シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update


 イラン人でありゲイとして難民申請をしているシェイダさんを支えるグループ[Team S]がニュースレターを発行しました。ニュースの配信を希望される方、または他のHPや機関紙で掲載される方はチームS・電子オフィスまでご一報下さい。



シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第一号 2000年8月10日発行(不定期刊)

発行元 チームS・シェイダさん救援グループ



<今号の目次>
(1)「ニュース・アップデイト」創刊のお知らせ
(2)7月30日「シェイダさんを救えっ!大作戦」レポート
(3)8月8日法務省難民認定室との交渉レポート



「シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト」創刊のお知らせ


 「チームS・シェイダさん救援グループ」は、オーバーステイで入管局に収監され、日本政府に難民申請を行っているイラン人のゲイ、シェイダさん(仮名)をサポートするために、シェイダさんの友人たちによって結成されたグループです。
 これまで、シェイダさんの難民申請をサポートするとともに、東京・十条の入管局にシェイダさんの面会に行ったり、シェイダさんの抱える問題を多くの人に知ってもらうために、2回の集会を開催したりしてきました。
 その間、出会った皆様方に、シェイダさんの現状について知ってもらうべく、このたび「シェイダさんを救え!ニュースアップデイト」(Save Mr. Shayda! The NewsUpdate)をメールマガジンとして創刊することといたしました。ご愛読のほどお願い申しあげます。

・本メールマガジンについては、シェイダさんのプライバシーの問題に配慮する必要がありますので、本メールマガジンの情報を引用して資料を作成したり、公に発表したりする場合は、必ず編集担当にご一報いただき、許諾を得た上で行うようにお願い申しあげます。



(集会レポート)
 シェイダさんを救えっ!大作戦 
 イラン人同性愛者シェイダさんに難民認定を


 七月三十日、高円寺社会教育会館において、「シェイダさんを救えっ!大作戦」集会が開催されました。酷暑の中にも関わらず、約三十名の人の参加があり、活発な討議が行われました。

(1)シェイダさんが難民申請に至ったわけ

 最初に、シェイダさんが難民認定申請にいたった経過の説明が行われました。
 シェイダさんは昨年来より、日本のゲイ・コミュニティと積極的に関わるようになり交流を深めて行きました。彼は同性愛者であることを理由としたイランでの社会的迫害を恐れ、以前にも難民認定申請を行おうとしていたのですが、オーバースティという自分の立場もあり、そのことを断念していました。ところが、四月二十二日に仕事が終わって帰宅しようとする途中、警察官に職務質問され逮捕されてしまったのです(これは石原都知事による外国人排除発言のあとでした)。
 五月八日になると警察は彼のオーバースティ容疑を不起訴のまま入国管理局に移送し、退去強制のための手続きを開始しました。彼は入国管理局に収容された直後に、自らが同性愛者であることを明らかにし、難民認定申請を申し出ました。
 イランでは、これまでヨーロッパに亡命しているイラン人同性愛者が亡命先で殺害されたケースや、同性愛者として難民申請を行っていたイラン人が退去強制処分となり、イラン本国に着くなり逮捕されたケースがあります。また、イランでは超法越的な暴力装置である「革命防衛隊」や秘密スパイ機構などによる殺害事件が存在しています。そのことからも、今後、彼に対する脅迫や暴力から守るための取り組みを支援の輪を広げると同時に考えていかなければなりません。

