チョムスキー・インタビュー

ノーム・チョムスキー
英語原文
2003年5月31日

久々に、チョムスキーを紹介します。ラジオ・ネーデルランドのアムステルダム・フォーラムによる、視聴者からの電子メールによる質問に基づくインタビューです。オランダやオーストラリアのメルボルンなどからのメールと、カポベルデやモロッコ、ベネスエラなどからのメールの温度差(単純に前者はファンタジー・ランドに籠もっている)、そしてメルボルンからの質問等が発せられる配置が興味深いものであるため、訳出してみました。オランダのM・J・「ボブ」・グルートハンド氏の質問では、荘子の「痔を舐む」というエピソードを思い起こしました。下記中、アンディ・クラークは、ラジオ・ネーデルランドのキャスター。



最初のメールは、カポベルデのノルベルト・シルバからで、彼は「米国とブッシュ大統領は、先制攻撃政策により、世界を核戦争に引き込む可能性があるでしょうか?」というもの。

チョムスキー

その可能性は大いにあります。まず第一に、はっきりさせておかなくてはなりませんが、これは先制攻撃政策ではありません。先制は国際法での意味を持っています。つまり、差し迫ったあるいは現在の脅威に対してなされる攻撃が先制攻撃です。例えば、大西洋を渡ってニューヨークを爆撃すべく爆撃機が飛行中だとすると、米国空軍がそれを撃墜するのは合法だというわけです。これが先制攻撃です。現在の政策は、予防戦争と呼ばれることがあるもので、これは新たなドクトリンで、2002年9月に、国家安全保障戦略の中で発表されたものです。そこでは、米国に対する潜在的な挑戦に対して、攻撃する権利を宣言しています。ここで潜在的というのは、米国から見ての話です。ですから、実質的には、誰でも攻撃してよいということになってしまいます。それが核戦争につながるでしょうか?確実にそうだと思います。過去に、核戦争ぎりぎりまで行ったことがあります。例えば、昨年10月に、注意して見ていた人には恐るべき衝撃でしたが、1962年のキューバミサイル危機の際、世界は文字通り、終末核戦争の一歩手前まできていたことが明らかにされました。ロシアの核兵器を搭載した潜水艦が、米国の駆逐艦に攻撃されました。司令官の数名は、核戦争が始まったと考え、核ミサイルを発射するよう命令しました。私たちが今ここにいて話をしていることができるのあ、一人の士官がそれに従わなかったためです。それ以来、こうした危機は多くあります。

アンディ・クラーク

予防ドクトリンが発動されてから、さらに危険な状況にあるのでしょうか?

チョムスキー

確実にそうです。予防戦争ドクトリンは、実質的に、潜在的な米国の標的に対して、何らかの抑止力を開発せよというメッセージになっています。そして抑止としては2種類しかありません。一つは、大量破壊兵器、もう一つは大規模なテロです。戦略アナリストたちや情報エージェンシーなどは、このことを繰り返し繰り返し指摘しています。ですから、何かが統制を逃れる危険は増大しました。


次のメールは、オーストラリアはメルボルンのドン・ローズからで、「私は米国が世界を支配したがっているということを信じません。アメリカはいくつかの前線で攻撃を受けてきました。2001年9月11日の攻撃はその一つです。誰かがならず者国家をしつけなくてはならず、そうする力を持っているのは米国だけです。米国のような「世界の警察」なしでは、世界は、お互いに戦争するグループに解体してしまうでしょう。歴史を見てみれば、その例がわかります」。

チョムスキー

最初の発言は、単純に事実として誤りです。米国の国家安全保障戦略が、とてもはっきりと、米国は世界を武力で支配する---武力は、米国の力が卓越している側面です---と述べているのです。そして、この支配に対して、ただ一つたりとも潜在的な挑戦が起きないようにすると。このことは、明言されているだけではなく、繰り返しコメントされてもいます。主流の体制派の中でです。『フォーリン・アフェアーズ』の次の号で、米国が「修正主義国家」と言うものになる権利を宣言したことを指摘しています。自らの利益のために世界を統制すべく武力を用いるというものです。

