戦火の中の先住民

2002年3月25日
ギャリー・M・リーチ コロンビア・ジャーナル

コロンビアの多くの人々が、政府とコロンビア革命軍(FARC)との間の和平交渉をパストラナ大統領が最近取りやめたことで、内戦が劇的にエスカレートするのではと心配している。こうした人々の恐れは、コロンビア軍が元非戦地帯に大規模な爆撃作戦を開始し、それから、地帯の主要都市を再奪取するために地上部隊を送り込んでいることを考えると、十分に理由のあることである。FARCは、都市の標的とコロンビアのインフラに大規模な爆弾作戦を展開することで報復している。けれども、南西部のカウカ州にすむ先住民にとって、暴力は、和平プロセスが崩壊するはるか前からエスカレートしていたのである。近年、準軍組織とゲリラの双方が、先住民保護区の中立をますます侵害していたのだ。

先住民居住地に対する暴力的侵出により、コミュニティ指導者が殺害され、先住民文化が破壊され、若者が武装集団にリクルートされた。アンデス高知のシルビア市のそばに住むグアンビアノ先住民コミュニティの副長官ファビオ・カラムバスによると、「交渉の終結は何ら我々には違いをもたらさない。和平交渉の間中、我々は武装グループの侵略により犠牲を出してきた。」

ガンビアノ、パエス、ヤナコナの人々を含む多くの先住民の指導者達からなるカウカ地域先住民協議会(CRIC)は、こうした侵略に対し、繰り返し、武装対立の中でカウカ地域の先住民コミュニティは中立であると宣言するという対応をとってきた。コロンビア自衛軍連合(AUC)準軍組織もFARCも、この中立宣言を無視してきた。この事実は、2002年3月4日に、準軍組織が、サンタンデル・デ・クイリチャオという小さな町で、ラス・デリシアス先住民保護区の元長官だったサムエル・フェルナンデス・ディスを殺害したことにはっきりと示されている。

フェルナンデス・ディス殺害は、CRICの全国フォーラムがポパヤンで予定されていたその前日に起きた。このフォーラムは、先住民コミュニティの社会的、経済的及び文化的緊急事態を扱うものであった。フォーラムでは、指導者たちが、コミュニティ全体を集めて平和的に武装侵略者に向かうことにより市民抵抗作戦を続けることを約束した。

CRICの指導者アナトリオ・クイラは、棒で武装した先住民コミュニティが武装グループと対決しているという報告を報道することで状況を悪化させているとメディアを批判している。先住民コミュニティが採用している非暴力戦略をメディアが誤って報道していることについて、クイラは、「それらの棒−バストネス・デ・マンド−はいつも我々とともにあったものである。それは武器ではない。それは我々と自然との関係の一部なのだ」と述べる。

棒を操るインディアンが武装グループと対決しているという誤った報告は、しばしば武装グループのいずれかに共感を抱いていると非難を受ける先住民コミュニティのメンバーにとって致命的な結果を招くことがある。パエスの指導者オネシモ・カルプセスによると、「我々はすべての武装グループとの間に問題を抱えている。というのも、ゲリラが来たときには、我々は軍への協力者であると言われ、一方軍が来たときにはゲリラ協力者だと言われるからだ。このため、我々は自由でいられない。」

ピタヨに住む6500人のパエス人の市長であるカルプセスは、先住民コミュニティにおける失業問題から、若者の中には武装グループに参加したり軍に登録したりするものも出るという。彼は、武装グループは、若者を貧しいままに放置し経済的改善の希望がほとんどないことで伝統的な生活様式に幻滅した先住民の若者を積極的にリクルートしていると述べる。

CRICは、先住民の若者に地域会議に参加し年長者及び伝統的文化との緊密な関係を育むよう奨励することでこの問題と闘おうと試みている。けれども、先住民の80%が酷い貧困の状況にいるなかで、この闘いは非常に困難であることがわかってきている。

遠隔地の市場に送ることが難しい伝統的な食料作物を交易することができないため、多くの先住民コミュニティは、メイズやプラタノ、ユッカ、コーヒー、豆、芋、麦、タマネギによる自給自足を補うために、コカやケシの栽培を行っている。その結果、「先住民コミュニティは不法作物も伝統作物として採用することとなった。高地では、ケシを育て、暑い地帯ではコカを育てている」と、ヤナコナの若い指導者ウィリアム・アルマンド・パレチョルは述べる。

