トニー・ブレアを解体する

ジョン・ピルジャー
2003年6月13日
ZNet原文


これほどの重大犯罪は、分解しないし分解することはない。事実を変えることはできない。トニー・ブレアは英国を不法に対イラク戦争に参加させた。彼は、何の脅威でもない国に対して挑発されもせずに攻撃を加え、何千人もの罪のない人々の死を促した。現代国際法に大きな影響を与えた第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判の判事達は、これを「あらゆる戦争犯罪の中で最も重大なもの」と呼んだ。

ブレアは、英国市民から、自分がやった行為について、お墨付きのかけらも得ていない。逆に、攻撃の直前、大多数の英国市民が、はっきりと、攻撃を止めるようブレアに求めた。彼は、こうした真の民主主義の大きな表れに軽蔑的な対応をした。彼は、大国の選挙で選ばれずに政権を握った指導者の声だけを聞くことにしたのである。

ブレアが、身を守る術を持たない手負いのトラウマ化された国(その住民の半分近くは子供である)に対する「歴史的勝利」を稼いでいる際、ブレアのご機嫌取りたちは、メディアに出入りし、ブレアのことを「勇気ある」とかさらには「道徳的な」とさえ述べ、彼の宣伝マネージャーたちは、一連の、さも感動したようなPRの妙技を発揮していた。

最初の妙技は、ブレアが子供たちに、「危うく仕事を失いかけた」と語ったという物語により人々の同情を引き出そうとするものだった。第二の妙技は、同じ目的を持つもので、彼の特権的な子供時代が、実際には「困難」で「苦痛に満ちた」ものであるという物語であった。第三の最も許し難いものは、彼がイラク南部の都市バスラで、先週、ブレアの訪問のために債権された学校の中で、イラクの子供を腕に抱きかかえたショーである。バスラでは、水や他の基本サービス同様、教育も、英国の侵略と占領のために、今でも混乱を極めているにもかかわらず。

バスラでブレアが子供を抱きかかえている映像を目にしたとき、私はたまたま、アフガニスタンはカブールのあるホテルにいた。もう一つの傷ついた土地におけるブッシュとブレアのもう一つの「歴史的勝利」のシーンとなった国である。私は、「クソ忌々しい」と口に出していた。以前、私はバスラで、トニー・ブレアが熱狂的に適用した貿易封鎖のもとで、癌治療の機材も薬も提供を拒否されたために、病気になって死んでいく何百人という子供を映像に撮ったことがある。

それは、真実であり恐ろしいものであるため、ブレアの宮廷が決して口に出さないような話の一つであった。

2002年7月まで、54億ドル相当の、イラクの民間人に対する決定的に重要な主として人道支援を中心とする供給が、米国によって妨害され、英国はその妨害を支持していた。私が訪れたと同じバスラの病院にいたことがある、WHOの癌対策プログラム責任者キャロル・シコラ教授は、私に次のように語った。「いくつかの薬品が大量破壊兵器に流用できるという言い訳は馬鹿げたものです。私は、死にかけている人々に鎮痛剤さえ与えられない病棟を見ました」。

これは、3年以上前のことである。そして今や、メーデーに、人々の英雄ではなくとも兵士の英雄たるブレアが、シャツの胸をはだけて、カメラに映るために、腕に子供を抱きかかえている。そこから数マイルと離れていないところで、私は、英国では当たり前の治療がなくて苦しむ数々の幼児を見てきた。しかも、そうした治療ができないのは、ブレアが承認した中世的なイラク包囲作戦が故だったのである。これらの命を救うことができた薬や機材の提供が阻止された主な理由---シコラ教授をはじめとする多数の専門家が馬鹿げていると述べた理由---は、こうした必須の薬や、さらには子供の予防注射さえもが、大量破壊兵器に流用できるというものだったことを思い起こそう。

大量破壊兵器(WMD)は、現代の職業用語の一部となった。彼が政権の座を降りるときには、WMDという言葉を自分の政治的墓石に彫り込むことになるだろう。彼は現在がんじがらめになっている。というのも、最も献身的な取り巻きでさえ、彼が、イラク攻撃のために繰り返し述べた第一の理由たるWMDについて嘘をついていたことが明らかだからである。


実際には、こうした嘘は一揃えある。私は、少なくとも一ダースのそうした重大な嘘を数え上げた。イラクとアルカイーダと2001年9月11日のNYとワシントンでの航空機突入との関連に関するブレアの「確固たる証拠」(英国の諜報に否定された)から、イラクが核兵器を「開発している」という主張(ブレアが引用した文書が捏造であることがわかり、国際原子力機関に否定された)、さらにはブレアの最も恥知らずな主張、イラクの大量破壊兵器は「45分のうちに作動できる状態である」というものまで。。。

イラクの「秘密」兵器に対する魔術的な謎の追求が始まって、83日が経過している。ジョージ・ブッシュが送り込んだ専門家の一団は、既に帰国した。

今週、英国諜報筋が、ブレアの「45分」説が、ほとんど信頼性のないある脱走者のでっち上げであることを明らかにした。国連のある査察官は、2台のキャンバスで覆われたローリーが、移動式化学兵器の「証拠」であるというブレアの最新の主張を、完全に否定した。信じがたいことに、彼は、昨日、「新たな書類」を約束したのである。

