WTO  
WTOミニ閣僚会議(モンバサ)の開催
2005年3月28日


1)モンバサのミニ閣僚会議

  3月2〜4日、ケニアで、WTOミニ閣僚会議が開かれた。第1日目はマサイランドで、残りの日はモンバサに移動した。これには33カ国が参加した。ケニア政府は、これまでよりもいくらか多くのアフリカを招待することに成功した。
  ケニアのミニ閣僚会議は12月の香港閣僚会議に向けての一連の非公式会合の先駆けであり、「ドーハ開発ラウンド」を成功させるチャンスでもあった。しかし、いずれの目的も達成せず、失敗に終わったようだ。
  米国はゼーリック前通商代表の後任の任命が遅れ、ゼーリック氏を送った。それはケニアのミニ閣僚会議の地位を低めることになった。日本は、「シンガポール項目(投資なと)」の推進に向けて、町村外相と中川経産相の2人の大臣を共同代表とする24人の大代表団を送り込んだ。
モンバサのミニ閣僚会議でも、カンクンと同じく、シンガポール項目(投資など)が南北対立の焦点となったが、途上国から拒否され、かわりに先進国の農産物の輸出補助金の撤廃を要求された。
EUはマンデルソン通商代表と、ボエル農業代表を送り、農産物への輸出補助金を撤廃せよという途上国の要求に抵抗した。
  ここでは、農業、サービス、NAMAが主要な議題となったが、「特別な差異のある取扱い」など懸案となっている「開発問題は脇に追いやられた。先進国側に「ドーハ・ラウンド」を「開発ラウンド」にするという政治的な意思が全くないことが原因である。
  モンバサのミニ閣僚会議前及び会期中に、「関心のある5グループ(FIPs)」、言い換えれば、「ノン・グループ5(NG5)」方式の非公式会合がしばしば開かれた。そもそもこのグループは、昨年7月の一般理事会にいたる過程で出てきたもので、米国、ヨーロッパ連合、ブラジル、インド、オーストラリアの5グループ・国で構成され、「2004年7月枠組み合意」の中の農業協定の枠組みの素案を作成したという経緯がある。FIPs(NG5)の特徴は、非公開であり、しかも排他的である。モンバサでの農業協定の審議過程で、FIPsが持たれたということは、今後1〜2カ国が追加され、NAMAなど他の問題の審議にも取り入れられるだろう。WTOの透明性、参加性などは保証されるきざしはみられない。
  3月3日、モンバサでケニアの反グローバリゼーションの抗議デモが行われ、43人が逮捕された。3月18日の法廷ではそれぞれ1万シリングの罰金で釈放された。
  
2)農業協定について

  ジュネーブのWTO本部では、農産物トン当たり何ドルといった「特別関税」制度を、輸入額のパーセンテージ制(AVEs)に転換するという問題の審議にこれまで7ヵ月間も費やしてきた。
  モンバサのミニ閣僚会議では、3月中にAVE転換問題に決着をつけるということに合意を見たのだが、その後、グロサー 委員長(ニュージーランド大使)は、3月18日に予定されていた農業委員会の特別会議の開催延期を発表した。それはヨーロッパ連合とG10(日本、スイス、ノルウエイ、韓国など農産物輸入先進国で、転換すべき特別関税を多く持っている国)の反対によるものであった。とくにヨーロッパ連合の場合、転換すべき特別関税の数は非常に多い。
  これらの先進国は、AVE転換問題よりもNAMA(工業製品の関税の引き下げ)の審議を要求している。
AVE転換についての合意は、とくに農産物の関税の引き下げという市場アクセスの拡大問題の審議に道を開くことにつながる。昨年7月枠組み合意では、日本のコメなどといった先進国にとってセンシティブな農産物のカテゴリーが決まった。これらの農産物の関税の引き下げは大幅に免除されることになっている。
途上国側は特別セーフガード・メカニズム(SSM)を審議することを望んでいる。いずれにせよ、農業問題の審議は、今年の7月の一般理事会にグロサー委員長がモダリティの草案を提出できるまで進むかどうか予測できない状態である。
  農産物の輸出競争力については、いくらか審議は進んでいる。グロサー委員長は、7月までに「モダリティに関する最初の草案」を出すことが出来ると見ている。しかし、食糧援助問題についてはまだ手をつけられていない。
  輸出競争力問題には、輸出補助金、輸出信用、国営貿易公社などの問題が含まれる。ヨーロッパ連合は、輸出補助金を廃止するには、輸出信用と国営貿易公社(途上国)についての審議が進行することが条件だとしている。

