シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update

第2号 2000年8月21日発行(不定期刊)

発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編 集 チームS・電子オフィス        


ニュースの配信を希望される方、または他のHPや機関紙で掲載される方は、チームS・電子オフィスまでご一報下さい。



今号の目次
1.シェイダさんからのメッセージ
2.「申立人は難民に該当しない」!法務省の意見書、法廷に提出


1.シェイダさんからのメッセージ

 「入管法」により収監されているシェイダさんから、以下のメッセージが届きました。
 7月30日、8月6日に開催した集会で、参加者の皆さんに寄せ書きを書いてもらい、それをシェイダさんに手渡したのに対するメッセージです。
 このメッセージにさらに返事を返したいという方がいましたら、「チームS電子オフィス」か、または知り合いのチームSメンバーに託して下さい。必ず届けるようにします。


 愛する友人たちへ

 こんにちは。
 あなたがたからの寄せ書き、受けとりました。
 この逆さまな世界で、
 人間の価値の痕跡はもう見えないほどかすれてきていますが、
 あなたがたの親切さ、やさしさは、
 私の励みになっています。
 それは私がこのつらい、厳しい日々を耐えられる頼りになっています。
 一生忘れません。皆様に心から感謝します。

 遠い所からあなたがたの手を、あたたかく握ります。

シェイダ
2000年8月11日



2.「申立人は難民に該当しない」!
  法務省の意見書、法廷に提出


 法務省が東京地方裁判所に、シェイダさんは難民に該当しないので退去強制令の執行停止をする必要はない、という趣旨の意見書を提出しました。この意見書は、シェイダさんの主張に真っ向から反論するものです。

(1)整理:シェイダさんの現在の法的状況

 法務省の意見書の内容について紹介する前に、シェイダさんの現在の法的な状況について簡単に整理することにします。
 4月22日、入管法違反の容疑で逮捕されたシェイダさんは、5月8日、東京入管(北区・十条)に送られ、退去強制手続きが始まります。これが第一の手続で、これは、シェイダさんが日本に在留する資格がないことを認定し、退去強制を執行するものです。しかし、この認定に異議を申し出続けると、その理由によっては最終的に「法務大臣の特別在留許可」を与えられることがあります。例えば、最近は在留資格のない外国人が日本人と婚姻した場合、この「特別在留許可」により在留を認められるようになっています。また、いろいろな事情があって難民認定はできないが、さりとて退去強制にするわけにも行かない、といった事実上の難民状態にある人も、この許可が下りることがあります。
 一方、シェイダさんは入管に送られた段階で難民申請を行いました。これが第二の手続で、申請が行われると、シェイダさんが難民としての資格を持っているかどうかが審査されることになります。これは法律上、上の退去強制の手続とは関係がありません。シェイダさんの身の上に、法律上二つの手続が進行しているわけです。
 さて、7月3日、臼井法務大臣(当時)はシェイダさんに難民認定をしないことを決定し、また4日には、退去強制に関する異議の申し出について「理由無し」とする裁決を行いました。難民認定については、異議を申し出ることができますので、シェイダさんは直ちに異議を申し出て、現在第二次の申請中ということになります。
 一方、退去強制については、次の手続は「行政訴訟」です。シェイダさんは、自分に「特別在留許可」を与えなかったのは違法であるとして訴訟を提起するとともに、「理由無し」裁決の通知とともに執行段階に入る「退去強制令」の執行をとめるため、「退去強制の執行停止の申立」を行いました。訴訟の現段階は、この「執行停止の申立」について、法務省とシェイダさんが争っているという状態になるわけです。今回法務省が提出した「意見書」は、シェイダさんが行ったこの「退去強制の執行停止の申立」に対して提出されたものです。

(2)法務省の主張

 法務省の意見書に於ける主張のうち、重要な部分の論理展開は以下のようになっています。

ア)シェイダさんは難民に該当しない。
イ)「難民」に該当するためには、他の人がシェイダさんの立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情の存在が必要である。
ウ)シェイダさんはゲイであるから迫害される恐れがあるというが、・現実のイラン社会では同性愛は一般的な現象である。・イスラム道徳に公然と逸脱しない限り容認されている。・刑法の同性愛的性行為処罰規定も要件が厳格なため運用されていない。・男性間の身体接触が文化的に容認されており、同性愛者を識別するのは困難。
 であるので、迫害の危険性はない。
エ)シェイダさんは、自分がゲイであることをイラン政府が知っているかも知れないと言うが、・ゲイ雑誌「ホーマン」に執筆した原稿はペンネームを使っている。・札幌のパレードは社会的知名度が低い。
 ゆえに、イラン政府がそのことを知ることは考えられない。
オ)シェイダさんはこの間、イラン大使館で旅券の延長手続きを受けるなど、自発的にイラン政府の保護を受ける行動をしているが、その一方で難民認定の申請も行っておらず、「漫然と」不法就労を行っていた。

