[投稿] 証言報告

「私は日本軍の蛮行を忘れない!」
─マレーシア 鄭来さんの証言を聞く─


第17回アジア・フォーラム横浜証言集会2010に参加して


 真珠湾攻撃が行われる1時間前マレー半島コタバルに達した日本軍は宣戦布告なしに英軍と交戦した。この事実はあまり知らされず、日本軍による東南アジアでの加害の事実も中国や朝鮮半島に比べると明らかにされていない。

 アジア・フォーラム横浜では94年から東南アジアからの被害者を招き証言集会を行っている。今年はマレーシアに住む華人虐殺の被害者鄭来(テー・ライ)さんの証言を聞くことができた。

鄭さんのお話に先立ち、高嶋伸欣琉球大学名誉教授からおおまかな状況説明があった。
 
 「大東亜共栄圏」建設はあくまで大日本帝国の繁栄のためであり、「東亜の開放」と言いながらも住民の独立運動はおさえられた。開戦当初破竹の勢いで進軍した日本軍だが、すぐにゲリラ部隊の反撃にあった。

鄭来(テー・ライ)さん(74歳)
アジアフォーラム横浜のHPより
これは英軍の行為だったが、日本軍は中国系の人々を疑った。日中戦争の激化する中で東南アジアに住む中国人たちは祖国へ献金し、日本軍に敵意をもっていたからだ。

 当時の陣中日誌によると「鉄道線路及道路ノ両側五百米以外ノ支那人及英国人ノ老若男女ヲ問ハズ徹底的ニ掃討ス」とある。中国人は商人が多いから街に住むはずなのに道路から離れた辺鄙なところに住んでいるのはゲリラだ、という乱暴な発想がこの命令になったという。当時のマレー半島は道路から離れたところはゴム園にされていた。英国人の経営する多くのゴム園では中国人を雇っていたのだった。鄭さんの一家もそうだった。

 鄭さんの証言
 
 当時6歳だった。日本軍がくるというので女と子どもは離れたところに隠れていた。そこに日本軍がやってきてゴム園に戻された。残っていたはずの男たちはいなかった。

 身分証を調べるというので10名ほどが一列に並ばされた。そのとき兵隊が6カ月の弟を放りあげ銃剣で刺した。それから皆を刺した。鄭さんも刺されて気を失った。


三省堂英語教科書挿絵
既に検定合格していたが自民党の圧力で全文削除された(1988年10月)

アジアフォーラム横浜のHPより

 日本兵がいなくなってから4歳の弟と逃げた。母親はゆすっても動かなかった。おじいさんが来て二人を助けてくれた。父親はどうなったかわからない。逃げる途中に死体がたくさんあって臭いがすごかった。井戸には子どもの死体がいくつも浮かんでいた。

 親戚の家に引き取られたが傷口が唇のように開いていた。日本占領の時代は薬が手に入らなかった。英軍が戻ってきて病院ができ、治療が受けられた。
 6歳の時から働かされて賃金はおじさんにとられてしまった。弟は他人に売られてしまった。父はどこで殺されたかもわからない。私たち家族がこんな目にあったのはなぜか。だれが責任を取るのか。何千キロも離れたマレーシアへきて住民を殺したのはなぜか?

 当時の責任者は天皇だ。軍国主義下では天皇の命令に逆らえない。
 私が話すのは賠償を求めるからではない。過去の歴史、責任をきちんと伝えてほしい。こんな虐殺の悲劇は繰り返さないでほしい。

 鄭さんはたんたんと話したが、通訳の方が途中で涙で絶句してしまうほど凄まじい内容だった。

休憩後高嶋さんから解説を受けた。

 戦争被害の実態を調べるなかで多くの人から証言を聞くことができた。でも最後まで会えなかった人もいる。現地では日本軍の行為が語り伝えられ、教科書でも扱われている。赤ん坊が放りあげられて銃剣で刺された話も鄭さんの弟以外にもいくつもあり、教科書に載せられている。

 日本社会は差別問題に鈍感だ。東南アジア・中国への差別意識は今も払拭されていない。戦前は軍隊が侵略し戦後は経済的に進出した。

 鄭さんは個々の日本兵には責任がないが天皇は別だと言った。天皇制のもと、差別体制を残したままではないだろうか。
 
 会場から、鄭さんは日本人に責任がないと言ってくれたが実際はあるのではないかとの声があった。これに対し鄭さんは次のように語った。

 事実がわかった今、「責任がある」と日本人に言ってほしい。当時のことはその時の人の責任だ。でも日本政府は歴史を正しく記録する責任がある。あまりに黙っているとあなたにも責任があることになる。当時の日本も今も同じ名前、同じ旗の国だ。ドイツはきちんと処理したので正々堂々と見える。一方日本は事実を隠し歴史を書き換えている。

 鄭さんの言葉は重い。事実を知りながらそれを広めきれない現状へのいら立ち、悔しさ、日本の支配層やマスコミへの怒り、それでも少しでも知らせなければという思いがわきあがる。

 会場では、シンガポールで小学高学年が使っている日本占領時代を学ぶ教科書(英語)を日本の中学生が部活動で翻訳し販売していた。文化祭で販売したところ大変評判がよかったという。こんな活動をみると元気がわくが、被害者の高齢化が進む中で責任を果たす機会はもう残り少ない。
              
12/4(土) かながわ県民センターにて 
Y.A