教科諸問題>右派勢力の議会攻勢の分析 井上澄夫

新しい中学社会科教科書から「従軍慰安婦」の記述などの削除を求める右派勢力の地
方議会攻勢についての中間的分析

   各位                      1997.1.31 井上澄夫

取り急ぎ連絡します。
 昨年末まで右派の陳情が採択されたのは、97.1.7づけ『産経』によれば、岡山県議
会(趣旨採択)および9市町村議会です。その9議会について、私は4議会の政府宛意
見書を入手しました。(新潟県栃尾市、京都市加茂町、岡山県大原町・瀬戸町)。他
の5議会については、各方面に協力を要請しています。(未入手、青森県黒石市・金
木町・柏村、山形県南陽市、岡山県北房町)。さらに、右派から提出された陳情書に
ついては、岡山県議会、新潟県議会(96年12月議会で継続審議)、新潟市議会(96年
12月議会で継続審議)、富山県高岡市議会(96年12月議会で継続審議)のものを入手
しました。それらに基づいて分析を試みると、以下のようになります。

1. 新潟県・市議会宛のもの(陳情者・県=「新潟県高等学校教育正常化推進会議、
市=「新潟子弟教育正常化推進会議)は、ほぼ同文で、(おそらく戦術として)教科
書のの記述そのものには深入りせず、力点を「学校教育法」第38条および文部省の「
教育図書検定基準」に反するということに置き、検定基準の項目中、1、2、3、4を詳
述して、文部大臣が「教科書図書検定規則」第13条の規定に基づいて教科書発行者に
記事の訂正の申請をするよう勧告することを要求している。
 上記3文書は、いくらかの違いを含んでいるが、論理の構成と文言がほとんど同じ
であり、同一文書からの引き写しであると推測できる。分析者は「日本を守る国民会
議」の全国縦断キャラバン(96.9.20から一ヶ月)にかかわる文書を入手していない
が、同会議が全国の系列団体に陳情書のひな型を配付し、上記3文書はそれに基づい
たものではないかと推測している。
 (94年春から95年夏にかけて展開された同会議と「英霊にこたえる会」の全国キャ
ラバンでは、「戦没者追悼感謝決議」推進のためらひな型(「戦没者に追悼と感謝の
意を表明し、恒久平和の建設を誓う決議」〔文案〕)が配付され、それを下敷きにし
た陳情書が地方議会に提出されたことを想起すると、先述の推定は当たっているかも
しれない)

2. 岡山県議会に提出された陳情書と同県大原町・瀬戸町議会が採択した政府宛意見
書は、1のものとは異なる。3文書はまったく同じではないが、力点は教科書の記述や
用語に対する「批判」を根拠に、記述の削除を要求している。これら3文書の下敷き
は、明らかに昨年10月の『諸君!』に掲載された藤岡信勝東大教育学部教授〔自由主
義史観研究会代表〕のアジ文書「『従軍慰安婦』を中学生に教えるな!」である。岡
山県議会宛陳情書には藤岡のものとまったく同じ文言がある。

3. 京都府加茂町議会りの意見書は、2と同様削除を要求しているが、表現は恐ろし
く粗雑である。これ、昨年12月20日〔岡山県議会が右派の陳情を趣旨採択した翌日〕
8対7の僅差で採択されたが、同議会共産党町議の話によれば、自民党町議が前日の「
岡山から思いつき」提出した。内容は「先人の築かれた過去の歴史を悪と決めつけ、
国民の誇りを傷付けようとする特定の『反日的』グループが日本の歴史教科書にいわ
ゆる従軍慰安婦の虚構の記述は、文部省の教科書検定基準にも反するものである」(
文章になっていないが、原文のママ=引用者)「元慰安婦の記述の削除を強く求める
」というものである。

右派勢力の教科書攻撃は、新しい中学教科書の検定結果が公表された96年6月末頃か
ら激しくなり、本格的な展開は同年9月からですが、上の1と2に見られる右派の要求
の差異は、問題とされた記述の「訂正」では生温い、「削除」すべきとする、運動の
激化・過熱ぶりを示すのかもしれません。しかし、これから始まる各地の2(〜3)月
議会にどのような陳情がなされるかについては、即断しないほうがいいと思います。
右派の地方議会対策は保守色の強い議会から着手し、これを受ける自民党議員は議会
の会派構成や自民党議員団の体質に応じて対応するのが常ですが、現在すでに水面下
で進められているであろう動きは予断を許しません。

 日韓・日中間にいわゆる「領土問題」があり、教科書記述の「訂正」や削除が国際
問題に発展するのを恐れている日本政府は、今のところ右派勢力の要求に応じる姿勢
を見せていないため、右派勢力には一見焦りが昂じているように見えます。しかし、
右派の動きは、この国の政治状況全体の右傾化(教育現場との関連では日教組の「軟
化」=政府との妥協姿勢)につけこむ、長期戦略に立っていると見るべきで、今回の
教科書攻撃はその手始めにすぎないことを考えると、事態を甘くとらえるべきではな
いと思います。
 沖縄の基地機能は固定・強化され、「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」の見
直しもすでに進行しています。そしてこの「見直し」は「朝鮮半島有事」への対応を
核としています。そのような日本国家の戦争計画を円滑ならしめるための世論形成を
右派勢力が図っていると見ることも必要ではないかと私は思います。「記憶の暗殺者
」たちのこの動きは、ナチの焚書と同質のものであり、チマ・チョゴリ襲撃を喜ぶ《
草の根保守》がその基盤となっている現実を忘れるべきではないと思います。
 私は資料の収集を含め調査を続けます。前出の資料はいつでも提供します。各地で
奮闘されているみなさんの資料提供も、どうかよろしくお願いします。ともにがんば
りましょう。

井上澄夫