イラク攻撃は安保理決議の有無にかかわらず違法

ラフル・マハジャン
2003年3月14日
ZNet原文


反戦運動の少なからぬ部分が、イラクに対する単独主義的な性格を強調し、国連の承認を必要とするという点を強調しているという点で誤っている[世界的に言うと、国連安保理の追加決議があろうとなかろうと違法でありイラク攻撃は許されるものではないという見解が主流だと思います]。その誤りの結果を刈り取らなくてはならなくなるかも知れない。

この議論は人々に広まっている。世論調査では、米国で多数が国際的な支持のない単独の戦争に反対していること、そして英国では国連安保理の追加決議がないまま戦争に行くことを支持するのは15パーセントに過ぎないことが示されている。

この議論は、否定的な意味で、反駁できないものである。つまり、国連安保理決議がなければ、戦争は明らかに国際法違反であるという主張においては、まったくその通りである。最近、コフィ・アナン国連事務総長も指摘した通りである。けれども、国連が承認した場合でも、戦争が国際法違反であることはあり得る。

これこそが、根本的な点である。われわれの「同盟国」がわれわれを支持するかどうかとか、腕ずくで威嚇により十分な数の安保理の理事国を従わせるかどうかとかではなく、そもそも、この戦争が違法であるかどうかが問題である。

ほかの多くのことど同様に、ブッシュ政権はこの疑問を逆転させ、戦争は国際法を維持するために必要なのだとすら述べている。

そこで、この議論の検討から始めよう。

イラクは他国に対する侵略や攻撃の威嚇をまったく行っていない。そして、安保理決議に違反しているのは明らかであるが、違反内容は技術的なものであり、主に、大量破壊兵器に関する不十分な文書を提出したりといったことが違反の内容である。そして、大量破壊兵器は存在するかも知れないししないかも知れないが、とにかく、そのはっきりした使用計画は存在しない。

一方、イスラエルは、極めて狭くとって数えても、30の安保理決議に違反しており、その決議の中には、別の民族に対する不法占領の継続をめぐる極めて重大な問題も含まれており、さらに、土地の侵犯と実質上の併合により、ジュネーブ条約(第四条約)にも違反している。

イスラエル同様アメリカ合州国の同盟国であるインドネシアは、四半世紀にわたって東チモールを占領してきたが、ほとんど処罰されなかった。モロッコは西サハラを不法に占領している。これらの場合は、いずれも、国際法を維持するために、米国は戦争を起こす必要はない。米国は、単にこれらの国に対する援助と武器売却を止めればよい。

アメリカ合州国は、こうした原則を擁護すると主張するにはとても奇妙な立場にある。1986年にハーグの国際司法裁判所が米国の罪を認めニカラグアを支持する判決を出して以来、米国は国際司法裁判所の裁定を拒否し続けているのであるから(同裁判所がニカラグアが米国の攻撃により被った損害に対して支払うよう命じた170億ドルをまったく支払っていない)。

国際司法裁判所裁定が下された直後に、米国は、国際法を遵守するよう各国に求める国連安保理決議に拒否権を行使した。むろん、米国自身は安保理決議を違反していない。というのも、拒否権を行使さえすれば違反する必要はないからである。米国は1989年の明白に違法なパナマ侵略に関する安保理決議にも拒否権を行使したし、ニカラグアに対して米国が行ってきたコントラによるテロ戦争に対しても7回拒否権を行使してきた。

議論のために、とりあえずこの国際的偽善については忘れて、イラクに話を集中しよう。イラクをめぐって米国が繰り返し繰り返し国際法に違反してきたこと、そして特に、湾岸戦争後の「封じ込め」政策により国際法に違反してきたことだけを考えても、イラクは法的責務を免除されると言える。

そもそも、過去10年間、イラクは不法攻撃の標的とされてきた。「砂漠の狐」作戦を含む様々な爆撃である。

米国はまた、不法なあるいは法的に疑問の残る様々な方法で、合法的なイラク「封じ込め」政策を転覆させる手段を取ってきた。たとえば1998年10月の「イラク解放法」採択により、イラク政府を転覆させようとする集団に9700万ドルを提供しているが、これは、イラクの主権に対する明白な侵害であり、あからさまな国際法違反である。経済封鎖は政府が変わらない限り解除されないと主張しているのは安保理決議687違反であるし、また、武器査察活動をスパイ活動に利用し、そこで得た情報を「砂漠の狐」作戦で標的とするものを決めるのに用いたことも問題である。

戦争そのものは、国際法違反だろうか。

最も説得力のある議論は、現在米国がイラクに対して計画している戦争は、計画的な侵略行為であるという事実である。

すべての証拠がこのことを示している。

第一に、2002年8月、ラムズフェルド米国防省が、飛行禁止空域をはるかに超えたところまで爆撃標的を拡大するよう命じ、指令統制センターなどを含めるよう命じている。globalsecurity.orgのジョン・パイクによると、これは、戦争を準備するために、「前もって準備してイラクの対空防衛を弱体化させる作戦の一部」なのである。

2002年12月には、戦争へ向けた準備は、脅威と判断された標的に対する爆発物の投下が3倍に増加したことからいっそう明らかになった。これは、明らかに、上空飛行を守るというだけが爆撃の目的ではなくなったことを示している。英国ガーディアン紙によると、「英国政府筋は個人的に、英国空軍と米国機がクウェートの基地から行っている『飛行禁止空域』のパトロールは、イラクの対空防衛システムを弱体化するためのものであり、もともと発表されていた目的とはまったく何の関係もないと認めている」のである。

