映画の紹介

放射線を浴びた「X年後」

 1954年3月のビキニでの水爆実験と第五福竜丸についてはそれなり有名である。だが、この実験が3カ月にわたって6回も繰り返され日本の漁船だけでも1000隻以上が被ばくしたことはどれほど知られているだろうか。この半数は高知県籍の船で、その後地元では「マグロ漁船に乗った者は早死にする」とささやかれていた。




 事件から30年近くたって地元の教師と高校生たちが漁民からの聞き取りなどの調査をはじめ被ばくの実態を明るみに出した。廃船となっていた船体からは当時でも高い放射能が検出されていた。この活動は映画「ビキニの海は忘れない」(1990年)でも紹介され元船員たちの会も結成されたが、国は救済を認めず被ばくした船員たちは次々と亡くなって会も解散に追い込まれていった。だが教師たちは地道に調査を続けた。

 04年からこれを記録したのが地元のTVマンだった。粘り強い活動の末に明らかにされていく放射能汚染の凄まじさ、真実を覆い隠そうとする日米政府の強行さ・・・港で船体やマグロの検査を実施するだけでなく、調査船まで出して汚染の実態を把握しながら米政府の200万ドルの「見舞金」のみですべてのデータを隠し事件を葬ってしまう。日本近海にまでも汚染は進んでいたのに。
 
マグロ漁船員は20代までの若者が中心だった。屈託なく笑う船上で写された記念写真。そうしてその多くが50代60代までにガンで病死していった。

 この作品は今年1月NNNドキュメントで全国放送されたものに新たな映像を加え映画化された。ローカル局の奮闘にほっとする。だが福島の事故がなかったらこの作品が注目されただろうか。

 船員たちの姿が破壊された原発で働く人々に重なる。十分な装備も知識も健康管理も行われず、今も危険にさらされているのだ。それは汚染された土地に住み汚染された食料をとる住民にも重なっていく。

 「ただちに健康に影響はありません」なんと恐ろしい言葉であったか。ここまで知って考えられた言葉であったとしたら、それを垂れ流した人々は悪魔だ。責任なんかとれはしない。

監督 伊東英朗 製作著作 南海放送 2012年 83分
Y.A
公式サイト
http://x311.info/

ポレポレ東中野ほか全国で上映中
http://www.mmjp.or.jp/pole2/