<成功の遠吠え>
The Japan Times Weekly 1998.2.14

何世紀にもわたって、米合衆国北部五大湖地域では灰色オオカミたちが、土地の諸部族から精神的同族として敬われながら生きてきた。そこへヨーロッパからの移住者たちが住み着いたが、彼らの文化的継承の中には、オオカミを悪の化身とするおとぎ話しの類が満ちあふれていた。家畜を襲われた怒りに駆られ、オオカミの首にかけられた政府の懸賞金に心駆られ、移住者たちはオオカミたちを、絶滅のふちにまで追いやった。1973年には、ミシガン湖の北方の森林に生き残っていたオオカミは、6頭に過ぎなかったと考えられている。
 今、オオカミたちは、生物学者によると目覚ましく強力な失地回復を勝ち取りつつある。成功の原因として、オオカミの移動と、厳しい保護法がある。生物学者たちにとって、これらの要因と並んで喜ばしいことに、住民の多くの考え方が変わり、以前は見つかり次第に撃ち殺されていたオオカミたちの再現が歓迎されるようになった。
 ミシガン州の自然資源局に籍を置く野生生物学者ジム・ハミルによれば「実に信じがたい話しだけど、以前は殺し尽くされ、狩り尽くされてきた彼らが、今、自分からここへ戻り始めているんです。そして、住民たちが、彼らが生き延びることを許しているんです。」と言う。
 1990年に行われた調査及び、それから3年後に開かれた何回かの公開会議の結果、同局が得た結論によれば、東部森林オオカミとも呼ばれる灰色オオカミの帰還について圧倒的な支持が見られる。
 しかし、農民の中には心配の声もある。冬の厳しい寒さによって、オオカミの好物である白尾シカの頭数が激減でもすれば、彼らは子牛や子羊を襲うようになるのではなかろうかというのである。「もし、オオカミが私の所の動物たちに悪さをし始めれば、何かやらずにはいないよ。許可されようとされまいと、関係ない。」と家畜を持つ農民のブルース・バーコンパスは言う。こうした心配に配慮しながら、12月、自然資源局長K.L.クールは、州及び連邦政府所属の人々から成るグループによって提案されたオオカミ回復計画に同意した。同計画の中には、家畜がオオカミによって殺された疑いのある場合に、直ちに調査を行うことという項も含まれている。オオカミたちによる家畜襲撃が何度も繰り返される場合、オオカミたちは捕獲され、別の場所に移されることになっている。農民たちは、オオカミを近づかせない方法として、投光器やサイレン、猟犬などを使う手段があることについて、アドバイスを受けることが出来る。さらに同局は、損失補償のための民間基金の設立に向けて努力しているという。
 ハミル氏によれば「農耕地域においても、オオカミは家畜より野生生物の方を獲物として好むものです。」と言う。「家畜に関して、重大な問題が起こることは、私たちは考えていません。」とも言う。同局による評価では、去年の冬、ミシガン北部に、合計112頭のオオカミたちが、少なくとも20のパック(群)に分かれて散在していたと考えられている。その他に、スペリオール湖のロイヤル島に24頭のオオカミが生息している。
 去年、通例の割合での生誕率、死亡率が保たれたとすると、陸地主要部での頭数は現在150を超えていそうだというのが、ハミル氏による考えである。
 7年前には、この地域には、知られる限り、たった1つのパックがいたに過ぎず、オオカミの頭数は合計17頭だった。新しく当地に来たオオカミたちの多くは、近隣諸州から移ってきたか、あるいは湖に張った氷の上をカナダからわたってきたものである。彼らは、主にシカの頭数が豊富な場所で見られるが、生物学者たちによれば、彼らは今後合衆国中部の他の諸州にも移動していくだろうという。
 オオカミの失地回復は、特定地域に限定されて起きている現象であり、ウィスコンシンとミネソタでも頭数が増えつつある。合衆国西部では、人為的な再導入のための努力が、厳しい反対や法廷論争を引き起こしている。
 ミシガンでは、政府による直接的介入がないが、このことが、住民によってオオカミの回復が受け入れられている理由のひとつであろうと、同州のシエラ・クラブ代表者アン・ウォイウォードは考えている。「今起きていることが、(ミシガンの)生活をエキサイティングでユニークなもの、他には見られないものにしていると、皆わかっているんですよ。」 と彼女は言う。
それでも、と彼女は続け、もし1973年の絶滅の危機にある種に係わる法がなかったら、オオカミはいなくなっただろうと言う。同法により、オオカミを殺したり苦しめたり傷つけたりすることは違法である。ミシガン州法でも、同様な保護策がとられている。
「たしかに、オオカミたちは自分から進んで帰ってきていますが、これを支える強力な政治が何より重要です。」と、ウォイウォードは続ける。
 家畜を飼うバーコンパスでさえ、もし政府が人為的手段でオオカミを増やそうなどしない限り、彼らを隣人として受け入れようと言っている。
 合衆国魚類及び野生生物局の生物学者ポール・バークにオオカミの頭数がこのまま増え続ければ、今後2〜5年後には、彼らは絶滅の危機から脱出した種として位置づけられるようになるだろうとされる。