ブレアの解体が、彼の嘘のほとんど全ての情報源だった米国から来ているというのは皮肉なことである。米国では、上級諜報オフィサたちが、公に、「政治的宣伝屋たちによる悪用」を批判しているのである。

諜報オフィサたちは、米国国防長官ドナルド・ラムズフェルドとその補佐であるポール・ウォルフォウィッツを名指している。オフィサの一人は、彼らが「最も警戒を要する話を大統領に聞かせ・・・・・・それによって、大統領に、入手された情報の中で熟慮され注意深く検討された情報を提供するかわりに、ゴミを与えた。そして、数日のうちに、それが正しくないことがわかると、さらに、大統領に熱いゴミを与えたのである」。

サダム・フセインが「45分」のうちに攻撃できるというブレアのおとぎ話がこうした「熱いゴミ」の一部であるというのは驚きではない。驚くべき---あるいは信じがたい---おとは、ブレアが、それが「熱い」ものだと知らなかったことである。2月にジャック・ストローとコリン・パウエルが会談して、大量破壊兵器に関する全問題に疑問を呈したことを知っていても良さそうなものであったが。。。


これは全て見え透いた嘘であった。国連武器査察団の団長ハンス・ブリクスは、真実を語っていた。イラク侵略ははるか前に計画されていた、と彼は言う。そして、兵器の問題は、概ね「捏造された証拠」に依拠していた、と。ブレアは英国の人々をひどく騙したわけではなかった。というのも、ほとんどは、彼の嘘に気付いていたし今も気付いているからである。彼はむしろ、尊敬すべきジャーナリストたちやブロードキャスターたちを騙し、こうした面々は、彼のブラック・プロパガンダを、BBCのニュース報道のヘッドラインや大見出しとして、増幅して伝えた。ジャーナリストたちは彼のために狼少年の役割を果たし、あらゆる疑わしきは罰せずの恩恵を彼に与え、彼の犯罪を非常に矮小化し、ニュース・アジェンダの多くを彼に設定させたのである。

数カ月にわたって、大量破壊兵器を巡る見え透いた嘘が、我々が知るべきそして論ずべき権利を有している真の問題を覆い隠してきた。すなわち、イラクという国全体を自国の石油豊富な基地とすることによって、米国が中東支配を意図しているという点である。歴史が証拠を示している。19世紀以来、英国政府は同じことをしてきた。ブレア政権も、それと同類である。

現在の困難は、真実が姿を現しつつあることである。今週、驚くべき地図が発表され、英国軍が、イラクの大部分をクラスター爆弾で破壊したことが疑いようもなくなった。その多くは、ほとんど確実に、着弾時には爆発せずに残されたであろう。クラスター爆弾は、通常、子供が拾い上げるのを待っており、それから爆発する。コソボやアフガニスタンに見られる通りである。

これらは卑劣な武器である。けれども、今回のイラク侵略は、あらゆる戦争の中で最も卑劣な戦争の一つである。海軍も空軍もないぼろぼろの軍隊を敵として「戦った」のだから。先月、原子力潜水艦HMSターブレントがポリマスに帰還した。海賊ジョリー・ロジャーの紋章を掲げながら。何とぴったりしていることだろう。


この英国戦艦は、30発の米国トマホーク・ミサイルをイラクに向けて発射した。ミサイル1発につき、70万ポンドの費用がかかる。合計で納税者の懐から2100万ポンドが使われたことになる。これだけで、英国政府が、国際法で義務づけられているにもかかわらず、まだバスラに提供していない基本サービスをカバーすることができる。

HMSターブレントの30発のミサイルはどこに命中したのだろうか?何人が、これにより殺されたり手足を失ったことだろうか?これについて我々が何も耳にしないのはどうしてだろうか?恐らく、このミサイルには、ブッシュが言う「悪者」とブレアの言う「邪悪な者」を普通の人から区別するセンサーがついていたのかも知れない。このミサイルは、石油省を狙ってはいなかったということだけは、確実である。

英国現代史のシニカルで恥ずべき一章が、我々の名のもとに、あなたの名のもとに書かれたことになる。ブレアとその協力者たちが、その責任から逃れることを許してはならない。


「トニー・ブレア」を「小泉純一郎」に置き換えて読んでみると、色々な共通性が目に付きます。今、英国でも米国でも、「大量破壊兵器はなかったではないか」との議論が盛んですが、この議論は、前提として「大量破壊兵器があれば、イラク侵略は正当化される」という、犯罪的な主張のすり込みに貢献しかねません。イラク侵略は、大量破壊兵器の有無にかかわらず、違法で正当化できないものという点を繰り返し確認することが必要だと思います。何が起きてきたかの記録としては、例えば「マーチ・フォー・ジャスティス」の「ショック・アンド・オー・ギャラリー」の写真記録などをご覧下さい。日本でも、様々な人が、イラク侵略を巡る報告会を開催しています。小泉首相の犯罪的行為も、このままにするわけには行かないでしょう。

  益岡賢 2003年6月15日

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