有事関連3法案が閣議決定され国会で審議中である。そこで、法案の持つ危険性について条文を参照しながら確認してみた。政府・与党がどのように説明しようが成立してしまえば条文に規定される。法案の危険性をあらためて認識することになった。
有事関連3法案の危険性
ピース・ニュース No.21(02.05.12発行)より

[武力攻撃事態法案]

(1) 発動要件そのものが曖昧で,恣意的で主観的。首相の政治的判断で好き勝手に。

◇攻撃予測事態への有事範囲の拡大
 最大の焦点は、有事の範囲を「武力攻撃が予測される事態」にまで拡大した点。従来の有事の概念は、武力攻撃が発生するか、その恐れのある場合に限定されていた。対象を広げたことで有事の認定基準があいまいで、緩やかになった。
 このため自衛隊の陣地構築活動や武器使用、民間人への罰則適用、二年以内に法整備される米軍支援策など、あらゆる対処措置の発動が前倒しされる可能性がある。
 実際に武力侵攻を受けていない「予測される」段階で対米支援を実施すれば、「専守防衛」の大義名分から逸脱し、支援内容によっては憲法上許されない集団的自衛権の行使に抵触する。

◇「周辺事態」も武力攻撃が予測される事態
 政府・与党も「周辺事態」と「武力攻撃事態」が並存すると説明する。「当然、周辺事態のケースは、この(予測される事態の)一つ」中谷元・防衛庁長官。「防衛出動待機命令(武力攻撃が予測される事態)と周辺事態には、ダブリはある。そこにきれいに線を引く方法はない」(山崎拓・自民党幹事長)。
 「周辺事態」は、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」。つまり、米国が戦争をおこしたら、相手国から日本への武力攻撃が「予測される」として、有事立法が発動される危険がある。
 政府は、武力攻撃が予測される事態について、武力攻撃の「意図が推測され」、「発生する可能性が高い」と判断されればよく,ある国が「日本を攻撃するぞ」という意図を明確に示していなくても、意図が「推測」されるだけで発動できるという。

(2) 首相にあらゆる非常権限が集中する。

◇対策本部の設置(第十条)=「戦時内閣」の体制つくり
 「武力攻撃事態法案」では、「組織及び機能のすべてを挙げて、武力攻撃事態に対処する」ことを「国の責務」としており,まさに総力体制。
 その中心になるのが対処基本方針(戦争方針)を実施する「対策本部」。首相が本部長、それ以外の閣僚で副本部長、本部員を構成。まさに「戦時内閣」さながらの体制がつくられ,とりわけ首相には戦争遂行のための権限が集中する。
@ 首相は「武力攻撃事態」の認定を含む対処基本方針を安全保障会議に諮問。その答申をうけ、今度は自ら主宰する閣議で決定。そして、その方針を実施する対策本部の本部長も首相。まさに独裁的権限だ。
A 実動部隊である自衛隊にも「最高の指揮官」として出動を命じる。対処基本方針については閣議決定後、「直ちに国会の承認を求めなければならない」としているが、自衛隊の「防衛出動」については、「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」には、首相がこれを命ずることができるとしている。
 このように,首相に権限を集中し、国会の承認がなくても思い通りに戦争遂行できる仕組みをつくるものとなっている。

(3)戦争のために国民の基本的人権の侵害・剥奪は正当化される。

◇国の行政機関はもちろん、地方自治体やNHK、赤十字、NTTなどの「指定公共機関」まで統制下に
 法案には、自衛隊と米軍の軍事作戦が「円滑かつ効果的」に展開できるようにするため、国・自治体・指定公共機関が物品、施設、役務を提供すると明記され(第2条)、対策本部長(首相)の権限として自治体や公共機関との「総合調整」権を定めた(第14条)。ただ強制力が伴わないため、さらに首相に指示権と緊急時の代執行権を与え、法的拘束力を高めた(第15条)。自治体側に意見陳述権を認めたものの「言いっ放し」に終わる可能性は否定できない。
 具体的に自治体にどんな措置を求めるのかは二年以内に法制化される。住民への避難指示や携帯電話などの電波管制、空港や港湾施設の利用制限など私権制限につながる項目が列挙されている。

 マスコミや医療、通信、運輸、電力、ガスなど国民生活の基盤にかかわるあらゆる分野が首相の統制下におかれる。災害対策基本法では「指定公共機関」は60機関。
 マスコミには報道の自由がなくなる。NHKや民放は、政府が「武力攻撃事態」を宣言したとたん、番組編成を変更。警報や政府発表の情報をたれ流し、キャンペーン番組や関連番組の編成に。
 交通関係では、日本道路公団などを通じて高速道や一般有料道路が軍事用とされたり、通行規制を設けたりされる。成田空港や関西空港は真っ先に軍事専用に。その他の港湾・空港でも民間船舶、航空機の航行が制限され、定期便の発着停止や民間船舶の追い出しまで想定される。
 医療では、日本赤十字社が指定公共機関として、医療班の派遣や輸血用の血液などの準備を迫られる。その他、国立病院や自治体病院も戦争協力が「責務」。米軍や自衛隊の死傷兵の受け入れなどが優先され、医師や薬剤師、看護師全体が強制的な業務従事の対象となる。
 また「生活関連物資の価格安定、配分その他の措置」として「生産調整」や「配給制度」を実施することを想定。軍事関係の生産を最優先するとともに、国民生活の統制も狙っている。(第2条)

