ベネスエラの牧畜家たちはコロンビア内戦の激化を恐れている

2002年10月7日
マイク・シーサー
コロンビア・ジャーナル原文

ベネスエラ西部国境地帯は、波打って続く丘、小さな農業町、散らばった牧場、そして麻薬商人、ゲリラ、恐怖からなる人口の少ない地帯である。コロンビア内戦が激化しつつある中、隣国コロンビアの戦争がベネスエラにまで広がるのではないかと心配する人々もいる。けれども、ベネスエラ西部に暮らす人々は、既に長い間、戦争の影響を感じていると述べている。ビジネスマンや牧場主は、ここ数ヶ月の間に増加した誘拐の恐れからも、それを感じている。国境から約20キロのところにあるエル・ヌラ町の住人は、逃亡したコロンビア人ゲリラや麻薬商人の殺害からそれを感じ取っている。そして、皆が、国境地帯に法の手が及ばないことを利用して活動している、たくさんの非正規武装グループの脅威を感じている。

長い間、誘拐の主要な標的とされてきた牧場主たちは、これまで、バシネと言われる月々の支払いを行って誘拐から身を守っていた。けれども、最近現れた新しいグループは、以前の協定に従わないため、牧場主たちは、ボディガードを雇ったり、国家警備隊を雇って、自分の土地に移動する際エスコートしてもらうことを余儀なくされている。こう述べるのは、国境のタチラ州の牧場主協会会長ヘナロ・メンデスである。

メンデスによると、コロンビア・ゲリラの3組織が、ベネスエラ西部で活動している他、ボリバル解放軍(Bolivarian Liberation Forces: FBL)と自称する新たなグループも活動している。FBLは主としてベネスエラ人からなっていると考える人々もいるが、メンデスをはじめとして、この新たなグループは、コロンビア・ゲリラが新たな名前を用いているものだと思っている人々もいる。

さらに、人々を誘拐して、ゲリラに「売り飛ばす」ギャング集団も多い。「3、4年前までは、主なコロンビア・ゲリラのグループは2つしかなかった」とメンデスは言う。コロンビア革命軍(FARC)と民族解放軍(ELN)である。「今、最悪なのは、誰が誘拐をしているのかわからないことだ」。

ベネスエラ政府関係者は、コロンビア軍、左派ゲリラ、右派準軍組織の戦争が、コロンビアとベネスエラがもつ長いほとんど統制されていない国境を越え、ベネスエラにやってくるのではないかと恐れている。準軍組織を束ねるコロンビア自衛軍連合(AUC)の指導者カルロス・カスタニョは、準軍組織が、自営のためにベネスエラ人を組織化して訓練していると何度か述べてきた。彼は、カラカスのエル・ナシオナル紙に、「私はベネスエラの問題に関与したくはないが、国境地帯は両国に影響するのだ」と述べている。

メンデスは、コロンビア準軍組織の代表が牧場主協会の会員を訪問したことを認めているが、牧場主が自衛軍を組織し始めるときは「まだ」であると言う。けれども、毎日、新たな圧迫が加わっているようである。サン・クリストバルのラ・ナシオン紙が掲載した、「次の犠牲者は誰だ」という記事によると、72時間に一人が誘拐されているという。

メンデスのような牧場主の立場にもかかわらず、ベネスエラでも、コロンビア内戦下最悪の残虐行為の多くを行ってきたコロンビアの準軍組織に倣って、自衛軍を組織しようとしているという多くの報告がある。これに対して、FBLのようなベネスエラ人のグループが、ウゴ・チャベス大統領の「ボリバル派革命」を防衛すると誓っている。

エル・ヌラでは、コロンビア内戦の影響はまた違ったかたちで現れている。大通りでは車よりも自転車の数がおおいような、そして、牧場主たちは町に馬で乗り付けるような、この静かな農業・牧畜の町エル・ヌサでは、今年、1か月に1件の、職業的暗殺が起きている。自動ライフルを持ち高速道路のチェックポイントを監視し、夜にはエル・ヌサの大通りをパトロールしている兵士たちも、バイクで町に突入し、外科医的効率で任務を遂行し、すぐさま去っていく暗殺者たちを阻止できないでいる。

エル・ヌサのカトリック司祭アカシオ・ベラウドリア師は、犠牲となっているのは、コロンビアのゲリラか麻薬商人からの報復から逃げ出した人々であると考えている。ベラウドリアは、報復を恐れて、「誰も見ず、誰も聞かず、誰も話をしない殺害」があるという。けれども、ゲリラたちは、コミュニティの中で別の役割も果たしていると司祭は述べる。政府の統制が弱い地域では、ゲリラは平和のための仲裁を行っており、町の人々は、土地を巡る争いをはじめとする対立の解決を求めて、ゲリラのもとへ訴えるという。地元の住民は、町の中で殺害が行われることに慣れてきたようにも見える。最近殺害があった場所から2ブロック程離れた場所で理容室を営むある理容師は、「殺害には慣れた」と述べた。

国境地帯に住む人々は、コロンビアの新大統領アレバロ・ウリベが、約束したゲリラへの攻撃を実行するならば、どうなるか考え緊張状態にある。誘拐と拉致の増加、さらなるゲリラの侵入、そして難民の発生を予期している。ベラウドリアは、コロンビア難民の「大規模な流出があるだろう」と述べ、さらに、「ゲリラ・グループも自らを守るために、国境を越えてくるかも知れない」と言う。彼の心配は、コロンビアとエクアドルの国境地帯で聞かれた心配と同じである。こちらの国境では、大規模な難民流出は起こらなかったが、武装集団による脅迫と暴力は増加したのである。「ウリベは国境を統制して、人々がこちら側にこないようにすべきだ」とメンデスは言う。

けれども、1400マイルにわたる国境地帯の大部分は、町から遠く離れており、山がつらなり、パトロールされていない。国境の町サン・アントニオのコロンビア領事ジルベルト・ゴメスは、「犯罪者が国境警備ポストを目にしたとしても、500メートル歩いて向こうにいけば、越境できることがわかっている」と述べる。彼はまた、国境地帯で犯される犯罪すべてについて、不当にコロンビア人のせいにされていると言う。

国境地帯のベネスエラ軍関係者は、ゲリラとの対立を望んでいない。ゲリラによるベネスエラ人兵士殺害の記憶−最後に起きたのは5年程前のことだが−は今も残っている。エル・ヌラ近くにある国境警備ポイントのある警備員は、ゲリラがベネスエラ軍兵士を虐殺し、喉を掻ききって舌を引き抜き、傷口に突っ込んだことを覚えている。国境に配置されているときに、川の逆側をゲリラの隊列が行進しているのを見たが何もしなかったという。「私は自分のライフルを構えられなかった」と彼は言う。「そうしても、問題が起きるだけだから」と。


  益岡賢 2002年10月8日

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