2)NAMAについての審議は新段階に

  この問題についての審議はかなり長い間停滞していた。しかし、3月14〜19日に開かれた会議では米国、ヨーロッパ連合、カナダ、ノルウエイ、香港、中国、ニュージーランド、から、そしてメキシコ、チリ、コロンビアの共同提案、それにAPC、アフリカ連合などからの提案が続々と出された。NAMAの議論は、工業製品の関税引き下げ問題の審議がはじまると俄然活気を呈した。
  提案の中で最も多いのは、引き下げを「シングル方式」にするということだが、それぞれの内容には違いがある。「シングル方式」とは、関税制度を統一するというものである。もっとも良く知られたものは「スイス方式」と呼ばれる。これは高い関税には高い引き下げ、低い関税の製品には低い引き下げになる。
  しかし、この方式では、途上国にとっては、国内産業を守るために、ある種の製品に高い関税をかけねばならない。このことを実施するには、独自の国内産業政策と国内輸入政策を保証されることが不可欠である。
  先進国が出した提案は途上国によって拒否された。そして、インド、ブラジル、南アフリカ、アルゼンチン、中国は、それぞれの国が独自の「平均関税レベル」を持つという「Girard 方式」を提案した。この5カ国は、非常にアクティブで、NAMAの審議過程では途上国グループを結成することにつながる。NAMA協議では数多くのG5が生まれ、それぞれがより広い同盟を結べないかと模索している。
  NAMA協議ではアフリカと低開発国(LDCs)は関税引き下げの方式の適用を免除されている。
現在、NAMA審議のために、米国から300社によって構成される「全国外国貿易評議会(NFTC)」の強力なロビイ団がジュネーブに送り込まれている。彼らは、途上国が工業製品の関税を大幅に引き下げるよう画策している。

3)香港閣僚会議に向けて

  今日、ジュネーブのWTOは、今年12月の香港閣僚会議に向けてギアをフル回転させているようだ。それは単に、ジュネーブでの会議の数が増えたというだけではなく、多くの非公式会議が、本部内だけでなく、ジュネーブ市内のあちこちで開かれている。これまでは、閣僚会議が間近になると、多くの会議が集中するのが通例だが、今年はそれが早くからはじまった。
  それは、第1に、米国の「Fast-Track 」、つまり議会が、通商代表が締結した協定を一部修正することなくして拒否するか、あるいは批准しなければならないという通商代表の交渉権限が2007年に切れるためである。もちろん、この権限は延長されうるが、今の議会のムードでは難しいだろう。
  第2に、WTOがこれ以上の流会を続けることによって、機構の脆弱性が問われるという不安をWTO加盟国が持っていることである。
  第3に、先進国側が、NGOや市民社会の監視の中で開かれる閣僚会議よりも、閉鎖的なジュネーブ本部で審議することのほうが、やりやすいと判断していることによる。これは昨年7月のジュネーブでの一般理事会が「モダリティ草案」と称する「7月枠組み合意」に成功したことを例にしている。これは今年の12月の香港閣僚会議への道程をクリアした。

  ジュネーブでの動きは、南北ともに大国にとっては有利だが、小さい途上国の代表団にとっては非常に不利である。とくに3月には、農業とNAMAの会議が同時に進行した。さらに、これに数え切れないほどの非公式会合が開かれた。そのため、小さな途上国は審議から疎外された。
  サービスについては、全く審議されなかった。

  3月17〜18日、インドで途上国の農産物輸出国2カ国グループ(G20)の会議が開かれた。ここでは、米国とEUが「5年以内に」という期限を決めて農産物の輸出補助金を廃止するように呼びかけた。
  またG20は、G33、ACP、CARICOM、LDCsなどの途上国の他のグループに対して、農業以外のNAMAやサービスなどのテーマでも、途上国のより参加型、透明性の高い審議プロセスが保証されるよう呼びかけた。

  4月10日、日本が、ASEAN会議に並行して、NAMAについてのミニ閣僚会議を招集する。また5月3〜4にはパリでOECDの会議に並行して、ミニ閣僚会議が開かれる。
  ジュネーブでは、4月13〜19日、農業の会議、25〜29日、NAMAの会議が開かれる。

4)ニューデリーのG20会議

  さる3月18〜19日、インドのニューデリーのシェラトン・ホテルで、途上国の農産物輸出国20カ国グループ(G20)が会合を開いた。
  これに先立って、3月17日、インド全土から、農民運動(インド農民連合)、社会運動、NGOなど50の団体を代表する30,000人が、同ホテル近くの「農民広場」に集まり、G20に対して、「その農業政策を根本的に変える」、「WTOの農業協定のパラダイムを拒否すること」、「南の農民の立場にたつこと」、「北のアグリビジネスに対抗すること」、「食糧主権を守ること」などを要求した。その中には、2,500キロも離れた南インドのカルナタカ州から汽車でやってきた12,000人も含まれていた。
  WTOの農業協定が施行されて以来10年間、南の農業は破壊され、インドでは昨年1年間に16,000人の農民が自殺に追い込まれた。WTOの農業協定は、大規模農業、資本集中型、貿易志向型、アグリビジネス中心であり、農民のインセンティブを殺ぎ、人びとの生計を脅かしている、と非難した。
  G20はアルゼンチン、ブラジル、中国、インド、パキスタン、ボリビア、チリ、キューバ、エジプト、グアテマラ、インドネシア、メキシコ、ナイジェリア、パラグアイ、フィリピン、南アフリカ、タンザニア、タイ、ベネズエラ、ジンバブエの20カ国で構成される。

5)WTO一般理事会はケニアの女性代表を議長に選出

  去る2月、ジュネーブのWTOは一般理事会の議長として、Amina Mohamed ケニア
大使を選出した。