(4) 私権制限,土地や物資の強制収容が可能に。

 法案では、「国民の自由と権利」に「制限が加えられる場合」を明記。(第3条)

(5) 「国民は協力する義務」があると,市民一人一人に戦争協力を押し付ける。

◇戦争協力拒否は「非国民」扱い
 「武力攻撃事態法案」では政府の戦争方針が実施されるとき、「国民は…必要な協力をするよう努める」と義務化を明記し。国民を強制動員する根拠づけを行った。(第8条)
 また、国や地方公共団体、指定公共機関に戦争協力の「責務」があるとされたため、そこで働く人たちは戦時に「非常招集」される危険が生じる。(第6条)

(6) 今後2年間で法制を整備する項目を列挙

 住民の「避難」、生活基盤の復旧、社会秩序の維持、輸送・通信に関する措置、国民生活の安定などの項目が並びますが、実態は戦時の国民統制を法制化しようとするもの。
 「戦時」の連絡組織の編成、自衛隊の「展開予定地域」や「警戒区域」での立ち入り禁止・退去命令、警察などの治安対策への協力、通信の秘密制限、生産調整・配給なども想定されている。

[安全保障会議設置法改悪法案]

 安保会議の機能強化。具体的には事態対処専門委員会の設置(委員は首相の任命)。
 「武力攻撃事態」の認定を実際に行うことになるのが、安保会議に設ける「事態対処専門委員会」。メンバーは内閣官房職員などから任命されるが、現行安保会議の事務を担う内閣官房職員の多くは外務省と防衛庁からの出向者。米国の意向を受けた外務省と日米共同軍事作戦を担う自衛隊が、「戦時」体制突入の判断を事実上握ることになる。

[自衛隊法改悪法案]

(法案の概要の一部)
1.防衛出動時における物資の収用等に係る規定の整備
2.防衛出動下令前の防御施設構築の措置に係る規定の新設
(1)防衛庁長官は、事態が緊迫し、防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、出動を命ぜられた自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、かつ、防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域 (以下「展開予定地域」という。) があるときは、内閣総理大臣の承認を得た上、その範囲を定めて、自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設を構築する措置を命ずることができること。
(2) (1) の措置の職務に従事する自衛官は、展開予定地域内において当該職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができることとし、その場合、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならないこと。
(3) (1)の措置を命ぜられた自衛隊の部隊等の任務遂行上必要があると認められるときは、都道府県知事は、展開予定地域内において、防衛庁長官又は政令で定める者の要請に基づき、土地を使用することができること。
3.防衛出動時における自衛隊の緊急通行に係る規定の新設
4.取扱物資の保管命令に従わなかった者等に対する罰則
(1)第103条の規定による取扱物資の保管命令に違反して当該物資を隠匿し、毀棄し、又は搬出した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処すること。
(2)第103条の規定による立入検査 (防衛出動下令前の防御施設構築のために土地を使用する場合の立入検査を含む。) を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、20万円以下の罰金に処すること。
(3) (1) 及び(2) について、両罰規定を整備すること。
5.防衛出動時等における関係法律の特例の整備

(要点)
◇自衛隊法第103条以下の諸条項を更に改悪し、「有事」の下で自衛隊が自由自在に軍事行動できるように一切の制約を取払うもの。防衛出動が予測される場合にも民有地での陣地の構築や、武器の使用が認められる。
◇周辺事態法成立以来、米側が執拗に圧力をかけてきた「第1・第2分類」の法制化。(第1分類は自衛隊法など防衛庁所管の法令で、第2分類は道路法や医療法など他省庁所管の法令)
 周辺事態法の実効性確保のための対米の公約でもある。有事法制を整備しなければ「周辺事態」が勃発しても、自衛隊(や米軍)が国内法を無視して自由自在に動けるようにならないから。
◇戦死者も想定
 自衛隊が作戦を展開する上での「障害」を取り除くため、さまざまな特例を設けることもねらっている。陣地などをつくる場合の手続きの緩和や、自衛隊が建設する指揮所などへの建築基準法の適用除外のほか、大量の戦死者が出た場合に、自衛隊が既存の墓地、火葬場以外で埋葬、火葬するための特例措置も含まれている。
◇罰則規定
 自衛隊の防衛出動が発令された場合、業者が物資の保管命令に従わなかった場合や、保管場所などへの立ち入り検査を拒んだ場合に罰金が科される。物資としては燃料、食料、医薬品などが想定されている。立ち入り検査拒否の罰金は、防衛出動前に自衛隊が民有地に陣地を構築する際にも適用される。