アラスカのオオカミ保護および管理政策
http://www.wildlife.alaska.gov/management/fur/wolves/wolf.cfm
この政策の目的
1. 一般市民やその他の機関と協力しながら、アラスカのオオカミやその獲物動物の個体群を保護し、アラスカ州魚類狩猟局を支援する。
2. アラスカの法律に沿って一般市民の見直しや意見を十分に考慮した
この政策を実行するために、議案の作成および承認のプロセスを確立する。

調査結果
オオカミは、食物連鎖には不可欠の存在であり、アラスカの農村部では、人間とオオカミは、社会的にも文化の面でも特別な関係を共有している。オオカミは、さまざまな形で、アラスカの人だけでなく世界の人々の役に立っている。

世界のどの地域においても、オオカミやその生息場所は多くのストレスにさらされている。人間の増加や病気、獲物動物の減少や過剰な捕獲などにより、オオカミの個体群が減少する可能性があり、規制されていない狩猟や罠、分割による生息地の喪失、開発や農業などが、オオカミの生存を危うくしている。オオカミ保護は、生息地や獲物動物の保護や維持、充実などの多くの要因に左右される。アラスカの土地所有は複雑であるため、保護や管理には、関係者および関係団体に加えて、州、国、個人の土地所有者も関わらなければならない。

オオカミに関する考えは人それぞれである。オオカミは北アメリカの野生動物のシンボルであるが、獲物動物(ムース、カリブーなど)をコントロールできる強力な捕食者でもある。場合によっては、オオカミの捕食が、獲物動物の数を減少させたり、他の理由で減少した獲物動物の数をさらに減らしたり、長期間獲物動物の数を回復させないこともある。管理活動を行なえば、獲物動物の個体群の回復を早めることも可能である。

オオカミは、その昔からアラスカのほとんど全地域に生息し、その生息密度は大きく変動している。しかし、最近のアラスカでの個体数は、約6000〜7000頭である。アラスカ州のオオカミは絶滅危惧種ではない。捕獲されても個体群の数を維持することはできるものの、捕獲に耐えられる数はその時により変動する。オオカミの個体群の数は動的であり、人間にはどうすることもできない要因により、時と共に変動しているが、アラスカのオオカミの未来に不安はない。

オオカミやその獲物動物は、アラスカの多くの地域で、経済的、栄養面での必要性を考えるときわめて重要なものである。

原則
1. アラスカ州魚類狩猟局(ADF&G)は、オオカミとその獲物動物を、動物の一種としてではなく生態系すべての中の一部として考える。
2. アラスカのオオカミ個体群の遺伝的多様性を保護する。
3. オオカミとその獲物動物の研究と監視を継続する。ADF&Gは、土地管理人と協力して、個々のプロジェクトや仕事を行なっていく。
4. オオカミとその獲物動物の生息場所の喪失や分割による短期および長期的な影響に取り組む。
5. 管理計画で、オオカミとその獲物動物の消費的および非消費的な使用を規定する。
6. 多くの消費的使用を管理している地域では、一部の獲物動物の個体群が、捕食により、数が少なくならないようにする。
7. 多くの消費的使用を管理している地域で、捕食により数が少なくなっているところでは、ADF&Gがオオカミの個体群を調整または減少させて、特定地域計画で設定された個体群管理目標数まで獲物動物種の数を増加させることがある。
8. この管理計画により、ADF&Gとアラスカ狩猟委員会は予期しない状
況にすばやく対応することができる。ADF&Gと狩猟委員会は、承認
された管理政策、手順および目標に従わなければならない。
9. ADF&Gは、州、国および個人の土地所有者の管理目標を承認する。
10. 使用団体間の対立を減らさなければならない。
11. 情報および教育活動が重要であり、ADF&Gは様々なプログラムを
実行して、人々がオオカミとその管理についてさらに理解を深めることができるようにする。
12. 平易でわかりやすい言葉でオオカミ管理に関する規定を記載する。
13. ADF&Gは、実施官庁と協力して、実施優先事項を確認し、適切な実施活動を支援し、促進する。
14. この政策は、必要に応じて新たな見直しおよび修正の対象となる。

