WTO  
FTA交渉の現況
2006年5月6日


 2国間のFTA交渉は、90年代から激増した。その数は90年はじめに900件だったのが、2003年に2,300件に増えた。まさに、「FTAのグローバルな競争時代」である。しかし、先進国が対象とする途上国は、急成長する新興国や中所得国に限られる。低所得国がFTAの対象になることは少ない。このようなFTA交渉は、格差をさらに増大させるだろう。
 一方では、地域統合型の多国間FTAも盛んである。EUやのように先進国間、あるいは、米国資本による地域統合のNAFTA、CAFTAのようなケースもある。しかし、現在府増えているのはアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ間の関税同盟のMERCOSURのようなケースである。

1.米国は対途上国FTA交渉を優先

 ブッシュ政権は、WTO交渉が行き詰まっている一方、議会から委任されたFast Track(貿易自由化交渉権)が07年6月に切れることもあって、アジア、中米、南米諸国との2国間貿易自由化協定(FTA)交渉に熱心に取り組み始めた。
 4月3日付けの英紙『ファイナンシャル・タイムズ』によれば、議会での大統領の最大の支持者であるBill Thomas議員(共和党、下院歳入委員会委員長)が、ホワイトハウスに対して、「WTO交渉が、米・EU間の対立によって暗礁に乗り上げているので、途上国との2国間貿易自由化交渉(FTA)により重点を置くよう」要請した、と報じている。
同議員は、米国で保護主義的傾向が強まっていることを警告している。「今秋の中間選挙後の米議会は反自由貿易論者によって占拠されるだろう」と言った。Thomas議員はこれまで何度も貿易問題でブッシュの窮地を救ってきたことで有名である。2001年、議会でのFast Trackの議決の際には1票差でブッシュを勝たした功労者であった。昨年、彼は、米国と中米の自由貿易地域協定CAFTAを議会での2票差で批准させることにも貢献した。そのために、彼は下院歳入委員会の委員長の座を今年一杯で失うことになったのだが。 
 大統領は、07年6月以降は、WTO、FTA交渉ともに、議会で修正の危険性にさらされることになる、だから、エネルギーをFTA交渉の重点に置くべきだというのがThomas議員の言い分である。FTAは小さな国との交渉からはじめ、最後により大きな国との交渉に入ることが出来るという利点がある。たとえば、ペルシャ湾岸では、まずオマーン、バーレーンなどとFTAを結び、現在はアラブ首長国とFTA交渉中だが、これは、最後に渋っているサウジアラビアなどを交渉の場に引っ張り出すことが出来、さらに、サウジアラビアをWTOに加盟させることが出来る、と同議員は言う。
 またThomas議員は、韓国とのFTA交渉の締結に熱心である。韓国は世界第10位の経済大国であり、同国とのFTAは世界経済の基本的な再編をもたらすという。
 Thomas議員は、タイとのFTA交渉がタイの政治危機によって頓挫しており、これは多分時間切れになるだろうと警告している。タイにとって米国は最大の市場である。2004年にはタイと米国の貿易総額は227億ドルであったのが、2005年には257億ドルに増えた。

2.EUもFTA交渉に熱心 

 同時にEUも、停滞するWTO交渉に対して、2国間のFTA交渉を推進している。これは、個々の途上国政府に圧力をかけやすい。しかし、本来WTO交渉の停滞の原因となっているのが、米国とEU間の対立なのである。
 同時にEUは、ACP(アフリカ、太平洋、カリブ海諸国などヨーロッパの旧植民地)との間の貿易協定の期限切れにともない、現在、APCとの間に経済パートナーシップ協定(EPA)交渉を進めている。
 これに対して、「パートナーシップ」と名づけてはいるが、実際には、自由貿易協定であること、これがAPCに対して、破滅的な影響を及ぼすものであるとして、EU、APCなどの市民社会が、3月27〜30日、ジンバブエのハラレで会議をして、反対声明を出した。
 それにはAPCに対するEUの圧倒的な経済的、政治的影響力を考慮すると、いまだに脆弱で、依存傾向が強いAPCとの「自由貿易は不可能である」と言っている。「EUは、交渉のプロセスが単に早急であるだけでなく、利益とテーマを一方的に押し付けている」と非難している。声明は「EPA交渉はただちに中止すべきだ」と結んでいる。

