すなわち一般国法の見地からみた場合
   知事または市町村長は命ぜられたことをなす法律上の義務があるかどうかを審
   査させることに狙いがあると考えられるのである。」
    すなわち、知事は、組織法的関係から離れて、一般国法の見地から、国土の
   〇・六パーセントを占めるにすぎない沖縄県に全国の米軍基地の七五パーセン
   トを押しつけ、長きは五〇年以上にわたって、土地所有者の意思に反して土地
   の強制使用を継続しようとする国の施策(復帰前のことについても、米国に施
   政権を与えたのは国である)である本件使用認定が「適正かつ合理的」である
   と言えるのか、また各土地の個々について同じく「適正かつ合理的」という要
   件が充足されているのか、それを吟味し、使用認定が違法であるときは、当然
   署名等代行や公告縦覧代行を命じる命令も違法なのであるから、その点を判断
   することができるし、しなければならないのである。また、県民の身体、生命、
   財産を守り、平和のうちに生きる権利を保障する見地から、本件署名等代行命
   令に従うのと拒否するのと、どちらが公益に合致し、地方自治の本旨にかなう
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   のかを、判断することができるし、しなければならないのである。
    金子教授はまた、次のようにも述べている(前掲書一一一頁)。
    「裁判所の審査権を以上のように考えると、職務執行命令の拘束力およびそ
   れに対する服従義務も、通常の訓令の場合とは甚しく異なってくる。すなわち、
   地方自治法一四六条は、違法な職務執行命令の拘束力とそれに対する地方公共
   団体の長の服従義務を遮断する意味をもっているということになるであろう。」
  6 磯野弥生教授は、最高裁判決について、次のように述べている(行政判例百
   選T(第三版)八五頁)。
    「本判決は、この制度の趣旨から、『裁判所が国の当該指揮監督命令の内容
   の適否を実質的に審査することは当然』であると裁判所の実質審査権を認めて
   いる。そのことは、国の機関と地方自治体の長の法令解釈、権限行使に対立が
   あったときには、適法な命令にのみ服従義務を生じるのであって、職務執行命
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   令訴訟で長の主張が退けられるまでは、長は法令について独自の解釈をなしう
   る権利を有していることを認めた。いいかえれば、先述のように地方自治体の
   長に国の事務を委任したことは、その地方の特殊性に応じた裁量権を行使する
   範囲を認めることであるということを、この判決は明確にした。」
  7 原田尚彦教授は、その著書「地方自治の法としくみ(全訂二版)」(学陽書
   房)において、次のように述べている(一五六頁)。
    「法の執行権には法解釈権が当然に内包されているとみる本稿の視点からす
   ると、機関委任事務の執行に際しても、地方公共団体の機関が無批判に中央の
   解釈に従うべきいわれはない。国が機関委任事務の執行権を地方公共団体の機
   関に移譲した以上はこれに付随して法律の解釈権も移譲されたと解すべきだか
   らである。最高裁の判例もこれを承認した。」
    もちろん、原田教授があげているのは、砂川職務執行命令訴訟の最高裁判決
   である。原田教授は、最高裁判決を解説した上で、次のように述べている(一
   五七頁)。
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    「最高裁は、中央省庁の法解釈と地方公共団体の長のそれとが異なる場合に
   は、裁判所がいずれが正当な解釈であるかを決定し、裁判所が中央の法解釈を
   正当と認めたとき、はじめて職務執行命令判決を下すとしたのである。中央の
   法解釈の優越性を否認し、中央と地方の法解釈の対等性を承認した判決と評し
   てよいであろう。」
    「右の最高裁判決は地方自治の実現にとって、きわめて重要な意味をもって
   いる。この判決の趣旨にそえば、地方公共団体の長は、機関委任事務について
   も国の職務命令に盲従する必要はなく、職務命令を違法と考える場合には、自
   己の所信を貫いていったん服従を拒否し、国からの職務執行命令訴訟の提起を
   まって裁判所の判断を仰ぎ、職務命令の適法性が裁判上で確認されたとき、は
   じめてこれに従えばよいという強い立場が認められることになるからである。」
  8 兼子仁教授は、その著書「自治体法学」(学陽書房)の一一三、一一四頁に
   おいて、次のように述べている。
    「右の『職務執行命令訴訟』制度は、戦後当初に、一九四七(昭和二二年)
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   年末の地方自治法の第一次改正で導入されたもので、戦後も存続を法認された
   『国の機関委任事務』制度における自治体の長の自主的地位を保障しようとす
   る趣旨であった。
    それが憲法上の『地方自治の本旨』に沿うと解されることは、その後一九六
   〇年の砂川基地事件の最高裁判決(昭和三五・六・一七)において、つぎのと
   おり公認されている。
    『国の委任を受けてその事務を処理する関係における地方公共団体の長に対
   する指揮監督につき、いわゆる上命下服の関係にある、国の本来の行政機構の
   内部における指揮監督の方法と同様の方法を採用することは、その本来の地位
   の自主独立性を害し、ひいて、地方自治の本旨に戻る結果となるおそれがある。
   そこで‥‥地方自治法第一四六条は、右の調和を計るためいわゆる職務執行命
   令訴訟の制度を採用したものと解すべきである』。(傍点筆者)
    また元来、地方自治法一三八条の二は、『普通地方公共団体の執行機関は‥‥
   法令に基づく‥‥国の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び
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   執行する義務を負う』と書いてきたのである。同じく同法九九条一項も、『普
   通地方公共団体の議会は、‥‥長に委任された国の事務に関し、長の説明を求
   め、又はこれに対し意見を述べることができる』と書いてきた。
    これらの趣旨を解釈するとき、国の行政が各省の『地方支分部局』を通じて
   直営されるのでなく、各地域における自治体の長に委任されて執行される際に、
   それ相当に地元自治体の意向を反映せしめることが、法制上予定されている趣
   旨だと解される。」
  9 最高裁判決を論理的に分析するならば、三の1に宇賀助教授の論述を紹介し
   たとおり、「国の機関委任事務については、下命機関と受命機関の関係は、そ
   もそも、上級機関と下級機関の間の一般的関係とは異なり、受命機関は、違法
   な職務執行命令には拘束されないから、職務執行命令を求める訴訟においても、
   裁判所は、実質的審査をなしうると解する」か、「国の機関委任事務について
   も、受命機関には下命機関の訓令の実質的審査権はないが、代行権・・・・を
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   発生させるためには、裁判所の判断を経なければならず、その際、司法機関で
   ある裁判所を介在させる所以は、単なる形式的審査のみならず、職務執行命令
   の適法性についての実質的審査を行わせるためである」と解するか、いずれか
   ということになる。
    高裁判決は、受命機関に実質的審査権を否定し、かつ、裁判所の審査すべき
   対象は受命機関の審査権の範囲に限られる、とするものであって、最高裁判決
   に違背することは明白である。
    右のとおり、高裁判決の誤りは明らかであるが、右4から8に見たとおり、
   圧倒的多数の学説は、右の二つの解釈のうち、受命機関に下命機関の訓令の実
   質的審査権を認めているのである。それは、知事や市町村長に、「組織法的関
   係から離れて一般国法の見地から命令の適否を判断させる」(金子)ことであ
   り、「地方の特殊性に応じた裁量権を行使する範囲を認める」(磯野)ことで
   あり、「国が機関委任事務の執行権を地方公共団体の機関に移譲した以上は、
   これに付随して法律の解釈権も移譲されたと解すべき」(原田)であり、「そ
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   れ相当に地元自治体の意向を反映せしめることが、法制上予定されている趣旨」
   (兼子)なのである。
    これらは、まさに地方分権の時代にふさわしい、正しい考え方なのであって、
   この点、高裁判決は、時代錯誤とのそしりを免れないものである。
 四 最高裁判決の述べる司法審査固有の審判権の限界の意味
  1 最高裁判決は、「裁判所が実質的に審査するについては、司法審査固有の審
   判権の限界を守ることはいうまでもないところであ」る、と述べている。
    この判示の意味であるが、右最高裁判決が言渡されたのが一九六〇年六月一
   七日であり、例の伊達判決を破棄した砂川刑事事件の大法廷判決が言渡された
   のが一九五九年一二月一六日であるという時期的なことと、その大法廷判決が
   いわゆる統治行為論を用いて司法審査の限界を説いたこととをあわせ考えると、
   職務執行命令訴訟最高裁判決の言う「司法審査固有の審判権の限界」というの
   は、大法廷判決の説く司法審査の限界と同じ意味であると考えられる。
    前記近藤教授の職務執行命令訴訟最高裁判決の評釈は、「判旨は、司法審査
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   固有の審判権の限界に言及しているが、統治行為が審判に服しないとすれば、
   安保条約・行政協定の違憲無効をいう被告の主張は採りあげられないことにな
   る。しかし、憲法問題一般が職務執行命令訴訟の審査範囲から除外されると解
   すべきでない。」としているのである(前掲書一〇九頁)。
    同様に、成田頼昭教授も最高裁判決を評釈して、「本件は、職務執行命令の
   当否の判断をしないで、原審に差し戻しているが被告の主張の中に安保条約が
   違憲であるとの主張が含まれている。しかし、この点については、すでに、最
   高裁大法廷は統治行為論によって裁判所の審査権の範囲外であるとしているの
   で、本件の審理に当たっても、右の限度で司法審査権が限定されることになろ
   う。」としているのである(行政判例百選U(第一版)三四五頁)
  2 そうすると、最高裁判決は、どの点について実質的審理をつくせと言ってい
   るのであろうか。それは、明らかに、土地収用の必要性であり(その中には、
   立川基地のなりたち、周辺住民の生活とのかかわり、日本および極東の軍事的
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   状況等が含まれる)、当該土地を収用することが「適正且つ合理的」であるか
   どうか、である。だからこそ、最高裁判決は、「本件は司法審査の及ぶ限度に
   おいて本件都知事の命令の適否を審査するにつき、なお事実の審理をする必要
   があることが明らかである。」と判示して、東京地裁へ事件を差し戻したので
   ある。
    差戻後の東京地裁判決が、収用認定その他の先行行為の適否や有効性を審査
   すべきでないとし、駐留軍用地特措法および日米安保条約の効力、ならびに収
   用委員会の権限および土地収用法四四条三項の規定による報告事務の性質しか
   審査しなかったのは、明らかに誤りをおかしたのである。そんなことであれば、
   最高裁は自判できたのである。
    そして、高裁判決は、この東京地裁判決と同じ誤りをおかしたのである。
 五 高裁判決に対する判例評釈
  1 被告が、多数の学説を引用しながら考察し、右に主張してきたことの正しさ
   が、高裁判決に対する二名の学者の判例評釈によって、さらに裏付けられた。
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    一つは、ジュリスト一〇九〇号七三頁以下の、芝池義一教授による「沖縄県
   知事による米軍基地用地強制使用の代理署名の拒否と職務執行命令訴訟」であ
   り、もう一つは、法律時報一九九六年六八巻七号二七頁以下の、人見剛助教授
   による「職務執行命令訴訟における裁判所の命令審査権の範囲について」であ
   る。
  2 芝池教授は、使用認定の適否の審査について、次のように述べている。
    「本件使用認定の違法性に関する判示は、判旨5で示したところであるが、
   ここでも、都道府県知事の審理権に裁判所の審理権をあわせるという思考が明
   白に現れている。」
    「指揮監督権の行使に対する下級行政機関の適法性審査権については、様々
   な学説があるが、機関委任事務制度において特徴的なことは、都道府県知事が
   主務大臣の指揮監督権の行使(命令)に従わない場合に裁判所の関与すなわち
   職務執行命令訴訟制度が設けられていることである。このことによって、主務
   大臣の命令に対する都道府県知事の適法性審査権という組織法上の問題と並ん
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   で、主務大臣の命令に対する裁判所の審査権という訴訟法上の問題が生まれる
   ことになった。
    この都道府県知事の審査権と裁判所の審査権を同一に解する説もあるが(砂
   川事件・差戻し前東京地裁判決)、砂川事件・最高裁判決は主務大臣の命令に
   ついて裁判所の実質的適法性審査権を認めたのであり、このため、裁判所の審
   査権と都道府県知事の審査権について様々な議論が展開されているのである。」
    芝池教授は、右の最後の「裁判所の審査権と都道府県知事の審査権について
   様々な議論が展開されているのである。」という記述の注に、被告が二の3や
   三の1において引用した宇賀助教授の論述をあげているのである。そして、芝
   池教授の論述は次のように続くのである。
    「このように見てくると、本件裁判所が砂川事件・最高裁判決を踏襲するの
   であれば、まず、組織法上の原則から離れて、訴訟法上、主務大臣の命令につ
   いて裁判所に認められる実質的適法性審査権に着目する必要があったのであり、
   この審査権の行使との関係で内閣総理大臣の本件使用認定をも審査できるかど
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   うかを検討する必要があったのである。
    それでは、まず主務大臣の命令についての裁判所の実質的適法性審査権の範
   囲はどのように考えるべきであろうか。
    この問題に対する直接の解答は簡単である。すなわち、裁判所は、主務大臣
   の命令が形式的要件(命令を発した機関が上級行政機関であること、命令が下
   級行政機関の所掌事務に関するものであることなど)のみならず実質的要件を
   も充足しているかどうかを審査できるのである。」
    「そこで、裁判所の審査権が内閣総理大臣の使用認定の適法性にまで及ぶか
   否かという問題に戻ると、内閣総理大臣の使用認定と内閣総理大臣の命令およ
   びそれに基づく都道府県知事の署名等代行義務との間には、起業者(本件の場
   合は防衛施設局長)による土地・物件調書の作成という手続が介在しているが、
   都道府県知事の署名等代行の義務づけの基底要因になっているのは、内閣総理
   大臣の使用認定の存在であるということがここでは重要であろう(一般に、土
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   地収用法上、収用の手続の進行の原動力は、使用認定に対応する事業認定であ
   る)。換言すると、本件訴訟において直接に審査の対象になるのは、主務大臣
   の命令であるが、それが実質的に適法であるためには、署名押印義務が生じて
   いなければならず、この義務が適法に生じるためには、内閣総理大臣の使用認
   定が適法に行われていなければならないのである。このように考えると、職務
   執行命令訴訟において裁判所は、内閣総理大臣の使用認定の実質的適法性を審
   査できるし、またしなければならないと考えられる。」
    「前述のように、本件判決は、権限分配の原則を援用することによって、内
   閣総理大臣の使用認定に対する裁判所の審査権を否定しているが、これは、前
   述のように、組織法上の原則と訴訟法上の原則の次元の違いを明確に区別せず、
   前者から後者のあり方を導くという思考である。」
  3(一)人見助教授は、砂川事件差戻審判決と高裁判決について、「両判決は、
    受命機関による下命機関の指揮命令の審査権の範囲と職務執行命令訴訟にお
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    ける裁判所の審査権の範囲とが、一致するという前提に立脚している。」と
    述べた上で、次のように論を進めている。
     「しかし、このような前提は、職務執行命令訴訟において当然のものであ
    ろうか。最高裁判決は、地方自治法が職務執行命令訴訟という裁判所関与制
    度を採用した理由を、地方公共団体の長の地位の自主独立性の尊重という要
    請と国の指揮監督権の実効性の確保の要請とを調和させることに求め、当該
    命令が適法であるか否かをまず裁判所に判断させ、裁判所がその適法性を是
    認した場合にはじめて主務大臣等が代執行権を行使できることにしたものと
    理解している。すなわち、最高裁は、職務執行命令訴訟における審査対象は、
    受命機関の義務違反の存否ではなく、指揮命令の適法性の有無であるとし、
    受命機関の審査権の有無を問題としてはいないのである。かかる見地からす
    れば、職務執行命令訴訟における裁判所の審査権の範囲は、行政組織法上の
    要請から一定の制限を受けると考えられる受命機関たる地方公共団体の長の
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    審査権の範囲と合致する必然性はなく、むしろ法判断機関としての裁判所の
    権限の十全性を尊重することこそが、右最高裁判決が述べている二つの要請
    を調和させるものと考えられる。そして、最高裁判決自身も『職務執行命令
    ・・・訴訟において、裁判所が国の当該指揮命令の内容の適否を実質的に審
    査することは当然』(傍点筆者)であるとして、命令の内容たる職務の当否
    の実質的審査を当然に必要とし、さらに『いやしくも、裁判所の審査権の限
    界内にあると認められる限りにおいては、裁判所はこれが実質的な審査を回
    避しもしくは拒否し得べきものではない』とも述べているのである。」
  (二)被告は、四の2において、差戻後の東京地裁判決が誤っている理由の一つ
    として、 同判決のような理解であれば、最高裁は、「本件は司法審査の及
    ぶ限度において本件都知事の命令の適否を審査するにつき、なお事実の審理
    をする必要があることが明らかである」として事件を差戻す必要はなく、自
    判することができたではないか、と主張した。
---------- 改ページ--------31
     人見助教授は、右の点について、次のように述べている。
     「同事件差戻審の述べるように『裁決申請書が東京都収用委員会から送付
    されたものであるかどうか、それが土地収用法第四四条第一項にいう裁決申
    請とその添付書類中の砂川町に関係ある部分の写しであるかどうか』、そし
    て指揮命令にかかる直接の根拠法である特別措置法の合憲性のみが当該職務
    執行命令訴訟の審理対象であると最高裁が考えていたとすれば、同裁は事件
    を差し戻すことなく、自判したであろうからである。前者の問題は、既に原
    審において充分に事実認定されており、後者の問題は純粋の法律問題であっ
    て事実認定とは関係がないのである。」
     その上で、人見助教授は、当時最高裁調査官であった白石健三氏の解説の
    次の部分を引用している。
     「たとえば、目的地を駐留軍の用に供することが明白に不適正・不合理と
    認められるような場合には、裁判所は内閣総理大臣の認定を違法と判断し得
---------- 改ページ--------32
    るわけであるから、右要件の存否につき裁判所は最小限度の実質的審査を辞
    するわけにはゆかない。
     ところで、原審は実質的審査は許されないとの見解をとったため、実質的
    審査の見地から必要とされる最小限度の事実についてすら、まったく、審理・
    確定していない。
     たとえば、土地収用の要件である土地所有者との協議が果たして行われた
    かどうかというような事実(この事実は当事者間に争がある。)すら、原審
    は確定していない(もっとも、原審のような見解をとっても、協議の有無の
    如きは、形式的審査の範囲に属するとすら解する余地がないではなかろう)。
    また『適正かつ合理的』の要件の存否の判断に必要とされる最小限度の事実
    すら原審は確定していない。そうすると、違憲の主張を含む法律的主張につ
    き、仮に最高裁が直接判断を下すとしても、なお、右述のような点で、事実
    の審理のために、本件を原審に差し戻さねばならないこととなるわけである。
    そこで、今回の判決では、違憲の主張等にはまったく触れず、単に職務執行
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    命令訴訟においては、裁判所は命令の適否を実質的に審査すべきものであり、
    実質的に審査するについては、なお事実の審理を要するという理由だけで、
    破棄差戻となった。」
     以上詳述したとおり、高裁判決の誤りは明らかである。

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第二 駐留軍用地特措法の法令違憲性
   本件公告縦覧手続の根拠法たる駐留軍用地特措法は、違憲・無効な法律である
  から、原告が知事に本件公告縦覧手続を求めることは許されない。
   駐留軍用地特措法は、国が、「駐留軍の用に供する」という軍事目的を実現す
  るために国民の私有財産を、強制的に使用または収用することを内容とするもの
  である。したがって、憲法前文、九条及び一三条によって宣言・保障された平和
  主義、平和的生存権を侵すものである。のみならず、軍事目的の強制収用は、私
  有財産を「公共のために用ひる」場合に当らないから、憲法二九条三項に違反す
  るものである。さらに、駐留軍用地特措法は、土地収用法に比較し、著しく収用
  手続が簡略されており、適正手続を保障しているものとは言えないから、憲法三
  一条にも違反するものである。
 一 憲法前文、九条、一三条の平和主義―平和的生存権の侵害
  1 平和的生存権誕生の歴史的背景
    平和的生存権は、想像上生み出された抽象的観念的な権利ではなく、人類の
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   幾多の戦争、特に二〇世紀における戦争の経験を通して具体的な形で存在する
   権利として誕生したものである。
    平和的生存権を生み出すに至った背景としてまず挙げられるのは、二〇世紀
   における戦争が、これまでの戦争観・平和観を一変させてしまったことである。
   諸国の人々が二度にわたる世界大戦の経験から認識したことは、戦争が戦勝国、
   敗戦国に関係なく、ただ双方ともに甚大な被害をもたらすだけだということで
   ある。これによって、国家間の問題解決のために戦争に訴えるということは違
   法であるという一般的な考え方が形作られていった。例えば、一九二八年の不
   戦条約は国際紛争解決のための戦争を違法視し、国策の手段としての戦争の放
   棄を宣言している。また一九四五年の国連憲章も平和的手段による国際紛争の
   解決を国連の目的の一つとし、武力行使を原則的に禁止して、戦争を違法なも
   のとして捉えるというものである。このように、戦争に対する基本的な考え方
   の変化が平和的生存権誕生の大きな歴史的背景となったのである。
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    また、戦争が国家そのものにもたらした被害は小さくなかったが、一般国民
   にもたらされた被害の方は、それをはるかに凌ぐものであったことも、平和的
   生存権の確立を求める原因であった。二〇世紀の戦争の特徴はいわゆる総力戦
   にあり、一般国民を直接巻き込んで行われてきた。従って、その被害の甚大さ
   は、これまでの戦争の場合の比ではないことは明らかである。ちなみに世紀ご
   との戦死者数を挙げれば、一八世紀は四四〇万人、一九世紀は八三〇万人と倍
   近くに増えているが、二〇世紀に入ると一挙に前世紀の一〇倍をはるかに超え
   る九、八八〇万人にも達する(World Military and Social Expenditures,1986.
   p26 .山内俊弘・古川純一「憲法の現状と展望」)。特に、広島、長崎の例に
   示されるように、核戦争という状況の下では、戦争の口実が何であれ、最も悲
   惨な被害者は一般国民であることが明白である。このようなことから、国民自
   らが戦争を拒否し、平和のうちに生存することを誠実に希求するのは、極めて
   自然な姿であった。
    さらに、平和と人権の不可分一体性が一般的に承認されてきたことも、その
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   名の示すとおり「平和的生存権」の登場を促した必然的要因として挙げられる。
   平和のない戦争状態においては、軍事優先の国策がとられ、国民の人権が侵害
   されることは、戦前のわが国やナチスドイツの状態の例がよく証明している。
   したがって、平和を維持することが、人権保障の必須の前提であるといってよ
   い。たとえば、一九七五年の欧州安全保障協力会議の「ヘルシンキ宣言」は、
   「人権と基本的自由の尊重は、・・・平和、正義ならびに福祉にとって基本的
   な要素である」としている。
    また、逆に思想・良心の自由、言論・出版などを通してなされる政府批判の
   自由、国民意思の反映を図る参政権などの人権を保障することが独善的な政府
   の行為による戦争を防止し、平和を維持する有効な手段となる。このように平
   和と人権が密接に関連しており、両者は不可分一体であることは、たとえば一
   九七八年の「平和と人権=人権と平和」会議(オスロ会議)の最終文書が、
   「平和への権利は、基本的人権の一つである。いかなる国民も、いかなる人間
   も、人種、信条、言語、性によって差別されることなく平和のうちに生存する
   固有の権利を有する。」、「基本的人権と平和は、いずれか一方に対するいか
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   なる脅威も、他方に対する脅威になるという意味で、不可分である」としてい
   ることにも強く示されている。これらの背景によって、平和が人権保障に不可
   欠のものであることが確認され、そこから、戦争のない平和な状態で生存する
   こと自体が、人権であると考えられてきた。
  2 国際社会と平和的生存権
    戦争や軍隊のない状態で平和のうちに生存する人間の権利を擁護する考え方
   は、国際社会においてもすでに採用されてきた経緯がある。一九〇七年の陸戦
   の法規慣例に関する条約や一九二二年の空戦に関する規則には、いわゆる軍事
   目標主義が定められており、一切の戦争と武力保持・行使を放棄した状態にあ
   る都市・住民は、武力攻撃を受けることなく、平和のうちに生存し得ることを
   保障したと考えられる。
    また第二次大戦後の一九七七年に署名されたジュネーブ条約追加議定書も、
   非武装地帯への攻撃禁止を定めており、非武装地帯の住民は、外部からの武力
   攻撃を受けることなく、平和のうちに生存しうることが国際社会でも保障され
   るに至ったのである。
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    また、最近の国連決議の中にも、明示的に平和的生存権の保障をうたったも
   のが登場してきた。一九七六年の国連人権委員会決議は「すべての者は国際の
   平和と安全の条件のもとに生きる権利」を有する旨をうたい、一九七八年の国
   連総会決議「平和的生存の社会的準備に関する宣言」は「すべての国とすべて
   の人間は人種、信条、言語または性のいかんにかかわらず、平和的生存の固有
   の権利を有する」と定めている。また、同年の総会決議「軍縮のための国際協
   力に関する宣言」の前文も「すべての国とすべての人間が有する、戦争の脅威
   なく自由と独立のうちに平和に生きる不可譲の権利」を強調しており、さらに、
   一九八四年の総会決議「人民の平和への権利についての宣言」でも「地球上の
   人民は平和への神聖な権利を有することを厳粛に宣言する」と述べている。
    「平和に生きる権利」、「平和への権利(right to peace)」に示されるよ
   うに、戦争のない状態で平和に生きること自体が、基本的な権利、すなわち平
---------- 改ページ--------40
   和的生存権として、今日では国際社会、国連の場でも確認されるに至っている。
   このことは、日本国憲法の平和的生存権が、世界的な人権思想を受けて我が国
   の戦争体験の上に築かれたものであることを示している。この点、九条の戦争
   放棄条項をはじめとして徹底した平和主義を使用した日本国憲法は、国際社会
   における平和をめざす流れの先端を行く考え方を取り込んだものといえる。
  3 日本国憲法と平和的生存権
  (一)ポツダム宣言と平和的生存権
     五一年前の一九四五年八月一四日、ポツダム宣言の受諾に伴い日本の敗戦
    が確定した。ポツダム宣言の具体的内容は、戦争遂行能力の破壊、平和安全
    と正義の新秩序の確立、軍国主義権力の除去、軍隊の武装解除及び撤退、民
    主主義の復活強化および基本的人権の尊重、平和産業維持と軍需産業の廃止、
    国民の自発的意志による民主的政府の樹立などであった。同宣言のほとんど
    の項目が、日本国憲法の三つの柱となる原理である国民主権、基本的人権の
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    尊重、平和主義に関するものであった。
     すなわち、実質的にはポツダム宣言の受諾により、民主、人権、平和の問
    題について新国家建設のための方向性が示されていたということである。ポ
    ツダム宣言の特徴は、特に平和主義に関する項目が多く、「戦争遂行能力の
    破壊」、「平和安全及び正義の新秩序」など、戦争放棄を定める憲法九条に
    同宣言の趣旨が反映されていることである。世論調査によれば、平和に生き
    たいことを望む国民の気持ちは、この九条の戦争放棄条項に対する支持率に
    表れており、七割が必要と考えていた(毎日新聞、一九四六、五、二七)。
     このように、ポツダム宣言は、日本国憲法誕生と深く関わっているが、こ
    のポツダム宣言と重要な関連性を持つものがもう一つある。それは原爆であ
    る。当時の日本政府は、ポツダム宣言に対し、「政府としては何ら重大な価
    値あるものとは思わない。ただ黙殺するだけである。我々は断固戦争に邁進
    するのみである」という談話を発表したため、米国はポツダム宣言の拒否と
    断定し、広島、長崎に原爆を投下するという重大な結果をもたらした。ここ
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    にポツダム宣言黙殺→原爆投下→ポツダム宣言受諾→日本国憲法制定、とい
    う構図が浮かび上がってくる。ポツダム宣言九項は、軍の武装解除・撤退に
    ついて「平和的かつ生産的な生活を営む機会を与えられる」という平和的生
    存権の生成に関する規定があり、さらに政府についても一二項において、
    「平和的傾向を有し、かつ責任ある政府」の樹立を求めている。
     日本国憲法制定の背景には、おびただしい戦争の惨禍、特に原爆投下によ
    る惨禍を受けた経験と反省及び平和への渇望があり、その結果、日本国憲法
    は「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する
    権利を有すること」(前文)を強く確認したのである。
  (二)憲法前文と平和的生存権の保障
     日本国憲法の前文は、戦争を忌む並々ならぬ決意と憲法制定に至った経緯
    を切々とうたっている。日本国憲法前文における「諸国民との協和」、「人
    類普遍の原理」、「人間相互の関係を支配する崇高な理想」、「専制と隷従、
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    圧迫と偏狭を地上から永遠に除去」、「国際社会において名誉ある地位」、
    「全世界の国民」などの文言は、この憲法の究極的対象が人類であり、その
    究極的目標は地上(全世界)に民主的で平和な社会を建設することであるこ
    とを示している。このように、憲法制定の動機の奧には、人類共通の願いが
    滔々と流れている。これは、すでに述べたように、日本国憲法の先進性を示
    すものといえる。
     広島・長崎に投下された原爆による一般国民の被害が甚大であることを身
    を以て体験した日本国民は、これからの戦争が核兵器によってむごたらしい
    ものになること、今度戦争が起これば、人類の滅亡・地球の破壊の危機に陥
    ること、戦勝国・敗戦国の無意味なことなどを訴え、全世界の国民に向けて
    憲法前文第二段において「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏
    から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」としたの
    である。
     この「平和のうちに生存する権利」の源は、米国のF・ルーズベルト大統
    領の「四つの自由」宣言(一九四一年一月)及び大西洋憲章(一九四一年八
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    月)であることはよく知られている。前者は、言論の自由、信教の自由、欠
    乏からの自由、恐怖からの自由をその内容とするが、特に欠乏及び恐怖から
    の自由はそれぞれ「すべての国家がその国民に健康で平和な生活を保障でき
    るように、経済的結びつきを深めること」、「世界的な規模で徹底的な軍備
    縮小を行い、いかなる国も武力行使による侵略ができないようにすること」
    などの文言と組み合わされており、「平和のうちに生存する権利」と関係が
    深い。
     また、これをふまえて後者は「すべての国民が、自国の領土内で安全な生
    活を営むための、及びこの地上のすべての人類が、恐怖と欠乏からの自由の
    うちにその生命を全うするための保障を与える平和を確立することを希望す
    る」と宣言し、日本国憲法前文の平和的生存権の直接の原型を示している。
     日本国憲法は、この国際的人権保障の潮流、および我が国の戦争体験を踏
    まえて、平和を確立する「希望」を「権利」にまで高めたのである。
  (三)憲法の基本原理
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     日本国憲法は前文において、基本原理として国民主権主義、基本的人権尊
    重主義、平和主義を採用している。
     すなわち、前文第一段は「日本国民は、正当に選挙された国会における代
    表者を通じて行動し、・・・ここに主権が国民に存することを宣言し、この
    憲法を確定する。」と規定して、国民主権主義は国家の基本原理であること
    を明らかにしている。
     また、同じく第一段において「そもそも国政は、国民の厳粛な信託による
    ものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを
    行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、
    この憲法はかかる原理に基づくものである。」と規定して、基本的人権尊重
    主義を前提に、国民主権主義の目的が基本的人権の尊重にもあることを明ら
    かにしている。
     さらに、第二段は「日本国民は、恒久の平和を念願し、人類相互の関係を
    支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正
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    と信義に信頼して、われらの生存と安全を保持しようと決意した。われらは、
    平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努め
    ている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世
    界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を
    有することを確認する。」として、平和主義を定めている。日本国憲法前文
    は、この平和主義が国民主権主義、基本的人権尊重主義と相互に融和し、密
    接不可分に結びついていることを説示している。
     まず、前文第一段は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることの
    ないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し」て、
    平和主義を守るために国民主権主義が必要であることを明らかにしている。
    すなわち、過去の歴史上、戦争が、国民とは遊離した政府の独善と偏狭によっ
    て起こされてきたという事実に鑑み、そのような過ちを二度と繰り返さない
    ために、国民の民主的統制の下、政府の独善的行為を抑制排除することによ
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    り戦争の原因を取り除き、平和を確立する必要があることを示しているので
    ある。一方、国民主権主義は平和主義が万全に確保されて初めて、真に国民
    のために確立され、保証されるのである。
     また、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平
    和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と規定して、平和主義
    と基本的人権尊重主義が密接不可分の関係にあることを明らかにするととも
    に、平和的生存権が、これまでの国家の政策としての平和主義の反射的利益
    にとどまることなく、積極的に全世界の国民に共通する基本的人権であるこ
    とを宣言し、これを保障している。
     日本国憲法は、この前文における基本原理を美辞麗句に終わらせることな
    く、これらを本文において具体的に保障している。まず、国民主権主義は、
    本文の一条「国民主権」、一五条一項「公務員の選定罷免権」、四一条「国
    会の地位」などにおいて具体化されている。
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     また、基本的人権尊重主義は、第三章において豊富な基本的人権規定を設
    けて、具体的に保障されており、さらに、平和主義についても、九条におい
    て、戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認などを定めて、永久平和主義、戦争
    放棄主義として具体的に保障されている。
  4 平和的生存権の具体的権利性、裁判規範性
  (一)前文第二段にいう「ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存す
    る権利」としての平和的生存権は、国民の具体的権利として保障されている
    か。
     この点について、これを否定する立場の者は、(1) 憲法前文は理念ないし
    目的を抽象的に表明するにすぎず、裁判規範となるものではなく、裁判規範
    となり得るのは本文の各条項であること、また、「平和」とは理念ないし目
    的としての抽象的概念であって平和的生存権の具体的権利性、裁判規範性を
    基礎づける根拠とならないこと、(2) 憲法九条は戦争の放棄、戦力の不保持
    を定めた国の統治機構に関する規定であって国民の人権規定でないこと、(3)
    憲法一三条後段は、基本的人権に関する一般的・包括的規定であること、ま
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    た、仮に、人権保障の根拠を求める余地があるとしても、権利の性質、内容、
    効果が具体的に特定されない限り、平和的生存権は憲法一三条によって保障
    された基本的人権と解することはできないことを理由に平和的生存権の具体
    的権利性、裁判規範性を否定している。
     しかし、いずれも平和的生存権の具体的権利性、裁判規範性を否定する理
    由にはならない。以下、この点について論証する。 
  (二)憲法前文は裁判規範となるものではなく、本文の各条項のみが裁判規範と
    なり得る旨を主張する説もあるが、本文にも前文と同様の抽象的な内容を持
    つ条項は多く、その意味で前文と本文の抽象性は相対的なものであり、抽象
    的であることを理由に前文を特に区別する合理的理由はない。また、前文の
    内容がすべて本文に具体化されているわけではないので、前文の裁判規範性
    を否定する説にあっても、憲法の根本規範に関し、本文の規定に欠けつがあ
    るときには直接前文が適用されることを承認している点に注意すべきである。
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     憲法前文は、憲法の基本理念、目的を規定しているが、それにとどまるも
    のではなく、前文第一段が「人類普遍の原理」に「反する一切の憲法、法令
    および詔勅を排除する。」と規定して、前文が本文とともに最高法規として
    の性格を有することを明らかにしている。
     日本国憲法制定の審議の際にも「唯前文であるから法規的なものでないと
    いうことは決定できない。それは個々の内容に従って決定すべきものと思い
    ます。」(金森国務大臣)と述べているように、前文の裁判規範性について
    は、それぞれの規定の内容の特定性・具体性に応じて個別に検討すべきもの
    で、一様に前文だから裁判規範性がないということにはならないのである。
    最高裁判所も、「憲法第三七条および前文は陪審による裁判を保障するもの
    ではない」(一九五〇年一〇月二五日大法廷判決)、「地方税の賦課徴収権
    が納税者訴訟の対象となるべき財産に含まれないと解しても、主権在民を宣
    言した憲法前文に違反しない」(一九六三年三月一二日判決)と判示して、
    前文の裁判規範性を認めている。
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     平和的生存権についても、前文に文言上の根拠があるというだけで、その
    裁判規範性を否定されるということはできない。
  (三)平和的生存権は、憲法前文の「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存
    する権利」を指すのであるが、その具体的保障を憲法九条に求めるというこ
    とである。確かに、九条を人権規定の根拠と考える場合、憲法第三章の人権
    規定として構成されているのではなく、独立して第二章を形成していること
    が問題とされるが、およそ現代国家の憲法は、国民の人権保障の法典として
    存在しているのであり、憲法のすべての条項は人権保障との関連で把握され
    ねばならない、従って、九条が国民にどのような人権を保障しているかとい
    う点が、規定の法典上の位置付けよりもむしろ重要なのである。
     戦争法規と戦力不保持を定める九条は、消極的側面では、日本国民を一切
    の戦争協力から解放したのであるが、それだけでなく、積極的には、財産や
    人的な力を戦争と軍備のない自由で平和な国家建設にのみ用いる権利、例え
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    ば自分の所有する土地を軍事基地のためには収用されない権利など、をも保
    障したといいうる。むろん九条がストレートに憲法前文の平和的生存権を保
    障するのではなく、第三章の基本的人権を制度的に保障するという媒介方法
    によって、平和的生存権を保障するのである。すなわち、この場合九条は、
    第三章(一〇条―四〇条)の前に置かれたことに意味があり、人権規定を全
    体として制度的に保障するものである(この意味では人権保障そのものに近
    い)ので、むしろ九条の存在そのものとその立法趣旨から、第三章以下に平
    和的生存権が含まれていることが裏付けられる。
     「個人の尊重」の意味は、人間の尊厳を根底においたうえで、国政におい
    て、個人を尊重するという基本原理を述べたもので、この「個人の尊重」原
    理と結びついて、「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」は、人
    間的生存に不可欠の権利・自由を包摂する意味で包括的な権利であり、裁判
    での救済を受けられる具体的な権利である。判例も一三条に基づくプライバ
    シーの権利などは早くから認めており(東京地裁判決一九六四年九月二八
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    日)、また、いわゆる包括的幸福追求権についても、その具体的権利性を認
    めるに至っている(最高裁大法廷判決一九六九年一二月二四日)。従って、
    憲法一三条後段は、基本的人権に関する一般的・包括的規定であるがゆえに、
    平和的生存権の根拠とすることができないとするのは、誤りである。  
     そもそも、憲法典のなかに「平和のうちに生存する権利」として、明確に
    「権利」という文言を使用しながら、これを憲法上の権利ではないとするの
    は、憲法そのもののいう権利の意義を軽視するものであり、プライバシーの
    権利や知る権利など憲法典に文言上明記されていないものも権利として保障
    されているのであるから、原告が平和的生存権を否定しようとする主張は、
    法的根拠が薄く、政策的な主張にすぎない(小林武「平和的生存権の歴史的
    意義と法的構造(三)」南山法学一九巻二五三一頁)。
     また、人権保障の根拠を求める余地があるとしても、権利の性質、内容、
    効果が具体的に特定されない限り、平和的生存権は憲法一三条によって保障
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    された基本的人権と解することはできない旨主張する見解もあるがが、この
    点については次項で論ずる。
  (四)憲法一三条と平和的生存権
     前述したように、憲法九条は平和的生存権を制度的に保障するものである
    が、本文の人権規定の根拠としては、第三章以下の各条項、特に憲法一三条
    にこれを見い出すことができる。憲法一三条前段は「すべて国民は個人とし
    て尊重される」としているが、核兵器によって、人類滅亡までをも予想され
    うる現代においては、この個人の尊重は、個人が人間として尊厳を有するも
    のであるがゆえに尊重されるべき存在であるということであり、人間社会を
    支える基盤としての重要な意義を有している。すなわち、個人の尊厳を何よ
    りも重視することが、戦争を起こさないための大前提であり、戦争はいかな
    る形であれ個人の尊厳を、最も無残な形で侵してきたのである。それは、戦
    場に無頓着に放置された人間の死体を映した一枚の写真を見るだけで十分で
    ある。
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     世界人権宣言(一九四八年)は、「人類社会のすべての構成員の固有の尊
    厳と平等で譲ることのできない権利とを保障することは、世界における自由、
    正義及び平和の基礎である」と述べて、個人の尊厳が「平和の基礎」である
    ことを宣言している。また、これを受けて国際人権規約は、A規約・B規約
    ともその前文で「人類社会のすべての構成員の尊厳及び平等でかつ奪い得な
    い権利を認めることが世界における自由、正義および平和の基礎をなすもの
    である」と述べて、「これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認
    め」ている。
     次に憲法一三条後段は「生命、自由、幸福追求に対する国民の権利につい
    ては、・・・立法その他国政の上で最大の尊重を必要とする」と定める。こ
    こで「生命、自由、幸福追求に関する国民の権利」とは、一三条前段の人間
    が「個人として尊重」されるがゆえに当然保障されるべき権利の内容であっ
    て、個々の国民が例外なく享有している人間としての生存と尊厳を維持し、
    生命の危険に脅かされることなく、自由と幸福を享有することができるよう
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    にするために、その社会的、経済的諸条件・環境を整備することを求めるも
    のであり、その一つが平穏な生活を営む権利である。これを憲法の基本原理
    である平和主義から考えると、平和的生存権は、戦争行為(広く戦争類似行
    為、戦争準備行為、戦争訓練、基地の設置管理などを含む、以下同趣旨)に
    よって、生命の危険に脅かされることなく、平穏な社会生活を営むことを阻
    害されない権利を重要な内容とするものである。
     生命に対する国民の権利は、明確な権利であって、人間が尊厳的存在であ
    るがゆえに、「立法その他国政の上で最大の尊重を必要とする」ことを国の
    責務として定めている。したがって、「政府の行為によつてふたたび戦争の
    惨禍の起こることのないやうにすることを決意し」て制定された日本国憲法
    は、政府に対し、国民が尊厳的存在であるがゆえに、戦争行為によって、生
    命の危険に脅かされることなく、平穏な社会生活を営むことを阻害されない
    権利、すなわち国民の平和的生存権を守ることが最優先されなければならな
    いことを要求している(久保栄正「平和的生存権」ジュリスト六〇六号三一
    頁)。
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     この点、長沼訴訟第一審判決が、憲法前文第二段にいう平和的生存権は
    「全世界の国民に共通する基本的人権そのものである」が、それは一方で国
    民主権の原理と他方で基本的人権尊重の原理と密接不可分に融合していると
    強調し、「国家自らが平和主義を国家基本原理の一つとして掲げ、そしてま
    た、平和主義を採ること以外に、全世界の諸国民の平和的生存権を保障する
    道はない、とする根本思想に由来するもの」であるとしたこと、そして、
    「社会において国民一人一人が平和のうちに生存し、かつ、その幸福を追求
    することのできる権利を持つことは、さらに、憲法第三章の各条項によって、
    個別的な基本的人権の形で具体化され、規定されている。」として、前文の
    裁判規範性および平和的生存権の具体的権利性を認めたことは正当である。
  5 平和的生存権の展開
    平和的生存権は、基本的人権として捉えられるのであるから、その権利主体
   が国民(個人または集団)であることは明らかである。平和的生存権は、前述
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   の戦争行為によって、生命の危険性を脅かされることなく、平穏な社会生活を
   営む権利を中核的内容としながら、さらに次のような側面、内容を有するもの
   と解される。(浦田賢治「憲法裁判における平和的生存権」、『現代憲法の基
   本問題』早稲田大学出版部所収四一頁)。
    公権力の軍事目的追求によって平和的経済関係が圧迫されたり、侵害された
   りしないこと。この例として、自己の土地・財産を軍事目的のたに使用されな
   い権利などが挙げられるが、戦後、軍用地負担関係法令の廃止により財産権を
   軍事目的のために制限・侵害することを認めていない土地収用法の存在は、こ
   の権利を具体的に保障している。
    公権力による軍事的性質を持つ政治的・社会的関係の形成が許されないこと。
   例えば、徴兵制の採用、軍事的秘密保護法の制定などは、国民の平和的社会関
   係、信頼関係を破壊し、人間としての尊厳を侵すもので許されない。また、軍
   事施設を設けることにより、軍事的危害を誘発することや国民の健康または生
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   活環境に被害を及ぼすことなどは具体的な平和的生存権の侵害となる。
    公権力によって軍事的イデオロギーを鼓舞したり、軍事研究を行うことは許
   されないこと。例えば、軍事教育政策をとったり、マスコミを政策的に軍事利
   用したり、戦争または戦争準備のための科学技術の研究などは、国民を戦争へ
   導き、平和の精神的・科学的な基礎を揺るがすものとして許されない。
    また、平和的生存権は、単に消極的ないし受動的に戦争行為による人権侵害
   を排除しうる国からの自由という自由権的側面を有するにとどまるものではな
   く、戦争行為に反対し、あるいはこれを阻止・廃止し軍事力の削減・撤廃をも
   たらすためや、平和な世界を創造するために能動的に国政などに参加する参政
   権、また積極的に国や地方公共団体等の公権力によって、よりよい平和を確保・
   拡充せしめることができる社会権(国務請求権)的側面をも有する権利である
   (深瀬忠一『戦争放棄と平和的生存権』(岩波書店)二二四頁以下)。
    このように、平和的生存権は、具体的な内容を有する権利である。
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  6 平和的生存権の直接的侵害
  (一)憲法九条と統治行為論
     これまでの裁判では平和的生存権の根拠を憲法前文ないし九条に求め、在
    日米軍、あるいは自衛隊が憲法九条二項にいう「戦力」に該当するか否かと
    いうかたちで議論されてきた。
     すなわち、在日米軍が駐留する根拠が日米安保条約であることから、日米
    安保条約に対する違憲審査の問題として議論され、裁判所は日米安保条約は
    高度の政治性を有し、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、裁判
    所の違憲審査権は及ばないとして、実質的には統治行為論を採用した(砂川
    事件最高裁判決一九五九年一二月一六日判決・那覇地裁一九九二年五月二九
    日判決)。また、在日米軍については、憲法九条二項が保持を禁止した戦力
    とは我が国自体の戦力を指し、我が国に駐留する外国の軍隊はそれに該当し
    ないとした(前掲砂川事件最高裁判決)。
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     さらに、自衛隊の存在等が憲法九条に違反するか否かについても、統治行
