コロンビア:変化の風

ウィルソン・ボルハ 2004年1月8日
コロンビア・ジャーナル原文


古い伝説に次のようなものがある。神がコロンビアを作ったとき、聖ペテロが「なぜ一つの国にかくも多くの自然の富を与えたのですか?」と訊ねた。神はこう答えた:「あなたはまだ、私がコロンビアに与える指導者たちを見ていない」。

西洋がコロンビアに大きな関心を抱く原因の中心は、まさにこの富にあり、コロンビアがかくも頻繁に富を西洋に手渡してきた理由は、まさにこの出来の悪い指導陣にある。コロンビアには、石油、金、プラチナ、エメラルドなど世界で最も望まれる22種類の資源のうち16種類があり、世界で最も肥沃な土地の一つであるにもかかわらず、68パーセントの人々が貧困状態に置かれている。250万家族には家が亡く350万人の子供たちが学校に行けない状況で、人口のたった1パーセントの人々がコロンビアの土地の50%以上を所有している。

コロンビアの富は、コロンビアの人々だけでなく、世界中の「多くの人々」を利することができる。その富が頂点にいるわずかな人々しか利していなかったという事実が、独立以来コロンビアを荒廃させてきた19の紛争の原因を物語っている。現在の紛争は55年間続いており、数百万人の犠牲者を生みだしている。現在の戦争は汚い戦争で、軍と軍の間で戦われるのではなく、公式の軍と共謀して、左派のゲリラ---とりわけコロンビア革命軍(FARC)とより小さなELN---と戦うと称して、罪のない一般市民に殺害や拷問、失踪を加える軍の手先の準軍組織により行われている。

1953年以来、9度、和平プロセスが行われ、そのたびに、ゲリラの一部が武装解除に合意した。そのたびに、市民社会への復帰に合意したゲリラ指導者たちは暗殺されてきた。例えば1985年には、FARCは停戦と政党---愛国同盟---の結成、選挙への参加に合意した。その後の数カ月間に、大統領候補2名、選挙で選ばれた国会議員や地方議員等が数十名、そして3000人以上の党活動家が暗殺された。

この事実から、コロンビアで武力紛争が続いていることが理解できる---ゲリラは政府を信用していないのである。現在の大統領アレバロ・ウリベ・ベレスは、米国の現政権と同様、2001年9月11日に開始された国際テロリストの作戦の中に置かれていると言っているようであるが、コロンビアの歴史を考えると、まるで馬鹿げた物語である。

より分析的になるときには、米国の前政権と同様に、ウリベは、問題は麻薬にあると語る。コロンビア紛争にドラッグ・マネーが一役買っているのは確かであるが、そこから利益を得ているのは武装集団だけではない。大統領に至るまでの全ての社会階層が汚染されている。昨年コロンビアから輸出された500トンのコカインは路上での小売価格にして1100億ドルの価値を持つ。そのうちコロンビアに入ってくるのは30億ドルだけである。そのほとんどは裕福な土地所有者やエリート層に入り、わずかな部分が自営農民に入る。コカからコカインを作るために必要な化学物質は西洋の多国籍企業が生産している。こうした数値を考えるならば、そもそもこのドラッグ・ビジネスを所有しているのは誰か、と訊ねなくてはならない。コカ栽培を本当に止めさせる意図があるならば、何十億ドルもの米国による軍事援助を小規模農家に支払い栽培を止めさせることができたはずである。

けれども、麻薬もテロリズムも、世界の他の場所でと同様、コロンビアでも、紛争に米国が介入するための完全な口実を提供している。コロンビアは現在、イスラエルとエジプトに次ぐ、世界第三位の米国援助の受取り手である。十億ドル規模の「対麻薬」軍事援助パッケージであるプラン・コロンビアは、ベトナムで米軍が使った枯葉剤を思い起こさせる毒薬の空中散布という悪辣な作戦により何千人というコカ栽培農家に悲惨をもたらしたが、本質的には、コロンビア経済に対する米国の統制力強化を狙ったものである。