3.WTOが米国のFTA交渉推進を批判

 WTOは、3月22日、米国のFTA交渉を批判する報告書を発表した。これに対して、米国のポートマン通商代表は「WTOで進展が見られない中で、米国のFTA交渉は貿易の自由化を推進している」と反論した。
 これらの論争はさておき、WTOに比較して、FTAの特徴とは何か?
(1) FTAには、WTOでは議論の対象とならないエネルギー、防衛、航空・宇宙産業などの項目が加わる
(2) 米国のFTA交渉では、しばしば並行して投資、労働、環境などについての協定が締結される
(3) FTAには、中国やインドなど新興国が果たしている役割を視野に入れていない。たとえば、これら新興国の台頭は、戦後一貫して途上国を悩ましてきた一次産品の需要を増大させ、これまでの世界の投資地図を大きく変えた。アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの間の南・南貿易の増大は、生産国と消費国の関係を変えた。
(4) FTAでは投資国の優先順位が、貿易を左右することになり勝ちである。
(5) FTAでは、先進国が関心をもっているサービス産業は、途上国では発展していない。
したがって、サービス産業をFTA協定に含むと、途上国のサービス産業の発展は阻害されることになる。
(6)
FTAの多くは農業項目を除外している。
(7) 新しい市場を開拓、あるいは貿易ルールの実施を拡大することに弱い。グローバル経済を機能させるのに必要な要件は、多国間交渉でのみ可能だが、FTAでは、当事国がそれぞれWTOの加盟国であるということで、表面的な議論に終わる。
 とくに、貿易の格差解消、技術、保健・安全基準、貿易円滑化、関税などの分野では、FTAでは交渉の対象に入らない。

4.ASEANをめぐる米国のFTA交渉

 1999年、中国がASEANブロックに対して10年以内に中国・ASEAN間のFTAの締結を提案して以来、にわかに、米国、日本、韓国などが、個々にASEANにアプローチするようになった。
 中でも、米国は、2002年10月、ASEANとのFTA交渉を開始した。すでにそれ以前にFTA を締結していたシンガポールに続き、タイ、マレーシア、インドネシアとのFTA交渉に力をそそいでいる。
 しかし、タイとのFTA交渉は、タイの政治危機で頓挫している。新しい政権も政治的リスクを負うようなFTA交渉を再開しないだろう。
 そのため米国は比較的問題のないマレーシアとのFTA交渉に切り替えた。さらに今年中にインドネシアとの交渉を成立させるつもりだ。
 米国はASEANに対する投資では第1位を占めているが、貿易総額では中国が昨年対ASEAN貿易で1,300億ドルにのぼり、米国の対ASEAN貿易の1,360億ドルに迫っている。
 ブッシュ大統領が、就任後、最初に手がけたタイとの交渉は、タイが米国の最大の同盟国であったにもかかわらず、医薬品の特許、知的財産権、金融の自由化などをめぐって対立し、交渉がストップした。タイの反FTA派は、交渉が透明性を欠いているのに加えて、農民が困窮化する、重要な医薬品が値上がりするなどを挙げて反対のキャンペーンをしていた。
 そこで、米国はマレーシアとの交渉にシフトした。今夏、交渉に入り、12月までに協定を完成する予定だ。次にASEAN最大の国インドネシアと交渉に入る。ワシントンで、 インドネシアのMari Pangestu貿易相がポートマン米通商代表と会談した際、記者会見で、彼女は「インドネシアと米国のFTAのコスト・ベネフィットについて、ワシントンにあるシンクタンクの国際経済研究所に調査を依頼した」と語った。そして、「FTA交渉はまず、投資、関税、知的所有権などの問題について合意することが前提だ」と語った。

