一日情報提供者たち

ギャリー・M・リーチ
2003年4月7日
コロンビア・ジャーナル原文


コロンビア東部、アラウカ州の人口3万人からなる都市、サラベナでは、戦争が続いている。このアラウカで、ピエロの服装をしたコロンビア軍兵士たちが、地元の子供たちにキャンディをあげ、軍の装甲兵士輸送車に子供を乗せ、軍の水泳プールを使わせている。子供たちを、親=軍・反ゲリラの立場に教え込む機会を狙っているのである。サラベナで、子供たちは、コロンビア軍が行っている心理戦争作戦の主要な標的となっている。このサラベナでは、ブッシュ政権の世界規模の「対テロ戦争」の一環として、2003年1月以来、現在まで、40名の米軍特殊部隊が駐屯している。ベトナム侵略時に米軍がフェニックス作戦で用いた心理戦争作戦と同様、サラベナでの心理戦争作戦は、地元の人々の「心」をつかむというだけでなく、民間人−特に子供−から、サラベナでのゲリラ活動情報を引き出すことを目的としている。

右派準軍組織はアラウカ・シティ −ここにも30名の米軍特殊部隊兵士が駐屯している− 周辺で勢力を維持しているが、サラベナには足場を得ていない。そのため、コロンビア軍が、直接、ゲリラが何十年間も支配してきたサラベナの諸地区に挑戦している。コロンビア軍第18旅団が、心理作戦部隊を周辺化された地区に定期的に送り込んでいる。表面上は、住民の「心をつかむ」戦争に勝利しようとしてのことである。

2003年2月に行われたそうした作戦で、第18旅団の心理作戦部隊の兵士たちは、サン・ルイス地区の数区画を確保した。サン・ルイスは、民族解放軍(ELN)の民兵が統制している地域である。兵士たちが、それから数時間、防衛警戒に就いている中で、ジョン・フェルナンド・アレナス軍曹が、ポピュラー・ミュージックと軍トラックにつんだ拡声器を使って、親軍・反ゲリラのプロパガンダを流した。宣伝の内容は次のようなものであった。

この地域で作り出されたテロ行為に対して普通の人々が無関心でいる必要はない。住民は皆、状況を意識し、テロリストたちを非難すべきである。民兵達は、われわれの青年達をリクルートしようとしている。悪しき市民を作り出すために。そうしたことに気づいたときは、8892031に電話するようお願いする。この番号は、盗聴されない。民兵は、人々を怯えさせるだけである。協力のネットワークを作って、それを批判しなくてはならない。サラベナの民兵を追放するときである。8892031に連絡してほしい。サラベナの人々は、怖がる必要はない。この電話は盗聴されていない。民兵を非難するときがきている。アラウカと、そしてサラベナの人々に、もっともひどいダメージを与えてきたのは民兵である。自らを人民の軍隊と呼ぶ軍が、本当にそのような役割を果たしていると思うか?

兵士たちを用心深く見ている人々がいた。いつも通りの商売をしている人々もいた。けれども、多くの住民は、家の扉を閉めて、隠れていた。けれども、プロパガンダの電撃的集中攻撃を逃れるすべはなかった。フェリーニの映画から抜き出したような奇妙な光景の中で、制服兵士に伴われた2名の赤と黄色のピエロの服装をした兵士が、家から家へと訪問し、ゲリラの活動に関する情報を提供した市民に対しては、褒美を提供するというリーフレットを配ったのである。キャンディの大きな袋を抱えたピエロたちは、親たちが心配そうに見守る中、出会った子供に親切に話しかけた。

軍によるこのサーカスが行われていると同じときに、数名の兵士は、近くの壁にあるELNのグラフィティの上に色鮮やかな絵を塗るのに忙しかった。結局、軍によるサン・ルイス地区への進出は、ゲリラに対する一時的な妨害に過ぎなかった。この数時間のあいだ、ゲリラたちは、コミュニティの中に身を溶け込ませていたのである。

サン・ルイスの心理作戦は住民一般を標的としたものであるが、現在サラベナでコロンビア軍が行っている別の心理作戦では、特に子供を標的としている。「一日兵士」というプログラムでは、3歳から12歳の子供たちが、毎週木曜日、兵士となるために連れてこられる。ここでの活動として、たとえば、コロンビア軍兵士と制服の軍心理専門家が、子供の頭に迷彩ヘッドバンドをかぶせ、顔を迷彩メークするといったことがある。また、ピエロの服を着た2名の兵士が子供たちを喜ばせる。嬉しそうに見える子供も、ただとまどっている子供もいる。この体験の間中、「小さな兵士」たちは、親軍・反ゲリラのプロパガンダの爆撃を受け続ける。最後に、基地のプールに入った後、子供たちは基地の中を、50口径マシンガンをフル装備した武装兵士輸送者で、ぐるぐると連れていってもらう。

迷彩戦闘服を身につけていた軍の心理専門家パオラ・アルサテ・アスコタは、私に対して、このプログラムは、子供たちがサラベナで頻繁に経験する暴力からのトラウマに対処するためのものであると説明した。アルサテによると、子供たちは、「近隣の悪い奴らを殺すために拳銃の使い方を学ぶのにあこがれている。シリンダー爆弾を破壊するために戦車の運転法を学びたがっている」という。けれども、このプログラムには、別の、もっと直接的な利益がある。ゲリラが統制する周辺化された地区の子供たちと話をすることにより、その地区のゲリラ活動に関する貴重な情報だけでなく、子供の家と家族に関する貴重な情報も入手できるのである。

こうした子供たちの中に、ゲリラの子供がいないのか訊いたとき、アルサテは、次のように答えた。「多くの場合、これらの子供たちの親は民兵であり、子供たちは、何が正しくて何が悪いかを巡り困惑するようになる」。さらに彼女は、次のように続けた。「迷彩ヘッドバンドを付けたとき、それを付けたまま家に帰ると親が怒鳴るかも知れないから付けて帰れないという子供たちがいる。そんなときには、家で何が起きているのか、子供に話しかけて知ろうとすることになる」。

これらのプログラムに子供を誘う軍の戦略について疑問が持ち上がっている。安全上の問題から匿名を希望したある女性は、友人の家でその子供たちの面倒を見ていたある日の午後、兵士たちがやってきて、ピエロを見せるために連れていくと行った。兵士たちはお金とキャンディを子供たちに与え、彼女が子供たちを行かせまいとすると、ゲリラと非難した。彼女は、「兵士たちは子供たちに、母親や父親のことについて訊いている」と述べる。それから、「兵士たちは家にやってきて、すべてのものをチェックする」と。

こうした心理戦争と諜報戦略は、民間人、特に子供たちを、武装対立に巻き込んでいるため、ジュネーブ条約に違反していると思われるが、コロンビアの米軍顧問たちは、これらの作戦を支持しているようである。サラベナに駐屯する米軍特殊部隊兵士の一人は、次のように述べて、心理戦争の大切さを強調した。「この戦争は、銃弾によって勝利することはできない。コロンビア軍の側に人心を惹きつけることによって勝てる。ベトナムでのように、ジャングルを行進することで、ゲリラに勝利することはできない」。コロンビア軍は、「ジャングルを行進する」作戦でゲリラに対してあまり成功を収めていない中、サラベナで、ベトナム時代の心理作戦が、現在続けられている対ゲリラ作戦の中で重要な役割を持ち続けていることははっきりしている。


益岡賢 2003年4月8日

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