あとがき

 長々と私の旅行におつきあいいただきましてありがとうございました。たかが一週間くらい旅行しただけではしゃぎ過ぎだという声も聞こえてきますが、毎週みさと屋の野菜宅配ニュースを読んでくださっている方々からは、写真を添えて通して読ませて欲しいという声がたくさん寄せられました。説明不足が多い内容ですが、みさと屋の仕事として発行しているニュースの枠内に細々と載せてきたものなので、これで精一杯です。この旅行のためにちょっぴり長い夏休みをいただいて、ご迷惑をおかけしたお客さまにあらためてお礼を申し上げます。

 さて、野菜ニュースからはみ出した部分を少し付け加えさせていただきます。ソウェトから帰った私たちは、津山直子さんが翌日帰国する私のために開いてくれた送別会を兼ねた夕食に出かけました。ヨハネスバーグの繁華街に出て、予約しておいてくれたレストランで南アフリカの何種類かのビールで乾杯しました。みんなカレーを注文したのですが、ごはんにあたるものが昼にも食べたトウモロコシのパップか、豆を煮込んだものか、イカディカ米のライスかというので、私は豆カレーにしました。これもこちらの伝統的な主食なんだそうです。壽賀君たちはパップカレー、こちらもおいしそうです。ヴィクターの皿だけはカレーなしの豆だけなので、どうしたのかなと思っているところに運ばれてきたのがスマイリーという名の料理です。朝から津山さんが山羊の頭を食べさせてあげるといっていたのですが、これがその山羊料理だったのです。左右半分に割った頭を煮込んだもので、煮ると口が開いて笑ったようになるのでスマイリー。こちらの黒人たちの伝統的な料理だそうです。がんばって食べてみましたが、強烈なマトンの匂いで挑戦した日本人一同はやがて手が出なくなりました。残った山羊の頭をヴィクターが豆を食べながらたいらげた、という訳です。私たちがあまり食べられないだろうということを予想していたようです。この国の食べ物にできるだけ出会いたいと考えていた私ですが、昼の豚モツ煮込みとこのスマイリーで試された結果はとても情ないものでした。残念です。
 翌日、フライトは午後3時。昼に出ればいいのでどこかに行きたいなと考えました。帰りは帰国ギリギリまで会議の連続の中にいる高梨君と一緒です。JVCに荷物を預けて、ひとりで近くの博物館か動物園に行きたいと思いました。私は日本でもどこかにでかけると、時間があればそのような場所に行きます。観光をしたいというより、その街のひとびとが自分たちの街をどのように思っているかがよくわかるからです。そこで地図のうえでは近そうなミュージアム・アフリカに行きたいとみんなにいいました。その瞬間みんなの顔がこわばり、しらけた空気が漂いました。はっきりダメだという人はいないのですが、高梨君など『海外旅行は最終日が大事なんだ』などといいだして、日本人旅行者が帰国日に気を許した時に盗難にあったり強盗にあったりしやすいのだ、などと力説し始めました。パスポートもカードもなくしてしまって帰国できなくなった例をいくつもあげます。壽賀君も私が示した地図を見ながら、この辺があぶないなぁ、行きはここからタクシーでいけばいいが、帰りのタクシー乗り場があるという保障はないね、なんていいます。さすがに私もあきらめました。そこで近所のスーパーを見てきていいかなといってみると、みんな安心したようにそれがいいといいました。カメラだけをもって出ようとすると、ポケットから絶対に出すなよといわれ、道はまっすぐに歩いて、立ち止まって街を見回したりしてはいけないと念をおされました。そしてやっと今回の旅で初めての『ひとり歩き』をしたのでした。
 スーパーの野菜売り場はやはり興味深々です。それほどの種類はないのですが、日本にはないものも多数あります。特に葉ものが変わっています。乳製品はたいへんな品揃えです。チーズはどこで食べてもおいしかったのですが、スーパーにも50種はありました。お茶のコーナーでルイボスティをチェックしましたが、8アイテムあり、紅茶とほぼ同じ品揃えです。こちらでは赤ちゃんに安心して飲ませられるお茶というイメージが強いようです。スーパーからJVCの事務所に帰る途中で民芸品の店を発見したので、覗いてみました。インド系の女性たちが働いています。ここで母親にアフリカ民族衣装と、店のためにクッションカバーを買いました。
 さて、ここでこの旅行記は本当に終了します。ヨハネスバーグ空港には壽賀君とJVC南ア事務所の日方さんが見送りに来てくれました。チェックインした後、みんなでコーヒーを飲みましたが、5日前の朝5時にこの同じ場所で津山さんたちと夜明け前のコーヒーを飲んだのがウソのような気がして仕方ありません。ひと月は前のことのように思えました。搭乗ゲートに移動しようとして乗ったエレベーターが故障していたようで変な動き方をしたのでみんなあわてて降りました。高梨君が、『ここで閉じ込められて飛行機に乗り遅れたら、暴れてやる、暴れてやる』といいました。小さい赤ちゃんを残して出張中の彼の気持ちがわかったような気がして、そして私が博物館に行こうとしたのを止めた気持ちもよくわかったのでした。

パップ&カレー

スマイリー&豆

壽賀くん、高梨くん、日方さんと

この方が津山直子さんです