 この意見書の作成に当たって、法務省が論拠としている文書があります。それは、国連高等弁務官事務所(UNHCR)が作成したUNHCR REFWORLDという文書集の中に収録されているものです。8日に行った法務省交渉における法務省の難民認定室長の主張も、すべてこの文書に依拠しています。当初は、法務省も実状を一定よく調べているものと分析していましたが、何のことはない、孫引きだったわけです。そもそも、この文書集はUNHCRがCR-ROM化して販売・頒布しているものであり、行政として入手するのは極めて容易なしろものです。
 この文書は、基本的に、イラン社会で一般的に見られる(という)男性同士の同盟関係(ホモソーシャリティ)やスキンシップを「同性愛」(ホモセクシュアリティ)に類推解釈した上で、イラン社会では「同性愛」は容認されているから問題はない、という内容のものですが、同性愛者の立場からみれば、セクシュアリティの歴史的な形成やアイデンティティ等の問題を度外視した、まったくずさんなしろものです。この文書については、ニュースアップデイト第三号でその詳細と問題点を分析したいと思います。

(3)同性愛者の尊厳を否定する法務省

 法務省の意見書には、大きな問題点があります。最も大きな問題点は、シェイダさんが退去強制にあたって実際に感じている恐怖・不安について、その根拠や背景となる事実を全く斟酌することなく、一片の公的文書に全面的に依拠して、完全に切り捨ててしまっていることです。
 シェイダさんは、これまでの難民申請や退去強制手続きの過程で、イランにおける同性愛者の数多くの処刑ケースや謀殺疑惑のケースなどを証拠資料として提出しています。シェイダさんの恐怖の背景には、殺害された数多くのレズビアン・ゲイが具体的なケースという形を取って存在しており、その重みはイラン社会で同性愛や「男性同士の身体接触」が「容認されている」などといった一般的・抽象的物言いとは比較にならないものがあります。
 もう一つの問題点として挙げられるのは、法務省の意見書が、シェイダさんがゲイとしてカミング・アウトしたという事実について、不当に軽視しているということです。
 意見書には、同性愛が「個人的な嗜好(原文ママ)に留まるものであってイスラム道徳に公然と逸脱するものとされない限り容認されている」という記述があります。これは、逮捕されるような同性愛者は「道徳に公然と逸脱」したのだから弾圧されても仕方がない、ということを暗示しています。実際には、シェイダさんの問題はそこに位置しているのであって、シェイダさんが99年にカミングアウトしたことの意味は、同性愛をイラン・イスラム共和国という他者の設定する「個人的な嗜好」「イスラム道徳」の範囲に留めるのでなく、同性愛者としての自分がなす自己決定に従って、自らの人生を歩んでいくということなのです。
 法務省が意見書の拠り所としているUNHCRの文書を作成したのは、実はカナダの移民・難民委員会(IRB)です。しかし、IRBは一方ではこうした文書を作りながら、他方では同性愛者のカミングアウトの意味を十分に理解しています。1998年、ヴァンクーヴァーのIRBはあるイラン人ゲイを難民として受け入れる決定をしましたが、その決定内容は、「キリスト者であることを隠していれば平穏無事に生活できる国があるとした場合、キリスト者をその国に強制退去させるだろうか。同性愛者を、同性愛であることを隠していれば平穏無事に生活できる国に強制退去させるというのは、それと同じことである」というものでした。この判断は、「同性愛者として生きる」ということの重要性について、IRBなりの仕方で最大限の尊重を与えたものということができます。
 オランダ政府も、イランの状況が一定の民主化過程にあることを認めつつも、知識人、同性愛者、バハイ教徒に関しては、安全が保障されていないとして難民認定を認める立場をとっています。法務省は、同性愛者の尊厳を否定する卑しい主張を直ちにやめ、シェイダさんを難民として認めるべきです。(B 2000年8月18日)




沈黙は死だ
口をつぐめば
死に、
口を開ければ
死ぬ、
それならば語り、そして死ね。

ターハル・ジャウート(アルジェリアの詩人)



『Team.S(シェイダさん救援グループ)』

  電話 070-6183-5165(田中) FAX 03-3330-0324
  メールアドレス cbo51340@pop12.odn.ne.jp(庄子)
  シェイダさん救援グループHP http://www.fairy.net/~power/teams.htm




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