5.日本の東アジア自由貿易圏構想

 日本も、同じくFTA を締結させているシンガポールをはじめとして、タイ、フィリピンとの交渉を開始している。
 同時に、4月4日、二階経済産業相は、「東アジア経済パートナーシップ協定」構想を発表した。これはASEAN10カ国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドを含む16カ国で、地球上の人口の半分30億の人口を抱え、NAFTA、EUに匹敵する市場となり、GDPでは9.1兆ドル、世界の4分の1にのぼる巨大な経済圏の出現を意味する。これには投資、サービス産業、関税自由化、経済協力などの項目が入る。
 日本は、2008年に交渉を開始し、2010年までに協定を締結したいとしている。「これは、WTOの課題である自由で、公平な貿易を推進するものだ」また、「EUが長い間かかつて今日のような経済圏を築きあげた。アジアも同じような経済圏をめざしている」と二階経産相は述べた。
 しかしかれがなぜ今の時期にこのような構想を打ち出したかについてはさまざまな憶測がある。
 第1に、日本が「靖国」をめぐって中国、韓国とかつてないほど3国間で対立している。そこで、より広い枠組みの構想を出してきたのだ、という説もある。
 第2に、日本に比較して、中国、韓国ともに対ASEAN10カ国とのFTA交渉は先行している。中国は、2004年にASEANと商品貿易に関する協定を締結した。韓国は今年5月1日、ASEANとのFTA協定の枠組みに同意している。しかし、日本はいまだに交渉中である。
 第3に、日本政府内の対立がある。外務省は2国間のFTA協定の締結を推進しているのに対して、経済産業省は、ASEANなど多国間FTA協定を主張している。
 この日本の東アジア経済パートナーシップ構想について、タイの財界は、「これは、これまでバラバラに締結されてきたFTAを一本に統一することができるというメリットがある。しかし、まず日本が農産物を自由化することが前提だ。日本では、これは政治的に微妙な問題である筈だ。そして、日本・タイFTA交渉ではコメ、砂糖、タピオカなどの農産物が除外されている。これらはタイの主要な農産物である」とコメントした。日本のタイとのFTA交渉はタイの政治危機で一時停止になっている。
 マレーシアは、日本の16カ国構想について、数年前、マレーシアが提案した東アジア経済圏構想(ASEAN+日本、中国、韓国の3カ国)とどこが違うか、またなぜか、などの疑問を投げかけた。これは、日本が緊張した外交関係にある中国の影響力を弱めるためだとする説と、アジア諸国とのFTAをひそかに忍び込ませるためだともいう。
 シーファー駐日米大使は、4月19日、日本の東アジア経済パートナーシップ構想は、この地域での米国の利益を損なう恐れがある、とコメントした。「これはアジア地域から米国を除外するもので、不愉快である。米国は太平洋の国だと理解している。米国はこの地域に非常に大きな関心を抱いている。われわれはアジアの一員である」と語った。
 一方、EUはブルガリア、ルーマニアやバルカン諸国など東南ヨーロッパとの間のFTAを2006年中に締結する予定である。そのため、EUは日本の東アジア提経済パートナーシップ案に賛成している。

6.韓国とASEANのFTA

 韓国は、ASEANとのFTA交渉ではすでに10回になるが、昨年12月ジャカルタで開かれたASEANサミットでの交渉では、農産物の関税引き下げの範囲をめぐって交渉が決裂した。
 しかし、今年5月1日に調印にこぎつけ、7月に締結することを目標にしている。これによると、2010年までに90%の品目について貿易を完全に自由化する。その中間点である2009年までにのこり7%の品目で関税率を0〜5%まで引き下げる、ことを掲げている。韓国農業省は「97%ということは、コメや鶏肉、活魚、冷凍魚、ニンニクなど農水産物500品目が自由化から除外されるということなので、FTAが韓国農業に大きな影響を及ぼすことはない」と言った。
 ただ、タイは政治の混乱を理由に現時点では参加しない。タイは韓国側のコメ除外などに強く反発しており、今後の個別交渉は難航が予想される。04年の韓国の対ASEAN輸出は240億ドル、輸入は223億ドルであった。今回のFTA合意で韓国からの輸出が100億ドル増加すると見込まれる。

