アジア連帯講座 2000年沖縄連帯・反サミット連続講座

WTOシアトル会議と沖縄サミット
喜多幡 佳秀さん アジア太平洋労働者連帯会議(APWSL)日本委員会




 四月十五日、東京の文京区民センターでアジア連帯講座による「WTOシアトル会議と沖縄サミット」と題する公開講座が行なわれ二十人が参加した。講師はアジア太平洋労働者連帯会議(APWSL)の喜多幡佳秀さん。
 はじめに司会から、沖縄サミットへの闘いにむけた連続講座の第一弾として、昨年十一月末から十二月はじめにかけてアメリカのシアトルで起こった世界貿易機関(WTO)閣僚会議に対する大規模な抗議行動のうねりを、沖縄サミット・米軍基地に対する闘いとどのように結びつけていけるのかが問われているとあいさつがあった。
 喜多幡さんの講演はクイズから始まった。「マレーシア、ノルウェー、ナイジェリア、ゼネラルモーターズ、トヨタ、ネッスルのなかで、経済規模(国ならばGDP、企業は売上高)の大きい順に並べてください」。答えはトップがゼネラルモーターズ、二位はトヨタ、三位はノルウェー、四位はマレーシア、五位はネッスル、六位がナイジェリアという順に並ぶ。多国籍企業が一国の経済規模をはるかにしのぐ経済活動を行なっている実態がかいまみえる。喜多幡さんは新自由主義的グローバライゼーションの現状を、いくつかの驚くべき資料などを交えて説明した。しかしソ連東欧崩壊後およそ十年が経ったにもかかかわらず資本主義が成功していないことを提起した。
 シアトルで何が起こったのかということについて、AFL-CIOや消費者運動の闘いを紹介した。そして「課題評価すべきでない」と注意を促した。しかし何が始まったのかということについては「過小評価すべきではない」として労働運動をはじめとする世界的な反撃の糸口が見え始めたことを喚起した。
 沖縄サミットとの関連では、沖縄の反基地闘争を国際的に位置付け、沖縄サミットに労働運動と市民運動の登場を実現する必要があることを訴えた。
 質疑応答では、いわゆる「人権抑圧」国家に対してどのように取り組めばいいのかと質問に、喜多幡さんは「その国の具体的な状況によって取り組み方は異なる。当該国の民主的グループや自立的労働組合の要請に応えていくということが必要ではないか」と答えた。またMAIはどうなったのかという質問には、とりあえずは凍結されたが、現在は二国間の通商協定が浮上しており、日本は韓国やメキシコなどいくつかの国との通商協定を締結しようとしているという会場からの発言もあった。
 グローバリゼーションという新しい世界的状況の中で、解決されてこなかった様々な問題がより進化した形で頭をもたげようとしている。しかし抵抗する側も古くて新しい力――国際主義という力を発揮することが可能であることがシアトルで示された。九五年の米兵による少女暴行事件から始まった沖縄のあたらしい闘いの流れは、名護海上へリポート基地建設に全力で立ち向かっている。一人でも多くの仲間が沖縄の反基地闘争に連帯する各種取り組みに参加することを訴える。
 帝国主義サミットを全世界の民衆で包囲しよう!新たな基地建設を許すな!(H)


