WTO  
WTOシリーズ7 「カタール閣僚会議と新ラウンドについて
2000年5月
1.カタールで開催を決定

 第4回WTO閣僚会議は、2001年11月9−13日、カタールのドーハで開かれる。第3回閣僚会議は、1999年11月、米国のシアトルで開かれたが、7万人の抗議デモと、アフリカ諸国の反乱によって、流産した。先進国に有利な項目を盛り込んだ新ラウンドの提案と、会議のプロセスが非民主的であったことが、シアトルの失敗の原因であった。
 WTOは、非民主的な「グリーン・ルーム」方式をあらためたわけではない。また、悪名高い「新ラウンド」をあきらめていない。シアトルの前例に懲りて、今回は、ペルシア湾岸のカタールというアラブの首長国を会場に選んだ。この国では、デモが認められていないばかりか、NGOをも承認していない。しかも入国には、ビザがいる。
 カタール政府は、WTOが認可したNGOに限り入国を認めるといっているが、カタールに入国できるNGOはごく少数である。彼らがどんなに気勢を挙げても、WTOにとっては、痛くも痒くもないだろう。

2.カタール会議の争点

 カタール会議をめぐって、WTOは2つの大きな対立問題を抱えている。EU、日本、そしてやや消極的だが米国などの先進国グループは、新ラウンドを発足させたいと思っている。ここで、企業の投資、政府の調達政策、競争、そして、労働、環境などの新しい問題を「包括的」、すなわち一挙にまとめて交渉の項目としてとりあげようというのである。
 一方、途上国側は、1995年のウルグアイ・ラウンド協定に盛られた諸項目の「実施」についての議論を優先すべきだと主張する。それは、農業(農産物)、繊維製品、サービス部門などの協定、さらに知的所有権協定についての交渉は終わっていないからである。勿論、途上国政府は、これらの協定に基いて、国内の法律を整備しなけければない、という問題を抱えている。しかし、これらの協定の実施を拒んでいるのは、主として先進国のほうだ。
 簡略に述べると、カタール会議では、先進国は新ラウンドを発足させ、新しい項目の一括審議に入りたい。これに対して、途上国は、ウルグアイ・ラウンド協定の諸項目の実施を議論すべき、だと言う。
 いずれにせよ、11月のカタール会議で発足させるためには、新ラウンドを発足させるとすれば、交渉議題の設定を7月末までに終えなければならない。

3.新ラウンドに熱心なEUと日本

 カタールか閣僚会議を推進し、ここで新ラウンドを開始しようとしているのは、モーア事務局長、EU、日本政府である。
 さる3月、ジュネーブで、EUと日本は、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スイス、つまり米国を除くCARICONグループといった先進国に加えて、ブラジル、チリ、メキシコ、エジプト、モロッコ、南アフリカ、香港、インド、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ、トルコ、ハンガリーなど、先進国お気に入りの途上国と移行国を集めて非公式の会合を持った。会議後の記者会見において、EUのMorgens Peter Carl貿易局長と日本の野上義二外務事務次官は、共同主催者として、「参加した多くの国が新ラウンドに賛成であった。世界経済の低迷傾向の中で、2国間交渉が幅をきかせているが、いまこそ多国間交渉の必要性が増している。つまりWTOの必要性は高まった。カタールで新ラウンドを開始するためには、シアトルの失敗を繰り返さないために、いまから準備をはじめる必要があるということにおいて参加国の間で一致を見た」と語った。
 4月入ると、ジュネーブのWTO本部において、日、米、EUが新ラウンドについてしばしば非公式会合を持った。ここでは、いかに戦術的にうまく途上国の反対をかわすかということが議論された。3者は、途上国の繊維製品に対する先進国の市場の解放、先進国での農産物輸出に対する補助金の廃止などといった、途上国が要求している実施問題について、少なくとも、7月のジェノバのG7サミットまでには、最終決定をすると見られる。