このメールを送ってきた方は、米国には、武力で世界を支配する固有の権利があると信じているのかも知れません。私はそれを信じませんし、この方が言ったのとは逆に、歴史がそれを支持しているとは全く思いません。実際のところ、世界的な覇権を米国が手にした1940年代以来の米国の記録は---ちなみにオーストラリアは米国を支持してきたのですが---、戦争と暴力とテロをかなり大規模に煽ってきたことを示しています。オーストラリアも参加した一つの例としてインドシナ戦争をあげると、それは基本的に侵略戦争でした。1962年、米国は南ベトナムを攻撃したのです。この戦争は、それから、インドシナ全土に広がりました。その結果、数百万人が殺され、インドシナ諸国は破壊されました。そして、これは、一つの例に過ぎません。歴史はこの方の言うような結論を支持していませんし、ある一国が世界を武力で支配する特権を持つという原則も支持していません。どの国がその特権を手にしたとしても、それは極めて有害な原則です。


米国ワシントン州ベリンガムのノエル・コラメールからのメールで、「ノームは、『ブッシュ政権は世界を武力で支配しようと意図している、それが米国が卓越した部分だからだ。それも、永遠に』と言っています。これについて、私は、暴君に対して武力で対応できる我々がそうしないならば、一体彼は何をすべきと言いたいのでしょうか?残虐行為を受けている人々は、暴君に対して、ジェノサイドを被るとしても、非暴力で抵抗すべきなのですか?」

チョムスキー

まず第一に、米国が武力で世界を支配しようと意図しているというのは、私が言ったことではありません。私は、米国政府により明言されたことを繰り返しているだけです。そして、この点については、とりたてて論争の余地はありません。先ほども言ったように、これについては、基本的にその言葉通り、『フォーリン・アフェアーズ』誌の直後の号でコメントされています。

暴君のもとで苦しむ国については、確かに、誰かが苦しむ人々を助けて支援するのはとても良いことでしょう。例えば、ワシントンの現政権を例にしましょう。これらの人々は---その多くがレーガン政権時代からリサイクルされてきた人々です---、一連の恐るべき独裁者を支援してきました。自国の人々を野蛮な暴政のもとに置いてきた人々を、です。例えば、サダム・フセイン、チャウセスク、スハルト、マルコス、デュバリエなどです。米国の現政権高官たちが支持してきた独裁者のリストはとても長いものになります。ちなみに、テロと暴力への支援は今も続いています。

暴政を阻止する最上の方法は、暴政権に対する支援を止めることです。しばしば、これら全ての場合において、独裁者たちは、自国の人々自身により追放されてきました。例えば、チャウセスクは、サダム・フセインに全く比肩しうる独裁者です。彼はルーマニアの人々自身によって追放されました。米国の現政権にいる人々は、当時、チャウセスクを支援していたのです。弾圧と暴力に抵抗している人々がいるならば、そうした人々を支援する方法を求めなくてはなりません。そして、最も簡単なのは、独裁者への支援を止めることです。その後で、複雑な問題があります。私が知る限り、米国や他のどこかの国が、弾圧と暴力を止めるために介入したという記録はありません。実際、そうした例は極めて稀なのです。


米国ニュージャージー州のH・P・ベルテンから、「米国メディアでブッシュの意図を巡ってもっと論争がないのはどうしてでしょう?」

チョムスキー

実際には多くの論争があります。イラク侵略とその枠組みである国家安全保障戦略について驚くべきことは、それが、二つの主要な外交問題誌『フォーリン・アフェアーズ』と『フォーリン・ポリシー』で、とても強く批判を浴びたことです。米国芸術科学院は、滅多に議論のある時事的な問題については態度を示さないのですが、それを批判するモノグラフを出しました。他にも多くの記事があります。それは、部分的にはメディアにも反映されていますが、あまり沢山とは言えません。一般にメディアは権力を支持する傾向があります。様々な理由からです。


次のメールはオランダのM・J・「ボブ」・グロートハンドで、「歴史を通して、常にどこかの国が世界を支配しようとしてきました。最近ではドイツや日本、ロシアが思い浮かびます。米国が最も最近の「征服者候補」であるならば、私たちは幸運の星に感謝しましょう。その支配は人類全体に対する尊厳と名誉に基づき行われるだろうからです。そして、事実として、ブッシュと米国政府は、世界支配を目論んではいません。あなたは、米国には憲法があり、スターリンやヒトラーやフセインなどの専制君主とは違って、ブッシュは2年後に選挙を控えており、米国の有権者は馬鹿でも抑圧されても脅迫されてもいないのです。米国の選挙は秘密投票です」。(クラーク:この方の言うように、米国政府では選挙による責任が機能すると思いますか?)