    為に関する判断であり、国会、内閣の統治行為として究極的には国民全体の
    政治的批判にゆだねられるべきもので、違憲性が一見極めて明白でない限り、
    裁判所が判断すべきものではない(長沼訴訟控訴審判決一九七六年八月五日)
    等と判断している。全体的には、下級審のわずかな例を除き、統治行為の問
    題であるとして、憲法判断を回避する消極姿勢を示している。このように在
    日米軍や自衛隊の存在を憲法九条違反の問題とし、それに平和的生存権の主
    張を絡めた場合、憲法九条二項の「戦力」にあたるかは一見極めて明白でな
    いがゆえに、憲法判断を回避することと、平和的生存権が認められないこと
    とは結果的に同じ帰結になっている(長沼訴訟控訴審判決、百里基地訴訟判
    決等参照)。
     しかし、この論理的組合わせは誤っており、憲法九条の「戦力」該当性や
    統治行為論は、平和的生存権侵害を否定する根拠にはなりえない。 
  (二)すでに論証したように、平和的生存権は、憲法前文に理念的・文言的な基
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    礎をおき、憲法九条によって制度的に保障され、直接的には憲法一三条前段
    の個人の尊厳に不可欠の具体的な人権として保障されていると解すべきであ
    る。
     すなわち、個々の国民が人間としての生存と尊厳を維持し、自由と幸福を
    求めて生命の危険に脅かされることなく平穏な社会生活を営むことを、戦争
    行為によって実質的に阻害されない権利ということができる。
     そこで、仮に、砂川事件最高裁判決が示すように、「同条がその保持を禁
    止した戦力とは、我が国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し
    得る戦力をいうものであり、結局我が国自体の戦力」を指すとしても、世界
    一の軍事力を誇る米軍およびその部分を構成する在日米軍が、平和的生存権
    を侵害する典型的主体である一般的意味での「戦力」に該当することは明ら
    かである。
  7 まとめ
    以上憲法は国民に具体的な権利として平和的生存権を保障したものであるに
   もかかわらず、駐留軍用地特措法は、「戦力」である駐留軍に軍事基地を提供
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   することを目的とする法律であり、そのために国民の私有財産を、強制的に使
   用または収用することを内容とするものであるから、平和主義・平和的生存権
   を侵すものとして、憲法前文、九条及び一三条に明白に違反するものである。
 二 憲法二九条違反
  1 財産権保障の意義
    日本国憲法二九条は、「財産権は、これを侵してはならない」として、財産
   権を不可侵の人権として保障する。
    歴史的にも、市民革命以降、財産権は、国家権力によって侵すことのできな
   い個人の不可侵の人権とされてきた。史上最初の人権宣言と言われる一七七六
   年のヴァージニア権利章典は、「すべて人は、生来ひとしく自由かつ独立して
   おり、一定の生来の権利を有するものである。これらの権利は、人民が社会を
   組織するにあたり、いかなる契約によっても、その子孫から奪うことのできな
   いものである。かかる権利とは、すなわち財産を所有取得し、幸福と安全とを
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   追求獲得する手段を伴って、生命と自由とを享受する権利である」(一条)と
   謳い、所有権が人権として保障されることを確認した。一七八九年のフランス
   人権宣言は、あらゆる政治団結(国家)の目的は、「人の自然の、時効にかか
   ることのない権利を保全することにある。これらの権利とは、自由、所有権、
   安全および圧政への抵抗である」(二条)と述べて所有権を自然権と位置づけ、
   所有権を「侵すことのできない神聖な権利」(一七条)としてその重要性を強
   調し、一八〇四年のフランス民法典(ナポレオン法典)は、「所有権は、法律
   または規則によって禁じられる使用を行わない限り、最も絶対的な仕方で物を
   収益し、かつ、処分する権利である」として、所有権の絶対性を規定した。こ
   のように所有権が天賦不可侵の人権、絶対権とされたのは、それが、本来自由
   で平等な各人の生存を確保するためのものであり、かつ、各人が生存のために
   労働をして得た成果は、その者に属するという思想に基づくものであった。
    日本国憲法は、この沿革に鑑み、自律的な個人の自由な生存を確保するため
   に、財産権を基本的人権として保障したのである。
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  2 駐留軍用地特措法の財産権制約目的
    駐留軍用地取得の必要性は財産権制約の根拠となりえない外国軍隊の日本国
   内への駐留を認めることが、日本国憲法の下で許容されているか否かの議論を
   さておくとしても、外国軍隊を駐留させるために個人の意思を制圧して人権を
   制約することは許されない。
    日本国憲法は、立憲民主主義に立脚し、多数者による圧政を否定する。すな
   わち、憲法制定時に、憲法制定権力によって、多数者の意思によっても侵しえ
   ない個人の自由・権利を確認し、これを人権として保障したのである。したがっ
   て、日本国憲法で保障された人権の制約は、憲法で認められた範囲、即ち、憲
   法上人権制約について明記されている場合か、憲法上保障されている他の人権
   との調整の限度でしか認められず、それ以外には、たとえ国会の多数決による
   立法をもってしても、人権制約をすることは断じて許されないのである。
    例えば、仮に自衛隊が存在すること自体は日本国憲法が禁止していないとし
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   ても、憲法には、軍事目的のための人権制約を許容する条項が存在しない以上、
   国会の多数決をもってしても、徴兵制度を設けることは許されない。また、後
   に詳論するとおり、自衛隊基地用地取得のために、個人の財産権を制約して公
   用収用することは認められていないのである。
    また、日本国憲法に外国軍隊の駐留目的のための人権制約を認める条項が一
   切存しない以上、仮に外国軍隊の駐留自体が憲法によって禁止されていないと
   しても、少なくとも、外国軍隊の駐留という目的のために、基本的人権を制約
   することは許されない。
    したがって、外国軍隊駐留のための軍用地取得という財産権制約の目的には、
   正当性を認めることはできない。このように、軍事目的を実現するために、国
   民の私有財産を強制的に使用または収用することが、「公共性」をもちえない
   ことは、旧土地収用法(明治三三年三月七日法律第二九号)と現行土地収用法
   (昭和二六年六月九日法律第二一九号)の規定を対比してみても明らかである。
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   旧土地収用法二条は、「土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業」の筆頭に
   「国防ソノ他軍事ニ関スル事業」を掲げていたが、平和主義に基づき「戦争の
   放棄」「戦力の不保持」を国の義務とする現行憲法制定の必然的結果として、
   それは削除されている。
    この点について、当時の建設省渋江管理局長は、その提案理由を、国会にお
   いて、「なお、実質的に事業の種類につきまして若干申し上げますと、従来の
   規定におきましては、国防・その他軍事に関する事業、それに皇室陵の建造な
   いし神社の建設に関する事業が、公益事業の一つとしてあがっておりましたが、
   新憲法の下におきましては、当然不適当である考えられますので、これを廃止
   することにいたしております。」(「第十回国会衆議院建設委員会議録第二十
   五号」)と説明し、更に、参議院建設委員会においても、「こういったような
   新憲法の下におきましては(旧土地収用法には)非常に妥当性を欠いておりま
   す公共事業が掲げてある次第でございますので、これらを廃止・削除すること
   にいたしたのであります。」と、同様の説明がなされている。
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    このような提案理由をみれば、現行土地収用法に、「国防その他軍事に関す
   る事業」が掲げられていないのは、単なる立法の不備とか脱漏とかいうもので
   はなく、それが憲法違反の事業として、立法者の意思によってに廃止または削
   除されたことは明らかである。
    さらに、一九六四年に、第四十六回国会衆議院建設委員会の審議において、
   「公共の利害に特に重要な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事
   業に必要な土地等の取得に関し」、土地収用法の特例を定めた「公共用地の取
   得に関する特別措置法」が国会で審議された際、この「公共の」範囲に軍事施
   設が入るかという質問がされたのに対し、当時の河野建設大臣は、「軍施設を
   『公共の』範囲に入れるということは適当でない、これはもう社会通念じゃな
   かろうかと私は思います。そういったことに反したものについてこれをやるこ
   とは適当でない、こういうふうに私は解釈しております。」(「衆議院建設委
   員会議録第三十一号、一三〜一四頁」)と答弁し、先の政府見解が再度確認さ
   れている。
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    これらにより、現行憲法・土地収用法の下において、国防・軍事に関する事
   業が「公共性」をもち得ないこと、すなわち、軍事施設を設けるために、国民
   の所有する土地を強制的に使用または収用することができないことは明らかで
   ある。
    以上述べてきたことから、国民の所有する土地を強制的に収用または使用し
   て、米国軍隊に提供することを内容とする駐留軍用地特措法の目的は、「公共
   性」をもち得ず不正であり、駐留軍用地特措法が、憲法二九条三項に反するこ
   とは明らかである。
  3 制約が必要最小限度か
  (一)国は、日米安保条約上の義務を履行するために、駐留軍用地特措法に基づ
    いて強制的手段を用いてでも土地の使用権原を取得した上で、米軍に土地を
    使用させなけれはならないものであろうか。
     日米安保条約及び地位協定の解釈にあたっては、次の点に留意する必要が
    ある。
   (1)現在の国際法は、領域主権国家を構成単位とする国際社会を基盤として、
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     発生し発展してきたものである。それゆえ、国際法においては、一国が、
     自国内で立法、司法、行政権限を行使することについて、他国の干渉を受
     けないという領域主権の原則が基本原理とされ、すべての解釈の出発点と
     されているのである。したがって、外国軍隊の駐留のように駐留国の主権
     に重大な影響を及ぼす可能性がある問題を扱う条約の解釈にあたっては、
     一国の主権に対する制約はできるだけ制限的に解釈されなければならず、
     条約規定の用語が、いくつかの許容しうる解釈のどれを選ぶかについて明
     確でない場合には、当事国に課される義務を最低限とする解釈が選ばれな
     ければならない。
   (2)日米安保条約には、「日本国において施設及び区域を使用することを許
     される。」(六条)とのみ規定され、日本国が米国に対して、土地・施設
     の使用権原を取得して、実際に使用させなければならない義務は、文言上、
     何ら規定されていない。すなわち、「条文の文言通りに解釈するかぎり、
     米軍が在日米軍基地を設置することを『許す』も『許さない』も、日本国
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     の自由」(本間浩「在日米軍基地と日本国内法令)駿河台法学第七巻第二
     号・一七頁)のであるから、日米安保条約には、日本国が米国に対して、
     日本国内に軍事基地を設置することの許可を与えることが出来るというこ
     とが定められているに過ぎないと解釈すべきである。
      対等な独立した国家の間で、自国の軍事基地を他国に設置することがで
     きないことは、領域主権の原則上、当然のことである。したがって、米国
     が、日本国内の土地を取得や賃借しても、条約に基づいて日本国の許可を
     得なければ、その土地を軍事基地として使用することはできないのである。
     日米安保条約は、日本国が米国に対して軍事基地を設置することについて
     許可を与えることができる旨を定めているに過ぎない。
      日米地位協定にも、日本国が土地の使用権原を取得して米軍に提供しな
     ければならないという義務を定めた条項は存在しない。日米地位協定で定
     めているのは、日本国は米軍に対して、日本国内の地域について施設・区
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     域として使用を許可することができること(日米安保条約六条、日米地位
     協定二条一項a)、個々の施設・区域の設定は、日米合同委員会で取り決
     めること(日米地位協定二五条)、日本国が経費を負担すること(日米地
     位協定二四条)に過ぎず、日本政府が施設・区域として使用される地域の
     使用権原を取得して、現実に米軍に使用させなければならない義務はどこ
     にも定められていない。したがって、日米合同委員会において、ある土地
     を施設・区域とする旨の合意がなされた場合には、それは、当該土地につ
     いて軍事基地として使用してもよいという許可を与えたこと及びその施設・
     区域について日本国が経費を負担することを定めたものに過ぎず、日本国
     が当該土地の使用権原を取得して、米軍に使用させなければならない義務
     を負担したことを意味するものではない。
      日米安保条約及び日米地位協定について、日本国が強制的手段を用いて
     土地の使用権原を取得する義務を負わないと解釈すべきことは、国際社会
     おいて確立している基本的人権尊重と平和主義の理念からも裏付けられる
     ものである。
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      第二次世界大戦後の国際社会は、大戦がドイツ、日本、そしてイタリア
     といった全体主義国家によって引き起こされた教訓のうえに成り立つもの
     である。すなわち、これら枢軸国では、多かれ少なかれ反民主主義的で人
     権抑圧的な体制がしかれ、この戦争を阻止しようとする国民の声は押さえ
     つけられ、戦争の惨禍をもたらした。第二次大戦は、反民主的で国民の人
     権を抑圧する国家が、国際的にはこの戦争へとつき進むものであることを
     具体的に例証したのである。これを踏まえて、戦争を阻止し、平和を確保・
     実現するためには、国内的にも国際的にも人権の保障がなされることこそ
     が必要であるという共通認識が国際社会において確立されたのである。
      この人権の保障が平和の条件であるという考え方は、第二次大戦後、国
     際法規などによって繰り返し確認されてきた。
      一九四五年の国際連合憲章は、一条三項で「経済的、社会的、文化的又
     は人道的性質を有する国際問題を解決するについて、並びに人種、性、言
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     語又は宗教的による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊
     重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること」を国
     連の目的の一つとして規定し、五五条に「人種、性、言語又は宗教による
     差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の尊重及び遵守」を協
     力の目標として掲げ、五六条で「加盟国は、第五十五条に掲げる目的を達
     成するために、この機構と協力して、協同及び個別の行動をとることを誓
     約」し、人権の国際的保護を国際社会の普遍的課題とした。そして、国連
     憲章一〇三条には「国際連合加盟国のこの憲章に基づく義務と他のいずれ
     かの国際協定に基づく義務とが抵触するときには、この憲章に基づく義務
     が優先する」として憲章義務の優先が定められていることから、自国ない
     し他国の国民の人権の制約をもたらす条約の義務の履行は許されなくなっ
     たのである。
      さらに、一九四八年に国連総会で採択された世界人権宣言は、前文にお
     いて「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできな
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     い権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であ
     る」との認識を示した。
      「世界人権宣言は、一八世紀以来、今日まで、世界中の各人権宣言が進
     化発展を続けてきた成果の国際的集大成として、人権の歴史において、き
     わめて重大な地位を占める」(宮沢俊義「憲法〔新版〕」有斐閣・七二頁)
     ものであるが、この世界人権宣言は、人権の尊重こそが国際平和の基礎条
     件をなすもので、人権擁護が国際社会の共通の目的であることが、国際社
     会における普遍的な認識であることを確認したのである。そして、人権保
     障に関する国際的な条約の中で最も重要なものとして一九六六年に採択さ
     れた国際人権規約は、A規約、B規約共に、その前文で「この規約の当事
     国は、国際連合憲章において宣言された原則に従い、人類社会のすべての
     構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することが、
     世界における自由、正義及び平和の基礎である」と規定し、あらためて平
     和の基礎としての人権の重要性を確認し、人権を国際的に保障したのであ
     る。
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      また、一九四七年に締結された、連合国とイタリア、ルーマニア、ブル
     ガリア、ハンガリー、そしてフィンランドとの平和条約は「(五カ国は)
     人種、性、言語又は宗教の相違に関わらず、その管轄下にあるすべての人
     に対して、表現、出版刊行の自由、信教の自由、政治的意見及び公の集会
     の自由を含む、人権と基本的自由の享有を保障するために必要なあらゆる
     措置を講ずるものとする。」と規定し、一九五二年に発効した対日平和条
     約の前文は「日本国としては、国際連合への加盟を申請し且つあらゆる場
     合に国際連合憲章の原則を遵守し、世界人権宣言の目的を実現するために
     努力し、国際連合憲章第五十五条及び第五十六条に定められ且つ現に降伏
     後の日本国の法制によつて作られはじめた安定及び福祉の条件を日本国内
     に創造するために努力」する意思を宣言している。このように、旧枢軸国
     との平和条約で人権の保障が謳われたということは、人権の保障が平和を
     実現し、戦争の再発を防止するうえで極めて重要であるとの認識を表明し
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     たものに他ならない。
      さらに、一九七五年に、東西ヨーロッパ諸国(米ソを含めて)三五カ国
     が集まって開かれた欧州安全保障協力会議の最終文書として発表されたヘ
     ルシンキ宣言では、例えば「参加国は、人権と基本的自由の普遍的意義を
     確認する。これら人権と基本的自由の尊重は、参加国間並びにすべての国
     家間における友好的関係及び協力の促進を確保するために必要な平和、正
     義並びに福利にとって基本的な要素である。参加国は、つねにこれらの権
     利と自由を、その相互関係において尊重し、協同してあるいは個別に、国
     連との協力をも含めて、これらの権利と自由への普遍的並びに効果的な尊
     重を促進することを努力するものとする。」として、基本的人権の尊重が
     安全保障のために重要な役割を果たすことを明らかにしている。また、一
     九七八年の「平和と人権=人権と平和」会議(オスロ会議)の最終文書は
     「平和への権利は、基本的人権の一つである。いかなる国民も、いかなる
     人間も、人種、信条、言語、性によって差別されることなく、平和のうち
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     に生存する固有の権利を有する。この権利の尊重は、他の人権の尊重と同
     様に、人類の共通の利益にかなうものであり、かつすべての地域における、
     大小を問わずあらゆる国民の発展にとって不可欠の条件をなす。基本的人
     権と平和は、いずれか一方に対するいかなる脅威も、他方に対する脅威と
     なるという意味で、不可分である。人権と平和は、人権を促進する行動は、
     平和の促進と維持と結合されなければならないという意味で、国内的にも
     国際的にも相互依存的である。平和と基本的人権は、いついかなる場所に
     おいても、不可譲かつ絶対的なものであり、人類の共通の財産である。上
     記の諸権利の完全な実施は、各個人の政治生活への積極的かつ自由な参加
     に依存するので、この基本的な権利は承認され、かつ、確保されなければ
     ならない」と述べて、平和と基本的人権の保障の必要性が確認されている。
      このように、第二次大戦後の国際社会では、平和を保障するために基本
     的人権が尊重されなければならないということが共通目標とされているの
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     である。したがって、条約の解釈は、基本的人権尊重と平和主義の理念に
     適合的になされねばならず、日米安保条約、地位協定の解釈についても、
     日本国が国民の基本的人権たる財産権を強制的に制約してまで土地使用権
     原を取得し、米軍に実際に使用させなければならない義務を負っているも
     のと解釈することは許されないと言うべきである。
      日本国憲法九八条二項は、「日本国が締結した条約・・・は、これを誠
     実に遵守することを必要とする。」と規定しているが、軍事基地用地取得
     のために個人の意思を制圧して基本的人権たる財産権を制約することを拒
     否することこそが、国際連合憲章、世界人権宣言、国際人権規約、対日平
     和条約等を遵守することになり、平和主義と国際協調の理念に合致するも
     のである。しかも、基本的人権保障を確認した前記諸条約や宣言は、国際
     社会の構成員によって一般的に承認され、普遍性を持つ「確立された国際
     法規」であり、強国によって事実上弱小国に押しつけられる可能性のある
     単なる個別の条約に優越するものであるから、米軍用地のために個人の意
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     思に反して財産権を強制剥奪することこそが、憲法九八条二項に反するも
     のというべきである。
      日米合同委員会においては、当該土地について施設・区域として使用し
     てもよいという許可を与えること及びその施設・区域について日本国が経
     費を負担することを定め得るに過ぎず、日本国が当該土地の使用権原を取
     得して、米軍に使用させなければならない義務を定めることができないこ
     とは、日米地位協定の実施のための国内法である「日本国とアメリカ合衆
     国との間の相互協力及び安全保障条約六条に基づく施設及び区域並びに日
     本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う国有の財産の管
     理に関する法律」に照らしても、明らかである。
      すなわち、同法七条は「合衆国に対して政令で定める国有の財産の使用
     を許そうとするときは、内閣総理大臣は、あらかじめ、関係行政機関の長、
     関係のある都道府県及び市町村の長並びに学識経験を有する者の意見を聞
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     かなければならない」と定め、政令で定める財産とは「第二条〔無償使用〕
     の規定により合衆国に使用を許そうとする財産のうち、その使用を許すこ
     とが産業、教育若しくは学術研究又は関係住民の生活に及ぼす影響その他
     公共の福祉に及ぼす影響が軽微であると認められるもの以外のもの」とさ
     れている。これは、米軍に対して国有財産の使用を許すことが産業、教育
     若しくは学術研究又は関係住民の生活に及ぼす影響その他公共の福祉に及
     ぼす影響が軽微でなく、使用を許すことが不適当である場合には、米軍に
     対して使用を許さないことを前提とする規定である。このような規定を設
     けているのは、日米合同委員会で施設・区域とする旨の合意がなされた場
     合でも、それは直ちに日本国が米軍に土地を実際に使用させなければなら
     ないことを意味するのではなく、別途、米軍に土地を実際に使用させるか
     否かを判断して、取り決めることを示しているものに他ならない。
      日本国が、強制的に国民の財産権を制約しても施設・区域の使用権原を
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     取得し、実際に米軍に施設・区域を使用させなければならないという合意
     を、日米合同委員会で取り決めることができないことは、日米合同委員会
     における合意手続から考えても当然のことと言える。
      基本的人権は何よりも尊重されねばならず、基本的人権の制約は、国民
     の国政への積極参加と公開が実質的に保障された民主制の過程でしかなし
     得ない。また、国民の基本的人権に対する制約については、当該人権の享
     有主体、さらにはそれによる利害関係を受けるものについて、その手続に
     参加して防御をなしうる機会を保障し、手続的正義が確保されなければな
     らない。この民主主義、手続保障を欠く手続で、国民の人権を制約するこ
     とが許されないことは、現代の国際社会では自明のこととされている。
      ところが、日米合同委員会の合意は、日本国外務省北米局長と在日米軍
     参謀長との間でなされ、そこに国会のコントロールはなく、しかも、日米
     合同委員会における合意事項は原則的に公表されておらず、国会、国民が
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     合意事項を検証する手段、機会も保障されていない。さらに、施設・区域
     の設置について合意する場合にも、地主、当該土地の所在する地方公共団
     体等が、意見を述べる機会すらないのである。このように、民主的手続も
     なく、利害関係人の権利保障のための適正手続も用意されていない日米合
     同委員会において、国民の財産権を強制剥奪してまで日本国が土地使用権
     原を取得することを合意することは許されない。
      したがって、国は、米軍用地の使用権原を取得する義務を負うものでは
     なく、米軍用地の取得のためのという目的は、財産権制約の正当な目的と
     はなりえない。
      以上のとおり、日米安保条約上、日本国は、所有者の意思に反してまで
     土地の使用権原を取得して、米軍に施設・区域として現実に使用させなけ
     ればならない義務を負っているものではない。
      したがって、そもそも日本国は、強制的に土地の使用権原を取得する義
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     務はないのであるから、米軍に施設・区域を使用させるという目的で、国
     民の財産を強制的に取上げることは、右目的達成に必要な最小限度の範囲
     をはるかに越えるものであり、およそこの法律によって財産権を制約する
     ことは認められない。
  4 米軍の駐留目的と米軍基地の実態―立法事実論
    法律は、一定の事実状態を前提として存在するものである。従って、基本的
   人権を規制する法律の合憲性を判断するためには、規制目的の正当性、規制の
   必要性、規制方法・手段の相当性を、それを裏付ける事実状況(立法事実)が
   存するか否かと関連付け、検討・評価する必要がある。そして、法律の制定時
   のみならず裁判時において、かかる法律による規制を裏付ける状況が存しない
   場合は、当該法律は、基本的人権を不必要に制約するものとして、違憲・無効
   となる(佐藤幸治「憲法(第三版)」青林書院三七二頁)。
    駐留軍用地特措法は、国民の所有する土地を強制的に使用・収用するもので
---------- 改ページ--------85
   あるが、このような財産権制約を裏付ける事実状況が存するかどうかが検討さ
   れなければならない。
    駐留軍用地特措法は、日米安保条約六条及び地位協定に基づいて、米国軍隊
   に軍用地を提供することを目的とするが、その在日米軍の目的は「日本の安全」
   と「極東の安全」に寄与することにある。
    しかし、在日米軍特に沖縄の米軍基地の実態は、「日本の安全」と「極東の
   安全」に寄与するという、駐留軍の目的の範囲に止まっているか、その目的の
   範囲を越えて、存しているのではないか。
    日米安保条約六条は、「日本の安全」のみならず「極東の安全」のためにも、
   在日米軍の出動を認めている。これは、わが国が、「日本の安全」とは無関係
   な戦争に否応なく巻き込まれる危険が常にあることを意味する。しかも、近時
   の日米安保再定義により、日本及び米国政府が、この「極東の安全」を拡大解
   釈し、在日米軍基地を米国の世界戦略の一環として位置づけ、米国のアジア・
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   西太平洋地域における国益の擁護を主たる目的とし、在日米軍の自由な行動を
   最大限保障しようとの合意が形成されつつある以上、この危険はいよいよ現実
   的かつ客観的に増大しているといわなければならない。
    今日の在日米軍は、「日本の安全」「日本の防衛」のためにあるのではなく、
   アジアにおける米国の韓国、台湾、フィリピンとの各軍事条約やSEATO
   (東南アジア条約機構)の義務を果たすため、いいかえれば、朝鮮半島から東
   南アジアにいたる西太平洋地域でのアメリカの世界戦略を遂行するために、こ
   れを第一次的な任務として日本にその軍事力を展開しているのである。
    その具体的な状況について、「軍事化される日本」(「世界」編集部三七〜
   三八頁)は次のように述べている。
    「このように、米国は日本を守り、日本は基地を提供する-というのがこの
   条約の表向きの構造だが、結局のところ、日本はこの条約を締結することによっ
   て、米国の戦後の世界戦略、とりわけ対中国、対ベトナムを中心とするアジア
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   戦略の中で、米国の軍事力をさらに遠くに投入することを可能にするための
   『世界基地』に自らを位置づけることを選んだのである。実際、沖縄を含めた
   米軍基地は、絶大な力を発揮してきた。日本の基地なしには、米軍は朝鮮戦争
   もベトナム戦争も戦うことはできなかったし、今後もアジア、インド洋での戦
   争を行うことはできないだろうといわれている。
    日本を守るためではないー。米国にとって日本の位置が重要であり、そこに
   軍事力を展開することが、米国の利益になるからこそ、米軍は日本にその最新
   鋭の部隊を駐留させているのである。これは、米国防省報告がくりかえし認め
   ているところである。」
    例えば、米国防省は、一九九五年二月、米国議会に、「日米間の安全保障に
   ついての報告」を提出したが、それによると、「わが国の陸軍、空軍、海軍、
   海兵隊の在日基地は、アジア太平洋における米国の最前線の防衛線を支えてい
   る。これらの軍隊は、遠くペルシャ湾にも達する広範囲の局地的、地域的、さ
---------- 改ページ--------88
   らに超地域的な緊急事態に対処する用意がある。」という。すなわち、在日米
   軍と米軍基地は、日本の防衛のためだけではなく、遠くペルシャ湾にも展開し
   て、米国を防衛する役割をもっていることが報告されているのである(梅林宏
   道「情報公開法でとらえた在日米軍」高文研三〇〇頁参照)。
    このように、在日米軍特に沖縄の米軍基地は、「日本の安全」「極東の安全」
   を確保するために存するのではなく、米本土をはじめ米国の国益を守るために
   存し、米国本土防衛の最前線基地の機能を果たしているのが実態なのである。
    このような米軍基地特に沖縄の米軍基地の実態を直視すると、「日本の安全」
   「極東の安全」のために、国民の所有する土地を強制的に使用して、米国軍隊
   に軍用地として提供するという駐留軍用地特措法を適用する前提事実(立法事
   実)を欠くというべきである。
    従って、駐留軍用地特措法は、その適用による規制を裏付ける事実状況が存
   しない以上、国民の財産権を不必要に規制するものであり、憲法二九条三項に
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   違反し、違憲・無効であることは明らかである。
  5 結論
    以上述べたように、仮に日米安保条約が合憲であり、米国軍隊の日本国内へ
   の駐留が憲法上許容されるとしても、憲法に、米国軍隊の駐留目的実現のため
   の国民の人権制約を認める条項が存在しない以上、人権を制約することはでき
   ない。これは、仮に、自衛隊の存在が憲法九条に違反しないとしても、憲法に、
   自衛隊の存在目的実現のために、人権を制約しうる条項が存在しない以上、例
   えば、自衛隊への徴兵制度を設けることは許されないこと、自衛隊用地取得の
   ために、個人の所有地を公用収用することは認められていないこと等と比較す
   れば明らかである。
    従って、駐留軍用地特措法の財産権制約の目的の正当性を欠くものであって、
   憲法二九条に違反することは明らかである。
    さらに国の日米安保条約上の義務は、国民と賃貸借契約を締結し、任意に使
   用権を取得して、米国へ提供するというのが限度である。従って、国は、国民
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   の所有地を強制的に取得して、米国に提供する義務を負わないのであるから、
   国民の所有地の強制収用を内容とする駐留軍用地特措法は必要以上に国民の財
   産権を制約するものであり、この点からも、憲法二九条に違反することは明ら
   かである。
    また立法事実論の点からも駐留軍用地特措法は、憲法二九条に違反し、違憲・
   無効であることは明らかである。
 三 憲法三一条違反
   駐留軍用地特措法は、以下に述べるとおり、土地収用法に比してその手続を著
  しく簡略化しており、使用及び収用される土地所有者等の権利保護に欠けるから、
  適正手続を保障した憲法三一条に違反するものである。
  1 土地収用法一八条について
    土地収用法においては、起業者が建設大臣または都道府県知事に事業認定申
   請書を提出する際の添付書類として事業計画書の添付を義務づけている(土地
   収用法一八条)。この事業計画書には、事業計画の概要、事業の開始及び完成
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   の時期、事業に要する経費及びその財源、事業の施行を必要とする公益上の理
   由、収用または使用の別を明らかにした事業に必要な土地等の面積、数量など
   の概要並びにこれらを必要とする理由、起業地等を当該事業に用いることが相
   当であり、かつ土地等の適正かつ合理的な利用に寄与することになる理由が記
   載されるようになっている(規則三条一項)この記載内容をみればわかるとお
   り、事業計画書は申請に係る事業の内容を具体的に説明するものであり、事業
   の認定機関は、この事業計画書に記載された事項をもとにして、事業が三条各
   号の一に掲げるものに関するものであること、起業者が当該事業を遂行する充
   分な意思と能力を有するものであること、事業計画が土地の適正かつ合理的な
   利用に寄与するものであること、土地を収用し、又は、使用する公益上の必要
   があるものであることの四つの認定要件に該当するか否かを判断するものであ
   る。
    ところが、駐留軍用地特措法では、使用または収用の認定の申請に、このよ
   うな「事業計画書」もしくはそれに相当する使用・収益の内容を具体的に説明
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   した書類の添付は要求されていない。
  2 土地収用法二四条、二五条について
    土地収用法においては、建設大臣または都道府県知事は、事業の認定を行お
   うとするとき、起業地が所在する市町村の長に対して、事業認定申請書及びそ
   の添付書類のうち、当該市町村に関係のある部分の写しを送付しなければなら
   ず(二四条一項)、右書類を受け取った市町村長は公告の日から二週間右書類
   を公衆の縦覧に供しなければならず(同条二項)、また、事業の認定に利害関
   係を有する者は、右二週間の縦覧期間内に、都道府県知事に意見書を提出する
   ことができる(二五条一項)。
    これに対し、駐留軍用地特措法では、この事業認定申請書、添付書類の送付
   及び縦覧の手続はなく、利害関係人の意見書の提出についての定めもない。国
   民の権利保護手続として不十分である。
    また、前述したように、土地収用法においては、利害関係人は、事業認定書
   及び事業計画書の添付書類を閲覧することができるから、具体的な事業の内容
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   を充分に検討したうえで、有効・適切な意見書を作成して提出することが可能
   であるが、駐留軍用地特措法の場合、同じく「意見書」の提出が認められてい
   るとはいえ、その使用・収用の内容については、ほとんど何も知らされない状
   態で意見書を提出しなければならず、現実的、実質的な権利保護の程度と内容
   は、両者間で著しい相違があるといわなければならない。
  3 土地収用法二三条について
    土地収用法は、事業の認定を行おうとする場合において、必要があるときは、
   公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない(二三条)と規定している。
    公聴会は、必ず開かなければならないものとはされていないけれども、「必
   要があるときは開かなければならない」ものであり、憲法三一条の適正手続の
   保障の一環として、事業認定の公正・妥当さを保障するために法が認めている
   重要な制度である(例えば、公害の発生が予測される事業や、あるいは本件の
   ごとき事例を考えれば、その重要性は明確であろう)。
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    ところが、駐留軍用地特措法は、土地収用法二三条の適用を除外し、公聴会
   の制度を廃止している。
 4 結論
   駐留軍用地特措法において、この使用・収用の認定に至る事前手続における権
  利保護の手続きが、土地収用法に比較して、形式化・形骸化されていることは明
  白であり、適正手続を保障した憲法三一条に違反するものである。
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第三 駐留軍用地特措法を本件各土地の使用のために適用することの違憲性
 一 適用違憲、運用違憲
   被告は、第二で駐留軍用地特措法の法令違憲を主張したが、仮に同法自体が違
  憲でないとしても、同法を本件各土地に適用して強制使用をなすことはその適用
  において違憲無効であり、従って、強制使用手続の一連の過程をなす本件公告縦
  覧の手続も違憲無効というべきである。
  1 適用違憲の意義
    被告が主張している駐留軍用地特措法の適用違憲とは、使用認定の違憲性に
   とどまらず、後続の各手続それ自体の適用において違憲性をもたらすことは当
   然である。
    駐留軍用地特措法による土地等の強制使用手続は、おおまかに言えば、起業
   者による事業のための準備手続、内閣総理大臣による使用認定手続、土地・物
   件調書作成など防衛施設局長による使用裁決申請の準備手続、収用委員会によ
   る使用裁決手続といった一連の処分や事実行為の過程を経なければならない。
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   それらの手続全てが、対象となる土地等の強制使用を目的とするものであり、
   それらの一つでも欠ければ土地等の強制使用はなされ得ないものである。使用
   認定は、その過程での重要な一つの処分であるということはできるとしても、
   その処分のみから直ちに土地等の強制使用権原の発生という法的効果が発生す
   るものではない。その後の各手続要件も充足して初めて強制使用ができるので
   ある。従って、各手続それ自体の適用が違憲か否かを検討しなければならない。
    これを本件に即して言うと、本件各土地に対して駐留軍用地特措法を適用す
   ることによって、本件各土地が駐留軍に提供される結果、被告の主張している
   適用違憲を基礎づける基地被害などの様々な事実がもたらされるのである。す
   なわち、それらの事実は、使用認定処分の違憲無効をもたらすのみならず、こ
   の一連の手続の全ての処分ないし事実行為について違憲状態を招来させるもの
   である。
    この点に関して、例えば本件公告縦覧手続の効果は、収用委員会による使用
   裁決に必要な手続要件の一つが整うことにすぎないのであって、本件公告縦覧
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   の代行事務の執行が直ちに被告主張のような不利益を招来するものではないと
   して駐留軍用地特措法適用の各段階の効果を局限し、矮小化してはならない。
   なぜなら、同法適用の各段階の手続はそれ自体のみをもって完結的に強制使用
   の効果をもたらすものではないから、それら個別の手続の違憲性を争えないと
   した場合、一連の行為は違憲であるのに、その一部をなす各個の行為が合憲と
   されることになり、違憲性を争う手段を著しく奪われることになるからである。
   また、公告縦覧の手続もその最終的な目的は当該土地の強制使用にあるのであっ
   て、その強制使用が違憲というのであれば、その準備手続である署名等代行手
   続も全く無意味であるばかりかその手続の一環である本件公告縦覧も違憲無効
   であり、これを法律上命令することは、結果として違憲な法的効果に向けられ
   た準備行為への加担を命ずるという不当な結果になるからである。
  2 運用違憲について
    被告による駐留軍用地特措法の適用違憲の主張は、本件強制使用手続そのも
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   のの違憲性を明らかにするものではあるが、それにとどまるものではない。
    駐留軍用地特措法は、その他の関連法令の運用とあいまって、在沖米軍基地
   の存在について、憲法違反の状態をもたらしているのであるから、駐留軍用地
   特措法の運用自体が違憲であるというべきである。
    すなわち、運用違憲とは、法令それ自体を合憲としつつ、法令の運用の実態
   を審査し、そこに違憲の運用が認められるとき、その一環としての運用である
   当該事件の措置を違憲・無効とするものである(伊藤正巳「憲法第三版」弘文
   堂六四二頁)。
    もっとも、運用違憲という違憲審査方法について、当該行為への適用とは全
   く無関係に法令の運用を問題にする場合には事件性を欠くものとして裁判所の
   司法審査の対象外となるものではないかとの疑問が或いは生じうるかもしれな
   いが、問題となる行為が、違憲の結果をもたらす運用の一環として、現実に違
   憲の結果の一因となっている場合には、事件性に欠けるところはなく、その運
   用全般を司法審査の対象とすることに何ら問題は存しない。
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    この運用違憲という違憲審査の手法は、多数の行為が密接に関連、作用して、
   一連の行為の集積として憲法に適合しない状態を生じさせているが、この一連
   の行為をことさらに格別の行為に分断し、個々の行為の効果のみを取り上げた
   場合には、個別の行為の効果自体は直ちに憲法違反とまでは言い難い事案につ
   いて、事柄の本質に即して、正義衡平に適った結論を導くことのできる優れた
   手法である。そして、ここに言う法令の運用とは、必ずしも単一の法令の運用
   を指すものではなく、同一の目的のために、複数の法令が密接に関連して運用
   され、その全体の集積として一定の結果を生じさせている場合には、いわば複
   合体をなす一連の法令の運用全体が審査の対象となるものというべきである。
    そして、駐留軍用地特措法は、日米安保条約、地位協定に基づき、米軍に対
   して施設・区域(基地)を提供することを目的とする法律であり、また「日本
   国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及
   び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う国有
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   財産の管理に関する法律」などの米軍基地提供を目的とする一連の法令と密接
   に関連しているものであるから、かかる一連の法令の運用の実態、すなわち、
   米軍基地提供の実態について、その運用全体が憲法に適合するか否かを検討し
   なければならない。つまり、前述したとおり本件各土地に対する強制使用手続
   それ自体の違憲性も問われなければならないのは当然として、本件各土地の強
   制使用の経過と、それが直接もたらす効果、権利侵害のみを検討すれば足りる
   というものではなく、本件各土地の存する施設、ひいては在沖米軍基地全体の
   米軍基地としての運用とそのもたらす被害の実態、これらに対する駐留軍用地
   特措法など関連法令適用の実態を踏まえた違憲性の判断をすべきなのである。
   本件各土地の強制使用の効果を分断してとらえ、その一筆一筆の強制使用が直
   接もたらす効果のみに目を奪われれば、各施設の基地提供行為の集積による沖
   縄県民に対する重大な権利侵害の事実が、見過ごされることになるといわざる
   を得ない。
    以上を前提に、本件各土地に対する駐留軍用地特措法の適用が憲法の各条項
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   に違反することを順次明らかにする。
 二 安保条約目的条項を逸脱する米軍の駐留の憲法九条、前文への違反
  1 砂川刑特法事件最高裁判決
    旧日米安保条約の合憲性について争われた砂川刑特法事件において、最高裁
   大法廷一九五九年一二月一六日判決は、次のとおり判示した。まず、憲法九条
   二項前段の規定の一般的意義について、「同条項がその保持を禁止した戦力と
   は、我が国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいう
   ものであり、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれが我が
   国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。」
   とした。次に、米国軍隊の駐留が憲法九条、九八条二項及び前文の趣旨に反す
   るかどうかについて、「(同軍隊の駐留の)目的は、もっぱら我が国および我
   が国を含めた極東の平和と安全を維持し、再び戦争の惨禍が起こらないように
   することに存し、我が国がその駐留を許容したのは、我が国の防衛力の不足を、
   平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して補おうとしたものに外ならない
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   ことが窺えるのである。果たしてしからば、かようなアメリカ合衆国軍隊の駐
   留は、憲法九条、九八条および前文の趣旨に適合こそすれ、これらの条章に反
   して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない。」
   とした。
  2 憲法九条及び平和的生存権に基づく外国軍隊の駐留に対する制約
    日米安保条約自体の憲法適合性はさておき、仮に外国軍隊の駐留の合憲性を
   肯定する立場に立とうとも、「いかなる目的のいかなる軍隊であったとしても
   外国軍隊の駐留自体がおよそ憲法上禁じられていない。」とまで認める見解は
   成り立ちえない。なぜならば、憲法は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に
   信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」(前文)、更に九条に
   よって、国際紛争の平和的解決を選択するという徹底した平和主義を採用し、
   かつ「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存す
   る権利を有する」(前文)ことを確認しているからである。
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    すなわち、憲法九条や平和的生存権の規定があるにもかわらず外国軍隊の駐
   留が違憲ではないとしても、それは、憲法九条も主権国家に固有の自衛権の保
   持を否定しているわけでないとした上で、その権利を行使するための自国の防
   衛力の不保持ないし不足を補う目的の限りにおいて存在する外国軍隊の駐留で
   あるからとしか説明できないのである。現在の政府見解をもってしても、集団
   的自衛権の行使は憲法上否定されていると解され、日米安保条約上の共同防衛
   の範囲が「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力
   攻撃」の場合に限定されており(同条一項)、我が国の側からすれば集団的自
   衛権の行使を認めたものではないと説明されるのは、このことと同じ文脈でと
   らえられるものである。
    右最高裁判決も、旧日米安保条約が、我が国と我が国を含む極東の平和の維
   持を目的としており、憲法九条にもかかわらず当然我が国が有している「固有
   の自衛権」というものを前提として、その防衛力の不足を補うものであるとい
   うことを根拠に、それが一見明白に違憲無効とは認められないとしているので
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   あり、そうでない外国軍隊の駐留は違憲と判断される余地を十分に残している
   のである。
  3 憲法九条及び平和的生存権に基づく日米安保条約目的条項の制約の存在
    現行日米安保条約六条は、米軍による施設及び区域使用の目的を「日本国の
   安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」
   と定めており、その限りにおいて旧日米安保条約の有していた目的を継承して
   いる。先に述べたとおり、仮にこの日米安保条約を合憲とする見解に立ったと
   しても、外国軍隊の駐留に対して全く憲法上の規制がないということではなく、
   それが「日本国」の安全に寄与し、並びに「極東」における国際平和等に寄与
   する目的に限定されることによって初めて合憲といい得るのである。なお、我
   が国の自衛権行使の不足を補うという観点からすれば、この範囲を「極東」に
   拡大することに疑問無しとはしないが、一九六〇年二月二六日日本政府統一解
   釈によれば、「極東の平和と安全に寄与するということが、日本の平和と安全
   とうらはらになっている」とされており(「安保条約ーその批判的検討」)、
   極東という日本に近接した地域の平和が日本の平和と安全に密接に結びついて
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   いること、すなわち日本の自衛権の行使に関わることがその正当化の根拠とさ
   れているのである。
    右のことを裏返して言えば、日米安保条約の運用が右目的を逸脱した場合に
   は、日米安保条約の合憲性についていかなる見解に立とうとも、その運用は憲
   法九条と平和的生存権の規定に反する違憲状態と判断されるのは疑問の余地が
   ない。
    駐留軍用地特措法も、日米安保条約の右目的の範囲内の運用のための米軍用
   地を提供することを目的とした法律である以上、日米安保条約の目的条項を逸
   脱した運用のための米軍用地の使用に関し同法を適用することは、同法による
   「駐留軍の用に供する」との要件を欠き、ひいては憲法九条及び平和的生存権
   に違反することになるのである。 
  4 日米安保条約目的条項を逸脱する米軍駐留の実態
  (一)「極東」の意義について、前記日本政府統一解釈によれば、「極東の区域
    は…大体においてフィリピン以北、ならびに日本及びその周辺地域で韓国及
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    び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている」とされている。しか
    し、在日米軍基地、ことに在沖米軍基地の活動の実態は、日本および極東地
    域に限定されてきたものでなく、むしろアメリカの世界戦略に従ってアジア
    太平洋地域全般のアメリカの国益を擁護することにその中心が存するのであ
    る。
  (二)ヴェトナム戦争、湾岸戦争などにおける在日米軍基地からの出動の実態を
    在日米軍基地の現実の利用の実態から具体的にみてみよう。
     ヴェトナム戦争において、在沖米軍基地は後方支援基地としてフルにその
    機能を発揮したことは周知の事実である。嘉手納飛行場からは北爆のための
    B五二爆撃機が出動し、那覇軍港からは戦闘用車両等が積み出され、牧港補
    給地区では、戦闘で破壊された戦車等の修理がなされ、また戦死した兵員の
    遺体が運び込まれるなど、まさに沖縄もその戦場にされたのであった。