7.米国とCAFTA

 最近米国との間で発効した中米の自由貿易地域協定(CAFTA)は、エルサルバドル、コスタリカ、グアテマラ、ホンデュラス、ニカラグア、ドミニカ共和国が含まれる。
 米議会は昨年批准したのだが、これは米議会史上最も激しい議論を呼んだ。そして、米国は、相手側の国ぐにが協定に沿った国内法を制定していないということで、今年1月1日の発行を延期した。コスタリカを除いて、残りの国ぐには批准の手続きを開始している。
 エルサルバドルは2月に批准したのだが、その40日後、すでにネガティブな影響が出ているし、また人びとの激しい反対運動を引き起こしている。
 エルサルバドルでは、ファラブンド・マルチ民族解放戦線(FMLN)のレイエス広報官は、CAFTAの最初の犠牲者がでた、と記者会見で述べた。エルサルバドル政府は、CAFTAにともなって、多国籍企業を無制限に優遇するさまざまな法律や著作権法を改正し、海賊版の売人を処罰した。直ちに警察は海賊版の店を襲撃し、テロ、公共秩序の破壊、損害の容疑で20人を逮捕した。これに抗議するデモが起こり、逮捕者が出たが数時間後に釈放された。また、この間安い豆類、鶏肉、牛肉などの農産物が輸入され、小規模農民を破産に負いこんでいる。
 ホンデュラスの首都テグシガルパでは、CAFTAが批准される前日の3月31日、米大使館と新任のゼラヤ大統領の官邸に向かって何百人もの医師、教師、学生、労働者、先住民が抗議デモをした。ホンデュラスの失業率は46%にのぼり、700万の人口の71%は貧困以下の状態にある。ホンデュラスでは、コメ、とうもろこし、豆類などの生産農民40万人が破産に追い込まれると推計される。
 グアテマラでは、Ramon Cadenas弁護士がCAFTAは憲法に違反しており、企業の平等の原則から労働者の権利にいたるまで違反している、と憲法裁判所で証言した。これは30の社会運動と労働組合が提訴したものであった。またCardenasは、CAFTAが中米の統一を妨害するものであると、証言した。さらにCAFTAは、公共の健康権、食糧生産、ジェネリック医薬品に影響を与え、貧しい人びとの生活水準を引き下げる、とも証言した。

7.ラテンアメリカにおけるFTA反対運動

 米国は、2004年5月以来、ベネズエラ、ペルー、エクアドル、コロンビア、ボリビアのアンデス共同体5カ国とのFTA交渉を続けている。このうち、ペルーとコロンビアの2カ国がすでに米国とのFTA協定に署名している。
 しかし、ベネズエラ、ボリビアの2カ国は反米左派政権であり、大統領自身がFTA協定に反対している。ベネズエラは米国がFTA協定の締結を迫ることによって、アンデス共同体の分裂を図っているとして、抗議した。この米国のアンデス共同体分裂の陰謀は、すでに昨年末、米国が米州自由貿易地域協定(FTAA)の締結に失敗して以来、とくに力を注いできたところである。
 米国は、また南米南部の共同市場(MERCOSUR)に対しても同様の陰謀を企んでいる。
米国とのFTA協定は、安い米国の農産物、工業製品がこれらの市場に流れ込み、農民を破産させ、労働者を失業に追い込むことになると非難されている。
 ラテンアメリカにおけるFTA反対の運動は、この地域に反米、民族主義の中道左派政権が誕生していく中で、熾烈を極めている。
 とくに、米国の圧力を強く受けているエクアドルでは、FTA反対運動は激化している。3月16日、BBC放送によれば、全土的なストとデモが起こった。その結果、内相が辞任する騒ぎに至った。内相の辞任は、過去11ヵ月間で3人目である。デモは、FTAを国民投票にかけるよう要求している。
 4月7日、エクアドルでは、米国とのFTAの反対するデモで、ついにCuenca大学の17歳の学生が警察に射殺されるという事件が起こった。これはエクアドルでの反FTAデモでは最初の犠牲者となった。
 これに先立って、4月3日、米エクアドルFTA交渉は暗礁に乗り上げ、4月末まで延期されることになった。これは14回目の交渉で、1週間以上にわたった結果であった。
 ペルーでは、米国とのFTAに反対する勢力が大きい。今回の大統領選では、このFTA問題が争点となっている。しかし、トレド大統領は4月はじめにワシントンを訪問し、米ペルーFTA協定に署名した。しかしこれは、7月に予定されている議会選挙後の新上下議会で批准されねばならない。また、国民投票にかけることにもなっている。すでに国民投票の実施に必要な59,887票は集まっている。
 