(2)イランにおける同性愛者の迫害状況

 つづいてイラン本国における迫害状況が報告されました。シェイダさん支援グループでは、この間、証拠資料などを外国から取り寄せ、翻訳などあたってきました。その資料の作成の際に、イランでの同性間性行為を禁じている刑法「ソドミー条項」の存在を始め、イランで同性愛者が政府により処刑されているという事実やその他の迫害の事実、イラン人同性愛者が他国で難民として受け入れられている実績と判断理由などに沿って情報を収集してきました。
 イランでは80年代の同性愛者に対する迫害事情は、イラン・イスラム革命以降、「イスラム法学者による統治」(ベラーヤテ・ファギーフ)体制による国内の徹底した締め付け、法を超越した国家暴力機構である革命防衛隊や革命裁判所の創設によって加速されることになります。80年代には、およそ四千人の同性愛者が処刑されたといわれています。そのため、大量の同性愛者や左翼グループが迫害から逃れるため、ヨーロッパなどに亡命しました。九十年代になるとホメイニー師の死去に続くイラン・イラク戦争の敗北に伴い、宗教的強権政治の退潮や国際的孤立から立ち直るための政策がとられることになります。しかし、97年の「民主的」といわれるハターミー政権の成立以降においても、宗教的な強権主義勢力が、革命防衛隊や司法局などを依然として握っているのです。そして、同性愛者の迫害に対しても欧米などの批判をかわすために、同性愛者に対する処刑を情報統制でもみ消し、処刑理由も「同性愛」だけでは処刑せず「かん通」、「麻薬使用」などをくわえるという手の混んだ対応を行うようになっています。しかし、それにも関わらず、九十年には男性三名、女性二名の斬首による公開処刑が行われ、そのようすがイランの街々で放映されました。また、宗教的強権主義勢力と結託した同性愛者に対する民間暴力が横行し、見せしめとして行われているのです。
 国連では、「同性愛者が特定の社会的集団である」ことを認めており、シェイダさんが社会的集団の一員であり、「迫害の恐れが明白に存在するために、祖国に帰ることが出来ず、もしくは帰国することを望まない個人」という難民規定に対して法務省は対応すべきです。しかし、諸外国ではイラン人同性愛者が難民として受け入れられているというケースが多数存在するにも関わらず、法務省はシェイダさんのケースでは難民申請の一次棄却を行ったのです。

(3)難民認定・在留特別許可について

 また、難民認定と在留特別許可について、シェイダさんの代理人である大橋毅弁護士(池袋市民法律事務所)に報告していただきました。
 大橋弁護士はまず、難民認定法が改正されるきっかけとなった、インドシナ難民を受け入れるようになって以降の動きを紹介。そして、難民認定制度や入管法などについて説明し、シェイダさんのケースがどのような位置にあるのかを説明していきました。
 現在のところ、日本政府による難民を受け入れる門戸はあまりにも狭く、「六十日条項(日本に入国して六十日以内に難民として申請しなければならない)」を理由とし、具体的な棄却理由が公開されないと言う状況が続いています。既に彼は七月四日に、難民認定申請のが棄却され、それに対する異議申し立てをしていますが、同時に退去強制手続き令書が発付されています。アムネスティは、既に法務省のこのような対応に即時抗議し、退去強制をやめるよう訴えています。このような状況の中で、彼を何としても本国に帰してはなりません。
 集会では、友人によって語られるシェイダさんの生き様や有意義な討論を始め、集会アピール(アピールは書きに掲載)も採択され、今後の闘いの方向性や支援の輪を広げる上で有意義な交流となりました。なお、報告などが長引いて時間がおしてしまい、集会アピールの内容に関する討議の時間が十分にとれなかったことについては、参加者の皆様にお詫び申し上げます。(S)

2000/07/30 シェイダさんを救えっ!大作戦集会アピール


 本日、私たちは、イラン人同性愛者であるシェイダさんの難民認定を求めて集まりました。私たちは、シェイダさんとの出会いの中で、はからずも日本でのイラン国籍・その他の外国籍の同性愛者の権利が法的に脅かされていることを知ることとなりました。折しも、2月には東京・江東区の夢の島公園で同性愛者をターゲットにした襲撃・殺人事件が起こったこの日本で、イラン国籍の同性愛者であるシェイダさんがカミングアウト(同性愛者であることを公言すること)し、日本の同性愛者・性的少数者のコミュニティと豊かな関係を築くことができたことに、私たちは一筋の希望を見いだすことが出来ます。

 「同性愛者は黙っていれば周りからはわからない」と言う人がいます。しかし、同性愛者であることについて沈黙を強いられ、自らのアイデンティティを否定せざるを得ない状況に置かれることによって、全世界で幾万もの同性愛者が「死」を強いられてきました。改革が伝えられるハタミ政権以降のイランでも、同性間性行為を禁じた「反ソドミー条項」は今なお機能しており、処刑や謀殺、社会的な迫害はなお続いています。シェイダさんはこのような状況を変える一つの希望なのです。

