WTO  
WTO 05年5月パリ・ミニ閣僚会議
2005年8月15日


 5月3−4日、折からパリで開催されていた経済協力開発機構(OECD−先進国クラブ)会議を利用して、WTOはパリでミニ閣僚会議を開いた。これは、7月に予定されていたジュネーブのWTO一般理事会に対して、先進国が、一部の途上国を巻き込んで、非公式に交渉した。ミニ閣僚会議に出席したのは、ほとんどの先進国と一部の途上国総計30カ国であった。
 パリのミニ閣僚会議では、2001年11月のドーハでの第4回閣僚会議で採択された「ドーハ開発ラウンド」をブロックしている問題の1つに農産物の輸入関税の引き下げ問題が取り上げられた。この問題について交渉する前提として、まず、共通の輸入関税方式に合意しなければならない。これを7月のジュネーブでの一般理事会までに決定しなければならない。
 まぜ輸入関税の方式が問題となったのか?その背景には、ブラジルなど農産物を輸出している途上国と、EUやスイス、日本など農産物を輸入している先進国との間に関税方式をめぐる対立があった。
 現在までのところ、輸入関税の方式は国によって異なっている。ある国は、輸入のトン数に対して、何%という関税をかけている(特定関税方式)。ある国は、輸入のトン当たりの金額に対して何%という関税を掛けている(AVEs)。この2つをミックスしたものを取っている国もある。さらに、この2つのうちより高いほうを選択するといった「複合関税」方式をとっている国もある。
先進国のうち、EUと、日本、スイス、ノルウエー、台湾、韓国、イスラエル、リヒテンシュタイン、アイスランド、モーリシャス、ブルガリアなど「G10」と呼ばれる国々は、AVEsではなく、特定関税、ミックス関税、複合関税を採択している。
 なぜこの関税方式の決定が必要かといえば、関税の引き下げは、高い関税には大きな引き下げ率、低い関税には引き下げ率は少なくなる、ことになっているからである。そして何が低くて、何が高いかを決定するには、共通の関税方式がなくてはならない。
たとえばWTO加盟国が20%の関税を「低い」、20−99%を「中位」、100%以上を「高い」と決めるとする。
 そこで、トン数に掛ける特定関税では、キロ当たり20ドルのチーズの関税が、キロ当の値段を知らなければ、それが高い、中位、あるいは低い関税であるか判らない。それは、たとえば、チーズの値段がキロ当たり100ドルだとすると、それはキロ当たり20ドルのチーズの関税は20%の関税ということになる。もしこれがキロ当たり1,000ドルのチーズだとすると、比例する関税率は200%になる。
 ではどうやって、価格を計算するのか?まず第1に、輸入国がキロ当たりのチーズの輸入にいくら払ったか。これは、WTOの総合データーベースに集められている。あるいは、世界市場のチーズの価格。これは国連の商品取引統計データーベースに記録されている。
 問題は先進国の輸入する農産物の価格は、人びとが贅沢なため、いつも世界市場価格よりも高い。したがって、トン当たりの輸入関税という特定関税方式では、いつも、関税率は低くなる。
 たとえば、輸入牛肉がキロあたり10ドルとする。関税が2ドルだとすれば、関税率は20%になる。一方、牛肉の世界市場価格がキロ当たり7ドルだとする。これに2ドルの関税を掛けるとすると、関税率は28.6%である。先進国の輸入農産物の場合、このギャップはかなり大きい。
 輸入品の価格の差が関税の高さを決定するというAVE方式は、関税の「高さ」と「低さ」を決定する要素となる。ここで輸入品の価格が関税の「高さ」と「低さ」を決定することになる。
 EUと日本、スイス、ノルウエーなどの先進国は、これまで、国連の世界市場価格をとることに頑強に反対してきた。
 パリのミニ閣僚会議では、EU、米国、ブラジル、インド、オーストラリアからなる「関係5カ国パーティ(FIPs)に対して、特定関税をAVEsに代えるというEU提案が受け入れられた。そして、これはミニ閣僚会議で合意されたのであった。
 これは、ブラジルなど途上国の農産物輸出国のG20にとって、有利な合意事項である。つまり、パリのミニ閣僚会議では、EUをはじめとする先進国が妥協した形になっている。しかし、AVEsについてもさきに述べたように、まだ多くの争点が残っており、さらに一般理事会で加盟148カ国の合意されねばならない。
 EUの通商代表であるピーター・マンデルセンは、これを「大きな突破口であった」と自画自賛した。またWTOの農業交渉のEUのMarian Ficher Boel 代表もまたこれを農業交渉の第1歩であると評価した。
しかし、関税引き下げの交渉はまだ始まっていない。そして、これらは野産物の市場アクセスの問題である。しかし、このほかにさらに先進国の農産物輸出補助金の撤廃という難問がある。
 また、農産物協定の関税引き下げの対象外となる日本のコメのような「Sensitive Product」については、種目も、また輸入割り当て量も、まだ決まっていない。