WTO  
08年7月、ジュネーブのWTO交渉の決裂
2008年8月18日


 7月29日、ジュネーブで開かれていたWTOの閣僚会議は、南北の対立が解消せず、ついに決裂した。これで、2001年11月以来続いていたWTOの「ドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)」の自由化ルール(Modalities)の交渉は、長期の凍結の見通しとなった。
 決裂の直接の引き金は、インドと中国が途上国に認められている農産物の「特別緊急輸入制限措置(セーフガードSSM)」の機能的な発動を要求し、これに対してEUが妥協的な緩和案を出したのだが、世界最大の農産物輸出国である米国が厳格な発動基準を主張して、これを拒否したことにあった。米国の孤立感は否めなかった。
 ドーハ・ラウンドの失敗は、このような単に技術的な項目をめぐる対立ではなかった。それは、ドーハの2001年当時とは異なり、世界がマルチな危機に襲われている。
 IMF、世銀、WTOなどの国際機関の信頼は地に落ちている。先進国の経済は金融危機によって、先が見えなくなっている。途上国では食糧暴動が起こっている。
 誰も貿易によってこれら危機が解決できるとは信じていない。「ドーハ・ラウンド」は誰からも政治的支持を受けていない。
 今、必要なことはオルターナティブな貿易のモデルを提起することである。
  
1. 刻々と時は過ぎる

 WTOでは、08年末までにドーハ・ラウンドの合意を取り付けないと、半永久的に交渉は凍結するといわれてきた。
 なぜなら、来年1月、ブッシュ大統領の任期が終わる。政権が交代すれば、米国の政策が変わる可能性が高い。今年中にラウンドの合意を取り付けるためには、加盟国それぞれの国内手続きもあり、今年の7月中にルール作りの交渉を終わらせなければならない。
 また、これまでのスター・プレーヤーたちが09年に引退する可能性がある。たとえば、ラミイ事務局長、EUのマンデルセン通商代表、ブラジルのアモリン外相、インドのナツ通商相などはいずれも09年末を持って交代する。
 彼らは、今年1月末、ダボスの世界経済フォーラムで、短い会合を持った。その時、イースター明けにミニ閣僚会議を開くことに同意した。しかし、その後のジュネーブでの交渉は遅々として進まず、5月、6月のデッドラインはいずれも過ぎていった。
 問題は、米国とEUの農産物輸出補助金の撤廃と、途上国の工業製品の輸入関税の引き下げがセットになっていて、この2つがトレードオフになっているところにある。これは、主として先進国側、とくに米国の戦略である。そして、これが、解決を阻んでいる原因でもある。
 01年、カタールのドーハでの第4回閣僚会議で合意した「ドーハ・ラウンド」は、途上国を交渉に巻き込むために「ドーハ“開発”ラウンド」と名づけられた。「開発」の名を冠したということは、途上国の農業を育成し、工業化を促進することである。
 これはWTOと相容れない。なぜならWTOの基本原則は貿易の自由化である。経済の自由主義(レセフェール)は、強いものが勝ち、弱いもの、遅れたものが負ける。したがってそもそもWTOは、途上国の「開発」とは相容れない。たとえば、自由化にもとづいて、巨額の補助金漬けの安い農産物が国際市場に溢れたならば、途上国の農業はひとたまりもなく破壊される。これはまさに反開発である。

