ジェラルド夫妻の報告・講演会に参加して

イラク帰還米兵夫妻が語る       
     劣化ウラン被害の恐怖


イラクに駐留し、劣化ウラン被爆を受け、全身の痛みと激しい頭痛に今も悩まされ続けている米帰還兵のジェラルド・マシューさんとその妻ジャニスさんが来日し、11月6日、7日に東京での講演報告会で、被害の実態、恐ろしさ、米政府・ブッシュへの怒りを衝撃的に語った。参加した一人として、その話に強い衝撃を受けたので、ここに報告をしたい。

11月6日は、「劣化ウラン兵器禁止・市民ネットワーク」(NO DU!市民ネット)の主催で、文京区民センターで、「劣化ウラン兵器禁止を求める国際行動デー集会」が行われた。主催団体からの基調報告と劣化ウラン研究会山崎さんの解説のあと、マシュー夫妻( Gerard Darren Matthew & Janice )が話しをし、150人を超える参加者に深い感銘を与えた。しかし、2人の話は30分の枠ということで、充分に意が尽くせなかった印象もあったが、その翌日の明治学院大学白金台キャンパスで行われた報告会では、劣化ウラン被爆の恐ろしさを大いに語ってくれた。

7日の報告会「イラク帰還米兵が語る劣化ウラン被害〜兵士として親として〜」は、平日の夜(6時45分から約2時間半)だったにも関わらず、200人近くの人が参加した。過去に行われたドラコビッチ博士の講演会に参加している人たちの顔も多く見えた。明治学院大の学生と思われる若者も数10人参加していた。劣化ウラン廃絶キャンペーン、Body and Soul、Iraq-Hope-Network、日本イラク医療支援ネットワーク、 BOOMERANG NETの共催であった。

この報告会では、元陸軍州兵のジェラルド・マシューさんと妻のジャニスさん2人の話を聞くことに焦点が当てられていた。司会は映画監督で劣化ウラン廃絶キャンペーンの鎌仲ひとみさん。通訳がきくちゆみさん、ゲストが地雷廃絶日本キャンペーンの目加田説子中央大教授。鎌仲さんが、夫妻にいろいろ質問をし、それに夫妻が答えるという形式で報告が行われた。

以下、報告の概要である。

 Q: 何故、軍隊に行くことにしたのか?
 A: 自分で教育を受ける学費を稼ごうと思った。

 Q: アメリカという国家への忠誠心というのはあったか?
 A: 家族に金銭的な負担をかけずに、教育を受けたかった。愛国心があったというわけではない。

 Q: イラクではどんな仕事をしたのか?
 A: 2003年4月からトラックの運転手をしていた。イラクとクウエートの間を食料と水を運び、途中、破壊された兵器、戦車の破片、タイヤなどを持ち帰った。金属は再利用されていたのだ。1週間もしたら、具合が悪くなった。頭が痛くなり、顔が腫れた。しかしイラクの気候のせいなのだろうと思っていた。しかし、3ヶ月経って妻の手術のため米国に帰っても症状は変わらないのでおかしいと思い始めた。イラクには計6ヶ月いたことになるが、病気のために送還された。足に激しい痛みが走るようになった。今では、全身、針を刺すような痛みに襲われている。

 Q: 診断結果は出たのか?
 A: 慢性的偏頭痛と診断された。アレルギー源は何一つ見つからなかった。痛みがひどいと、怒りがたまってきて、コントロールが出来なくなることがある。

 Q: 自分の病気が何のせいなのか、と考えたことはあったか?
 A: 何が何だかわからなかった。しかし、生まれくるはずの娘が超音波検査の結果、手がない不具であるということがわかって、疑問が生じた。そういう時に、Newy York Daily News の記事で、イラクに行った兵士がドラコビッチ博士による検査の結果、劣化ウランに汚染していることがわかったという
ことが報道されていたので、自ら、記者のゴンザレスに連絡し、ドラコビッチ博士により検査をしてもらった。2004年4月2日のことである。そして9月17日に自分は、劣化ウランに汚染していると言われた。兵士の4倍から8倍の濃度の汚染を受けているとの報告を受けたのだ。

