翻訳資料

米環境保護局(EPA)が米軍グアム拡張計画に異例の「待った!」


 米軍再編の一環として、グアムおよび北マリアナ諸島での基地の増強と海兵隊その他の米軍の移転計画が進められています*1。沖縄の普天間基地の米海兵隊の移転もこの計画の中に含まれています*2


*1)2009年11月に宜野湾市長がこの計画(グアム統合軍事開発計画)の環境影響評価書を分析して、普天間基地の実戦部隊も含めた海兵隊部隊がそっくり移転する計画になっていることを暴露しました。この計画を前提にすれば辺野古の新基地建設も、国内での新たな移転先もいらないことになります。

*2)「日米合意」では移転するのは「司令部要員」とされていますが、グアム統合軍事開発計画では実戦部隊を含めた計画になっています。「司令部要員」としたのは、辺野古新基地建設を正当化するためのつじつま合わせの可能性もあります。

 日米合意では「沖縄の負担軽減」という名目のもとに、このグアムへの移転計画(グアム統合開発計画)に対して総額で約61億ドル(約5490億円)を拠出することが決められており、司令部建設費用や、海兵隊員および家族の住宅建設にも充てるとされています。

 この基地増強計画について米軍が作成した環境影響評価書*3に対して、米環境保護局(EPA )は異例の厳しい評価を下した報告書を2010年2月17日に米軍宛てに出しました。計画を一時ストップさせて、環境影響評価をもう一度やり直さなければならない、厳しいものです。

*3)2009年11月に提出された。宜野湾市長が分析したのもこの評価書。

 普天間基地の閉鎖・返還、辺野古新基地建設断念を求める立場からも、極めて重要な内容を含んでいます。このEPAの指摘の詳細な評価や、この問題が普天間・辺野古問題にどう影響するか、慎重な検討が必要です。しかしこの報道が指摘している事実は極めて重大ですので、これを報じている2つの記事を翻訳資料として速報します。

 これら報道されている事実から確認できることは、以下のような点です。

●米軍再編の一環として計画されている、グアムおよび北マリアナ諸島への米軍の集中(グアム統合軍事開発)計画は、グアム・北マリアナ諸島の自然や生活環境に極めて広範囲に厳しい影響を与えるものであること。「日米合意」の一環である「米海兵隊とその家族」を17000人のグアムへの移転もこの計画に含まれています。

●米政府機関である環境保護局(EPA)が、米軍のグアム移転計画に対して、環境配慮の観点から異議を申し立てているということ。その政治的な意図を深く掘り下げることはできませんが、少なくともEPAの報告はグアムの住民の基地建設反対の思いと共通しており、現時点では米軍にも米政府にも対峙するものであること。

●このように米政府機関のEPAでさえやっていることを、主権の存在する日本政府は全くやっていません。名護の住民の意志や沖縄の環境を考えることもせず、米政府に対して正面から異議をとなえることもしないのです。米に対して抜本的見直しを要求することもせず、小手先だけのシュワブ陸上案でお茶を濁そうとしているのです。こんな修正で沖縄の人たちが納得できるはずがないのは当然です。

●グアムの人たちが、またEPAが計画の見直しを要求しているように、日本政府もまた、「日米合意」の抜本的見直し、白紙撤回を要求すべきです。それがこの報告書から日本政府がくみ取るべき教訓です。EPAができて主権国家である日本政府ができないはずはありません。しかも「日米合意」を決めたのは自民党政権なのですから、政権交代をした民主党新政権は堂々と抜本的見直しを要求できるはずです。

2010.03.06



環境保護局(EPA)が米軍のグアム移転計画を鋭く批判
EPA sharply criticizes military's Guam plan
オードレイ・マッカボイ
AP通信記者/2010年2月25日

By Audrey McAvoy
Associated Press Writer / February 25, 2010



 ホノルル − 環境保護局は数千人の海兵隊員をグアムへ移転させる米軍の計画を厳しく批判している。軍がインフラの改善を計画しなければ、未処理の下水の流出と飲料水の不足をもたらすと指摘している。

 更に、EPAは米の領域であるアプラ港への空母用バース(係留場所)の新設計画は、71エーカーもの良質のサンゴ礁に「受容しがたいインパクト」をもたらすと主張している。

