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会報「JWの夫たち」バックナンバー


NO.6(98.1発行)
■巻頭エッセイ「終りの日?そして宗教」/鈴木一郎

 1914年を見た世代が過ぎ去る前にこの世の終りが来る---2年前までJWの公式見解だったこの<預言>があながち悪い冗談とも言いきれないほど、この国の1997年は禍々しいできごとが続け様に起こった。戦後の犯罪史に残るであろう事件が出来し、年後半に集中した大企業の破綻は人々のこころを何ともいえず暗くした。地球温暖化等の環境問題も、次第にその深刻さを鮮明にしつつある。

 このような状況はJWの教義と、それに基づく布教活動にとってはフォローウインドに見えるが実情は必ずしもそうとも言えないようだ。1997年度の「ものみの塔世界統計」によれば、日本における伝道者数の伸率は3.65%となり、過去10年間の最低となった。これは、7.8%を記録したピークの92年と比べると1/2以下にまで低下している。世界的にみても伝道者の伸びは3.60%にとどまり、やはり過去10年の最低となった。

 これがJW拡大の勢いの退潮を示すものとみる見方もあろうが、視点を変えればこの3%台という数字、日本の金利やGDP成長率と比べたら格段に高い。もともと500万という母数を持つ集団の成長率としてはかなりのものということができるし、仮にこの成長率が今後も続くとすると、ちょうど20年後に信者の数は現在の2倍になるという、有難いとはいえないシミュレーションが成立する。ものみの塔を含む、カルト性のあるいわゆる「新宗教」には、まだまだその種の潜在的な爆発力があるような気がしてならない。

 来世紀に向けて世界が直面する課題は何かなどと大上段に構えてみるならば、その基本は下部構造に<人口><環境>問題があり、上部構造にはまず<経済>の問題がくる。そして<宗教>の問題も、人間の生き方にかかわる問題として、また経済や政治の問題に抜き難い影響をもつ要素として強く意識されるようになると、私は考えている。

 気鋭の宗教学者・井上順孝氏が言うように、宗教というものが「そのときどきの世界認識、社会状況、政治的・経済的条件のもとで、宗教についての見方を<作り上げ>、ときに新しい係りを<創造>していく」要素をもつものであることを思うと、明るいとは言えないであろう将来へ向けての情勢のなかで、JWを含むカルト宗教が今後も成長していく可能性はけっして低くないと言わねばなるまい。

 はからずも近しい者をカルトに捕えられた身としては、その個人的な問題の解決をはかることはもちろんだが、カルトそのものを警戒、告発する動きにも常に目配りをしていきたいものである。


No.6(98.1発行)

■ものみの塔聖書冊子協会と宗教法人法(D.ステファン)


「ものみの塔」とはどんな団体か

 エホバの証人(以下JW)の配偶者をもっている方にとって、JWの組織がどのような団体であるかは関心があると思う。JWの宗教的考察はかなりされているが、「ものみの塔聖書冊子協会」(以下「ものみの塔協会」)の法的な位置づけについてはあまり語られていないので、この機会に検討してみたい。

 ものみの塔協会は、一見一致を強調し画一的な組織形態をしているように見えるが、実際は世界の各地でその地域にあわせて活動しているため、各地域によって組織のあり方が異なる。例えばわが国ではものみの塔協会がすべての活動をしているが、アメリカ合衆国では印刷部門が‘Watchtower Inc.’という会社組織の形態を採っているらしい。協会の名称も世界で統一されているわけではない。たとえば南アフリカ共和国では「南アフリカのエホバの証人協会」という名称である。そこで以下は日本国内のものみの塔協会を対象として検討していきたい。


法人・宗教法人・宗教法人法

 わが国のものみの塔協会は1953年に宗教法人法によって認証された宗教法人である。従ってこの法律による規制や監督を受ける。では、この「法人」とはそも何であるかという点からまず考えたい。法人とは「自然人以外のもので法律上、権利義務の主体たりうるもの」と定義される。簡単に言えば、人でないものを法的に人と同じに扱うための法技術である。法人格を取得するメリットは、契約・訴訟が簡単になる(法人でないと、構成員の名前を契約書や訴状に記入しなければならない)、不動産を団体の名前で登記できるようになる、構成員の財産と団体の財産を完全に分けることができるようになる、などである。宗教団体に法人格を付与するための法律が「宗教法人法」である。この法において宗教そのものについての定義規定は存在しない。宗教を定義すると、どんな定義を定めたとしてもそこから溢れる宗教があり、その宗教が信教の自由を享受できない可能性が出てくるためである。宗教団体については宗教法人法2条で「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成する事を主たる目的とする」団体と定義される。宗教団体が法人となったものが「宗教法人」である(4条) 。これは公益法人(営利ではなく公益を目的とする法人)である。宗教法人格を取得するメリットは、固定資産税等の税金が免税あるいは軽減されること、個人の財産と法人の財産を分離することができることである。 (これがないと、JWでは王国会館が長老の名前で登記されるため、万一彼が破産すると、王国会館が彼の財産と見なされて差し押さえられることである。)

 宗教法人法は1951年に制定された。この法律は戦前の宗教団体に対する弾圧の反省から、宗教団体の自治を自由を大幅に認める内容となっている。1995年の地下鉄サリン事件等のオウム真理教事件を契機として宗教法人法改正を求める世論が高まり、同年12月に大幅な改正がされた。

