前田憲二監督作品 映像ハヌル
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 225分の上映時間でさえ短く感じられるような、圧倒される映画だった。「身世打鈴(シンセタリョン)」とは身の上話という意味だそうだ。前田賢二監督らを中心に1994年から126名の証言を取材し、1999年11月証言集「百萬人の身世打鈴」(東方出版 5800円)が出版された。これと並行して1997年クランクイン2000年8月に完成したのがこの映画である。50名近く、日本・韓国から中国僻地まで取材し、制作費も日本・韓国からのカンパによる。

 映画の中で証言するのは17名、ひとりひとりの言葉が、人生が迫ってくる。太平洋戦争中動員された鮮人青年数は約70万人(「朝鮮日報」1948年)、満州国建国の1932年から敗戦までに軍隊の性的奴隷とされた女性は20万人以上(1998年国連人権小委員会マクドーガル報告)という。当時の朝鮮の人口は3000万人、百萬人の身の上話は、おじいさんやおばさんのそれなのだ。

 映画は、プロローグ「植民地下の朝鮮と、3・1戒厳令」で当時の概略を紹介し、第1章「太平洋戦争光州遺族会」、第2章「生と死の狭間で・・・」、第3章「元・従軍慰安婦たち」、第4章「天皇と松代」、第5章「原爆被爆者たち」と続く。ダムや炭鉱や戦場で強制的に働かされ、従軍慰安婦とされ、人間として扱われず、果てには被爆までさせられた人々。日本人からの証言もまじえ17人がそれぞれに、重くあるいは「明るく」語る身の上話は、60年前日本が何を行ったかをはっきりと示している。
 元慰安婦のソ・シンドさんは言う。「男たちはやってから前線に行く。思えば兵隊もかわいそうなもんだ。」戦争の現実がある。ここで語っている人々はもちろん日本人の兵隊も、人間としては認められていない。いったい何のために戦ったのだろうか。総檜つくりの松代の御座所が映される。証言者の中には、この後なくなった方もいる。強制労働させられた現場の姿も変わっていく。 戦後55年。ぎりぎりで間に合った映像だろう。

       


 私は横浜市教育文化ホールの上映会に出かけたのだが、関内の駅を降りると装甲車が並んでいた。こんな光景のなかで上映される現実が哀しい。ナチのホロコーストを扱った「ショアー」は、ドイツでもTV放映されたしNHKのBSでも放映された。この映画もぜひ多くの人に観てもらいたい。
 
 靖国公式参拝を公言し、憲法9条改悪を主張する首相がメーデーで拍手喝采を受ける。歪められた社会科教科書が合格し、多数の自治体議会で採用を求める決議が採択される。こんな今だからこそ、ひとつでも多くの上映会を開いてもらいたい。
百萬人の身世打鈴
─朝鮮人強制連行・強制労働の恨─