テロリズムもまた、他の場所でと同様、コロンビアで市民を狙った抑圧的法制の口実に使われる。ウリベは、自分の「対テロ戦争」が人権侵害を減らしていると主張する。けれども、誘拐が減っていることが示されている一方で、政府自身の情報源が、軍が直接行う人権侵害が増大していることを示している。一例を挙げると、数カ月前、アラウカ州のサラベナで2000人もの人々が逮捕され、スポーツ・スタジアムにかり集められて、消すことの出来ないインクで手首に印を付けられた。いまだに逮捕されているのはそのうちたった一人だけである。これは「魔法の釣り」練習と言われるものである。ゲリラもまた、身代金目当てで誘拐すべき金持ちを見つけるためにバスに乗った人全員を拘束することがあった。今や、政府が、ゲリラを一人見つけだそうとして、何百人もの一般市民を収容するのである。

対テロ戦争は真実をあべこべにする。現在議論されている法律には、政府が通信を傍受したり、家宅捜索を行なったり、手紙を開いたり、電話を盗聴したりできるようにし、軍に捜査、検察、裁判権を与えたりするものが含まれている。こうした権力は、ジャングルでハンモックに寝て、郵便も受け取らず電話も持っていないゲリラを標的としたものだというのだろうか? それとも、労働組合員や人権活動家、教師や農民の指導者を標的とした虐殺や殺害、拷問、失踪の大部分を実行している準軍組織と関係していることが多数記録されているまさにその軍の権限を強化するためのものだろうか?

我々は、ウリベが「かつてない人気」を誇ると何カ月にもわたって言われ続けてきた。しばしば、ウリベのゲリラに対する「全面戦争」は70%もの賛同を得ていると。コロンビアの人々が何年も戦争に耐えてきたこと、ウリベの近しい友人たちがメディアを全面的にコントロールしていること、ウリベの単純な解決法という誘惑を考えると、これは驚くことではない。けれども、ウリベが14項目からなる国民投票を行なったとき、人々は、ウリベがIMF路線のネオリベラル式攻撃を人々に加えると同時に大統領権限を拡大しようとしているという事実に目を向けた。これまでのコロンビアの伝統的政治モデルをうち破る積極的投票拒否キャンペーンにより、有権者の4分の3が投票を行わなかったため、この国民投票でウリベは敗北した。

ウリベに反対する運動は多くの点でお互いに意見が異なっているが、政治的な武器としての暴力と武力行使を拒否するけれども、これが政治的紛争であるということを受け入れる必要があるという点では合意している。紛争を解決するのは交渉による政治的合意だけであり、その合意は、暴力を拒否した社会的正義に基づかなくてはならない。

2003年10月、ルイス・エデュアルド・ガルソンが進歩的同盟として、ボゴタ市長に当選した。ガルソンは2002年ウリベに大統領選で敗れたが、コロンビアの大部分を軍事地域に変え、「情報提供者ネットワーク」や「農民民兵」といったプログラムによりますます多くの市民を紛争に引きずり込み、急激な私営化と財政引き締めを導入するといったウリベの政策に、継続して反対してきた。コロンビアでは金持ちがあまりに長い間優遇されてきたと主張するガルソンは、市長就任の初日に「飢えのない日」と提唱し、ボゴタに広がるスラムで大規模な食料提供ネットワークの設立を提案した。

全体として進歩的同盟は地方投票の3分の1を獲得し、市議会議員を数百議席と2地方の知事職を獲得した。ガルソンの勝利は決定的に大切な政治空間を開くための良い予兆である。ルーラとチャベスを政権の座につけ、アルゼンチンでIMF支配を吹き飛ばしたラテンアメリカにおける民主的変化の風が、コロンビアでも吹き始めている。

ウィルソン・ボルハはコロンビアの社会政治前線を代表する国会議員で、何度も暗殺未遂を経験している。彼は最近、英国の「欠乏に対する戦争」および「コロンビアに正義を」のキャンペーンで英国をツアーした。www.waronwant.org/colombiawww.justiceforcolombia.orgも参照のこと。また、ボルハとのインタビューも参照して下さい。


