コロンビア地方部をめぐる対ゲリラ・プロパガンダ

エリック・フィチトル
2005年8月18日
コロンビア・ジャーナル原文


コロンビアの地方部は、政府の経済開発モデルにとって何よりも中心となる。コロンビアの四大輸出品----不法なコカ、合法な石油と石炭、コーヒー----は、すべて地方部で生産されている。コロンビア地方部の経済的重要性のために、内戦下の武力衝突は地方部で頻繁に起きる。コロンビアでは、暴力の多くと強制追放のほとんどは、地方部の小さな町や村で起きる。これらの町や村は、歴史的にコロンビア政府のプレゼンスが弱いかまったくなく、遠くボゴタの中央政府に対する不審が根深いところである。コロンビア地方部門の発展の遅れゆえに、政府は、そうした地域で地べたのプロパガンダ方略を採る必要があった。

コロンビア軍は心理作戦の語彙によく馴染むようになった。一部は、コロンビアに派遣されている米軍特殊部隊および米国の米州軍事学校(2000年に西半球治安協力研究所と改名された)から受けた訓練の結果でもある。これまで長いことゲリラの勢力下にあった地方部に進出し占領する際、政府軍は、ハイテク機材よりも人間の交流に基づく「心をつかむ」プロパガンダ作戦を展開する。同時に、政府当局がその成功の写真と情報を集め、全国区のメディアに渡して、コロンビアの人々に向けて報道する。

地方に住むコロンビア人たちは、ある武装グループがその地域で圧倒的な覇権を維持している限り、そのグループのもとでの生活に自らを適応させる傾向にある。暴力----および追放----が起きるのは、そうした地域で覇権争いが起きたときである。それゆえ、これまでゲリラが支配していた町や村をコロンビア軍が奪い取ることに成功した直後には、そのコミュニティに暮らす人々の多くが逃げ出すことになる。逃げ出すのは、地域を制圧している政府軍からの報復----それに伴って右派準軍組織がやってくることも頻繁にある----を恐れてのこともあれば、ゲリラにより撤退を強要されてのこともある。けれども、コロンビア軍が最優先している使命は政府の構築にあるので、政府軍はすぐさま事態を「浄化」して、できれば住民を連れ戻そうとする。

確実に制圧したあと、戦闘の際逮捕されたゲリラのメンバーとされる人々の写真を撮り拘束する。兵士の一部は爆弾などのブービートラップを探し、他の兵士やコロンビア政府諜報組織である治安行政省(DAS)のメンバーは残った住民から聞き取りをし、周辺の様子を、損害や敵の戦闘員の遺体も含め、ビデオや写真に収める。そうしたとき必ず、政府軍が押収した敵の武器や戦争装備などが仕訳されて整理され、兵士が弾丸やツーウェイ・ラジオ、ピストルなどの戦争関係品が並ぶ横でおどけたポーズと採る写真を撮ったりする。兵士たちはしばしば、殺された敵の戦闘員の遺体と一緒に自分の写真を撮る。

それからまもなく、写真が選ばれて公式プレスリリースに使われ、そこで押収した物品と拘束したり殺した敵についての詳細な説明が発表される。それらはコロンビア内外のメディアに伝えられる。数週間すると、治安状況が許せば、軍は報道陣の遊山を組織し、奪取した町を選ばれた報道陣に見せてまわる。たとえば、軍は2004年1月4日にカケタ州のラ・ウニオン・ペネヤを制圧した。1月25日には、ワシントン・ポスト紙A−14面に町の目撃取材記事が掲載され、同じ週、軍の写真を含むコルプレンサの記事がコロンビアの諸紙に掲載され、数日後には英語のAP通信記事が現れた。

独立報道は、メディアに対して広い敵意を抱く武装諸集団に目を付けられる。コロンビアのジャーナリストたちはとりわけ、紛争の様々な側から無慈悲に標的とされる。コロンビアが記者にとって最も危険な国の一つにランクされることはいつものことであり、紛争地域に記者が入るための唯一の方法は軍にエスコートされることである場合もよくある。こうして実質上、記者団が軍属することになるため、政府は何についての報道がどうなされるかに大きな影響力を持つことになる。コロンビアの主要日刊紙エル・ティエンポ紙の編集主幹がBBCに語ったように、「そうした地域で移動するためには軍の許可が必要になる。集団で行って仕事をしようとする。『私たちに仕事をさせてくれますか?』と言うために武装集団に対面しなくてはならないことさえある。いつも危険だ。何が起こるかはまったくわからない」。

どんな経路でもそうした出来事を報道しようと追うことはメディアにとって正しいのだが、紛争地帯に入るために軍に依存しすぎ、戦闘作戦の詳細について公式情報源に依存しすぎると、コロンビア内戦に関するメディアの報道は間違いようもなく政府寄りになる。これにより政府は、エドワード・ハーマンとノーム・チョムスキーがよく知られたマスメディア批判の書『合意の捏造』で述べた、知覚を型にはめる「フィルター」を手にすることになる。そしてそれは必然的に政府のプロパガンダの必要性に使えることになり、政府が対ゲリラ作戦を着実に進めているという----どんなにそれが選択的で恣意的なものであっても----イメージを広める。シーツにくるまれたゲリラ戦士とその側に並べた押収した装備の上でポーズを採る自信ありげなコロンビア軍兵士たちの写真は公式プロパガンダの枢要であり、コロンビアのメディアはあまり考えもせずにそうした写真を公表していることは繰り返し述べておく必要がある。

この記事は、特別レポート「Contested Country: An Examination of Current Propaganda Techniques in the Colombian Civil War」からの抜粋。

エリック・フィチトルはコロンビア・ジャーナルの編集委員。


コロンビアについては、フォト・ジャーナリスト岡原功祐さんが、写真をウェブサイトで公開しています。ぜひご覧下さい。

また岡原功祐さんの写真展(ダルフール内戦)が、2005年11月29日(火)から12月5日(月)まで新宿エルタワー28F・ニコンプラザ新宿内Nikon Stationで、2006年3月30日(木)から4月4日(火)まで新サンケイビル1F・ニコンプラザ大阪内Nikon Stationで開催されます。ぜひお出かけ下さい。

イラク・ホープ・ネットの高遠さんが、9月末から各地で講演を行います。詳細は、イラク・ホープ・ダイアリーをご覧下さい。

東京では、以下のような講演会があります。

■国連を変える 世界を変える
 〜脱軍事化をめざすNGOの挑戦〜

[講師]川崎 哲さん(ピースボート共同代表)

[日時]10月7日(金) 午後6時半〜
[会場]東京・文京区民センター 3階B会議室
   (三田線・大江戸線春日駅2分、丸の内線・南北線後楽園駅5分)
[参加費]700円(会員500円)

<主催> 国連・憲法問題研究会
[連絡先]東京都千代田区富士見1-3-1上田ビル210
 (TEL) 03-3264-4195 (FAX) 03-3239-4409

益岡賢 2005年9月29日

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