映画の紹介
 チェルノブイリ ハート

監督マリアン・テレオ2003年 米
 
 
   「チェルノブイリ ハート」とはチェルノブイリ原発事故の影響で生まれつき心臓に重度の障害を持っている子どもたちのこと。ベラルーシでは「健康に」生まれてくる子は新生児の1割から2割にすぎないという。監督は事故から16年後にベラルーシを訪れ、汚染地域や首都ミンスクの子どもたちの姿を追う。



 

 汚染地帯の若者たちに甲状腺の異常が増えている。だが彼らに病名は知らされない。

 次はもっと幼い子どもたちもいる小児精神病棟の様子が映される。脳性まひやさまざまな障害を持った子どもたちが病室にあふれている。さらにもっと胸が痛むのはナンバーワンホームと呼ばれる遺棄乳児院のありさまだ。五体満足な子は里子に出され、残された治療の見込みもないまま生かされている子どもたちの姿は私たちに何を訴えているのだろうか。直視するのがつらい映像が続く。

 さらにチェルノブイリ・ハート。心臓手術を待つ7000人の子どもたちに対し資金のない国内の医師たちは対応できない。多くの子どもたちが十分な治療を受けずに亡くなっていく。

 映画の後半ではプリピャチに住んでいた若者が事故以来初めてかつての家を訪れる。荒れ果てた部屋、父が取り付けた体操器具と壁に貼られた白い馬の画だけが取り残されている。そこに浮かぶ茶色の染みが年月を物語る。「近親者の10人ががんで死んだ。僕もそうなる」と語った彼は翌年27歳で亡くなった。

 原発事故の恐ろしさはそのときだけでは終わらない。「その時」の被ばくだけでなく、汚染された大地に住みそこで育った食料を食べ続ける中で、着実に放射性物質は蓄積されその影響は次の世代に引き継がれていく。(ちなみにベラルーシの野菜の摂取制限量は100Bq/kg、子どもは37Bq/kgである。)この警鐘をきちんと受け止めないと本当に大変なことになる。ベラルーシの現実は恐ろしい。しかしこの現実を直視し対策を講じることだけがフクシマの被害を最小限におさえる道になる。

 「まだやらなければならない仕事は山ほどあるが、必ずそれは達成できます」「日本はきっと再生します」と監督からのメッセージが最後に流れる。フクシマの事故発生から半年、とどまるところのない被害の拡大がまだほんの序の口であること、これからの生き方が今問われていることを突きつけられた。

(2003年米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門オスカー受賞作品 58分)

「チェルノブイリ ハート」公式HP


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Y.A