     一九九一年一月一七日に始まった湾岸戦争では、在日米軍基地から、沖縄
    の約八、〇〇〇人以上、横須賀を母港とする空母ミッドウェー戦闘群六隻、
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    岩国の攻撃機二個飛行中隊三一機、横田の輸送部隊など合計約一万五〇〇〇
    人以上が出動した。
     なかんずく沖縄では、一九九〇年八月二日にイラクがクウェートを侵略す
    るや、同月七日(「砂漠の盾」作戦の初日である)から八日にかけて嘉手納
    基地から武装兵を乗せたC一三〇輸送機や空中早期警戒管制機(AWACS)
    が発進したのを始め、第三海兵遠征軍第三海兵師団の第四海兵連隊、第九海
    兵連隊、第一二海兵連隊などの歩兵、砲兵、戦車、水陸両用車、後方支援部
    隊を中心に、普天間基地の第三六海兵航空群の攻撃・輸送ヘリ部隊、海軍工
    兵隊、第三七六戦略航空団のKC一三五空中給油機などの空中給油、組織整
    備部隊、そして陸軍特殊部隊グリーンベレーまで次々と出動した。
     ヴェトナム戦争や湾岸戦争以外にも、一九七九年三月、米韓合同演習「チー
    ム・スピリット」に参加するため嘉手納基地に飛来してきたE3Aが、南北
    イエメンの武力紛争に関連してサウジアラビアに発進して偵察任務についた
---------- 改ページ--------108
    事例もある。また、普天間基地の第三六海兵航空群は、緊急投入戦力として、
    湾岸戦争以前にも一九八〇年のイラン干渉の際に、ペルシャ湾に投入された。
    このような事例は枚挙にいとまがない。
     以上のように、在日米軍基地は、これまで我が国はおろか「極東」にも入
    らない地域での戦争や紛争における米国の利益のために使用されてきたので
    ある。
  (三)アメリカ政府による在日米軍基地の位置づけ
     このような在日米軍基地の存在目的と活動実態については、アメリカ政府
    ないし軍当局者からもこれまで何度となく明らかにされてきた。
     例えば、一九七八年に在沖米四軍調整官は、「私の率いる部隊が出動する
    範囲に制限はない」と発言しており、右のことを裏付けている。
     このような在日米軍の位置づけは、後述する安保「再定義」によって、一
    層明確化されるとともに、日本政府自身も共同声明という形でその役割を公
    に認めようとしているのである。
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  (四)以上のとおり、在日米軍基地の運用の実態は、日本および極東地域安全と
    いう日米安保条約の本来の目的を逸脱したものである。
     それは、本件で強制使用認定の対象となっている在沖米軍各基地について
    も同様である。
     従って、米軍によるその目的を逸脱した活動のために使用する土地を提供
    するために駐留軍用地特措法を適用することは、憲法九条および前文の規定
    に違反するというべきであり、ひいては、被告には同法による強制使用手続
    の一環としての本件土地の公告縦覧の代行義務は生ぜず、原告による本件職
    務執行命令は理由がない、というべきである。
  5 安保「再定義」による日米安保条約目的条項逸脱の固定化
    前項に述べた日米安保条約の目的条項を逸脱した米軍駐留の違憲性は、安保
   「再定義」により、ますます鮮明になりつつある。
  (一)日米安保条約の地球規模への拡大を目指す「再定義」
---------- 改ページ--------110
     日米安保の「再定義」とは、東西冷戦が終結して日米安保条約の存在の最
    大の論拠とされてきた「ソ連の脅威」が消滅したために、その存在意義が問
    われている今日において、冷戦後の日米安保体制のあり方を確認しようとい
    う日米双方の作業を指している。「再定義」の協議は、一九九四年一一月に
    米国のジョセフ・ナイ国防次官補(当時)らと日本政府関係者らによって開
    始され、一九九六年四月一七日に東京で開催された日米首脳会談で日米安保
    共同宣言として発表された(異議申し立て基地沖縄・琉球新報社)。
     安保「再定義」の内容は、右首脳会談で発表された日米共同宣言に端的に
    現れている。
     同宣言は、「(日米安保条約を)基盤とする両国間の安全保障面の関係が、
    共通の安全保障上の目標を達成するとともに、二一世紀に向けてアジア太平
    洋地域において安定的で反映した情勢を維持するための基礎であり続けるこ
    とを再確認した。」、「日米安保条約が日米同盟関係の中核であり、地球的
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    規模の問題についての日米協力の基礎たる相互信頼関係の土台となっている
    ことを確認した。」と、日米安保条約を極東条項にとらわれず、地球的規模
    に拡大するとともに、日米関係を軍事同盟を中心にすえることを宣言した。
     そして、昨年一一月に発表される予定であった宣言の案(「旧宣言案」と
    いう)においては、それが「(米国の)死活的な国益の存在する地域に前方
    展開するという世界戦略の一部」であることがあからさまに示されていた。
    国民的非難が向けられることを恐れて今回の共同宣言では、表現がややぼか
    されたものの、その間米国の戦略に変化はなく、意図するところは同じとい
    える。
     日米政府は、この安保「再定義」の動きに合わせて、一九九五年一一月に
    新防衛大綱を策定し、また、本共同宣言の直前に物品役務相互提供協定(A
    CSA)を締結するなどその作業を着実に進めてきている。そして、より重
    大であるのは、日米安保条約を実質的に改定して、日米共同作戦体制を確立
    した一九七八年の「日米防衛協力のための指針」(いわゆる「ガイドライ
    ン」)の見直しを回避することが、本共同宣言で合意されたことである。ま
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    さに、これによって、本来日本の防衛のため存在していたはずの日米安保条
    約が、グローバルな日米共同作戦体制へと重大な一歩を印すことになったの
    である。
     ちなみに、旧宣言案では米国防省国際安全保障局が一九九五年二月に発表
    した「東アジア・太平洋地域に対するアメリカの安全保障戦略」(「東アジ
    ア戦略報告」)を安保「再定義」の基礎にすえることを明言していたのに対
    し、今回の共同宣言では、これについて明示的にはふれられていない。しか
    しながら、「東アジア戦略報告」は、安保「再定義」の米国側の意図をもっ
    とも如実に示すものであり、当然この「再定義」の下敷きになっているもの
    である。
     被告も、その重大性に早くから危惧の念を抱いており、それが、本件公告
    縦覧手続の代行に応じない一つの動機にもなったものであるので、同報告等
    の内容についてもう少し明らかにする。
     「東アジア戦略報告」では、「アジア・太平洋地域におけるアメリカの軍
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    事的前方プレゼンスは、地域的安全保障と、アメリカの地球的規模の軍事態
    勢の不可欠の要素である。」「太平洋における前方展開戦力は、世界中の危
    機に対する迅速・柔軟な対応能力を保障(する)」として、日本を含むアジ
    ア太平洋地域への米軍の前方展開の今日的根拠を明らかにし、そのために今
    後も「アジアにおけるわが国のプレゼンスは、地域の必要に応じ、中東その
    他、地球的規模の安全保障上の緊急事態にこたえるのに十分な規模に維持さ
    れる。」と宣言している。その実践的根拠として湾岸戦争が取り上げられ、
    「たとえば『砂漠の盾』作戦や『砂漠の嵐』作戦の時期に、アジアにおける
    わが国の軍事機構は、アジアの地域的脅威に対する抑止力を首尾よく提供し
    (た)」と評価している。そして在日米軍基地については、「アジアと太平
    洋におけるアメリカの安全保障政策は、日本の基地の利用や、アメリカの作
    戦に対する日本の支援に依拠している。」と最重要視し、「太平洋地域の距
    離的隔たりの大きさからして、日本の基地の利用権の確保は、侵略を抑止し、
    打破するわれわれの能力において決定的役割を果たしている。」ので、引き
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    続きその勢力を維持するとしているのである。これは、沖縄を含む在日米軍
    基地の機能強化と固定化を宣言するものに他ならない。この報告はまさに在
    日米軍基地の存在理由を米国側から率直に物語るものであるが、それが共同
    宣言案に盛り込まれることによって日本政府もそのような位置づけの質的転
    換を公式に確認することとなるのである。安保「再定義」と呼ばれるゆえん
    である。
     また、右報告と同時期の同年三月一日に米国防総省から発表された「アメ
    リカと日本の安全保障関係に関する報告書」(「日米安保報告書」)も日米
    安保と在日米軍基地に関して同様の認識を示している。この報告は、基地縮
    小を求める沖縄の世論が契機となり、一九九五会計年度の米国防認可法にお
    いて初めて日米安保関係に絞って米議会が提出を要求したものであり、在日
    米軍基地の米国にとっての存在意義を率直に述べたものとして重要である。
     その点についての具体的記載をみると、「日本におけるわれわれの陸軍、
    空軍、海軍及び海兵隊の基地は、アジア・太平洋における防衛の第一線を支
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    援するものである。これらの部隊は広範な局地的、地域的、並びにペルシャ
    湾にいたるまでの地域外の緊急事態に対処する準備を整えている。太平洋と
    インド洋の横断距離は非常に長いので、アメリカは、地域的緊急事態に対応
    できるように計画された、小規模で、機敏で、より機動性に富む部隊を重視
    しており、そのことが在日米軍基地の地理的重要性を大きく高めている。」
    というのである。
     更に、右報告書も湾岸戦争での在日米軍の実践的な役割を次のように評価
    している。「日本から作戦に出撃する米海軍が利用できる艦船修理施設は、
    世界でもっとも近代的なものである。これらの施設は、海軍の決定的な展開
    を維持するわれわれの能力に直接的に貢献しており、フィリピン共和国のスー
    ビック湾の施設からのアメリカの撤退以後はなおいっそう重要になっている。
    この価値は、『砂漠の盾』作戦や『砂漠の嵐』作戦の期間中の米空母ミッド
    ウェー戦闘群の展開のさいに実証された。ミッドウェーの航空団の航空機は、
    他のどの空母航空団よりも多く出撃し、人員あるいは航空機の損失もなかっ
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    た。この事実は、日本におけるアメリカの施設で行われた質の高い訓練と優
    れた整備を証明するものとなっている。」
     このように米国は、冷戦後の在日米軍の位置付けについて、日本の安全や
    「極東」条項の定めを超えたグローバルな戦力展開の一部と捉え、今回の安
    保「再定義」によってその意義を日本政府とともに確認することによって、
    日米安保条約の実質的改変を進めようとしているのである。
  (二)在日米軍基地は、これまでも日米安保条約の目的条項を逸脱した米軍の世
    界戦略のために利用されてきたのであるが、今日の安保「再定義」は、その
    ような実態を固定化するばかりでなく、かかる日米安保条約の機能を名実と
    もに地球的規模に拡大することを確認するというものである。
     従って、右のような「再定義」のもとにおける米軍基地のための駐留軍用
    地特措法による本件土地の使用は一層その違憲性を強めるものといわざるを
    得ない。
  (三)沖縄県は、去る大戦で国内唯一の地上戦の戦場となり民間人を巻き添えに
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    して多大な犠牲者を出し、更に戦後の米軍施政権下における基地あるがゆえ
    の様々な被害を受けさせられた歴史を有している。
     このような過酷な歴史を経験してきたがゆえに、自ら二度と戦争の被害を
    受けないというにとどまらず、反対に加害者になり、もしくは加害者に加担
    するようなことも決して容認することができないというのが沖縄県民の総意
    である。被告や関係自治体の積極的な平和行政の推進もこのような県民意思
    に裏打ちされているものである。
     しかるに、戦後五〇年間の米軍基地の駐留は、日本や沖縄の防衛に貢献す
    るというよりもむしろアジア各地での戦争による加害行為をもたらしてきた
    のが現実であり、もはやこれ以上このようなあり方の米軍基地の存続は許容
    できるものではない。かかる観点からも、右日米安保条約の目的条項逸脱に
    よる駐留軍用地特措法適用違憲の問題は避けて通れないといえるのである。
 三 様々な基地被害ないしその危険をもたらしている在沖米軍基地の使用のために
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  駐留軍用地特措法を適用することによる平和的生存権侵害
  1 在沖米軍基地が、個々もしくは総体としての沖縄県民の平和的生存権を侵害
   している事実は前項「米軍基地の違憲状態と法令違憲」において述べたとおり
   である。
    そのうち若干を繰り返しつつ述べると、まず、戦後五〇年の間にも米国はア
   ジア地域における戦争行為を繰り返してきており、その交戦国であった北朝鮮、
   ヴェトナム、イラクなどからの反撃として在沖米軍基地が攻撃されても何らお
   かしくない状況におかれてきた。沖縄県民は、かかる直接の戦争行為によって
   生命身体財産に対する危険にさらされ、具体的な平和的生存権の侵害を受けて
   きている。
    もっとも、米軍が交戦状態になれば、日米安保条約を締結して軍事基地の設
   置を容認している日本国民が平和的生存権を脅かされる一般的危険はあり得る
   といえよう。しかし、ヘーグ陸戦法規二五条において「防守セサル都市、村落、
   住宅又ハ建物ハ、如何ナル手段ニ依ルモ、之ヲ攻撃又ハ砲撃スルコトヲ得ス」
   と規定され、一九二二年の空戦に関する規則二四条一項において「空中爆撃は
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   軍事的目標、すなわち、その破壊又は毀損が明らかに軍事的利益を交戦者に与
   えるような目標に対して行われた場合に限り、適法とする」と規定されている
   とおり、戦時国際法にあっては、軍事的目標に対する攻撃とそうでないものに
   対する攻撃に対する区別が明確になされており、交戦状態になれば、米軍基地
   が集中する沖縄本島地域は事実上優先的攻撃目標となるのみならず、それに対
   する攻撃は法的にも肯定される可能性が高い。従って、沖縄県内の米軍基地の
   集中度を考慮すると、米軍の交戦により、わが国への攻撃の危険性が一般的に
   存在するという程度にとどまらず、少なくとも沖縄本島地域居住の住民につい
   てはその平和的生存権が現実的な脅威にさらされ侵害されているといわねばら
   なない。
    また、戦争準備行為のための基地の設置と演習等は様々な生活被害を及ぼし、
   それらによる平和的生存権の侵害も継続している。嘉手納飛行場などでの航空
   機離着陸、キャンプハンセンなどでの実弾演習による爆音被害、演習事故によ
   る人身被害、嘉手納飛行場のPCB汚染物質の流出による健康被害の危険など
   である。
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  2 以上のような権利侵害について、個々の権利侵害のみをとらえてその救済を
   図るだけでは、その十分な救済は図れない。ここで留意しなければならないの
   は、基地あるがゆえのこれらの権利侵害は、およそ軍事基地を設置すること自
   体が平和的生存権を侵害するかどうかという問題ではなく、在沖米軍基地が人
   口密集地域にしかも多数集中して設置されているという、米国本土の基地にお
   いては到底あり得ない異常なあり方をしているがゆえのものであることである。
   まさに右の被害がこのような基地のあり方に基づく構造的な権利侵害状態であ
   ることから、個別の生命、身体、財産に対する権利のみを取り上げて人権の救
   済を図るところに限界が生じるのであり、ここに地域住民の平和的生存権を法
   的に論じる意義が存するのである。これだけ甚大な権利侵害を伴う基地の立地
   の異常な現実については、政策的な是非の問題にとどまらず、人権侵害の観点
   から法的救済を図られなければならない。
  3 かように在沖米軍基地の存在と運用の結果、沖縄県民の平和的生存権が日常
   的に侵害されている状態が継続しているのだから、かかる基地を米軍に提供す
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   るために駐留軍用地特措法を適用して本件土地を強制使用することは、平和的
   生存権の規定に反して違憲となり、本件職務執行命令も違法というべきである。
 四 憲法一四条、九二条、九五条違反
  1 沖縄への基地集中の差別的実態
  (一)本土の二九五倍の基地負担
     国は、基地提供の根拠となる一連の法令を運用して、沖縄県の土地を米軍
    基地として提供し、その結果、国土面積の僅か〇・六パーセントに過ぎない
    沖縄県に、全国の米軍専用施設の実に約七五パーセントが集中している。そ
    のため、沖縄県の県土面積の一〇・八パーセントを基地が占め、約一一五万
    の人口が密集する沖縄本島の約二〇パーセントが基地となっている。米軍専
    用施設の住民一人当たりの面積で見ると、本土では〇・六七平方メートルで
    あるのに対し、沖縄県では一九七・八平方メートルであり、沖縄県民は実に
    本土の二九五倍の基地負担を負わされているのである。
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     このように、狭隘な島嶼県沖縄に極端なまでに米軍基地が集中し過密化し
    ているため、県民の生活の場が直接基地の影響下に置かれ、米軍航空機の墜
    落事故、航空機の爆音被害、実弾演習による騒音や環境破壊、基地からの有
    害物質流出による水質・土壌汚染、あいつぐ米軍人・軍属による犯罪など、
    米軍基地に起因する県民の被害は絶えまなく発生し、その被害は、県民の生
    命、健康、財産、教育など生活のあらゆる場面に及んでいる。
     そして地方公共団体たる沖縄県は、右基地被害の対処など、米軍基地が存
    在するが故の著しい行政事務負担を強いられ、また、沖縄県における米軍基
    地の大半が、地域開発上重要な地域に存在しているため、地域の振興開発及
    び県土の均衡ある発展を図る上で大きな制約を受けている。具体的には、都
    市再開発計画や環境整備を推進する上での障害、道路交通体系整備上の障害、
    住宅や公園整備上の障害、企業誘致や工業誘致の対象となる工業用地確保の
    障害、農業の衰退や荒廃の原因であると同時に農業振興上の障害、自然公園
    や自然環境保全政策上の障害などが顕著に生じている。
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  (二)基地形成過程からみた沖縄に対する差別的処遇
   (1)薩摩の琉球侵入以来四世紀近くにわたって、沖縄には、被差別者として
     の苦難の歴史が続いてきた。島津の琉球支配、「琉球処分」以後の政府の
     差別的政策の下で伸吟し、日本本土の沖縄差別がもたらした最大の悲劇で
     ある沖縄戦では、本土決戦、国体護持工作の時間稼ぎのための「捨て石」
     とされ、一〇万人余にものぼる多数の県民が非業の死を遂げた。そして、
     沖縄を占領した米軍は、住民を次々と収容所に収容し、旧日本軍が接収し
     て築いた飛行場を中心に基地建設を進めていった。戦後の基地形成史は沖
     縄戦の延長線上に築かれたものであり、沖縄における基地の存在は沖縄戦
     の傷痕そのものである。
      太平洋戦争中、沖縄は当初は南進政策の軍事拠点として、また終戦間際
     には、日本本土防衛のための拠点とされた。日本軍による土地接収は、一
     九四一年頃から一九四五年頃にかけて行われたが、多くは、一九四三年以
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     降に航空基地用地等として接収されたものである。本件の強制使用の対象
     となっている土地の存する施設(「本件対象施設」という。)である嘉手
     納飛行場は、一九四四年に日本軍に中飛行場として接収され、一九四五年
     の米軍の沖縄本島上陸後に米軍が軍事占領し、さらに接収地域を広げたも
     のである。そして、戦後五〇年以上経った今なお、米軍が基地として使用
     し続けているものであるが、これを日本本土の旧日本軍飛行用地の処理と
     比較するとき、沖縄に対する差別処遇は歴然とする。一九四五年当時、旧
     日本軍の飛行場は二四二件あったが、一九四五年から一九四七年までに処
     理方法も決まり、一九五〇年までには約八〇パーセントが処分され、戦後
     処理が進められた。ところが、沖縄においては、嘉手納飛行場、読谷補助
     飛行場、伊江島補助飛行場などの広大な基地が、戦後五〇年余、復帰から
     でも二四年以上にわたって、米軍基地として使用され続けているのである。
   (2)一九五二年四月二八日、平和条約が日米安保条約とともに発効して、日
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     本は独立を回復したが、沖縄は日本本土から切り捨てられて米国の施政下
     におかれ、戦争が終わってもなお軍事支配の苦しみを受けることとなった。
      そして、日本が独立するや、日本本土の米軍基地はたちまち減少し、一
     九五〇年代初頭に約一二万九〇〇〇ヘクタールあった本土の米軍専用施設
     は、一九六〇年・安保改定の年には約三万ヘクタールにまで激減した。そ
     して、日本本土から撤退した米軍が沖縄に押し付けられてきたのである。
      現在、沖縄の米軍基地の七五パーセント以上を海兵隊基地が占めており、
     本件対象施設のキャンプ・ハンセン、キャンプ・瑞慶覧及び普天間飛行場
     は、いずれも海兵隊基地である。この海兵隊は、もともと富士山麓に駐留
     し、現在はキャンプ・ハンセンで実弾砲撃演習を行っている砲兵部隊も、
     かつては富士演習場で砲撃訓練を行っていた。ところが、一九五四年に海
     兵隊の日本本土から沖縄への移転が発表されるや、一九五七年までの僅か
     三年間で本土から沖縄への海兵隊移転が完了し、翌一九五八年には富士山
     麓の米軍基地の大幅返還が実現された。
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      一九五七年六月二一日の岸・アイゼンハワー日米両首脳の共同声明は、
     日米両国の主権平等を強調しつつ、「一切の米陸上戦闘部隊の速やかな撤
     退を含む」在日米地上軍の大幅削減を発表した。続いて、同年八月一日、
     米国防総省から、在日米軍地上戦闘部隊の撤退が発表され、撤退は、翌一
     九五八年二月八日に完了した。そして、地上戦闘部隊の撤退に伴い、日本
     本土では、演習場、弾薬庫、兵器工場など地上戦闘部隊施設の大規模な返
     還が次々と実現していった。
      そして、平和条約・日米安保条約発効後に日本本土の米軍基地が激減す
     る一方で、沖縄では、米軍基地拡大のため、米軍による新たな土地強奪が
     行われていった。海兵隊の沖縄移転が発表された翌年一九五五年三月には
     伊江村で、一九五五年七月には宜野湾村伊佐浜部落で、銃剣とブルドーザー
     による土地強奪が行われたが(被告第一準備書面第三、二3)、この時に
     強奪された土地が、現在でも海兵隊基地として使用されている。一九五五
     年七月、米軍は国頭、東、久志、宜野座など八カ村に対し、北部の山林地
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     域を海兵隊用地として接収する旨通告し、住民の抵抗を押し切って測量を
     行い、基地を形づくっていった。西太平洋における最大の対ゲリラ訓練基
     地である北部訓練場は、この時に新規接収され、一九五七年から海兵隊基
     地として使用開始された。本件対象施設であるキャンプ、ハンセンは、沖
     縄への海兵隊移駐に伴い、一九五七年に住民の抵抗を押し退けて演習場部
     分の新規接収を行い、「海兵隊が沖縄に建設した最大のキャンプ」と言わ
     れる広大な演習場として建設されたものである。
      このように、日本本土の地上戦闘部隊の撤退がそのまま沖縄にしわ寄せ
     されたのである。そして、沖縄県には、地上戦闘部隊が今なお駐留し、実
     弾砲撃演習による騒音、被弾や環境破壊、普天間飛行場の爆音被害、読谷
     補助飛行場におけるグリーンベレーや海兵隊のパラシュート降下訓練、相
     次ぐ米兵による凶悪犯罪などの基地被害を日常的に発生させている。
   (3)沖縄の日本復帰当時、本土の米軍専用施設面積は一万九七〇〇ヘクター
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     ルにまで減少していた。これに対し、一九五五年に約一万八二〇〇ヘクター
     ルであった沖縄の米軍専用施設面積は、復帰時には二万七八九三ヘクター
     ルとなっていた。沖縄が日本から切り捨てられて米国の施政下に置かれて
     いる間に、沖縄と本土の米軍専用施設面積が逆転し、国土面積の〇・六パー
     セントに過ぎない沖縄に、他の九九・四パーセントの地域よりも遙かに多
     くの米軍専用施設が集中するようになっていたのである。ところが、日本
     政府は、沖縄県と本土とのかくも極端な格差を是正するどころか、復帰後
     も沖縄県を差別的に処遇し、沖縄県と本土の格差はさらに広がっていった。
     本土の米軍専用施設は、復帰後僅か数年で半減したのに対し、沖縄県の米
     軍専用施設は復帰後二四年経った今なお約一五パーセントしか減少せず、
     軍事支配下での土地強奪の上に構築された巨大な基地が、そのままの規模
     で存続し続けている。
  (三)沖縄に米軍基地を集中させる差別的意図
     日本に駐留する米軍は、世界中を作戦範囲とするものであり、沖縄県に基
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    地を集中する軍事上の必然性は全くない。このことは、在日・在沖米軍の実
    態を見れば一目瞭然である。
     在日米軍兵力は、陸軍一九〇〇人(沖縄県に九〇〇人)、海軍一万六五〇
    〇人(沖縄県に一六八〇人)、海兵隊二万三四〇〇人(沖縄県に二万〇二九
    〇人)、空軍一万五三八〇人(沖縄県に七〇三〇人)である。
     この兵力から一見してわかることは、海兵隊の占める割合が極めて高いと
    いうことである。この海兵隊は、「殴り込み部隊」の異名を持つように、侵
    略の最初に敵陣に乗り込み、後続部隊の足場を確保することをその中心的任
    務とするものであり、防衛を任務とするものではない。地域的にも、日本領
    域及び極東のみを対象とするものではなく、むしろアフリカ、中近東を重要
    な対象としているものである。一九八二年の米上院で、ワインバーガー国防
    長官は「米国は、日本の防衛目的だけのために、いかなる軍隊も日本に維持
    していない。約二万五〇〇〇人の在日海兵隊は、第七艦隊の海兵隊であり、
    西太平洋、インド洋に及ぶ第七艦隊の作戦地域内のどこにも配備されるもの
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    である」「沖縄の海兵隊は、日本の防衛任務には当てられていない。そうで
    はなくて、第七艦隊の即戦海兵隊をなし、第七海兵隊の通常作戦区域である
    西太平洋、インド洋のいかなる場所にも配備されるものである」として、在
    日・在沖海兵隊の任務が日本防衛にないことを明確に述べている。そして、
    一九九五年一二月に米国海兵隊第三遠征軍から日本弁護士連合会沖縄調査団
    に交付された「第三海兵遠征軍ブリーフ」と題する小冊子では、作戦担当区
    域は、アフリカ東海岸からハワイまで、面積五二〇〇平方メートルに及ぶと
    され、その中には、ウラル以東のロシア、トルコ、イラク、パレスチナ、ア
    ラビア半島、南アジア、東南アジア全域が含まれるとされている。
     空軍は、世界中の如何なる地域の戦争にも直接介入できるように編成され、
    日本に展開する米空軍は、フィリピン以北、ハワイ以西の北太平洋全域の空
    を作戦範囲とする太平洋第五空軍が、前進配備の戦闘機部隊、輸送機部隊を
    一本化して指揮している。本件対象施設である嘉手納飛行場は、第五空軍の
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    指揮下の極東最大の米空軍基地である。第一八航空団所属のFー一五制空戦
    闘機、空中警戒管制機部隊、空中給油機部隊、戦略輸送部隊が配備され、こ
    れらの部隊が一緒に飛び立てば、世界のどの地域の戦争にも直接介入可能と
    なっている。湾岸戦争にも、嘉手納飛行場から空中給油部隊を中心に多数の
    兵員が出撃していった。
     海軍については、米第七艦隊が横須賀、佐世保などを拠点とし、沖縄にも
    頻繁に寄港しているが、これは日本領域及び極東のみを作戦範囲とするもの
    ではない。米国に母港を置けば、日本領域及び極東をパトロールすることは
    可能であり、日本に母港を置いているのは、インド洋、アラビア海までの広
    い範囲をパトロールするためである。湾岸戦争では、横須賀を母港する巡洋
    艦から発射されたトマホークが戦争の火蓋を切り、横須賀を母港する空母か
    ら艦載機が出撃していった。沖縄の軍港ホワイト・ビーチでは、太平洋に展
    開する米第七艦隊や原子力潜水艦、強襲揚陸艦などへの支援、補給が行われ
    ている。
     陸軍については、太平洋地域全体に対する兵站任務が在日陸軍の任務の中
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    心となり、湾岸戦争では呉の弾薬が最初に砂漠に到着した。在日陸軍唯一の
    戦闘部隊は「悪魔の部隊」グリーンベレーと呼ばれる特殊部隊で、本件対象
    施設であるトリイ通信施設に駐留している。沖縄における陸軍兵力の約半数
    はこの「悪魔の部隊」である。その任務は、在日米軍の作戦統制を受けず、
    外国の内戦への介入、特殊破壊工作、特殊偵察などであり、その作戦範囲は
    世界中に及んでいる。
     このように、在日・在沖米軍は、世界中を作戦範囲としているのであり、
    沖縄県に基地を置かねばならない軍事的理由はない。ウラル・ロシアやアフ
    リカ東海岸に作戦展開するために、日本本土からではなく、沖縄から出撃し
    なければならない必然性は全くない。日本への軍事力確保の理由として常に
    援用される朝鮮半島についても、沖縄県よりも日本本土の方が遙かに近いの
    である。
     日本国内の米軍基地を沖縄に置く必要がないことは、米国政府、米軍関係
    者自身も繰り返し認めている。昨年、ナイ米国防次官補及びペリー国防長官
    は、沖縄の米軍基地から日本本土への兵力の移転は可能である旨の認識を示
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    した。在沖海兵隊のスチュワート・ワグナー大佐は、沖縄タイムス紙のイン
    タビューに対し、日本に駐留する米軍基地の配置については「どの基地に置
    くかは元来、日本政府が決めることだ。沖縄の負担を軽減するため、基地を
    どこに移転するかは彼ら(日本政府)次第だ」と述べている(沖縄タイムス・
    一九九六年二月一日朝刊)。
     では、なぜ沖縄に米軍基地が集中するのか。それは沖縄が日本本土から遠
    く離れ、大多数の国民から沖縄における基地被害の実態が見えにくいからに
    他ならない。沖縄返還に際しての自衛隊の沖縄配備を取り決めた「久保・カー
    チス協定」の日本側代表者久保卓也氏(当時防衛局長)は、沖縄の米軍基地
    を縮小せず、本土を優先させるという逆さま行政をした理由について、「基
    地問題は安保に刺さったトゲである。都市に基地がある限り、安保・自衛隊
    問題についての国民的合意を形成することは不可能だ」と説明している(藤
    井治男「日米安保・沖縄と日本の私たち」マスコミ市民一九九五年一月号)。
     沖縄への過度の米軍基地の集中は、中央から基地を見えなくして、中央か
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    ら遠く離れた日本の片隅の見えにくいところに基地を集中させるという、差
    別的な意図からなされているのである。
  (四)沖縄への基地集中に対する国民・県民世論
     一九九五年一〇月の沖縄タイムス社・朝日新聞社の共同調査では、沖縄に
    全国の米軍専用施設の約七五パーセントが集中する状態が「本土に比べて、
    沖縄に犠牲を強いていることになり、おかしいと思いますか。それとも、地
    理的、歴史的にみてやむを得ないと思いますか」という質問について、「お
    かしい」という回答は全国で六四パーセント、沖縄では七五パーセントにも
    達している。「沖縄で、小学生の女の子が、アメリカ兵三人に暴行を受ける
    という事件が起きました。この事件をきっかけに、米軍基地への反発が広が
    り、さらに日米安保条約の見直しを求める声が出ています。あなたは、こう
    した動きで出るのは当然だと思いますか。そうは思いませんか」という質問
    に対し、「当然だ」という回答は、全国で九二パーセント、沖縄で九三パー
    セントになっている。
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     「沖縄の米軍基地は、これからさき、どうしたらよいと思いますか」とい
    う質問について、「いままで通りでよい」という回答は全国で僅か七パーセ
    ント、沖縄で六パーセントに過ぎないのに対し、「段階的に縮小する」とい
    う回答が全国で七六パーセント、沖縄で七二パーセントであり、「ただちに
    全面撤去する」が全国で一四パーセント、沖縄で二〇パーセントとなってい
    る。
     そして、「沖縄の米軍基地の整理・縮小が、なかなか進まない原因として、
    一番大きいことは、どんなことだと思いますか」という質問について、「沖
    縄の経済にとって必要だ」という回答が全国で五パーセント、沖縄で七パー
    セント、「アメリカにとって軍事的に必要だ」という回答が全国で一八パー
    セント、沖縄で一三パーセント、「本土の人の関心が薄い」という回答が全
    国で一六パーセント、沖縄で八パーセント、「日本政府の取り組みが不十分
    だ」という回答が全国で五六パーセント、沖縄で六七パーセントに達してい
    る。
     この世論調査に表れた国民の声は、沖縄への基地集中の現状はおかしいと
---------- 改ページ--------136
    指摘し、沖縄の基地の整理縮小・撤去を求め、これを怠ってきた日本政府の
    怠慢を糾弾しているものである。
  2 沖縄県民への差別的処遇の違憲性
    日米安保条約は、日本全土を対象とするものであるから、沖縄県民にのみか
   かる米軍基地の負担を強いることは、法の根本理念たる正義衡平の観念に照ら
   して到底容認しうるものではない。仮に、米軍に提供する土地の場所や規模の
   決定について、地理的、歴史的条件などの諸条件が考慮要素となり、その決定
   が行政府の裁量事項であるとしても、沖縄県への米軍基地の集中の現状は、一
   般的に合理性を有するとは到底考えられない程度に達しており、行政府の裁量
   の限界を明らかに超え、国は、沖縄への米軍基地の過重負担を解消して不平等
   を是正すべき責務を負っていると言わねばならない。
    そして、この沖縄にのみ異常なまでに基地が集中する状態は、戦後五〇年以
   上、復帰からでも二四年以上にも及んでいる。沖縄の日本復帰後僅か二、三年
---------- 改ページ--------137
   で本土の米軍専用施設面積が半減したことと比較すると、復帰以前に沖縄にお
   ける広大な米軍基地が形成されていたという歴史的事情を考慮するとしても、
   沖縄への基地偏在の解消に必要な期間は、合理的期間を遙かに超え、国の怠慢
   は明らかであると言わねばならない。
    右に述べたとおり、沖縄県民に対する不平等な基地負担のしわ寄せは著しい
   ものであり、駐留軍用地特措法その他の基地提供法令の運用の実態は、沖縄県
   民の平等権を侵害するものとして明らかに違憲状態にあるとの評価を免れず、
   この運用の一環として本件に駐留軍用地特措法を適用することは憲法一四条に
   違反するものである。
  3 沖縄県に対する差別的処遇の違憲性
    沖縄県にのみ、長期間にわたって、他の都道府県と比べて著しい米軍基地の
   負担、制約を強いる基地提供法令の運用の実態は、国政全般を直接拘束する客
   観的法原則たる平等原則に反して違憲であり、この運用の一環として本件に駐
---------- 改ページ--------138
   留軍用地特措法を適用することは憲法一四条、九二条、九五条に違反するもの
   である。
    もっとも、人権の共有主体は本来個人であるから、地方公共団体について平
   等原則の適用はないのではないかとの疑問もありえよう。しかし、住民の属す
   る集団としての地方公共団体が、国家から他の地方公共団体と比して不平等に
   扱われる場合には、間接的にせよ住民自身が不利益を被ることになるのである。
    国際人権法においては、「人民」という集団自体に自決権が保障されており
   (国際人権A規約・B規約共通一条)、究極的に個人の人権保障に資するもの
   であれば、集団自体に人権享有主体性を認めうるものである。
    そもそも、憲法が地方自治を保障したのは、地域の政治を、住民の意思に基
   づき、国家から独立した団体の意思と責任の下に行うことによって、住民の人
   権を保障しようとしたものに他ならない。すなわち、国家から独立して、住民
   の自己決定を内包した団体独自の自己決定に基づく地方自治を行うことこそが、
   住民の意思に基づく民主政治を実現し、住民の人権保障になるとの趣旨に基づ
   くものである。
---------- 改ページ--------139
    地域住民の自治・自己決定の原理は、世界的にますます重要性を増し、ヨー
   ロッパ評議会閣僚委員会が採択した「ヨーロッパ地方自治憲章」、国際自治体
   連合が採択した「世界地方自治宣言」は、「地方自治を自治体がみずからの責
   任で、その住民のために公的事項の基本的部分を管理し運営する権利及び実質
   的能力」として規定し、この自治体の権限について、「包括的かつ排他的」性
   格を有することを確認している。しかるに、国家が特定の地方公共団体にのみ
   を不平等に扱い、その結果、住民の意思を反映する自治体の公的事項の管理・
   運営が阻害される場合には、ひいては住民の自己決定権が侵害されることにな
   り、地方自治保障の趣旨、人権尊重の理念に悖ることとなる。そうであればこ
   そ、憲法九五条は、特定の地方公共団体にのみ異なる扱いをする場合には、住
   民の特別投票を要するものとして、地域住民の自己決定によらなければ差別的
   扱いを許容しないものとしたのであり、これは憲法が地方公共団体の平等権を
   保障したものに他ならない。
    なお、仮に地方公共団体に対する平等原則を人権と言えないとしても、憲法
---------- 改ページ--------140
   上、統治における客観法原則、公序としての平等原則が認められるものという
   べきである。正義衡平の観念は法の根底をなす基本理念であり、憲法一四条は
   正義衡平の観念の人権規定への具体的な表れである。この正義衡平の観念が、
   統治にも及ぼされ、貫徹されねばならないことは当然である。憲法一四条、九
   五条等の根底をなす正義衡平の観念、憲法九二条の地方自治保障の趣旨よりす
   れば、国家が特定の地方公共団体を不公平に扱ってはならないという憲法上の
   大原則が存在すると解すべきことは当然である。
    もっとも、国家が各地方の実情に応じた合理的な区別をなしうることは当然
   であり、その合理性の判断については国家の裁量が認められるものであるが、
   特定の地方公共団体に対する不平等が著しく、国民の正義衡平の観念から到底
   許容できない限度に至っている場合には、もはや一見明白に平等原則に違反し
   ているものと言うことができ、裁判所は違憲判断をなしうるもの解される。
    そして、長期間にわたる米軍基地の集中によって、沖縄県が他の都道府県に
---------- 改ページ--------141
   例を見ない過度の基地の負担を負わされ、そのために沖縄県の自立的発展が著
   しく阻害されている現状は著しく不平等であり、到底国民の正義衡平の観念か
   ら許容しうるものではない。
    よって、沖縄県へのかかる基地集中をもたらす駐留軍用地特措法を含む基地
   提供法令の運用は平等原則に反して違憲であり、その運用の一環として本件へ
   駐留軍用地特措法を適用することは、憲法一四条、九二条、九五条に違反する。
  4 沖縄県内の軍用地についてのみ駐留軍用地特措法を適用することの違憲性
    駐留軍用地特措法が沖縄県内の軍用地のみを対象として運用されているとい
   う点からも、その運用は憲法一四条、九二条、九五条に違反するものと言わな
   ければならない。
    駐留軍用地特措法が日本本土で発動されたのは、ほとんど一九五〇年代で、
   一九六一年の神奈川県相模原住宅地区を最後に、日本本土で発動された例はな
   く、言わば一九六一年の発動を最後として一旦は死んだ法律であった。ところ
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   が、死法化して二〇年も経過した後、突如として一九八〇年に沖縄県内の土地
   のみを対象として発動されたのである。
    憲法九五条は、特定の地方公共団体にのみ適用される法律(地方自治特別法)
   について住民投票を要求している。その趣旨は、地方公共団体の自治を尊重し、
   すべての地方公共団体の住民の間の権利義務ないし利益の平等を図ることにあ
   る。国が、ある地方公共団体若しくはその地域、その住民に対し、他の地方公
   共団体、その地域、その住民と異なる特例を設けようとするとき、国(国会)
   の単独の意思のみで特別な扱いをすることができるとすれば、それが濫用され、
   他の地方公共団体との間に不当な差別が生じて特別扱いされる地方公共団体に
   不当な犠牲を強いたり、あるいはそこに居住する関係住民の権利ないし利益が
   不当に侵害されるおそれがある。このような弊害を防ぐために、国(国会)が、
   ある地方公共団体若しくは関係住民のみを対象とする法を定立しようとすると
   きは、その地方公共団体の住民の意思を問わなければ、その法律の効力は生じ
   ないものとしたのである。
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    そして、駐留軍用地特措法は、住民にとっては自らの土地を強制的に取り上
   げられるという重大な人権制約をもたらすものであり、地方公共団体にとって
   は、都市計画等に重大な影響をもたらし、また地方公共団体がそのために事務
   的負担も負うものであるから、特定の地域のみを対象として駐留軍用地の強制
   収用法令を制定するのであれば、地方自治特別法として、住民投票を要するの
   である。したがって、沖縄県のみを対象として駐留軍用地を強制収用(使用)
   するのであれば、憲法九五条の趣旨よりして、当然に住民投票に付した上で立
   法を行わなければならなかったのである。このことは、対日平和条約、日米安
   保条約、地位協定、駐留軍用地特措法の制定について、いずれも沖縄県民の意
   思が全く反映されていないという歴史的事情より、沖縄に真に国民主権を回復
   するためにも、当然に要求されていたものであった。
    ところが、国は、一九八一年に、死法化していた駐留軍用地特措法を突如と
   して復活させるという脱法手段を用いて沖縄県内の駐留軍用地を強制使用し、
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   その後も沖縄県内の駐留軍用地にのみ駐留軍用地特措法を適用するという運用
   をしているのであり、この運用は憲法九五条を僣脱して地方自治の本旨を害し、
   平等原則に反する違憲なものである。
    また、沖縄県という特定地域の土地の所有者のみについて、強制的に財産権
   を制約するという点からも、駐留軍用地特措法の運用は、土地所有者の平等権
   を侵害する違憲なものと言わねばならない。
    よって、この違憲な運用の一環として本件へ駐留軍用地特措法を適用するこ
   とは憲法一四条、九二条、九五条に違反する。
 五 憲法二九条違反
   憲法二九条は、財産権の不可侵性を規定し、これを「公共のために用いる」場
  合にのみ制限できると規定しているが、本件各土地について、駐留軍用地特措法
  を適用して強制使用手続をすることは、「公共のため用いる」に該当しない。
  1 公共性概念について
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  (一)原告は、地方自治法一五一条の二の要件に関してであるが、「我が国が駐
    留軍用地として本件土地を提供することは高度の公共性を有する」(訴状一
    五頁)として、公共性の具体的内容に全く触れることなく、事柄が軍事に係
    わるというだけで高度の公共性があると主張する。
     しかし、国が個人の意思を制圧して人権を制約する場面において、軍事を
    聖域化するような公共性論を認めることはできない。
     人権制約原理としての公共性とは、抽象的な国家の利益、全体の利益を意
    味するものでは決してない。日本国憲法は、人間社会における価値の根源を
    個人に求めて、他の何よりも個人を尊重しようとする人間の尊厳の原理を最
    高の価値としている(一三条、二四条)。このように、個人に至上価値が存
    する以上は、個人の自己実現は自由でなければならず、ここにおいて、個人
    は国家から干渉されないという自由主義原理が直ちに派生する。そして、日
    本国憲法は、人間が社会を構成する自律的な個人としてその自由と生存を確
---------- 改ページ--------146
    保し、もって人間の尊厳性を維持するため、「憲法が国民に保障する基本的
    人権は、侵すことのできない永久の権利」(一一条)として保障したのであ
    る。人間の尊厳性を最高の指導理念とする日本国憲法においては、個人に優
    先する「全体」の利益ないし価値というようなものは存在し得ない。「憲法
    が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の
    成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国
    民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」
    (九七条)が、人権確立の過程とは、国家の個人に対する干渉の排除を求め、
    「国家からの個人の自由」を闘いとってきた歴史に他ならない。抽象的に、
    国家のため、国民全体のためと称して、個人の人権を制約することは断じて
    許されないと言わねばならない。
     それでは、公共性という人権制約原理は何を意味するのか。それは、個人
    の人権と対立する公権力や多数者の利益を意味するものではなく、各個人の
    人権の保障を確保するための、人権相互の矛盾・衝突を調整する衡平の原理
---------- 改ページ--------147
    であると解さなければならない。すなわち、人間の尊厳の原理は、各個人を
    最高かつ固有の価値を有する人格として尊重する原理であり、一方において、
    他人の犠牲において自己の利益を主張しようとする利己主義に反対し、他方
    において、「全体」のためと称して個人を犠牲にしようとする全体主義を否
    定し、すべての人間を自主的な人格として平等に尊重しようとするものであ
    る。したがって、他者の人権との調整の限度での制約は当然に人権に内在す
    る。公共性とは、この人権に内在する衡平の原理を言うものに他ならない。
     したがって、人権制約原理としての公共性の判断は、当該人権の制約を伴
    う行為によって、具体的にどのような利益が具体的に得られるのか、その利
    益が法体系上如何なる位置づけにあるのか、その利益はどの程度具体的なも
    のであるのか、当該行為によって失われる社会的利益はないか、人権制約の
    不利益の程度・内容はどのようなものであるのか等について、個々具体的に
    検証し、当該人権制約が万やむを得ないものであるか否かを判断しなければ
    ならない。
---------- 改ページ--------148
  (二)人権制約が認められるか否かという個別具体的な判断場面において、軍事
    にのみ高い優先順位を与えることは許されない。
     被告が本訴訟において主張しているのは、日米安保を維持するか破棄する
    かという問題では全くなく、日米安保条約が締結されていることを前提とし
    ても、沖縄県民に対する人権の侵害、制約の状況は法的に到底許容されない
    程度に至っていると言うものである。軍事による安全保障を許容するか或い
    は徹底した非武装による安全保障を構想するかという問題が、仮に高度に政
    治的な判断に委ねられているとしても、軍事基地による住民の人権制約を許
    容するか否かは政治的、政策的な判断に委ねられたものではない。人権尊重
    理念に立脚する日本国憲法の解釈において、住民の人権と軍事との調整につ
    いて、軍事に高い優先順位を与えることはできない。
     条約上も、住民の人権に対する軍事の絶対的優先は認められていない。日
    米安保条約の前文には、「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁
---------- 改ページ--------149
    護することを希望し」と謳われている。「地方自治が住民の意思に基づいて
    行われなければならない」という住民自治が、「民主主義の諸原則」の内容
    をなすことは疑いがない。そして、「個人の自由」とは、まさに基本的人権
    のことであり、財産権がこれに含まれることは当然である。また、日米地位
    協定三条三項は「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、
    公共の安全に妥当な考慮を払つて行なわなければならない」と規定している
    が、ここに言う「公共の安全」が、「軍事による安全保障」を意味するもの
    ではなく、「軍隊の脅威に侵害されない平穏安全な生活」を意味することは
    文理上疑いがなく、住民の生活を無視した軍事の絶対的優先は認められてい
    ないのである。
     このように、人権制約が正当化されるか否かという個別具体的な判断場面
    で、軍事に絶対的な優先的地位を認めることはできない。したがって、軍用
    地提供の公共性判断については、公共性を基礎づける方向に働く事実と公共
    性を否定する方向に働く事実を具体的に検証し、当該事情の下で、個別の軍
---------- 改ページ--------150
    用地提供に人権を制約してもやむを得ないだけの高度な公共性を認めること
    ができるか否かを審理しなけれはならない。
     これを訴訟法的観点から言い換えるならば、公共性という概念は、規範的
    評価であり、それ自体は不確定なものであるから、公共性という評価を成立
    させるためには、それを基礎づける具体的事実(評価根拠事実)が必要であ
    る。そして、評価根拠事実の主張・立証がなされなければ、当然に請求は棄
    却されることになるが、一定の評価根拠事実が立証された場合においても、
    この評価を否定する具体的事実(評価障害事実)が主張・立証された場合に
    は、やはり請求は棄却されることになる。したがって、訴訟においては、評
    価根拠事実と評価障害事実の存否について、実質的な審理がなされなければ
    ならない。
  2 原告の主張する公共性の不存在
  (一)原告は、日本国が米国に対し、日米安保条約及び日米地位協定に基づき、
    米軍に日本国の施設及び区域の使用を許すべき義務を負っていると主張する
    が(訴状一五頁)、これは誤りである。
---------- 改ページ--------151
   (1)日本国が強制的手段を用いても土地の使用権原を取得した上で、米軍に
     土地を使用させなければならない義務は存在しない。
      日米安保条約及び日米地位協定の解釈は、領域主権の原則に即してなさ
     れるべきものである。即ち、現在の国際法は、領域主権国家を構成単位と
     する国際社会を基盤として、発生し、発展してきたものである。それゆえ、
     国際法においては、一国が、自国内で立法、司法、行政権限を行使するこ
     とについて、他国の干渉を受けないという領域主権の原則が基本原理とさ
     れ、すべての解釈の出発点とされているのである。したがって、外国軍隊
     の駐留のように駐留国の主権に重大な影響を及ぼす可能性がある問題を扱
     う条約の解釈にあたっては、一国の主権に対する制約はできるだけ制限的
     に解釈されなければならず、条約規定の用語が、いくつかの許容しうる解
     釈のどれを選ぶかについて明確でない場合には、当時国に課される義務を
     最低限とする解釈が選ばれなければならないのである。
---------- 改ページ--------152
      日米安保条約には、「日本国において施設及び区域を使用することを許
     される。」(日米安保条約六条)とのみ規定され、日本国が米国に対して、
     土地・施設の使用権原を取得して、実際に使用させなければならない義務
     は、文言上、何ら規定されていないのであるから、日米安保条約には、日
     本国が米国に対して、日本国内に軍事基地を設置することの許可を与える
     ことが出来るということが定められているに過ぎないと解釈すべきである。
      対等な独立した国家の間で、自国の軍事基地を他国に設置することがで
     きないことは、領域主権の原則上、当然のことである。したがって、米国
     が、日本国内の土地を取得や賃借しても、条約に基づいて日本国の許可を
     得なければ、その土地を軍事基地として使用することはできないのである。
     日米安保条約は、日本国が米国に対して軍事基地を設置することについて
     許可を与えることができる旨を定めているに過ぎない。