 EPAは米軍による環境影響評価書ドラフトに関する批判の概要を、海軍に対して強い口調の6ページに渡る文書で提出した。

 「その影響は極めて重大であり、計画を提案どおりに推進すべきではなく、更なる改善した分析を行い、環境影響評価書の内容が決裁者に十分な情報を与えるようにすることが必要であるとEPAは確信している。」とEPAは主張している。

 軍の統合グアム計画オフィスは、環境調査に対して受け取った全てのコメントについて評価しており、EPAやその他の連邦機関と連携して解決策を見出すための努力をしていると述べた。

 軍当局は水曜日にAP通信に対してeメールで「EPAにより提起された、軍の建設によるグアムへの潜在的影響に関する問題については、グアムのリーダ達や地元の機関や大衆から聞いていることと話がよく合っている」と述べた。

 軍の計画は沖縄から8600人の海兵隊員と9000人の家族をグアムへ移動させるというものである。ワシントンと東京は、人口が密集した沖縄での米軍の専有面積を減らすためのこの移転に対して共同で費用負担をしている。

 EPAの文書では、そのピーク時に太平洋地域の人口が79000人増加することが予測されている。すなわち現在18万人の人口の45%にあたる。この数字は新しい施設を建設するためにグアムへ来なければならない多数の建設作業員数を含んでいる。

 2月17日付けのEPAの文書は、パシフィック・デイリー・ニュースのウエブサイトにグアム現地時間の木曜日に最初に掲載された。

 EPAは軍計画が、特に以下の問題をもたらすと述べている。

-- 水圧不足によるグアムの水供給不足が人々を汚水による水起因の病気にさらすだろう。
--既に水質汚濁防止法の規制に適合していない排水処理施設へ、更に汚水が流入する。
--未処理下水が更に流入し、水供給と海洋を汚染する

 サンゴ礁についてEPAは米軍が空母のバースの影響を過小評価していると述べている。サンゴ礁は魚と絶滅の危機にひんしているウミガメにとって絶対不可欠な生息環境を供給しており、かつ商業的そしてレクレーションとしてのフィッシングを支えている。




米環境保護局(EPA)が軍のグアム拡張計画を「不適切」と指摘
EPA analysis finds military's plan for Guam growth is 'inadequate'

テリ・ウイーバー、スターズ アンド ストライプス(米軍機関紙)
2010年2月27日
By Teri Weaver, Stars and Stripes
Pacific edition, Saturday, February 27, 2010


 東京 -  米環境保護局(EPA)はペンタゴンのグアムでの大規模建設計画を「提案通り進めるべきではない」と言明し、もっとも厳しい内部評価を下した。軍に対してグアムの計画の立て直しを迫るほどの厳しい評価である。

 軍の環境影響評価書に対する厳しい批判は6ページの公式文書と95ページの分析書の形で提出された。その環境影響評価では、拡大計画の概要が述べられており、焦点となっている沖縄からグアムへの8600名の海兵隊の移動についても述べられている。

 2月17日付けのEPAの資料は軍の恒久的な増大と建設時の約8万人もの一時的な人口増加は「グアムの現在の基準以下の環境状態を更に悪化させる」と主張している。その環境状態とは公衆衛生、島のただひとつの帯水層、下水設備、大気状態、ごみ収集、サンゴ礁などの海洋動植物などのことである。

 「その影響は極めて重大であり、計画を提案どおりに推進すべきではなく、更なる改善した分析を行い、環境影響評価書の内容が決裁者に十分な情報を与えるようにすることが必要であるとEPAは確信している。」とサンフランシスコの領域9のEPA管理者であるジェイレッド・ブリューメンフェルドは、海軍の工事環境部門のロバート・ナツハラ次官補代理に書き送った。

 公式に軍の計画を「不適切」と判断したことにより、EPAは軍に対してグアムの環境アセスメント全体を書きかえさせることができる。下記資料を参照のこと。
http://www.epa.gov/region09/nepa/letters/Guam-CNMI-Military-Reloc-DEIS.pdf.