以下、改正宗教法人法の主な内容である「認証」「法人の種類」「解散」「情報公開」を簡単に解説したい。

宗教法人法の認証 (12条) は、宗教団体性と規則・手続きが法令に適しているかどうかを審査して確認する行為で、これは受理から3か月以内にしなければならない。この審査は形式面のみを審査し、教義の内容や信仰のあり方に立ち入ることはできない。

認証所轄庁(5条) は他の都道府県に被包括法人を持つ包括法人以外は知事であったが、この度の改正により、複数の都道府県にまたがって活動する (具体的には建物が複数の都道府県にある) 法人は文部大臣の所轄とされた。

宗教法人法による宗教法人の種類には、「包括宗教法人」と「単立宗教法人」がある。これは、たとえば日本基督教団 (我が国最大のプロテスタント教会) なら 、東京都に住所を持つ「日本基督教団」が包括宗教法人で、近所の教会が包括宗教法人に包括される「被包括宗教法人」という関係である。どこの法人にも包括されない法人を「単立法人」と呼ぶ。

宗教法人の「解散」 (81条) は、任意解散 (宗教法人の意思で解散)と法定解散 (宗教法人法に定められた事由による解散) がある。これは「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」と厳格に定められており、休眠法人ではない、実際に活動している法人では、過去にはサリンを撒いたオウム真理教ぐらいしかこの規定で解散させられていない。

 最後の「情報公開」が改正の最大のポイントである。宗教法人法は規則、認証書、役員名簿、財産目録、境内建物に関する書類、責任役員その他規則で定める機関の議事に関する種類及び事務処理簿、公益事業その他事業に関する書類を作成し、法人事務所に備えつけることを求めている。そのうち、役員名簿、財産目録(貸借対照表)、境内建物に関する書類、公益事業その他の事業に関する書類は毎年所轄庁に写しを提出させるようになった(25条 4項)。そして、これらの書類は、信者その他利害関係人は、正当な利益がある場合には閲覧の請求ができるように改正された(25条 3項)。しかしこの規定には罰則規定がない(宗教法人法の罰則規定は88条に定められているが、25条 3項の罰則は存在しない)ので実効性に乏しく、裁判を起こす覚悟でないと、実際に閲覧するのは難しいと考えられる。


宗教年鑑からみた「ものみの塔協会」

 文化庁発行の「平成八年度宗教年鑑」から、ものみの塔関連の情報を検索すると、4法人記載されていた。宗教法人年鑑は18万法人以上あるとされる我が国の宗教法人全てを掲載していないので、ものみの塔関連法人が4法人しかないという意味ではない。神奈川県の海老名ベテル(日本支部)の記載もなければ、筆者が現役の証人時代に所属していた小樽南会衆(王国会館を建設する際に法人化した)や筆者が所属していた時代に建設された北海道大会ホールの記載もない。

 ものみの塔関連の法人が全て単立法人とされているのは注目に値する。実際は日本の全ての会衆はものみの塔協会に包括されているのに、法的には全て単立法人として登記している。JWは国家権力による介入を極度に嫌うため、国家に組織形態を把握されるのを避けるために単立法人として登記しているのかもしれない。

 ものみの塔協会は前述のように1953年に認証された宗教法人である(正確には同年10月27日)。その際の所轄庁は東京都であったが、法改正により現在の所轄は文部大臣である。代表役員の織田正太郎氏は内部において「日本支部委員の一人」としてしか知られていない。彼は日本支部代表で、かつアジア地区の印刷部門の監督であるらしいが、筆者は詳しいことは知らない。

 関西大会ホールや東京と福岡の会衆が文部大臣所轄になっていることについて、筆者は疑問を感じる。当事者が文部大臣所轄を希望したのかもしれないし、問題のある蓋然性が高い宗教法人は積極的に国が監督するように方針転換したのかもしれない (ちなみに警察庁はいわゆる“カルト宗教”対策に乗りはじめたことは、筆者も確認済みである)。文部省通達や訓令を参照すべきだが、資料の不備のためできなかった。この点については引き続き検討していきたい。

 また同年鑑には教師数、信者数がそれぞれ4,935人、104,089人と記載されている。この信者数、約10万人というのは、川崎市で輸血拒否事件があった12年前の人数で、現在は約22万人である。また、現在は日本支部の主要な機能はほとんど神奈川県海老名市に移転されているが、ものみの塔協会の住所は東京都のままである。そのため、この記載は実態を反映していないことになる。

 ものみの塔協会の財務等の重要な情報は残念ながら宗教年鑑から窺い知ることができない。現在の時点では外部の人間が財務を把握することは不可能である。しかし、宗教法人法の改正によってものみの塔協会には役員名簿、財産目録、境内建物に関する書類等は文化庁に報告しなければならなくなった。そして、今は国レベルの情報公開法が制定され、国家が把握する情報を国民が入手できそうになっている。それゆえ情報公開法が成立したのちに文化庁に請求すれば、個人のプライバシーに触れない範囲でものみの塔関連の情報をより詳しく入手できるようになるであろう。


おわりに

 平成九年度の宗教年鑑には改正後初の数字が記載される。社会的な情報公開(ディスクロージャー) や説明責任(アカンタビリティ)の高まりによって、ものみの塔協会 を含む各宗教法人のデータががどの様に変化するかが注目され る。これを契機にものみの塔協会が自らの社会的責任を自覚して正 しいデータを報告し、社会性のある法人となれるか、それとも一般社会 をサタン(悪魔)の配下と解釈して敵と見なし、一切の責任を 放棄する旧態依然のままとなるか、の分岐点になるかもしれな い。いずれにしても、筆者は元JWの一人として、自分がかつ て所属していた団体がどのように変化していくか監視し続けて いきたい。



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