喜多幡さんの講演から


新自由主義経済とそれに対する抵抗運動

 世界トップレベルの企業は労働者を解雇するだけでなく、しばしばリストラによって株価を上げており、その企業の役員はそれによって収入が増加している。いま、アメリカの経済が調子がいいといわれているが、企業の役員と解雇される労働者の経済格差が拡大してきているという側面を見逃してはいけない。また、驚くことに世界貿易の三分の一が同企業の別の部署同士の取引である。世界経済を支配する多国籍企業がますます勢いを増す一方で、「南北」間だけでなく国内でも貧富の格差が拡大している。アメリカでは労働者と企業の会長の収入格差が、一九八〇年には四十二倍だったのが九九年には四百七十六倍に拡大している。株式投機、ディリバディブなどが横行し、バクチと詐欺の論理でしかない新自由主義と呼ばれる市場原理主義が世界を席巻している。
 しかしそれでも、資本主義は成功していない。旧ソ連・東欧の各国では十年前よりも経済状況が悪化している。一九一七年にロシア革命で社会主義への道を進んだ時と、ソ連・東欧崩壊後を比べてみても、明らかに前者の方が民衆の生活を向上さた。それだけを見ても資本主義の復活は成功しいない。
 また「南」の矛盾が新しい段階に来ている。八〇年代の資本主義はまがりなりにも南の国をどのように発展させていくのかという開発戦略をもっていたが、いまはそれすらも放棄して、投資先の限られた富裕層だけを対象とした投資、市場経済を進めている。
 また、国際通貨基金(IMF)や世界銀行、一国家の法律に優先する強力な統制権を持ち、かつ一部の帝国主義国家がその実権を握る世界貿易機構(WTO)が多国籍企業の経済活動を保障する環境を整えてきた。WTOに先駆けてOECDで投資の自由を保障しようと検討していた多国間投資協定(MAI)は世界的な反対運動とOECD内部での対立で凍結状態に追いこまれた。しかしMAIで目指したことはWTOに引き継がれている。
 MAIやWTOによる投資の自由化は反対運動によって一時的に交渉が中止においこまれてはいるが、ヨーロッパ連合(EU)をはじめとした地域統合や北米通商協定(NAFTA)など二国間の取り決めというかたちで進められている。
 反MAIキャンペーンや債務帳消し運動が闘われている。昨年六月にケルンサミットで最貧国の債務の一部取り消しを決定したが、それは第三世界の債務全体の二%以下である。また債務国はこの二十年間に元金の四倍以上は返還しており、現在は利息を返還しているのである。これは道徳的にも債務は帳消しされなければならない。
 国際的投機に対する規制を求める運動もある。それは「トービン税」と言い短期間での投資に対して〇.〇五%の課税をすると年間五千億ドルの歳入が得られる。この歳入分を第三世界の医療や福祉に当てるというものである。
 ヨーロッパレベルで闘われた反失業闘争に見られるように、自由主義的規制緩和への反撃も始まりつつある。「規制緩和の先進国」といわれてきたニュージーランドでは、九一年に労働組合以外に個人にも協約を認めるという雇用契約法が導入され、労働運動が大きなダメージを受けた。しかし昨年の選挙では、この雇用契約法の廃止を掲げてを労動党と連合党が選挙に勝利した。この結果は、十年を経て民衆が規制緩和ではなく労働組合の役割を尊重するという方向での改革を選択したということである。

シアトルでは何が起こったのか、何が始まったのか

 シアトルの闘いで何が起こったのか、そして何が始まったのか。当時シアトルに結集したのはラルフ・ネーダーが主宰する消費者運動「パブリックシチズン」、アメリカ最大のナショナルセンターであるアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL・CIO)の労働者たち、債務帳消しの世界キャンペーン組織であるジュビリー二〇〇〇をはじめ農民団体や環境団体などWTOを中から変えようというグループと、直接行動ネットワークや南のNGOなどが中心のピープルズグローバルアクションなどWTO粉砕グループなどである。これら様々なグループがシアトルの街頭では共存していた。
 閣僚会議の決裂について、大統領選をひかえたクリントンが反WTOデモを支持し社会条項(国際労働機関が九八年六月の総会で「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」として採択した国際労働機関の児童労働の禁止・強制労働の禁止・雇用上の差別の禁止・結社の自由・団交権が守られていない国に対しては通商制限を行なうとするもの)をWTO規約に明記することを要求する労働運動側に譲歩したことからヨーロッパや第三世界の代表と対立した。そして大衆動員の圧力によって閣僚会議を決裂に持ちこむことができた。しかし「何が起こったのか」については過大評価すべきではない。そこに集まった人々がすべて新自由主義に反対するという立場から抗議行動に参加していたわけではない。むしろグローバライゼーションを容認した上で、それに何らかの制限をつけていくという傾向の人々が多かった。例えばAFL・CIOの基本路線はクリントン外交の後押し的性格が極めて強い。戦略をめぐる討論はまだ始まったばかりである。だがWTOのプロセスを一時的にせよストップさせたということが重要な成果である。
 では、何が始まったのか? これは非常に重要で過小評価すべきではない。新自由主義的グローバライゼーションに対する国際的抵抗の可能性が明らかになったこと。そして規制緩和は止められないというイデオロギー攻勢への反撃が可能であることを証明した。従来相互に不信すらあった労働者の闘いと市民運動の共闘がシアトルで実現したということは、今後の闘いに大きな希望を与えるものである。
 戦略的には、新自由主義的グローバライゼーションの「行き過ぎ」に環境や人権の面で制限をつけるという「参加型」が、AFL・CIOだけでなく市民運動のレベルでも主流である。具体的な課題、例えば国連やILOなどの国際機関の条約にどのような実効性を持たせるのかということは、考えなければならない問題である。例えば国鉄闘争の現局面で出されたILO勧告にどのような強制力を持たせるのか。また他国席企業の監視と規制についてもいくつかの経験もあり極めて具体的な課題の一つである。参加か抵抗か、これからより具体的に討論が始まっていくだろう。