「対麻薬戦争」から「対テロ戦争」へ。レトリックを変えて人権侵害が続けられます。人権侵害の大部分は、軍と密接に結びついた準軍組織が行なっており、ウリベ大統領による準軍組織との交渉や恩赦という見せかけのもとで、続けられています。標的とされるのは、労働組合員や学生、人権活動家、農民組合等、つまり、自分たちの生活の改善を求めて活動する当たり前の市民です。

米国でもコロンビアでもインドネシアでも、「対テロ戦争」という思考停止を促す(促すか?)お題目のもとで、市民的自由への大規模な攻撃が行われています。では、日本は? 米英による侵略戦争に資金と政治的協力を行うだけでなく、自衛隊を派遣して直接参戦する動きが加速していますが、それと同時に、一連の盗聴法や教育基本法改悪、組織犯罪防止法等、市民的自由を剥奪する様々な法的・政治的策動が行われ、達成されてきました。

そうした中、竹山徹朗さん主催のメルマガ「PUBLICITY」に、北海道大学の山口二郎氏の指摘「軍優先の社会への移行・・・第11師団長によるクーデターの予告」という文章がありました。一部を引用します。
1月6日、札幌雪祭りの雪像づくりの作業開始式で、雪像づくりを行う自衛隊第11師団(札幌市真駒内駐屯)の師団長は、雪祭り会場の大通公園周辺で、イラク派兵に反対する市民のデモ、行動が起こった場合、自衛隊が雪像づくりから撤収する可能性があると述べた。

これに対して、札幌市は自衛隊の雪像づくりを円滑に進めるため、大通公園付近における市民の集会、デモ等に対して、公園の管理者として退去するよう指導するという方針を決めた。(以上の事実経過は、北海道新聞1月6日夕刊および7日朝刊による)

私はこの記事を読んで、クーデターの予告だと思いました。雪祭りを人質にとって、イラク派兵に反対する市民の活動をするなと、自衛隊の責任者が堂々と恫喝したのです。

政府の行動、方針に対して意見を表明する自由は、民主主義の大前提であり、基本的人権の根幹です。

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自衛隊のイラク派遣という憲法違反が、師団長によるデモ自制要求という新たな憲法違反を生み出しているわけです。
基本的に、その通りだと思います。憲法に違反するものとして生まれてきた「自衛隊」の存在をきちんと検討して来なかったために、憲法が破壊され、新たなる憲法違反を生みだし、文民統治の基本までが一気に脅かされそうな雰囲気になってきました。その後北海道新聞には、それなりにまっとうな記事が掲載されたが、全国メディアはあまり取り上げていないことも危険です。

不法占領を行なっている軍への被占領者の抵抗を、一般市民への無差別攻撃と区別もせず、ただ「自爆テロ」「自爆テロ」と繰り返す「公共放送局」や大手メディアの姿勢が、ここでも現れたようです。一方で、石破茂防衛庁長官は9日、新聞、通信、放送各社の報道責任者に対し、派遣の日程や隊員の安全にかかわる報道を自粛し、現地取材を極力控えるよう申し入れたとのこと。そもそもそんな権利がどこから発生するのでしょうか。

戦地イラクへの自衛隊派兵に反対する緊急署名は一次集約が迫っています。他に、現状を考えると憲法改悪反対署名運動など、統治の基本的な理念である法の位置づけをきちんと守っていくことも大切でしょう。

もともとこのページはコロンビアの状況を中心に紹介することを目的としてはじめたものなので、日本国内の状況やイラク派遣等をめぐってあまりタイムリーにカバーできていません。Creative Spaceさんには貴重な情報がタイムリーにアップされますので、是非ご覧下さい。特に、1月9日の「戦争参加命令」についてのメモ。また、おかしな報道には抗議しよう日記もとても参考になります。
益岡賢 2004年1月11日

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