アラスカの法律および連邦法では、オオカミとアラスカ州に生息するその他の種に対するADF&Gの管理を規定している。連邦法、条例、および政策では、国立禁猟区、国立公園、保護区および遺跡、国有林、およびその他の合衆国の公有地の管理を適用している。この政策は、すべての法令に一致している。

連邦法では、アラスカの国立公園での狩猟や罠を禁止しており、野生動物の行き過ぎた管理も禁止している。一方で、連邦法では、生活に必要な狩猟や罠を多くの国有地で保証している。このことは、ADF&Gが野生動物を厳しく管理しているわけではなく、新しい国立公園や禁猟地でのやむをえない生物学的な理由以外のすべての狩猟を禁止しているわけではないことを意味している。

このオオカミ保護および管理政策の目的
1. オオカミの獲物動物と生息場所に関連して、オオカミがこれまでに生息したアラスカの地域すべてにわたり、オオカミの長期的保護を確実に行なう。
2. 野生保護の原則に適合し、市民の関心を反映するできるだけ広い
範囲の人間の利用およびオオカミとその獲物動物の価値を規定する。
3. アラスカのオオカミ、その獲物動物、生息場所の利用、保護、管理について、人々にさらによく知ってもらう。

この政策において、保護とは、「野生動物およびその他の天然資源のケア、保護、管理および賢明な利用」を意味する。

アラスカのオオカミ管理の歴史
アラスカでは、人間とオオカミは何千年もの間共存してきた。一部の地域で、先住民のアラスカ人が、オオカミの数を減らすために、オオカミを狩や罠で捕ったり、オオカミの子どもを巣穴から取ったりしたが、ほとんど影響はなかった。オオカミは、獲物動物の数次第で大幅にコントロールされた。

今世紀のはじめには、オオカミが迫害された時期があった。政府や個人によってオオカミは殺され、報奨金までかけられた。しかし、このことがオオカミの数を減らしたという証拠はほとんどない。1950年代には、国家により、多くの地域でオオカミを空から狙撃したり毒物を使用したりして、大掛かりなオオカミの殺害が行なわれた。

アラスカが州になり、新しく組織されたADF&Gは、即座にオオカミを狩猟動物かつ毛皮獣であると分類した。1960年代後半には、報奨金の支払いは止められ、ADF&Gは、議会による報奨金の廃止を支持した。この保護政策と1950年代に政府が実施したオオカミコントロールの間に捕食されることなく増えた獲物動物のおかげで、落ち込んでいたオオカミの数は急速に回復していっ
た。
1960年代後半および1970年代前半に、厳しい冬が続いた時期とオオカミと熊の数が多くなった時期が重なり、地域によっては、人間がムースとカリブーを過剰に捕獲していた。そのため、獲物動物の数が急速に減少した。この減少を受けて、ADF&Gは、ムースとカリブーの捕獲を減らしたり、廃止したりして、生息場所を改善するために原野火災管理の共同プログラムに着手し、いくつかの重要な狩猟地区で十分な数の獲物動物を確保するために、限定的なオオカミコントロールプログラムを実施した。一部の地域では、これらのプログラムが奏功し、獲物動物とオオカミの数を回復させることができた。

1970年代後半および1980年代前半のADF&Gによるオオカミコントロールは、世間に大きな物議をかもし、長期にわたる訴訟が起きた。この訴訟はその後、コントロールプログラムを実施した部署や、ハンターや罠の仕掛け人が飛行機(ヘリコプター)を使用してオオカミの位置を定めてから地面に降りて撃つことを認める条例にも拡大した。ADF&Gは、ますます二極化したユーザー団体を満足させるために敢えてオオカミを管理するという問題に直面した。