---------- 改ページ--------153
      日米地位協定にも、日本国が土地の使用権原を取得して米軍に提供しな
     ければならないという義務を定めた条項は存在しない。日米地位協定で定
     めているのは、日本国は米軍に対して、日本国内の地域について施設・区
     域として使用を許可することができること(日米安保条約六条、日米地位
     協定二条一項a)、個々の施設・区域の設定は、日米合同委員会で取り決
     めること(日米地位協定二五条)、日本国が経費を負担すること(日米地
     位協定二四条)に過ぎず、日本政府が施設・区域として使用される地域の
     使用権原を取得して、現実に米軍に使用させなければならない義務は定め
     られていない。したがって、日米合同委員会において、ある土地を施設・
     区域とする旨の合意がなされた場合には、それは、当該土地について軍事
     基地として使用してもよいという許可を与えたこと及びその施設・区域に
     ついて日本国が経費を負担することを定めたものに過ぎず、日本国が当該
     土地の使用権原を取得して、米軍に使用させなければならない義務を負担
     したことを意味するものではない。
---------- 改ページ--------154
      また、日本国が、強制的に国民の財産権を制約してでも施設・区域の使
     用権原を取得し、実際に米軍に施設・区域を使用させなければならないと
     いう合意を、日米合同委員会で取り決めることができないことは、日米合
     同委員会における合意手続から見ても当然のことと言える。基本的人権は
     何よりも尊重されねばならず、基本的人権の制約は、国民の国政への積極
     参加が実質的に保障された民主制の過程でしかなし得ないものである。ま
     た、国民の基本的人権に対する制約については、当該人権の享有主体、さ
     らにはそれによる利害関係を受けるものについて、その手続に参加して防
     御をなしうる機会を保障し、手続的正義が確保されなければならない。こ
     の民主主義、手続保障を欠く手続で、国民の人権を制約することが許され
     ないことは、現代の国際社会では自明のこととされている。
      ところが、日米合同委員会の合意は、日本国外務省北米局長と在日米軍
     参謀長との間でなされ、そこに国会のコントロールはなく、しかも、日米
---------- 改ページ--------155
     合同委員会における合意事項は原則的に公表されないため、国会や国民が
     合意事項を検証する手段・機会も保障されず、施設・区域の設置について
     合意する場合にも、地主、当該土地の所在する地方公共団体等が、意見を
     述べる機会すらないのである。このように、民主的手続もなく、利害関係
     人の権利保障のための適正手続も用意されていない日米合同委員会におい
     て、国民の財産権を強制的に制約してまで日本国が土地使用権原を取得す
     ることが合意されるものではない。
      原告が、本件各土地についての使用権原を取得できない場合には、本件
     各土地を提供する義務を負わないものである。
   (2)原告が、本件各土地を米軍用地として提供する義務があるとする根拠と
     してあげるのは、一九七二年五月一五日の日米合同委員会において、本件
     各土地を含む施設について、提供合意がなされたということである。
      しかし、日米合同委員会における提供合意は、施設名、施設所在地名、
     おおよその面積をもってなされているものである。したがって、特定の土
---------- 改ページ--------156
     地についての提供合意はなく、本件各土地についての具体的な提供合意は
     認められない。
      また、復帰時の日米合同委員における基地提供に関する合意は、新規に
     米軍への土地提供を取り決めたものではなく、復帰時までの米軍の土地使
     用を前提とし、復帰後も米軍の使用を継続することを取り決めたものであ
     る。そして、復帰前に米軍が何ら法的根拠もないままに軍事力によって強
     奪した土地について、復帰後、日本国が米国に対して違法な米軍の占有継
     続を約束し得ないことは余りにも当然である。したがって、復帰時におけ
     る日米合同委員会における基地提供合意は、復帰前に米軍が占有正権原を
     取得し、適法に占有していた土地についてのみ、占有継続を合意すること
     ができると解釈すべきである。そして、被告第一準備書面の第三(沖縄に
     おける基地形成史)に記載したとおり、沖縄における軍用地は、米軍に違
     法に強奪され、米軍が基地を建設して、違法に基地を占有してきたもので
     ある。
      したがって、復帰時の日米合同委員会において、違法な米軍基地の占有
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     継続を合意したとしても、その合意は法的には否定的な評価しか受けえず、
     ゆえに、本件各土地を米国に提供する義務は発生しないものと言わなけれ
     ばならない。
   (3)本件各土地について、日本国は米国に対して返還請求をし得るものであ
     り、この点よりしても、本件各土地の提供義務は認められない。
      日米地位協定二条二項は、日本国政府及び合衆国政府は「施設及び区域
     を日本国に返還すべきこと」を合意することができるとし、同条三項は
     「合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でな
     くなつたときは、いつでも、日本国に返還しなければならない。合衆国は、
     施設及び区域の必要性を前記の返還を目的としてたえず検討することに同
     意する」としており、必要性がなくなれば、日本国は米国に対して返還を
     求めることができることが定められている。
      この必要性の判断基準について、まず参考となるのが、「ドイツ連邦共
     和国に駐留する外国軍隊に関して北大西洋条約当事者間の軍隊の地位に関
---------- 改ページ--------158
     する協定を補足する協定」(ボン協定)である。同協定四八条五項aでは
     「軍隊又は軍属の当局は、使用する土地の数と規模が必要最小限に限定さ
     れていることを保証するために、絶えず土地の需要を点検する。これに加
     えてドイツ当局の要請がある時、個々の特殊な場合における需要を点検す
     る。」とされ、同項bには「共通の防衛任務を考慮したうえでドイツ側が
     土地を使用することによって得る利益が大きいことが明白な場合、ドイツ
     当局の明渡し請求に対し、軍隊又は軍属の当局は適切な形でこれに応ず
     る。」とされている。そして、これを受けたボン協定の署名議定書の「四
     八条について」には、「軍隊又は軍属が占有している土地の返還又は交換
     について、ドイツの民間の基本的必要性、とくに国土整備、都市計画、自
     然保護及び農業上並びに経済上の利益に応じるため、交渉を行う。派遣国
     の当局は、その際連邦政府の申請を誠意をもって考慮する。」と具体的な
     判断基準が示されている。
      日米地位協定の締結について、いわゆる安保国会において藤山愛一郎外
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     相は、「原則としてNATO協定と比して遜色のないものを作るというこ
     とでございます。それらのものを勘案してできましたものは、NATO協
     定の長所を取り入れると同時に、さらに日本の実情に即しましたように改
     善されている点があろうと思っております。」(「参院安保委」第七号)
     と述べている。地位協定がNATO協定(藤山は、この語に、NATO協
     定とボン協定の両方を含めている)と比べて、「遜色のないもの」であり
     「改善されている点」さえあるならば、日米地位協定上の基地提供の「必
     要性」についての解釈は、ボン協定に具体的に示されている基準に加え、
     さらに日本の住民や地方公共団体の利益に配慮した判断基準によらなけれ
     ばならないものと解される。
      そして、このことは、日米地位協定の実施のための国内法である「日本
     国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約六条に基づく施設
     及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴
     う国有の財産の管理に関する法律」が、「その使用を許すことが産業、教
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     育若しくは学術研究又は関係住民の生活に及ぼす影響その他公共の福祉に
     及ぼす影響が軽微であると認められるもの以外のもの」については、米軍
     に使用を許すことができないし、すでに使用されている土地については返
     還を求めることができることを想定していることからも裏付けられている。
     すなわち、日米地位協定上、このような場合には、米軍は土地を使用する
     必要性がないものと解釈されるからこそ、国内法でもこのような規定が設
     けられているものと解されるのである。したがって、国土整備、都市計画、
     自然保護、産業、教育、学術研究、関係住民に及ぼす影響、その他公共の
     福祉に及ぼす影響等に照らして、土地の返還を求める必要性が高い場合に
     は、日本国は返還を求めることができると言うべきである。
      そして、被告第一準備書面の第四(米軍基地の実態と被害)において詳
     述したとおり、沖縄における米軍基地の存在は、頻発する事故のため生命
     まで脅かし、戦闘機などの爆音は住民の平穏な生活を根底から破壊し、子
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     ども達の学習権をも著しく侵害している。米兵による凶悪犯罪もあとを立
     たず、住民を不安に陥れている。基地による自然環境の破壊も深刻である。
     そして、広大な米軍基地の存在は、地域振興開発の大きな妨げとなってい
     る。
      したがって、沖縄の米軍基地については提供の必要性を欠き、日本国は
     米国に対して返還を求めることができるのであり、本件各土地の提供義務
     を負うものではない。
   (4)原告は、「我が国の安全及び極東における国際の平和と安全の維持に寄
     与する駐留軍」に対し、施設及び区域の使用を許すべき義務を負っている
     と主張する(訴状一五頁)。これを逆に言うと、原告自身、日米安保条約
     六条のいわゆる極東条項に違反する軍事目的のために基地を提供すること
     は許されないことを認めているものである。
      この極東の意義について、一九六二年二月二六日の政府統一解釈によれ
     ば、「極東区域は、・・・大体においてフィリピン以北並びに日本及びそ
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     の周辺地域で韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている」
     とされている。
      ところが、二(安保条約目的条項を逸脱する米軍の駐留の憲法九条、前
     文への違反)で述べたとおり、在沖米軍基地は、右「極東」の範囲を超え
     て、太平洋、インド洋は無論のこと、中東に関する戦略の拠点としても使
     用されている。ペルシャ湾のホルムズ海峡制圧などを目的とした一九七九
     年八月の「フォーレスト・ゲイル」演習への沖縄駐留海兵隊の参加、「中
     東有事発生の一六日後に沖縄駐留海兵二〇〇〇名を輸送船でペルシャ湾に
     投入する」とした米議会予算局の公式文書、一九九一年の湾岸戦争への沖
     縄駐留海兵隊八〇〇〇名参加、一九九二年のソマリア上陸作戦への沖縄駐
     留海兵隊五六〇人の派遣などが、このことをはっきり裏付けている。
      このように、在沖米軍が日米安保条約六条の極東条項に反する実態を有
     するのであるから、日本国は在沖米軍に対して基地を提供する義務を負う
     ものではない。
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   (二)仮に本件各土地について、日本国が米国に対して提供する義務が存する
     としても、本件各土地を提供できず義務違反が生ずるからといって、直ち
     に人権(財産権)を制約するやむにやまれぬ正当事由たる公共性に該当す
     るものは認められない。
    (1)そもそも日米両国の米軍用地提供についての合意は、民有地について
      も所有者の意思を何ら考慮することなく締結したものであるから、日本
      国が当該民有地の使用権原を取得できないため提供義務の履行が後発的
      不能になる事態が生じるのは余りにも当然のことであり、このことは、
      土地提供合意の締結時点で日米両国は想定していた筈である。
       したがって、本件各土地が提供できないからと言って、国際的に日本
      国が非難される謂われはない。
       特に、沖縄県については、日本国が使用権原を取得できない土地が生
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      じることは当然に想定された筈である。本土においては、米軍基地面積
      の八七パーセントが国有地であるのに対し、沖縄県では、基地面積に占
      める国有地の割合は約三三パーセントに過ぎず、他の約六七パーセント
      が民公有地となっている。しかも、この民公有地の大半は、米軍が軍事
      支配下において、国際法に違反して強制的に取り上げた土地である。沖
      縄では、被告第一準備書面の第二(沖縄の苦難の歴史)及び第三(基地
      形成史)に述べたとおり、住民が軍事のため犠牲にされ続け、米軍統治
      下での土地取上げに抗して「島ぐるみ闘争」を闘い、日本復帰に際して
      も、県民の総意として「基地のない本土並み全面返還」を要求していた
      のであるから、土地所有者の任意の協力が得られない土地が存在するこ
      とを日米両国は知悉していた筈である。
    (2)(1) 本件各土地には、遊休化しているものや、対象施設自体が軍隊の
        直接の利用に供するものではないもの等が含まれている。
         個別の土地について言うと、例えば、キャンプ・シールズ内の土
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        地は、倉庫及び駐車場用地とされているが、現状はいずれにも利用
        されず更地のまま遊休化している。また嘉手納弾薬庫の保安用地と
        される土地には、弾薬庫から遠く離れ、国道や県道に隣接している
        ものもあるが、この土地を保安用地とする必要性は認められない。
        瀬名波通信所内の土地は、事務所用地とされているが、その土地上
        には実際には事務所は建っておらず、付近に建っている建物すら現
        実に使用されている様子はない。
         また、対象施設について言うと、例えば、キャンプ・シールズは、
        クラブ、映画館、そして軍人及び家族らの住宅などが大半を占めて
        おり、合衆国軍隊の直接の利用に供するものではない。那覇港湾施
        設は、その利用は月平均一隻強しかなく、港湾管理事務所、機械修
        理工場は閉鎖され、施設全体が明らかに遊休化している。
       (2) 右のような、遊休施設・土地や直接軍事目的のために供されてい
        ない施設・土地については、これを提供できなくとも、日本国や極
        東の安全を害するものではない。
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         なお、これまで、日本国が使用権原を取得できない結果、米軍へ
        の提供不能となった事例について、そのために日本国や極東の安全
        が害されたなどという例は存しない。例えば、いわゆる「山王ホテ
        ル事件」(東京地裁一九七三年八月二九日判決・判例時報七一三号
        二九頁)では、行政協定に基づき米軍の用に供した建物について、
        建物所有者から日本国に対する建物明渡請求訴訟が提起されて請求
        が認容され、その後、米軍は明渡しに応じているが、そのために日
        本や極東の安全が害されたなどということは全くない。
       (3) 米軍用地として提供しなくとも、日本国や極東の安全に支障が生
        じるものではない土地について、強制使用することは、個人の財産
        権を歯止めなく侵害するものとして許されない。このことに関して、
        いわゆるアニーパイル劇場の強制使用に関する二つの裁判例が想起
        されるべきである。同劇場の緊急使用許可を取り消した東京地方裁
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        判所一九五三年六月二四日判決は、「緊急使用許可をなし得るのは
        土地等の使用が緊急に必要であってその土地等の使用遅延すること
        によって安全保障条約第一条に規定されて居る目的とは同条約前文
        を考え併せるとアメリカ合衆国軍隊の駐留によって日本国における
        一定の内乱騒擾の鎮圧外部からの武力攻撃に対する日本国の安全を
        守るためにあると言うべきである。しかる以上本件処分が適法であ
        るためには先ず駐留軍による本件物件の使用の目的が右目的に合致
        しているものであり且本件物件の使用の遅延によって右目的を達成
        するについて著しい支障を生ずる虞がある場合でなければならぬ。
        ・・・もとよりアメリカ合衆国の軍隊の駐留を許与する以上その娯
        楽施設も好意的に考慮する必要があるであろうが直接娯楽の用に使
        用されて居る本件物件の駐留軍による使用が一時中断せられたから
        とて主として軍事的なものである前記目的の達成に著しい支障を生
        ずる虞あるものと言うことはできない。被告が本件物件の使用中断
        によって生ずると主張する支障は日本国のアメリカ合衆国に対する
        対外責任上好ましからざる事態を生ずると言うに帰着するがそれは
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        政治的考慮であって(被告代理人注ー日本国とアメリカ合衆国との
        間の安全保障条約第三条に基づく行政協定の実施に伴う土地等の使
        用等に関する特別措置法施行令四条をもってする土地収用法の)読
        替え後の第百二十三条第一項の本来企図する前記目的の範囲外であ
        り右の如き事情あったとしても国内法上日本国と個人としての原告
        との間の権利義務の関係において原告個人の財産の緊急使用を適法
        視する理由とはならない」と判示した。
         また、同劇場の使用認定を取り消した東京地方裁判所一九五三年
        一月二〇日判決は、「本件施設が、主として駐留軍々人の娯楽乃至
        慰安のため必要であるとして本件の認定がなされ、実際、主として
        駐留軍々人の娯楽のために使われてきたこと(軍事に関する講演、
        教養に関する講話のためにも使われているが、それは付随的な用途
        であること)は、さきに認めたとおりである。当裁判所は、本件物
        件を駐留軍のこのような用途に使うことは、特別措置法第三条でいっ
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        ている『適正且つ合理的』な使用には当たらない、と考える。この
        ような用途は、安全保障条約第一条に掲げる目的、即ち『極東にお
        ける国際の平和と安全の維持に寄与し・・・・・・外部からの武力
        攻撃に対する日本国の安全に寄与するため』という目的から少しは
        なれるからである。右のような用途でも『適正且つ合理的』といえ
        るとすると、必要な最小限度に止めなければならないはずの、個人
        の財産権の侵害ついて、殆どきりがなくなるからである。重ねてい
        うが、軍人にも娯楽乃至慰安は必要である。そして合衆国の軍隊の
        駐留を許容する以上、その娯楽乃至慰安の施設を好意的に供与する
        ことは、日本政府の措置として望ましいことである。しかし、それ
        はどこまでも、合衆国に対する日本国の対外的責任の問題に属する。
        このことのために、日本国内において、特別措置法をその目的を逸
        脱して適用し、日本国民の犠牲において強制的な使用を甘受させる
        ことを正当化することはできない。」と判示している。
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         このように、日米安保条約の目的、すなわち、日本国と極東の安
        全という軍事目的のために直接供されていない施設・土地や、その
        使用がなされなくても日本国や極東の安全に支障が存しない施設・
        土地について、強制使用することは、財産権を侵害するものとして、
        憲法二九条に違反するものと言わねばならない。
  3 本件各土地を提供することの反公共性
  (一)仮に米軍基地のための土地提供に一定の意義が認められるとしても、沖縄
    県における基地被害の実態は、土地提供の公共性を否定するものである。
     昨年九月の米兵による少女暴行事件は、米軍基地の存在によって戦後五〇
    年余にわたって沖縄県民が被ってきたあまたの被害を象徴する出来事であっ
    た。
     この基地被害は、偶発的な事件・事故の積み重ねではない。軍隊は、戦闘
    状態における暴力と破壊を本来的任務とするものであり、市民社会の一般秩
    序とは全く異質な論理で成り立つものである。軍隊には、戦闘機、ミサイル、
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    大砲、マシンガンなどの武器が存在するが、これらは、その危険性ゆえに、
    市民社会では存在すること自体が違法とされるものである。そして、軍事基
    地内では、これらの武器を用い、戦闘機の飛行訓練、大砲の発射、ライフル
    銃の人型への射撃など、戦争という極限状態を想定した殺戮と破壊の訓練を、
    日常的に繰り返している。軍事力による安全保障を肯定するか否定するかに
    かかわらず、軍隊は市民社会内では決して許容されえない破壊力を行使する
    存在であり、市民社会とは全く異質の存在であることは何人も否定できない。
     このように、基地は、市民社会と全く異なる論理、ルールによって成り立
    ち、その存在自体が一般市民に対する危険性を孕むものであるから、基地と
    住民と混在すれば必然的に人権侵害を引き起こすのである。そのため、米国
    では、人里離れた砂漠地帯の中に設置された基地の中で、およそあらゆる演
    習を行うことができるようにして基地被害を未然に防いでいるし、米国西海
    岸の空軍基地は、ロスアンジェルスから約八〇キロメートルしか離れていな
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    いため、民間空港の航空機の離発着に対して危険であるという理由から基地
    を閉鎖することが決定されている。
     したがって、仮に基地が必要であるとしても、それは市民社会への影響を
    及ぼさないように設置されなければならないのであり、基地を居住地域と隣
    接して設置すること自体が公共性を欠くものと評価されねばならない。
     ところが、狭隘な島嶼県沖縄に米軍基地が集中し、基地の片隅に追いやら
    れるように街が存在して基地と住民が混在させられているため、住民の生活
    全てが直接基地の影響下に置かれている。そのため、第一準備書面の第四
    (米軍基地の実態と被害)に述べたとおり、沖縄県では、米軍犯罪や爆音、
    流弾、山林火災、廃油流出、赤土汚染等の環境破壊、産業振興、都市形成等
    の地域振興開発の阻害等、深刻な基地被害が絶え間なく発生している。沖縄
    県における基地被害の実態は、軍事による構造的暴力そのものである。この
    ような構造的被害をもたらす在沖米軍基地を固定化するために本件各土地を
    提供することは、反公共的であると言わざるを得ない。
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  (二)本件各土地について駐留軍用地特措法を適用することは、違法な占有を継
    続することを意味するものであり、その目的において反公共的なものである。
     本件各土地は、復帰以前から米軍が占有し、そして、復帰に際して公用地
    法を適用され、その後、地籍明確化法で公用地法による使用期間が延長され、
    その使用期間の期限が切れると駐留軍用地特措法を適用されて強制的に取り
    上げられてきたものであるが、この間、所有者の下に土地返還がなされたこ
    とはなく、一貫して米軍が占有を継続し続けている。したがって、米軍によ
    る本件各土地の占有の開始から復帰までの占有が違法であり、その後の公用
    地法、地籍明確化法による占有継続が違法であれば、この違法な占有につい
    て、占有主体(米軍)、提供者(日本国)及び占有形態(基地として使用)
    を何ら変更することなく強制使用することは、違法な占有を強制的に継続さ
    せることに他ならない。。かかる目的のために駐留軍用地特措法を適用する
    ことが違法となることは当然である。
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   (1)本件各土地は、米軍の沖縄上陸直後に囲い込まれたものか、戦争が終了
     して数年を経過した後に住民から武力で強制的に取り上げたものであり、
     被告第一準備書面の第三の一(米軍の沖縄占領から対日平和条約発効前の
     土地接収の実態)、二(対日平和条約の発効から沖縄返還までの基地形成)
     に述べたとおり、この占有開始を適法とする余地はない。
   (2)復帰に際し、従前の米軍の占有承継を認めたのが公用地法であるが、公
     用地法は、違憲・無効な法律であり、また、本件各土地に対する公用地法
     の適用は、公用地法の定めた要件すら満たさないものであり、如何なる意
     味においても、公用地法による米軍の本件各土地の占有継続は違法である。
     (1) 憲法三一条違反
       公権力の行使によって、重大な権利制約を受ける個人は、その措置が
      とられる過程において適正な手続的処遇を受ける権利を有するものであ
      る。そして、現行の行政処分手続の法制のなかにあって、きわだって厳
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      格な手続を規定する土地収用法が存するということは、土地所有権の侵
      害制限が国民の基本的権利に重大な影響を与えるものであり、それゆえ、
      厳格且つ適正な手続の履践が憲法の要請するところであることを裏付け
      ている(第二、三「憲法三一条違反」参照)。この適正手続の中核をな
      すものは、告知・聴聞を受ける権利及び不服申立の機会の保障であるが、
      公用地法はこれらの規定を全く欠くものであり、適正手続を保障した憲
      法三一条に違反する。
       行政手続について、国民の権利・自由を最大限に尊重し、行政的正義
      を実現するには、聴聞その他の意見を述べる機会を国民に与えるための
      手続が不可欠である。その理由は、行政処分によって、権利・自由が制
      限される当事者や利害閑孫人に事実関係の誤認を防止し、法律の運用の
      適正を図るためその者に意見を述べさせ、証拠を提出する機会を与える
      ことが国民の権利・自由を最大限に尊重し、行政的正義を実現するゆえ
      んだからである。したがって、他に合理的な理由がないかぎり、行政処
      分により、権利・由由の制限を受ける当事者や利害関係人に、行政庁、
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      または利害の対立する第三者の意見と証拠を知り、これに反論を加え、
      反証を提出し、またみずから自己に有利な意見を述べ証拠を提出する機
      会を与えることが不可欠である。ところが公用地法による強制使用につ
      いては、全く聴聞の機会がない。
       また、聴聞に先だち、当事者や利害関係人に対し自己に有利な主張と
      反論を準備するために行政処分の内容等が告知されなければならず、し
      かも、その告知は適正な告知でなければならない。しかるに公用地法に
      は適正な告知手続は何んら規定されていない。ただ、同法二条二項には
      「告示」が定められているが、しかし、その告示とは、沖縄の復帰前本
      土において、ただ官報に記載をするというのみである。しかも、その告
      示の内容というのは、対象となるべき土地の表示も単に区域を掲載する
      のみであって、地番・地目・地籍等土地を特定するに必要な事項は告示
      されないのである。
       さらに、公用地法には、不服申立制度は何ら定められていない。要す
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      るに、公用地法は、土地所有者ら利害関係人の意見も全く聞かず、ただ
      復帰前の日本本土の官報に告示すれば、復帰と同時に自動的に使用権を
      取得するというものであり、利害関係人の権利保護手続は全く存せず、
      適正手続を保障した憲法三一条に違反するものである。
     (2) 憲法二九条違反
       公用地法は、「この法律の施行の際沖縄においてアメリカ合衆国軍隊
      の用に供されている土地又は工作物」を引き続き米軍又は自衛隊に使用
      せしめることを主たる目的とした法律である。しかるに、日本国憲法下
      において、軍事目的のための強制使用が許されないことは、第二の一
      (憲法前文、九条、一三条の平和主義ー平和的生存権の侵害)及び二
      (憲法二九条違反)に述べたとおりであるから、軍事目的のための強制
      使用を認めることは憲法二九条に違反する。
       また、公用地法は、「アメリカ合衆国軍隊の用に供されている土地又
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      は工作物」について、何ら財産権制約を正当化する実体的要件を要求せ
      ず、無条件に強制使用を認めているものである。このように、何らの歯
      止めもないまま、五年もの長期間にわたって財産権を制約するという点
      からも、公用地法は憲法二九条に違反する。
     (3) 憲法一四条、九五条違反
       公用地法は、沖縄県内に軍用地を所有する者に対してのみ、適正手続
      もなく、財産権制約を正当化する実体的要件も要求せずに、五年間もの
      長期にわたって財産権を制約して土地を強制使用するものであり、法の
      下の平等を定めた憲法一四条に違反する。
       また、公用地法は、沖縄県のみに適用される法律であるから、四4
      (沖縄県内の軍用地についてのみ駐留軍用地特措法を適用することの違
      憲性)で述べたとおり、その立法に際して住民投票を要するところ、こ
      れがなされなかったのであるから、憲法九五条に違反する。
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     (4) 「用に供されている」の要件に該当しない土地への適用
       公用地法自体が法令違憲であることは右にのべたとおりであるが、こ
      の点をおくとしても、公用地法の要件すらみたさない土地への同法の適
      用が違法となることは論をまたない。
       ところで、公用地法は、「アメリカ合衆国軍隊の用に供されている土
      地又は工作物」について復帰後の占有継続を認めたものであるが、ここ
      にいう「用に供されている」とは、単なる占有という事実関係を指すも
      のではなく、正権原にもとづいて使用していたことを指すものである。
       しかるに、本件各土地については、復帰前に米軍が違法に強奪したも
      のであり、何ら適法な権原に基づいていたものではないから、公用地法
      の適用の前提を欠き、本件各土地について復帰後の米軍占有継続を適法
      視する余地はない。
   (3)公用地法に基づく使用権は、公用地法の施行から五年を経過した一九七
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     七年五月一五日に消滅し、同日、土地所有者は本件各土地について、法的
     に何らの制約も負担もない、文字どおり完全・円満な土地所有権を回復し
     た。
      したがって、同日以降において本件各土地を強制的に使用するには、新
     たな使用権の設定行為が必要であり、そのためにはそのような権原を発生
     せしめるに足る要件と効果をもった法律を適用し、そのための適正な手続
     が履践されなければならなかった。
      しかるに、公用地法の期限切れから四日遅れた一九七七年五月一八日に
     地籍明確化法が強行採決され、その附則六項で、公用地法に定められた使
     用期間「五年」を「一〇年」に改めた。
      しかし、その実質は新たな五年間の使用権の設定であるところ、右使用
     権設定のために何らの手続も新たな実体的要件の設定もないのであるから、
     地籍明確化法附則六項は、公用地法について述べた理由により、憲法三一
     条、二九条、一四条及び九五条に違反する違憲無効なものと言わねばなら
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     ない。しかも、復帰から五年間も経過していたのであるから、暫定的使用
     権を設定する法律についての立法事実たる緊急性、非常性といった社会的
     状況も認められず、また復帰から通算した暫定的使用期間が一〇年もの長
     期にわたり、財産権制約の程度は公用地法の五年と比較にならないのであ
     るから、その違法の重大性は、公用地法をすら上回るものであったと言わ
     ねばならない。
   (4)以上のとおり、復帰前に違法に米軍が占有を開始した土地について、復
     帰後も違憲無効の法律である公用地法及び地籍明確化法(附則六項)によっ
     て、違法な占有が継続されたものであり、この違法な占有を継続するため
     に本件各土地について駐留軍用地特措法を適用することに、公共性を認め
     ることはできない。
  (三)生存的財貨を軍事のため強制使用することに公共性は認められない。
     本件各土地の所有者は、本件土地を戦争のために使われたくない、生産の
    場、生活の場として取り戻したいという強い願いをもって、賃貸借契約を締
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    結することを拒否しているものである。この当該財産権の具体的な性格を離
    れて、財産権制約の合憲性を認めることはできない。
     そもそも財産権が神聖不可侵の人権とされたのは何故であったか。人権と
    は「人が人格的自律の存在として自己を主張し、そのような存在としてあり
    続ける上で不可欠な権利」(佐藤幸治「憲法〔新版〕青林書院)である。農
    地所有権を典型とするように、財産権は、自由な生存の前提であり、個人の
    生き方の中枢に関わって人格的自律を支え、精神的自由とも分かちがたいつ
    ながりを有しているものとして、基本的人権として保障されてきたのである。
     まさに、財産権の保障は、人間の尊厳性と直接結びついていたのである。
    したがって、このような性格を有する財産について、政策的に強制収用する
    ことは許されない。
     すなわち、「ひとしく『経済的自由』に分類されるものであっても、もっ
    ぱらその経済的側面だけを問題にすればよいもの(多くの場合、巨大法人の
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    経済活動の自由)と、個人の生き方にかかわる人格的な要素を無視すること
    ができないもの(例えば、みずから働く農民の農地所有権)とでは、それら
    の制約の憲法適合性を判断する際の基準が、ちがっててきてしかるべきもの」
    (樋口陽一「憲法」創文社)であり、「企業に集中した大資本と個人の消費
    的財産、山林地主の大土地所有と個人のわずかな宅地所有を同一の財産とみ
    て、第二九条の財産権の制限を考えることは正当ではない。
     ここで制限の対象となる財産権は、主として資本としての財産権である。
    たとえば、新幹線工事のための小土地所有者の土地取上げに第二九条二項を
    援用するのは、とても『公共の福祉』に適合するとはいえない。自衛隊の軍
    事施設のため農民の土地を取り上げるようなことは、憲法第九条をもちだす
    までもなく、『公共の福祉』による財産権の制限とはいえない」(長谷川正
    安「日本の憲法」岩波書店)のである。
     本件各土地は、大規模資本の所有にかかるものではなく、生存的財貨であ
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    るから、これを軍事のため強制使用することに公共性は認められない。
  (四)必要最小限度を超える本件各土地の財産権制約
     本件各土地は、復帰前、米軍によって違法に強奪されたものである。この
    違法な沖縄県民に対する権利侵害について、日本国は、どのような責任を果
    たしてきたのか。沖縄県民は、米軍の占領下においても、また対日平和条約
    三条に基づく米国の支配が行われていた時においても、日本の国籍を有する
    日本国民であることに変わりはなかった。したがって、米軍の違法な権力行
    使によって沖縄県民の権利が侵害されたならば、日本国は、自国民に対する
    外交保護権によって、米国に対してその是正措置を要求すべきであった。そ
    れにもかかわらず、日本国は、沖縄県民の財産権を回復するための外交努力
    を怠たり、沖縄戦終結から二七年間もの長期にわたって、沖縄県民は財産権
    を違法に侵害され続けてきた。
     そして、沖縄の復帰に際しても、米軍によって違法に侵害された財産権の
    回復はなされなかった。日本国憲法前文は、国民を主権者とし、国家は国民
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    から国政を信託されたものとしてその権限を行使しうると規定しているが、
    同時に、国は国政の受託者として、これを国民の福利のために行使すべきも
    のとしている。したがって、国は、憲法が保障する基本的人権が侵害を受け
    ている場合には、それを回復すべく、権限を行使しなければならない責務を
    おうのである。したがって、国は、沖縄における主権の全面的な回復にあたっ
    て、米軍の施政下で侵害され続けてた沖縄県民の財産権の全面的回復を実現
    させる責務をおっていたのである。米軍の土地使用は国際法上許されないも
    のであり、その所有権者は米軍に対して返還を求める正当な権利を有してい
    たのであるから、その返還が実現されるよう努力することこそが国の沖縄県
    民に対する義務であった。復帰によって、沖縄県民の憲法上の権利の実現を
    妨げる法的障害がなくなったのであるから、国はこれを実現しえた筈である。
    ところが、国はこの義務を怠った。それどころではない。米軍の土地利用の
    ために、「公用地法」で五年間、「地籍明確化法」でさらに五年間、その後
    は駐留軍用地特措法によって、国自らが土地を取上げて米軍に使用させ、沖
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    縄県民の権利制約が継続されてきたのである。
     なぜ、戦後五〇年以上、復帰からでも二〇年以上を経過しても、沖縄の米
    軍基地は一向に整理縮小されないのか。それは、国が米国に対して沖縄の基
    地整理縮小を働きかける努力を怠ったからである。沖縄県民に対する人権侵
    害を見過ごしてきたからである。
     これまで、沖縄県民は五〇年以上もの長期にわたって財産権制約を強いら
    れてきた。民法六〇四条は、賃貸借契約の存続期間は二〇年を超えることは
    できないと規定しているが、沖縄県民はその意思に反して、民法の定める最
    長期間の二倍をこえて土地を取り上げられ、これからも継続されようとして
    いる。特定の国民に対してのみ、このような財産権制約を押しつけることは、
    到底、正当化されうるものではない。沖縄県民に対する加重負担を解消する
    努力を五〇年余の長期間にもわたって怠ったうえ、財産権制約を今後も継続
    することは、明らかに本件各土地の所有権に対する必要最小限度の制約を超
    えるものと言わなければならない。
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     この財産権制約の限度の点から言っても、本件に駐留軍用地特措法を適用
    することは、憲法二九条に違反するものである。
  4 小括
    以上述べたとおり、本件土地の基地として提供することに積極的な公共性を
   認めることはできず、かえって、本件土地を提供することは反公共的であると
   言わねばならない。換言すれば、本件土地を提供しないことこそが、公共の福
   祉を増進するものと言えるのである。
    よって、本件土地を基地として提供することは「公共のため用いる」に該当
   せず、本件に駐留軍用地特措法を適用することは憲法二九条に違反する。

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第四 本件強制使用認定の違法性
 一 はじめに
  1 本件公告縦覧手続の根拠法たる駐留軍用地特措法が違憲・無効な法律である
   ことは、既に述べたとおりである。第四は、右主張をしばらくおくとして、本
   件に先行する使用認定行為が駐留軍用地特措法三条に違反することを述べるも
   のである。
    原告は、本件土地に対して、駐留軍用地特措法三条及び五条にもとづいて使
   用認定をなし、その旨を一九九五年五月九日に告示した(以下、本件使用認定
   という)。本件各土地に係る公告縦覧手続は、本件使用認定を前提としてなさ
   れる駐留軍用地の強制使用手続の一環であるところ、先行行為たる本件使用認
   定行為が違法であれば、その違法性は後続行為たる本件公告縦覧手続にも承継
   され、本件公告縦覧手続も違法となる。
    従って、本件訴訟においては、本準備書面第一において詳述したように、当
   然に先行行為たる本件使用認定行為の適否が審査されるべきであるところ、本
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   件使用認定行為は以下に述べるように駐留軍用地特措法三条の要件を欠いて違
   法であり、従って、被告に本件公告縦覧代行手続を求めることもまた違法であ
   る。
  2 ところで、日本国憲法は、国民の財産権を基本的人権として保障しており
   (二九条一項)、この財産権は「正当な補償の下にこれを公共のために用ひる」
   (同条三項)場合にのみ、法律の定める手続に基づき制限されるのである。
    強制使用は、本人の意思に反して国民の財産権を制限するものであるから、
   その要件は法律により厳格に規定されなければならないだけでなく、その解釈
   もまた厳格でなければならない。
    とりわけ、駐留軍用地特措法は違憲性の疑いの免れない法律であり、日本国
   憲法の制定にともない軍事に関する事業が本来的に公共性を有しないとされて
   きた土地収用法の改正の経過を踏まえるならば、同法の適用にあたっては、強
   制使用認定の要件はより一層厳格に解釈されなければならないのである。
 二 強制使用認定の要件について
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  1 使用認定の二つの要件
  (一)駐留軍用地特措法三条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする
    場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であ
    るときは、この法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用するこ
    とができる」と定め、駐留軍用地のための強制使用・収用の要件を規定して
    いる。
     右規定から明らかなように、駐留軍用地特措法に基づいて強制使用を行う
    ためには、第一に、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする」との要
    件(以下、「必要性」の要件という)と、第二に、「その土地等を駐留軍の
    用に供することが適正且つ合理的であるとき」との要件(以下、「適正且つ
    合理的」要件という)の二要件が必要とされている。
  (二)右の二要件が必要なことは、土地収用法との対比から言っても首肯し得る。
     すなわち、強制使用については、一般法たる土地収用法が存し、駐留軍用
    地特措法はその特別法たる性質を有するが、両法は強制使用要件についてまっ
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    たく同一の構造を有している。
     ただ、土地収用法二〇条の一号要件は、使用対象事業が法定された事業に
    限定されているが、駐留軍用地特措法は、一条(目的)において「日本国に
    駐留するアメリカ合衆国の軍隊の用に供する土地等の使用又は収用に関し規
    定することを目的とする」として、対象事業が法定されているため、使用要
    件として改めて掲げることが不要となっていること、また、土地収用法二〇
    条の二号要件については、駐留軍用地特措法における申請者(起業者)が国
    であることから当然充足されるとして不要となっているにすぎない。
     このように、土地収用法との対比からいっても、駐留軍用地特措法に基づ
    く強制使用には、「必要性」の要件と「適正且つ合理的」要件の別個独立し
    た二つの要件が必要とされているのである。
     以下、これらの要件について、その意味内容を明らかにする。
  2 二要件に共通する「駐留軍の用に供する」ことの意義
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  (一)「駐留軍の用に供する」ことが前提である。
      駐留軍用地特措法三条の文言の規定の仕方から明らかなように、「必要
    性」の要件及び「適正且つ合理的」要件のいずれも、「駐留軍の用に供する」
    場合であることが前提とされている。
     「駐留軍の用に供する」場合でなければ、「必要性」の要件も「適正且つ
    合理的」の要件のいずれも具備しないことになる。そこで、「駐留軍の用に
    供する」とはどういうことを意味するのかについて検討する。
  (二)「駐留軍」の使用に限られる。
     まず、駐留軍用地特措法に基づく強制使用は「駐留軍」の用に供する場合
    でなければならない。
     ここでいう「駐留軍」とは、同法一条で明記されているように、日米安保
    条約に基づいて「日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊」であり、同条約
    六条において規定された「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍」を意味す
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    る。このように強制使用の対象たる土地等の使用主体はあくまでも「軍隊」
    に限定されている。従って、基地内で活動する機関であっても、それが日米
    安保条約上駐留を許された「軍隊」に該当しない場合には、同機関の用に供
    するために強制使用することは許されないといわざるを得ない。
     日米安保条約を受けて日本国における合衆国軍隊の地位を規定した日米地
    位協定は、その一条において「合衆国軍隊の構成員」と「軍属」及び「家族」
    との相違を明記し、さらに一五条において合衆国軍隊とは区別された「合衆
    国の軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、
    社交クラブ、劇場、新聞その他の歳出外資金による諸機関」の存在を確認し、
    それらの機関が「合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の利用に
    供するため、合衆国軍隊が使用している施設及び区域内」において活動する
    ことを認めている。
     すなわち、日本国が合衆国に対して提供した施設及び区域内では、合衆国
    軍隊だけでなく、歳出外資金によって運営する諸機関や軍属、家族等様々な
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    種類の活動が行われることが予定され、現実に活動が営まれている。
     しかし、駐留軍用地特措法に基づいて強制使用をなしうるのは、右種々の
    利用形態の中でも、合衆国軍隊が主体となり直接の使用に供する場合に限ら
    れなければならない。なぜなら、同法に基づく強制使用は、日米安保条約の
    義務履行という理由により初めてその根拠を取得するものであるところ、日
    本国が日米安保条約上アメリカ合衆国に対して施設及び区域の提供義務を負
    うのは、「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍」が使用する場合に限られ
    ると明記されているからである。
  (三)「軍の用に供する」範囲内に限られる。
     提供物件を使用するものが「駐留軍」の場合であっても、当該使用が「軍
    の用に供する」と評価されるものでなければならない。
     そして、ここでいう「軍の用に供する」というのは、日本国がアメリカ合
    衆国に対し、日米安保条約六条に基づく施設提供の義務を履行するために特
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    別に立法された駐留軍用地特措法の立法目的からいって、当然、強制使用さ
    れるべき土地等が日米安保条約六条に掲げる軍隊駐留の目的を遂行するうえ
    で必要なものであることを意味する。しかもその必要性は、財産権制限の一
    般法理である「必要かつ最小限度」の原則に加え、違憲の疑いの強い駐留軍
    用地特措法の厳格解釈の原則からいっても必須不可欠なものに限られるべき
    である。
     この点に関し、旧安保条約下での駐留軍用地特措法に関するいわゆるアニー
    パイル劇場事件について、次のように判示した東京地裁一九五四年一月二〇
    日判決が存する。
     「日本国は、行政協定により、合衆国に対し、安全保障条約第一条に掲げ
    る目的の遂行に必要な施設及び区域の使用を許す義務を負担したので、この
    義務を確実に果たすための国内措置として、駐留軍の用に供する土地等の使
    用又は収用に関する特別措置法を作ったのである。故に、特別措置法第三条
    にいう、土地等を駐留軍の用に供することが『適正且つ合理的』であるか否
---------- 改ページ--------196
    かは、その土地等が安全保障条約第一条に掲げる前記目的の遂行に必要な施
    設又は区域といえるか否かということを基準として決しなければならない。」
    (判例時報一九号一九頁)。
     右判決は、このように判示した後、駐留軍々人の娯楽ないし慰安のための
    劇場に供することは、駐留軍用地特措法三条にいう「適正且つ合理的」な使
    用に当たらないと判断している。正当な指摘と言える。
     右判決は「適正且つ合理的」要件の側面から「駐留目的の遂行」との関連
    を指摘したものであるが、同様のことは「必要性」の要件の側面についても
    言えることである。
  (四)駐留目的の範囲内に限られる。
     駐留軍用地特措法の目的は、その一条において「日本国とアメリカ合衆国
    との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本
    国における合衆国軍隊の地位に関する協定を実施するため、日本国に駐留す
    るアメリカ合衆国の軍隊(以下「駐留軍」という。)の用に供する土地等の
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    使用又は収用に関し」と定められており、同条に掲げられている日米地位協
    定は、その二条において「合衆国は相互協定及び安全保障条約第六条の規定
    に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。」と定めている。こ
    こから駐留軍用地特措法の目的も日米安保条約六条によって規律されること
    になる。
     日米安保条約六条は、駐留軍の駐留目的が「日本国の安全に寄与し、並び
    に極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことに存することを
    明らかにしている。
     このように、駐留目的が「日本国の安全に寄与し」、「極東における国際
    の平和及び安全に寄与する」ものと限定されていることから、日本国及び極
    東以外の国際の平和及び安全に寄与するために使用される施設は、右駐留目
    的を逸脱するものであり、その用に供するための強制使用は許されないこと
    になる。各施設の用途、機能ごとに具体的に検討されなければならない。
  (五)「極東」条項を逸脱する駐留軍基地
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     アメリカ合衆国軍隊に駐留軍用地の使用が日米安保条約六条によって認め
    られるのは、日本国の安全と極東における国際の平和・安全のためである。
     「極東」の意義について、一九六〇年二月二六日の政府統一解釈によれば、
    「極東区域は、・・・大体においてフィリッピン以北並びに日本及びその周
    辺地域で韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている」とさ
