狂気への投票

2002年5月27日
ギャリー・M・リーチ
コロンビア・ジャーナル原文

アルバロ・ウリベの戦闘的なキャンペーン・レトリックに何か信頼できるものがあるとすると、日曜日(2002年5月26日)に行われた大統領選挙でアルバロ・ウリベが勝利したことにより、コロンビアで何十年にもわたり続く対立は劇的にエスカレートすることになるだろう。独立右派候補として、繰り返し左派ゲリラを批判してきたウリベは、大統領選挙の第一ラウンドで投票の53パーセントを獲得した。メディアのほとんどが、ウリベが第一ラウンドで勝利したことにより、ゲリラに対するかつてない闘いの命令をウリベが行えるだろうと述べているが、実際には、元アンティオキア州知事ウリベに投票したのは、有権者の24パーセントに過ぎない。

日曜日の投票では、有権者の46パーセントしか投票しなかったのである。有権者の54パーセントという、コロンビアでは高い割合で、人々が棄権したため、ウリベは、有権者の24パーセントしか票を得ていないにもかかわらず、選挙に勝利することとなった。低い投票率は、コロンビアで続く暴力にも深刻な不況にも対処できない政治体制に対する失望が増大していることを示している。

さらに、投票箱を焼いたり、有権者を脅迫したりといったゲリラの行動により、いくつかの市町村で、投票が制限されることになった。一方、別の地方部の住民は、右翼準軍組織により、ウリベに投票することを強要された。準軍組織がウリベを支持していることは、彼が勝利したのちコロンビア最大の右翼民兵コロンビア自衛軍連合(AUC)から祝福を受けたことからも明らかである。

選挙活動を通して、ウリベは、大統領に選ばれたらゲリラに対する全面戦争を開始する意図を表明していた。彼の案は、アメリカ合州国政府からのさらなる軍事援助を、直接介入の可能性も含め、求めるものである。彼はまた、コロンビア軍と国家警察の規模を二倍にすることも求めてきた。

ウリベの計画の中で最も問題なのは、1980年代にグアテマラ軍が創設した市民防衛軍にならい、全国的な諜報ネットワークを創設するために、100万人の市民にラジオと、そして場合によっては武器を提供するというものである。批判者は、これについて、グアテマラで起こったと同様、こうした市民集団の多くは不可避的に右翼死の部隊へと成長し、反対派に共感しているとの疑いをもたれた人々に対する軍の汚い戦争を支援することになるだろうと述べている。

ウリベがアンティオキア州の州知事をしていた3年間の間に、Convivir(監視と私的治安のための組合)を設置したことにより、まさにこのような事態が起きたのである。Convivirは、軍に情報を提要する使命を負う武装市民集団からなっていた。けれども、こうしたConvivirの多くは、ゲリラ支持者と疑いをかけられたものの殺害に関与し、そして、少なくとも二つのグループは、本格的な準軍組織へと成長し、コロンビア軍と手を携えて、左派と疑われた人々への汚い戦争を遂行した。

度重なる人権侵害の結果、Convivirは1999年に非合法なものとされた。けれども、今や、ウリベは、彼がアンティオキアで行ったConvivirプログラムを国中で再現しようとしているのである。これが実行されるならば、不幸にしてゲリラ軍が活動している地域に住む貧困に追いやられた農民たちにとって、破滅的な人権状況が引き起こされるであろう。

コロンビアの汚い戦争をエスカレートさせるばかりか、ウリベはまた、戦闘部隊の数を二倍にすることにより、コロンビア軍の戦闘力を高めようとも意図している。大統領は、富裕層の子供たちは戦闘義務を避けることができるというコロンビアの偏向した法律を変えることなく、これを実現しようと考えている。現在、徴兵制度は、すべての男性に、1年間の軍務につくことを求めている。けれども、高校を卒業しているもの−主としてコロンビアの中上流階級の子供たち−は、兵役を、戦闘に関わらない任務で遂行することができる。

さらに、裕福な親は、汚職にまみれた役人に賄賂を送り、息子が全く兵役につく必要がないようにすることもできる。ウリベも彼の息子たちも兵役に従事しなかったことに、ウリベは言及しようとしない。一方、貧しいコロンビア人家庭の子供たちは、いつも徴兵にとられ、内戦の前線で戦わなくてはならない。

法律を変えずにコロンビア軍を拡大しようと言うウリベの計画は、コロンビアの貧困層から軍へのリクルートを増やすことを意味する。貧困層は、既に、コロンビアにおける3つの武装グループ、すなわち軍、準軍組織、ゲリラの戦闘員の大多数を占めているのである。つまり、ますます多くの貧しい人々が、都市の城塞の壁に守られて過ごす少数の富裕層を利するだけの政治・社会・経済体制を守るために、お互いに殺し合うのである。

ウリベを支持したのは裕福なコロンビア人だけではない。内戦のさなかに捕らえられたコロンビア貧困層の少なからぬ部分もまた、彼の法と秩序のプラットフォームを支持したのである。これは、過去30年間に、ラテンアメリカで繰り返し上演されたシナリオである。市民は出口の見えない暴力に憤りを感じ、どのような手段ででも秩序を回復することがますます魅力的に見えるようになる。

その結果、不可避的に、多くの市民、特に抑圧的な手段の標的になりそうにない市民にアピールする強行手段を約束する強行派が生まれる。けれども、1970年代チリのアウグスト・ピノチェトやアルゼンチンの軍政に見られたように、鉄の拳は一定期間、安定と秩序を回復するように見えるかもしれないが、そもそも対立の根にある原因に取り組まない限り、それは続きはしない。

過去25年の間にアルゼンチンが経験した経済的なローラー・コースターは、政治・社会・経済問題を解決しないことからくる不安定の強烈な例である。また、エルサルバドル内戦を終わらせた和平協定は、エルサルバドルの膨大な社会経済的不公平を扱わなかったため、エルサルバドルには、今日、戦争下最悪の年々にも比する程の暴力犯罪が押し寄せている。

仮にもし、ウリベが、軍を強化し、汚い戦争をエスカレートさせ、外国政府にコロンビア・ゲリラと戦うために部隊を派遣するよう説得し、武力でコロンビアを平定することに成功したとしても、社会経済的原因を解決しない限り、暴力が戻ってくることは避けられない。さらに、ウリベが実質的な軍の勝利を得ることも、コロンビアにおけるゲリラの強さと国の広大で厳しい地形を考えると、あまりありそうもない。

ウリベの政策が達成するであろうことは、暴力的対立をエスカレートさせ、貧しいコロンビア人をその主な犠牲者とし続けることである。それにもかかわらず、ウリベは、軍事主義的戦略を推し進めようと意図しているようである。有権者の24%の票しか得なかったウリベには、そうした狂気を実行する命令権限などほとんど存在しないにもかかわらず。


  益岡賢 2002年5月28日

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