ADF&Gは、問題解決や意思決定プロセスに市民が参加できるようにし、そのための方法をいくつか特定した。

市民が関わった一例は、アラスカオオカミ管理計画チームで、12人の市民の顧問団が、広い範囲の関心を示し、重要であると判断した。ADF&Gは、最初の戦略計画を書く際に、数百の個人や多くの団体からのコメントや意見、提案が盛り込まれた最終レポートを考慮に入れた。

保護と管理
A. オオカミの利用
1.オオカミとオオカミの獲物動物種を自然破壊しないで利用する
自然破壊をしないで利用することにより長期的な個体群の生存を脅かすようなことがあってはならない。
2.オオカミとオオカミの獲物動物種の消費的利用
オオカミとオオカミの獲物動物が持続生産できるものとして、彼らの消費的利用が行なわれる。オオカミとその獲物動物の捕獲により、長期的な個体群の生存を脅かすようなことがあってはならない。監理の目標は、長期にわたるすべての種の個体群を確実に繁殖させることでなければならない。

B. 管理戦略
この政策の目標を実現させるためには、それぞれ異なる管理戦略を異なる地域で使用しなければならない。アラスカのオオカミの個体群は、3つの委員会の戦略の下で管理されている。 
1.狩猟や罠からの完全保護
この戦略の下では、条例によってオオカミは狩猟や罠から完全に保護される。
オオカミを殺すことが許されるのは、人間の生命や財産を守る場合と州または連邦法で認められた限定された目的の場合だけである。この管理が最近適用された地域は、デナリ(Denali)国立公園本来の地区、カトマイ(Katmai)国立公園、グレーシャー入り江(Gracier Bay)国立公園およびチューガッチ(Chugach)州立公園である。

2.個体群の自然調整
この管理戦略では、オオカミが、州や連邦法で承認された方法で決められた季節に狩猟や罠で捕獲されることがある。空からの狙撃や地上に降りて撃つ(land and shoot)ことは承認されないと思われる。オオカミの捕獲は、回復不能になるまで行なわれることはなく、オオカミの個体群の数は、主に獲物動物の数またはその他の要因により決定される。

この戦略は国立公園に対する連邦法により義務付けられており、完全保護に対する管理が行なわれているわけではない。これらの国による保護に加えて、アラスカのその他多くの国有地や、州や個人の土地がこの戦略の下で管理されている。

3.個体群の数の管理
この管理戦略では、特定の野生動物個体群の数の維持と人間の使用目的を実現させるために、捕食者と獲物動物の管理に対する総合システムアプローチの一部として、オオカミの個体群が管理される可能性がある。オオカミの個体群と捕食については、可能な最大限の範囲で、州または連邦法により一般に承認された方法を使用して、狩猟や罠により管理される。他の種による捕食は、オオカミの数を減らし過ぎることなく、生態系でオオカミが確実に生存し続けるために、オオカミによる捕食と平行して管理する。一般に承認されていない狩猟方法や罠を使用するオオカミの捕食管理プログラムは、以下に示した基に従って、この戦略の下で管理された地域において、州により提案および実行されると思われる。

ユニット12、13、および20の一部は、近年この戦略の下で管理されている。この種類の管理が適用されている州の割合はかなり限られると予想される。オオカミコントロール(減少)プログラムは、この戦略の下では、永久的、持続的なものではないと考えられる。しかし、地域によっては、オオカミの個体群は、特定の人間の使用目的またはその他の目的を実現させるため特別な水準に維持される可能性がある。

C. オオカミの捕食コントロール
科学的な情報および一般の意見に対する慎重な検討に基づき、担当部署および委員会は、一部の地域の限られた環境で個体群の数の維持と人間の使用目的を実現させるために、オオカミによる捕食をコントロールすることが必要であり、適切であると確信している。実用的な範囲で、委員会と担当部署は、オオカミコントロールの検討と実施についてはIUCN(国際自然保護連合)の基準に従う。