沖縄サミットにおける課題

 シアトルの闘いを引き継ぐ国際的闘争としての沖縄サミット反対闘争には、二つの課題がある。一つは沖縄・反基地闘争を国際的な闘争として訴える。プエルトリコ・ビエケス島の米軍基地撤去闘争との連帯など。もう一つは、沖縄サミットで話し合われる新自由主義的グローバライゼーションのあり方に対する日本の労働者・市民の闘いを登場させるということ。
 社会条項に対する評価や中国のWTO加盟をどう考えるのか。中国のWTO加盟は、この間改革・開放政策によって拡大してきた貧富の格差をはじめとする諸矛盾をさらに拡大するとして反対すべきである。米国を中心とする人権団体の主張は混乱している。人権を抑圧する国家をWTOに加盟させることに反対するという主張は、WTOにどの国が良い国でどの国が悪い国なのかを選別する権利を与えるということ。そもそもWTOにはそのような権限はない。香港には中国の独裁的支配に抵抗して自主的労働運動をかちとるために活動しているグループがある。そこが中国のWTO加盟は中国労働者をさらに苦境に追い込むと主張しており、私たちはそのような主張に連帯するべきである。
 沖縄における最も大きなテーマの一つである米軍基地・軍事の問題とグローバライゼーションがどのように関連しているのか。
 拡大した「国益」――それは多国籍企業の利益に過ぎないのだが、それを守るために不断に軍事力を誇示しなければならない。冷戦後各地域で頻発している紛争において、それを解決できる政治的リーダーが紛争地域では不在なため、アメリカ軍が軍事力を誇示し、時には直接乗り込んでいかなければならなくなっている。また軍事産業事態が、すでに経済構造に深く入り込んでおり、その独自の発展の力学が働く。モノ=武器が余ってくればそれを使うところを必要とするのが資本主義である。そのような衝動が常に存在している中で、世界的には紛争が多発しており、様々な要因が混在して常に戦争の危険性がある。
 日本、アメリカ、ヨーロッパのナショナリズムも注意しなければならない。特にアメリカでは軍事力の行使によって支持率が上がるというナショナリズムの存在は大きい。アメリカへの対抗的意識と東欧地域に対する影響力を誇示したいヨーロッパ。日本においてもナショナリズムの増大は無視できなくなっている。イデオロギー的には「人道的介入」という新しい戦争が登場している。
 「冷戦の終結」と言われているにも関わらず、軍事的緊張は拡大しており、沖縄の米軍基地の役割も拡大している。現在、名護辺野古に建設されようとしているヘリポート基地をはじめとする沖縄の米軍基地の強化は、グローバライゼーションのもう一つの側面で、日本はその流れの中で「戦争のできる普通の国家」を目指して突進している。憲法改悪がすでに日程に上っており、状況は緊迫している。戦後民主主義を代表してきた諸組織や労働組合が、有効な反撃ができていないなかで、それを超える闘いが様々なところから始まっている。現在の沖縄の反基地闘争はサミットを巡る様々な闘いの流れの中で重要な役割を果たすだろう。




ホームに戻る