 EPAの規定によれば「不適切」の裁定は、軍が拡張計画についての環境影響評価書を書き変え、新しい草稿を提出し、拡張計画に対して公聴の期間を新たに設けなければならない。その計画には海兵隊員の移動計画、毎年2カ月間の空母バースへの停泊許可、弾道弾迎撃ミサイルを備えた陸軍防空部隊の追加配備が含まれている。

 環境工学プランナーとして30年以上にも渡って環境影響評価に携わってきて、四カ月前にグアム環境保護局を退職したマイク・ゴウエルによれば、このEPAの裁定は異例の厳しいものであった。

 環境に影響をもたらすかもしれない合衆国の計画については環境影響評価書が要求されるが、その全てにEPAはコメントを行う。
しかし、今回の軍の環境影響評価書は、老朽化した設備を持つ212平方マイルの島での短期間の建設計画とも併せて、一度に多くのことに取り組みすぎていると、ゴウエルは火曜日の午後、電話インタビューに答えた。

 軍により昨年11月に送られてきた数千ページの評価書に対して、「これは前代未聞の計画だ、私はこの計画を大変心配している」とゴウエルは言う。

 軍もまたこの計画の範囲が異常であることを認めており、統合グアム計画オフィスのスポークスマンである海兵隊のネイル・ルッギエロ少佐によれば国防省がこれまで作成した影響評価書の中でも、もっとも複雑なものの一つであると言っている。

 ルッギエロは声明の中でこう述べている。「我々は環境影響評価書の草稿を作成するにあたり、EPAおよびその他の合衆国政府あるいは地元機関と緊密に協力したが、公式機関のコメントが欠陥と見直しを必要とする地域を指摘してくれるであろうことを十分期待していた」

 「国防省は環境影響評価書の草案に寄せられた全てのコメントを慎重に評価し、それらの案件について最終評価書にどのように方向づけるかを定めようとしている」と彼は書いた。

 最終資料はこの夏に予定されている。

 分析においてEPAはグアムへの更なる大きな軍の駐留の考えを非難しなかったばかりか、グアムが軍隊や設備や交通や水洗トイレの殺到に耐えられるかどうかというような意見を発しなかった。むしろ、分析は軍が計画の影響について全面的に調査したかどうか、あるいはグアムにとって適切で長続きする解決策を全面的に検討したかどうかについて疑問を呈していた。

 EPAは軍の緩和提案のいくつか、たとえばアプラ港のサンゴを置き換えるため人工の砂浜を作るとか、外国人労働者に医療、住宅、電気、水、下水処理を供給するために建設会社をあてにする計画などを一蹴した。

 建設に関する地元、議会、日本当局からの懸念の声が高まりつつあるが、EPAのコメントは、この懸念の合唱に加わるものとなっている。

 この数カ月、米と日本のリーダは沖縄からグアムへの8600人の移動についてこう着状態にぶち当たっている。ここ数週間では、グアムの議員と知事 - かれらの多くは最初は軍の計画を受け入れていたのだが − は軍と合衆国政府のリーダに対し、2014年までにこれらの海兵隊員と家族への住宅供給を可能とすることの現実性について強い言葉を言い出した。

 今月初めには、ただ一人の島の米議会への代表(投票権はない:訳者注)であるマデライン・ボーダローはその建設スケジュールに対しては資金供給の支援をしないと言いだした。

 火曜日にはこれらのリーダの何人かはEPAのコメントを称賛した。

 ボルダーロは声明で以下のように述べた。「国防省はグアムに対するインフラの要求の全てに対応しなければならないし、人口増に関連して起こる汚水処理、浄水の問題などの必要事項にどのように資金手当てするのかを方向づけなければならない」「EPAは国防省のサンゴ礁への影響のアセス方法について重大な関心を膨らませ、そして国防省はグアムのサンゴ礁への影響を過小評価していると宣言した」。

 「この文書は、これらの懸念が、建設がグアム住民にとって有益になるよう取り組まれなければならないという我々の立場をより強めるものである」と知事代行のマイケル・クルツはグアム住民のために現地語のチャモロ語で述べた。

 声高に建設計画を批判している人にとっては、EPAのコメントを見て、(自分達の懸念は間違っていなかったと)安堵すると同時に懸念が裏付けられてもいると感じている。

 「それ(EPAの声明)は素晴らしいものだと思った」とグアム議会副議長で建設に対する口うるさい反対者のセン・B.J.クルツは言った。「それには私が文句を言っていた全てが含まれている。私はEPAが軍に圧力をかけ続けて環境影響評価書の書きなおしを強く求めることを期待している」。

 

[参考]

EPAが提出した文書はこちらから入手できます。
グアムの人々のグアム統合軍事開発計画への反応はこちらのサイトが参考になります。