委員会は、以下の場合にオオカミコントロールを検討する:
1.オオカミの捕食行動が、獲物動物の数や生産性の容認できない低下の要因である場合。
2.オオカミの捕食行動が、減少した獲物動物の個体数を回復させる妨げとなっている場合。
3.オオカミの捕食行動が、承認された個体数または人間の使用目的の実現の妨げとなっている場合。

これらの状況が1つ以上定められた地域に存在すると判断する場合に、担当部署は以下を含む一般の見直しを求める提案を作成する。

・ 地域の説明;
・ 提案された行動の説明;
・ 提案された行動の正当化。オオカミとその獲物動物の目標、およびその他の選択肢を実現できなかった以前の手段を含む;
・ 野生動物の個体群や人間の使用に関する関連情報。オオカミおよび獲物動物の状態と傾向、捕獲情報、生息場所、および獲物動物の個体群に対するオオカミと熊の影響の予測を含む、;
・ 個体群の数や人間の使用目的を達成するために必要な時間の予測;および
・ プログラムの最新情報や再評価を行なうためのスケジュール

オオカミコントロールは、利用できる方法の中でも最も人道的で、効果的で選ばれたものを使用して行なわれる。使用される方法は、政府が援助する罠や、職員による罠、職員や一般市民による空からの狙撃、一般市民によって行なわれる地上に降りて撃つ(land and shoot)方法、または委員会により承認された他の方法が含まれる。空からの狙撃や地上に降りて撃つ方法は、必要なコントロールの水準が他の選択肢では実現できず、認可された目的に到達しないと当然予想される場合にのみ使用される。

現時点では、非致命的コントロール方法は使用されていないが、検討する必要がある。適当な期間内に、オオカミを殺す必要がない別の方法で望む結果を実現できることが明らかになれば、そのような方法を検討しなければならない。

D.特別な管理の検討
1.生命と財産を守る
この政策(PLAN)のいずれも、州または連邦法の下では、個人が生命または財産をオオカミから守るための権限はない。オオカミを殺さずに非致命的手段を使って、生命と財産を守るために適当と思われるあらゆる措置を取らなければならない。

2. 病気や寄生虫のコントロール
 すべての他の種と同様、オオカミは多くの病気や寄生虫が存在する中で、進化してきた。多くの場合、オオカミは人間が介入しなくても病気や寄生虫に対処できた。しかし、特に、病気や寄生虫が自然界ではないところからオオカミにもたらされた場合、オオカミの全個体群を守るために、病気の拡大や寄生虫の蔓延を止める行動がときどき正当化されることがある。

AS 16.05.020は、州の野生資源を守ることをコミッショナーに指示し、権限を与えている。コミッショナーの判断において、病気または寄生虫の有害作用からオオカミや他の野生動物を守るための行動を取る必要がある場合、委員会の承認を得なくてもこのような行動を取ることがある。

現時点では、アラスカでは一度だけ、これらの基準を満たしたために人間の介入が行なわれたことがある。シラミ(イヌジラミ)がケナイ半島のオオカミに蔓延したときである。おそらくこのシラミは、オオカミが家庭犬に接触したために感染したと思われる。

研究プログラム
ADF&Gは、オオカミの生態、獲物動物または獲物動物、生息場所の関係、および捕食を減少させるための非致命的手段の調査を継続する。適切な場合には、ADF&Gは、他の機関と協力して共同で研究を行なう。研究結果は、時宜にかなった方法で報告され、一般市民が容易に理解できるような形で公開される。

情報および教育プログラム
ADF&Gは、オオカミの保護および良好な管理は、一般の人々のオオカミへの理解次第であることを認めている。一般市民にオオカミのことをもっと知ってもらうために、ADF&Gは、オオカミの生態についての情報を提供する努力を拡大する。

ADF&Gは、情報と教育の必要性を確認し、このオオカミ保護と管理政策の導入で明らかになった原則#11、12と目標#3を実現させるために、狩猟監視諮問委員会およびその他の機関と連携している。

予算の制約を条件として、ADF&Gは、一般市民に情報と教育を提供するために最善を尽くすと思われる。


訳:たかせまみえさん
戻る