ファルージャ 21世紀のゲルニカ
新たなピカソはどこに?

ソール・ランドー
2004年11月28日
CounterPunch原文


11月12日、米軍のジェット戦闘機がファルージャを9日連続で爆撃した日、カリフォルニア州レッドウッド・シティの陪審は、スコット・ピーターセンを妻と胎児殺害の罪で有罪と判断した。この薄ら寒い事件は新聞の見出しを飾り、職場や家庭で話題にのぼった。

ピーターセンの「ニュース」は、人口30万人の街ファルージャに対する爆撃と砲撃を成功させ、「反乱部隊」の場所だけを攻撃したという米軍の主張をほとんど目立たなくさせた。11月15日、米軍海兵隊分隊に随伴するBBCの軍属記者は、非公式の死者数推定は2000人を越え、その多くが民間人であると発表した。

あるイラク人目撃証人はBBCの記者団に対し、米軍の爆撃が住宅地を爆撃し、アメリカ人がピータセンについておかしなジョークを交わしていたのを見たと語った。カメラマンの一人はファルージャのある男性が自分の息子の亡骸を抱いている写真を撮影した。米軍の爆撃で殺された二人の息子の一人であった。出血を止める医療処置を得ることができなかったためである。

11月14日、ロイターの記者は、住民が「米軍の爆撃がファルージャにある診療所を爆撃し、医者と看護士、患者を殺した」と語ったことを報じている。米軍はこの報道を否定した。こうした報道は見出しを飾らない。米国の侵略戦争により生み出された民間人犠牲者は、メディアのスペースに適さないのである。

一方で、編集者たちは苦悶するGIジョーたちを好んで報ずる。11月12日付ロサンゼルス・タイムズ紙は一面に、顔に泥を塗り唇にタバコを加えた兵士の写真を掲載した。これが、ファルージャの「苦しみ」を表す映像であった。このGIは、「煙(タバコ)」が切れていると不平を言った。

「ファルージャ解放の任務」を遂行しているこの若い米兵の姿は、ファルージャの悪夢とくっきりとした対照をなす。あるイラク人は「至る所で煙があがっている」とBBCに語っている(11月11日)。「私の家から数軒離れた家が、水曜夜の空襲で破壊され、13歳の少年が殺されました。ガジという名でした。私の家の前の道には、椰子の木が続いていましたが、今や残されているのは幹だけです。路上にはますます多くの死体があって、耐えがたい臭いがします」。

ある目撃証人はロイター通信に対し(11月12日)、「9歳の少年が砲弾の破片でお腹をやられました。両親は、戦闘のために彼を病院につれていけず、お腹の回りをシーツでしばり出血を止めようとしました。数時間後、彼は出血多量で死亡し、庭に埋葬されました」と語っている。

米国メディアの軍属記者たちは、反米ジハードに参加したアブ・ムサブ・アル=ザルカウィ率いる悪魔的外国人を含む何千人もの「反乱勢力」が自分たちの拠点を守るためにファルージャイリしたというペンタゴンの宣伝を無批判に受け入れた。陸空からの攻撃が始まり米軍が地上を進軍した際、海兵隊とその後に続く「イラク軍」は、軽い抵抗しか受けなかったとの報道が漏れ出てきた。一方、モスルをはじめとする別の都市で蜂起が起きた。けれども、兵士たちにとって、ファルージャは「地獄」だった。

何の「地獄」? 退役海兵隊士官バーナード・トレイナーは次のように言う:軍事的に言えば「ファルージャはほとんどプラスにならない」。「我々はファルージャを無茶苦茶に破壊したが、そこにいた反乱勢力はイカれた奴らや熱中者だけだった。スマートな奴らは、アッラーのために死にたい人間だけを後に残しておいたのだ」。ペンタゴンの宣伝屋たちは「勝利」を公言したが、トレイナーは「テロリストたち[訳中:どうやら米軍兵士のことではないようです]は自由のままだ」と語る。

メディアは最初から、この紛争で米軍兵士たちが善玉であることを前提として受け入れており、次のような明らかなことについて言及しない:米国政府は法に違反してイラクを侵略し占領したこと、そして何らまともな軍事的目標なしにファルージャを「再征服」したこと。こうした点に言及するかわりに、メディアは「反乱勢力」が、即席の爆発物やブービートラップを使って、F16戦闘機や戦闘ヘリ、戦車や砲弾といった美しい武器を持つ罪のない米兵たちを殺そうと汚い闘いをさえしていると示唆している。

ワシントンは、自分の軍隊が破壊した街を再建するとまで述べている。ブッシュは何億ドルもの納税者の金をつぎ込んで、それをベクテルやハリバートンをはじめとする戦争受益企業が「再建」に使うというわけだ。

大量の民間人死者と古の都市の破壊を伴うこの戦争の壮大な邪悪から、凡庸さと腐敗とが頭をもたげている。

1935年、ナチスの将軍エーリッヒ・ルーデンドルフは自著「全面戦争」の中で、近代戦は社会の全般に関わると論じた。したがって、軍は誰も見逃すべきではないと。イタリアのファシスト将軍ジュリオ・ドゥーエ将軍もこの点を繰り返している。民間人を標的とすれば、軍はより迅速に前進できる、と。「空からのテロ」により効果的に民間人の妨害を一掃することができる、と。