先住民の土地で不法作物を栽培することとなった結果、武装グループとの問題が悪化することとなった。低地では準軍組織と、そしてアンデス地帯の高地ではFARCとの間で。というのも、武装グループは、麻薬貿易のための領土制圧を拡大しようと求め、先住民の保護区への侵入が増えたからである。パレチョルによると、FARCは、ヤナコナの人々に、コカやケシの栽培を強制しないが、「コミュニティに不法作物栽培と貿易の税を支払わせる。また、今や問題はさらに悪い。というのも、AUCがいて、殺害が行われるからだ。彼らは、社会を浄化するために来たと言う。」

グアムビアノの人々もまた、ケシの栽培の結果、自分たちの保護区に対する武装グループ−特にFARCの第8戦線−の侵入増加を経験している。ファビオ・カランバスは、「我々は、我々の土地を侵略し、許可無く活動する武装グループとの間に問題を抱えている。これらのグループは我々の土地を暴力で占領し、そして軍が到着すると、我々は戦闘のさなかにおかれることになる。」

この地域に住む1万6千人のガムビアノ人の中には、赤、紫、白からなる美しいケシを自分たちの泥煉瓦の家の裏にある小さな庭で育てているものもいる。彼ら彼女らはまた、急峻な山々に広がる畑で高地食料作物も栽培している。ケシは耕作地のわずかを占めるにすぎないが、伝統的作物よりもはるかに安定した収入を貧しい先住民家族に与える。合法的な食料作物はほとんど自給のために消費される。というのも、市場価格が低く、また、山の中のコミュニティから都市や町へ輸送するのが難しいからである。一方で、カリの商人は、貴重なケシの乳液をグアムビアノのケシ栽培者から買い取るために喜んで山に向かうのである。

けれども、麻薬貿易の個人主義的性格は、グアムビアノ共同体の経済文化を崩すこととなった。カラムバスによると、「我々の経済は搾取経済でも利潤追求経済でもない。自給自足経済であり、消費に最小限必要なものを生産する経済だ。それが我々の伝統だ。資本主義ではなくコミュニタリアンだ。」

個々のグアムビアノの家族によるケシ栽培を抑え、もっと共同体的な農業体制に戻ってもらうことを試みて、グアムビアノの議会は作物代替合意を政府との間で結んだ。グアムビアノの人々が手でケシを撲滅し、そのかわりに大規模な屋外養魚場で魚を養殖するという代替プロジェクトは、プラン・コロンビアによる不法作物への毒薬空中散布により破壊された。カラムバスは述べる。「我々は、毒薬散布が水を汚染し鱒の養殖を破壊した被害を被った。生き残ったわずかな鱒は全く売れなかった。毒薬空中散布は我々の作物とライフスタイルを壊している。」

ケシ栽培を効率的になくすために、グアムビアノの人々には今以上の耕地と市場に合法農産物を輸送する手段とが必要である。アンデス山脈の3000メートル地域の厳しい土地のため、耕作に適した土地は限られており、農業の多くは急峻な山の斜面で行われている。カラムバスは次のように述べる。「グアムビアノの生存は土地にかかっている。我々は、政府と交渉して、コミュニティのためにさらなる土地を合法的に得たい。けれども、土地を手にすると同時に、伝統的作物を支援するプロジェウクトがなくてはならない。」

経済状況を改善しようと試みて、不法作物を栽培したり代替作物プログラムを実施して外の世界ととの経済的関係を増大させると、それにより、先住民の保護区に武装侵入が行われ、政府の毒薬散布キャンペーンが実施される。さらに、自分のコミュニティにおける不法作物を撲滅しようとする先住民指導者たちは、武装グループの標的とされる。

暴力がエスカレートしているので、カウカの先住民コミュニティは自らの伝統的文化と自分たちの土地の中立を守るために組織化し、同時に、コミュニティの経済状況を改善すべく政府に要請している。伝統的文化を維持しながらコロンビア経済と交流を持つというバランスの取れた行為は、不法麻薬作物が大規模な利益をあげることから引き起こされる内戦によってさらに困難なものとなっているのである。

  益岡賢 2002年5月20日

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