返還を乗り越えて闘う香港のNGO



9月下旬に返還後の香港で世界銀行と国際通貨基金(IMF)が年次総会を開催しました。ちょうどその時に香港を訪問する機会がありました。香港では政治グループや労働NGOなどが、世界銀行とIMFに対して抗議行動を展開しました。また、多くの労働NGOなどに現在の香港労働者を取り巻く状況を聞くことができました。その中のいくつかを紹介します。



@香港婦女労工協会(Hong Kong Women Workers` Association)
香港婦女労工協会の職員の方に、現在の香港における女性労働者を取り巻く状況を聞く。話しをしてくれたのは当協会のリンダ・杜さん。


60年代〜70年代にかけて大陸からの労働者が増加し、そのなかで女性も非常に若年齢で働いており、増加や繊維産業など労働集約型の労働形態がほとんどでした。80年代に入り中国市場が開放され、香港の工場は大陸に移転していきます。製造業労働者が52万人から17万人に減少しました。現在は雇用にも年齢の上限を設けて差別化している状況です。例えば30歳以下でないと雇用しないなどというようになっています。熟練を要しない労働でも年齢制限を設けています。そしてそれらの雇用形態の多くはパートタイムです。女性はさらに差別されていますが、統計的には男性の失業ほどはおもてには出ない。男性の失業率は94年に上昇しはじめましたが、女性は90年代はじめには上昇しはじめていました。
製造業からサービス業へ移行してきた労働者の抱える問題も厳しいです。その多くはパートタイムで、最低賃金や労働時間に関する法律もなく、低賃金、長時間労働を強いられています。多くの労働者が劣悪な労働条件のもとでの雇用を強いられる中、雇用者は外国人労働者枠を増やせと政府に要求しています。
労働法でいえば、香港はアジア地域の中で最低です。労働法は、週18時間以上、4週連続して同一雇用者のもとで働いた労働者にのみ適用されます。雇用者はさまざまな方法でこの適用を免れようとします。例えば一週だけ週16時間にしてみたり。そうなれば、労働者は労災以外の補償や権有給などの権利もありません。私たちはこの18時間という条件の撤廃を一貫して要求しています。
一般の労働組合は、パートタイムに対してあまり関心がないようです。また18時間問題についても語っていません。現在の状況は90年代から始まったのですが、運動の大きな障害として、労働者の流動性と、パートタイムと自覚していない労働者自身の問題があります。多くの人は現在のパートタイムの状況を一時的なものだと考えていますが、この間すこし変化が見られはじめました。パートタイムというアイデンティティーを持つ労働者も出てきのです。
香港では金融や不動産をサポートする産業が大半を占め、それらの産業は雇用を生み出しません。また現在多くの女性労働者が働くサービス産業は、景気に左右されやすく、香港労働市場の調整弁としてパートタイムが悪用されています。



A労資関係協進会

九龍半島の長沙湾の労働者地区で労働者の組織化や福利厚生を進めるNGO。女性労働者の自立をすすめるプログラムや職業訓練などを政府に先駆けて実施する。


68年に設立された。60年代後半に起った労働運動の盛り上がりの中で、多くの労組が誕生。それらを支援するための当会を設立。当初はホワイトカラー、公務員、教員が中心。70から80年代にかけ労組の運動も軌道に乗りはじめ、ブルーカラーへと発展。84年に労働者の多い今の事務所に引っ越してきた。この時期返還問題が取り出さされはじめ、労働者も関心を持つ。香港政庁は、選挙制度など一定程度開放的な政策を打ち出しはじめる。同じ時期この地区で多くの小さな労働者組織ができていく。80年代香港には100万人の製造業労働者がいたが、90年代に入り工場の本土移転で製造業が減少、製造業に従事する労働者は30万人(ホワイトカラーを含む)。この頃から製造業の移転問題に取り組みはじめる。失業者の再就職のための教育に取り組む。政府の再教育政策よりも前に再教育を行う。再教育を通じて労働者を組織していく。92年に政府の再教育センターが設立され(無料)、当会は人が減少した。現在は30歳以上の労働者を対象とする。会員は1000人で、70%が女性。現在は高等教育を受けた労働者にまでターゲットは拡大。
93年に再教育訓練のタイプ事務コースを中心に「ブルーダイヤ協同組合」設立(14人)。現在は企業として仕事を引き受けている。



B工人社区教育センター(Workers Community Education Center)

九龍半島の全湾地区で労働者の組織化をすすめるNGO。職員の莫妙英さん、殷恵静さんに話しを聞いた。


昨年11月に設立。清掃労働者、守衛を中心に組織化している。清掃に従事する労働者の多くは中年、女性、大陸からの「新移民」。現在彼女らは再就職は非常に困難で、マージナルな職に追いやられている。現在は教育意識の向上に力を入れている。労組とは異なりこちらから話しを聞きにいったり、相談に乗り出す。

