コロンビアの、ある学校

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
2005年7月21日
原文


キブド、コロンビア、2005年7月21日(国連難民高等弁務官事務所):一見したところ、ペドロ・グラウ校は他の教育施設と何ら変わらないように見える。休み時間に生徒たちがサッカーをし、ベルが授業の開始を告げ、昼時にはお馴染みの騒がしさが訪れる。けれども、ペドロ・グラウ校はチョコ州、北西コロンビアのジャングルのアトラト川沿いに位置している。チョコ州は、コロンビアで最も貧しく最も孤立した州の一つである。また、密輸の幹線経路でもある。

この3年間、この地域では、不法武装グループとコロンビア軍とのあいだで40年にわたって続いてきた紛争の中でも最も激しい戦闘が続き、何百万人という人々の生活を台無しにしてきた。罪のない子どもが犠牲者になることはとても多い。コロンビアでは100万人以上の子どもが家族と一緒に家を逃げ出さねばならず、そのように追放された子どものうち約30万人は、国民教育制度にアクセスできない。

ペドロ・グラウ校に通う587人の生徒のうち93%が国内避難民である。この学校は、3年前にキブドのラ・グロリア地区に開校した。アトラト川周辺の町から逃げてきた国内避難民の多くが住み着いた地域である。同校の建設にはUNHCRも財政支援を行い、現在は現地教区および国連の他の組織とともに積極的に学校経営に関わっている。

「教育と保護」プロジェクトを通してUNHCRは、追放された子どもたちの特別な問題に対処するための教師への訓練を助けている。子どもたちの多くは巨大な心理的トラウマを抱えており、キブドにたどり着く前には暴力と死、追放以外ほとんど何も知らない。

「これらの子どもたちが生きてきた現実が、訓練を通してとてもはっきりしました」と、ペドロ・グラウ校の80人の教師の一人でプログラムを受けたイェセニア・コルドバは語る。「苦痛が涙としてあらわれることもあります。怒りにまみれている子どもたちもいて、そうした子どもたちは同級生に対して攻撃的になります」。

エヴェルニス・ルマリア・カイセドは、キブドから船で4時間のところにあるベジャビスタの町で2002年5月に起きた教会への攻撃を生々しく憶えている。117人の犠牲者が出て、その多くは子どもだった。

「家にいたけれど、教会に行くことにした。安全と救済が得られると思ったから」と17歳の生徒は抑揚のない声で言う。「でも準軍組織が私たちを追い返した。ちょうどそのとき、爆発音が聞こえた。多くの人を殺す爆発だった」。

人々が水の溢れた町の路上を叫びながら走っていたのを彼女は憶えている----しょっちゅう起きることだが、アトラト川の水が町に溢れていた。それから、家族と一緒にある家に隠れ、あとで船着き場に白旗を掲げながら歩いていった。一家は普段は物資や人を川を使って運ぶ丸木船の一つに乗って逃げた。川を下る旅は短かったが大変で、怪我をした人々がうめき声を上げる中、誰もが手で船を漕がなくてはならなかった。

校長のジャネット・モレノ・シスターは、エヴェルニスが経験したようなトラウマの影響は、まったく予期しないときに現れることがあると述べる。

「生物学の時間に生徒が教室を飛び出すこともあります。人体図が、目にした暴力を思い起こさせるのです。多くの場合、絵は、手足を失った家族や、親の腕や足をもって走っていたと気づいたときのことを想起さます」。

UNHCRは、エヴェルニスのような子どもの必要に教師が対処することを助けるために「教育と保護」プロジェクトを展開した。コロンビアでは、今年だけで、1200人の教師がこのプログラムで訓練を受けている。プログラムはコロンビアのNGOコルポラシオン・オプシオン・レガルが運営している。5年前に始まってから、約4000人の教師が訓練を受けた。家を追放された子どもたちがとても多いので、このプロジェクトはコロンビアにおけるUNHCRの仕事の中心的なものと捉えられている。

「使命に従って、私たちは学校が安全の場所になるようにしたい」とコロンビアUNHCRのプログラム代表ルイサ・クレモネセは言う。「追放された子どもたちを歓迎して守ることができる学校を創り出すことが目的だ」と。

キブドでは、プロジェクトは予想外の発展を見せ、ますます多くの生徒を助けている。ペドロ・グラウ高校に加えて、町には450人の生徒がいる10の小学校があり、それぞれが、国際組織とコロンビア政府の支援を受けてカトリック教区により運営されている。少しずつ、追放された子どもたちは普通の生活に戻っている。

「最初に学校が出来たとき、117人の生徒がいて、全員が、本当に全員が、武器を持っていた」とシスター・モレナは回想する。「大人の世界に大きな不信を抱き、武装していることにより守られているという気持を得ていた」。

それ以来、学校は、武器----ナイフや爪切り、鋏、プラスチックの銃----を本や鉛筆、おもちゃと交換するプログラムを始めた。

17歳のレイデ・マルチネス・ディエゴは、喧嘩により退学にさせられなかった数人の生徒の一人である。キブドの住民として彼女はほとんどのコロンビア人よりも国内避難民についてよく知ることとなった。

「社会は国内避難民を差別する。たぶん、どうやって接していいかわからないから」と彼女は言う。「人々は、避難民が人を殺したり盗みを働きに来たと考える。学校で、避難民が悪いのではなく、私たちと同じように普通の人々だと学んだ」。

文:エデュアルド・クエ
キブド、コロンビア


イラク・ホープ・ネットの高遠さんが、8月に各地で講演を行います。詳細はこちらをご覧下さい。また、8月7日、イラク人ジャーナリストのサーム・ラシードさんの講演会が東京であります。ご案内はこちらをどうぞ。

最近、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を採択する動きが様々なところで広まっています。教育は、数十年後の未来を見据えてやるもの。私は「つくる会」の教科書には反対ですが、採択の動きについては、それ以上に、一部の大人の惨めで不格好なルサンチマンに将来の世代を巻き込もうという採択推進者の醜さが何よりも臭います。政治的主張云々の前に、雪印の集団不祥事隠蔽に似通ったタイプのもの。関連するページとしては、こちらをどうぞ。


益岡賢 2005年7月19日

一つ上] [コロンビア・ページ] [トップ・ページ