本の紹介

「イスラエル兵役拒否者からの手紙」

ベレツ・キドロン編著 田中好子訳

 イスラエルの予備役軍人52名が占領地での兵役拒否宣言を行ったのは、2002年1月のことだった。このときはじめてイスラエルにもパレスチナ占領に反対する人たちがいることを知った。

 
 実際は67年の第3次中東戦争以降、選択的軍務拒否の行動は行われていた。82年レバノン侵攻では、団体「イエシュ・グブウル(限界がある、やりすぎだ)」が誕生した。レバノンでの軍務拒否では168名が投獄されたという。第1次インティファーダで盛り上がったこの運動は、第2次インティファーダへの激しい弾圧のなか多くの良心を呼び起こし宣言発表に結びついた。この宣言は600名近くの賛同者を集め、02年秋には軍務拒否者は1,000名を越した。イスラエルの人口は600万、日本の20分の1である。日本で20,000名の軍務拒否者が出た場合など想像できるだろうか。

 
 イスラエルは数少ない徴兵制の国家である。18才から男性3年女性1年9ヶ月現役兵となったあと、さらに男性は45歳まで毎年3週間予備役として兵役につく義務がある。軍務拒否は法律違反であり、逮捕・投獄される。その期間は3.4週と短いが、これによる不利益は計り知れない。就職が非常に制限される、奨学金もでない、ローンも組めない、何よりも世間から白眼視される。親戚づきあいはむろん家族から離縁されることもある。イスラエル建国の経緯からして、軍務に着くことは栄誉でありこれを拒否するなどとんでもないことなのだ。軍務拒否者も、すべての軍務を拒否するのではなくあくまで占領地域でのパレスチナ人・アラブ人へのあまりの理不尽さに対しての良心の声としてのものが多い。


 「壁」の建設や「日常的な」空爆・家屋の破壊、ヤシン師暗殺などやりたい放題のイスラエル軍の行動は、一方でこのような良心を揺り動かしている。


 本書には今回の宣言に署名した予備役軍人(第1章)、高校生や現役軍人(第2章)、より以前に拒否した人々(第3・4章)それぞれの世代からの手紙が収められている。約40通の手紙はそれぞれに重い。予備役軍人のそれは特に社会的な地位・家族との関係など苦悩がにじみ出る。それゆえにこそこれらを乗り越えて宣言する姿に心を打たれる。


 「娘に今回のことを訊ねられたら、たとえ刑務所で過ごすことになっても、人間は沈黙してはならない、人間は叫ばなければならないと答えるつもりだ」「人間性に対する犯罪を行う組織に参加することを拒否するのは、人間としての私の義務である。」

 国内の左派や平和団体の中でさえ彼らはまだまだ少数派である。だが彼らの存在はネットで世界中に知らされている。米でイラクやアフガンへの派遣を拒否した兵士ともつながる。国境を越えて多くの人々の魂に訴えかける。彼らは人間の良心を信じさせてくれる.

なお本書はパレスチナ問題の背景や2002年末までの状況もとりあげていて、たいへんわかりやすい。入門編としても薦めたい。

 (NHK出版 2003年1月刊行 1470円)



参考として

講演録「占領に反対するイスラエルの兵役拒否運動」
       (パレスチナこどものキャンペーン)

http://www32.ocn.ne.jp/~ccp/in/transaction/yeshgvul.html   

「イスラエル軍兵士の軍務拒否声明」(ピース・ニュース)

http://www.jca.ax.apc.org/~p-news/houhuku/seimei.htm  

「イスラエルの軍務拒否者の声」(ピース・ニュース)

http://www.jca.ax.apc.org/~p-news/isurael/kyohi-koe1.htm

http://www.jca.ax.apc.org/~p-news/isurael/kyohi-koe2.htm

http://www.jca.ax.apc.org/~p-news/isurael/kyohi-koe3.htm