    れている。
     ところが今や駐留軍基地は、右「極東」の範囲を越えて、太平洋、インド
    洋は無論のこと、中東に関する戦略の拠点としても使用されている。ペルシャ
    湾のホルムズ海峡制圧などを目的とした一九七九年八月の「フォートレス・
    ゲイル」演習への沖縄駐留海兵隊の参加、「中東有事発生の一六日後に沖縄
    駐留海兵隊二〇〇〇名を輸送船でペルシャ湾に投入する」としたアメリカ議
    会予算局の公式文書、一九九一年の湾岸戦争への沖縄駐留海兵隊八〇〇〇人
    の参加、一九九二年のソマリア上陸作戦への沖縄駐留海兵隊五六〇人の派遣
    などが、このことをはっきり裏付けている。
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     もはや駐留軍基地は安保条約六条の極東条項を超えて使用され、違法な存
    在となっている。
  (六)安保「再定義」による駐留目的のさらなる逸脱
     日米安保条約の存在の最大の論拠は「ソ連脅威」論であった。
     しかしソ連が崩壊し、東西冷戦が終結した今日、日米安保条約の存在意義
    そのものが鋭く問われるようになった。そのため、日米両政府は、冷戦終結
    後の日米安保体制のあり方を確認する必要性にせまられ、そのためになされ
    たのが安保「再定義」である。
     安保再定義の内容は、本年四月一七日の日米首脳会談後に発表された「日
    米安保共同宣言」に、それをみることができる。同宣言によれば、「日米安
    保条約に基づく日米安保関係が・・・二一世紀に向けてアジア太平洋地域に
    おいて安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎でありつづけることを再
    確認した」と述べて、日米安保をアジア太平洋安保として位置づけ、二一世
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    紀にわたってこれを維持し続けることを表明している。そして、米軍の駐留
    が「アジア太平洋地域の平和と安定の維持のためにも不可欠」、「この地域
    における米国の・・・関与を与える極めて重要な柱」だと述べている。
     右宣言によれば、米軍の駐留目的は、日米安保条約の目的範囲である「極
    東」を越えて、「アジア太平洋」地域へと拡大されているのである。
     右安保「再定義」については、米国防総省の発表した一九九五年二月の
    「東アジア・太平洋地域に対するアメリカの安全保障戦略」及び同年三月一
    日発表の「アメリカと日本の安全保障関係に関する報告書」においても、同
    様の認識が示されている。
     このように日米両政府は、東西冷戦終結後の駐留軍を、日本の安全や極東
    条項の規定をはるかに越えたグローバルな戦略展開の一部として位置付け、
    それを安保「再定義」の名によって確認し、日米安保条約の実質的改変を推
    し進めているのである。
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     在日米軍基地、とりわけ在沖縄米軍基地は、これまでも日米安保条約の目
    的条項を逸脱した米軍の世界戦略に取り込まれ利用されてきたが、安保「再
    定義」はこのような実態を容認し固定化するばかりでなく、それを名実とも
    に地球的規模に拡大することを確認するものである。
     従って、このような「再定義」による役割を付与されている駐留軍基地に
    提供するために、駐留軍用地特措法に基づいて強制使用認定をなすことは、
    日米安保条約六条の目的を逸脱するものとして違法だといわざるを得ない。
  (七)「駐留軍の用に供する」ことの充足
     以上に検討したように、「駐留軍」が主体となって、当該物件を「駐留目
    的(日米安保条約の目的)遂行」のために使用する場合に初めて、「駐留軍
    の用に供するため」ということが充足されるのである。駐留軍用地特措法に
    基づいて強制使用・収用が認められるのは、正に右要件を備えることにより、
    同法が日米安保条約上の義務履行としての性格を取得するからにほかならな
    いのである。
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  3 「必要性」の要件
  (一)公益性と収用の必要性
     「必要性」の要件について、土地収用法では「公益上の必要」となってい
    るのに対し、駐留軍用地特措法では単に「必要」となっており、若干文言が
    異なっている。
     しかしこれは、駐留軍用地特措法においては、「駐留軍の用に供する」こ
    と自体が公益上のものとされていることから単に「必要」のみと規定された
    にすぎないのであって、土地収用法における「公益上の必要性」と同一の内
    容を定めたものと言える。
     従って、駐留軍用地特措法三条の「必要性」の要件は、駐留軍の用に供す
    るため(公益性)であるか否か、土地等を必要とする(強制使用・収用の必
    要性)か否か、という二つの判断を含むものである。前者についてはすでに
    述べたので、以下、後者についてその具体的内容を検討する。
---------- 改ページ--------203
  (二)強制使用・収用の必要性
     当該物件の使用目的が「駐留軍の用に供するため」と認められても、それ
    だけでは「強制使用・収用の必要性」という要件は充足されない。駐留軍の
    用に供することが「客観的」に必要とされて初めて、強制使用・収用の必要
    性は充足され、「必要性」の要件は具備されるのである。
     単に駐留軍が当該物件を使用・収用することを希望し、または便宜とすれ
    ば足りるのではなく、駐留軍が日米安保条約一条所定の目的を遂行するため
    に、当該物件を強制使用・収用することが客観的に必要とされる場合でなけ
    ればならない。そして、この使用・収用の客観的必要性は、当然、当該物件
    が具体的に駐留軍のいかなる用途に充てられるかということとの関連でのみ
    決せられるのである。従って、強制使用・収用にあたっては、当該物件が駐
    留軍のいかなる用途に使用されるかが具体的に検討されなければならない。
     この点を指摘した駐留軍用地特措法に関する判例として、次のように判示
---------- 改ページ--------204
    した一九五四年一月二六日付の東京地裁判決をあげることができる。
     「適正かつ合理的であるとは、・・・同法立法経過に徴らしても単に駐留
    軍が当該物件を使用することを希望し、又は便宜とすれば足りるというので
    はなくして、安全保障条約第一条所定の目的を持って日本国に駐留するにつ
    いて当該物件を使用する客観的な必要性がある場合でなければならない。か
    かる使用の客観的必要性は、当該物件が具体的に駐留軍のいかなる用途に充
    てられるものであるかということの関連の下にのみ決せられることである」
    (行裁集五巻一号一五五頁)。
     右判決は、「必要性」要件と「適正かつ合理的」要件とを混同している点
    に問題を残すものであるが、必要性が客観的なものでなければならないこと
    を判示している点は、正当な指摘と言える。
  (三)強制使用・収用の必要性の具体的基準
     「土地等を必要とする場合」という強制使用・収用の必要性は、二つの側
    面から検討されなければならない。
---------- 改ページ--------205
     一つは、日本政府がアメリカ合衆国に対して当該物件を提供する必要性が
    どの程度のものかという「提供の必要性」の側面からの検討である。
     二つは、右提供の必要性が存するとしても、日本政府が国民からその財産
    権を制限してまで強制使用・収用しなければならないほどの必要性があるか
    という「強制取得の必要性」の側面からの検討である。
     まず、「提供の必要性」についていうと、仮に日本政府は日米安保条約上
    一般的な基地提供義務を負っているとしても、具体的にどの施設及び区域を
    提供するかについては、アメリカ合衆国と協議して定めることになっており、
    必ずしもアメリカ合衆国が要求する施設及び区域を一方的に提供しなければ
    ならない条約上の義務を負うものではない(日米地位協定二条)。従って、
    この点については、日本政府は条約上かなりの裁量権を保有している。この
    「提供の必要性」については、日本政府とアメリカ合衆国の問題であるから、
    その限りでは日本政府の判断にゆだねられているといえる。
---------- 改ページ--------206
     一方、「強制取得の必要性」という側面は、それが国民の財産権制限をも
    たらすだけに厳格に判断されなければならない。この強制取得の必要性を判
    断するにあたっては、次の点が当該物件やその具体的用途に即して考慮され
    なければならない。
    (1) 日本政府が主張する「提供の必要性」が駐留目的との関連で客観性を有
     しているか(客観性の存在)。
    (2) 当該物件でなければならない程の必要性があるか(非代替性の存在)。
    (3) 当該物件でなければならないとしても、それが強制使用・収用をしてま
     でも取得しなければならないほどに必要最小限の範囲内といえるか(必要
     最小限の範囲)。
     これらの判断要素はいずれも財産権制限の法理とされる「必要且つ最小限
    度」の原則から導かれるものである。これらが総合的に考慮されて客観的な
    「強制使用・収用の必要性」が判断されなければならない。
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  (四)代替性の有無
     国土面積のわずか〇・六パーセントしかない狭隘な沖縄県内に、県土面積
    の一〇・八パーセントを占める二四五・二六二平方キロメートルという広大
    な駐留軍基地が存在し、国内に存在する駐留軍基地面積の二四・九パーセン
    ト、駐留軍専用施設面積でいえば実に七四・七パーセントが集中していると
    いう事実は、右必要性の判断をする場合に十分に考慮されなければならない。
     沖縄県内の駐留軍基地は、被告第一準備書面・第三で詳述したように、日
    本国憲法の適用が及ばない米軍施政権下で強権的に、何らの制限なく欲しい
    ままに構築されたものであり、必要以上に軍用地として土地が囲い込まれた
    経緯が存する。従って、日本国憲法の視点から基地の規模、位置等について
    再度厳しく点検することが必要であり、遊休地化している軍用地、住民の耕
    作を認めている黙認耕作地、他に集約することができる施設等、多くの問題
    点が存しているのである。
     特に、前記の非代替性の存在については、他の物件で代替し得るというだ
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    けで「強制使用・収用の必要性」はないと判断されなければならない。なぜ
    なら、代替性が存するということは、財産権制限の法理「必要且つ最小限度」
    の原則に反するということを意味するからである。
     いわゆる日光太郎杉事件控訴審判決は、道路用地のための強制収用に関し
    て、「本来、道路というものは、人間がその必要に応じて自らの創造力によっ
    て建設するものであるから原則として『費用と時間』をかけることによって、
    『何時でも何処にでも』これを建設することは可能であり、従って、それは
    代替性を有している。」として、道路のもつ基本的性格を指摘した後、代替
    道路建設のために当該事業費の約三一・四倍の費用がかかるとしても、当該
    土地付近の有するかけがえのない諸価値ないし環境の保全の要請が最大限に
    尊重されるべきであることを考えると、代替道路建設が不可能とは言えない
    と判示した(一九七三年七月一三日東京高裁判決)。大いに参考とすべきで
    ある。
  (五)被使用・被収用者側の事情
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     「強制使用・収用の必要性」を判断する際には、使用者及び申請者(起業
    者)側の事情だけでなく、被使用・被収用者側の事情をも考慮されなければ
    ならない。この点に関し、前記の日光太郎杉事件控訴審判決は、起業者側の
    事業計画の必要性から直ちに強制使用・収用の必要性を判断せず、起業者側
    が事業計画の実施を必要とする事情と収用対象物件の尊重されるべき価値と
    を比較衡量して、強制使用・収用の必要性を判断すべきことを明らかにして
    いる。極めて貴重な指摘である。
     特に沖縄においてはこの点が強調されなければならない。なぜなら、被使
    用者は既述のように自己の意思に反して駐留軍に土地を強奪されて以来、復
    帰前は駐留軍に、復帰後は日本政府により強制使用された経緯が存するから
    である。適正な手続を経ないまま五〇年余にわたり所有者の意思に反して財
    産権が制限されるという状態は、極めて異常であり、反憲法的状態と評価し
    得るものとなっている(民法六〇四条が当事者の合意によるも二〇年を越え
    る賃貸借契約期間を定め得ず、これに反する契約期間は無効としていること
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    を考慮に入れるべきである)。それだけに、被使用者の回復されるべき権利
    は、より一層高い尊重さるべき価値をもつものというべきである。
     日本政府の当該物件の強制取得の必要性は、被使用者側の右事情をも考慮
    して、その存否が判断されなければならない。
  (六)「必要性」の要件の充足
     以上の諸要素が考慮され、「駐留軍」が「駐留目的遂行」のために、当該
    物件を「使用又は収用する客観的必要がある」と判断された場合に初めて、
    強制使用・収用要件の一つである「必要性」の要件が具備されることになる。
  4 「適正且つ合理的」要件
  (一)土地利用の仕方についての規定
     「適正且つ合理的」要件の規定の仕方について、土地収用法と駐留軍用地
    特措法は若干文言を異にしている。土地収用法は「土地の適正且つ合理的な
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    利用に寄与するもの」と規定するのに対し、駐留軍用地特措法はただ単に
    「適正且つ合理的であること」と規定している。
     しかし、両法の構造からして右若干の文言の違いに特別の意味を見出すこ
    とはできない。両法は同一の意味内容の要件を定めたものと解すべきである。
    従って、駐留軍用地特措法にいう「適正且つ合理的」とは、土地の利用の仕
    方が「適正」であり、且つ「合理的」であることを意味するものと解する。
  (二)「適正」の意義内容
   (1)土地利用の仕方は「適正」でなければならない
      「適正」概念の中心に正義の観念が存することは疑い得ないが、その具
     体的内容に言及した見解は現在のところ見当たらない。思うに、強制使用・
     収用の要件の中に「適正」の文言が付加されたのは、土地収用法が憲法二
     九条を法的基礎としていることに由来するからであろう。憲法二九条は、
     「公共のために用いる」場合に限って財産権を制限できると規定し、土地
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     収用法はまさにこの「公共のために用いる」場合を具体的に定めたものと
     されている。このように、「公共のために用いる」ということは、財産権
     制限の正当理由とされているものであるから、単に公共の利益に寄与する
     というだけでなく、積極的に憲法及び法律に適合し、さらに社会正義に合
     致するという積極的意味・内容を含むものでなければならない。
      この適法性ないし社会正義への合致という積極的要素が、土地収用法及
     び駐留軍用地特措法の中で「適正且つ合理的」という形で使用・収用要件
     として規定されたものと解される。
      従って、「適正」な土地利用とは、憲法及び法律に適合し、社会正義に
     合致する土地利用を指すものと解すべきである。
   (2)違法状態の解消の必要性
      本訴に則して言うと、強制使用の対象となっている本件土地は、約三〇
     年間にわたって所有者の意思に反して強制使用されてきた経緯が存するが、
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     それが違法に使用されてきたと認められた場合に、引き続き新たな強制使
     用をなすことは「適正な」土地利用とは到底言い難い。
      なぜなら、土地使用が適法に新たな使用権原を取得する性質のものだと
     しても、対象物件がこれまで違法に使用されてきたと認められる場合には、
     その違法状態を解消せずに引き続き新たに当該物件に対して強制使用をな
     すことは、既存の違法状態を追認し、それを実質的に承継することになっ
     てしまうからである。これでは、既存の違法状態が強制使用によって治癒
     され合法性を取得するという法の自己矛盾を惹起し、法的正義に合致する
     とはいえないからである。
      従って、約三〇年間にわたって強制使用されてきた本件土地が、果たし
     て適法に使用されてきたものであるか否かということは、本件土地の利用
     が「適正且つ合理的」であるか否かを判断する上で回避できない不可欠な
     要件事実となっている。
   (3)新たな違法状態の発生の回避
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      また仮に、過去の強制使用が適法になされていたとしても、その強制使
     用期間があまりにも長期に及んでいた場合に、さらに引き続き新たな強制
     使用をなすことは、その強制使用自体が所有権を実質的に侵奪する違法状
     態を発生させるものとして「適正」とは認められない。従って、かかる新
     たな違法状態の発生を回避することが要請されているのである。
      この点に関し、民法六〇四条の立法趣旨が参考とされるべきである。同
     条項によれば、当事者の合意によるも二〇年を越える賃貸借契約期間を定
     め得ず、これに反する契約期間を無効としているのは、長期間にわたる所
     有権行使の制限は所有権の機能を実質的に剥奪するとみなしたからに他な
     らない。
   (4)比較衡量の問題は生じない。
      この「適正」要素については、その性質上後述する「合理的」要素と異
     なり、比較衡量の問題は生ぜず、憲法や他の法律に抵触するか否か、違法
     状態が存するか否かという法的判断の問題が存するだけである。
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  (三)「合理的」の意義内容
   (1)比較衡量による判断
      強制使用の対象となるべき土地の利用の仕方は、「合理的」でなければ
     ならない。
      ここでいう「合理的」とは、財産権制限の要件として規定されているも
     のであるから、当該物件を当該収用・使用目的に使うことが「合理的」で
     あるか否かというだけでなく、当該収用・使用によって失われる被使用・
     被収用者側の事情及び当該物件の他の用途との比較衡量によって判断され
     なければならない。なぜなら「合理的」という要素は、土地の利用の仕方
     について「公共の利益の増進と私有財産との調整を図(ろう)」(土地収
     用法一条)とするものと解されるからである。
      前記日光太郎杉事件控訴審判決は、この「適正且つ合理的」要件につい
     て、「その土地がその事業の用に供されることによって得られるべき公共
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     利益と、その土地がその事業の用に供されることによって失われる利益
     (この利益は私的なもののみならず、時としては公共の利益を含むもので
     ある。)とを比較衡量した結果、前者が後者に優越すると認められる場合
     に存するものであると解するのが相当である。」と判示している。
   (2)比較衡量の対象ー違法に形成された現況の排除
      この比較衡量の際、当該物件をとりまく状況を含めて、当該物件の現状、
     その有する価値ないし利益が検討されることになる。
      起業者(申請者)が申請した事業計画(使用目的)に基づく土地利用の
     仕方が合理的か否かの判断は、強制使用・収用時における対象土地の現況
     及びそれを取り巻く周辺状況をもとに、その歴史的、文化的、社会的諸側
     面から判断されることになる。しかし時としてこの比較衡量の対象となる
     現況が違法によって形成されてきた経緯が存在する場合がありうる。この
     ような場合には、この現況を形成してきた違法状態を度外視し、あるがま
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     まの現況を前提として土地利用の仕方について比較衡量を行うことは、現
     況を形成してきた違法状態を容認した上での「合理的」の判断となって前
     記「適正」要素に反することになる。
      従って、「適正かつ合理的」であるか否かを判断する場合には、当然違
     法に形成された現況を排除し、違法なかりせばあったであろうと想定しう
     る状況(想定現況)を前提として、「適正かつ合理的」な土地利用である
     か否かを判断しなければならない。
      本件各土地は、約三〇年間に及ぶ違法な土地使用によりいびつな現況が
     形成されてきたという沖縄特有の事情を有している。それだけに、本件強
     制使用認定時に本件各土地が既に軍用地として利用されてきたという事実
     を前提にして、単純に、本件各土地を引き続き「軍用地」として利用する
     ことは「合理的」な土地利用の仕方であると判断することは相当でない。
     本件では、違法に形成されてきた本件各土地の現況を排除し、本来のある
     べき状況を想定したうえでの比較衡量が行われなければならない。
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      本件各土地は、前記したように戦争行為及び駐留軍施政権下の土地強奪、
     並びに復帰後の違憲無効な公用地法によって軍用地としての現況が形成さ
     れ維持されてきたのであるから、かかる現況を前提に「適正且つ合理的」
     な土地利用の仕方が比較衡量されてはならない。本件各土地は、違法な土
     地取り上げがなかりせば、村落に位置した土地であるか、又は村落周辺の
     豊かな田畑となっていたものであるから、そのようなものとして本件各土
     地の「適正且つ合理的」な利用が考慮されなければならない。
      このような状況を考慮の上、土地所有者の利用計画のもつ社会的、公益
     的意義、特に当該土地が都市形成上ないしは都市計画上どのような地位を
     占めているかを検討しなければならない。土地所有者らが違法に奪われた
     土地の返還を求めている行為は私的な利益の側面と同時に県民的な視点か
     ら公益的価値を有することを見落としてはならない。
   (3)具体的用途による判断
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      「合理的」な土地利用といえるか否かは、抽象的、一般的にではなく、
     当該土地に即してその具体的用途との関連で判断されなければならない。
     この場合、前記「強制使用・収用の必要性」について述べた諸要素が、改
     めてここでも考慮されることが大切である。
      特に、自由奔放に広大な軍用地を確保し使用する駐留軍に比し、残され
     た狭隘な土地で密集して生活する県民の実情を直視し、全県民的立場に立っ
     て限られた土地をどのように利用することが求められているか、強制使用
     申請者(国)が使用目的として掲げる利用形態が果たして強制使用までし
     なければならない程の合理的な土地の利用といいうるのか、それらが具体
     的に検討されなければならない。その際、使用目的が格別本件土地でなけ
     ればならない程の必要性を有せず、任意に取得した他の契約土地を利用す
     ることで足りる(代替性)事情が認められる場合には、それだけで申請者
     が主張する使用目的は、強制使用をしてまで使用する程の合理的な土地利
     用とは認められないものと判断されることになる。
   (4)「適正且つ合理的」要件の充足
      以上の要素が考慮され、当該土地利用の仕方が「適正」で且つ「合理的」
     であると評価されたとき、強制使用・収用要件の一つである「適正且つ合
     理的」要件が具備されたことになるのである。
 三 キャンプ・ハンセンにおける本件強制使用認定の違法性
  1 本施設の概要及び機能
  (一)キャンプ・ハンセンは、名護市、恩納村、宜野座村及び金武町にまたがる
    五一四七万平方メートルの面積を有する海兵隊基地で、沖縄県内の米軍基地
    では北部訓練場に次ぐ二番目の大きさである。その管理部隊は、在沖米海兵
    隊基地司令部である。
  (二)いわゆる五・一五メモによれば、施政権復帰に伴う本施設の使用目的と使
    用条件は次のようになっている。
     使用目的は、宿舎、事務所及び訓練場である。
     使用条件については、「本施設及び区域において、指定された射撃場にお
    ける実弾射撃及び爆発物処理が認められる。使用される兵器は、水陸両用師
    団が通常装備する兵器の一般的範疇に入るものである。ヘリコプター及び固
    定翼機による空から地上の着弾区域に対する実弾射撃も認められる。」など
    とされている。
     また、この他、「本施設及び区域内の指定された出入路及び一〇四号線は、
    合衆国軍の活動を妨げないことを条件に、地元民の通行が認められること」
    などが日米間で合意されている。
  (三)施設の現状及び任務
     キャンプ・ハンセンは、国道三二九号沿いに金武町の市街地に面した「キャ
    ンプ地区」とその背後の恩納村から宜野座村、名護市に連なる山岳部の「訓
    練地区」からなっている。米軍では、キャンプ・ハンセンの訓練地区とキャ
    ンプ・シュワブの訓練地区と合わせて「中部訓練地域」(CTA)と呼んで
    いる。
     訓練地区は、県道一〇八号線を北端としてキャンプ・シュワブと接し、南
    は概ね屋嘉から南恩納に抜ける県道二二九号線に囲まれた演習場であり、
    「ハンセン訓練場」と「ハンセン着弾区域」からなっている。
     ハンセン訓練場は、CTA1a〜1c、2a〜2g、3a〜3f、5a〜
    5fに細分され、3c、3f及び5地区で実弾射撃が行われ、他地区は一般
    演習場として部隊訓練か戦術訓練が行われる。3c及び3fには、県道一〇
    四号越え実弾砲撃演習を行う三〇〇番台の砲座が九カ所ある。
     ハンセン着弾区域は、恩納岳、伊芸岳、金武岳、ブート岳を擁し、キャン
    プ地区の西部に隣接している。ここには3c、3f及び5地区のレンジの着
    弾地が設定されているほか、第一廃弾処理場がある。
     キャンプ地区には、第三海兵師団直轄の司令部大隊トラック中隊、第三戦
    闘工兵大隊、第七通信大隊のほか、第九海兵連隊C浮橋大隊、同D浮橋大隊、
    同E浮橋大隊が駐留している。第九旅団役務支援群(牧港補給地区)が一九
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    九二年春に解隊されたことに伴い、キャンプ・ハンセンに駐留していた同群
    の医療大隊と技術支援大隊は、解隊された。
     施設内には、海兵下士官養成のための師団学校が設置されており、海兵隊
    以外の三軍にも利用されている。また、診療所、歯科、銀行、郵便局、兵舎、
    運動場などのほか、ボーリング場、将校、下士官、一般兵の各クラブ等の娯
    楽施設も完備されている。
     なお、ハンセン訓練場内には、一般県道一〇四号線、同一〇八号線があり、
    ほかに、鍋川ダム導水路、企業局の導水管などの沖縄県の行政財産が存する。
    ちなみに、訓練場のインパクト地区/緩衝地帯には平川ダムなど五ダムがあ
    る。また、同施設の訓練区域一帯は沖縄本島有数の森林地帯となっており、
    木材等生産、水源かん養等の機能を果たしているが、キャンプ・ハンセンに
    は一四五haの国有林のほか、市町村有林およそ四、〇〇〇haがあり、こ
    れらは、名護市、宜野座村、恩納村及び金武町の森林面積計二〇、〇〇〇h
    aの約五分の一を占めている。
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  2 本施設の強制使用の経過
    本施設は、一九四五年の沖縄戦での占領時に飛行場を建設して使用が開始さ
   れ、一九五七年にはキャンプ・ハンセンとして使用開始された。施政権返還後、
   沖縄自動車道路敷の用地など一部が返還されているが、それでもなお前記のよ
   うな広大な面積が米軍基地として使用されている。
  3 強制使用対象の土地の所在と使用の現状
    本件で強制使用の対象とされている土地のうち、屋宜葉子、仲本菖子及び屋
   宜盛峰共有の土地(訴状添付物件目録一の1)は、訓練場用地とされている。
    山城靖、山城浩及び池原たか子共有の二筆の土地(同物件目録一の2、3)
   は、訓練場用地とされている。
    以上の三筆は、恩納岳の東北側のキャンプ・ハンセンのはずれに位置し、恩
   納村役場からわずか六〇〇メートル余り南に存する。
    安次富勉所有の九筆の土地(同物件目録一の4ないし12)は、「事務所及
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   び隊舎地区の事務所敷地、事務所用地、隊舎敷地、隊舎用地及び修理工場敷地
   並びに訓練場地区の訓練場用地」とされている。ただし、安次富勉からは、土
   地調書作成の際に、当該土地の位置、地形、地籍等について異議が述べられて
   いる。
    那覇防衛施設局作成の各書類によれば、右安次富所有の土地のうち八筆が事
   務所、隊舎地区にあり、一筆が訓練場地区にある。事務所、隊舎地区の八筆の
   うち五筆上には建物があり、残る三筆上には建物は存しない。訓練場地区の一
   筆は沖縄自動車道からわずか二〇メートル北に位置する。
  4 実弾砲撃演習等による基地被害
  (一)キャンプ・ハンセン演習場における第三海兵師団第一二海兵連隊による県
    道一〇四号線越実弾砲撃演習は、一九七三年三月三〇日の第一回から数えて
    一九九五年末までに一六四回実施されている。そのうち、例えば一九九五年
    一一月二九日から三日間実施された一六三回目の演習では、この期間に丁度
    六〇〇発の一五五ミリりゅう弾砲が撃ち込まれた。
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  (二)キャンプ・ハンセンは、実弾砲撃演習の主要火器である一五五ミリりゅう
    弾砲の最大射程距離が約三〇キロメートルであるのに対し、訓練地域は東西
    約一三・五キロメートル、南北四・二キロメートルしかない。着弾地のブー
    ト岳は、金武町伊芸地区から二・三キロメートルしか離れておらず、同じく
    ジャハム岳までは同地区から一・九キロメートルしか離れていない。着弾地
    の背後には、恩納村役場や県内随一の海浜リゾート地域が控えている。
     このため民間地域や水源かん養林への飛弾事故が相次いで発生している。
     キャンプ・ハンセン周辺での飛弾事故のうちいくつかを次に例示する。
     一九七六年三月二〇日 金武村の沖縄自動車道上一八・四キロメートルポ
               イント付近に、演習用照明弾二個が落下した。
     一九七八年四月一三日 第一廃弾処理場で処理中の砲弾破片が、約一・五
               キロメートル離れた伊芸二五八番地島袋正勝氏宅の
               コンクリート屋根のほか、児童公園三カ所に落下し
               た。
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     一九七九年五月二日  伊芸の沖縄自動車道のレストラン駐車場に砲弾の
               破片が落下した。
     一九八六年九月六日  伊芸の民家の網戸に米軍のM16ライフル弾がめ
               り込んでいるのが発見された。
     一九八七年六月一〇日 宜野座村字惣慶の演習場内で第三戦闘工兵大隊が
               待ち伏せ訓練中、催涙ガスを使用したため、黙認耕
               作地で作業していた住民六人が目に痛みを感じる被
               害を受けた。施設境界線から五〇〇メートル以上離
               れて行うべき催涙ガス使用を数メートルの地点で行っ
               たことが原因。
    一九八八年一〇月一五日 レンジ6から伊芸の宅地へM16ライフル銃弾が
               撃ち込まれた。
  (三)実弾砲撃演習に伴う、発火性の高い照明弾や曳光弾から着弾地内の雑草に
    引火して発生する原野火災も深刻であり、周辺住民に不安を与えている。キャ
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    ンプ・ハンセンでは、一九九五年までに一一七件発生し、延べ約一三二四万
    平方メートルが焼失した。また、時には水源かん養林にも延焼している。
  (四)県道一〇四号線越え実弾砲撃演習にとどまらず、日常的な演習による騒音
    被害も非常に深刻である。特にキャンプ・ハンセンに近接する中川小学校や
    喜瀬武原小中学校での被害が教育環境を著しく悪化させている。
  (五)そのほかにも、周辺民間地域での、殺人や婦女暴行などの凶悪事件を含む
    軍人犯罪や、米軍車両による国道三二九号などでの交通事故、赤土汚染など
    の環境破壊など多岐にわたる被害がもたらされている。
  (六)このような深刻な基地被害が一向になくならないため、一九九六年四月一
    二日には、金武町議会などが実行委員会を構成する「県道一〇四号線越え実
    弾砲撃演習廃止・米軍ヘリ騒音防止を要求する町民大会」(実行委員長吉田
    勝広町長)が町民一一〇〇人の参加で開かれた。これは、全町民レベルで初
    めて実弾砲撃演習の廃止を要求する集会となった。この集会決議は、次のと
    おり述べている。
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     「金武町は町面積の六〇%が軍事基地に占められ、産業の育成、振興開発
    など、阻害要因となっているばかりでなく基地から派生する事件・事故と隣
    り合わせの中で町民は生活を余儀なくされている。
     戦後五十年余を経ても、いまだに戦場を思わせるような米軍演習も日常的
    に行われているのが現状である。
     県道一〇四号線越えの実弾砲撃演習は復帰後も約四万発余がブート岳やジャ
    ハム岳に打ち込まれ、山々は地肌むきだしになり、河川も海も赤土が流出し、
    自然の摂理が破壊されている。それだけではない。昼夜に及ぶ実弾演習は、
    子供達の感性や町民生活に大きな影響を与えている。…」
     まさにすさまじい被害を町民に与えているのがこの実弾砲撃演習なのであ
    る。
     また、右実弾砲撃演習に対する沖縄県民の思いの一つを、代理署名訴訟で
    の被告本人尋問から引用する。「恩納岳というのは、恩納ナビーという有名
    な沖縄の歌人が歌を作って、民謡の先生に言わせますと、それこそ神聖な山
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    だと、つまり民謡、古典なんかにも恩納ナビーの歌とかがうたわれるという
    ことで、そして民謡の先生たちはここを非常に大事にしているんだと。…恩
    納岳に砲弾を撃ち込むというのは我々の心の中に砲弾を撃ち込むのと同じだ
    と…」。
  5 「駐留軍の用に供する」(駐留目的に向けられていること)との要件の不存
   在
    本施設は、第三海兵師団のキャンプ及び演習場である。海兵隊の軍事的性格
   は、敵前上陸をする侵攻部隊であって、その駐留は、わが国と極東における平
   和と安全を確保しようとした日米安保条約の目的に反する。よって、本施設は、
   日米安保条約の駐留目的に向けられているとは言えず、駐留軍用地特措法上の
   「駐留軍の用に供する」との要件を具備していない。
  6 「必要性」要件の欠如
  (一)キャンプ・ハンセンでの実弾砲撃演習は、一九九六年四月一五日に開催さ
    れた日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、取りやめることが合
    意された。このことは、キャンプ・ハンセンにおいて実弾砲撃演習をなす合
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    理的理由が存しないことを政府自体が認めたものであって、実弾砲撃演習を
    する必要がないのであるならば、キャンプ・ハンセンの広大な基地用地はそ
    の強制使用の必要性を欠くものと言わねばならない。
  (二)個別の強制使用対象土地についてみても、前記のとおり訓練場用地とされ
    ている土地の内三筆は、恩納村役場近くの演習場辺縁部にあり、またもう一
    筆は沖縄自動車道のすぐ傍にあり、強制使用してまで演習場として使用する
    必要性は認められないというべきである。
  7 「適正且つ合理的」要件の欠如
  (一)深刻な演習被害
     キャンプ・ハンセンにおける実弾砲撃演習等が地元住民に甚大な被害を被
    らせていることに鑑みれば、同施設のために本件各土地を強制使用すること
    の合理性はそもそも存しないということができる。
     基地そのものが狭隘な地域に立地しているため、実弾演習地域が住民地域
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    にきわめて近接せざるを得ず、また、一般県道を封鎖しての演習を行うこと
    になり、さらには、民間地域まで届かないように一五五ミリ榴弾砲の火薬量
    を調節せざるを得ないという異常な状態下で演習がなされているのである。
    このことは、基地の機能という観点のみからみても、キャンプ・ハンセンが
    現在の土地に立地していることの適正さや合理性が存在し得ないことを示す
    ものである。
  (二)原状回復の困難性
     加えて、これまで約四万発が撃ち込まれた実弾砲撃演習の原状回復の困難
    性も指摘しなければならない。この点について、代理署名訴訟における被告
    本人尋問において、被告は次のとおり陳述した。
     「去る沖縄戦のときに米軍が投下した不発弾を、今、我々は億単位の予算
    を使って毎年処理しておりまして、これは戦後五〇年間処理してきたわけで
    すが、…これを完全に処理するのにはあと四〇年から五〇年かかるといわれ
    ているわけです。ところが、この恩納村の一〇四号線沿いの演習は、仮に明
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    日やめたとして、いったいそのあとの不発弾処理を、当然国の責任になるで
    しょうけどね、どれだけの予算をかけて何年の期間をかけて処理できるかと、
    これはもう行政にとってはそれこそ表現のできないほど重大な問題でしてね。
    なぜそういうことを述べるかと言いますと、ハワイの無人島で実弾砲撃演習
    がありまして、地元の住民の反対で中止されたわけですがね。今、その不発
    弾の処理に四億ドルの予算を組んでいるが、これを表面から二メートルぐら
    いのところまで掘り下げて、更にそれを深く掘り下げると、四億ドルじゃな
    くて二〇億ドルの費用がかかると。ところが、予算がないもんだから、それ
    は放置されたままだということ…をこの間(ハワイ知事から)聞きまして…。
    更に問題なのは、地表から三メートルまで掘ったときには二〇億(ドル)か
    らの予算がかかるとして、その下にあるものは、万一この土地が返されてそ
    こに住民生活が営まれるようになったときに、万一事故が起こった場合にそ
    の補償はだれがやるのかという問題ですね。」
     本施設の強制使用は、かように対象土地の財産権を著しく制約する結果を
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    招いているのである。以後も従前の基地使用を継続していけば、ますます返
    還後の土地利用を困難とし、土地の利用を不可能にしてしまうおそれも生じ
    かねない。このように将来にわたって重大な土地利用の制約をもたらすよう
    な基地利用のための強制使用は「適正且つ合理的」との要件を失わせるもの
    である。
  (三)返還後の跡利用計画等
     キャンプ・ハンセン敷地について、関係各市町村は、これまで返還を要望
    しつつ具体的な跡利用計画などを検討してきた。
     宜野座村は、一九九〇年に軍転協を通して返還を要望していたキャンプ・
    ハンセンの一部七七万六〇〇〇平方メートルについて、同村において「漢那
    ゴルフ場整備事業」として跡地利用計画を策定し、返還受け入れ体制を整備
    している。
     金武町は、例えば、一九九〇年に返還を要望した伊芸塩原総合リゾート施
    設整備計画用地一六三万平方メートルについては、基本構想策定後、基本計
    画を策定中であり、加武川レジャー施設整備計画地一一万七〇〇〇平方メー
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    トルについては、ゴルフ場拡張用地に充てる予定である。
  (四)以上のとおり、本施設は、重大な基地被害を周辺にもたらしており、この
    まま米軍基地として提供を継続することは更なる被害をもたらすことになる
    のであり、他方、右のとおり関係各市町村等における有効な跡利用計画等を
    考慮すれば、各土地の強制使用に必要な「適正且つ合理的」の要件を満たさ
    ないというべきである。
 四 瀬名波通信施設における本件強制使用認定の違法性
  1 本施設の概要及び機能
    本施設(面積六一万三〇〇〇平方メートル)は、読谷村の北西に位置し、西
   太平洋諸国の放送の傍受を主な活動としている。
    本施設は、まず、一九四九年、米国務省管轄の「FBIS(海外放送情報サー
   ビス沖縄ステーション)」として、東欧諸国、アジア各国の公共放送を始め、
   各種報道機関の通信をも傍受・分析し、軍事目的のために電波情報を収集する
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   という、いわゆる大規模なスパイ基地として設置された。
    さらに、一九五七年以降、本施設内に、「FBIS」に隣接して、ナイキ基
   地やメースB基地も建設されたが、本土復帰前から、発射訓練に際して、自衛
   隊幹部がすでに研修目的で参加していたといわれている。
    本施設内の「ボロー・ポイント射撃場」では、戦車の砲撃演習も実施されて
   いた。
    本施設は、本土復帰に伴い、「ボロー・ポイント射撃場」として我が国に基
   地として提供されるようになった。その際、全施設の八割以上(面積比)が返
   還され、残ったのは「FBIS」の一部だけだが、スパイ基地としての基本的
   役割に変化はない。
    一九七七年、「ボロー・ポイント射撃場」から「瀬名波通信施設」と名称が
   変更され、翌一九七八年、陸軍から空軍に移管された。
  2 「必要性」要件の欠如
    本施設が、東欧諸国の社会主義体制の崩壊・冷戦構造の終焉により、本来予
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   定された役割を終えたという事情、後述する「トリイ通信施設」だけでも、そ
   の通信施設としての役割・機能は十分果たせるという事情等を考慮すると、我
   が国が、米国軍隊に対し、本件各土地を、米軍基地として提供する「提供の必
   要性」はない。また、我が国が、本件各土地を国民から強制的に取得して、米
   国軍隊に対し、米軍基地として提供しなければならないという「取得の必要性」
   もないというべきである。
    従って、「必要性」の要件を欠くことは明らかである。
  3 読谷村の振興開発計画の阻害
    読谷村は、一九七三年三月、残波リゾートゾーン計画を策定し、その後、同
   計画の見直しを経て、現在、残波公園、パブリック・ビーチが整備され、リゾー
   ト・ホテルやスタジオ・パーク等が誘致されている。しかし、米軍による本件
   各土地の強制使用及び瀬名波通信施設の存在が、読谷村の効果的な土地利用計
   画の遂行を妨げている。
  4 本件土地の検討
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    本件土地(訴状添付の別紙物件目録記載二の1の土地、所有者ー新垣昇一、
   地番ー字瀬名波鏡地原八九六番地の二、地積ー二五一・九九平方メートル、地
   目ー畑)について、本件土地は、日米安保条約に基づき駐留軍が使用している
   「瀬名波通信施設」の一部であり、「事務所用地として使用されている。」。
    しかし、本件土地上には、事務所は存在せず、事務所からは一〇メートルあ
   まり離れており、フェンスのすぐ内側にある。本件土地に関する物件調書も、
   「実地の状況」について、「当該土地には、日本国に駐留するアメリカ合衆国
   軍隊が使用するフェンスがある。」という(甲第六号証の二の四)。
    実は、新垣昇一氏の所有する本件土地は、ほぼ真四角の土地が、すべて米軍
   用地として強制使用され、フェンスで、二つの三角形の形に分断されていた状
   況であったが、一九九二年四月、フェンス外の三角形の部分は分断して返還さ
   れたが、フェンス内の三角形の部分の本件土地が、本件強制使用認定されたも
   のである。新垣昇一氏とすれば、フェンス外の三角形の部分だけを返還された
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   としても、有効な土地利用はできない。そもそも、フェンスを移動しさえすれ
   ばよいのであるから、新垣昇一氏への本件土地の返還は極めて容易であり、返
   還したとしても、本施設の基地機能には、全く影響を及ばさない。
    原告は、本件土地は本施設の一部として、本施設全体と有機的に一体として
   機能しているから、強制使用認定せざるを得ないと、主張する。
    しかし、その「有機的に一体として機能」の実態は、本施設の機能を明らか
   にしないまま、フェンスを移動するのが面倒で、そのために費用がかかるから
   強制使用認定するというものである。
  5 まとめ
    以上述べた本件土地の状況からして、我が国が、米国軍隊に対して、本件土
   地を提供する「提供の必要性」はなく、また、我が国が、本件土地を、新垣昇
   一氏から強制的に取得して、米国軍隊に提供しなければならない「取得の必要
   性」もない。
    従って、少なくとも、本件土地について、客観的「必要性」の要件を欠くこ
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   とは明らかである。
    また、本件土地を米軍用地として利用する利益よりも、本件土地を剥奪され
   た新垣昇一氏の損失がはるかに大きく、本件土地を新垣昇一氏の返還したとし
   ても、本施設の基地機能には全く影響を及ばさないこと、更に、本件土地の強
   制使用及び本施設の存在が、読谷村の計画的な振興開発を阻害している事情等
   を併せ比較考量すると、本件土地を強制使用認定しなければならない具体的必
   要性は全くなく、「適正且つ合理的」の要件を欠くことは明らかである。
 五 嘉手納弾薬庫地区における本件強制使用認定の違法性
  1 嘉手納弾薬庫の概要
    本施設は、読谷村、嘉手納町、沖縄市、具志川市、石川市及び恩納村の区域
   にまたがり、面積二万九七五二平方キロメートルを占める広大な米軍施設であ
   り、弾薬庫と支援施設がある。
    空軍が管理し、四軍全部の任務を支援している。主要部隊は、第一八航空団
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   第一八兵站群の第四〇〇弾薬整備中隊で、太平洋地域に展開する米軍が使用す
   る通常弾薬の貯蔵・整備を行っている。
    本施設は、まず、一九四五年、米軍の沖縄占領と同時に、その使用が開始さ
   れ、当初は、嘉手納飛行場に隣接する地域に、嘉手納弾薬庫、比謝川サイト及
   び波平弾薬庫が構築されていたが、その後、読谷合同弾薬処理場、陸軍サービ
   ス弾薬庫等の施設が次々構築され、それぞれが独立した九つの施設であった。
   本土復帰に伴い、これら九施設は、「嘉手納弾薬庫地区」として統合され、そ
   の後、一九七六年八月、南部弾薬庫や瀬長島在の海・空軍補助施設の弾薬庫の
   返還に伴う代替施設として、弾薬庫が建設され、更に、一九七八年一月、読谷
   補助飛行場の一部返還に伴う代替施設として犬舎等建物が設置されるに至った。
    本施設は、広大な森林地域に位置し、琉球松やスダジイが群生し、リュウキュ
   ウケナガネズミ、セマルハコガメ等の貴重な動植物が棲息しているほか、本島
   中部地域において水源が最も豊富で、長田川、平山川、与那原川及び比謝川が
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   流れており、重要な水資源涵養林地域となっている。
    本施設内は、弾薬貯蔵地域と保安地域に分かれている。弾薬貯蔵地域は、立
   入も厳重にチェックされ、特定の場所以外は禁煙とされており、覆土式、野積
   式及び土屋式の各弾薬庫がいたるところに存するほか、整備工場、実験室及び
   事務所があり、弾薬の組立、整備及び貯蔵管理が行われている。
  2 関係各市町村の振興開発の阻害
  (一)本件各土地のうち、大部分は、読谷村に位置している。
     同村は、国道嘉手納バイパスの建設を促進するために、一九八六年に沖縄
    県軍用地転用促進・基地問題協議会を通して、国道五八号の西側部分の一部
    (六五〇〇平方メートル)の返還を要望している。平成二年六月の日米合同
    委員会は、本件要望のうち、六〇〇〇平方メートルの返還について所要の手
    続を取ることを確認しているが、関連する読谷補助飛行場部分のルートの取
    扱が確定しないと作業に入れない状況にある。
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     また、同村は、都市計画道路久得・牧原線、屋良・虎地整備事業のため、
    平成二年に、沖縄県軍用地転用促進・基地問題協議会を通して、本施設の南
    西隅(一〇万平方メートル)の返還を要望している。本件土地の大部分につ
    いても、日米合同委員会は、返還について所要の手続を取ることを確認して
    いる。
     しかし、右返還は、未だ実現しておらず、それが、読谷村の振興開発計画
    の実施を阻害していることは明らかである。
  (二)関係各市町村は、嘉手納弾薬庫地区が返還された場合の、具体的な跡地利
    用計画を有している。
     例えば、沖縄市では、市民のための「平和で文化的なまちづくり」を促進
    を目的としているが、市民の生活環境整備、都市基盤、産業基盤の整備を円
    滑に進めるためには、軍用地の返還が不可欠であるとして、軍用地跡地利用
    計画を立て、軍用地の返還後の整備の基本方向を提示している。
     これによると、「嘉手納弾薬庫地区一帯は、沖縄本島北部と中南部地域の
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    自然・生態系のクロスポイントであり、中南部地域でも広大で良好な自然環
    境が残されて」おり、かって「生活の場であり、集落が形成されて」おり、
    「沖縄市やその周辺地域の自然環境・都市環境等を支えるクサティ森として
    重要」なところであるということに着目し、市民にとってかけがえのない財
    産を擁している嘉手納弾薬庫地区一帯を『市民の森』として位置づけ、「生
    態系への対応」「歴史的ストックへの対応」「付加価値の高い生産への対応」
    「森林活用型公園づくりへの対応」「合理的なアクセス(支援設備の整備)」
    の五つの基本方針のもとに、道路ネットワークの整備を前提として、キャン
    プ場、ハーブガーデンゾーン、林業体験ゾーン、陶芸体験ゾーン、施設園芸
    体験ゾーン、エントランス修景ゾーン等として跡地利用することが具体的に
    構想されている。その財政的裏付けも十分検討されている。
  3 本件各土地の検討
    本件各土地は、日米安保条約に基づき駐留軍が使用している「嘉手納弾薬庫」
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   の一部であり、「九筆は弾薬庫保安用地として、使用されている。」。
  (一)ところで、本件各土地のうち、一筆は、県道二六号線に隣接し、フェンス
    のすぐ近くにある(訴状添付の別紙物件目録記載三の1の土地、所有者ー比
    嘉良子・比嘉昭雄、地番ー沖縄市字大工廻西尻原六〇三番二、地目ー畑、地
    積ー一三〇四平方メートル)。
     県道二六号線に隣接し、フェンスのすぐ近くにある当該土地は、弾薬庫か
    らは一キロメートル以上離れている。このように、フェンス付近に存し、弾
    薬庫からは遠く離れた当該土地について、強制使用認定してまで、米軍に対
    し、基地として提供する客観的な必要性が存しないこと、「適正且つ合理的」
    の要件を充たさないことは明らかである。
     ちなみに、火薬類取締法施行規則第二三条は、「火薬庫は・・・その貯蔵
    量に応じ火薬庫の外壁から保安物件に対し、次の表の保安距離をとらなけれ
    ばならない」と規定し、火薬庫に存する火薬類の種類、貯蔵量に応じ、保安
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    物件と火薬庫との間にとるべき保安距離を保安物件毎に規制しているが、爆
    薬四〇トンの最大量の火薬類を貯蔵する火薬庫であっても、第一種保安物件
    (国宝、建造物、市街地の家屋、学校、保育所、病院等)から五五〇メート
    ル以上も離れておれば、その施設は可とされているし、第二種保安物件(村
    落の家屋及び公園)からは、四八〇メートルでも可とされている。
     右の基準でいえば、フェンスが建つ当該土地に、第二種保安物件たる村落
    の家屋が仮に存していたとしても、火薬庫たる本件弾薬庫の設置は可とされ
    るものであり、逆にいえば、既に存する弾薬庫から四八〇メートル以上も離
    れている当該土地に、第二種保安物件たる集落の家屋を建築することすら、
    右法規上は可とされていることになる。
     右の事実一つからみても、フェンスが建つ当該土地について、弾薬庫の保
    安用地として強制使用する客観的必要性が存せず、当該土地を所有者に返還
    したとしても、本施設の基地機能を害することは全くない。