 Q: 劣化ウランとの関連で娘のビクトリアちゃんに手がないということを知ったときはどうしたか?何故、それが自分の身に起きたかを考えたか?
 A(ジャニスさん): 医師から娘の不具を聞き、自分をそして夫を責めた。私は、科学者ではないが、わかる。私は健康そのものだ。ところが夫は体調を崩し、戦争から帰還した。そして娘に手がないのだ。劣化ウランを証明するものではないか!国の答えは劣化ウランとは無関係というばかり。我々を侮辱するものだ。

 Q: 自分の体調が劣化ウラン汚染によるものであること、そしてビクトリアちゃんの不具ということで、国に対する見方は変わったか?
 A: 元々、私は軍隊を愛していたのだ。しかし、劣化ウランというものを知って、軍隊に憎しみを感じるようになった。娘は哺乳瓶を掴めないし、本をめくることも出来ないのだ。

 Q: 国に対して訴訟を起こそうと思ったのはジャニスさんの方だったというが?
 A(ジャニスさん): 自分の娘のために、夫のために闘う。夫からは言うことに気をつけろと言われた。国を批判するようなことを言わない方がいいと言われた。しかし、夫はゆっくりと死んでいっているのだ。そして娘もやはり、手がないということで、ゆっくりと殺されていっているのだ。私には何も失うものはない。娘が「お母さん、もうやめて!」と言うまで、私は世の中に訴え続ける。国防省が嘘をついたことについて、訴える。
 A(マーシュさん):妻のサポートがあるから、訴訟を起こすことが出来た。私が、国の批判を始めた途端、友人は離れていった。今は誰一人自分のところに来なくなった。

 Q: 具体的に訴訟で国に求めるものは?
 A: 以下のことを要求したい
   1)娘がこうなったのは劣化ウランのせいだ
   2)人道法を破った戦争の責任を取れ
   3)劣化ウランに被爆して働けなくなっている。保障を毎月600ドルでは何もできない。
   4)医療費を保証せよ
 私の他に7人の帰還兵が訴訟を起こしているが、集団訴訟ではない。個別訴訟ということで闘っている。一人あたり500万ドルを要求している。私の場合は娘と合わせて1000万ドルだ。

 Q: イラクの子供たちにもビクトリアちゃんと同じようなことが起きているのではないか
 A: イラクの子供たちには申し訳ないと思う。同じことが繰り返されてはならない。娘が不具で生まれて初めて知った、劣化ウランを。障害を持って生まれた子供がいたら抱きしめてあげたい。一緒に暮らしたい。

 Q: 今日、報告会に参加している人達に訴えたいことは?
 A: 劣化ウランについて、一人でも多くの人に話をして欲しい、知るようにして欲しい。国際世論が盛り上がることが米政府に対する大きな圧力となるのだ。アメリカに手紙を送って欲しい。手紙の送付先は劣化ウラン廃絶キャンペーンのHPを見て欲しい。(http:www.cadu-jp.org/)

 Q: サマワの汚染状況はどうか?自衛隊員はどうだろう?
 A: サマワに駐留していて、汚染を受けた兵士を知っている。私とほとんど同じ症状だった。軍は、劣化ウランについて、兵士に教育をしない。マスクをつけさせるくらいのことしかやらない。しかし、マスクなどやっても劣化ウランにはなんの効果もないのだ。自衛隊員も被爆している可能性が極めて高い。自衛隊員の家族の人たちにも劣化ウラン汚染の事実を知らせるようにして欲しい。

以上のように、実際に劣化ウラン被爆で、体を蝕まれつつある兵士のマーシュさん、自分の夫、自分の娘のために国を相手に闘おうとするジャニスさんの話は参加者の胸を打った。通訳のきくちゆみさんが、ジャニスさんの話を聞いて、感情が昂ぶって、訳につまるという場面もあった。

劣化ウラン被爆の恐ろしさを、実際の被爆者からの話で知るということとともに、米国に対して、訴訟を起こし、闘おうとするマシュー夫妻の話を聞き、日本において劣化ウラン被害についてより活発な啓蒙活動をしていくことの必要性を痛感した。極めて有意義な集会・報告会であった。