4.WTO理事会議長提案をめぐって

 現在ジュネーブのWTO理事会(全加盟国の政府代表が参加)の議長は、香港(中国)のStuart Harbinsonである。彼は、カタールの第4回閣僚会議の準備会議に向けた非公式の協議を開始し、Harbinson議長案として、交渉議題の「チェック・リスト」なるものを提起した。
それは;

    (1)現在交渉中の議題について、加盟国間で意見交換
    (2)実施問題
    (3)進行中の交渉の検討
    (4)その他の交渉のプログラム
    (5)組織問題
    (6)技術協力と能力の向上 

の6項目であった。

 加盟国のほとんどは、7月までに、(1)カタールで包括的な交渉の新ラウンドを開始するのか、あるいは、(2)カタールでは現在進行中の交渉についての検討に限定するか、を明らかにすることを望んでいる。この2点いずれかに意見の一致を見ないと、カタールでは、シアトルを繰り返す危険性がある。
 (1)の立場を支持するグループは、PlanAと呼ばれ、(2)のグループはPlanBと呼ばれる。しかし、PlanA支持とPlanB支持が明確に分離できる状態にはない。
 Harbison議長のジレンマは、7月までに、カタール会議の議題の優先順位を決定しなければならないというところにある。Harbinson議長のチェック・リストは、加盟国の多くの支持を受けたが、その優先順位をめぐっては、大きな対立がある。
 日本や韓国は、カタール会議では、実施問題や進行中の交渉の検討に、多くの時間を費やすべきではないといっているが、パキスタン、インド、アフリカ・グループは、WTO諸協定と実施の問題を整合性のあるものにすることを優先すべきだと主張している。後発途上国(LDC)を代表して、タンザニアは、Harbinson議長のリストに中に、LDC向けの議題が入るべきであり、実施問題を最優先議題とすべきであり、さらに、シアトルのように、LDCが交渉から疎外されることがあってはならない、と言う。
 Harbinson議長は、5月10日と15日に予定されている理事会の議題として、(1)と(4)を挙げた。これに対して、インド、パキスタンなどは、(4)には、投資、競争政策、政府調達、貿易簡素化という、いわゆる「シンガポール項目」(第1回閣僚会議で提案された)が入っているとして、反対している。むしろ(2)の実施問題を優先的にカタールの議題とすべきであると主張している。

5.エジプトと南アフリカが新ラウンドに賛成にまわる

 4月12日にエジプトのカイロで、20カ国の途上国の貿易相が集まって、WTO問題を討議するところであったが、これが無期限に延期された。これは、エジプトが、「新ラウンド」に賛成したことが、延期の理由であった。エジプトの行為は、それまでインド、パキスタン、マレーシアなどと、新ラウンド反対の共同歩調を取ってきたことからの180度の変節であると評された。
 途上国の中では、エジプトは、既に新ラウンドに賛成している南アフリカと共同行動を取ることになる。2月1日、エジプトと南アフリカは、「WTOの新ラウンドに対するエジプト・南アフリカの新しいアプローチ」と題する政策声明を発表した。
 それは、新ラウンドは、広く、かつバランスのとれた交渉でなければならないとし、投資、産業関税、政府調達の透明性、貿易簡素化、電子取引きなどの議題を含むべきで、さらに、労働や環境問題には反対する、と言っている。

6.後発途上国(LDC)への技術援助について

 5月、ブルッセルで開かれる国連第3回LDC持続開発会議に先だって、WTOは、4月9日、ブルッセルで、第24回LDC小委員会を開いた。ウルグアイ・ラウンド協定において、LDCの貧困削減戦略の中で、貿易の促進のために、先進国が技術援助をすることが公約された。これは「貿易に関連したLDCに対する技術援助の統合フレームワーク」、通称「IF」と呼ばれる。IFの策定には、WTOに加えて、IMF、世銀、国際貿易センター(ITC)、UNCTAD、UNDPの6国際機関が参加している。
 ブルッセル会議は、このIFの進捗状況をレビューするものであったが、IF信託基金には、スエーデン、デンマーク、オランダ、ノルウエイ、英国、UNDP、世銀が、総額450万ドルの拠出を公約したに留まっている。ちなみに、LDCは現在49カ国である。