チョムスキー

まず、この方の歴史認識は単なるおとぎ話です。けれども、それはとりあえず置いておきましょう。ある国が憲法を有し国内的に民主体制であることは、暴力と侵略を行わないことを意味しません。これについては、長い歴史があります。英国は、19世紀には恐らく世界で最も自由な体制の国でしたが、同時に、世界の大部分に対して、恐るべき残虐行為を行使していました。そして、米国の場合も同様です。記録はとても昔に遡ります。例えば、1世紀前にフィリピンを侵略して何十万人もの人を殺しフィリピンを破壊したとき、米国は民主的な国でした[黒人や先住民や女性が人でなければ、ですが]。現在政権にいる人々がニカラグアに対して破滅的なテロ攻撃を続けていた1980年代も、米国は民主的でした。ちなみに、この攻撃は、国際司法裁判所に非難され、安保理でも決議が提出されましたが、拒否権を発動されました。その後、米国は、攻撃を強化したのです。

民主選挙については、その通りで、選挙はあります。そして、共和党は、自分たちの政策が、米国市民の大多数から強い反対を受けていることをどうやって乗り越えるつもりであるかについて明言しています。米国を恐怖とパニックに陥れることで乗り越えようと意図しているのです。そうして、人々が、守ってくれる強力な人物のもとに寄り集まるようにするためです。実際、昨年9月、安全保障戦略が公表され、戦争へのプロパガンダの太鼓が鳴り響いたときに、このやり方を目にしたばかりです。このとき政府メディアのプロパガンダ・キャンペーンがありましたが、ものすごいものでした。これにより、米国市民の大多数に、サダム・フセインは米国の安全に対する差し迫った脅威であることを信じさせることに成功したのです。他の誰も、それを信じませんでした。クウェートやイランでさえ。これら両国は、フセインを忌み嫌っていましたが、脅威とはみなしませんでした。これらの国は、サダムは、中東で最も弱いことを知っていたのです。さらに、プロパガンダは、恐らく過半数の米国人に、サダム・フセインが2001年9月11日の米国に対する航空機突入の背後にいると信じさせました。それを煽り実行し、さらなる攻撃を計画しているというのです。再び、これについて、全くかけらほどの証拠もありません。そして、世界中の諜報機関も安全保障アナリストも誰一人として、これを信じてはいないのです。

アンディ・クラーク

では、米国の政治的反対派はどこにいるのでしょうか?民主党ですか?共和党勢力に食い込もうとしないのは何故ですか?大きな平和運動があるのは確かです。米国で何十万人もの人々が、軍事行動に反対して路上に姿を見せました。米国における大衆の反対はどこにあるのでしょうか。

