WTO  
07年1月ダボスWEFでの動き
2007年2月19日


1. ジュネーブでのWTO交渉

 06年12月14〜15日、ジュネーブのWTO本部では、一般理事会が開かれた。ここでは、WTO加盟の途上国の諸グループ(農産物輸出国のG20―ブラジルが代表、食料輸入国のG33−インドネシアが代表、NAMA-11−南アフリカが代表、アフリカ・グループーベニンが代表、低開発国のLDCグループーバングラデシュが代表、APCグループーモーリシャスが代表、小島嶼国―バルバドスが代表、)がそれぞれ発言した。途上国の言い分は「先進国は交渉を再開するために努力すること、そして、途上国の開発のニーズを中心に置くこと、などであった。
 昨年、7月に交渉が凍結になると、米国、EU、ラミイ事務局長は、途上国の分裂の画策に奔走した。しかし、途上国の団結は固く、「開発優先」の立場は不動であった。

2.米国の農産物補助金問題

  「ドーハ・ラウンド」は、米国が農産物の輸出補助金の削減について譲歩を拒んだため、昨年7月、凍結した。米国が提起した年間225億ドルという数字は、05年の実績が197億ドルであったところから、これは「減らすのではなく、むしろ増額になる」として、EU、途上国とも反発したためであった。EUは、米国の削減の見返りとして農産物の輸入関税を54〜55%削減すると提案した。一方、途上国は米国の譲歩の見返りとして、NAMAでの関税削減を要求された。
 今年に入ると、交渉再開に向けて、さまざまな動きが出てきた。それは、ブッシュ政権の議会に対する「貿易促進権限(TPA))が今年6月30日に期限切れになる。そして民主党が多数派を占める米議会が新しいTPAに合意するとは、期待できない。したがって、7月までにどうしても、ドーハ・ラウンドを終わらせなければならないというデッドラインがある。
 まず、米国とEUが、シュワブ米通商代表とマンデルセンEU通商代表との間、さらにブッシュ大統領とバロソEC委員長との間で会談を持った。ここで、EU側は、米国が農産物の輸出補助金を150億ドルまで引き下げることを要求した。これは昨年のEU提案より54%も上乗せした額であった。米国は「これは妥当な額だ」と述べた。
 また、ラミイWTO事務局長もインドをはじめ世界の主要都市をめぐり、交渉の再開を訴えた。
 多国間貿易ルールの必要性を否定するものはいない。しかし、一方で、現行のシステムを変えなければならない、ということも確かである。とくに、途上国が要求している「農業協定」の改革が鍵となる。途上国の食糧輸入国で構成されるG33(実際には40カ国を超えている)は、食糧安保と小農向けの農村開発に重点を置くべきだと主張している。
 アフリカ・グループは、一次産品の価格の安定性、均等性、有償性を確立するとした「一次産品提案」を行なっている。
 NAMA(主として工業製品)協定について、途上国から構成されるNAMA11は工業製品の関税については、開発問題を優先して、柔軟に決めるべきだ、と言っている。
 だが誰もこれらの問題を6月末までという限られた期間で達成できるとは思っていない。
 さらにWTOのマントラである「貿易の自由化」に対して、各方面から再考するべきだという声があがっている。それは、UNCTADやFAOといった、国連機関からも出てきた。

3. 国際貿易に新たに2つの要因―気候変動とバイオ・エネルギー

 07年、国際貿易を左右する新しい要因が加わった。それは、地球温暖化とブッシュ大統領が提起したバイオ・エネルギーという新しい問題である。
 第1の地球温暖化問題は、昨年10月、ブレア首相に提出した「国際貿易が気候変動に与える影響」と題したNicolas Stern の報告書からはじまった。同じ時、世銀は『2007年グローバル経済展望』のなかで、「グローバリゼーションの第2の浪がグローバル・コモンズに多大のストレスを与えるだろう。これを避けるためには、CO2排出削減をめざす“クリーン成長”を推進することが必要である」と書いている。
 第2のバイオ・エネルギーについては、化石燃料への依存度を減らす方策として、1月の年頭教書でブッシュ大統領が提起したバイオ・エネルギー案は、農産物の国際市場に影響を及ぼすだろう。米国はとうもろこしからエタノールを生産する方向を打ち出しているが、それによって、米国のとうもろこし輸出が減りだろう。農産物は食糧用と燃料用との競争に晒されるだろう。
 
4.ダボスのミニ閣僚会議

  この過程で、1月24〜28日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムの場で、30カ国の閣僚による「ミニ閣僚会議」が開かれた。
 ミニ閣僚会議は、非公式ということで、議論や合意の中身は明らかにされない。しかし、参加者のさまざまな発言からみると、シュワブ米通商代表は、米、EU、インド、ブラジルの4カ国間の交渉、さらに2国間の非公式交渉を続けることを主張しているようだ。一方、インドを含めた途上国側は、ジュネーブでの多国間交渉の再開を主張している。
 確かなことは、ダボスでは、南北ともにドーハ・ラウンドを再開することに合意したようだ。G4に日本とオーストラリアを含めたG6交渉についてシュワブ代表は、これが昨年7月の「凍結」をもたらしたとして、気が進まないと、ジュネーブでの記者会見で答えた。

5. ジュネーブでのWTO交渉の再開

 1月31日、ジュネーブで、非公式の代表団長会議が開かれた。ここで、ラミイ事務局長は、ダボスでのミニ閣僚会議の報告として、「ドーハ作業プログラムにもとづいてWTO各委員会が交渉を再開する」とアナウンスした。
 しかし、これまでラミイは、主要国の閣僚とのみ、交渉して、ジュネーブ駐在の加盟国大使をないがしろにしてきた前例があるので、大使たちは、このラミイ発言に疑問を持っている。
 2月はじめ、ラミイ事務局長は、シュワブ米代表、マンデルソンEU代表、ブラジルのアモリン外相と個別に会合を重ね、4月末までに何らかの出口が見えないかと探っている。
 またアモリン外相はG20とEUとの会合を用意した。これに、G33、LDC、Caricon、綿花4カ国のコーディネーターが参加した。つまりブラジルが世話役になって、EUと途上国との間の合意をはかろうとしたのであった。この席で、マンデルソンEU通商代表は、G20が要求する「54%の関税削減」に、米国が農産物輸出補助金を年間150億ドルまで削減するという交換条件つきで合意すると伝えた。
 150億ドルまでの削減について、1月28日、マンデルソンは、シュワブとダボス近くの会場で7時間もの会合をしたとき、米国が合意したという感触を得た。しかし、1月20日には、シュワブが記者会見でこれを否定してしまった。
 どうやら、ダボス、そして一部の首都で、同じ人びとが、同じ提案で、会合を続けているが、空回りをしているというのが、現状である。そして、ジュネーブは昨年7月以来、空っぽの状態にあるようだ。