対空防衛システムと指令統制センターを破壊するのは、1991年以来米国が行った戦争の第一歩である。それゆえ、査察が続いているときから、最初の一斉爆撃が行われている。2003年の1月と2月には、ほとんど1日おきに爆撃が行われている。

さらに悪いことに、軍事戦略アナリストのマイケル・クレアによると、2002年2月までに、米国政府が2002年秋と2003年上旬に行う「外交活動」はすべて見せかけであることが明らかになっていた。

イラク攻撃は、少なくとも2002年春から本格的に計画されてきており、夏には、軍の内部で、5万から7万5000人の兵士を投下し空軍力に依存してイラク反対派部隊を利用する「アフガン・オプション」を採るか、20万から25万の兵力を投下し全面侵略を行うかをめぐって議論が行われていた。

決定は2002年8月後半になされたが、クレアによると、包括的な計画は、派遣までに6カ月を要した。それ以来、スケジュールは外交的解決でも国連決議でも武器査察でもなく、部隊の派遣、準備部隊として必要な中東地域の同盟国に対する強制力の発揮を念頭に進められた。そして、おそらくは、アフガン侵略で枯渇した「精密兵器」の補充もスケジューリングで考慮されていたであろう。

一カ月以上にわたり、武器査察が効果をますます発揮してきてその範囲も広まり、イラクがアル・サムード・ミサイルを破棄し、そして生物化学兵器をめぐる問題の解決への道を探っていたにもかかわらず、米国政府は侮蔑的にこれらすべてを却下してきた。繰り返し繰り返し聞かされたのは、「時間がなくなっている」という言葉であるが、なぜ時間がそんなに限られているかについての説明はまったくされていない。実のところ、理由は簡単である。イラクが差し迫った脅威となっているからではなく、単に米国部隊がすでに派遣され、侵攻準備ができているからである。

ここから導き出せる明らかな結論は、米国は、イラクがどのように振舞おうと、かなり前にイラクに侵攻すると決定していたということである。イラクが全面的に「降伏」し「政権変更」しなければ、米国がイラクを侵攻することは阻止できなかった。ここから、米国によるこのイラク侵攻が、明らかな侵略行為であると結論できる。

国連安保理の追加決議によって、この不正を隠そうとしても、以上の事実は変わらない。追加決議が何らかの合法的資格を与えるわけではない。これは、政策研究所(Institute for Policy Studies)の「乗り気な同盟国?強制された同盟国?」という記事が述べるように、米国の立場を支持するよう、米国は、態度を決めていない安保理理事国をはじめとする諸国を強制しようとしたり賄賂を使ったり不当な影響力を行使しようとしたことからもはっきりしている。

ほかの国々が米国の計画に屈するとすると、それは、とりわけ、ブッシュ政権が繰り返し繰り返し、他国の合意がなくても米国は戦争を行うと述べているからであり、いずれにせよ米国が戦争を行うならば、ほかの国々は、それに反対することにより何も得るところがない(どころか多くを失う)からである。

事実として、米国の対イラク戦争は、国際法に対する最も根本的な違反である。ニュルンベルク裁判から生まれた言葉を使うならば、それは「平和に対する罪」である。元最高裁判事でニュルンベルク裁判の主席米国検事であったロバート・ジャクソンは、侵略戦争の遂行は「究極の国際犯罪であり、ほかの戦争犯罪と異なり、それ自身の中に蓄積された全体の悪が含まれている」と述べている。

ある一つの国がますまず激化する攻撃にさらされ、全面戦争を行うと宣告され、その戦争の前に武装解除することを要求され、そして「国際社会」に武装解除をかなり履行しているにもかかわらず不十分であるとして罰を受けるという状況は、かつて歴史上になかった状況であろう。


Rahul Mahajan は Nowar Collective(http://www.nowarcollective.com)の設立メンバーであり、平和行動全国委員会で活動している。この記事は、彼の「米国の対イラク戦争:神話と事実と嘘」(Seven Stories Books)からの抜粋。彼の最初の著書「The New Crusade: America's War on Terrorism」(Monthly Review Press)は「対テロ戦争について理解したい人々には必読の書」と表されている。記事はhttp://www.rahulmahajan.comから入手できる。メールはrahul@tao.ca。

小泉首相は、2003年3月17日、米国の武力行使について、新たな決議がなくても過去の安保理決議で武力行使が可能との見解を示しています。イラク情勢をめぐり「米国を支持している。前から支持している」と。「イラクが真剣に深刻に受け止めるべきだ。戦争か平和かはイラクにかかっている」とも。言葉も、論理も、倫理も、思考も、無惨なまでに崩壊しています。岡崎乾二郎さんは、「いかなる悪よりも恐ろしいもの」という文章で、今回の米国のやり方が通ってしまうと、今後「論理的な議論というものが、いっさい 意味を失ってしまう」と書いています。芸術だけでなく、科学も、本当に崩壊してしまいます。たとえば、科学では、本当にまじめに何かを実験して証明して立証してそれが正当である可能性がたかくても、500部しか売れない本の中でしか書けなければ、嘘偽りでも100万部のベストセラーでゴリ押しされれば通ってしまうということになります。


 益岡賢 2003年3月17日

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