チョムスキー

民主党の反対は微々たるものです。伝統的に、外交政策については、ほとんど論争もありません。それは主流派に見てとることができます。政治関係者は、米国の破壊を呼びかけているとか敵を支持し幻想を提示していると非難される立場に立たされたくないのです。その結果、かなりの人々の声は単にほとんど代表されなくなります。共和党はそれを知っているのです。共和党のキャンペーン担当カール・ローブは、2002年の選挙の前のこの点をはっきりさせています。共和党は、選挙の際、治安問題を焦点としなくてはならない、というのも、選挙で国内政策が問題となると共和党は敗北するだろうからだ、というのです。それゆえ、人々を脅して従順にさせます。そしてローブは、2004年の選挙でも、同じことをしなくてはならないと言っているのです。人々を破壊から守って貰うよう戦争大統領に投票するようにしようというのです。ちなみに、これは、単に1980年代---現政権の人々、大体同じ人々が、が最初に政権内にいたとき---を通して行われていたシナリオを再演しているだけです。もしきちんと見れば、これらの人々が行う政策は任期がありません。人々は反対しますが、でも、政権にいる人々はパニック・ボタンを押し続け、それは機能したのです。1981年には、リビアが我々を攻撃する、1983年には、グレナダが空軍基地を設けてそこからロシア人が我々を爆撃する、1985年には、レーガンが、ニカラグアにより米国の治安が脅かされているとして非常事態宣言を出しました。火星から事態を眺めている人がいるとするならば、笑い転げていたでしょう。これらの人々は、米国市民を脅迫し怯えさせて、政権をかろうじて握り続けているのです。それ以来、これがパターンでした。ちなみに、この戦略を発明したのは彼らではありません。そして、問題を事実のレベルに引き戻そうとするとすぐに起きる嫌がらせやヒステリーに対して、政治家たちをはじめとする人々は抵抗したり直面しようとしたがらないのです。ですから、この戦略は不幸にして効果的です。


次のメールは米国ワイオミングのボリス・カラマンで、「平和は強さからしかもたらされず、しばしば、正義の戦争にもたらされます。パックス・ロマーナは、ローマ帝国の力によって実現されたもので、平和主義から来たものではありません。米国の歴史のなかで批判されるべきは、米国が十分速やかに対応しなかったことです。例えば、ヒトラーやスターリン、ポルポトが政権の座についたのは、彼らを攻撃しなかったからです。外交政策における武力によるアプローチをあなたが批判するのは、は馬鹿げていて不誠実なものです。脅威に対して行動するものたちが作る世界の中で、ようやく、傲慢な左翼が、自分たちの誤りを披露する表現の自由を手にするのです。長いことそうであることを望みますし、あなたに平和があらんことを望みます。強さによる平和、です」。

チョムスキー

さて、事実を確認することから始めましょう。例えばヒトラーです。ヒトラーが政権を掌握した際、米国と英国の支持を得ていました。1937年に至るまで、米国国務省は、ヒトラーのことを、左右の過激派の間に位置する穏健派で、我々はヒトラーを支持しなくてはならない、そうでなければ、大衆が権力を掌握し、左派に傾くだろう、と述べていたのです。実際、米国は、日本に攻撃され、ドイツが米国に宣戦するまで、参戦しませんでした。

スターリンの場合、米国が彼を権力の座につけたわけではありませんが、特に反対もしませんでした。1948年の段階で、ハリー・トルーマン大統領は、スターリンは立派で正直な男だが、顧問たちに誤った方向に導かれたのだと考えると言っていました。ポルポトの場合、クメール・ルージュは1970年代に力を伸ばしました。1970年にはほとんど知られていなかったのです。そして、クメール・ルージュが力を伸ばしたのは、米国が大規模な空爆をカンボジアに加えていた中でです。CIAによると、この時期に約60万人が死亡しています。そしてこの空爆は、凶暴な抵抗の出現を助けたのです。それが1975年に政権を握りました。ポルポトが権力を掌握した後、米国はそれを止めるために何もしませんでした。それどころか、1978年から79年の間に、ベトナムがカンボジアを侵略してポルポトを追い出すと、米国は、ポルポトを追放した犯罪について、ベトナムをひどく非難しはじめたのです。ベトナムに罰を与えるために、米国は中国によるベトナム侵略を支援し、ベトナムに厳しい制裁を加えました。そして、実際、タイにいるポルポト軍に対して直接支援を開始したのです[これについては、ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品者)第10章にまとまった記述があります]。ですから、歴史についてお話ししたいのでしたら、きちんと認識しましょう。それからでしたら、議論を始めることができます。

注:ここでのやりとりは、東チモールの虐殺と破壊を司令し組織しそれに参加したインドネシア軍の士官や将校たちを、「虐殺と破壊を阻止しなかった」と非難するのと同じような構図に束縛されています。敢えて言うと、「ポスト・コロニアリズム」ではなく、全くの「コロニアリズム」の構図のように思えます。