殷恵静さんのはなし:80年香港に来て、事務職しかなかったが、それも移転で失業。再就職は困難だった。政府の再就職訓練で英語、コンピューターなどを習ったが、再就職できなかった。現在35歳以上の労働者は再就職しにくい。政府の再就職訓練生策は、資本家が要求する外国人労働者受け入れに対して、香港労働者が反発することを緩和するためのものでしかない。

同じ事務所には「女性ネットワーク」The Chinese Working Women Networkもはいっている。1996年に女性労働者の意識向上のために設立。現在経済特別区の深センに「深セン南山区女性労働者サービスセンター」を、地区共産党支部(政府機関だったかな?)との協力のもと設立し、女性労働者(特に出稼ぎ労働者)を対象に法律、衛生その他の教育、文化活動などを行っている。



C香港職工会連盟

8月30日に新しいオフィスに移転した独立系ナショナルセンターの職工会連盟(工盟)は、返還後も精力的に活動を続けている。返還直前に立法評議会で可決された団体交渉権などを含む法案は、返還直後に親中派で固められた臨時立法評議会で凍結された。7・1を越えて独立労組工盟はその活動範囲を着実に拡大している。その一方で傘下の労組間に不安が広がっている。工盟総幹事(委員長)のケ燕娥さんに聞いた。


現在私達の課題は、組織化と教育です。教育には二つあり、一つはすでに組織化されている労働者に対するもの。もう一つは未組織労働者に対するものです。現在一日に約50件の電話相談があり、その多くは職場に労働組合がありません。また2ヶ月に一回電話相談で接触した労働者を対象にしたセミナーを開き、他の労働者や労組との交流を持つ機会を提供しています。現在工盟には42の組合が参加しており、その3分の1が活動的です。内訳適には3分の2が企業別組合、残り3分の1が産業別組合です。

私たちが活動をする上で二つの壁があります。一つは古くからあるナショナルセンターです。古くからある労働組合はさまざまな経済的魅力があるために、私達のような新しいナショナルセンターは不利です。香港の組合の特徴として、1年の内10ヶ月はレクリエーションや福祉活動を行っており、、また労災などが発生しても、資本に補償を要求するのではなく、組合員同士がカンパを募り当該を助けるという伝統があります。中共系のナショナルセンター、香港工会連合会などは独自のデパートや職業訓練所を持っている。このように福利厚生の特典のあるところには労働者のほうから加盟してくる。ときには工盟に対しても同じような要求をする労働者がいますが。しかし現在工盟に加盟している42の組合はそのようなものを要求するのではなく、真剣に労働者の権利を考えている組合なのです。

もう一つの壁というのは、われわれが過激派と見られていることです。実際は、韓国民主労組よりもずっとおとなしいのですが。私たちがそのように見られるのは、労働者が自ら動いて諸問題を解決しなければならないと訴えているからなのです。また「反中国的」とも見られていますので、そう見られたくない組合は加入してきません。先月もある支部が脱退をしました。このような政治的な問題を乗り越えるために、昨年から政治問題を討論する機会を持ち、そこでは労働者が経済問題だけではなく、社会問題、政治問題にも関心を持ち、民主主義を守る必要があることを話し合っています。ですが、実際、一部の支部リーダーは不安を隠せず、これ以上不安を増すような行動はしたくないと考えています。例えば傘下の6労組では、実力で団交権を獲得していましたが、そのうちの一部は賃金交渉の際にこの権利を行使しませんでした。私たちは団交権を行使するように説得したのですが。労働者の失業に対する不安を解消することは、最も重要な課題であり、かつ最も困難な課題でもあります。お互いに不安を話し合い共有し合う、また個人的な問題と政治的問題を関連づけて討論していくということを進めています。工盟は政府や資本家が低賃金で雇用できる外国人労働者の受け入れをしないように要求する一方で、現在香港で働く外国人労働者の権利・待遇を香港人労働者なみに向上させるための活動もしています。しかし相対的に言って社会的に資本家の力が強くなっています。

香港の労組を、中国本土の中華総工会のように統一しようという動きは今のところありません。しかし香港の中国系ナショナルセンターである工聯会はそれを望んでいるようなので油断はできません。今年2月にILOから私たちに対してセミナーの招待があったのですが、それを知った工聯会は中華総工会経由で香港政庁に圧力をかけ、香港政庁は私たちに参加を辞退するように求めてきました。当時は団体交渉権を定めた労働法の制定運動に集中しており、面倒なことを避けたかったので参加を見合わせました。私たちが望むことは中国政府が極力香港には干渉しないということです。

工盟は労働NGOネットワークに参加しており、そこでは月1回の交流会がもたれています。主には女性団体との交流で、労組内ではあまり語られない女性を取り巻く問題に関する活動を強化しようと思っています。

返還後最大の変化といえば、返還直前に可決された団体交渉権を明記した労働法の凍結です。工盟や民主的政党などはこの凍結に反対しましたが、工聯会は、反対の姿勢を示しつつ、実際には賛成しています。私たちはハンストやデモなどで「商人治港」(資本家による香港支配)に抗議し、労働法の凍結を阻止する闘いを展開しました。





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