コロンビアの炭坑とコミュニティ:セーラム・コネクション

アビバ・チョムスキー
2002年9月2日
コロンビア・ジャーナル原文


1980年代以来、コロンビア・グアヒラ半島のセレホン・ソーナ・ノルテ炭坑は、石炭を生産し輸出している。このプロジェクトから利益を得ているものは多い。エッソとしても知られるエクソンモービルとその株主たち(2001年までは炭坑の所有権を半分有していた)、高品質、低硫黄、燃やしても有害物質の少ない石炭を購入し、工場の浄化にお金をつぎ込まなくても環境規制をクリアできる、米国エネルギー諸企業、よりきれいな空気と、安価で安定した電気から利益を得る、米国住民などである。コロンビアで被害を受ける人々の数はそんなに多くないかも知れない。けれども、これらの人々が被る被害は、計算できないほどに大きい。健康を失い、土地と家を失い、収入を失い、そして命すら失うのである。

米国マサチュセッチュ州セーラム−ここには、PC&Eが所有するセーラム港発電所があり、セレホン・ソーナ・ノルテ炭坑の石炭を使っている−を最近訪れた、ワユ先住民組織ヤナマの指導者レメディオス・ファハルドは、我々に、「私たちはこの闘いを20年間続けているが、誰もこれまで私たちの言うことに耳を傾けなかった」と言った。我々北岸コロンビア連帯委員会(North Shore Colombia Solicarity Committee: NSCSC)の目的の一つは、レメディオスや彼女のような人々の話を、直接、米国の人々に伝えることである。米国の人々は、自分たちの安楽なライフスタイルが、他の人々の犠牲の上に成り立っていることに、気づいていないことが多いのだ。

2002年5月23日、レメディオスはセーラムの住民に、次のように述べている。

コロンビアの先住民ワユとアフロ・コロンビアの人々の土地にある、エル・セレホンで採掘されている石炭は、セーラムに電気を提供しセーラムを利するのために、セーラムにもたらされる。私たちは、セーラムの人々に、この石炭の起源には暴力があることを伝えたい。私たちのコミュニティは多大な犠牲を強いられてきた。人権が侵害され、領土は略奪され、家は破壊されつぶされ、石炭がセーラムをはじめとする世界各地に到達するために、人々の値が流された。エル・コレハンが犯してきた行為は、戦争犯罪と考えられる。そして、世界はそれを非難しなくてはならない。PG&Eも間接的な責任を負っている。というのも、PG&Eは、昨年夏に破壊されたタバコ共同体や、現在破壊の脅迫を受けているタマキト、ロチェ、チャンクェタ、パティージャのようなコミュニティの犠牲の上で得られる鉱物資源を利用しているからだ。私たちは、セーラム市の人々に、私たちとの連帯を表明するようお願いする。というのも、この状況により、私たちの間には関係が存在するからだ。セーラムはPG&Eに影響を与えることができる。私たちは、セレホン炭坑の顧客たるPG&Eに、炭鉱地帯に住む人々に対して正義を要求するよう求めたい。住民たちは、この地域で生まれ育ち、そこで生活してきたのだ。
レメディオと彼女のパートナーであるアルマンド・プレス・アラウジョは、セーラム滞在中、2つの関連する話を私たちにしてくれた。一つは、コロンビア最大の先住民グループであるワユの話である。ワユは、この500年の間に、荒れ果てた砂漠のような北部グアヒラに追い込まれ、そこでワユウナイキという自らの言語と、自らの文化を維持してきた。もう一つの話は、肥沃な南部グアヒラの話である。ワユもいるが、多くはアフロ・コロンビア移民で、過去100年間に、コロンビアの別の場所から、暴力を逃れて来た人々である。

先住民とアフロ・コロンビア人コミュニティは、炭坑複合企業体により、戒厳令下に置かれてきた。この複合体は、2001年まで、エクソンモービルとコロンビア政府が共同で所有し生産を行っていたが、現在は、ヨーロッパに本社を置く炭坑企業であるBHPビリトン、グレンコア、アングロ・アメリカンのコンソーシアムが運営している。炭坑自体は、南部グアヒラの30マイルx5マイルの地域を占めており、その活動により、周辺地域のほとんどが、爆破や塵、汚染、農耕地や雇用機会の喪失により、居住不能地帯となってしまっている。90マイルに及ぶ鉄道は、先祖代々受け継がれてきたワユの土地を突き抜けて、石炭を海岸に運んでいる。海岸では、新たに建設された港が、いくつかの漁村を破壊した。

セーラムの住民達は、レメディオとアルマンドの訪問に大きな支援を示した。2名は市長と面会し、市長は、炭坑拡大のために2001年秋にブルトーザで破壊されたタバコ町の代替地域を求める手紙を書くことに同意した。タバコの住民−多くはいくつかの相互に関係のある拡大家族に属する−は、エクソンモービルとコロンビア政府に、コミュイティを再建できるための土地を求めたが、エクソンモービルはそれを拒絶し、そのかわりに、個別に交渉し、会社が提示した条件を拒絶した人々をただ強制収用した。

