99.8.28 アジア連帯講座 国際フォーラム

台湾の労働運動の現状と
新たなナショナルセンターの結成にむけた動き
洪 家瑜



二つのホットな話題
 今、台湾でホットな話題が二つある。ひとつは、台湾の総統である李登輝が、「二国論」発言をしたことである。台湾の多くの人々はこの発言を支持している。
 私たちは、台湾と中国の平和安定のために、また将来の中国の労働者との連帯という視点から李登輝発言について批判的に思っている。同時に、台湾は数千年以前から中国の固有の領土だという中国共産党の主張に対して私たちは、台湾民衆の自立権や自治権を認めないという点で、国際主義的立場から断固として反対する。
 もうひとつは来年三月に行われる台湾総統選挙である。現在まで六人の候補者が立候補しており、その中で最も影響力がある人物は三人いる。しかしこの六人の候補者は、自由化を進めるということで一致している。
 非国民党系の候補者が当選する可能性が非常に高まっている。もし非国民党系の候補者が当選すれば、国民党が台湾に侵入してきて以降の歴史で、初めてのことになる。これは台湾内のさまざまな政治勢力の再編につながると考えている。

台湾におけるグローバリゼーション
 自由化の流れは台湾の支配階級にとって、ゆるぎない方針となっている。WTOの加盟によって台湾の市場は多国籍資本に開放され、電信事業やタバコ・酒事業は大きな影響を受ける。
 また、公営事業の民営化はここ数年間、一貫して進められている。海運事業、鉄鋼業、建設業、石油化学事業の公営企業は、すでに民営化されており、台湾客運バス会社では、労働者が一万四千人から三千人に削減された。また最近、交通省は八万人のリストラ案を発表した。
 このような政府の民営化路線は社会福祉や教育にまで貫徹されようとしている。九四年に開始された健康保険制度は、すでに深刻な財政的危機を迎えており、健康保険の民営化が進められようとしている。また公立病院も民営化に直面している。政府が実施しようとしている国民年金は、保険料を一律の金額で徴収するという、きわめて不公平なものである。教育に関しては、これまでも大学の学費引き上げが行われてきた。最近では公立大学の民営化も叫ばれている。
 労働法制の改悪も進められている。労働基準法の改悪によって労働時間のフレキシブル化が進められようとしている。労働組合法では、全国産業総工会の結成が可能となるような規制の緩和や、これまで三十人以上でないと組合が結成できなかったがそれを二十人にするという一方で、公益事業組合のスト権をはく奪するという改悪案が出されている。また、労働者派遣法の制定も模索されている。
 政府は税制面でさまざまな資本家優遇政策をとっている。その一方で失業率は上昇しており、一九九九年六月の政府発表の失業率は二・九二%に上昇している。貧富の格差の拡大、労働条件の悪化や賃金の引き下げ、労災の多発などは、恐らく市場競争の激化によるものである。
 組合の組織率が低下している。資本の海外移転、工場閉鎖などで組合の数自体が減少している。全国の組合数は三千七百五十、組合員数は二百九十四万三千五百五人、組織率は四十一・十四%。そのうち産業別組合は千百八十、組合員数は六十万二百三十三人、組織率は二十二・六十九%になっている。

台湾労働運動の歴史と現状
 台湾の労働運動の歴史は、日本の植民地時代の台湾共産党系の台湾赤色組合と台湾民衆党系の台湾工友総連盟にまでさかのぼる。第二次世界大戦以降若干の高揚期があったが、すぐに国民党の白色テロによって弾圧された。五〇年代以降、国民党は独裁的支配のもとで戒厳令を敷き、中央選挙を制限していた。また党組織やスパイ組織を使って組合を監視、統制していた。組合法を通じて産業組合を企業組合にとどめ、労働者の団結を妨害した。
 一九八四年にアメリカの圧力で労働基準法が実施されたが、それがすべての業種で実施されなかった。国民党の支配に不満を持った労働者は、非国民党系の民主化運動を支持したが、一方では組合の中では国民党の影響力が貫徹するという事態が起こった。八〇年代中ごろには民主化運動が高揚を迎え、台湾の労働運動も政治的に活躍することになる。八六年の民主進歩党(民進党)の結成。八七年の戒厳令解除、争議の増加と自主組合運動の発展は、八七年に労働者党を結成させた。
 しかし、まもなく分裂し、その中の統一左派が八九年に台湾最初の社会主義政党である労動党を結成。その影響下にある労動人権協会が労働運動を支援している。しかし労動党は、中国との統一を主張し、中国共産党政権を支持しているということから、労働運動での影響力は低下している。
 八四年に最初の労働支援団体である労工法律支援会(労支会)が結成され、九二年には台湾労工陣線となる。ここは民進党の影響を強く受けており、台湾独立派。
 ここから分裂した組合活動家集団として、「赤信号左転回グループ」は公営事業組合の中で活動している。この間の反民営化による公営事業労組の活発化によって、一定の影響力を持つグループになっている。また、新たなナショナルセンター結成の動きの中でも影響力を持つ。しかし、台湾独立と漠然とした社会民主主義政党の結成という主張以外には、イデオロギー的にははっきりしないグループである。
 それ以外に統一でもない独立でもないという工人立法行動委員会(工委会)は、さまざまな労働組合や労働NGOが結集する現在台湾で最も活動的的な団体である。

新たなナショナルセンター建設の闘い
 九〇年代初めに起こった自主労組運動は九四年に台北県地域ナショナルセンターを結成した。それ以降現在までに台北市、高雄市、高雄県、新竹県、苗栗県、宜蘭県、台南県の地域で地域ナショナルセンターが結成されている。
 政府の民営化政策に反対する過程で、多くの公営事業労組が国民党系のナショナルセンターから脱退した。現在、公営事業労組の台湾石油労組、中華電信労組、台湾自動車客運労組、台湾鉄道労組、台湾電力労組、たばこ・酒産業労組連合会と大同電気労組という大手民間電機メーカー労組が、上述の地域ナショナルセンターと協力して全国規模のナショナルセンター建設のために準備会を結成した。これらの組合に結集する労働者は二十五万人。来年の一月には結成にこぎつけたいと考えている。
 われわれの任務は労働者階級に根ざしたナショナルセンターの結成というだけではなく、さらに強固な左翼組織を発展させ、進歩的な労働者と知識人を結合させ、台湾の社会主義運動を前進させなければならない。さらに労働運動全体、あるいは学生運動におけるわれわれの目標と任務の基本的方向性を構築していかなければならないと考える。





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