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  (二)本件各土地のうち、一筆は、国道五八号に隣接するフェンス付近に位置し
    ている(訴状添付の別紙物件目録記載三の7の土地、所有者ー平安一嘉、地
    番ー読谷村字比謝長佐久原五五三番地、原、地目ー畑、地積ー一八五〇平方
    メートル)。
     フェンス付近に位置する当該土地は、弾薬庫からは、はるかに離れたとこ
    ろに位置している。これについても、弾薬庫保安用地として使用されなけれ
    ばならない必要性は全くなく、当該土地を所有者に返還したとしても、本施
    設の基地機能を害することは全くない。
  (三)右二筆の土地の外、本件各土地は、「弾薬庫保安用地」として使用されて
    いるとはいっても、弾薬庫自体からは、かなりの距離を有しており、特に、
    訴状添付の別紙物件目録記載三の7の土地は、いわゆる「黙認耕作地」とし
    て利用されている事情を併せ考慮すると、「必要性」「適正且つ合理的」の
    要件を充たさないことは明らかである。
  4 まとめ
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    以上述べたことから、本件各土地の強制使用認定は、憲法及び法律に適合し、
   社会正義に合致する土地利用ではなく、到底「適正」とはいえず、本件各土地
   を米軍用地として利用する利益よりも、本件各土地を剥奪された所有者の損失
   がはるかに大きく、更に、本件各土地の強制使用認定が、読谷村、沖縄市はじ
   め関係各市町村の振興開発計画の実施の妨げになっている事情を考慮すると、
   到底「合理的」とはいえない。従って、「適正且つ合理的」の要件を満たさな
   いことは明らかである。
 六 キャンプ・シールズにおける本件強制使用認定の違法性
  1 施設の目的と概要
    本施設は、沖縄市字知花及び登川に位置し、七〇万一〇〇〇平方メートルの
   面積をもつ施設で、在沖米艦隊活動司令部/海軍航空施設隊が管理している。
   施設の使用部隊は、海軍機動工兵大隊、太平洋艦隊海軍工兵大隊司令部沖縄分
   遣隊である。施設内には、在沖米国艦隊活動司令部事務所、兵舎、修理工場、
   クラブ(将校、一般兵、LPO)、映画館等の建物が存在し、約五〇人の軍人、
   軍属及び家族が居住しているとのことである。
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    本施設の使用目的は「宿舎、事務所及び訓練場」とされているが、現実には
   主に軍人、軍属及びその家族の居住(兵舎)及び娯楽施設として使用され、一
   部が「シービー」と呼ばれる海軍の工兵部隊の使用する車両修理工場及び資材
   置場として利用されているに過ぎない。
  2 施設の強制使用の経過
    本施設は、一九五二年七月の米陸軍の接収によって使用が開始された。沖縄
   の施政権返還に伴い、日米安保条約に基づく提供施設となった。これまで数回
   にわたり細切れの一部返還がなされ、今日の現況に至っている。
  3 使用対象の土地の所在と使用の現状
    本件使用認定対象地主のうち、島袋善祐が所有する訴状別紙目録6の土地
   (「島袋善祐所有地」という)がキャンプ・シールズ内に存し、本件の使用認
   定申請書(甲第五号証の一)によれば倉庫及び駐車場敷地とされているが、実
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   際にはいずれにも利用されてない更地の状態である。
  4 使用認定の要件の欠如について
  (一)「駐留軍」の使用の要件の不存在
     本件施設は、クラブ、映画館、そして軍人、軍属及び家族らのための住宅
    など、合衆国軍隊の直接の利用に供するものではない部分が相当割合を占め
    ている。前述のとおり駐留軍用地特措法はこれらについて強制使用・収用の
    対象とはなしていないと考えられるので、「駐留軍」の用に供するとの要件
    を欠くものである。島袋善祐所有地自体も単なる駐車場と倉庫への利用であ
    るので、右要件を欠く。
  (二)「駐留軍の用に供する」(駐留目的に向けられていること)との要件の不
    存在 前述のとおり、今日の在日米軍の活動の実態が、日米安保条約の目的
    条項を逸脱している以上、駐留軍用地特措法上も、「駐留軍の用に供する」
    との要件を欠くこととなる。
  (三)「必要性」要件の不存在
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     島袋善祐所有地を強制使用してまで駐車場及び倉庫として利用する客観的
    必要性は存在しないので、必要性の要件も欠けるというべきである。
     そもそも本施設区域のうち、現実に有効に使用されている土地は半分にも
    満たず、遊休提供地がかなり存するのである。本施設は、米軍施政権下にお
    ける強権を利用して、不要不急の土地を囲い込んだ典型的な施設といえる。
    現実に島袋善祐所有地も、以前は資材置場として使用されていたが、数年前
    から資材も撤去され、駐車場などとされていたが、現在は既に駐車場として
    も利用されず、また倉庫なるものも存在せず、全く更地のまま遊休化してい
    るのである。そのため、島袋善祐所有地を利用できないとしても、それ自体
    既に遊休化しているのであり移設の経費云々は全く問題とならず、また、仮
    に以後駐車場や倉庫用地が必要であるとしても、施設区域内の他の遊休提供
    地に駐車場や倉庫を設置すれば済むはずである。現実に島袋善祐所有地のす
    ぐ近隣に同様の遊休地が存在している。しかも、単なる駐車場や倉庫である
    以上、それらを設置する場所がどうしても右土地でなければならないという
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    必然性も生じない。要するに代替性は十分にあるのだから、強制使用するま
    での「取得の必要性」は存しないというべきである。
     また、本施設は、前記のように兵舎、娯楽場、修理工場、資材置場の使用
    目的をもった施設で民間人の立ち入りを禁止すべき性質の施設ではない。現
    に本施設及び区域内の指定された出入路は、合衆国軍の活動を妨げないこと
    を条件に地元住民の通行が認められることが日米合同委員会で合意され、地
    元住民は右制限付きではあるが現実に出入りを行っている。島袋善祐所有地
    は、地元住民が出入りを認められている右指定路まで約二〇メートルと近接
    した位置に所在し、右土地が返還されても、何ら本施設の機能に影響を及ぼ
    すものではない。
     なお、島袋善祐所有地に対する「使用の認定を申請する理由書」(甲第五
    号証の二)によれば、右土地は「施設全体と有機的に一体として機能してい
    る」とされている。しかし、単に基地内の施設は一つの軍事目的のために相
    互に連関している、という程度の抽象的な「有機的一体」性の主張のみでは、
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    右使用認定の必要性の根拠とはなりえない。なぜなら、右使用認定の適否に
    ついては、その対象となる土地毎に判断しなければならないのであり、本件
    ではまさに基地内の島袋善祐所有地一筆を使用認定せずに返還することに支
    障があるか否かが問題だからである。そうすると、その土地が本施設内の他
    の言葉どおり「有機的一体」といえるためには、当該土地上の物件(駐車場
    及び倉庫)が、他の施設内の物件との関係上密接不可分に関連しており、当
    該場所以外に設置することによりその物件相互の機能を喪失ないしは著しく
    減退するような場合でなければならないのは当然である。
     これを島袋善祐所有地についてみると、その土地上に設置するという駐車
    場や倉庫自体が、まさにその土地になければ機能を果たし得ないというわけ
    ではなく、施設内の近隣の遊休地に設置することによって従前通りの機能を
    発揮することができるものである。従って、右土地が「施設全体と有機的に
    一体として機能している」との主張は、強制使用の必要性の根拠とはなり得
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    ない。右の主張は、島袋善祐所有地自体が米軍による「有効利用」もなされ
    ていないことを承知していながら、それでも強制使用を押し通すために持ち
    出してきた弁解に過ぎないのである。
  (四)「適正」要件
     本施設は、一九五二年にいわゆる「銃剣とブルドーザー」によって強制的
    に接収され、沖縄の施政権返還後も違憲の「公用地法」、「地籍明確化法」
    などにより今日まで強制使用されているのであるが、その経過の違法性は被
    告第一準備書面「第三 沖縄における基地形成史」で述べたとおりである。
    その違法性を是正しないまま更に継続して使用認定すること自体「適正」と
    は到底いえない。
  (五)「合理的」要件
   (1)本施設の不合理な利用の実態
      本施設は右のとおり不要不急の遊休施設であるため、これまで六回にわ
     たって合計約七一万四九七〇平方メートル返還されており、団体営畑地帯
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     総合土地改良事業や東南植物楽園などに利用されている。しかし残された
     施設区域についても、大半が遊休地となって放置されている状況にあり、
     本施設を利用しているのはわずか約五〇名程度の兵員に過ぎない。実態と
     しては不合理な土地の利用状況であることは明白である。
      また、島袋善祐所有地を返還して駐車場等を移設するとしても、わずか
     数十メートル移動させれば済むことであり、かつ駐車場等に過ぎない以上
     移設に多額の費用がかかるということも全くないのに、そのまま強制使用
     を継続することは著しく不合理である。
   (2)本施設返還による利用の必要性
      それに比べ、本施設用地を返還して自由な土地利用を許す社会的必要性、
     効用は極めて大きい。
      本施設は、西部を嘉手納弾薬庫に、北西部を東南植物楽園に隣接してお
     り、施設の東側には沖縄自動車道及び国道三二九号をはさんで返還済みの
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     旧「キャンプ・ヘーグ」があるほか、病院や集落がある。施設の北側一帯
     は主に農地になっている。
      沖縄市は、市域四八・九四平方キロメートルのうち、三六・八パーセン
     トの一八・〇一平方メートルに米軍基地が存在しており、残る三〇・九三
     平方メートルに約一一万五〇〇〇人が居住しているという人口過密な都市
     である。本施設は右のような位置に存するため、施設区域の返還に伴い、
     農業的利用をなすとともに、沖縄市の近郊住宅地として利用開発する意義
     は極めて大きい地理的関係にある。
      沖縄市では、狭隘な市域に占める米軍基地が平和の面のみならず都市開
     発や産業振興上で大きな障害となっていることを踏まえ、基地の返還実現
     に努めるとともに跡地利用計画も順次策定してきている。これまで嘉手納
     弾薬庫地区、キャンプ瑞慶覧、泡瀬通信施設及び嘉手納飛行場に関して開
     発整備方針の検討をなしてきており、本施設についても近い将来跡地利用
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     計画の検討が開始されるであろうとみられる。その際には本施設の右地理
     的特性を生かした跡地利用計画が策定されると見込まれる。
      従って、本施設の合理的利用の見地からすれば、現況の米軍基地として
     提供するよりも返還して市民的利用に委ねるのが当然といえる。また、跡
     地利用の計画が未策定の段階であっても、前記施設の遊休化の実態からす
     れば、島袋善祐ら自ら利用を望む所有者に対してはそれぞれの市民の利用
     に任せるのが土地の有効利用に最も資するところである。
 七 トリイ通信施設における本件強制使用認定の違法性
  1 本施設の概況及び機能
    本施設は、読谷村の南西部の平坦部に位置し(面積ー一八八万八〇〇〇平方
   メートル)、米軍の西太平洋における戦略通信網の最重要施設である。
    本施設内には、部隊事務所、兵舎及び機材倉庫等の建物と、アンテナ等の工
   作物が存在し、軍人、軍属及び家族の約二〇〇〇人が勤務しているとのことで
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   ある。しかし、本施設内に居住するのは数百名の軍人等にすぎないと見られる。
    本施設の使用目的は、本施設の名称に見られるように通信所である。
    本施設は、米陸軍第一〇地域支援群が管理する施設であるが、使用部隊は、
   第一特殊部隊(空挺)第一大隊、第三四九信号中隊、陸軍宇宙軍移動通信ター
   ミナルトリイ分遣隊等が常駐し、米軍統合情報処理センターとして四軍に使用
   されているといわれる。
    また、昭和五九年ころには、陸軍第一特殊作戦部隊(グリンベレー)が再配
   備されていた。
  2 「駐留軍の用に供する」に該当しない
  (一)駐留目的の逸脱
     本施設は、前記のように、米国の四軍により情報処理センターとして使用
    されているが、それは、もっぱら、旧ソ連、北朝鮮、中国、旧北ベトナム等
    の国々の放送、通信等を傍受して、解読しているものであり、本施設で処理
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    された情報は、もっぱら米本国で集中管理され、全く我が国には通知されな
    いものであり、本施設は、いわゆるスパイ基地の性格を有するものである。
     本施設がもつ右機能・役割は、もっぱら米国の世界戦略のための情報蒐集
    を行うものであり、なんら「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国
    際平和及び安全に寄与する」ものではない。
     特に、東欧諸国の社会主義体制が崩壊し、東西の冷戦構造が終焉した現在、
    本施設について、このようなスパイ基地としての役割を維持・存続させてお
    く必要性は全くない。
     従って、本施設の使用目的、使用実態は日米安保条約六条の駐留目的を逸
    脱するものであり、本施設への提供のために強制使用認定を行うことは許さ
    れないものである。
  (二)「駐留軍」以外の機関の使用
     本施設について、どのような機関が、どのような形態で使用しているのか、
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    その実態は明らかにされていない。しかし、アメリカ合衆国の軍隊ではない
    米中央情報局CIAの機関の一つである“CSG”(混成サービスグルー
    プ)、“FBIS”(海外情報サービス)等の使用も指摘されており、その
    使用実態の解明が必要である。
     仮に、右機関が使用しているとすると、右機関は、日米安保条約により駐
    留を認められたアメリカ合衆国の軍隊ではないことは明らかであるから、右
    機関の使用する目的のために、駐留軍用地特措法に基づき強制使用すること
    が許されないのは当然である。
  3 「必要性」要件の欠如
    前記のように、本施設は、通信施設として、外国の通信を傍受することを主
   な任務とするものであるが、本施設が仮に必要だとしても、すでに、国は、契
   約により賃借した広大な土地を提供土地として米軍に提供しているのであるか
   ら、右提供土地内に本施設を設置すれば足りる。
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    本件各土地の所有者の意思を無視し、強制使用までして、本件各土地上に本
   施設を存置させなければならない客観的必要性、具体的理由は何一つ存しない。
    再三指摘されているように、在沖米軍基地は、本土復帰前に、必要以上に広
   大な土地を囲い込み、基地を形成してきたという歴史的経緯をもつものである
   が、復帰後に至っても、右既成事実が、無批判に追認・承継された事実が存す
   る。従って、駐留軍用地特措法に基づく強制使用及び収用にあたっては、正義
   の観念に則り、厳格にその必要性が総合的観点から検討されなければならない。
    右総合的観点からすると、わが国が、米国に対して本件各土地を提供する
   「提供の必要性」もなく、わが国が、本件各土地を国民から強制的に取得して
   米国に提供しなければならないという「取得の必要性」もないというべきであ
   り、「必要性」の要件を欠くことは明らかである。
  4 読谷村の振興開発計画の阻害
  (一)本件各土地は、一九五二年から同五三年にかけて、何らの法令の根拠なく
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    強制使用されたものである。
     右強制使用当時、本件区域は楚辺区住民の集落地となっていたものである
    が、基地建設のため住民の立退きが命ぜられ、その後に強制使用が開始され、
    違法に米軍の土地使用が開始されたものである。
     従って、本土復帰により、日本国憲法が適用されるに至った時には、すみ
    やかに右違法使用状況を解消し、本件各土地を地主に返還すべきものであっ
    た。ところが、復帰に際する経過措置として、暫定的に本件各土地を使用す
    る必要が存するとして、国は、違憲無効な「公用地法」によって五年間強制
    使用し、更に「地籍明確化法」によって五年間本件各土地を継続使用し、同
    法の使用期間が満了するや、駐留軍用地特措法に基づき本件各土地を使用し
    たものである。
     右経緯から明らかなように、本件各土地の所有者らは、米軍及び国により、
    長期間、その意思をふみにじられて本件各土地を強制使用させられてきたも
    のである。このように、長期間にわたって違法に所有権を制限された状態を
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    なんら解消することなく、それを実質的に承継・継続するため、駐留軍用地
    特措法を適用することは、憲法及び法律に適合し、社会正義に合致するもの
    といえない。
    とは明らかである。
  (二)本施設は読谷村に位置するが、読谷村は、約六〇%を米軍用地に取られ、
    残りの約四〇%で村民が生活を余儀なくされている地域であり(面積比)、
    同村、村民及び所有者らが本件各土地を使用する必要性はきわめて大きい。
     とりわけ、本施設周辺には、読谷高校、古堅中学校があり、本施設が存す
    るがゆえに、本施設をとり囲むようにして、市街地がいびつに形成されてお
    り、本件各土地所有者のみならず、周辺地域住民及び読谷村にとっても、本
    件各土地を使用する必要性は非常に大きい。
     右のように、本件各土地を含めた本施設上の土地の有効利用について、周
    辺住民の高い要求が存するのに対し、通信施設を本件各土地に存しなければ
    ならない具体的理由・必要性は乏しい。
     本施設は通信施設として、外国の通信を傍受することを主な任務とするも
    のであるが、前記のように本施設を読谷村に存置しなければならない必要性
    はない。せいぜい通信傍受の関係から本島西側に位置することが必要とされ
    るぐらいであり、そのためには、すでに米軍は山岳部を含めて本島西岸に多
    くの提供土地を有するのであるから、同所に本通信施設を移転すればこと足
    りるものである。本施設を同村に存置しなければならない必要性は全くない。
  5 本件各土地の検討
    本件各土地は、日米安保条約に基づき駐留軍が使用している「トリイ通信施
   設」の一部であり、「電磁障害除去地として、それぞれ使用されている。」。
  (一)本施設は、兵舎等が所在する建物地域、通信施設が所在する通信管理地域
    (二重フェンス地域)及び棒状アンテナが所在するアンテナ地域とに分かれ、
    いずれもフェンスで囲い込まれている。
     電磁障害除去地とされた本件各土地は、右アンテナ地域に所在している。
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  (二)本件各土地は、それぞれ、「電磁障害除去地」として使用されているとい
    うが、その土地の一部については、アンテナ施設が平地に建てられているこ
    とにより、強制使用の必要性が生じているものであるから、アンテナ施設を
    高層化する(三階ないして四階建の工作物の上に設置するか、又は、アンテ
    ナ施設をより高くする等)等の適当な措置をとれば、「電磁障害除去地」と
    されている本件各土地を返還して、所有者らの通常利用に供することが十分
    可能である。
     本施設に存するアンテナは、棒状アンテナであり、比較的少ない費用で、
    アンテナ部の高層化が可能であり、そうすることにより本件各土地の所有者
    との合理的な調整利用が可能といえる。
     本件各土地について、現状においても、電磁障害除去地として利用する必
    要性はないものと思われる。また、本件各土地は、現在いわゆる黙認耕作地
    として利用されていることを併せ考慮すると(甲第六号証の五の四の物件調
    書の「実施の状況」の欄)、いずれもフェンス近くに位置する本件土地を、
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    所有者らに返還しても、本施設の基地機能には何ら障害を与えるものではな
    いといえる。
  (三)いずれにしても、原告は、本施設の通信施設の内容及びその機能の実態、
    本件各土地を強制使用する具体的必要性を明らかにし、本件各土地を強制使
    用認定する「適正且つ合理的」な理由が存すること明らかにする責務を負っ
    ている。本件各土地は本施設の一部であり、本施設全体として有機的一体と
    して機能しているから、強制使用認定せざをえないというのは理由とならな
    い。
     原告は、本件各土地について、「適正且つ合理的」要件を充足することの
    立証責任を負うのであり、その立証が尽くされない限り、本件強制使用認定
    は違法・無効となるというべきである。
  6 まとめ
    よって、本件各土地を米軍基地として利用する利益よりも、本件各土地を剥
   奪された所有者及び地域住民の損失がはるかに大きく、本件各土地を所有者ら
   に返還したとしても、本施設の基地機能を阻害することはなく、更に、本件各
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   土地の強制使用及び本施設の存在が、読谷村の計画的な振興開発計画の実施を
   妨害していることを併せ比較考量すると、本件各土地を強制使用認定しなけれ
   ばならない具体的理由・必要性はなく、「適正且つ合理的」の要件を欠くこと
   は明らかである。
 八 嘉手納飛行場における本件強制使用認定の違法性
  1 嘉手納飛行場の概況
    嘉手納飛行場は、嘉手納町、沖縄市、北谷町の一市二町にまたがって存在し、
   その総面積は一九九七万五〇〇〇平方メートルである。その内訳は、嘉手納町
   八八五万二〇〇〇平方メートル(同町の約五九・一四パーセント)、沖縄市七
   四六万平方メートル(同じく約一五・二六パーセント)、北谷町三六五万九〇
   〇〇平方メートル(同じく約二七・七〇パーセント)である。
    同飛行場は、いずれも三〇〇メートルのオーバーランをもつA、B二本の滑
   走路(Aは延長三六五〇メートル・幅九〇メートル、Bは延長三六五〇メート
   ル・幅六〇メートル)を有し、太平洋地域最大の米空軍基地である。右滑走路
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   を中核として、同施設内には駐機場、エンジン調整場、F15用シェルター、照
   明設備、保安柵、ゴルフ場等の工作物があり、また司令部事務所、管制塔、ター
   ミナル、格納庫、兵舎、住宅、学校、教会、劇場、銀行、消防署、診療所等の
   建築物がある。
    同飛行場は、第五空軍指揮下の第一八航空団のベースとなっており、その主
   力は第一八作戦群である。同部隊は、F―15イーグル戦闘機をそれぞれ一八
   機有する三個(第一二、第四四、第六七)の戦闘機中隊、空中警戒管制中隊、
   空中空輸機中隊及び戦術管制中隊等から編成されている。
    同飛行場には、第一八航空団の外に、第六〇三軍事空輸支援群をはじめとす
   る多数のテナント部隊が管理部隊として配置されており、防空、反撃、空輸、
   支援、偵察、機体整備等の総合的な基地となっている。
  2 「駐留軍の用に供する」ことの不該当性
    在沖米海兵隊は、世界のどこへでも、いつでも出撃できるよう再編強化され、
   湾岸戦争では八〇〇〇人が、ソマリア上陸作戦では五六〇人がそれぞれ派遣さ
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   れたが、いずれも嘉手納飛行場がその出撃基地として利用された。
    このように嘉手納飛行場は、中東紛争のための駐留軍の拠点となっており、
   日米安保条約六条の駐留目的を逸脱しているといわざるをえない。
    よって、本施設内の本件各土地に対する強制使用認定は「駐留軍の用に供す
   る」という要件を欠き、違法である。
  3 「必要性」要件の不存在
  (一)客観的必要性の不存在
   (1)学校用地、家族住宅用地について
      嘉手納飛行場は、北西側の飛行場地区と南西側の居住地区からなる。居
     住地区には、基地司令部、兵舎、通信施設、家族住宅、幼稚園、小・中・
     高校、病院等があるほか、図書館、野球場、ゴルフ場、映画館、ボーリン
     グ場等の教養娯楽施設が完備されている。
      住宅地区部分は、いわゆる日本政府の思いやり予算で駐留軍家族用住宅
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     が次々と建築されているとはいえ、いまだ広大な面積が遊休地となってい
     るうえ国道五八号からも見える広大なゴルフ場をかかえている。
      駐留軍家族用住宅及び駐留軍人の子どものための学校を基地内に設置す
     ることが駐留軍にとって便宜的に優れているということができるとしても、
     それは駐留軍の直接の利用に供するとはいえないばかりか、駐留軍家族用
     住宅は民間もしくは地方自治体経営の住宅でまかなうことは十分に可能
     (代替性の存在)である。
      従って、駐留軍家族用住宅用地及び学校用地として本件各土地を強制使
     用することは「駐留軍」の使用に該当せず、かつ客観的必要性をも欠如す
     るものといわざるを得ない。
      本施設内の各土地のうち、住宅地区部分に所在している訴状別紙物件目
     録六記載の1及び2の土地はいずれも学校用地として、3、6、7、29
     及び31の各土地は、いずれも家族住宅敷地として使用されており、それ
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     らの使用の継続のためにさらに本件強制使用認定がなされたのであるが、
     それらの使用はいずれも軍隊でない機関の用途のためになされているので
     あるから、「駐留軍」の使用に該当しないといわざるを得ない。
   (2)保安緩衝地帯用地について
      本施設内の8、11、16、17、18、32、33及び34の各土地
     は、飛行場地区の保安緩衝地帯用地として使用され、その使用目的を継続
     するために本件強制使用認定がなされたものである。
      保安緩衝地帯に関しては、後記の「一〇 普天間飛行場地区における本
     件強制使用認定の違法性」において述べるが、そこで述べることが本施設
     に関してもそのまま妥当するところ、本施設内の右各土地についても、着
     陸帯との位置関係及び距離関係に照らして、保安緩衝地帯用地として強制
     使用する客観的必要性は欠如するものといわざるをえない。
   (3)基地機能への支障の不存在
      本施設内の外縁部に位置してフェンスの直近に所在している1、2の土
     地、駐車場敷地として使用されている5の土地は、いずれもそれらを返還
     したとしても基地機能には何ら支障は生じないのであるから、これらの土
     地を強制使用する客観的必要性は存しないといわざるを得ない。
  (二)必要最小限の範囲の逸脱
     本施設内の13及び14の土地は、いずれも資材置場敷地として使用されてい
    るが、嘉手納飛行場内には他にも資材置場は存しており、それに集約し得る
    のであるから、右二筆の土地を強制使用する客観的必要性はこれまた存しな
    いのである。
  4 適正且つ合理的要件の不存在
  (一)適正要件の欠如
     嘉手納飛行場は、旧日本軍が一九四四年に中飛行場として開設していたと
    ころ、一九四五年四月の米軍の沖縄本島上陸に伴い直ちに占領され、その後、
    布告二六号により米軍使用の法的根拠が基礎づけられ、また沖縄の復帰に際
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    しては「公用地法」とそれに続く「地籍明確化法」にもとづいて使用継続が
    なされたが、それらの歴史的経緯及び違法、違憲性は既に述べたところであ
    る。
     このように嘉手納飛行場内の本件各土地は、駐留軍用地特措法にもとづく
    強制使用がなされる時点で、すでに長期間にわたり、特に復帰以降は、日本
    政府自らの手によって違法な使用状態が形成されてきたこと、また、一九四
    五年以降五〇年間という長期間にわたって所有者らの意思に反して所有権行
    使が制限されてきたこと、それらの土地に対して、さらに、本件強制使用認
    定をなすことは所有権の機能回復の機会を剥奪するものであり、実質的な所
    有権剥奪であると言い得ること等に照らせば、本件土地を強制使用すること
    は到底「適正」な土地利用とは認められないといわざるを得ない。
  (二)合理的要件の欠如
     嘉手納飛行場には戦闘機、空中空輸機等八〇機が配備されており、これら
    航空機による離発着、エンジン調整、タッチ・アンド・ゴー訓練のほか、米
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    空母艦戦機や国内外から飛来する米軍機の飛行活動は、騒音発生源となって
    いる。そのため、周辺住民は長期間にわたり騒音被害をうけ、多大の犠牲を
    強いられてきた。一九九四年度の騒音測定の結果、同飛行場周辺で二三ポイ
    ント中九ポイントが環境基準値を超えていることが報告されている。
     厚木、横田の両飛行場については、飛行時間の制限に関する日米合同委員
    会合意が存在するが、嘉手納飛行場及び普天間飛行場についてはない。ちな
    みに、嘉手納飛行場における駐留軍航空機による騒音被害は、うるささ指数
    で年平均七七・八で受忍限度を超えており、また午後一〇時から翌朝午前七
    時までの夜間飛行は年六〇回を上回っているのである。現在、嘉手納基地爆
    音訴訟が控訴審において係属中であるが、その一審判決は受忍限度を超える
    騒音被害の存在を認定し、被害者らの損害賠償請求を容認している。なお、
    沖縄県は、一九九五年九月、嘉手納、普天間両飛行場における航空機騒音を
    軽減させるために「航空機騒音の軽減に関する措置」をまとめ、嘉手納飛行
    場における海軍駐機場の撤去または移設とともに、航空機騒音を軽減するよ
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    う日米両国政府に要請している。
     また、嘉手納飛行場では、沖縄の復帰以前から航空機の墜落事故が相次い
    で発生していたが、復帰後も一八件の墜落事故が発生して、周辺住民に不安
    を与えたり、一九九二年になってPCB漏出による土壌汚染が発覚する等の
    基地被害を発 生させている。
     さらに、嘉手納飛行場の存在によって、前記のとおり、嘉手納町は町面積
    の五九パーセント余を、沖縄市が一五パーセント余を、北谷町が二七パーセ
    ント余を基地にとられ、それぞれ基地の周辺に追いやられ、見るからに基地
    にへばりつくような形で狭い地域にひしめくことを余儀なくされているので
    ある。これら自治体の平和で効率のよい地域振興開発にとって、嘉手納飛行
    場がいかに障害となっているかは一目瞭然である。
     これらの事情を考慮するならば、本施設内の各土地を嘉手納飛行場用地に
    提供することは、合理的要件を欠如するといわなければならない。
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 九 キャンプ瑞慶覧における本件強制使用認定の違法性
  1 本施設の概要及び機能
    キャンプ瑞慶覧は、沖縄本島中部の具志川市、沖縄市、宜野湾市、北谷町、
   北中城村にまたがり、施設総面積六四八万四〇〇〇平方メートルに及ぶ沖縄県
   内で六番目に大きい米軍施設となっている。米軍は、本施設をキャンプ・フォ
   スターと呼んでいる。
    この基地は、復帰前には沖縄における最高統治権者である高等弁務官府・在
   沖米陸軍司令部が置かれ、文字どおり在沖米軍の中枢部としての機能を果たし
   ていたが、一九七四年六月の陸軍の機構再編に伴い、その機能も縮小され、一
   九七五年六月に同司令部が牧港補給地区へ移駐した後、同年六月三〇日に施設
   管理も陸軍から海兵隊に移った。同年七月第一二海兵隊がキャンプ・ヘーグか
   ら、同年八月海兵隊基地司令部がキャンプ・マクトリアスからそれぞれ移駐し、
   さらに一九七六年四月には第一海兵航空団司令部が岩国基地から移駐し、今日
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   のような海兵隊の主要施設となった。現在の管理部隊は、在沖米海兵隊基地司
   令部である。
    本施設の日米地位協定上の「使用目的」は、「宿舎、事務所、施設区間電気
   通信施設」とされている。
    本施設は大きく分けて七種の区域に分けることができる。第一は、国道三三
   〇号と県道三〇号線の交差する石平交差点傍にある司令部区域である。第二は、
   国道五八号沿いの部隊用整備補給区域である。第三は、県道一三〇号線の北側
   の施設整備区域である。第四は、本施設の中心にある広大な単身兵舎とその支
   援設備の区域である。第五は、国道五八号沿いの伊佐寄りにある倉庫、工場区
   域である。第六は、県道一三〇号線、国道三三〇号に接する家族住宅と支援設
   備区域である。この区域の支援設備として小学校や高校、また、売店やエクス
   チェンジなどのコミュニティ/人員支援区域がある。第七は、国道三三〇号と
   県道三〇号線の交差する石平交差点西にある陸軍第五八通信大隊の使用する通
   信施設である(梅林宏道著「情報公開法でとらえた沖縄の米軍」参照)。
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    キャンプ瑞慶覧には、本部大隊、第二大隊、第三大隊をもつ第一二海兵軍隊、
   第一海兵航空団の第一七海兵航空団支援群のほか、部隊の再編が実施された第
   九旅団役務支援群の中の上陸支援大隊、整備大隊、歯科医療大隊等が駐留し、
   基地運営業務及び射撃場、訓練場などの施設管理を任務とする後方支援部隊と
   有事即応の実戦部隊が駐留する。
    特に、第一二海兵連隊は、一〇五ミリ、一五五ミリ、八インチ砲等を有する
   砲兵部隊で、県道一〇四号線越え実弾射撃演習を実施している部隊として知ら
   れている。
    なお、ハンビー飛行場を含む国道五八号の西側部分は、第一五回日米安保協
   議委員会で、移設条件付返還が合意され、一九八一年一二月三一日に返還され、
   商業地区住宅地区及び海浜リゾート地区として有効利用されている。
  2 本施設の強制使用の経過
    この地域の西海岸側は、沖縄戦の上陸拠点となり、米軍は一九四五年四月、
   上陸と同時にこの地域を占領して本当侵攻のための拠点基地を構築し、戦闘行
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   為の終了後も引き続き陸軍の物資集積所やモータープール等として使用した。
   その後、中国革命や朝鮮戦争を契機とする沖縄基地の恒久化政策が図られる中
   で、この基地は急速に拡大強化されていったのである。
    なかでも、一九五四年七月には、宜野湾市字伊佐浜の土地が、地主はもちろ
   ん県民の激しい反対闘争にもかかわらず、武装米兵とブルドーザーによって三
   二戸の家屋が破壊され、約一三万坪の水田が土砂に埋められるなど、まさに戦
   場さながらの様相を呈する中で強制接収された(その詳細は、被告第一準備書
   面中「沖縄における基地形成史」参照)。
  3 強制使用対象の土地の所在と使用の現状
  (一)宜野湾市に所在する土地について
     本件強制使用の対象となっている宜野湾市の四筆は、裁決申請書添付書類
    では、「隊舎及び倉庫・工地区の通信隊隊舎用地、道路敷、駐車場敷地、排
    水路敷地、倉庫敷地及び隊舎敷地」とされている。
     新垣善春所有地(訴状添付物件目録七の1)は、石平交差点の施設外の土
    地から約五〇メートル南に位置する崖部分で、建物、道路及び駐車場等は存
    在しない。
     残る三筆(同物件目録七の2ないし4)は、単身兵舎地区にあるが、その
    うち山城正功所有地(同物件目録七の2)上には建物等の施設はない。
  (二)北谷町に所在する土地について
     本件強制使用の対象となっている北谷町の一五筆は、裁決申請書添付書類
    では、「住宅地区の道路敷、駐車場敷地、家族住宅敷地及び家族住宅用地並
    びに隊舎及び倉庫・工場地区の隊舎用地、駐車場敷地、道路敷、資材置場用
    地、倉庫敷地、倉庫用地、資材置場敷地、グランド用地及び教会用地並びに
    厚生施設地区の売店敷地、駐車場敷地、道路敷及び事務所敷地」とされてい
    る。
     これらを個別にみると、照屋征四郎所有の四筆のうち、三筆は単身兵舎地
    区にあり(同物件目録七の5、6、19)、一筆は施設整備区域にある(同
    物件目録七の7)。同物件目録七の5の土地は駐車場とされており、同物件
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    目録七の19の土地は排水路とされているが、他の二筆は利用されていない。
    同物件目録七の6の土地は県道一三〇号線から約五〇メートルしか離れてい
    ない。同物件目録七の19は傾斜地である。
     照屋宏所有の二筆(同物件目録七の8及び9)は施設整備区域にあり、一
    部に建物が存する。
     新垣進市所有の二筆のうち同物件目録七の10の土地は、駐車場及び排水
    路があるとされている。この土地は北谷家族住宅区域にあるが、石平交差点
    の施設外の土地からわずか約三〇メートルしか離れていない。もう一筆の同
    物件目録七の14の土地はコミュニティ区域の駐車場として利用されている
    に過ぎない。
     新垣善男所有の一筆(同物件目録七の11)は、コミュニティ区域の売店
    及び外灯が存するのみである。
     新垣善春所有の四筆はいずれも北谷家族住宅域とコミュニティ区域にある。
    そのうち同物件目録七の12の土地には住宅及び排水路が、同15の土地に
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    は住宅及び外灯が、同16の土地には外灯とマンホールがあるだけである。
    同13の土地上に工作物は存しない。
     新垣萬徳所有の一筆(同物件目録七の17)は、北谷家族住宅区域にあり、
    住宅及びマンホールが存するのみである。
     伊志嶺雅子所有の一筆(同物件目録七の18)は、単身兵舎区域にあるが、
    土地上には何等の工作物も存しない。
  4 「駐留軍の用に供する」(駐留目的に向けられていること)との要件の不存
   在
  (一)本施設は、海兵隊のキャンプである。海兵隊の軍事的性格は、敵前上陸を
    する侵攻部隊であって、その駐留は、わが国と極東における平和と安全を確
    保しようとした日米安保条約六条の目的に反する。よって、本施設は、日米
    安保条約の駐留目的に向けられているとは言えず、駐留軍用地特措法の「駐
    留軍の用に供する」との要件を具備していない。
  (二)本件強制使用の対象となっている前記土地の多くは、軍人・軍属用の住宅
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    地域にあり、住宅やその支援施設のために使用されている。
     このような軍事目的の遂行とは直接関係がない施設の用に供するために、
    右各土地を強制使用することは、日米安保条約六条にいう提供(使用)目的
    を逸脱するものであって許されない。
  5 「必要性」要件の欠如
    本件提供施設内には、多くの不要・遊休の施設・区域あるいは娯楽や保養の
   ための施設・区域が存在するが、これらの施設・区域を整理し、あるいは施設
   全体を合理的に整理統合して真に必要最小限に止めるならば、たとえ米軍の基
   地機能の維持あるいは国の提供義務の履行ということを容認するとしても、そ
   れを何ら損なうことなしに本施設は現況の何分の一あるいは何十分の一かに整
   理縮小することが十分に可能である。そして、国が本件施設の整理縮小につい
   て、誠実に可能な最大限の努力を尽くしさえすれば、本件土地を所有者らの意
   思に反してまで強制使用する必要性はまったくなかったというべきである。
    現実に、前記の強制使用対象土地の中には、利用に供されていない土地がい
   くつもあり、中には施設外の地域からわずかしか離れていないものもある。よっ
   て、本施設内の強制使用対象土地の全て、さもなくともそのうち現実に工作物
   等が存しない土地については、「必要性」の要件が不存在であるというべきで
   ある。
  6 「適正且つ合理的」要件の欠如
  (一)「適正」要件の不存在
     前述のとおり、本施設の用地は、あるいは違法な軍事占領によって、ある
    いは銃剣とブルドーザーによって取得された土地である。国がこれらの土地
    を強制使用するということは、このような過去の違法・不当な土地強奪を追
    認し、それを実質的に承継するものであって、著しく法的正義に反し、もは
    や「適正」とはいえない。
  (二)地域振興開発への阻害
     キャンプ瑞慶覧は、広大な面積を占めるとともに、北側はキャンプ桑江、
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    嘉手納飛行場、南側は普天間飛行場に連なっている。このため周辺市町村に
    とっては地域開発の大きな障害となっているが、特に北谷町、宜野湾市では、
    基地の間の狭隘な地域に居住を強いられており、原状では都市計画上の事業
    遂行にも非常な困難を来している。北谷町でこれを具体的に見ると、戦前の
    農地の半分以上が軍用地とされたために農業の衰退は著しく、公園や緑地は
    おろか、住宅さえ海岸の埋め立てや丘陵開発に頼らざるを得ず、道路設備も
    非常に立ち遅れているなど、その都市環境は劣悪な状況を余儀なくされてお
    り、同町では、「軍用地の開放なくして、町の振興・発展はあり得ない」と
    の立場から全面的な基地開放を強く要求している。
     そのほかにも、北中城村石平区では、旧区の大半が軍用地に接収されてい
    るため安谷屋川傾斜地の狭いところに追いやられ、非常な不便をかこってい
    る。瑞慶覧、屋宜原も同様な状況にある。
  (三)基地に起因する事件・事故
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     本施設からは、モータープールからの油流出事故をはじめ一九七四年以来、
    これまで二四回以上にわたって油流出や排水溢水事故が発生している。また、
    基地が住民地域と隣接していることに伴い、軍人・軍属等による事件事故も
    多発している。
  (四)返還後の跡利用計画等
     本施設は、那覇市と沖縄市を結ぶ都市軸上に位置しており、中南部都市圏
    整備において重要な地域にある。しかも本施設は、国道五八号や同三三〇号
    など枢要な幹線道路に多く接しており、これらを民間利用した場合の有効利
    用による利益は非常に大きいと考えられる。
     また、沖縄県が策定した国際都市形成構想案では、国際学園都市、外交都
    市、コンベンションシティといった国際協力交流拠点となっており、基地返
    還アクションプログラムでは第二期の二〇一〇年までの返還が目指されてい
    る。
  (五)以上のとおり、基地利用による住民被害の大きさと、返還後の有効利用の
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    可能性を考慮すれば、本施設のために前記各土地を強制使用する「適正且つ
    合理的」の要件は充たされていないというべきである。
一〇 普天間飛行場における本件強制使用認定の違法性
  1 普天間飛行場の概況及び機能
    普天間飛行場は、県中部の宜野湾市の中央部に位置し、現在、米軍普天間航
   空基地隊の管理の下に海兵隊の飛行場として使用され、その面積は四八三万平
   方メートルで、同市の全面積の実に約二五・三パーセントを占め、施設周辺は
   住宅地域となっている。
    本施設は、一九四五年米軍の占領と同時に接収され、直ちに本土決戦に備え
   た飛行場として建設されたが、一九五三年には滑走路の延長やナイキ基地の建
   設など、基地の拡張強化が図られた。その後、米空軍から海兵隊へ移管され、
   一九七二年五月一五日の沖縄の施政権返還に際し、普天間海兵隊飛行場、普天
   間陸軍補助施設、普天間海兵隊飛行場通信所が統合され、普天間飛行場として
   提供施設となり、現在に至っている。
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    本施設は、第三海兵遠征軍の第一海兵航空団隷下第三六海兵航空群のホーム
   ベースとなって、ヘリ部隊を中心として六四機の航空機が配備されているとい
   われ、在日駐留米軍基地でも有数のヘリコプター基地となって、駐留各部隊が
   任務を円滑に遂行できるよう後方支援体制をとっている。このため施設内には、
   滑走路(長さ約二八〇〇メートル、幅四六メートル)、格納庫、通信施設、整
   備、修理施設、部品倉庫、部隊事務所、消防署があるほか、PX、ゴルフ場、
   クラブ、バー等の福利厚生施設等の設備があって、航空機基地として総合的に
   整備されている。
    第三六海兵航空群は、本施設に各中隊を配置し、上陸作戦支援対地攻撃、偵
   察、空輸などの任務にあたる航空部隊として、本施設内で離着陸訓練を頻繁に
   行っている。
    本施設は、本年四月に発表された「沖縄米軍基地の整理・統合・縮小に関す
   る日米特別行動委員会(SACO)」の中間報告において、五年から七年以内
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   に全面返還されることが決定された。
  2 「必要性」の要件の不存在について
  (一)客観的必要性の不存在
   (1)保安緩衝地帯用地について
      本施設内の土地のうち、訴状別紙物件目録八記載1ないし10、12な
     いし14、22及び23の各土地は、いずれも飛行場地区の保安緩衝地帯
     用地として使用され、その使用目的を継続するために本件使用認定がなさ
     れたものと思われる。保安緩衝地帯とは航空機の運行に伴う安全を図るた
     めに、建造物等の高度制限がなされる区域のことをいうとされている。
      確かに、航空機の運行に伴う安全を図るため、ある一定区域にわたり建
     造物等の高度制限がなされることは首肯しうるところであるが、右各土地
     と着陸帯との位置関係(着陸帯の延長線上か側面か)及び距離関係(着陸
     帯からどのくらいの距離にあるか)を考慮すれば、保安緩衝地帯用地とし
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     て右各土地を使用認定する客観的必要性はないといわざるをえない。
      右各土地のうち、1、12ないし14の土地は着陸帯の延長線上に、そ
     の余の土地は着陸帯の側面西方に存しているところ、それらの土地は最短
     (22の土地)で約一四〇メートルの距離に位置し、最長(6の土地)だ
     と約六〇〇メートルの距離に位置している。
      ところで、一九六二年以来、本施設に属する土地の一部が地主に返還さ
     れてきているが、一九六二年六月三〇日に返還された土地は滑走路の延長
     線上に存し、着陸帯の北端から約三〇〇メートルの距離しかなく、また一
     九六三年八月一五日に返還された土地のなかには着陸帯の側面西方に位置
     し、着陸帯の長辺の外縁からわずか約一七〇メートルの距離しかない土地
     も存している。これらの土地も返還前は本施設の保安緩衝地帯用地として
     使用されていたものである。それにもかかわらず、地主に返還されたとい
     うことは、それらの土地が保安緩衝地帯用地としての客観的必要性に欠け
     ていたからに他ならないことを意味している。
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      このように既に返還された土地が保安緩衝地帯用地としての客観的必要
     性を欠如していたというのであれば、これらの返還地と着陸帯との位置関
     係及び距離関係との対比から言って、右各土地もまた保安緩衝地帯用地と
     しての客観的必要性を欠如するものといわざるをえないのである。
   (2)排水施設用地について
      本施設内の3、8、10、17、22の各土地には降雨等の排水施設が
     存在しており、その使用目的継続のために本件使用認定がなされたものと
     思われる。
      しかし、本施設内に排水施設の必要性を首肯しうるとしても、右各土地
     を使用せずに任意に取得した他の土地を利用すれば足り、たとえ、それが
     迂回することになり不便や経済的負担が増加することがあったとしても、
     排水施設としての機能にはまったく支障をきたすものではないのであるか
     ら、右各土地を強制使用する客観的必要性は存しない。
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  (二)必要最小限の範囲の逸脱
     本施設内の4、9、10の各土地は、隊舎及び駐車場敷地用地として使用
    認定されたものである。
     しかし、右各土地の東側には兵舎が点在しているものの、西側は雑木、雑
    草が繁茂し、まったく「駐車場」の使用に供されていない。従って、右各土
    地全部について使用認定をなすことは、駐留軍用地特措法における「必要最
    小限の原則」を逸脱し、「必要性」の要件を欠如するものといわざるを得な
    い。
  3 「適正且つ合理的」要件の不存在について
  (一)適正要件の欠如
     本施設は、一九四五年米軍の占領と同時に接収された後、布告二六号によ
    り米軍使用の法的根拠が基礎づけられ、復帰に際しては、「公用地法」、
    「地籍明確化法」によって継続使用されてきたが、それらが違憲、違法であ
    ることについては既に前述したところである。
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     従って、本施設内の各土地に対する本件強制使用認定は、違法な使用状態
    を解消せず、それを実質的に追認し承継したこと、さらに、五〇年余という
    長期間の所有権行使の制限にもかかわらず、引き続き強制使用をなすことは
    新たな所有権侵奪を実質的に意味すること故に、「適正」とは言い難い。
  (二)合理的要件の欠如
     本施設が、宜野湾市の中央部に位置していること、同市の全面積の約二五・
    三パーセントを占めていることは前述したとおりであるが、人口約八万二〇
    〇〇人からなる宜野湾市は、本施設を取り囲みドーナツ状に市街地が形成さ
    れ、三万人以上の住民が本施設に隣接して居住し、大学、小中学校の文教施
    設も隣接して存在している。
     このように住宅密集地域に存する本施設は、航空機騒音、航空機墜落事故、
    道路交通網の遮断による不利益、雨水排水被害等によって、地域住民に多大
    な被害を蒙らせているばかりか、宜野湾市の健全な地域開発を著しく阻害し、
    公共の福祉に危害を及ぼしている。
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   (1)航空機騒音
      在日駐留米軍基地でも有数のヘリコプター基地となっている本施設は、
     昼夜を問わないヘリコプター等の軍用機の離着陸及び住民地域上空の飛行
     に伴う爆音によって、深刻な被害を地域住民に恒常的に与え、生活環境を
     著しく悪化させている。
      沖縄県環境保健部で実施している一九九一年度の調査結果によると、概
     ね同飛行場の進入表面となっている字野嵩で平均値八〇・五WECPNL
     を記録し、基準値の七〇WECPNLを大幅に上回っている。
      また、同飛行場と隣接している普天間第二小学校においても平均値七八・
     三WECPNLが測定されている。特に一九九二年七月の宜野湾市の調査
     結果によると、一月間で七〜一九時の間に七〇デシベル以上の発生回数が
     一三四七回も記録され、学校の授業及び住民生活に大きな支障をきたした。
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      周辺住民は常に騒音被害に悩まされており、その解消のため住民地域上
     空の飛行及び夜間飛行を禁止する等の騒音緩和措置をとるよう、あらゆる
     機会を通して働きかけているところである。
   (2)航空機事故
      本施設に所属する部隊の航空機の墜落及び不時着等の事故が多発し、住
     民地域と密接しているため極めて危険であり、いつ大惨事を招くかわから
     ない状態にある。
      本施設に所属する航空機事故等の発生件数は、復帰以来一九九二年一〇
     月末現在で固定翼機五件、ヘリコプター四四件、計四九件にものぼってお
     り、県内米軍航空機等発生件数一〇六件のうちの約四六パーセントを占め
     ている。
      施設内でも一九七二年一二月四日、沖縄国際大学の校舎建設現場におけ
     るOVーブロンコ観測機からの燃料タンクの落下事故、一九八〇年一〇月
     二日のOVーブロンコ観測機の滑走路における墜落、乗員死亡一名、一九
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     八二年八月一九日のUHー1ヘリコプター機の飛行場内部における横転大
     破、直近では一九九二年一〇月二〇日のUHー46ヘリコプター機の滑走
     路における横転大破と、これまでに固定翼機二件、ヘリコプター二件、計
     四件の事故が発生している。
