カウカの命運は我々にかかっている

ジャスティン・ポドゥールによるノーム・チョムスキーへのインタビュー
ZNet原文
2002年7月12日


本記事を執筆している時点で、カウカ州北部のトリビオとハムバロ行政地域は、コロンビア革命軍(FARC)とコロンビア政府の双方から爆撃を受けている。 北部カウカは、新自由主義に抵抗し、西半球で新自由主義に対する代替政策を実際に造り出そうとする、最も目を見張る試みを続けている地域である。 これが、平和を求める、勇気ある非武装の闘いを伴っていることは言うまでもない。

今現在の戦いは、「腐敗」を理由に、これらの行政地域の先住民市長を処刑しようという意図でFARCがこの地域に侵入したことから始まる。 これらの市長たちは、カウカの人々が培ってきた、直接民主的な人々の意見を反映する手続きにより選ばれた人々であり(「Snapshot of Colombia」を参照)、これらの市長たちに対する汚職の非難は根拠がない。 カウカの先住民組織はこの脅迫から人々を守るために国際的な連帯行動を要請し、自治建設を継続できるようすべての武装集団に地域から撤退するよう求めている。

ノーム・チョムスキーは数ヶ月前にカウカを訪れた。彼は、今日行った電子メールによるインタビューで、状況について述べている。


1) あなたはカウカの先住民を最近訪問しました。今、その地域はあらゆる方面から攻撃を受けています。 FARC、準軍組織、米国による空中毒薬散布です。 これは何故なのでしょう?カウカの人々が達成したことが、破壊しなくてはならないような「良い例の脅威」と見なされたからでしょうか?

それは妥当な結論だと思います。

私はカウカに数日滞在しましたが、会ったのはほとんど南部から来た人々でした。 カンペシノや先住民で、これらの人々は、苦痛を伴わずには聞けないような個人的証言をしてくれたのです。 私はまた色々な異なるグループの活動家とも会いました。 とても印象的な人々で、知事のフロロ・トゥヌバラとも数時間お話することができました。 フロロは思慮深く、物事を考えており、誇り高い先住民で、彼の地位に選出された西半球最初の先住民かも知れません。 こうした地域をずっと支配してきたエリートたちにとって、彼が選出されたことはショックでした。 10年前のハイチを思い起こさせます。彼が選出されたのは、一般の人々、「ブロケ・ソシアル」(社会ブロック)の草の根の地方における組織かの成功を反映したものです。 あなたの質問に対する答えとして、公開インタビューで彼が言った言葉を引用することにします。 彼は1年前に、北部で準軍組織のプレゼンスが強化されていることに警告を発していました。 コロンビアにおける準軍組織統制地域を拡大しようとするさらなる一歩です。 彼は、準軍組織が北部カウカに侵入してきたのは、社会ブロックが成功し、「経済・領土権を勝ち取り、また、教育と保健の部門で社会権も勝ち取った」ためだと述べています。 準軍組織が防衛している伝統的な権力構造から逸脱するそうした例を我慢できないため、「準軍組織がそれに注目した」のです。これが、あなたの質問に対する基本的な回答だと私も思います。

けれども、事情はもっと複雑です。彼によると、最近、ゲリラは「社会運動を操作しようと試みており」、そして、人々の証言から、ゲリラたち−特にFARC−がカンペシノたちやアフリカ系コロンビア人、先住民に恐れられていること、また、FARCが、対立がますます軍事化している中で、以前行っていたような社会プログラムを失ったことも明らかです。 社会ブロックは、地域を内戦から分離しようと試みています。 軍=準軍組織からもゲリラからも自由になり、自分たち自身の手になる独立した社会経済的開発の道を追求しようとしているのです。 軍事化された勢力はいずれもそれを受け入れません。同様の努力はコロンビアの沢山の地域で進められており、その中には、エルサルバドルと同じくらいの大きさの地域でコミュニティのネットワークづくりが進められている場合もあります。 恐らく最も古いのは、サン・ホセ・デ・アパルタドで、30年前に自ら平和ゾーン宣言を出しましたが、それを受け入れない武装集団によって困難を強いられています。 私がコロンビアにいたときに、その人々は準軍組織により封鎖状態に置かれており、食料をはじめとする必需品は足りなくなりはじめ、何かしようとして国際的な注意を喚起しようとしている人権団体や連帯団体の範囲を超えた外部支援がないと絶望的な状況です。

私が会った人々は、米国による化学戦争作戦(「薬剤散布」)を、とりわけひどい残虐行為とみなしています。 農民たちの証言は生々しく胸が張り裂けるようなもので、ちょっと現地にいくだけで、化学戦争の効果を見るには十分です。 私たちがあった人々のほとんどはコーヒー農家です。これらの人々はコーヒー価格の急落を、主にヨーロッパに対する高品質のオーガニック・コーヒーを販売する市場を確保して何とか乗り越えてきたのです(価格急落により破壊されたのは農民で多国籍企業は全く平気です)。 毒薬空中散布により、これが破壊されました。永遠に。コーヒービジネスがすべて破壊されただけでなく、土地に毒がばらまかれたので、破壊されたものを取り戻すために数年間人々が生き延びることができたとしても、有機コーヒーと認定されることはないでしょう。 そして、ユカやアスパラガスその他膨大な他の作物も破壊されたのです。