2.途上国の農産物輸入過剰の問題

 40年前には、ほとんどの途上国は食糧の輸出国であったし、食糧輸出の総額は年間70億ドルに達していた。しかし、貿易の自由化政策の結果、今日では、149カ国の途上国のうち105カ国が食糧輸入国に転落した。そして食糧輸入の総額は110億ドルに上る。
 ラミイ草案では、先進国は農産物の関税を70%引き下げる、そして途上国は47%(先進国の約3分の2)引き下げることから始まる、となっていた。これらは、理解しがたい数字であった。
 WTOは、03年、農産物の輸入急増に対して、途上国に限り農業を守るために、「特別セーフガード措置(SSM)」を設けた。ラミイ事務局長が出した最終草案では、途上国は「輸入量が140%を超えたときにSSMを発動できる」という条件がついていた。
 これに対して、G7の会合では、ともに食糧の輸入国であるインドと中国が、途上国独自の判断で発動できるということを要求した。途上国政府には資金がないので、先進国政府のように補助金を出して農業を守ることが出来ない。したがって、高い関税を課すことで、輸入を阻止しようとする。 
 これに対して、米国は「ノー」といったのであった。
 インドのナツ通商大臣は、決裂後の記者会見で、「SSMは、10億人(実際には50億人)の農民の安全保障にかかわる問題である。これはG33、APC(ジャマイカが代表),アフリカ連合(モーリシャスが代表)、低開発国(LDCs)などおよそ100カ国にのぼる途上国グループのそれぞれの決議に盛られており、ドーハ・ラウンドのコアとなる問題となった」と語った。インドネシアを代表国とするG33は、とくに農産物の「重要品目」と「SSM」のために集まった途上国グループで、実際には40カ国が参加している。
 現在、OECD加盟国(金持ちクラブ)が農産物輸出に出している補助金の総額は、年間3,740億ドルに上る。
 米国やEUがまじめに輸出補助金の削減しようとしないので、途上国にとって、SSMがその対抗手段として最も重要な問題になった。
 FAOによると、1980〜2003年の間、途上国102カ国で12,167件の輸入過剰が起こっている。途上国平均では年間約120件の輸入過剰が起こっており、それは130%を記録している。
 ラミイ草案では、SSMを発動できる輸入過剰率は140%以上ということになっていた。
 しかし、ケニアで起こった例を挙げてみよう。1984〜2004年、ケニアに安い砂糖が輸入された。それは140%の輸入過剰であった。その結果、ケニア国内で砂糖産業に従事していた32,000人の農民、労働者が失業した。
 つまり、140%という数字は途上国に回復不可能な打撃を与える。途上国にとっては受け入れられない数字である。
 米国は、途上国がSSMを乱用することを恐れて、140%という数字でもって縛ろうとしたにだ。インドはこれに対して、乱用を監視する常設の専門家パネルの設置し、60日以内に判定を出すことを提案していた。
 農業の分野で、もう1つの重要議題であった米国の綿花輸出に対する補助金に関しては、議論されることもなかった。結局、アフリカの閣僚たちは、10日以上もジュネーブのホテルでG7の非公式会合の帰趨を待っていなければならなかった。
 工業製品(NAMA)については、ラミイ草案は、先進国は8%引き下げる、そして途上国は20〜25%引き下げる、となっていた。何を例外とするかについては、政府に柔軟に考えることが出来る。しかし、自動車を例にとると、自動車部門全般を例外とすることは出来ない。しかし、エンジン、車体、シートなどの部品を例外品目にすることはできる。
 いずれにせよ、途上国には不利な条件である。
 このように「トーハ・ラウンド」の交渉では、先進国は一貫して反開発に徹してきた。

2. ジュネーブの閣僚会議

 7月21日からジュネーブで閣僚会議がはじまった。しかし、全加盟国153カ国の閣僚が一堂に会して議論する機会はなかった。すぐに30〜40カ国がラミイ事務局長の部屋に呼ばれ、「ミニ閣僚会議」を開くことになった。しかし、彼らが実際に部屋に入れたわけではない。
 ラミイの部屋に入れたのは、その中の米、EU(1地域)、日、オーストラリア、インド、ブラジル、中国の7カ国(G7)の閣僚だけだった。議論はこのG7で行われた。
 G7以外の加盟国の閣僚たちは、なん日も部屋の外で待たされ、挙句のはてに、交渉が決裂したことを知らされ、いらだった。
 7月25日、突然ラミイ事務局長が自由化ルールの最終草案をG7会合に出した。
 ラミイ事務局長は、農産物、とくに主食である穀物の高騰を理由に、「ラウンドの合意は間近い」と言い続けてきた。
 たしかに米政府にとっては、穀物価格が高騰したので、今年は国内の生産業者に支払う補助金は70〜90億ドルで済むと予測される。EUが輸出補助金を80%削減すると約束したのに対して、米国は70%と返答した。そして、シュワブ米通商代表がG7会合に出してきた補助金の金額は145億ドルだった。1週間前に出した数字は150億ドルであった。小刻みな数字の出し方だ。
 いずれにせよ、これでは今年の実績の2倍になる。しかも、5月16日、米議会で圧倒的多数で可決された『2008農業法』には、今後5年間、2,890億ドルの農業補助金を出すことになっている。
 これではとうてい途上国側が納得できる数字ではなかった。 
 ワシントンのロビイ団体「Public Citizens」のLori Wallachは「ブッシュ大統領は、ドーハ・ラウンドの交渉をすることは自由だが、協定を締結するには議会の承認が必要である。協定に関税や補助金の削減が含まれている場合、議会が承認すはずがない」と語った。