      このように地域住民は、常に戦闘性を優先させ安全性を軽視された軍用
     機の墜落事故の不安に脅え、危険にさらされた生活を余儀なくされている
     のである。
   (3)道路交通網の遮断による不利益及び地域振興上の障害
      本施設は、宜野湾市の中央部に位置するため、周辺集落間の道路交通網
     が遮断され、そのため周辺道路は交通渋滞が常態化し、住民及び県民は時
     間的、経済的、精神的に大きな不利益を蒙っている。
      また、広大な面積を占める本施設は、同市の健全な都市開発の障害となっ
     ており、地域振興上多大な支障をきたしている。
   (4)雨水排水被害について
      本施設は、比較的高台に位置しており、しかも施設内の排水施設の整備
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     が不十分なため大雨の際は、施設内の排水溝から雨水、汚水があふれ、周
     辺住宅、道路及び農作物が冠水するなどたびたび被害をもたらしている。
   (5)全面返還の決定と跡利用計画の策定
      宜野湾市及び市議会では、本施設から発生する基地被害に対してその都
     度抗議を行うとともに本施設の返還を強く求めており、沖縄県としても数
     度にわたる知事訪米はじめあらゆる機会を通して、日米両政府に対し、早
     期返還を要請していたところ、前記のとおりSACOの中間報告において
     二〇〇一年から二〇〇三年以内に本施設の全面返還が決定されたものであ
     る。
      また宜野湾市においては、一九九〇年一〇月に跡地利用市民フォーラム
     を、一九九二年二月には青年フォーラムを開催し、このフォーラムの分析
     に基づき、現在、跡地利用基本構想の策定作業を進めている。
      沖縄県の基本計画において、那覇市と沖縄市を結ぶ土地軸上の中心に位
     置し、中南部都市圏の都市開発整備を図る上で最も重視される位置にあり、
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     都市地域として高次都市機能を備えた都市形成を図ることとしている。
      宜野湾市及び沖縄県の跡利用計画は、右全面返還の決定に伴い、その具
     体化がなされつつある。
   (6)以上のように、本施設は、地域住民及び県民に多大の被害を与え、地域
     開発の癌となって住民及び県民福祉を著しく侵害している。右全面返還の
     決定は、とりもなおさずその証左であり、まさに本施設の除去こそが公共
     の福祉を増進せしめる途である。
      従って、訴状別紙物件目録八記載の各土地をこのような本施設の使用に
     供することは合理的な土地利用とは認められず、本件強制使用認定が「合
     理的」要件を欠如した違法なものであることは明らかである。
一一 牧港補給地区における本件強制使用認定の違法性
  1 本施設の概況及び機能
    本施設は、浦添市の仲西から港川に至って位置し、国道五八号線沿いから西
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   側の海岸までの間を南北三キロメートル、東西一キロメートルに及ぶスペース
   を占める広大な兵站補給整備基地である(面積ー二七五万三〇〇〇平方メート
   ル)。本施設は、海側の約半分と陸側の約半分に、縦割りに機能が分けられて
   いる。陸側には大倉庫軍があり、海側には宿舎・家族住宅等(約一〇〇〇世帯)
   の人的支援設備が設けられている。
    大家族住宅地区は、一九八〇年代後半に、いわゆる「思いやり予算」で設置
   されたものである。
    本施設は、沖米海兵隊基地司令部が管理しているが、在沖米海兵隊兵站部の
   他、米陸軍第一〇地域支援群兵站資材部、米空軍第一八地域支援中隊等も駐在
   し、主として、物資の貯蔵に使用されている。
    本施設は、昭和四三年ころには、特に、ベトナム等から修理のため持ち込ま
   れた破損車両等の修理、物資の補給基地として利用され、また、第七心理作戦
   部隊がおかれ、米軍の、ベトナム戦争の後方支援基地としての機能を果たした。
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    本施設は、昭和五三年一〇月、管理が海兵隊に移管され、「キャンプ瑞慶覧」
   から、第三海兵隊役務支援群本部大隊、第三補給大隊、第三整備大隊等が移駐
   し、現在、海兵隊管理の平站補給基地となっている。
  2 本施設の遊休化
    本施設は、米国政府の軍事費の削減の方針に対応して、一九七〇年代後半か
   ら、倉庫や整備工場が相次いで閉鎖され、作業に従事する軍人・軍属や日本人
   従業員もまばらになり、大部分の施設が遊休化していた。
    従って、大規模な施設の返還が行われるもの想定されていた。しかし、日米
   両政府にその様子はみられない。
    本施設を整理統合し、本施設を部分的にでも返還することは、充分可能であ
   ると思われる。
  3 沖縄県及び浦添市の振興開発計画の阻害
  (一)本施設は、那覇新港や卸売商業団地が所在する西海岸と国道五八号にはさ
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    まれた、中南部の要路に位置し、浦添市内で最も交通に便利で平坦な地域、
    すなわち、地域開発上最も重要な地域を広範囲にわたり占めている。そして、
    本施設の存在そのものが、西海岸道路の整備・促進並びに、浦添市の交通・
    住宅・教育・農業振興・都市再開発等の地域開発の大きな障害となっている。
     また、隣接する臨海部分に関する沖縄県及び浦添市の埋立計画・港湾整備
    計画の策定に、重大な影響を与えている。
  (二)本施設返還後の跡利用計画
     浦添市は、平成二年二月、浦添市三大ビジョンマスタープランを公表した
    が、同プランのなかで、本施設と西海岸一体を海洋性都市型リゾート拠点と
    し、流通の高度化に対応した総合的ポートエリアの形成等を盛り込んだマリ
    ントピア構想を打ち出した。
     それは、「二一世紀の浦添を象徴する都市空間」、「国際化社会にふさわ
    しい都市空間の創出」をテーマに、国道五八号以西を対象としたもので、特
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    に埋立てを主とした西海岸開発(約四四〇ヘクタール)は、那覇港の港湾計
    画と統合させ、総合物流ターミナル空間及び市民・県民に開かれた都市型観
    光・レクリェーション空間として沖縄県及び那覇市と連携し、整備しようと
    するものである。
     浦添市が二一世紀を視野においた健全な都市として発展するためには、本
    計画の実施が必要であり、そのためには本施設の返還が不可欠である。
  4 本件各土地の検討
    本件各土地のうち、一筆は、国道五八号に隣接するフェンス付近に位置して
   いる(訴状添付の別紙物件目録記載九の15の土地、所有者ー吉長盛助、地番
   ー浦添市字宮城イネコブ原九〇五番、地目ー畑、地積ー六六一平方メートル)。
    本件土地上には、実際に倉庫は建っておらず、本件土地を所有者に返還した
   としても、本施設の機能にはなんら障害はない。フェンスを移動することも、
   物理的には容易である。
    以上の事情を考慮すると、フェンス付近の当該土地について、所有者の意思
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   に反してまで、強制使用認定する理由・必要性はない。
    従って、当該土地について、「適正且つ合理的」の要件を充たさないことは
   明らかである。
    本件各土地のうち、他の土地についても、実際に建物が建っておらず、また、
   建物が建っていたとしても、実際それが倉庫等として利用されていない等、遊
   休化した施設に利用されているのもある。この場合も、「適正且つ合理的」の
   要件を充たさないことは明らかである。
  5 まとめ
    よって、本件各土地を米軍基地として利用する利益よりも、本件各土地を剥
   奪された所有者の損失がはるかに大きく、本件各土地を所有者らに返還したと
   しても、本施設の基地機能を阻害することはなく、更に、本件各土地の強制使
   用及び本施設の存在が、浦添市の計画的な振興開発計画の実施を妨害している
   ことを併せ比較考量すると、本件各土地を強制使用認定しなければならない具
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   体的理由・必要性はなく、「適正且つ合理的」の要件を欠くことは明らかであ
   る。
一二 那覇港湾施設における本件強制使用認定の違法性
  1 那覇港湾施設の概況及び機能
    那覇港湾施設は、那覇市垣花町、住吉町、字鏡原に所在し、沖縄県の海の玄
   関である那覇商港那覇埠頭と同一港湾にあり、勝連町のホワイトビーチ地区に
   次ぐ大きな軍港で、その面積は五七万五〇〇〇平方メートルである。北側を民
   間が、南側を米軍が本施設として使用し、岸壁に管理事務所や倉庫等が立ち並
   んでいる。
    本施設内には、大小一四のバース(大型七、中型五、小型船用二)、五つの
   野積場、二つの大きな上屋倉庫等がある。以前使用されていたハーバーマスター
   室、機械修理工場は遅くとも一九八三年一一月には完全閉鎖され、それ以降は
   まったく使用されていないといわれている。
    本施設は、復帰前、特にベトナム戦争中は軍艦や原子力潜水艦が頻繁に出入
   港していたが、現在は米陸軍運輸管理部隊と連携し、輸送船を使って軍需物資
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   の搬出入港として使用されている。利用状況(入港数)は一九八六年七九隻、
   同八七年九六隻、同八八年四二隻、同八九年三三隻、同九〇年二五隻、同九一
   年四五隻、同九二年一六隻、同九三年一六隻、同九四年一八隻であり、特に一
   九八八年以降は激減している。一九九一年は湾岸戦争の影響もあって増加がみ
   られたが、一九九二年以降は一六隻もしくは一八隻と月平均一隻強まで減少し
   てほとんど遊休化の状態にある。
    なお、本施設は第一五回(一九七四年一月三〇日)日米安全保障協議委員会
   で移設条件付全面返還が合意されているが、移設先が決まらず、合意から二二
   年余が経過した現在も返還は実現していない。
  2 「必要性」要件の不存在
  (一)代替性の存在
     一九七四年一月三〇日に開催された第一五回日米安全保障協議委員会で、
    本施設の移設条件付全面返還が合意されていることは前述した。このことは、
    本施設の機能、役割は他の施設に集約することができ、代替しうることを意
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    味している。従って、代替性の存する本施設内の各土地に対し、「強制使用
    の必要性」は存しないことは明白である。
  (二)客観的必要性の不存在
     前記したように、現在、本施設の利用状況は激減して月平均一隻強の入港
    数となっており、明らかに施設全体として遊休化した状態となっている。そ
    のうえ、本施設内のハーバーマスター室及び機械修理工場は一二年以前から
    完全に閉鎖されているといわれている。
     本施設内の各土地のうち、訴状別紙物件目録一〇記載の7、8の各土地は
    港湾管理事務所用地としての利用のために、また、3、4、6、10、11
    及び12の各土地は、機械修理工場敷地としての利用のために、それぞれ本
    件強制使用認定がなされたものである。しかし、完全に閉鎖され遊休化した
    港湾管理事務所及び機械修理工場用の敷地として、これらの各土地を強制使
    用する客観的必要性がまったく存しないことは明白である。
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     このように全体として遊休化した本施設のために、また閉鎖された機械修
    理工場用敷地として、本施設内の右各土地を強制使用する客観的必要性は豪
    も存しないというべきである。
  3 「適正且つ合理的」要件の不存在
  (一)適正要件の欠如
     本施設は、一九四五年、駐留軍の占領と同時に接収され、その後、布告二
    六号により駐留軍使用の法的根拠が基礎づけられていたが、それらの歴史的
    経緯及びその違法性については既に詳述したとおりである。また、復帰に際
    しての「公用地法」とそれに続く「地籍明確化法」に基づく使用継続が、い
    かに違憲、違法であるかについても既に詳論したとおりである。
     このように、本施設内の本件各土地は、駐留軍用地特措法に基づく強制使
    用認定がなされる時点で、すでに長期間にわたり、特に復帰以降は国自らの
    手によって、違法な使用状態が形成されていたのである。従って、その違法
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    状態を解消せずに、しかもその違法状態を自ら作り出した国自身の汚れた手
    によって引き続き強制使用をなすことは、使用を開始するに至る手続自体が
    法的正義に反するものとして「適正」とはいいえない。
     また、一九四五年以降五〇年間という長期間にわたって、所有者らによる
    所有権行使が制限されてきた本件各土地に対し、さらに駐留軍用地特措法に
    基づいて強制使用認定をしたことは、所有権の機能回復の機会を剥奪し、実
    質的な所有権侵奪である。このことは、私有財産権との調整原理を根幹とす
    る土地収用法制の基本精神を逸脱するものとして違法であり、「適正」な土
    地利用とは認められない。
  (二)合理的要件の欠如
     本施設は、那覇港港湾施設の一部である那覇埠頭区の南岸に位置している
    が、過密状態にある那覇港の状況に鑑みて、駐留軍の用に供するよりも、那
    覇市が商港として使用し、又は漁港、観光港として利用することが公共の福
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    祉を増進することとなって「合理的」である。
     沖縄本島と周辺離島からなる沖縄県の県民生活及び経済社会活動に必要な
    物資の移入、移出は、その大部分が海上交通に依存している。那覇埠頭区、
    泊埠頭区、那覇新港埠頭区、浦添埠頭区からなる那覇港は、背後に本県の中
    心集積地である那覇、浦添両市を擁する交通の要衝に位置した本県第一の商
    港である。従来より本土、外国及び先島を結び定期航路の拠点として貨客輸
    送における重要な役割を担ってきたが、経済社会活動の拡大発展に伴い、そ
    の役割はますます重要視されている。
     そのため、県内外及び国外からの港湾取扱貨物量は年々増大しているが
    (ちなみに一九九三年度の取扱貨物量は一五九四万九四二八トン)、既存の
    係留施設及び港湾施設用地では対応できず、貨客の円滑な流通が阻害されて
    いる状況が顕著である。海上交通体系整備のために本施設の早期返還は不可
    欠である。
     このように那覇港の狭隘さを解消するために、本施設を商港として那覇市
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    の使用に供することが、県民福祉の向上に寄与し、「合理的」であることは
    明白である。
     那覇市は、本施設の返還に備えて、跡地利用計画を一九八二年度より継続
    的に検討してきたが、一九九〇年度には「那覇港湾施設(那覇軍港)跡地利
    用基本計画調査」を実施している。那覇市の計画案によれば、本施設の西側
    に流通加工、業務等の産業系ゾーンを、中央部に国際交流ゾーンを、東側に
    商業サービス、居住、レクレーションポート等の文化・レクレーション系ゾー
    ンをそれぞれ配置し、本施設の跡地を豊かなウォーターフロント交流ゾーン
    に形成することを計画している。これと並行して、本施設の地主等で構成さ
    れている那覇軍用地等地主会においても、「那覇軍港跡地及び周辺整備基本
    計画」を一九九一年に策定している。このように本施設は、跡地利用計画が
    具体化しており、県民福祉の向上のためにも早期返還が強く求められており、
    その返還によせる県民の期待は大きいものがある。
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     一方、本施設は、国道三二二号沿いであり、また近くには本県の空の玄関
    である那覇空港をひかえ、市街地内に位置しているが、本施設が軍港として
    駐留軍の用に供され、弾薬の運搬にも利用されていることに鑑みれば、爆発
    の危険性は常にはらんでおり、県民に与える不安は大きい。
     以上によれば、本施設に供するために強制使用する「適正かつ合理的」要
    件は存在しないというべきである。
一三 陸軍貯油施設における本件強制使用認定の違法性
  1 陸軍貯油施設の概況
    陸軍貯油施設は、具志川市、沖縄市、嘉手納町、北谷町、宜野湾市の三市二
   町にまたがって存在し、その総面積は一二六万九〇〇〇平方メートルである。
    本施設は、米駐留陸軍第一〇地域支援郡の管理の下に、第五〇五燃料大隊司
   令部中隊、その他が使用し、金武第一、第二、第三タンクファーム、天願ブー
   スターステーション、桑江第一、第二タンクファーム、桑江ブースターステー
   ションと、これらの貯油施設を結ぶ送油管施設からなる。
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    貯油施設は、具志川市の天願桟橋、キャンプ・コートニーに隣接する地域と
   嘉手納飛行場に隣接する地域とに存在している。送油管施設は、通常二〜四本
   の油送管(パイプライン)からなり、ジェット燃料、ガソリン、ディーゼル燃
   料等を送っている。パイプラインは、以前は、那覇港湾施設から嘉手納飛行場
   に至る北上ラインと天願桟橋から嘉手納飛行場及び普天間飛行場へ送る南下ラ
   インがあって、基地間を連結していた。
    北上ラインについては、第一四回日米安全保障協議委員会において、那覇港
   湾施設の全部返還が合意されたのに伴い、那覇港湾施設タンク地区(一九八六
   年返還)一八基の代替タンクを金武第一、第二、第三タンクファーム及び桑江
   タンクファームに建設、機能が移設された。さらに一九八五年六月に浦添市伊
   祖以南五〇、二〇〇平方メートル、一九九〇年一二月に伊祖から宜野湾市伊佐
   のバルブボックス二八の手前までの四・三ヘクタールが返還され、北上ライン
   は完全に撤去された。
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    南下ラインについてもほとんどが嘉手納飛行場や嘉手納弾薬庫地区等に移設
   された。現在は、普天間飛行場と嘉手納弾薬庫地区に送油するラインが残って
   いる。
  2 「必要性」要件の不存在
    本施設内の訴状別紙物件目録一一記載の各土地は、いずれも北谷町字砂辺差
   久原に所在し、貯油タンク用地として使用されているといわれており、その使
   用目的を継続するために本件使用認定がなされたものである。
    しかし右各土地上には、いずれも貯油タンクそのものは存在していないので
   あるから、それらの土地が強制使用されずに返還されたとしても、本施設の機
   能に基本的支障は何ら生じないのである。
    とりわけ、本施設内の1、2及び3の各土地は、黙認耕作地として現に野菜
   等の栽培がなされており、基地としての機能を果たしていないのである。
    従って、右各土地を強制使用する客観的必要性は何ら存しないのであるから、
   使用認定の要件たる「必要性」の要件は不存在だといわざるを得ない。
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  3 「適正かつ合理的」要件の不存在
    本施設は、貯油施設とパイプライン施設が不可分一体として機能していると
   ころ、施設周辺は主に住宅、学校等の住民地域なっている。貯油施設の存在は、
   油流出事故による環境汚染や住民生活の安全確保の観点から問題となっており、
   パイプラインに起因する事故も過去頻繁に発生している。
    過去に発生した主な事故を列挙すると、宜野湾市大謝名(一九七二年六月)、
   浦添市字伊祖(一九七三年四月)、那覇軍港付近(一九七四年六月)、那覇軍
   港沿い(一九七四年一二月)、宜野湾市キャンプ・フォースター(一九七六年
   一月及び六月)、那覇市字壷川(一九七六年一月)、天願ダムタンクファーム
   (一九七六年九月)、具志川市(一九七九年八月)、北谷町キャンプ桑江沿い
   (一九八二年三月)、那覇軍港(一九八二年四月)、具志川市字昆布(一九八
   三年五月)等々、枚挙にいとまがなく、これらの事故により地域の環境は著し
   く汚染され、住民に危険や不安を与えているのである。
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    またパイプラインは、関係市町村の市街地を通過しているため、都市計画、
   道路整備事業等の推進の上で大きな障害となっており、各市町村から早期撤去
   の要請が出されている。
    以上のように本施設は、数多くの被害を地域住民に与えた危険極まりないも
   のであり、かつ都市計画上も多大な阻害要因となっているのであるから、かか
   る施設に提供するために右各土地に対して強制使用認定をなすことは「適正且
   つ合理的」要件を欠如するものといわざるをえないのである。

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第五 公告縦覧代行と地方自治
 一 問題の所在
  1 公告縦覧代行義務の不存在
    原告は、訴状及び第一準備書面において、土地収用法四二条四項、二四条四
   項及び同法四七条の四第二項、四二条四項、二四条四項の各規定に基づき、都
   道府県知事が市町村長に代わって行う公告縦覧(以下、単に公告縦覧代行とい
   う)は、国の機関委任事務であり、都道府県知事は同事務を行うことを法律上
   義務づけられていると主張する。
    しかし、右原告の主張は、公告縦覧代行を「機関委任事務」とする点で問題
   を有し、都道府県知事が公告縦覧代行を行うことを法律上義務づけられている
   とする点で独自の見解であり、誤っている。
    都道府県知事は、市町村長に代わって公告縦覧を行う権限(代行権)を右各
   条項により付与されているだけであり、公告縦覧代行を行うことを法律上義務
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   づけられているものではない。都道府県知事が公告縦覧代行を行うか否かは、
   都道府県知事の裁量に委ねられている。
    従って、被告が本件公告縦覧代行を行わないからといって、地方自治法一五
   一条の二第一項にいう「国の事務の管理若しくは執行が法令の規定・・・に違
   反する」場合又は「国の事務の管理若しくは執行を怠る」場合に該当すること
   はない。
  2 主務大臣の処分違反の不存在
    原告は、被告の公告縦覧代行義務違反行為は右「法令違反」又は「怠る」要
   件に該当すると主張する一方、被告が地方自治法一五〇条の主務大臣の指揮監
   督に従わないことが、同法一五一条の二第一項にいう「国の事務の管理若しく
   は執行が・・・主務大臣の処分に違反する」場合又は「国の事務の管理若しく
   は執行を怠る」場合に該当すると主張する。
    これは、土地収用法上、都道府県知事に公告縦覧代行義務を認めることが無
   理な解釈となることから、同義務が否定された場合に備えた予備的主張の実質
   を有するものと解される。
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    しかし、原告の右主張も、誤っている。
    国の「機関委任事務」の受任者たる都道府県知事は、当該事務が「機関委任
   事務」だとの一事で、その管理・執行義務を具体的に負うものではない。
    「機関委任事務」には、法律・政令により具体的に管理・執行義務を課せら
   れた事務とそうでなく管理・執行を都道府県知事の裁量に委ねられている事務
   の二種が存し、後者の場合には、都道府県知事は地方自治法一五〇条の主務大
   臣の指揮監督を受けないものである。
    また、都道府県知事は、「機関委任事務」の管理・執行義務を課せられてい
   る場合でも、地方公共団体の長として自主独立した地位を憲法上保障されてい
   る者であり、地方自治の本旨に照らして当該事務を管理・執行するか否かを自
   主的に判断する権能を有する者であるから、主務大臣の指揮監督に従うことを
   法的に強制されているものではない。
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    従って、被告が地方自治法一五〇条の主務大臣の指揮監督に従わないからと
   いって、同法一五一条の二第一項にいう「国の事務の管理若しくは執行が・・・
   主務大臣の処分に違反する」場合又は「国の事務の管理若しくは執行を怠る」
   場合に該当するものではない。
    以下、その理由を詳述する。
 二 公告縦覧代行の法的性格
  1 公告縦覧の法的性格
    土地収用法四二条二項(又は、同法四七条の四第二項)は、「市町村長は、
   前項(又は、第四七条の三第一項)の書類を受け取つたときは、直ちに、裁決
   の申請があった旨及び第四〇条第一項第二号イ(又は、同項第一号イ)に掲げ
   る事項を公告し、公告の日から二週間その書類を公衆の縦覧に供しなければな
   らない。」(かっこ内は、四七条の四第二項の場合の読み替え)と定め、公告
   縦覧を行なうことを市町村長の義務と明記する。
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    従って、収用委員会から書類の送付を受けた市町村長は、土地収用法により
   公告縦覧すべき義務を課せられているものである。
    地方自治法一四八条三項は、「市町村長の権限に属する国・・・の事務の中
   で、法律・・・の定めるところにより、市町村長が管理し及び執行しなければ
   ならないもの」として別表四の二、(四三)及び(一の五)に市町村長の公告
   縦覧事務を掲げているが、これは、右理由によるものである。
    この点で、土地収用法三六条四項が「立会・署名」につき、「市町村長は、
   当該市町村の吏員を立ち会わせ、署名押印することができる。」と定め、市町
   村長に立会・署名義務が存しないことを文言上、明らかにしていることと対照
   的な規定文言となっている。
  2 公告縦覧代行の法的性格
  (一)土地収用法四二条四項、二四条四項の公告縦覧代行規定は一九六四年の改
    正により、同法四七条の四第二項の公告縦覧代行規定は一九六七年の改正に
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    よりそれぞれ追加規定されたものである。
     右代行規定が置かれた立法経過について、小澤道一著「逐条解説土地収用
    法」は、次のように記述している。
     「市町村長は、地元住民の利害の影響を受けやすい立場にあり、住民が反
    対する事業については縦覧等の業務を懈怠する場合がある。また、市町村長
    自身の特殊な政治的立場からこの事務を拒否することも考えられる。さらに
    は、市町村の有する公共施設について起業者との公共補償の交渉を有利にす
    るためこの事務を懈怠するということも考えられる。二項の事務は国の機関
    委任事務であるから、市町村長がこれを拒否したり、懈怠する場合には、地
    方自治法一四六条の規定により職務執行命令手続をとることが可能であるが、
    この手続には裁判所が関与することとなっているため極めて長い時間を要す
    ることとなり、事業認定手続を迅速に進めることは不可能となる。また、同
    条の適用そのものが大きな政治問題となりかねないことから、実際上も容易
    にこれを適用しうるものではない。そこで、四項から六項までの規定は、地
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    方自治法一四六条の特則として、裁判所を関与させることなく知事が直接に
    右の事務を代行することができることとしたのである。」(二八五頁)。
     右記述は、公告縦覧事務が国の事務であり、土地収用法上、収用委員会に
    配分された収用委員会の事務とされているものであるが、同事務の管理・執
    行が収用委員会から市町村長に機関委任されていることから、都道府県知事
    は、地方自治法一四六条(一九九一年の改正により現行一五一条の二が新設
    されて、一四六条は削除された。)に基づき市町村長に対し職務執行命令手
    続をとることが可能であったが、右事情から、一四六条の特則として公告縦
    覧の代行規定を置いたとするものである。
     右立法経過を踏まえると、土地収用法の公告縦覧代行規定は、地方自治法
    の都道府県知事の市町村長に対する職務執行命令規定の特則としての性格を
    持つものと解すべきものである。
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  (二)ところで、地方自治法は、一四六条一二項(同条削除後は一五一条の二第
    一二項)により、都道府県知事が国の「機関委任事務」を管理・執行する市
    町村長に対し職務執行命令手続をとりうることと定めているが、いずれも次
    のように規定し、職務執行命令を行うか否かは、都道府県知事の裁量に委ね、
    職務執行命令手続を行うことを都道府県知事に義務づけていない。
     「都道府県知事は・・・前十一項の例により、その行うべき事項を命令し、
    地方裁判所の裁判を請求し若しくは当該市町村長に代わつて当該事項を行い、
    又はこれを罷免することができる」(一四六条一二項)。
     「都道府県知事は・・・当該市町村長に対して、その旨を指摘し、期限を
    定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る事務の管理若しくは執行を改める
    べきことを勧告することができる」(一五一条の二第一二項)。
     公告縦覧代行規定が、職務執行命令規定の特則としての性格を有すること、
    又同規定が「都道府県知事は、起業者の申請により、当該市町村長に代わつ
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    てその手続を行うことができる」と定め、代行権限の付与の形式をとり、市
    町村長の場合のように「公告し、・・・公衆の縦覧に供しなければならない」
    との義務づけ規定の形式をとっていないこと、地方自治法一四八条三項の別
    表四、二、(一の五)及び(四三)が「市町村長が管理し及び執行しなけれ
    ばならないもの」として公告縦覧事務を掲げているにもかかわらず、同条二
    項の別表三、一、(三の四)及び(百八)に「都道府県知事が管理し及び執
    行しなければならないもの」として公告縦覧事務が掲げられていないこと等
    を考え合わせると、都道府県知事が公告縦覧の代行を行うか否かは、その裁
    量に委ねられていると解するのが正しい。
  (三)原告は、原告第一準備書面において、「以上のような公告縦覧の手続の趣
    旨、目的、公告縦覧は市町村長にとっては義務であること、都道府県知事の
    代行に代わる公告縦覧の手続はないこと、公告縦覧の代行の規定は収用又は
    使用の手続を促進するために置かれたことからすると、都道府県知事が公告
    縦覧の手続を代行することはその義務である」(六頁)と主張する。
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     しかし、公告縦覧の趣旨、目的及び市町村長が公告縦覧義務を負っている
    ことが原告主張のとおりだとしても、そのことから直ちに都道府県知事の代
    行義務が生ずるものではない。土地収用法は、公告縦覧を行うことは市町村
    長の義務と明記し、公告縦覧事務は市町村長の「機関委任事務」と定める一
    方、同法四二条四項、二四条五項及び六項は、公告縦覧代行を行おうとする
    都道府県知事が公告縦覧義務を負う市町村長に対し代行を行う旨の通知をな
    すと、市町村は公告縦覧事務を執行することができなくなると規定する。こ
    れは、公告縦覧事務と代行権が別個のものであり、都道府県知事が代行権を
    行使して初めて、市町村長の権限に属する公告縦覧事務を代行し得ることと
    なることを示すものである。
     原告は、市町村長の権限に属する公告縦覧事務と都道府県知事が行う代行
    権が別個のものであることを十分に認識せず、市町村長が公告縦覧事務の管
    理・執行を義務づけられていることから、それとは別個の都道府県知事の代
    行権につき、その行使義務を導き出そうとするものであり、その主張は論理
    性を有せず失当である。
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     「都道府県知事の代行に代わる公告縦覧の手続はないこと」は、原告の指
    摘のとおりであるが、それは、前述の立法経過から明らかなように、土地収
    用法がその必要性を認めず「代行に代わる手続規定」を置かなかったもので
    ある。土地収用法は、代行権の行使については、都道府県知事の裁量に委ね
    たものである。公告縦覧の代行権行使を都道府県知事の裁量に委ねる現行の
    土地収用法の姿勢は、収用高権の発動手続を全て時の政府に委ねず、同手続
    中に地方公共団体の意思を反映させようとするものであり、立法上合理的理
    由を有するものである。
     原告の主張は、都道府県知事の裁量に委ねられた代行権行使について、都
    道府県知事がその裁量権を国の意向に沿って行使しないことについての苛立
    ちから、現行法の立法姿勢を批判するものに過ぎず、都道府県知事の公告縦
    覧代行義務を理由あらしめるものではない。
     公告縦覧の代行の規定が「収用又は使用の手続を促進するために置かれた」
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    ことは、原告主張のとおりであるが、それは都道府県知事に公告縦覧の代行
    権を付与することにより達成されているものである。一九六四年と一九六七
    年の二度にわたって代行権付与規定が新設されたが、その際、都道府県知事
    に代行権の行使を義務付ける提案は一切なされなかった。原告は、この事実
    を十分承知の上で、強引に「解釈」の名の下に都道府県知事の公告縦覧代行
    についての裁量権を否定しようとするものであり、原告の主張は失当である。
 三 「機関委任事務」における主務大臣の指揮監督の性格
  1 「機関委任事務」についての従来の説明
    これまで、「機関委任事務」の制度は、国が法律・政令に基づいて国の事務
   を地方公共団体の長等に委任し、これを「国の機関」に組み込むものである、
   と説明されてきた。その特徴は、地方公共団体の長等を「国の機関」に組み込
   み、主務大臣と地方公共団体の長等との関係を「主務大臣から指揮監督を受け
   る関係」と説明することにより、主務大臣の権限を国の行政機関内部における
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   上級機関の強固な指揮、監督権と同一視する見解を導くところにあつた。
    確かに、このような「機関委任事務」の概念は、地方公共団体の長等に対し
   て指揮、監督権を確保しようとする国にとっては実に都合のよいものであつた。
    しかし、憲法において地方自治が保障され、その自主独立性が保障されてい
   る状況の下で、憲法より下位規範である「法律・政令」により憲法で自主独立
   性を保障された地方公共団体の長を「国の機関」に組み込もうとする「機関委
   任事務」の概念は、そもそも基本的に問題を持つものであった。
    いうまでもなく、「機関委任事務」の概念は、講学上のものであり、法律上
   の概念ではない。又「機関委任事務」の概念が具体的に機能したのは、知事公
   選制が始まった戦後のことであり、その使用のされ方、現実の機能に問題があ
   ることが自治問題研究者の中で次第に指摘されるようになってきた。
    「機関委任事務」の概念は、ある時期までは無批判に使われてきたことがあ
   るが、その概念の曖昧さ、有用性に疑問が投げかけられ、現在では、前述の概
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   念にとらわれることなく、具体的に地方公共団体の長等に事務を委任する個々
   の法令毎にその内容を検討すべきであるとする見解が行政法学会の主流となっ
   ている(「都市問題研究」三五巻六号、辻山幸宣「『機関委任事務』概念の機
   能と改革の展望」)。
  2 国・主務大臣と地方公共団体の長との関係
  (一)従来の「機関委任事務」制度の説明は、根本的に欠陥を持つものであり、
    到底取り得ないものである。
     なぜなら、憲法で自主独立性を保障された地方公共団体の長が、憲法より
    下位規範である「法律・政令」によりその自主独立性を奪われ「国の機関」
    に組み込まれるとするのは法の自己矛盾であり、憲法を否定することになる
    からである。
     従って、少なくとも地方公共団体の長に対する「機関委任事務」について
    は、地方公共団体の長は自主独立した地位を有するものであるから、国から
    「自主独立した法的地位を有するもの」への国の事務の配分及びその管理・
    執行についての権限付与と解し、主務大臣と地方公共団体の長との関係は、
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    同一機関内の上級機関と下級機関の関係ではなく、対等な立場で協力して国
    の事務を執行する関係、と解するのが妥当である。
     又地方公共団体のその他の機関に属するとされる「機関委任事務」(地方
    自治法一八〇条の八、二項の教育委員会の事務等、但し同教育委員会の事務
    を機関委任事務と解してよいか問題が存する。)についても、それを定めた
    個々の規定の趣旨を具体的に検討することなく無前提に「国の機関」と決め
    つけるのは、根拠が薄弱であるから、この場合は事務の配分・帰属を定めた
    個々の規定の趣旨を明らかにして、国と配分を受ける機関との関係の中身を
    具体的に確定すべきである。
  (二)右国と地方公共団体の長の関係は、地方自治を保障した憲法から導かれる
    結論であるが、この見解に立つと地方自治法一四八条、一五〇条をどう解釈
    するかが、問題となる。
     同法一四八条は、一項で「普通地方公共団体の長は・・・・法律又はこれ
    に基づく政令によりその権限に属する国・・・の事務を管理し及びこれを執
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    行する」と規定し、二項で「前項の規定により都道府県知事の権限に属する
    国・・・の事務の中で法律又はこれに基づく政令の定めるところにより都道
    府県知事が管理し及び執行しなければならないものは、この法律又はこれに
    基づく政令に規定のあるものの外、別表三の通りである」と定める。
     一項は、「機関委任事務」の根拠規定と解されているが、一項と二項の関
    係は従来必ずしも十分に説明されていない。
     一項と二項を対比してみると、次の二点で規定の仕方が異なっている。
     一つは、一項が「法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する国
    ・・・の事務」とし、法律・政令により国の事務が普通地方公共団体の長に
    属すると規定するのに対し、二項が「前項の規定により都道府県知事の権限
    に属する国・・・の事務の中で・・・・しなければならないものは・・・」
    と定め、一項で普通地方公共団体の長に属する事務とされるもののうちの
    「一部の事務について」の規定となっている点である。
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     もう一つは、一項が「国・・・の事務を管理し及びこれを執行する」とし、
    権限帰属の規定となっているのに対し、二項が「国・・・の事務の中で・・・
    都道府県知事が管理し及び執行しなければならないものは、この法律又はこ
    れに基づく政令に規定のあるものの外、別表三の通りである」と定め、管理・
    執行義務を定める規定となっている点である。
     第一の点からは、「機関委任事務」を地方公共団体の長に帰属させるのは、
    法律・政令であり、二項の別表はその一部を定めるものであることが明らか
    になる。
     第二の点からは、地方公共団体の長に属する事務の中には、「管理・執行
    義務を負う事務」と「管理・執行義務を負わない事務」の二種が存し、二項
    は「管理・執行義務を負う事務」を別表の形で定めるものであることが明ら
    かになる。
     いうまでもないが、法律・政令により「機関委任事務」が地方公共団体の
    長に属させられるものであるから、一般的意味での管理・執行義務(誠実に
    行う義務)が地方公共団体の長にあることは当然のことである。
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     しかし、二項の管理・執行義務をこの意味で解するのは相当でない。なぜ
    なら、この意味での管理・執行義務であれば一項の「機関委任事務」全部に
    ついていえることであり、その一部である二項の事務についてのみ特に指摘
    すべきものではないからである。
     二項がわざわざ管理・執行義務を明記したのは、法律・政令により具体的
    に管理・執行義務を負う「機関委任事務」を別表で特定・明記し、同事務に
    ついては地方自治法一五〇条の指揮、監督を受けることを明らかにするため
    である、と理解するのが規定の形式からすると自然である。
  (三)地方自治法一五〇条は、「普通地方公共団体の長が国の機関として処理す
    る行政事務については、普通地方公共団体の長は、都道府県知事にあつては
    主務大臣・・・・の指揮監督をうける。」と定め、普通地方公共団体の長に
    対する主務大臣の指揮監督を認める。(ここで普通地方公共団体の長が「国
    の機関として」処理するという意味は、既に述べたように国の行政機関と普
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    通地方公共団体の長との上下関係を示すものではなく、対等な当事者として
    普通地方公共団体の長が処理する事務の性格、即ち国の事務を執行するもの
    であることをを示すものと解すべきである。)
     そこで、右「指揮監督」の対象となる「国の機関として処理する行政事務」
    をどのように解するか、「指揮監督」の内容とその法的効力をどのように解
    するかが問題となる。
     先ず、前者については、「普通地方公共団体の長の権限に属する国の事務」
    が、前述のとおり「管理・執行義務を負う事務」と「管理・執行義務を負わ
    ない事務」の二種に分かれていること、「管理・執行義務を負わない事務」
    についてはその事務の管理・執行が普通地方公共団体の長の裁量に委ねられ
    ていること(主務大臣による指揮監督と両立しない)を考えると、「指揮監
    督」の対象となるのは「管理・執行義務を負う事務」に限られると解すべき
    である。
     次に、後者については、主務大臣の指揮監督は、普通地方公共団体の長に
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    配分された「管理・執行義務を負う国の事務」を統一的に実施するために認
    められるものであるから、その指揮監督の内容は「管理・執行義務」を尽く
    させ、受任者たる市町村長の権限(審査・判断権)を侵害しない限度で、国
    の事務を統一的に実施させるにとどまるものと解すべきである。
     その意味では、同一機関内の上級機関が下級機関に対して有する指揮監督
    権が、下級機関が行う行為(権限の行使内容)の当否についてまで指揮監督
    できるとされていることと異なるものである。
     さらに、地方自治法一五〇条の主務大臣による指揮監督は、同法一五一条
    の二の職務執行命令訴訟以外にその実効性を担保する規定を有しない。同法
    一五一条が、都道府県知事にその管理に属する国の事務等につき、市町村長
    がなした処分の取消権、停止権を認めていることと対比すると、このことは
    明らかである。
     主務大臣の指揮監督の実効を担保する規定が存しないのは、「機関委任事
    務」を執行する地方公共団体の長が自主独立した法的地位を有し、国の行政
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    機関(主務大臣)と対等の関係にあるため、主務大臣は自己の意見・判断に
    従わない受任者に対し組織法上の懲戒等の処分権を有していないことによる
    ものである。
     従って、右一五〇条の指揮監督は、組織法でいう受命者が「絶対的に服す
    るを要する」という性格のものではなく、普通地方公共団体の長が自主的判
    断で服するものという性格のものであり、法的効力をほとんど有せず実質的
    には行政指導と同種のものと評すべきものである。
  (四)以上の検討から明らかなように、地方自治法一五〇条は、「管理・執行義
    務を負う国の事務」について、主務大臣に対し受任者に対する「指揮監督」
    を認めるものであり、決して、「管理・執行義務を負わない事務」について
    「指揮監督」を認めるものではない。
     公告縦覧代行は、公告縦覧事務が市町村長に配分された事務であることを
    前提とした上で、都道府県知事へ「代行権」を付与するものであり、その行
    使の有無は「権限の行使の問題」であり、権限行使が法的に義務づけられて
    いるか、否かの問題であるに過ぎない。
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     しかし、原告は、市町村長の権限に属する「公告縦覧事務」と都道府県知
    事の権限に属する「代行権」とを区別することなくこれを混同して、被告が
    公告縦覧代行を行うことは、国の「機関委任事務」だと主張し、主務大臣が
    被告に対し地方自治法一五〇条に基づき指揮監督を行い得るとする。しかし、
    仮に、それが「機関委任事務」だとしても、前述のとおり、公告縦覧代行を
    行うことは、都道府県知事が「管理し及び執行しなければならないもの」
    (一四八条二項)とされているものではない(別表に記載なし)から、主務
    大臣は、本件公告縦覧代行につき同法一五〇条の指揮監督を行い得ないもの
    である。
     百歩譲って、同条の指揮監督を受けるとしても、それはせいぜい行政指導
    程度の意味を有するに過ぎないものであり、到底一五一条の二の職務執行命
    令手続の要件となる「主務大臣の処分」となるものではない。
 四 地方自治の本旨に反する「機関委任事務」の執行拒否―地方自治の保障と知事
  の職務
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  1 憲法による地方自治の保障
    憲法第八章は、地方自治を制度的に保障したものである。この点については、
   今日では異論のないところである。地方自治は、民主的国家においては民主主
   義を「草の根もと」で実現するために不可欠な重要な制度である。旧憲法下に
   おけるわが国の地方自治の歴史を振り返るとき、憲法が「地方自治の本旨に基
   づいて」地方自治を制度的に保障し、これに客観的法規範性を与えたことの意
   義は極めて大きなものがある。
    地方公共団体の有する人格及び自治権につき、それが固有のものであるか、
   国家から伝来したものであるかという視点から論じられることがあるが、「伝
   来説か固有権説かという問題は、さして意味のあるものとはいえず、中央と地
   方の権限配分・地方公共団体の組織と作用の方法等について、憲法上どのよう
   な構造がとられているのか、それを具体的且つ説得的に説明することこそが重
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   要」であると指摘されている(法律時報第四八巻二〜四号、杉原泰雄「地方自
   治権の本質」四号一三三頁参照)。憲法は、「民主的国家構造の一環をなすも
   のとして、国家とともに、国民生活の福祉の向上に奉仕するために、国民の主
   権から発する公権力を国から独立して各地域において自己の責任の下に行使す
   る一の公の制度」として地方自治を保障したものである。
  2 地方自治の本旨
    憲法が制度的に保障したのは「地方自治の本旨に基づく」地方自治である。
   近代憲法が公権力の存在理由を人権保障に求めてきたことは、自明のことであ
   り、日本国憲法が、国民の人権を保障することを重要な目的とし、基本原理と
   していることは異論のないところである。憲法が制度的に保障する地方自治制
   度も当然のこととして、住民の人権保障を目的とするものであり、人権保障は、
   「地方自治の本旨」の重要な内容をなすものである。
    「地方自治の本旨」は、住民自治と団体自治の観念から成り立つと解される
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   が、地方自治が住民の人権保障を目的とすることをふまえて、その内容が具体
   化されなければならない。憲法九三条は、住民自治の制度的保障の具体的内容
   として、地方公共団体に対し議決機関としての議会の設置、長、議員等の直接
   公選制を保障し、九四条は、団体自治の制度的保障の具体的内容として、地方
   公共団体に対し財産管理権、自治行政権及び条例制定権を保障している。
    本件に関して特に留意しておかなければならないのは、一つは、住民から直
   接公選された知事の責務の法的意義である。もう一つは、自治行政権の具体的
   内容と法的意義である。 
    知事は、県民から直接選挙で選ばれた者として、住民自治、民主主義の精神
   に立って県民の意思を尊重しながら自治行政を執行する憲法上の責務を負って
   いる。
    又知事は地方公共団体の長として憲法上、地域住民の平和的生存権を保障し、
   生活、人権、財産権を守り、福祉(地域振興)を増進させる責務を負っている。
    知事は、右責務を果たすために地方公共団体の長として、憲法が保障した地
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   方公共団体の自治行政権を行使する。この機能は、憲法が保障したものであり、
   内閣に属する国の行政権(憲法六五条)と対等なものである。
  3 自治行政権と法令審査権
  (一)自治行政権は、国の行政権と同様に憲法に従って行使される。
     この場合、地方公共団体の長は内閣と同様、行政権を執行する際、行政権
    を執行する者として憲法及び法律を解釈し、それに従って行政権を執行する。
     憲法は、地方公共団体の長と内閣をそれぞれ自主独立した憲法上の機関
    (一方は地方公共団体の機関、他方は国の機関)と位置づけているから、地
    方公共団体の解釈権と内閣の解釈権との間には優劣は存しない。それぞれの
    機関の内部において、例えば内閣の統轄下の行政機関内部において、官房、
    局、部、課、室等はそれぞれの事務を執行するにつき法令解釈権を有するが、
    下位の機関の解釈権は上級機関の解釈権に従い、拘束されるのと異なる。同
    一機関内の法令解釈権は、上級機関の解釈権により、解釈が統一され、その
    解釈が正しいか否かは最終的には司法判断に委ねられる。
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  (二)それでは、制度上対等な行政権と憲法・法令解釈権(執行に際しての)を
    持つ内閣と地方公共団体の長との間で、「機関委任事務」の管理・執行につ
    き意見の相違が生じたとき、その調整、解決はどのようになされるのであろ
    うか。言葉をかえると地方公共団体は自主的な解釈権を有するのであろうか。
     一つの考え方は、これを否定し、内閣(主務大臣)に行政内部における、
    最終的解釈権を与え、地方公共団体の長がこれに不服の場合は、地方公共団
    体の長に裁判を提起させて、裁判所にて最終的判断(司法判断)を受けさせ
    る、というものである。
     もう一つは、地方公共団体の長に自主的解釈権を認め、内閣(主務大臣)
    がこれに不服の場合は、主務大臣に裁判を起こさせて、裁判所にて最終的判
    断(司法判断)を受けさせる、というものである。
     前者の考え方は、地方公共団体の長が憲法上自主独立した地位を保障され
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    ていることを、無視している点で誤っている。又地方自治法は地方公共団体
    の長に裁判を起こす権限を認めておらず、逆に主務大臣に機関訴訟を起こす
    権限を認めているので解釈上も採りえない見解である。この考え方は、砂川
    職務執行命令訴訟の一審で国が主張したものであるが、周知のように同事件
    の最高裁判決で否定された。
     後者の考え方は、地方自治制度と機関委任事務制度を憲法の趣旨にそって
    調和させるものであり、妥当なものである。地方自治法一五一条の二が主務
    大臣に職務命令訴訟を認めていることから、地方自治法がこの考え方に立っ
    ているは明らかである。
     ただ、この見解に立つ際に留意しなければならないのは、主務大臣が不服
    を申し立てられるのは、法律により、地方公共団体の長に対し「裁判を起こ
    す権限」(職務執行命令の勧告・命令権を含めて)が付与されている場合に
    限られる、という点である。(土地収用法の都道府県知事の公告縦覧代行に
---------- 改ページ--------344
    ついては、前述のように、仮にそれが「機関委任事務」だとしても、地方公
    共団体の長に対し「裁判を起こす権限」を認める規定はないので、主務大臣
    は知事が行った判断に対して不服を申し立てることはできない。)
  (三)ところで、地方公共団体の長も内閣も最高法規たる憲法を遵守する憲法上
    の義務を負っている。従って、憲法に違反すると判断した法律(違憲の法律)
    には従わないことができるし、従うべきではない。
     又法律そのものは憲法に違反しないが、具体的な執行行為が憲法に違反す
    る(適用違憲)と判断した場合は、当該執行行為を行わないことができるし、
    行ってはならない。このことは、法理論上当然のことである。問題は、個々
    の法律又は法的行為そのものは、違憲とはいえないが、それらの行為によっ
    てもたらされる状況が憲法に違反する状態と判断される場合である。行政権
    の執行者が、違憲状態と判断した場合、執行者は違憲状態を維持・継続させ
    る当該事務を執行しないことができるのかという問題である。この問題につ
    いては、これまでほとんど論じられたことがない。