アルマンドとレメディオが米国にいるときに、コロンビア最高裁は、タバコ村の人々に有利な判決を下したが、人々は、国際的な圧力がないならば、タバコ村の別の場所での再建を求める裁定は決して実現されないことを恐れている(タバコ村の状況に関する詳細と最新情報については、Mines and Communitiesを参照のこと)。セーラム市の市長スタンレー・J・ウソヴィクスは、関係当局筋に、最高裁裁定が迅速かつ全面的に実施されることを求める手紙を書き、セーラム市がタバコ村再建のために物質的援助を行うと提案した。

コロンビア生まれのセーラム市議会議員クラウディア・チュバーは、アルマンドとレメディオスと長時間面会し、議決を提案した。それは、炭坑の拡大のために人権を侵害したことを非難し、非暴力で社会を変えるために働くすべてのコロンビア人に連帯を表明し、セーラム市とタバコ村との間に継続的な関係をうち立てることを提案するものであり、のちに全員一致で、セーラム市議会で可決した(この議決の全文はMines and Communitiesで見ることができる)。

我々は発電所の管理職員たちと面会を求めたが、何度かやりとりがあったのちに、面会は拒絶された。けれども、発電所の総支配人マイク・フィッツジェラルドは、短い生命を発表した。「顧客として、我々は、販売主に対し、この問題について交渉し正当な解決を求める」と。

セーラムの地方紙セーラム・イーブニグ・ニュースは、レメディオスとアルマンドにインタビューし、包括的かつ共感にみちた報告を掲載した。2名はまた、いくつかの学校や大学のグループ(マーブルヘッド高校、セーラム州立大学、ハーバード大学)や地方組織とも会談し、また、2つの公開講演を行った。

2名の訪問と、それに対するびっくりするほど積極的な人々の反応から、NSCSCの我々は、この夏に、いくつかの教育的活動を行うこととした。我々は、セーラム・マリタイム・フェスティバルでテーブルを設置し、コロンビアについての情報を配り、市議会の議決を支持する署名を集めた。また、いくつかのドキュメンタリーを放映したが、それは、セーラム及び周辺の公共TVで放送された(末尾のビデオ情報を参照)。

さらに、この10月には、セーラムに、コロンビア炭鉱労働者組合SINTRAMINERCOLの会長フランシスコ・ラムレスを招待する計画を立てている。ラムレスの組合は、エネルギー生産、海外投資とコロンビアでの人権侵害との関係を調査している。彼はコロンビアと、炭坑=エネルギー開発、そしてジェノサイドについて話す予定である。彼の訪問により、我々が一緒に、労働、環境、人権問題について検討する機会となるだろう。

連帯委員会の組織にあたっては、他のセーラムの組織との関係を持つことができた。発電所の公害をなくすために活動しているヘルスリンクという地元の環境団体、会長ジェフ・クロスビーは既に反自由主義グローバリゼーションとコロンビア連帯で活動していた北岸労働評議会、ニカラグア連帯に起源を持ち、現在は米国の低所得コミュニティとの連帯を中心に活動する、ネイバー・トゥー・ネイバーなどは、すべて、人的・物的協力を提供した。

我々は、米国に、現在の軍事化の増大の流れを阻止し、コロンビアの平和と人権を促進する外交政策を採るよう求める全国運動を展開するための一部であることを光栄に思っている。我々は、人と人とのつながり、より正確には、既にセーラムとコロンビアとの間にあるつながりを可視化することで、この目的に貢献できると期待している。


アビバ・チョムスキーは、セーラム州立大学のラテン・アメリカ史助教授で、北岸コロンビア連帯委員会のメンバー。

以下のビデオが、セーラム・アクセスTVより各15ドルで入手できる。連絡先は、+1-(978) 740-9432)。

The Destruction of Tabaco. 2001年8月タバコ村のブルドーザによる破壊について。

Coal Mines and Communities in Colombia: The Salem Connection. 鉱山とワユの歴史について。

What's the Cost of Your Coal? アルマンド・プレス・アラウジョとレメディオス・ファジャルドが、 2002年5月セーラム州立大学で行った講演のビデオ。

Coal: The Ties that Bind. 西バージニアとコロンビアでの石炭採掘に関するドキュメンタリー。


あまり関係ありませんが、2002年8月30日朝日新聞朝刊に「テロに襲われた世界」第14回として、コロンビアが扱われていました。「30年以上もゲリラによるテロとの戦いが続くコロンビア国民は」とか、「当時のパストラーナ大統領は一貫して話し合い路線を歩んでいたが、FARCの暴力は収まらず」といった記述がある一方、コロンビア人権侵害の4分の3を行っている準軍組織AUCについても、ウリベ大統領のAUC等とのリンクについても、全く一言も言及がありません。1999年、インドネシア軍が東チモールでテロ行為を進めていたときに、「フレテリン、山岳部でテロ」という妄言を平然と記載したリベラル紙らしい態度です。(ちなみに、記事が言いたかったのはフレテリンではなくファリンティルらしい。なお、念のために、私はFARCとファリンティルを同様のものと見なしてはいません。インドネシア軍/民兵とコロンビア軍/準軍組織は、その人権侵害や虐殺、ともに米国の全面支援を受けてきたことなど、似通っていますが。)
  益岡賢 2002年9月3日

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