WTO  
ジュネーブWTOの交渉
2006年5月2日


 3月28日、WTOのラミイ事務局長は、ジュネーブの貿易交渉委員会(TNC)の席上で、「香港で決まったドーハ・ラウンドのルールの大枠(Modalities)の合意を目指すグリーン・ルーム会議には閣僚の出席が想定される」という発言を行った。これは4月の最後の週に予定されていたのだが、安全を見込んで5月はじめの数日も加えてあった。(4月29日〜5月5日)
 3月10〜11日、ロンドンで、米国、EU、ブラジル、インド、オーストラリア、日本のG6が、ミニ・ミニ閣僚会議を開いたのだが、ほとんど何も決まらなかった。
 これ以前にも、ラミイは3月31日〜4月1日の2日間、リオデジャネイロで、米、EU、ブラジルの3カ国の協議をアレンジした。
 このようなラミイの秘密交渉方式はジュネーブの多くの代表を怒らせた。これまでは、このような方式は、全体会議での議論を補完するものととらえられて、黙認されてきた。
 しかしラミイがこれを交渉の中心軸にしはじめたことに我慢がならない、というのであった。たとえば、ロンドンでG6が協議しているということで、ジュネーブでの交渉がすべてストップさせられたことに、アフリカが抗議した。「われわれは、その結果についてのブリーフィングがあるだけで、アフリカが議論に参加していないし、合意しているわけでない。たんに知らされただけだ」とラミイに抗議した。
 にもかかわらず、これらのミニ会議では、何の合意もない。
 したがって、WTO事務局のスタッフが明らかにしたところでは、ラミイ事務局長は4月末の合意達成については悲観的だということであった。
 4月末に予定されていたグリーン・ルーム会議には、30カ国のジュネーブWTO駐在大使が事務局長に招待されるという形をとるということであったが、すべての国が閣僚を送るというわけには行かない。香港の閣僚会議と異なって、大臣が何日も国を留守にするわけにはいかない。また、閣僚は通常大勢のスタッフを連れてくるので、貧しい国にとっては費用がかかる。
 またグリーン・ルーム会議が開かれたとしてと、すべての未解決の問題が合意に達するわけでもない。ただ、農産物の市場アクセスと工業製品の関税引き下げ方式に2点に限られる。しかし、この2点についても、利害関係が錯綜していて、動きが取れない状態であった。
 たとえば、農産物について、米国は農産物の輸出補助金を大幅削減することを途上国から要請されているが、議会の承認は難しい。一方、日本など食糧輸入国は農産物の輸入関税の75〜90%という大幅引き下げを、米国やブラジルなどから要請されているが、45%ぐらいにとどめたいと抵抗している。
 4月はじめ、ラミイはニューデリーを訪問したが、NGOや農民から抗議行動の標的にされた。UNCTADとインド商務省が共催したシンポジウムではラミイに抗議して、農民が入場バッジと紙をラミイに投げつけて退場した。またこのシンポジウムでは、食糧安保フォーラムのDevinder Sharmaが、ラミイに対して「WTOは、先進国が農産物補助金を1ペニイも減らそうとしないのに、途上国に関税引き下げや先進国の農産物の輸入を強制している。先進国の農産物ダンピングによってインドの農民は困窮化し、年間5万人の農民が自殺している」と発言した。
 インド商工会議所連合(FICCI)との会合でも、ラミイは工業清貧の交渉(NAMA)で、インド産業の根幹をなす小規模企業の関心の的になっている「柔軟条項」の重要性を訴えられた。
 4月17日付けの『日本経済新聞』によると、4月上旬、ポートマン米通商代表は、電話で、4月末のWTO合意は難しい。交渉が決裂すれば、米国は2国間自由貿易交渉(FTA)を重視せざるをえない」と伝えたという。
 WTOは、4月末の大枠合意がなく、7月の一般理事会でも合意がなければ、今年中の交渉合意は不可能である。そうなれば、ブッシュ政権が米議会からあたえられた「ファースト・トラック(貿易促進制限)」の期限が07年6月に切れる。そうなれば、いちいち、ホワイトハウスは、議会の承認を得ねばならず、WTO交渉は事実上不可能になる。
 このようなシナリオの予想は高い。
  4月24日(月)に、ジュネーブのWTOは、全代表団の代表(HoD)による会議が開かれた。ここでは、「農産物と工業瀬品の市場アクセスについての大枠の合意に達することが出来ない」ことが正式に承認された。したがって、計画されていた30カ国の閣僚会議も開催されないことになった。
 これは、4月21日(金)に開かれたラミイ事務局長と30カ国の大使とのグリーン・ルーム会議での結論であった。
 4月24日のHoD会議では、7月末までに大枠合意の詳細について合意しなければならないのだが、4月末に代わる新しいデッドラインは設定されなかった。
 今後の交渉のやり方については、これまでのようにグリーン・ルーム方式やミニ閣僚会議のような排他的な方式ではなく、ジュネーブでの全体会議を重点を変えていくことが了承された。