3. 交渉決裂を悲しむべきか

  グローバリゼーションのチャンピオンたちは、WTO交渉の決裂をしきりに嘆いている。
 EUのマンデルソン通商代表は「これは痛ましい失敗だ。グローバル経済にとって打撃だ」と語った。さらに、米国のTom Donohue商工会議所会頭は「途上国にとっては失うものが大きい」とまで嘆いてみせた。
 実際はどうだろうか。
 世銀は、「ドーハ・ラウンド」が“成功裏”に締結されたときのシュミレーションをした。それによると、2015年には、貿易による途上国の収入は年間160億ドルに上ると言っている。これでは途上国1人当たり1日1ペニイ以下の収入でしかない。
 このシュミレーションはいくつかの怪しげな前提のもとで行われている;@ 途上国が輸入関税を引き下げた場合、その損失を埋めるために別の項目の増税をする。A 途上国は輸入が急増した場合、通貨を切り下げる、あるいは輸出を急増させる、という。まずこのようなことはありえないことだ。
 代わりに途上国が失うものは大きい。
 まず、先進国が輸出補助金を削減し、途上国が輸入関税を引き下げた場合、その恩恵を受けるのはアルゼンチン、ブラジルなど途上国の中の少数の国に限定される。今回の食糧危機で明らかになったことは、途上国の真の意味の食糧安保とは、安い輸入農産物に依存するのではなく、自国の農業生産の復活にあるということだった。
 IMF・世銀の構造調整プログラムの導入は、貿易の自由化、つまり関税引き下げ、農業に対する政府の介入の排除などを行った。その結果、途上国は農産物の輸出国から食糧輸入国に転落した。そして、食糧輸入の巨額のツケに苦しんでいる。その結果、世界人口の50%が飢えに晒されている。
 途上国の農民はこのことを知っている。彼らは、ジュネーブに向かうWTOの閣僚たちに、「妥協してはならない」と警告した。ジュネーブで、インドのナツ通商産業相が「ドーハ・ラウンドが途上国に恩恵をもたらす」ということに対して「1歩も引かない」といったのは、まさにこのことだ。

4. FTA、EPAなどの2国間交渉と自由貿易地域

 WTO交渉の決裂によって、これから、FTA 、EPAなど2国間交渉が一層増えていくだろう。FTA 、EPAは、WTOの中身を先取りしたものである。しかも2国間協定には、貿易、関税などの項目に加えて、WTOではまだ議論にも入っていない外国投資、天然資源や公共サービスの民営化、移住労働者問題などが盛り込まれている。
 また2国間交渉ではEUや米国など先進国が圧倒的に有利だ。市民社会も、取り上げるのは当該2国に限られ、しかも先進国側は動きが鈍い。途上国では、農民、労働者、市民などが激しいデモでもって交渉に圧力をかけなければならない。事実このようにして、2国間交渉が進まない例が多い。
 米国は、カナダ、メキシコとの間に「北米自由貿易協定(NAFTA)」を締結した。これは米資本の市場を拡大するのが目的だった。米国は、NAFTAを中米、南米、カリブ海34カ国に広げた「米州自由貿易地域(FTAA)」の設立を目論んだ。しかし、南米の大部分の国が反対し、破綻した。
 一方、注目すべきなのは、途上国間の経済協力や関税同盟の動きである。東南アジア諸国連合(ASEAN)、南アジア地域協力連合(SAARC)、南部アフリカ開発共同体(SDRC)、南米共同市場(MERCOSUR)などといった地域連合の形で、すでにWTOとは無縁なところで、途上国自身の手で設立され、域内の貿易が相互に利益をもたらすよう努力をしている。
 ラミイ事務局長は、WTO交渉の決裂によって、途上国間の貿易に悪影響を及ぼすと言うが、このように途上国間の協力は着実に進行している。