アンディ・クラーク

武力が正当化される局面があると思いますか?イラク戦争について多くの議論を耳にしました。2つの悪しき選択肢のうち、より悪くない方だ、というものです。イラクを巡る最近の歴史はよくわかるが、でも、今やサダム・フセインを取り除くために何かをしなくてはならない、と。多くのイラク人たちも、この議論を支持していたように見えます。

チョムスキー

第一に、イラクの人々が侵略を要請していたことを我々は知りません。けれども、それが目的だとするならば、何故、あらゆる嘘をついたのでしょうか?あなたは、トニー・ブレアやブッシュ、コリン・パウエルなどがファナティックな嘘つきだと言っていることになります。最後の最後まで、これらの人々は、目的は大量破壊兵器の除去にあると言っていたのですから。イラクの人々を解放するのが目的だったならば、なぜそう言わなかったのでしょう?なぜ嘘をついたのでしょうか?

アンディ・クラーク

ブッシュ大統領は、[侵略開始前の]最後の週にそう言っています。解放の戦争だと言い始めたのです。

チョムスキー

直前のアゾレス・サミットでは、彼は、サダム・フセインとその仲間がイラクを去ったとしても、いずれにせよ米国はイラクを侵略する、と言っています。つまり、米国はイラクを支配したいのだと言っているのです。さて、ここには重大な問題が潜んでいます。侵略は、イラクの人々を解放することとは何の関係もありません。何故、イラクの人々は、ルーマニアの人々がチャウセスクを追放したのと(そして他の多くの場合と)同じようにしてサダムを追放しなかったかとの疑問を持つかも知れません。イラクを最もよく知る西洋人、国連による「食料のための石油」プログラムの代表を務めたデニス・ハリデーとハンス・ヴォン・スポネックは、イラク中を調査する何百人もの人々を抱えていました。イラクを熟知している彼らは、他の多くの人と同じように、イラクで何らかの蜂起を阻止しているのは、致命的な経済制裁政策であると述べています。控えめな推定で、この経済制裁により、何十万人もが殺されることになり、サダム・フセインの立場は強化され、人々は生存のためにサダムに完全に依存するようになったのです。

ですから、イラクの人々が自らを解放するための第一段階は、それを阻止するのを止めることでした。社会再建を認め、人々が自らの生活を取り戻すことができるようにすることで、です。それが失敗して、イラクの人々が、同じような独裁者支配に対して他の人々がしたようなことを出来ないならば、その時点で、武力行使の問題は起きるでしょう。けれども、少なくとも自分たちで事態を処理する機会を与えられない限り、そして、米英によりそれを阻止されないようにしない限り、この問題を真剣に考えることは出来ません。そして、実際のところ、これについては、戦争準備をしている段階で、米英はこの問題を提起していません。焦点は大量破壊兵器にあったのです。記録を見直してみて下さい。


イスラエルのボブ・カークからのメールです。彼の質問は、「なぜ、チョムスキー教授は、民主主義の広がりと世界の大多数の人々の解放(必要なら米国による、というのもEUは独裁者に挑戦することを放棄しましたから)にこれほどまでに反対するのでしょうか?説得と、しばしば正当化される武力行使以外に、世界中の不自由な社会を解放するために、チョムスキー教授はどんな手段を提案するのでしょうか?」

チョムスキー

私は世界中に民主主義をもたらすことなら強く賛成しますし、民主主義を妨害することについては反対です。過去数カ月を見ていただくだけでもわかると思いますが、極めて驚くべきことに、私が思い起こせる限りで、未だかつて、米国のエリートたちが、民主主義に対する軽蔑と敵意とを、これほどまでにあからさまに図々しく表明したことはありませんでした。見てみて下さい。例えば、ヨーロッパは、古いヨーロッパと新しいヨーロッパと言われるものに分かれました。その分断には基準があります。古いヨーロッパは、政府が、どんな理由であれ、大多数の人々と同じ立場を採った国々です。それが民主主義と言われるものです。新しいヨーロッパ---イタリアやスペイン、ハンガリーなど---は、政府が、国民の大多数の意向を無視した国々です。これらの国では、「古いヨーロッパ」よりもさらに強く、イラク侵略に反対していました。恐らく8割から9割が反対していたのですが、政府はそれを押し潰しました。そして、ワシントンからの命令に従ったのです。さらに、それは善なること、と言われました[国民という言葉使います]。