 日本政府・法務省は、シェイダさんに対して国家的・社会的に迫害が加えられる恐れが明白にあるその土地、イラン・イスラム共和国に、彼を強制的に送還しようとしています。私たちはそのことに、強い怒りを憶えます。同性愛者を死刑に処する刑法があり、今でも処刑が行われているイラン。それでも、法務省・入管当局はそれらの点を不問に付し、「60日条項」をたてにシェイダさんを本国に退去させるつもりなのでしょうか。
その思いと共に、本日集った私たちは法務省に対し、次の要請を行うことを確認します。

一 法務大臣は、イラン本国での同性愛者への迫害状況を調査し、シェイダさんの難民認定申請を認めよ。

一 法務大臣は、ただちにシェイダさんの仮放免申請を認めよ。

一 難民として考えられる社会的迫害とは何なのか。法務省は、具体的にその根拠を明らかにせよ。

一 入国管理局は、シェイダさんの医療ケアを行え。

7.30〈 シェイダを救えっ!〉集会参加者一同



(交渉レポート)
シェイダさん難民認定問題で法務省難民認定室長らと話し合い
〜イラン国内での同性愛者の弾圧についての認識は平行線〜


 8月8日午後1時30分から、法務省1階の会議室で「チームS・シェイダさん救援グループ」と法務省入国管理局との話し合いが行われました。法務省側として出席したのは、木島正芳(まさよし)・入国管理局難民認定室長、北村晃彦・難民認定室翻訳官、上原巻善・入管局警備課補佐官の3名。一方、救援グループ側はチームSのメンバー4名と、アムネスティ・インターナショナル日本支部から1名、紹介議員の福島瑞穂さん(参議院議員)も出席されました。

本人提出の証拠を無視する難民認定室

 話し合いはまず福島さんから本日の趣旨の説明があった後、救援グループ側の申入書の質問事項について、木島難民認定室長より答弁がありました。
 救援グループ側は前もって提出していた申入書で、
(1)法務省は、イラン本国に於ける同性愛者に対する社会的迫害の事実が存在しないと考えているのか
(2)死刑制度が存在する国の中でも死刑に処せられる数が世界第二位とされるイランで、そのうち同性愛者が処刑されていないと言えるのか
(3)法務省は、イラン人同性愛者が他国で難民として受け入れられているという事実をどのように考えるのか
 の3点について質問を行っていました。これは、シェイダさんの件について問い合わせた福島さんに対して町田幸雄・入国管理局長が「イランでは同性愛者の処刑ケースはないものと聞いている」と言っていたことに対応して作成した質問事項です。もちろん、シェイダさんは救援グループの協力のもと、様々な国際的なグループから多くの文献を取り寄せ、イラン政府による同性愛者の処刑や、政府と結託した民間暴力の実態、欧米諸国がイラン人同性愛者を難民として受け入れていることなどを18点にわたる証拠資料として難民認定室に提出しています。
 ところが、木島室長はシェイダさんが提出した証拠については一切の言及を避けた上で、「様々な資料を調査した結果」として、(1)について、「イランでは、同性愛者を同性愛者であるという理由だけで死刑としたケースは存在しない」、(2)については、「イラン刑法には確かに同性愛者を死刑とする刑法はあるが、4回の告白と4人の証言を必要とするなど、適用条件が極めて厳しく、実際に死刑にされているケースは存在しない」、(3)についても、ドイツ・イギリスなどで申請がなされたケースの存在は知っているが、行政当局により完全に認定されたケースが存在するとは聞いていない、という認識を示しました。

難民認定室の立場はイラン政府寄り?