5. 日本はジュネーブで何をしたのか

 WTOでは、日本はコメを守るために、EUに同調して「農業の多目的機能」という言葉を使ってきた。これは田んぼが人工の湿地であること、農村が緑の景観になっていることなどを指している。しかし、これでは、米国をはじめとする農産物輸出国を納得させることは出来ない。
 一方、途上国は農業発展の理念として、食糧主権と持続可能な開発を掲げている。途上国は、WTO加盟国153カ国の3分の2以上の勢力である。しかし、日本は決して途上国と手を結ぼうとしない。
 日本は、スイス、イスラエル、台湾、ブルガリアなど仲間はずれの10カ国のグループに加わり、しかもスイスをグループの代表にしている。WTOの議論の中で、G10の発言が重視されたことはない。これでは、日本政府が本気で農業を守ろうとしてきたとは言えない。
 これまで日本は、農業を保護するために、コメなどを「重要品目」として高い関税を課してきた。ラミイ草案には、先進国の「重要品目」は6%に押さえられていた。これは、133品目ある農産物の中で、最低「10〜15%と」を「重要品目」とする日本の主張を大幅に下回る。ジュネーブで、日本は「8%」にまで妥協したが、それよりはるかに下回った数字であった。
 インドと中国がSSMの発動をめぐって激しい議論を展開している中で、「6%」について日本は反対らしい言葉を発することはなかった。その理由は、第1に、日本にコメを輸出したい国、そして日本人が食べるコメに最も近いコメを生産している国が米国だから。日本は米国には逆らえない。
 第2に、日本国内では、自動車、家電製品を輸出するために、農業を犠牲にすることをいとわない産業資本が優勢であるから。
 今回の決裂により、ドーハ・ラウンドの行方は掴めなくなった。日本政府はホットしているのが本音であろう。日本政府の無策が露呈された。
 8月11日、農業交渉委員会のファルコナー議長(ニュージーランド大使)が、G7非公式会合の議論を総括する報告書を発表した。それによると、日本が主張した「重要品目」の「8%」という数字が見当たらず、「6%」に合意したことになっている。つまり、G7では「6%」に決着したことになった。日本国内では、食糧危機の中で、食糧自給率を挙げるという議論があるが、これはそれに反する行為である。

6. 市民社会の見解

 1999年、シアトルの第3回WTO閣僚会議に反対する農民の国際組織として設立された「Via Campesina(農民の道)」は7月1日、「ドーハは死んだ」「もう1つの世界の食糧政策を」と題する声明を発表した。
 「ドーハ・ラウンドの崩壊は、シアトル、カンクン、香港、ジュネーブなどでWTOと闘ってきた人びとの勝利である。それは市場の自由化と、食糧、水、種子など人間の生活に欠かせない物資の商品化に対する闘いであった。食糧、気候、金融、エネルギーなどの構造的危機は、WTOや自由貿易協定などが推進した自由化政策がもたらした直接の結果である」と述べている。
 70年代以来、米国の農業政策に批判する活動を続けてきたNGO「農業と貿易政策研究所(IATP)」は、「ドーハ・ラウンドが食糧危機を解決できない7つの理由」と題した声明を発表した。
 WTO、世銀、IMF、OECDなどは、ドーハ・ラウンドの締結が食糧危機の解決策であると主張してきた。
 なぜ危機が起こったのかを考えてみよう。
 食糧危機は、一連の事柄の結果である。供給サイドでは、@ 米、小麦、とうもろこしなどの主食の備蓄が危険水域以下に減っていること、A オーストラリア、アルゼンチン、米国、カナダ、ミャンマーなど大穀倉地域の気候の悪化、B 土壌、水など天然資源が限界にまで過剰使用されていること、さらに需要サイドでは、@ 肉と乳製品を食べる人口が増えていること、A 先進国では食糧生産をバイオ燃料生産に変えていること、などを挙げている。