1937年4月下旬に、このドクトリンは実行に移された。ナチスのパイロットたちが、古のバスクの都ゲルニカに致命的な爆弾を投下し始めたのである。ちょうど今、米軍のパイロットたちが、古の都ファルージャにやっているように。その1年前の1936年、スペイン内戦が勃発していた。イタリアとドイツのファシスト政府から支援を受けたフランシスコ・フランコ将軍は、スペイン共和国政府に対して武装蜂起した。ゲルニカの人々は抵抗した。フランコは、ナチのお仲間に、自軍の攻撃に持ちこたえていた頑固なゲルニカの人々を罰するよう依頼したのである。

ゲルニカの人々は、自分たちの街を守るための対空砲もなければ、むろん戦闘機も持っていなかった。ナチスのパイロットたちは、市の立つ日の午後4時30分、周辺から市に来る人々でシティ・センターが一杯になることを知っていた。

この「英雄的使命」を帯びた飛行に発つ前に、ドイツ人パイロットたちはスペイン人のお仲間と、どちらも理解できる言葉で祝杯を挙げていた。「死に万歳を!(ビバ・ラ・ムエルテ)」。ワイン・グラスをかかげて、彼らはこう叫んだ。ゲルニカ爆撃は、軍は民間人と戦闘員の区別をしないという考えを導入することとなった。あらゆる者に死を!

その日、1700人近くが死亡し、約900人が負傷した。フランコは空襲が起きたことを全否定し、ゲルニカの破壊はゲルニカを守ろうとした者たちがやったことだと非難した。これも、米軍が、「反乱勢力が自分の街を守ろうなどという傲慢を働き、モスクの中に隠れたことで野蛮な攻撃を強要した」と仄めかしていることに酷似している。

米国空軍がたった今ファルージャの人々に対してしたことが、ナチスがゲルニカに対してしたことに酷似しているということを21世紀の人々に理解させるために、劇的な絵を仕上げる新たなピカソはいるだろうか?

1937年、ドイツとイタリアのメディアは、「脅威」と闘うことで祖国の理想のために身を犠牲にしているこれらのパイロットたちの困難な境遇を大きく扱っていた。こんにち、米国のメディアは、米軍海兵隊兵士たちが直面する困難についてしゃべり散らしている。メディアは、優勢な技術で民間人を殺し家々とモスクを破壊して愛国者たちを鎮圧している米軍兵士を弱い者いじめとは決して言わない。11月15日、軍属NBCカメラマンが、米軍兵士が残忍に負傷したイラク人捕虜を射殺している光景を映像に収めた。CNNがこの映像を流したとき、レポーターは、我々が目にした暗殺について「酌量すべき状況」があると語っていた。この負傷者は、他の「反乱勢力」がしたように、自らをブービートラップとしていたかも知れない、というのである。結局のところ、海兵隊兵士たちは、その前の週を地獄の中で過ごしたのだ、というわけである。

11月12日、シカゴ・サン・タイムズ紙のアンドリュー・グリーリーは、我々に過去の帝国主義戦争について注意を喚起している。「米国は過去に不正な戦争を戦ってきた----メキシコと、インディアンと、米西戦争、フィリピン反乱、ベトナム。我々の手は汚れている。血で覆われており、この度さらに血がつくことになるだろう」。ファルージャは、イラクの人々に対する残忍なこの戦争の象徴となるべき出来事、我々のゲルニカとなるべき出来事である。けれども、コメディアンのクリス・ロックがいみじくも指摘するように、ジョージ・W・ブッシュは我々の注意をそらしている。彼がラシ・ピーターセンを殺し、かの少年をマイケル・ジャクソンの寝室に連れ込み、若い女性をコービ・ブライアントのホテルの部屋に送り込んだのは、そのためである。ブッシュは、我々がイラクでの戦争について考えることを望んでいない。我々には、新たなピカソの壁画が必要である。「ファルージャ」。人々が、ピーターセンの苦しみについてではなく、我々の時代の最も重要な出来事について注意を向けるために。ブッシュ政権は、そんな絵画の危険性を嗅ぎつけていた。2003年2月5日、国連安保理でコリン・パウエルが、イラク侵略を正当化するために嘘に満ちたパワーポイントによる演説を行った直前、米国の求めによって、国連職員が安保理議場の入り口にかけられていたピカソのゲルニカを布で覆ったのである。TVの背景として、反戦を訴えるこの壁画は、国務長官のイラク戦争演説と対立するものだった。死せるピカソは、自分が描いた壁画ゲルニカが、ファルージャというもう一つのゲルニカを予兆することになると知っていただろうか?

ソール・ランドーは文学・芸術・社会科学院のディジタル・メディア及び国際対応プログラム代表。新著に The Business of America がある。


ファルージャ攻撃が、ファシストによるゲルニカ空爆にも比する歴史的大犯罪であることを論じた記事です。ファルージャ2004年4月ブログとの同時掲載。

高遠菜穂子さんの講演予定が、高遠さんの運営するイラク・ホープ・ダイアリーにあります。12月2日京都から始まり、東京・新潟・北海道4箇所、青森2箇所・鹿児島・長崎・宮崎3箇所・熊本・大分・福岡・佐賀・沖縄。12月26日まで。お近くの方、ご都合がつけばぜひご参加を。

※「万歳」は「日の丸」「君が代」と並び、戦前日本の天皇制ファシズム・イデオロギーのシンボルでした。文部科学相の発言について、こちらをご覧下さい。
益岡賢 2004年11月28日

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