---------- 改ページ--------345
     大気汚染公害において、個々の企業の汚染物質の排出については、個々の
    法律に反していないが、複数の企業から排出される汚染物質が複合して、地
    域住民の生命、人体、健康を害する(不法行為)ことがある。
     これと同様に、個々の行為そのものは、違憲とまではいえないが、複数の
    同種行為が集合するために、それによってつくりだされる状態が違憲の状態
    となることがある。
     沖縄県における米軍基地の状態は、まさにこの例にあたる。
     米軍基地は、国有地の提供行為、公有地の賃借による提供行為、市有地の
    賃借による提供行為、駐留用用地特措法に基づく強制使用による提供行為等
    の複合により、はじめて一団の基地として存在し、機能している。
     個々の提供行為が、直ちに違憲とはならないとしてもこれらの行為が複合
    する結果、憲法の保障する平和的生存権を侵害し、県民の生活、人権を侵害
---------- 改ページ--------346
    し(憲法上の人権が侵害されている状態)、地方住民の福祉(地域振興)の
    増進を阻害している(地方自治の本旨の実現が阻害されている状態)と評価
    しうる状態が存在する。
     このような違憲の状態が存すると判断した場合、地方公共団体の長は、右
    違憲状態を維持し、継続させることが憲法上の自己の本来の職務(地方自治
    の本旨に従って自治行政を行う憲法上の義務・権能)に反するとして、当該
    機関委任事務を執行しないことができる(具体的執行義務を負わない)と解
    される。
     なぜなら、地方公共団体の長は、憲法上、自主独立した地位を保障され、
    憲法を遵守し、憲法を実現する義務を課せられているから、違憲状態(憲法
    上の人権が侵害されている状態、地方自治の本旨の実現が阻害されている状
    態)を維持、継続する法的義務を負わないと解するのは、当然のことだから
    である。
  (四)本件に則していうと、先ず本件公告縦覧代行の根拠となる駐留軍用地特措
    法が違憲無効であれば、本件公告縦覧代行の問題は生じない。
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     次に、総理大臣がなした事業認定が違憲無効(適用違憲)又は違法(本件
    使用申請書類である土地・物件調書には、総理大臣の立会・署名がなされて
    いるが、同立会・署名は違法無効なものである)であれば、それを前提とす
    る本件公告縦覧代行申請は無効・違法となり、被告は本件公告縦覧代行を行
    わないことが土地収用法上認められる。
     又、沖縄県における米軍基地の存在が、前述した様々な人権侵害を引き起
    こし、県民と県に多様な生活破壊と負担を与えており、違憲状態と判断され
    た場合、被告はその違憲状態を維持、継続させる本件公告縦覧代行を行う義
    務を負わない。
     これらは、憲法が最高法規であり、知事が憲法遵守義務を負っていること
    から導かれる法的結論である。
     本件においては、知事が自己の法令解釈権に基づき右判断(本件公告縦覧
    代行義務を負わない)に至ったものであり、その判断に誤りはないと確信す
    るものである。
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     よって、裁判所はその司法権を行使をして、知事の右判断に誤りが存する
    か否かを慎重に憲法と証拠に照らして判断すべきである。
  (五)被告の右判断に対して、公告縦覧代行は法令に基づくものであるが、被告
    が主張する様々な被害・負担をもたらす米軍基地を整理・縮小し、撤去する
    行政は、被告の政策あるいは政治的方針に基づくものにすぎないとの意見も
    予想される。
     しかし、この批判は、被告が憲法に照らして、(1) 留軍用地特措法及びそ
    の適用の仕方を違憲と判断したこと、(2) 使用認定が違憲・違法と判断した
    こと、(3) 土地・物件調書への立会・署名を被告が拒否したことが正当であっ
    たこと、(4) 米軍基地が存在するゆえに生じている状態が違憲状態に至って
    おり、地方自治の本旨に反する公告縦覧代行を行う義務を負っていないと判
    断したこと等を無視し、これを単なる政策、政治方針と矮小化している点で
    誤っている。
     右判断は、優れて憲法判断であり、法的判断である。とくに、ここで指摘
    をしておかなければならないのは、(4) の判断である。ここでいう違憲状態
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    のなかには、様々な形での人権侵害状態が含まれが、それだけにとどまるも
    のではなく、地方自治の本旨を実現するという知事の本来の職務を侵害する
    という側面が含まれているという点である。地方自治の実現という中には、
    人権保障という側面の他に、地域住民の福祉の実現という政策にかかわる側
    面、その意味では地方公共団体の長の自主的判断に委ねられている側面が存
    し、それが憲法上制度的に保障されているという点である。
     機関委任事務は、このような自主独立性を有する知事に、その本来の職務
    と抵触しない限度で国の事務の執行を委ねるものであることに留意しなけれ
    ばならない。
     法律といえども、この知事の憲法上の義務・権能を制約することはできな
    い。
 五 本件公告縦覧代行と違憲状態―具体的内容
  1 住民の意思に反する本件公告縦覧代行
  (一)被告第一準備書面、第五で指摘したとおり、沖縄県の圧倒的多数が基地撤
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    去を求めている。この県民意思は同書面第二、第三で述べた歴史的経過の中
    で形成されたものであり、長期間にわたり確固とした県民意思として存在し
    ているものである。沖縄県民は、戦後五〇年、沖縄に米軍基地を存続せしめ
    るか否かにつき一度も民意を問われたことがない。これは、憲法の下での明
    白な民主主義の不在といいうる異常な法的状況である。
     沖縄県民の置かれたこのような異常な状況は、戦後に始まるものではない。
    右第二で述べたように日本が沖縄に対して琉球処分以来、一貫してとってき
    た国策が作り出したものであり、深い歴史的背景をもつものである。
     識者が被告の立会・署名拒否を評して「知事は今や明らかに近代沖縄百年
    のアポリア(解決困難な難問)を苦悶の決断で乗り越えようとしているかに
    見える。その道はあるいは『沖縄民権』の悲劇的先駆者謝花昇が求めた道」
    ではないか(沖縄自立の最終的な道)、又知事の決断の後に沸き起こってき
    た沖縄民衆の「熱い支援と共感の声」は「近代以降、今日に至るまでの沖縄
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    に対する犠牲と差別、不平等な処遇に対する根底的な抗議の声」であるとし
    た(比屋根照夫、沖縄タイムス一九九五年一〇月二〇日)のは、まことに的
    を得たものといえる。このことは、本件公告縦覧代行拒否についてもいえる
    ことである。
  (二)公告縦覧は、土地・物件調書への立会・署名と同様、駐留軍用地特措法に
    基づいて米軍用地の使用権を取得するための不可欠な事務であり、直接米軍
    基地を存続させることに繋がるものである。
     前述したような歴史的、社会的背景の下で、知事が県民の意思に反して米
    軍基地を存続せしめる本件公告縦覧代行を行うことは住民自治の最も核心的
    な精神に反し、県民の意思に基づいて自治行政を負うべき憲法上の責務に反
    することになる。
  2 住民の生活、人権、財産権、福祉(地域振興)を侵害する本件公告縦覧代行
  (1)米軍基地の存在は、被告第一準備書面、第四で指摘したとおり、住民の生
    活、人権、財産権、福祉(地域振興)をあらゆる面で侵害し、阻害している。
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     沖縄県は、右事態に対応するため地方公共団体としても人的、経済的両面
    にわたって過重な負担を強いられている。
     沖縄県における右状況は、決して一時的なものではなく戦後五〇年余間強
    いられてきたものである。国は、今後もこの状況を国策として維持する意向
    を明確に示しており、沖縄県に今後長期間にわたって米軍基地の過重な負担
    を強いる姿勢を示している。
     一九九六年四月一七日、橋本首相とクリントン大統領によって発表された
    「日米安保共同宣言」は、この点につき「両者は、日米安保条約を基盤とす
    る両国間の安全保障面の関係が、共通の安全保障上の目標を達成するととも
    に、二一世紀に向けてアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維
    持するための基礎であり続けることを再確認した。」と記述し、日米安保条
    約六条の定める「極東における国際の平和と安全の維持に寄与する」という
    目的を逸脱して、「アジア太平洋地域の平和と安定の維持」にまで日米安保
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    条約の目的を拡大することを明記している。又同宣言は、さらに「米国は、
    周到な評価に基づき、現在の安全保障情勢の下で米国のコミットメントを守
    るためには、日本におけるほぼ現在の水準を含め、この地域において、約一
    〇万人の前方展開軍事要員からなる現在の兵力構成を維持することが必要で
    あることを再確認した。」と述べ、在沖米軍基地がアメリカの世界戦略の一
    部として二一世紀に渡って長期間固定化されることを明らかにしている。
     米軍基地のもたらす右状況は、長期間にわたって地域住民の平和的生存権、
    生活、人権、財産権を侵害し、福祉・地域振興を阻害するものとなっており、
    違憲状態と評すべきものとなっている。この違憲状態は、駐留軍用地特措法
    に基づく土地強制使用、土地賃貸契約、国有地の提供等の各土地提供行為が
    あいまって結果的に全国の米軍専用施設の七五パーセントが沖縄に集中する、
    違憲状態を作り出しているものである。
     本件公告縦覧代行は、この違憲状態を維持、継続させる行為であり、到底
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    憲法が許容しないものである。
 六 違法な公告縦覧申請及び代行申請
  1 無効な立会・署名に基づく公告縦覧手続の違法性
    原告は、土地・物件調書への立会・署名(土地収用法三六条)を得て、裁決
   申請を行わなければならないが、原告が行った本件裁決申請は、無効な総理大
   臣による「代理署名」を得て行われたものであり、本件公告縦覧申請及び代行
   申請の前提手続である本件裁決申請それ自体が違法・無効なものであるから、
   本件公告縦覧申請及び代行申請それ自体が違法・無効なものである。
  2 地籍不明地に対する公告縦覧手続の違法性
    沖縄県は、周知のように沖縄戦により公図、登記簿、権利証等が滅失し、戦
   後、地籍の確定が行えなかったと言う特殊事情を有する地域である。戦後まも
   なく不十分な条件の下で地主による土地所有権申告作業が行われたが、右事情
   に加え権利関係者の不在という事情も存したこともあって、琉球政府、沖縄県
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   の地籍確定努力にもかかわらず、未だ地籍の確定が行われていない地域が存す
   ることは、公知の事実となっている。
    本件各土地のうち、島袋善祐外何名かの土地は地籍不明地であるが、これら
   の土地についても土地調書が作成されている。
    地籍不明地とは土地の位置、境界が不明な土地である。従って、地籍不明地
   の土地調書については土地調書もそもそも作成し得ないものであり、本件土地
   調書は内容そのものに瑕疵が存するものである。
    原告は、強制使用対象土地を現地において、測量をなし、本件土地測量図面
   を作成したものであり、同図面は、現地復元力(測量図面に基き現地で土地の
   位置範囲を復元し特定する能力)を有するので、何ら同図面に瑕疵はないと主
   張する。
    本件土地測量図面が、現地復元力を有するか否かは不明であるが、仮に現地
   復元力を有するとしても、それはその限りのものである。地籍不明地について
   の実測図面は、土地の位置、境界を特定するだけであり、当該土地が、何番の
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   土地であり、誰の所有地であるかを示すものではない。地籍が明確化されない
   以上、依然として地番、所有者は不明のままである。従って、地籍不明地の土
   地調書は、地番及び所有者は不明とならなければならない。
    ところが、本件土地調書は地籍不明地についての調書であるにもかかわらず
   地番及び所有者を特定している。これは明らかに真実と異なる事項を記載した
   ものであり、不適法なものである。
    従って、このような地籍不明地については、公告縦覧手続そのものが不可能
   であるにもかかわらず、それを無視してなされた本件公告縦覧は違法無効であ
   る。

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第六 職務執行命令訴訟の意義と地方自治法一五一条の二の要件欠缺について
 一 職務執行命令訴訟の意義と裁判所の審査権
  1 職務執行命令訴訟制度の意義について、砂川事件の最高裁判決(一九六〇・
   六・一七第二小法廷)は、「国の委任を受けてその事務を処理する関係におけ
   る地方公共団体の長に対する指揮監督につき、いわゆる上命下服の関係にある、
   国の本来の行政機構の内部における指揮監督の方法と同様の方法を採用するこ
   とは、その本来の地位の自主独立性を害し、ひいて、地方自治の本旨に悖る結
   果となるおそれがある。そこで、地方公共団体の長本来の地位の自主独立性の
   尊重と、国の委任事務を処理する地位に対する国の指揮監督権の実効性の確保
   との間に調和を図る必要があり、地方自治法一四六条は、右の調和を計るため
   いわゆる職務執行命令訴訟を採用したものと解すべきである。」と述べており、
   職務執行命令訴訟は、国と地方公共団体との間における機関委任事務の処理を
   めぐる対立について司法審査を関与させることに最大の眼目がある。
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    たしかに、地方公共団体の長が国の機関として処理する行政事務については、
   一般的には全体の統一的事務を図る立場から、国は指揮監督をなし得るとされ
   ている。
    しかし、それにもかかわらず、職務執行命令訴訟制度が導入されているのは、
   この場合でも、国の行政的監督を排除して、最終的には裁判所による公正な判
   断を求めるべきものであるとする考え方によるものである。
    「このような司法的関与制度の背景には、『国の立場と地方自治の立場とを、
   行政裁量的にではなく、司法的客観的に公正に調整しようとする考え方』があ
   り、従来の中央統制に見られた後見的監督を避けて、地方公共団体の自主性と
   自立性を強化し、国と地方との『平等の対立協調の関係』の促進をその狙いと
   するものである(原龍之助『地方制度改革の基本問題』九〇頁)。従って、職
   務執行命令訴訟も、国と地方との関係における平等主義を徹底させる方向に運
   用されなければならない。アメリカの場合には、行政能率を増進し、適正な法
   の執行を保障するための方法として裁判所の介入を求めるのであるが、日本で
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   は裁判所の関与は、機関委任事務の場合でも、むしろ中央統制に対するクッショ
   ンとしての役割を果たすべきものと見るべきもの」(園部逸夫『砂川職務執行
   命令訴訟』ジュリスト臨時増刊一九六〇年一〇月号「続判例百選」二〇四頁)
   と考えられるのである。
  2 このことは、別の観点からすれば、行政機関の服従義務の限界はどこに見出
   すべきかという問題との関連で、職務執行命令制度の趣旨をどうとらえるかと
   いうことである。
    行政機関は法による行政の原理の下で、行政としての一体性を保つための組
   織法的な服従義務をもつ一方、憲法及び一般国法に従い、それを遵守する義務
   を負うことはいうまでもない。そして、この二つの義務は別個の要請に対応す
   るものであり、相互に抵触し得るものであるから、両者が対立する場合が生じ
   うることは避けられない。ましてや、「機関委任事務」における国と憲法にお
   いて地方自治を保障される地方公共団体の長との関係は、通常の行政組織にお
   ける上級庁と下級庁との関係とは異なるものである。
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    それ故にこそ、最高裁判決は「地方公共団体の長本来の地位の自主独立の尊
   重と国の委任事務を処理する地位に対する国の指揮・監督権の実効性の確保と
   の間に調和を計る」ことの必要を指摘し、その判断を司法機関に委ねたのであ
   る。すなわち、「一四六条がわざわざ独立の法判断機関の判断を経させている
   のは上下の行政機関の間で法の解釈について対立がおこった場合どちらの解釈
   が正しいかを判断させ、正しい法の執行を保障すること、すなわち組織法的関
   係から離れて一般国法の見地から命令の適否を判断させること、すなわち、一
   般国法の見地からみた場合知事又は市町村長は命じられたことをなす法律上の
   義務があるかどうかをを審査させることに狙いがあると考えられるのである。」
   (金子宏「地方自治法一四六条における職務執行命令訴訟の諸問題」ジュリス
   ト二〇八号一〇五頁)から、この審査にあたって、国の行政事務の能率的運営
   や統一的、一元的処理を強調したり、審査の範囲を形式的要件の具備の範囲に
   限定したりするのは、わざわざ独立の法判断機関として裁判所を介入させた意
   義を実質的に失わしめることになる。
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  3 本件職務執行命令訴訟は、行政事件訴訟法六条にいう機関訴訟であり、内閣
   総理大臣と国の機関である沖縄県知事との間における「機関委任事務」上の権
   限の行使に関する紛争についての訴訟であって、権利主体間の具体的な権利義
   務ないし法律関係の存否に関する訴訟ではない、と原告は指摘する。しかし、
   職務執行命令訴訟は、国と、国からは独立の地方公共団体の間での争いという
   側面を同時にもっており、この場合には国と地方公共団体間での、つまり、権
   利主体間での訴訟という面があることに留意されなければならない。
    重要なことは、職務執行命令訴訟においては、「争訟裁判機関が上級庁から
   も下級庁からも独立の、法の保障を本来的任務とする裁判所であることを特に
   重視する必要がある」という点なのである(前掲金子論文一一〇頁)。
    以上述べた点から考えて、職務執行命令訴訟における裁判所の審査権は、職
   務執行命令の形式的要件の審査に留まらず、合憲性の有無、違法性の有無一般
   に及ぶものと解されるのである。
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  4 さらにつけ加えておくべきことは、前掲最高裁判決が、国の指揮・監督権の
   実効性の確保と調和を図るべきとした「地方公共団体の長、本来の地位の自主
   独立性の尊重」の要請は、後述するとおり職務執行命令訴訟についての地方自
   治法の改正(最高裁判決は旧法の職務執行命令訴訟についてのものである)や
   地方自治の一層の推進を図った地方分権推進法の制定などにより、今日におい
   てはより一層強調されなければならないという点である。
 二 審査権についての原告主張に対する反論
  1 原告は、地方自治法一五一条の二に規定する要件を具備するかどうかについ
   て裁判所は審理・判断するとしたうえで、その審査の範囲・方法について論じ
   ている。
    原告の主張は、要するに、第一に審査の範囲を原則として形式的違法性に限
   定し、第二に、例外的に実質的違法性について及ぶとしても、「重大かつ明白
   な瑕疵」の有無の判断に限られるとし、さらに第三に、右の判断についても
   「高度の政治的判断を要する広範な裁量」に委ねられていることを考慮すべき
   であるという。
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    原告の右主張の狙いは、本件における裁判所の審査を実質的に骨抜きにしよ
   うとするものにほかならず、職務執行命令訴訟制度の実質的機能の放棄を裁判
   所に求めるものといわなければならない。このことは、前述した職務執行命令
   訴訟の制度の趣旨・意義に著しく反するものである。
  2 公益侵害の要件について
    原告は、「公益」に該当するか否かの認定判断は、「我が国の外交政策及び
   防衛政策の基本にかかわるものであって、高度の政治性を有するから、原告
   (内閣総理大臣)の広範で政治的な裁量にゆだねざるを得ない」としている。
    しかし、そもそも不確定概念である「公益」について原告主張のような広範
   な裁量論を採るとするならば、「公益」要件は、職務執行命令の法律要件とし
   ての意義をほとんど有さなくなるし、職務執行命令訴訟制度における一方の要
   請である地方公共団体の長本来の自主独立性の尊重は甚だしく形骸化したもの
   とならざるを得なくなるのは明らかである。
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    地方自治法一五一条の二、一項の「公益」は、裁判所が客観的に法令解釈の
   最終的判断機関としてなすべきであり、原告の主張する「公益」が法の要件と
   しての「公益」に該当するか、「公益が侵害された」といえるかどうかについ
   ての判断権はあくまでも裁判所にある。
    裁判所に求められる判断は、原告が判断したとする「公益」を憲法や地方自
   治法に照らし、法一五一条の二、一項の「公益」と評価しうるか否かという点
   である。
    原告の主張は、職務執行命令訴訟という司法判断を介入させることによって
   法の保障を実現しようとする趣旨を没却させるものというべきである。
  3 地方自治法一五一条の二の要件解釈についての基本的考え方
  (一)地方自治法一五一条の二は、同条三項の職務執行命令訴訟提起の要件とし
    て、
    (1) 都道府県知事の国の「機関委任事務」の管理又は執行が法令の規定や主
     務大臣の処分に違反すること又は国の「機関委任事務」の管理若しくは執
     行を怠ること、
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    (2) 職務執行の勧告や命令等以外の手段では是正が困難であること、
    (3) それを放置することによって著しく公益を害することが明らかであるこ
     と、
    の三点をあげている。
  (二)現行地方自治法一五一条の二は、一九九一年三月二六日第一二〇国会にお
    いて、従前の地方自治法一四六条(以下「旧一四六条」という。)を削除し
    て設けられた規定である。
     右の旧一四六条の改正は、一九八六年の政府案の提出から廃案になること
    三度、一一度の継続審議という経過の上に、職務執行命令訴訟制度について
    は、政府案のいわゆる「裁判抜き代行制度」を一八〇度修正した、自民・社
    会・公明・民社党の四党による政府案に対する共同修正案が、成立した法律
    の内容となっているものである。
     この共同修正が行われる以前の政府原案は、旧一四六条の職務執行命令訴
    訟を廃止し、新たに、裁判によることなく国の代行を可能とする制度(これ
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    を俗に「裁判抜き代行制度」と呼んだ)を創設しようとするものであった。
     この「裁判抜き代行制度」の創設を狙った政府原案は、旧一四六条が「機
    関委任事務」の管理や執行が怠られたりする場合について、当該事務が国の
    事務であることを強調し、裁判所による司法的チェックを省略して、主務大
    臣が地方公共団体の長に代わって当該事務を執行する道を開こうとするもの
    で、「機関委任事務」について地方公共団体の長の裁量権を全く否定しよう
    とする意図に基づくものであった。
     この政府原案のもととなったものは、一九八五年七月の臨時行政改革推進
    審議会(第一次行革審)の「行政改革の推進方策に関する答申」であったが、
    この答申の当初から学会や各種地方公共団体の間で、「裁判抜き代行制度」
    を導入するべき必要性や動機、その背景等について多大な疑問と反対がとな
    えられ、行政改革に名を借りて機関委任事務の効率化のみをはかった地方自
    治制度への攻撃や司法チェックの忌避であると非難を受けたものであった。
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     それゆえにこの「裁判抜き代行制度」を中心とする政府提出の地方自治法
    改正案は、法案成立までに三度の廃案、一一度の継続審議という稀に見る法
    案成立まで難産の経過をたどり、その上に「裁判抜き代行制度」は全く修正
    され、現行の地方自治法一五一条の二の規定が誕生したのである。
     この旧一四六条改正の国会審議過程をみるだけでも、現行地方自治法一五
    一条の二が、政府の改正原案にみられた地方公共団体の長を(機関委任事務
    の執行については)、あたかも国の下部機関として位置づけた上で、機関委
    任事務の効率化を図り、司法的チェックを外そうとした行政権優位の思想を
    明確に否定した考えに立つものであることが明らかとなるのである。
  (三)次に、一九九一年改正前の旧一四六条に定める職務執行命令の手続と、現
    行地方自治法一五一条の二に定めるそれとを具体的に比較検討してみよう。
   (1)旧一四六条の規定にあって、現行地方自治法一五一条の二に規定されて
     いないものは、
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      (1) 内閣総理大臣による都道府県知事や市町村長の罷免の制度及びこれ
       に対する地方自治体の長の不服の訴の制度
      (2) 主務大臣による機関委任事務代行の前提となる(怠る)事実の確認
       の裁判の制度であり、
   (2)現行地方自治法一五二条の二の規定にあって、旧一四六条の規定にない
     ものは、
      (1) 職務執行勧告の制度
      (2) 職務執行勧告、命令、裁判の前提要件としての、他の是正措置の不
       存在、すなわち地方自治法一五一条の二、一項から八項までの勧告、
       命令、裁判、代行による以外の方法では(職務懈怠等の)是正が困難
       であること、(職務懈怠等を)放置することが「著しく」「公益を害
       する」ことが「明らかであるとき」という要件の存在
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      (3) 職務執行命令の高裁判決が最高裁によって覆され、主務大臣の請求
       が理由がない旨の判決が確定した場合の原状回復の制度
     である。
  (四)右にみたように、旧一四六条の職務執行命令訴訟に関する規定と、現行地
    方自治法一五一条の二のそれとを比較すると、現行地方自治法一五一条の二
    の規定のほうが旧一四六条の規定に比較して、「機関委任事務」の主務大臣
    による代行実現までに、より慎重な態度を採っていることが明らかである。
    すなわち、旧一四六条の規定では主務大臣は勧告なしで、直ちに地方自治体
    の長に命令することができたし、その命令を発するには、法令違背や職務懈
    怠があると(主務大臣が)認めればよく、他の是正措置の不存在や、「著し
    い」「公益の侵害」の「明白性」などの条件が付加されていなかった。また
    (裁判所の確認を条件とするとはいえ)、職務執行命令違反の首長の解任権
    を内閣総理大臣に与えることによって、命令に従わない首長を押さえ込むこ
    とができ、さらに、主務大臣の職務執行命令が誤っていた場合の原状回復も
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    規定上考えられていなかったからである。
  4 地方公共団体首長の大幅な裁量権、地方自治の尊重
  (一)現行地方自治法一五一条の二は、旧一四六条に比べて、たとえそれが 国
    の「機関委任事務」の処理や執行についてであっても、地方公共団体の長を
    単なる国の下部機関として上命下服の関係でみるのではなく、その事務が地
    方公共団体の長に「委任されている」以上、公選による首長が、その事務
    (もとより事務の内容や性質による)の執行にあたり、内容、その地方にお
    ける住民の意思や風土、歴史といったその地域の特殊性を考慮して、住民自
    治の精神に則り、その裁量権の中で、国の判断とは異なる判断をなし得るこ
    とを明確にしたものということができる。これを言い替えれば、機関委任は
    地域の様々な事情を考慮した上で、長の自治的な裁量判断が入り得ることを
    予定していると考えられるのである。
  (二)最高裁一九六〇年六月一七日判決が、旧一四六条の規定する職務執行命令
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    訴訟制度についてさえ、一審の東京地裁が「町長が国の委任事務を処理する
    関係においては、都知事は国の上級行政機関に、町長はその下級行政機関に
    当り、上命下服の関係に立つ。従って町長は知事の発した職務執行命令が違
    憲、違法であるかどうかの点につき実質的判断をすることは許されず、その
    命令が形式的要件を欠き、又は不能の事項を命じている場合等を除き、右命
    令に服従する義務がある」と判断したのを覆したこと、さらに「地方公共団
    体の長は、地方住民によって公選され、当該地方公共団体の執行機関として、
    本来、国の機関に対し自主独立の地位を有する新憲法下の地方自治制の下で
    は、国の委任事務処理の関係において、国の機関と地方公共団体の長との間
    に意見の相違があり、後者が国の指揮命令に服しない場合に、国の一方的認
    定によって、簡単に国が地方公共団体の長を罷免したりその事務を代執行し
    たりすることができるものとすることは、地方公共団体の長の本来の地位の
    自主独立性を害し、ひいては地方自治の本旨に悖る結果となる。そこで、国
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    の委任事務処理の関係における地方公共団体の長に対する国の指揮監督の実
    行性を確保する方法を容易するについても、地方公共団体の長の本来の地位
    の自主独立性を害さないようにする工夫が必要となるわけである。地方自治
    法一四六条は、かような見地から、地方公共団体の長の本来の自主独立性の
    尊重の要請と、国の指揮監督権の実効性の確保の要請とを調和する方法とし
    て、職務執行命令訴訟制度(いわゆるマンデマス)を採用し、国の上級行政
    機関と地方公共団体の長との意見対立がある場合に、国の指揮命令が適法で
    あるかどうかにつき裁判所の判断をわずらわし、裁判所がその指揮命令の適
    法性を是認する場合に初めて、国の代執行権および罷免権を発動し得るもの
    としたものと解されるわけである」(最高裁判所判例解説民事編昭和三五年
    度二二九頁)と理解される判決を下したことが留意されなければならない。
  (三)右にみたように、現行地方自治法一五一条の二の規定は、旧一四六条の規
    定に比べて、首長の罷免権を削除し、職務執行勧告の要件を格段に加重する
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    措置を講じているのである。
     従って、右の最高裁判決が強調している地方公共団体の長の本来的自主独
    立性は、右の最高裁判決の判断にも増して、地方自治法一五一条の二の解釈
    にあたって強調されなければならないのである。
  (四)さらにまた、この点は地方自治尊重の考え方が一層強調される最近の立法
    の趣旨に鑑みてもより妥当するものである。
     すなわち、一九九五年五月一五日地方分権推進法(法律九六〇号)が成立
    し、同年五月一九日公布されたが、同法は「中央集権的行政のあり方を問い
    直し、地方分権のより一層の推進を望む声は大きな流れとなっている」とし
    て、「国と地方との役割を見直し、国から地方への権限委譲、地方税財源の
    充実強化等地方公共団体の自主性、自律性の強化をはかり、二一世紀に向け
    た時代にふさわしい地方自治を確立することが現下の急務である。従って、
    地方分権を積極的に推進するための法制定をはじめ、抜本的な施策を総力を
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    集めて断行していくべきである」(一九九三年六月三日衆議院決議、同六月
    四日参議院決議)との国会決議等を受けて制定されたものである。同法の制
    定によって地方自治の本旨をふまえた地方公共団体の自主性、自立性は従前
    以上に保障されるべきものとされたのである。
  5 地方自治法一五一条の二の要件の欠缺
  (一)法令違反等の不存在
     原告がその根拠としている駐留軍用地特措法は違憲の法律であり、被告が
    公告・縦覧代行に応じないことは違憲な法律に根拠を有する「機関委任事務」
    に応じないものであり、法令違反にも適法な職務を怠ることにも該当しない。
     又駐留軍用地特措法を本件各土地に適用して使用認定することは違法であ
    り、被告が公告・縦覧代行を行わないことは、この違法な使用認定とそれに
    基づく手続に応じないものであって、法令違反にも職務懈怠にも該当しない。
     さらに、被告が米軍基地の存在により前述の違憲状態が生じているとして、
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    本件公告・縦覧代行を行わなかったことは、正当なものであり、法令違反に
    も職務懈怠にも該当しない。
     加えて、本件各土地についての土地・物件調書の作成手続、内容には瑕疵
    があり、違法なものであるから、知事が立会・署名を拒否したことは正当で
    あり、総理大臣の「代理署名」は無効である。従って裁決申請自体が違法と
    なり、被告には公告・縦覧代行をなすべき法律上の義務が生じないから、職
    務懈怠であるということはできない。
  (二)他の是正措置の存在
     被告は国に対して、本件の公告・縦覧代行を行わないことの回答に先だっ
    て、県民生活及び県政を圧迫している在沖米軍基地の実態とその問題点につ
    いて明らかにし、基地の整理・縮小について繰返し要請をしつづけてきた。
     ところが、国は日米安保条約、日米地位協定の締結当事者として、同協定
    二条二項の取極再検討、三項の施設区域の返還の規定があるにもかかわらず、
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    被告の要請に基づく在沖米軍基地の整理・縮小、返還等の努力を全く怠って
    きた。
     被告が公告・縦覧代行を行わないことは、もとより理由なき拒否や職務懈
    怠ではなく、基地の整理縮小の必要性等を十分検討したうえで、公告・縦覧
    代行を行わないことこそ公益に適うものであるとの判断に基づくものである。
     一方国は、被告のこれまでのたび重なる基地返還、整理縮小の要請や要求
    に対して、日米安保協議会等を通じて米軍と協議をし、被告の要請を実現す
    る等の方法や手段を尽くすことによって、被告による公告・縦覧代行の必要
    性をなくすことが十分に可能であった。しかるに、国は、これを怠ったまま
    公告・縦覧代行を求めてきたものであり、この点からして地方自治法一五一
    条の二第一項にいう、同条一項から八項までの措置以外の方法によって、そ
    の是正を図ることが困難であったなどとは到底言い得ない。
     又、法的手段としても、起業者たる防衛施設局長に代表される事業主体と
    しての国は、起業者として本件公告・縦覧代行を被告に求めたのであるから、
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    被告が公告・縦覧代行を行わないことが違法であるというのであれば、国は
    起業者の立場で被告に対し給付訴訟またはあるいは行政事件訴訟法四条の当
    事者訴訟を提起し裁判所の判断を求めるべきであった。この措置により、原
    告は「その是正を図る」ことができたものである。
     国は基地の返還、整理縮小を外交交渉によって実現しようとする努力を怠っ
    てきたばかりか、例えば一九九〇年六月一九日に日米合同委員会で合意され
    ながら返還されていない事案(いわゆる二三事案)などの解決実現において
    も、国の姿勢は決して積極的なものとは言えず、被告の要望にそって返還・
    縮小について真剣に努力したとは思われない。
 三 公益侵害の不存在
  1 職務執行命令訴訟は、法令違反や職務懈怠を放置することによって、「著し
    く」「公益」を害することが「明らかな」場合にのみ許容されるものであり、
    公益侵害のみならず、その顕著性及び明白性が必要である。
---------- 改ページ--------378
     地方自治法一五一条の二の「公益」とは何であるかについて、一般的に明
    確にする規定は同法上に存在しない。
     こでいう「公益」は、広く憲法、地方自治法等の精神を踏まえて判断され
    るべきであり、日米安保条約及び日米地位協定上の義務履行の必要性という
    国の立場からの利益いわゆる国益の絶対優先の論理を取り得ないことは右地
    方自治法の規定の解釈として当然であり、地方自治の本旨をふまえた地方自
    治体の立場からする公益をも含めて、総合的に判断すべきものである。
     又、地方自治法一五一条の二の規定が国の「機関委任事務」に関する規定
    であることから、同条にいう「公益」が国に固有の必要性あるいはわが国の
    全体的な政策的必要性のみをさすと理解することも誤りである。
     地方自治法一五一条の二の規定は、「機関委任事務」の適正な執行の確保
    の要請と普通地方公共団体の長の本来の地位の自主独立性の尊重との調和を
    図った規定であると理解される以上、同条にいう「公益」については、その
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    当該地方公共団体の地域性や特殊性、歴史、住民意思、地域から見ての当該
    「機関委任事務」の執行の必要性などが十分に検討されなければならないの
    である。
     また、右の公益性の判断にあたっては、公益の内容、性格とともに、公益
    の程度が問題とされるべきであり、これらの点の検討の結果、公益の存在が
    否定されたり、また公益侵害が仮に認められるとしても、その顕著性・明白
    性が否定されることがあり得るものといわなければならない。
     なお、地方自治法一五一条の二が単に「公益侵害」を要件とするのではな
    く、「著しく公益を害することが明らかである」としてより要件を厳格にし
    ていることについては、右要件は法律要件として「公益侵害」の程度を枠づ
    けるものであり、このことは行政代執行法二条が「著しく公益に反すると認
    められるとき」として、同条が「明らか」要件をおいていないことと対比し
    て理解されるべきである。
   2 原告が本訴において主張する公益は、日米安保条約及び日米地位協定に基
    づいて、合衆国軍隊に基地用地として本件各土地を提供するというものであ
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    り、いわゆる軍事的公益を指していることは明らかである。
     しかしながら、日米安保条約及び日米地位協定の合憲性の有無は仮に問わ
    ないとしても、わが国憲法秩序の下では、軍事的公益は、憲法前文、憲法九
    条に照らし、さらには軍事的公益を排している土地収用法(旧土地収用法の
    改正にあたって「国防・軍事のための収用」を削除)や森林法(軍による材
    木の強制供出等の制度を廃した法改正)などの諸立法に鑑み、到底取り得な
    いものであり、原告の主張する軍事的公益をもって、職務執行勧告、命令を
    なし得る公益と解することは許されない。
     被告が主張しているのは、軍事的公益はわが憲法秩序のもとに制定されて
    いる国内立法においては否定されていること、少なくとも財産権を強制収用・
    使用し得る公益性、公共性の概念から軍事的公益は排除されているという点
    である。
     また、仮に原告主張のように日米安保条約及び日米地位協定の義務の履行
    は公益に適合するとしても、義務の内容とされる軍事基地の提供という軍事
    公益としての性格は地方自治法法一五一条の二の「公益侵害」の有無の判断
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    にあたって、被告が本件公告・縦覧代行を拒否するにあたって考慮した「公
    益」の性格と比較検討すべきであって、日米安保条約及び日米地位協定が合
    憲であるが故に、軍事基地を提供するという公益は絶対的に優先するという
    論理は成り立たない。
     条約履行の義務は国の義務であり、地方公共団体の長である被告を当然に
    拘束するものでないことはもとより、国の条約上の義務履行を口実に他の自
    治体と比較してあまりに過重な負担を沖縄県にのみ強いてよいという理由は
    到底見出し難い。
     本件における「公益侵害」の有無については、条約上の義務の履行が一般
    的、抽象的に公益に適うか否かというレベルではなく、条約上の義務履行と
    してであれ、財産権を侵害する等の方法によって沖縄県に長期間にわたって
    過重な負担を強い続けることが「公益」の名において許容しうるのか、とい
    う点を含めて具体的、実態的に判断すべきである。
     とりわけ、本件でその適用が問題となる次のような土地収用法の改正経緯
    に照らせば、右の点は十分に考慮されなければならない。
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    (1) 旧土地収用法は、一九〇〇年に制定された。
      この土地収用法は、所有権の不可侵性を定め、さらに「公益ノ為必要ナ
     ル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル」と規定した旧憲法二七条にもとづいて制
     定されたものであり、その一条には、「公共ノ利益ト為ルヘキ事業ノ為之
     ニ要スル土地ヲ収用又ハ使用スルノ必要アルトキハ其ノ土地ハ本法ノ規定
     ニ依リ之ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得、本法ニ於テ使用ト称スルハ権利ノ
     制限ヲ包含ス」と定められ、二条には、「土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ
     得ル事業ハ左ノ各号ノ一ニ該当スルコトヲ要ス」とあり、五号にわたって
     次の事業が列挙されていた。
      一 国防其ノ他軍事ニ関スル事業
      二 皇室陵墓ノ営建又ハ神社若ハ官公署ノ建設ニ関スル事業
      三 社会事業又ハ教育若ハ学芸ニ関スル事業
      四 鉄道、軌道、索道、専用自動車道、道路、橋梁、河川、堤防、砂防、
       運河、用悪水路、溜池、船渠、港湾、埠頭、水道、下水、国立公園、
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       市場、電気装置、ガス装置又ハ火葬場ニ関スル事業
      五 衛生、測候、航路標識、防風、防火、水害予防其ノ他公用ノ目的ヲ
       以テ施設スル事業
     この二条に示された事業の配列の仕方は、この法律が期待した事業の価値
     の序列を示したものと考えられ、軍事優先、民生軽視、官尊民卑の思想を
     示すものであり、明治憲法の価値観をそのまま示すものであった。
    (2) 現行土地収用法は一九五一年、第十国会で制定されたが、その提案理由
     について、衆議院建設委員会において、建設省渋江管理局長は、次のよう
     な説明を加えている(第十回国会衆議院建設委員会議録第二十五号二〇
     頁)。
      渋江政府委員「・・・・若干それに敷衍いたしまして、立案に関与しま
     した建設省といたしまして、今の提案理由の各項目を順を追いまして、新
     旧法と対照しつつご説明申し上げます。第一点は、事業の種類を整備した
     点でございます。公益事業の主体は、御承知の通りただいま公益事業によっ
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     て土地が収用される、すなわち事業の内容が公共性をもつということが一
     方の要素でございますが、これにつきましては、現在の収用法はきわめて
     抽象的な規定をいたしておるのでございますが、それに比較いたしまして、
     今回の改正法におきましては、条文でご覧願いますと、おわかりでござい
     ますが、改正法の第三条になっております。第三条の一号から第三三号に
     わたりまして、各事業の種別に応じまして、それぞれ根拠法規を明示して
     ございます。それと同時に根拠法規に基づきます公共事業の内容が何であ
     るかということを、できるだけ巨細に明記する建前をとっております。こ
     れが今回の改正法の特色でございます」。
      旧法には五号しかなかったものが、新法では三三号へと公共事業が細分
     化され、さらに、その事業の根拠法規が明示されたという事実は、憲法三
     一条の適正手続の保障という人権保障のための憲法的要請から出たもので
     あり、その形式的変化は、きわめて重要である。
      そして、もっとも重要なことは、旧法にあった、「国防其ノ他軍事ニ関
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     スル事業」などが、憲法違反の事業であるがゆえ、廃止または削除すると
     いう提案理由が明示されて、新法から削除されたことである。この点につ
     いて渋江委員は、次のようにいう。「なお、実質的に事業の種類につきま
     して若干申し上げますと、従来の規定におきましては、国防、其の他軍事
     に関する事業、それに皇室陵の建造ないし神社の建設に関する事業が、公
     益事業の一つとして上っておりますが、新憲法の下におきましては、当然
     不適当であると考えられますので、これは廃止することにいたしておりま
     す」。
      なお、参議院・建設委員会でも、同様の提案理由が示されたが、そこで
     は、「国防其ノ他軍事ニ関スル事業」について、「こういったような新憲
     法下におきましては非常に妥当を欠いております公益事業が掲げてある次
     第でございますので、これらを廃止・削除することにいたしたのでござい
     ます」。と、さらに明確にされているのである(第十回国会参議院建設委
     員会会議録第十七号)。
    (3) また、国防公益といえども他の公益と軽重がないことは、横田基地第一、
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     二次訴訟に関する東京高裁判決(一九八七年一〇月五日・判例時報一二四
     五号)が明言している。この訴訟において、国側は、安保条約遵守や防衛
     公益を主張したが、裁判所はこれを退け、公益があるとしても公害被害と
     比較衡量するという立場を採り、最高裁判決(一九九三年七月一一日)も
     これを支持した。
    (4) 日米安保条約六条は、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国
     際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、
     空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」
     と規定し、条約上日本国がアメリカ合衆国に対し使用する施設及び区域を
     提供するものと定めてはいるが、アメリカ合衆国が要求する施設及び区域
     を日本国がアメリカ合衆国に対し必ず提供しなければならないという条約
     上の義務は存しない。
      国は、アメリカ合衆国に提供する土地の使用権原を取得できない場合に
     は、条約上、当該土地を提供する義務を負わないものである。それ故、特
     定の具体的な土地について基地として提供できなくなるからといって、そ
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     のことから公益侵害が顕著であり、明白であるとはいえない。
  3 沖縄県知事たる被告は、地方公共団体の長として、憲法上地域住民の平和的
   生存権を保障し、生命、人権、財産権を守り、福祉(地域振興)を増進させる
   責務を負っている。
    被告は、地方自治の本旨を踏まえ、右責務を負っている地方公共団体の長と
   しての職責を深く自覚した上で、諸事情に鑑みて、本件公告・縦覧代行に応じ
   ないことがむしろ沖縄県や県民の利益を擁護し、それを増大させることになる
   と判断したのである。
    まさに、沖縄における米軍基地は諸悪の根源となっており、その存在は「公
   益侵害」の最たるもので、その象徴である、といわざるを得ないのである。
    そして、前項までに述べた「公益」の解釈、軍事公共性のとらえ方とあわせ
   考慮すると、被告が本件公告・縦覧代行に応じないことは、著しく公益に害す
   ることが明らかである」ことに該当しないことは明白である。むしろ、より積
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   極的に、本件公告・縦覧代行に応じないことこそ「公益」に合致し、それを実
   現させるものである。
    「公益」について、「当該国の事務の管理執行を都道府県知事に委任してい
   る当該法令が右事務の管理執行により、保護実現しようとしている公的な利益」
   と狭く解する特異な見解がある。本件公告・縦覧代行の拒否が、結局は「条約
   上の義務を履行する可能性を完全に奪う」ことになるとして、知事の本件公告・
   縦覧代行拒否をもって直ちに「公益侵害」要件を充たすとするわけである。
    本件公告・縦覧代行拒否が、その後における駐留軍用地特措法の手続に支障
   をもたらすことは当然である。もし、右のように「公益」を狭く理解するなら
   ば、「公益侵害」要件は実質上無意味となり、機関委任事務の執行における知
   事の義務違反は全て職務執行命令の対象となる。これでは、代行の趣旨を限定
   するために設けられた「公益侵害」要件の存在意義は完全に失われることは自
   明の理である。
    また、「公益侵害」要件の該当性についての司法審査自体もその必要がなく
   なる。
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   「公益侵害」要件は、「当該事務の管理執行により、保護、実現しようとする
   利益」が実現できないことそれ自体を指すものではなく、そのことによって客
   観的かつ現実に公益に対する著しい障害が生じていることを指すものと解すべ
   きである。このように解してこそ、「公益侵害」要件は、要件としての独自の
   意義が承認されるのである。
    裁判所としては、「公益侵害」要件を充たすか否かにかかわって、被告の公
   告・縦覧代行拒否の結果、どのような公益侵害が生じたか、それが著しくかつ
   明らかであるかについて、本件で対象となっている駐留軍用地との関係におい
   て、個別的・具体的に審理・判断すべきである。
    「公益」概念は、地方自治体及びその住民の利益さらには住民の基本的人権
   の保障をもってその内容とし、ひろく国民の公共利益の実現という立場からと
   らえられるべきであり、そのうえで「公益侵害」要件の該当性の有無を原告の
   主張する「公益」と米軍基地がもたらしている被告の実態とを比較較量して判
   断すべきである。
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    「公益」をこのようにとらえるならば、米軍基地の重圧に苦しむ「沖縄の痛
   み」を軽減することこそ、国民的合意として形成されつつある「公益」の重要
   な内容であるというべきである。
    被告の主張するこうした比較較量論は、一般条項あるいは不確定概念の解釈
   適用にあたって、実質的ないし具体的妥当性あるいは具体的公平性といった法
   の理念を具体的事案において実現するためにとられる解釈手法のひとつである。
    「公益」とは、すなわち統治主体たる国の利益としての「国益」のみを指す
   ものであると解するならば、比較較量は必要ないとする考え方もあり得よう。
   しかし、「地方自治の本旨」に基づいて、「地方公共団体における民主的にし
   て能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障する
   こと」を目的(地方自治法一条)とする地方自治法の「公益」概念が、いわゆ
   る「国益」のみを意味するものとは到底考えられない。
    もしも本件において比較較量論をとらないとすれば、それは「公益」を「国
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   益」にすりかえた国益絶対優越論を唱えるものにほかならないのであり、日米
   安保条約の故に沖縄県民の人権や利益は犠牲にされても当然であるということ
   を意味するものとなる。
    また、「公益」概念をひろく前述のようにとらえるならば、この場合の比較
   較量が「国益」と地方自治体及びその住民の利益のどちらかが優越的価値を有
   するかという表面的な較量(フェィシャル・バランシング)であってはならな
   いことも当然である。
    「公益侵害」要件の適用に際して求められる比較較量は、あくまでも沖縄の
   米軍基地が生み出している諸事実を踏まえて具体的になされるべきである。長
   期にわたる基地被害、基地被害の深刻さ、このことによる基本的人権の侵害等々
   についての具体的検討がどうしても必要である。法が、「公益侵害」のみなら
   ず、侵害の顕著性、明白性を必要としていることからもこのことは当然である。
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