トルコは最も顕著な例です。トルコは米国のコメンテーターやエリートたちからひどく非難されました。というのも、政府が、トルコ国民の95%と同じ立場を採ったからです。民主主義の偉大なる解説者と言われるポール・ウォルフォウィッツは、数週間前に、トルコ軍が、国民の95%に注意を払う代わりに、この決定について政府に介入して「アメリカ人たちを助け」なかったことを批判しました。これは、民主主義に対してとても図々しい軽蔑を表明するものです。そして、記録を見ても、そうなのです。米国だけが悪いというわけではなく、多くの大国に同じことが言えます。けれども、米国が長い間支配してきた地域を見てみて下さい。中米とカリブ地域です。約100年になります。米国は、民主主義を我慢するにやぶさかではありませんでしたが、自ら述べているように、それが、「上からの民主主義」である限りにおいてだ、というのです。この引用は、レーガン政権の民主主義提唱者からとったものです。こうした「上からの民主主義」では、伝統的なエリートたち---米国と結びついたエリートたち----が権力を握り続け、米国のお望みに任せて社会を運営します。その場合、米国は民主主義を我慢します。これは、他の大国の場合と同じですが、それについて、幻想を持つべきではありません。メールを送ってきた方は中東の方だったと思いますが・・・

アンディ・クラーク:イスラエルです。

チョムスキー

・・・そして、米国は、残忍で抑圧的な独裁政権を、長い間支援し続けてきました。そしてまた、米国は、人々の反対の主な理由はそこにあることも知っていました。1950年代、内部の記録から、アイゼンハワー大統領が、スタッフたちと、中東の人々に見られる「我々に対する憎悪キャンペーン」について議論したことがわかります。その理由は、米国が、抑圧的で非民主的な政権を支持し、近東の石油を支配するという自らの利益のために、民主主義と開発を阻止したからです。これは現在まで続いています。同じことを、西洋化した裕福なムスリムから、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューで見ることができます。米国は、統制できない限り、民主主義に反対してきた長い歴史を持ち、その理由は、お馴染みの大国のパワー・ポリティクスにあります。


カナダのブリティッシュ・コロンビアのベラ・ゴットリエブからのメールで、彼女は「『対テロ戦争』の名目で、米国の権利章典が大きく奪われています。平均的なアメリカ人が何故これに反対しないのかわかりません。何が起きているかについて、普通のアメリカ人は知っているのでしょうか。気にしているのでしょうか」。

チョムスキー

何が起きているかよく知っている人はほとんどいません。愛国法と、計画中の第二愛国法が、少なくとも原則的に文言上は、そして恐らく一部は実際にも、基本的な市民的自由を大きく減ずるというのは、本当です。ですから、現在、司法省は、大統領が対テロ戦争は終了したと宣言するまで、合州国市民を含む人々を逮捕し、罪状なしに無期限に留置所に入れ、弁護士や家族と面会させない権利があると主張しています。さらにその先にすら行っています。新たな計画では、司法長官が決定すれば、国籍を剥奪できるのです。これは、市民権弁護士や法学者などに強く反対されていますが、メディアにはほとんど聞こえてきません。あまり知られていないのです。こうした動きはとても劇的です。ブッシュ大統領は、友人であるトニー・ブレアからプレゼントされたウィンストン・チャーチルの胸像を机の上に置いていると言います。そして、このチャーチルは、これについて言うことがありました。チャーチルは、これはほとんどそのままの引用ですが、政府が個人を裁判なしに投獄するのは、最も唾棄すべきことであり、ナチや共産主義など、あらゆる全体主義政府の基盤である、と言っています。そして、彼がこれを言ったのは1943年、英国で同じような提案があったことを批判してです。この提案は実施されませんでした。1943年の英国は、かなり絶望的な状況にあったことを思い出しましょう。史上最も恐ろしい軍による攻撃を受け、破壊される危機に直面していたのです。それにもかかわらず、チャーチルは、こうした手段は、「最も唾棄すべきこと」であると述べ、「あらゆる全体主義の基盤」と言っているのです。人々は、これに関して、大いに心配するべきでしょう。

アンディ・クラーク

今それが米国で広い議論の対象になっていないのはどうしてですか?何故、愛国法やあなたが今言ったことに対して草の根の反対がないのでしょうか?

