「丹 沢」                      
                            1998 3/24 鎌田武雄
 2月の中旬に鈴木雅子さんのお誘いにより大学の研究室の後輩とともに神奈川県にある国民宿舎「丹沢ホーム」に出かけてきましたので、報告しようと思います。
 まだ雪の残る山道を車で到着したホームは予想外に(←偏見)豪勢な建物であり、スタッフの方々の親切さとあいまって、消費生活につかりきった私でも文句なしに五つ星をつけたくなるような宿舎でした。(←すこしおおげさか。)
その丹沢ホームの主である中村道也(なかむらみちなり)さんから、いろいろと伺ったお話からいくつか記します。
わたくし個人としては、・;最近の日本における(「丹沢における」も可)鹿の個体数の増減と農家や林業家の方々の被食害の実状 と、・;神奈川新聞に掲載された鳥獣保護法の改案があるとした場合、その最大の動機がどこにあるのか(すなわち、どういう立場の人々がどういうメリットを見込んで動いているのか)という、おもにこの2点について尋ねたいと思っていました。
 ・に関しては、「もともと栃木日光の鹿と同程度であった丹沢の鹿の体格はえさ不足により小型化の一途を辿っており、ここ10年ほどでその平均体重はほぼ半減したそうです。つまり、えさが減ると、群れの個体数ではなく平均体重を減らす方向で対応するらしいのです。」→ということは鹿テリトリーへの人間の侵食による生活環境の量的質的低下が進み平均体重がさらに下がれば、越冬できない個体が激増する冬がにわかにおとずれる可能性も考えられませんか。
 また植物の被食害については、深刻に受け止めなければならない状況の多くは専業農家に関してであって、神奈川県下の兼業農家の方々の多くは自家用に有機作物を作っている程度なので、本気で動物を駆除しようとは思う方はほとんどいないようです。私も鹿・猿が全国的に増えて地元の人々が困っている、と聞くことがあり、事実一部地域的に増えている場所もあるのだろうとは思いますが、人間が年々動物のテリトリーに進出して行っていることからすれば目撃・被食害の報告件数増加は当然ではないかとも思われます。鹿にとっても、えさが少なく足場の悪い高地はよい生活環境ではないそうです。
 ・に関しては、「今回の鳥獣保護法の改案については全国で唯一神奈川新聞でのみ報道されたことから、民間の反応を伺うための布石ということも考えられる、とのことですが、それを考慮したうえで、改案のメリットがあると考え易いのが被害の報告があることで仕事と予算を期待できる農協ではないか。」ということです。
→実際のところ、どんな方々にどういうメリットがあるのか、私には判然としません。
 ところで、中村さんはスポーツハンティングに関しては、次のように提案しておられました。「広大な猟区を北海道や福島につくり、一頭撃ったら5万円とかいうようにすればよい。アメリカ合衆国にもそういう場所はある。日本は、いわば列島全体が猟区でその中に保護区が点在しているといった状況だが、実際はその逆が望ましい。」
→私個人としては、生存をかけて食べるために必死で狩るという状況以外に、動物を故意に殺すことは想像できません。(幼児期にアリを踏みつぶして観察したことはありますが。)スポーツハンティングは徹底して弱者を虐待する異常な行動としか表現しようがありません。哺乳類を撃ち殺すことをただ楽しむような非人間性は釣り堀のような猟区内だけで発揮して欲しいものです。(ハンターには、やらず嫌いと言われるかも知れませんが、生きるため以外にはやりたくもありません。)
 中村さんのお話しからもうひとつ。
「美しい自然と共生したいというのは万人の望むところだと思う。そこで、どの程度自然を残していくのか、その具体的な将来像を明確にし、そのうえでそこに到達するための手段・方法を議論すべきだ。」
→昔からどの生物もお互いに利用し利用されて命の糸を紡いできていると言えると思います。人間はあまりに巧妙かつ大量に環境に手を加え利用していますが、我々は自発的に現在の消費生活の水準を落とすことはしませんし、(様々な輸送機関・情報伝達機関などをなくしてはもはや生きていけませんよね?)我々の能力からしてこれからも自然を一方的とも言えるやり方で搾取し続けると予想できます。そうなるとやはり、どこにどの程度、搾取しない自然を残すつもりなのかをはっきりさせる必要がでてくると思われます。ただ実際問題としては、ある程度開発が進んだ地域の方が暮らしやすいというのが本音でしょうから、不公平感のない自然の残し方というものも考えることになるのかも知れません。(まぁ、こんなことはあぁだ、こうだ、と言っててもなかなか埒が明かないものです。のっぴきならない状況が来て皆が動かざるを得なくなるまでは、根治しない問題のような気もします。) 中村さん曰く、「ここ(丹沢ホーム)に来て、「自然はいいですね、残したいですね。」とか「いいところに住んでますね、うらやましいです。」とか言うのは決まってみんな開発の進んだ市街地で自然と共生なんかしてない人々」だそうです。当然、好意で言っているのですが、実際に丹沢に住んでいると「自然と共生なんかしたくない。」と思うことがあるとのこと。たとえば、降雪時の食糧買い出しは困難を極め、災害による停電時の復旧は市街地のあとまわし、豪雨時には商売道具の釣り堀のある川を巨岩が流れてくることもあるそうで、そんな時は寝てもいられないそうです。
 追伸として、私なりの中村さんに対する記述を添えます。
丹沢という地に足を付けた実行型自然保全活動家であることも素晴らしいことですが、特筆すべきは手段や過程の自己満足にこだわるよりも実質的な目標の達成のためにこそ労力を使うタイプだということだと思います。(うまくない例えかもしれませんが、お役人をはなから否定し食ってかかるようなことをせず、理解ある職員を見つけて目的達成に便利な助言をもらう、など。)私自身もそのように振る舞いたいと思うのですが、ところどころで自分らしいゆがんだ反応が顔を出すので、常にうまくはいきません。環境保全に限らず、様々な活動家の方々が目標をよく見据えてスマートに立ち回ってくださるよう祈っています。
 これにて報告はおしまいとしますが、ここに書いたことはたかが一泊二日で見聞きしたことのさらにごく一部です。会員の皆さんにはお忙しい方も多いことと思いますが、鹿や鳥たちを見聞きし中村さんたちのお話を伺いに、ぜひ一度直接「丹沢ホーム」へ行かれることをお勧めします。