WTO  
WTOシリーズ8
「多くの途上国がドーハに向けたWTO理事会で新ラウンドに反対を表明」
 
2001年7月
2001年7月31日、ジュネーブにて、
マーチン・コー(Third World Network)           
北沢洋子抄訳

 ジュネーブのWTO本部では、7月30〜31日の2日間、ドーハの閣僚会議に向けて"Stocktaking(在庫調べ)"あるいは、Reality Check(実情調べ)について、非公式な理事会が開かれた。
 まず、Harbinson理事会議長とMike Moore事務局長が、「新ラウンドに賛成する国と反対する国との間に2分されており、状況は進展していない」と報告した。
 最後に"在庫調べ"を行った6月から、何ら意見の歩み寄りはみられない。
 にもかかわらず、EU委員会のPeter Carl貿易局長は、7月31日に記者会見を行い、「歩み寄りがあり、インドとマレーシアを除くほとんどの国が新ラウンドを支持している」といった印象を与えようとした。しかし、これは、記者たちを騙すことにはならなかった。なぜなら記者たちは、モアー事務局長の悲観的な演説を聞いたばかりでなく、多くの途上国が新ラウンドや新しい議題を受け入れる用意がないという演説をしたのを聞いているからである。多くの記者が、「なぜそんなに楽観的でいられるのか?」と質問した。
 最近、米国が新ラウンドにより熱心になり始めていることは、確かである。米国のPeter Allegeir通商代表代理は、「投資と競争を交渉議題とする用意がある」と述べた。彼は、これが、農業自由化についてEUを同意させるための手段だと考えているようだ。一方、彼は、いくらかの途上国が新しい議題に反対であり、彼らを味方につけるためには、技術援助が必要だと考えているようだ。
 しかし、事実は、多くの途上国政府が、ドーハの閣僚会議で新しい議題を取り上げることに反対している。それは、投資、競争、政府調達の透明性、貿易自由化、環境と労働の新ルールなどを指す。また、途上国政府は、"実施問題"を取り扱えというこれまでの要求が満たされていないことに大きな不満を表明した。それは、TRIPs、TRIMs、農産物、補助金など、これまでの協定を実施する際に問題となってきた議題、また途上国の農産物や繊維についての先進国の市場開放問題などを指す。途上国側は、先進国がこれまでの協定の実施をめぐって多くの問題があるのに、新しい議題での交渉を始めても、さらにそれらの実施という新しい問題を生み出すばかりだと、疑問を出している。
 強く反対した国は、パキスタン、インド、マレーシア、インドネシア、ジャマイカであった。パキスタンのMunir Akram大使は、「すでに緊急に解決しなければならない実施問題は50項目もある。しかし、決定が近いのはたった3項目にすぎない。相当数の項目について解決の兆しがなければ、ドーハで新しい議題の交渉に入るのは無理だ。現状では、4項目のいわゆる"シンガポール議題"(競争、投資、政府調達の透明性、貿易自由化)についての合意はない」と語った。
 重要なことは、WTO加盟国の中で40カ国にのぼる低開発国(LDCs)の発言である。LDCsは1週間前、タンザニアのザンジバル島で閣僚会議を開き、その代表を務めるタンザニアのAli Mchumo大使は「LDCsは新しい議題について交渉する用意はない、これらの議題はジュネーブの作業委員会で引き続き議論されるべきだ」「投資、競争、政府調達の透明性、貿易自由化など、いわゆるシンガポール議題については、複雑で、意見が異なり、しかも、LDCsの開発にどのような影響を及ぼすかについて、完全には理解されていないので、引き続き作業委員会において、検討されるべきである。LDCsは、これらの議題を多国間貿易交渉の場において交渉する時期ではない」と語った。
 アフリカ・グループの代表ジンバブエの大使は、「ドーハで新しい議題について交渉する意思がない」と述べた。
 このように、多くの国が包括的新ラウンドでの新しい議題を交渉することに反対しているにもかかわらず、EUがメディアと世論に対して、「2〜3の急進派を除いて、ほとんどすべての国が新ラウンドの開始に同意している」ことを印象づけようとしているのは、理解し難い。
 WTO加盟国の多数が、ドーハで新しい議題について、新しいルールや協定をめざしたこ交渉に入ることに反対、もしくは、用意がない、というのが事実である。多くの加盟国は、WTOの仕事を広げること、さらに、新しいルールが出来ることによって、開発を阻害するような新しい義務を負わされることに、反対している。
 ジュネーブの代表たちは、8月には夏季休暇に入る。9月に議論が再開する。それまでの間、EU、WTO事務局、そして米国が、途上国の首都で、新ラウンドに賛成するよう、圧力をかけるだろう。このような圧力は倫理に反する。なぜなら、貧しい国は援助や融資に依存しており、IMFの条件の下に置かれており、そのような圧力に弱いからである。