警察官職務執行法



                (昭和二三年七月一二日・法律第一三六号)
                 施行、昭二三・七・一二
                 改正、昭二九―法一六三


 第一条(この法律の目的)
          この法律は、警察官が警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)に規定する
        個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の
        執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的と
	    する。
    二  この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用
        いるべきものであって、いやしくもその濫用にわたるようなことがあってはな
        らない。
        
  第二条(質問)
    	 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪
        を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既
        に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていること 	につい
        て知っていると認められる者を停止させて質問することができる。
     二  その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害
        になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、
        派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
     三  前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄
        を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、
        若しくは答弁を強要されることはない。
     四  警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その
        身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

 第三条(保護)
    	 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して左の各号の一
    	に該当することが明らかであり、且つ、応急の救護を要すると信ずるに足りる
    	相当な理由のある者を発見したときは、とりあえず警察署、病院、精神病者収
    	容施設、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
         一  精神錯乱又はでい酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害
            を及ぼす虞のある者
         二  迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要する
            と認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)
     二  前項の措置をとつた場合においては、警察官は、できるだけすみやかに、そ
        の者の家族、知人その他の関係者にこれを通知し、その者の引取方について必
        要な手配をしなければならない。責任ある家族、知人等が見つからないときは、
        すみやかにその事件を適当な公衆保健若しくは公共福祉のための機関又はこの
        種の者の処置について法令により責任を負う他の公の機関に、その事件を引き
        継がなければならない。
     三  第一項の規定による警察の保護は、二十四時間をこえてはならない。但し、
        引き続き保護することを承認する簡易裁判所(当該保護をした警察官の属する
        警察署所在地を管轄する簡易裁判所をいう。以下同じ。)の裁判官の許可状の
        ある場合は、この限りでない。
     四  前項但書の許可状は、警察官の請求に基き、裁判官において已むを得ない事
        情があると認めた場合に限り、これを発するものとし、その延長に係る期間は、
        通じて五日をこえてはならない。この許可状には已むを得ないと認められる事
        情を明記しなければならない。
     五  警察官は、第一項の規定により警察で保護をした者の氏名、住所、保護の理
        由、保護及び引渡の時日並びに引渡先を毎週簡易裁判所に通知しなければなら
        ない。

 第四条(避難等の措置)
    	 警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を
    	及ぼす虞のある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、
    	奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に
    	居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に
    	急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を
    	避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその
    	場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通
    	常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることがで
    	きる。
     二  前項の規定により警察官がとつた処置については、順序を経て所属の公安委
        員会にこれを報告しなければならない。この場合において、公安委員会は他の
        公の機関に対し、その後の処置について必要と認める協力を求めるため適当な
        措置をとらなければならない。

 第五条(犯罪の予防及び制止)
          警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のた
        め関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体
        に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があって、急を要する場合に
        おいては、その行為を制止することができる。

 第六条(立入)
         警察官は、前二条に規定する危険な事態が発生し、人の生命、身体又は財産
        に対し危害が切迫した場合において、その危害を予防し、損害の拡大を防ぎ、
        又は被害者を救助するため、已むを得ないと認めるときは、合理的に必要と判
        断される限度において他人の土地、建物又は船車の中に立ち入ることができる。
      二  興行場、旅館、料理屋、駅その他多数の客の来集する場所の管理者又はこれ
        に準ずる者は、その公開時間中において、警察官が犯罪の予防又は人の生命、
        身体若しくは財産に対する危害予防のため、その場所に立ち入ることを要求し
        た場合においては、正当の理由なくして、これを拒むことができない。
     三  警察官は、前二項の規定による立入に際しては、みだりに関係者の正当な業
        務を妨害してはならない。
     四  警察官は、第一項又は第二項の規定による立入に際して、その場所の管理者
        又はこれに準ずる者から要求された場合には、その理由を告げ、且つ、その身
        分を示す証票を呈示しなければならない。

 第七条(武器の使用)
          警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護
        又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある
        場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武
        器を使用することができる。但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十
        六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左
        の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
         一  死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な
            罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者が
            その者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しよう
            とするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、
            これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずる
            に足りる相当な理由のある場合。
         二  逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本
           人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しよ
           うとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、
           これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに
           足りる相当な理由のある場合。

 第八条(他の法令による職権職務)
          警察官は、この法律の規定によるの外、刑事訴訟その他に関する法令及び警
        察の規則による職権職務を遂行すべきものとする。

 附  則
	     この法律は、公布の日から、これを施行する。

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