 救援グループ側は、シェイダさんが提出した証拠資料一式を再度提出用に持参していましたので、それを木島室長に提出しようとしましたが、木島室長が受領を拒否したため、やむなく説明時に閲覧してもらうこととし、木島室長の答弁に対する反論を行いました。
 救援グループ側は、本来難民条約の規定は、政府による死刑執行の有無ではなく、社会的迫害の十分な恐れの有無によって難民認定を行うこととしており、その規定に従うべきだと前置きした上で、以下の各点について、具体的なケースをもとに反論しました。
(1)イランでは90年に同性愛者五名がソドミー容疑で斬首により公開処刑された事件を始め、90年代に入ってもソドミー容疑による処刑が数多く存在していること。
(2)同性愛者ではない少数派の宗教指導者を、拷問によってソドミーの自白を強制した上で処刑したケースなど、刑法の適用自体が極めて暴力的かつ恣意的に行われている実態があること。
(3)ソドミー容疑で処刑された人に、『姦通』やスパイ容疑など他の犯罪もなすり付けられているのは、西側諸国の批判の目をそらすためのイラン政府による隠蔽工作であること。
 これらについて、木島局長は「今日の場は個別のケースについて話す場ではない」としながら、イスラム社会について「『姦通』・スパイなども重要な犯罪と認識されており、同性愛だけが厳しく扱われているわけではない」とコメント。救援グループ側は、それに対して同性愛者を残虐に処刑する方法をテヘラン大学法学部の学生に向けて説いたアルデビーリー師(元イラン最高裁長官)の講義の文面などを引用して再反論しました。
 また、難民認定についても、米国で14人、カナダで8人のイラン人同性愛者が難民として認定されている事実を、個別資料を元に説明しました。
 木島室長は、これらの具体的なデータに関しては言及を避けつつ、97年に大統領に選出されたハターミー師の政権のもとでは民主的改革が進みつつあることを強調。グループ側は、ハターミー師がまだイランの全権を掌握できていないこと、保守派との抗争の中で同性愛者の謀殺疑惑事件などが多発していることを主張し、現政権のもとでも難民認定が必要な状況が続いていると反論しました。

60日条項についても「立法論の問題」として門前払い

 次に、シェイダさんの難民認定申請を退けた法務省の第一次決定(7月4日)について、救援グループからの説明が行われました。
 救援グループ側は、シェイダさんが難民となるべき事由は以前から継続していたものの、急迫な状態となったのはシェイダさんが「ロフト・プラスワン」で行われた性的少数者に関するイベントで同性愛者であることをカミングアウトし、イスラム圏に於ける同性愛者弾圧を批判した99年の6月16日以降であること、シェイダさんはこの日を起算点として60日以内に難民申請を行うことを検討し、実際に弁護士との調整や、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などを訪問したものの、難民認定のためには入管に出頭しなければならず、場合によってはその場で収監された上、退去強制により本国に帰国させられる可能性があることなどを知り、その恐怖と失望感から難民認定の申請を断念せざるを得なかったことを主張しました。木島室長は、これに対して「現在難民認定の異議申し出に対する審査を行っているところであり、個別のケースについて配慮しなければならないところは配慮する」と述べました。
 また、アムネスティ・インターナショナル日本支部は、日本の難民認定について国際的に非難されるところとなっている「60日条項」(原則として、日本に入国し、または滞在中に難民となるべき事由が発生してから60日以内に難民申請を行わなければ、難民として認めないという入管法の悪名高い規定)について、この条項を理由として難民申請を却下するのはやめ、申請却下の場合には、より具体的な却下事由を示すべきであるとの主張を行いました。それに対して、木島室長は「60日条項は国会で議論の末決まった事柄であり、問題点は立法論としては分かるが、当方としては法律を尊重して認定を行っているのみである」とし、門前払い的な態度に終始しました。

全体としては大きな達成

 このように、話し合いは内容としては平行線に終わったわけですが、以前から難民問題について取り組んできた立場から考えれば、個別のケースについて、こうした話し合いが成立することだけでも一歩前進であるようです。
 これまでは、個別のケースについての話し合いは、実務担当者レベルの出席で、内容的にも「話を聞き置く」という程度にとどまるのが通例であり、室長自らが出席し、支援団体の質問に逐一答弁し、議論をするということ自体が、かなり珍しいことであるようです。
 また、難民認定室において、新聞や大使館情報以上のものは含まれないにせよ、かなりの情報がシェイダさんの件に関して収集されているようであり、難民認定室が本件についてそれなりの努力を行っていることも明らかになりました。
 全体として、こうした話し合いの場を持つことが出来たことは、シェイダさんの難民認定をかち取る上で大きな成果だと思います。しかし、難民認定室はあくまで「イランにはシェイダさんを難民として受け入れなければならないような状況はない」という立場に固執しており、今後はこのような認定室の考えを変えていくような働きかけをますます強めていかなければならないでしょう。(B)

(以上)


『Team.S(シェイダさん救援グループ)』

  電話 070-6183-5165(田中) FAX 03-3330-0324
  メールアドレス cbo51340@pop12.odn.ne.jp(庄子)
  シェイダさん救援グループHP http://www.fairy.net/~power/teams.htm




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