WTO  
WTOのTRIPs協定について
2005年3月

WTO−安いエイズ治療薬が生産停止に!
インド政府の特許法改悪

1) インド政府が特許法を改悪

  インドは、ジェネリック薬の製造では世界第3位であり、その輸出では世界最大である。インドのジェリック製薬会社では50万人が働いている。
  これは、1970年に制定した「1970特許法」によるものである。それによれば、先進国の製薬会社の特許で期限が切れた医薬品や、特許が最終製品にかかっていて、製造過程にかかっていないということを根拠にして、異なった製造方法で同じ効果の安い医薬品を製造することができることになった。こうして製造された医薬品をジェネリック(コピイ)薬と呼ぶ。
  過去数年間、インドは、途上国のHIV/エイズ患者に対して安いジェネリック治療薬を提供してきた。そればかりでなく、インドは、WTOのTRIPs協定での医薬品の国際特許法をめぐる議論では、「公共医療」、とくに途上国のエイズ患者を守るために指導的役割をはたしてきた。
  それにもかかわらず、昨年12月26日、インド政府は、これまでの「1970特許法」の修正案を議会に提出した。この修正案は、これまでの政策を180度変えて、WTOのTRIPs協定を遵守しようとするもので、欧米の製薬会社が製造する医薬品に20年間の特許権を保証する、とするものである。これで、インドのジェリック製薬会社は一切、安いジェリック薬を製造できなくなる。
  そして、今年3月22日、ついにインド下院はこの修正案を可決してしまった。ここでは野党の「民族民主同盟」が抗議の退場をしたが、効果なく通過した。上院も近いうちに、可決するだろう。
  しかも、修正案では、先進国の製薬会社に払う特許料の%も規定していない。国際通念では、3〜4%だが、南アフリカのケースではGlaxoSmithKline 社が40%の高額な特許料を請求したことがあった。
その結果、現在、途上国、特に貧しいアフリカのHIV/エイズ患者は、安い治療薬へのアクセスを失ってしまう。
  これは、2001年、ドーハの第4回WTO閣僚会議のTRIPs協定の審議において、途上国側が闘った結果、「TRIPs協定は、公共医療を守り、とくにすべての人びとに医療品が手に入ることを保証しなければならない」とした「ドーハTRIPsと公共医療宣言」に反するものである。これでは、ドーハで獲得したTRIPs協定の「柔軟な解釈」でさえも、無効になってしまう。
  現在、途上国でエイズ治療薬を飲んでいる患者は70万人だが、その50%はインド製のジェネリック薬を飲んでいる。「国境なき医療団(MSF)」は27カ国で25,000人のエイズ患者を治療しているが、そこで使用している薬の70%はインド製のジェネリック薬である。
  インドのジェネリック薬が手に入るようになったのは2001年以後だが、それまでは、
1人の患者あたり、年間1万ドルの費用がかかった。現在はその40分の1である年間250ドルで済む。しかもインドのジェネリック薬は1日に一度3種の薬が入った1個のピルを飲めばよいという、途上国の患者にとっては、まことに便利なもので、「エイズ治療の革命」と言われたものであった。
  1970年にインドが「1970特許法」を制定したときは、エイズ治療薬を想定していたのではなく、インドが独自に化学肥料や農薬を製造することが目的であった。