チョムスキー

第一に、こうしたことについて知るためには、少し自分で調べなくてはなりません。隠されているというわけではありませんが---実際探せば見つかります---、広く知られていないのも確かです。広く知られる度合いに応じて、反対が広まります。けれども、政府のメディア・プロパガンダ・キャンペーンが、昨年9月以来、大成功を収めてきたことを思い起こす必要があります。米国市民に、サダム・フセインという怪物による破壊の差し迫った危機に晒されていると信じ込ませました。さらにまた、同じように自衛をしなくてはならない相手が造り出されるでしょう。ちなみに、プロパガンダの嘘に説得される多数派の態度は、戦争支持と非常に強い相関を持っています。理由は明らかです。本当にそう信じているなら、市民的自由の崩壊も我慢するからです。むろん、米国への脅威は捏造に過ぎません。多くの人が指摘するように、これは、史上最も驚嘆すべき、プロパガンダの捏造です。けれども、これはうまく行ったのです。人々は、怯えているときには、しばしば、自分たちが勝ち取った権利を守ることを自ら放棄します。


別のメールで、ベネスエラのアルベルト・ビヤスミル・ラベンからで、「米国がベネスエラを侵略する可能性があるとチョムスキー教授が考えているかどうか知りたいのですが」。

チョムスキー

直接侵略するとは思いませんが、ほとんど確実に、アンデス地域は、予防戦争の標的となっている地域の一つです。膨大な資源を擁する地域で、かなり統制できていません。米国は既に大規模な軍事資源を展開しています。エクアドルやダッチ・アイランド、エルサルバドルなど、アンデス地域を包囲しています。そして、地上部隊もかなりいます。私は、米国が、恐らく、昨年4月に試みたと同様、ベネスエラでクーデターを試みるのではないかと疑っています。けれども、それがうまく行かなければ、直接介入もあり得なくはありません。これがかなり前から計画されていたことを思い起こしましょう。米国について良いことの一つは、自由なことです。私たちは、政権内部の計画について、包括的な記録に目を通すことができます。キューバのミサイル危機のさなかに、ケネディ大統領とその弟は、キューバのミサイルの危機について議論し、それが引き起こす大きな問題の一つは、「ベネスエラを侵略しようと決めたときに、その抑止となるかも知れないことだ」と述べています。これは1962年のことです。ベネスエラ侵略は、古くから政策として考慮されていた、根深いものなのです。


モロッコのラバトに住むベラダ・M・アリからのメールで、質問は「イラクに対する正当化されない、正当化され得ない戦争のあとで、世界は存在の意味を失うと思いますか?ちょうど言語の世界で、文法規則を失ったときのように?文の意味の指示を自動的に失い、その結果、私たちの回りの世界の意味を失いますか?」

チョムスキー

私の見解では、この問題を巡る最も正直なコメントは、イラク戦争を強く支持した人々によってなされています。例えば、体制派の主要誌である『フォーリン・アフェアーズ』誌の最新号を見ると、巻頭論文に、国際法の著名な専門家マイケル・グレノンの記事があり、彼は、国際法と国際組織は「たわごと」に過ぎないと論じています。米国がそれを無視したという事実がその無用性を証しており、米国は、国際機関とは独立して、意のままに武力を使う権利を維持すべきであるというのです。国際機関や国際法は、ただ、却下して無視すればよい、と。これは少なくとも、正直な発言ではあります。これは世界に対する恐るべき脅威だと思いますし、米国が世界中で大きな恐れを呼び起こしている理由の一つでもあります。これに関する国際的な世論調査はこれをよく示しており、その理由もはっきりしています。ある国がこんな立場を採るならば、人々は恐れるでしょう。さらに、諜報機関やアナリストなどに繰り返し指摘されているように、人々は何かしようとするえしょう。抑止手段を見つけだそうとします。米国は、世界に対して、大量破壊兵器とテロを広めるよう呼びかけているようなものです。それが抑止に留まるとしても。


