日本へのオオカミ再導入に関する疑問

Wolf Network Japan
原 亨

1.オオカミの輸入
(1)「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」が、平成16年5月27日成立。6月2日に公布された。
オオカミが「特定外来生物」に指定され、輸入禁止対象動物となる可能性は高い。その場合、再導入論者はどうする計画か。また、指定されなかったとしても、「森に放す」という目的で輸入を申請して許可される可能性は薄いと思われる。

(2)海外のオオカミが「外来生物」でない、と主張するためには、絶滅したニホンオオカミと海外のオオカミとが同一種であることを客観的に証明しなければならない。それは現状ではDNA鑑定によるのがベストと思われるが、その鑑定は誰がどのように行って、何年までに終わる計画か不明である。

(3)ニホンオオカミの残存物は各所にあるが、その中のどの個体のものをDNA鑑定に使う予定か。また、その個体がニホンオオカミのものであると断定できた根拠は何か。

2.オオカミは日本の自然で生きられるか?
(1) ニホンオオカミが絶滅したのは、人為的な要因のみによるのだと主張するとすれば、その根拠が必要である。それは何か?
ニホンオオカミは大陸のオオカミよりも小型であったと言われているが、これはオオカミにとって日本の生活条件が悪かったからではないのか。オオカミを移入しても日本では死んでしまうのではないのか。死なないで繁殖できるとする根拠は何か。

(2) 移入されたオオカミは日本で餌を取れるのか。餌が取れることを実験で確認したか。まだであるとすれば、その実験は、何処で、誰が、何時やる計画か。

(3) 現在、イエイヌの疾病は種類が非常に増えている。移入されたオオカミがこのような疾病に犯されないことをどうやって保証するのか。その確認にも実験は不可欠であろう。その実験はどのような計画になっているのか。

(4) 移入したオオカミがイエイヌと交雑する可能性は高い。オオカミとイエイヌとの雑種は危険性が高いと言われている。これを防ぐための対策は何か。

(5) オオカミが日本に定着できたとすれば、当然増殖してテリトリを広げるであろう。人間の領域に侵入してくることも考えられる。そのための対策と予算をどう考えているのか。

3.オオカミが増えればシカは減るのか
(1) オオカミ再導入論者はシカ・イノシシ・サルによる被害が現在非常に増えている状況を、オオカミを導入することによって、減らすのだ、と言う。
何頭のオオカミを入れれば、何頭のシカ・イノシシ・サルが減るのとみこんでいるのか。その数字の根拠は何か。

4.オオカミ被害対策
(1) 野生動物の数が常に変動することは常識である。餌動物の数が減れば、しばらくして捕食動物の数が減る。そこには時間の遅れがある。捕食動物数が増えているのに、餌動物が減っている期間ができる。その間、捕食動物は極端に飢えるであろう。当然、家畜その他に被害が出ることが予想される。その補償対策、補償予算を準備しておく必要がある。その案はどうなっているのか。

(2) オオカミによる被害を地域別、期間別にどのように見積もっているのか。

(3) オオカミによる被害を最小限にするために、どのような制度、人員が必要なのか。

(4) オオカミによる被害を補償するための、制度・人員・予算の算定。

(5) 行政を「オオカミ再導入」に踏み切らせるためには、行政の内部に強力な協力者・賛同者が複数存在しなければならない。現在そのような人たちは存在するのか。そのような人たちを増やすために、どのような働きかけをしているのか。

5.説得と教育
(1) オオカミ導入は政府に行わせる、というのが現在の再導入論者の主張のようである。それを実行するためには、政府にオオカミ再導入をすべきであると説得する必要がある。いままでに、政府を説得するために、どのような努力がされてきたのか。その説得資料は何処にあるのか。どのような内容なのか。

(2) 政府が予算を使って新しい政策を実行しようと決断するには、その政策の利害、得失が明らかでなければならない。そのためのデータと資料は何処にあるのか。

(3) オオカミを導入する地域の住民が、安全を気遣うのは当然である。それらの、直接オオカミに接する人たちをどうやって説得するのか。

(4) オオカミが人里に出てきたとき、殺さずに共存することが理想である。そのためには、住民に野生動物と共存する智恵が必要になる。その教育をどのように行うのか。

6.
現在のオオカミ再導入論者の立論には以上の重要な点が欠落している。この欠落部分を着実に埋めていくことなしに、オオカミ再導入論が実現することはないであろう。