 ドーハ・ラウンドは;

1. 途上国の食糧輸入が増える
 3分の2の途上国が食糧輸入国である。貧しい国ほど食糧輸入依存度は高い。過去20年間、途上国が農産物市場の自由化を行った結果、小農民たちは、政府の支援なくしては立ち行かなくなった。先進国から巨額の補助金漬けの安い農産物が流入した結果、地場の農業生産や投資は激減した。ドーハ・ラウンドによる一層の貿易の自由化は、事態を一層悪化させるだろう。  

2. 食糧と農産物の価格変動を拡大する
 輸出入の量をコントロールし、国内の貯蔵を増やす、価格統制と価格維持のメカニズムを使う、配給制度などでもって消費者補助を行うなどを通じて、政府が価格の変動を抑える。これらは現在の貿易、投資協定でも禁止、あるいは制限されているのだが、ドーハ・ラウンドが締結されれば、一層悪化するだろう。

3. アグリビジネスの力を強める
 2006年以来、Cargill、Archer Daniel Midlands(ADM)、Bungeの3大穀物取引業者は、それぞれ36%、67%、49%と利潤を増大させた。規制が緩和された貿易では競争原理が働かす、アグリビジネスを肥大化させた。95年、WTOが設立されて以来、彼らは多角間貿易ルールの恩恵を受けた。一方、途上国の農民やローカルビジネスは食糧システムから除外された。ドーハ・ラウンドはこれをより悪化させるだろう。

4. 金融投機を規制できない
 2000年以来、一次産品(Commodities)市場の金融スペキュレーションが激化した。FAOとUNCTADの調査によれば、この投機が一次産品市場の価格変動の原因だと結論している。ドーハ・ラウンドには食糧市場でのスペキュレーションを規制する提案は見られない。

5. 環境危機/気候変動に取り組んでいない
 悪天候は食糧危機の原因の1つである。IPCCは悪天候が食糧生産に影響を与える、といっている。WTO設立以来14年間、政府は貿易に関連した公害のコスト、あるいは天然資源の枯渇について考慮に入れてこなかった。WTOは気候変動防止条約などといった国連の環境に関する協定を無視してきた。

6. 石油価格を引き下げない
 石油価格が高騰している。
石油は工業的農業にとって決定的な要素になっている。たとえば、石油は肥料、農薬、灌漑用ポンプ、農業機械、運輸機械に使われる。石油価格の高騰は食糧価格に影響を及ぼす。
しかし、ドーハ・ラウンドには、石油市場の変動については触れていない。

7. バイオ燃料の国際取引を規制しない
 この2,3年、石油価格の上昇とともに、バイオ燃料に対する投資が増えてきた。それと同時に食糧生産をバイオ燃料の生産に切り替えることが増えてきた。ドーハ・ラウンドは農産物貿易の増加を推進するが、それを何に使用するかについては触れない。

したがって、IATPは以下のことを提案する。

1. 農産物に関するウルグアイ・ラウンド協定とドーハ・ラウンドを再検討すること。
 WTO加盟国政府は補助金漬けの農産物輸入から国内の食糧生産と農業一般を守る手段を確保すること。多角間貿易のルールが国内の食糧安保を脅かしてはならない。

2. 食糧と農産物の価格の変動を規制する
 加盟国政府は、国内のみならず地域レベルでも食糧の備蓄を再構築すべきである。備蓄は価格変動に対する重要なクッションになる。そのために、国際的な協調が必要である。これは、一次産品市場のスペキュレーションに対抗する手段である。WTOにアフリカ連合(AU)が提案した「一次産品価格の安定化案」を考慮すべきである。

3. グローバルな競争ルールを制定する
 今日、少数の多国籍企業がグローバルな一次産品と食糧市場を支配している。彼らは公平な貿易手段を捻じ曲げる誤った手段を用いている。
 アグリビジネスの市場支配を規制すべきである。その第一歩として、アグリビジネスに関する調査をしなければならない。また競争のルールについても再考すべきである。 
 UNCTAD事務局が出した「Code on Restrictive Business Practices」を参考にするべきだ。