最後のメールは米国ビバリーヒルズのジョン・ブレセンからで、「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)などのならず者国家から、米国はどうすれば最もよく自らを守ることができるのでしょう?あるいは、無法国家による核兵器や生物兵器、科学兵器の脅威について?米国に対する破滅的な脅威は現実のもので、人によっては差し迫っているとも言います。そこで、チョムスキー博士は、米国の防衛政策をどうしますか?」

一例として質問者が言及した北朝鮮を考えてみましょう。一般的なコメントをすることはできません。というのも、場合によるからです。北朝鮮については、地域の諸国---韓国や日本、中国、ロシア---は、外交路線を採るべきだと言っています。現実的な脅威を減ずるための交渉です。そして、徐々に、何らかのかたちで、北朝鮮を地域に統合していくのです。これは、賢い方法です。実際、クリントンはそのような方向の政策をしました。彼が適用したわけではありませんがそうした方向に政策を向けたのです。それはかなり成功しました。そして、4カ国の合意は正しいと思います。このような脅威に対する自衛の手段は、脅威が起きないようにすることです。方法は沢山あり、言及されている他のことがらについても同じことが言えます。

イラクは恐ろしい政権でした。ですから、私は、米国がサダム・フセインを支持してきたという事実に反対してきました。そして、人々のサダムに対する放棄を阻害する制裁措置にも。けれども、フセインは恐ろしいものでしたが脅威ではありませんでした。クウェートとイランは、サダム・フセインに侵略されたことがあり、サダムを忌み嫌っていましたが、彼を脅威だとは見なしていませんでした。それには理由があります。イラクは地域で最も弱い国でした。軍事予算は、人口が10分の1に過ぎないクウェートの、約3分の1でした。イラクの軍事力は制裁で大きく縮小し、存在しないも同然でした。悲惨な場所でしたが、脅威ではなかったのです。イラクの脅威というのは、グロテスクで醜悪なプロパガンダです。心配すべき理由のある別の件を見てたいならば、そのための適切な計画を立てるべきです。例えば、テロの脅威。これは現実のもので危険なものです。ブッシュ政権の行為によりテロの脅威は増大しています[ブッシュ自身のテロにより直接、そして、「報復」で]。例えば、諜報機関は、アルカイーダといったテロ組織のリクルートは、イラク侵略の威嚇、次いで侵略が開始されてから大きく上昇したことを指摘しています。それは、もっともな理由に基づき、予測されていたのです。


[下記はウィリアム・ブルムの『アメリカの国家犯罪全書』より]

私がアメリカ合衆国大統領だとしたら、米国に対するテロ攻撃を数日のうちに止めることができる。しかも、永遠に。まず、アメリカの犠牲となったすべての寡婦や寡夫、孤児たちに、また拷問を受け貧困に突き落とされた人々に、そして何百万もの犠牲者たちに、謝罪する。それから、できる限りの誠意をこめて、世界中の隅々にまで、アメリカの世界的介入は終了したと宣言し、イスラエルに対しては、もはやイスラエルはアメリカ合衆国の第五一番目の州ではなく、奇妙なことではあるが、外国の一つであると告げる。それから、軍事予算を少なくとも九〇パーセントはカットし、それにより余った予算を犠牲者への賠償にあてる。十分な資金が利用できるだろう。米国年間軍事予算の三三〇〇億ドルがあれば、イエス・キリストが生誕してから現在までの、毎時間、一時間あたり一万八千ドル以上を使うことができたのである。

ホワイトハウスで最初の三日間に私は以上のことを行なうだろう。四日目に、私は暗殺されるだろう。


米国の「予防戦争」と国際犯罪に荷担し、その流れの中で有事法制をごり押ししようとしている日本政府についても、反対の声を挙げる必要があると思います。。有事法制反対のイベントはここに、首相官邸への抗議のfaxは、03-3581-3883に、オンラインでの意見書き込みはこちらからできます。
益岡賢 2003年6月1日

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