農場と生活は廃墟となり、家畜は殺され、子供たちは病気にかかったり死んだりしています。 人々は窮乏しており、希望がほとんどありません。 私が個人的な証言を聞いた地域では少なくとも、農作物の破壊は、ゲリラの存在とも麻薬生産ともほとんど関係ありません−そうだとしてもグロテスクなものですが。 破滅的な農産物破壊作戦の対象となる地域の実地検査すらなされてこなかったのです。 これらのプログラムは、土地から貧しい農民を追放するという歴史的なプログラムの新たな段階であるように見えます。 これにより、海外資本が搾取できるよう、資源豊富な土地を空にするのです。 そしてまた、恐らくは、生物多様性が破壊され、豊かではあるけれども微妙な伝統的農法を破壊したあとには、研究室で造り出された種を使った多国籍企業が統制する農業輸出品の生産地となるのでしょう。 隣接する地域の市長とともに、トゥヌバラは毒薬散布を止めるよう求めています。 コカを手作業で除去しながら、同時に、社会経済開発プログラムを実施することを求めているのです。 けれども、コロンビアのエリートとワシントンが企む「プラン・コロンビア」にはそれは適していません。 そのため、ほとんど全く支援を受けないのです。

背景として覚えておかなくてはいけないことがあります。2001年に、カウカはコロンビア最悪の人権記録だったということです。 これはひどいことでした。次はチョコで、犠牲者はほとんどアフリカ系コロンビア人です。 チョコは、準軍組織がチョコを侵略したときに起きた戦闘を逃れて教会に避難していた人々に、FARCの爆弾が直撃し恐ろしい虐殺が行われたところです。 醜悪な歴史の最近の出来事です。遙か以前から、カウカでの暴力は、他の地域と同様、最上の土地から農民を追い出そうという作戦の一環で、これは新自由主義政策によりエスカレートしましたが、一方で歴史に根付いたものです。 これによって、海外資本と結託した極端な富の集中の一方で豊富で多様な資源のある国で恐るべき貧困が蔓延するという社会秩序がつくられたのです。 カウカでも長いことそうした状況でした。社会ブロックはこのプロセスを逆行させたので、国内及び国際的に集中した権力から歓迎されなかったのです。


2) コロンビア政府はゲリラ活動と準軍組織部隊との間に板挟みになり、どちらも統制できず、それゆえ両者を打ち負かすためには米国からの軍事援助が必要だというコロンビア政府の主張はどの程度信頼できるものでしょうか?

国際人権組織もコロンビアの人権組織も、現在、残虐行為の大部分は準軍組織によるものだとしています。 準軍組織は、軍と極めて密接な関係を持っており、これは非常に明白で、ヒューマンライツ・ウォッチは、それゆえ、準軍組織を、軍の5部門に追加されたもう一つの部門として「第六部門」と呼んでいます。 軍と準軍組織が密接な関係を保ち協力していることについては極めて多くの証拠があります。 沢山の個人的証言、主だった人権組織の報告書などで、これらは、詳細で多くの情報を含んでいます。

軍/パラ(準軍組織)が行った残虐行為の比率はここ数年一定です。大体75%から80%です。 このうち、軍それ自身が行う部分は減少しています。他の場所でお馴染みのように、軍が残虐行為を「外注」に出しているからです。 これは「もっともらしい否定」に都合がよいのです。つまり、コロンビア軍の人権記録が「改善されている」ことを保証する毎年の茶番を行う国務省にとっては十分「もっともらしい」ということですが。 一番最近では、コリン・パウェルが数ヶ月前に、主だった人権組織が提出した、人権状況改善は偽りだという注意深い報告を含んだ包括的な書類をパウエルが受け取ったあとで述べたような忌むべきパフォーマンスがあります。

残虐行為を準軍組織に外注するのは、「新自由主義モデル」の図式に上手く会う私有化の一形態です。 コロンビアは「新自由主義モデル」の典型的な例なのですから。 米国による国家テロへの参加も同様の道を追って進められています。 ますます私有化されているのです。 国家テロの仕事はMPRIやDyncorpといった、米国軍人を雇用し政府との契約で活動する企業に手渡されています。 こうした企業は、国営部門がやっていたならば多少は制限を課すことができる議会による調査対象とならないのです。


3) 北米の人々がカウカの人々のやっていることを守ることはできますか?どうすればよいでしょう?

カウカの人々の命運は私たちの手の中にあると言っても誇張ではありません。 カウカの社会ブロックはコロンビアに造られた沢山のそうした組織の一つです。 単独では、米国の力を後ろ盾にしたコロンビアのエリートの手になる暴力が使っている圧倒的な資源をもった攻撃に耐えることはできないでしょう。 ゲリラについては、権力中枢がゲリラを軍事的に打ち負かすことはできないかもしれませんが、主要な目的は達成しています。 つまり、ゲリラを有意義な社会プログラムを持たないただの軍事部隊にしてしまうことです。 これにより、ゲリラは、犯罪的な社会経済体制とそれに深く関係する間年する暴力から逃れる道を見いだそうとする人々に対するテロのもう一つの実行源となるのです。 これは、国家主導の国際テロの古典的な手段です。

社会ブロックの有機と献身、そして社会ブロックとともに活動する人々は、印象的で励まされます。 けれども、弾圧の巨大な力は、ここ北米で取り除かなくてはなりません。 そしてまた、こうした人々の大変印象的で将来性のある仕事に対する直接的な支援を提供すべきなのも、ここです。 ある程度そうしたことは起こりつつあります。姉妹都市プロジェクトをはじめとする様々な連帯活動です。 これがどのような展開を見せるかが何百万人ものコロンビア人の命運を決定するでしょう。 私たちは火星から事情を観察しているのではありません。 そして彼ら/彼女らが毎日、圧倒的に過酷な状況で続けていることの一部でも、大きな違いとなっていくでしょう。


  益岡賢 2002年7月16日

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