8.アジアにおけるFTA反対の動き

 アジアにおいて、FTA(米国、日本との)に反対する運動がもっとも激しいのは韓国である。
 盧大統領は、彼の任期は08年までだが、その残りの2年の任期中の最優先課題は米国とのFTA協定の締結である、と言っている。
4月19日の『朝鮮日報』は、5月19までに米国とのFTAの事前交渉を行い、6月5日から正式交渉に入ることを発表した。交渉の内容は、農業、関税、ラベリング、サービス部門含む17部門にわたる。交渉が終了すれば、原則として協定の内容は公開されるが、いくらかの項目は協定発効後3年間公開されないことに、双方は合意した。
 これに先立ち、4月18日の同じく『朝鮮日報』は、Kim Hyun-chong貿易相の外国のプレスに対する談話として、「米国とのFTA交渉は、日本との場合と同様、韓国のマジノ線−農業とサービス部門を守る―を防ぎきれなければ、止めなければならない」と語った。
 また彼は、「韓国は来年3月、米国大統領の貿易促進権限(TPA)の期限が切れるという理由でFTA交渉をあえて急がない」とも言った。
 「韓国は工業製品のように競争力を持っている品目については完全に自由化をするが、サービス部門のように戦略的に発展させる必要がある部門はケースバイケースで、農産物市場の自由化の場合は損失を最低限に抑え、市場を再編していく」と指摘した。
 彼は、FTAは、米国市場で韓国製品が1%のシエアを伸ばせば、輸出を5.9%、GDPの1.4%、1人当たりでは300ドル上昇させることになる、とその効果を強調した。
 韓国の市民運動の代表は、3月28日、ソウルで記者会見し、「FTA締結をチェックするすべての人びとの運動本部の設置」を宣言した。
 東南アジアでは、米国は政変騒ぎで頓挫しているタイに代り、3月8日以来、マレーシアとのFTA交渉を推進しているが、ここでも、市民社会の反対は高まっている。
 最近、クアランプールで、ペナン消費者協会(CAP)、Sahabat Alam Malaysia (SAM)、第三世界ネットワーク(TWN)などが共催で、シンポジウムが開かれた。ここでは、米大統領のFast Trackの期限切れが迫っていることから、米国の圧力が強まることを懸念する声が多かった。FTAの内容は、マレーシア人の雇用、食糧主権、医薬品に対するアクセス、地場産業、サービス部門、小規模企業、そして国家主権までもが危険に晒される、との意見が出た。医薬品に関しては、糖尿病、心臓疾患、高血圧、そしてエイズ患者などが、被害者となるだろう。
 シンポジウムは、米国とのFTAに反対するメモランダムを採択し、首相など政府閣僚に送った。

9.日本のFTA交渉

 日本はFTAでは出遅れている。2002年にシンガポール、2004年にメキシコ、昨年12月にマレーシアとFTAを締結した。2004年11月、昨年8月、フィリピン、タイとの間にそれぞれ基本的な枠組みに合意している。
 現在では、韓国、インドネシアとFTA交渉中である。昨年は春以来、ASEANとのFTA交渉をはじめた。今年2月半ばにベトナムとの準備交渉に入り、今夏には正式な交渉に入ると予測される。また、MERCOSURの準メンバーであるチリとFTAの第1回交渉が東京で今年2月末に行われた。また、湾岸協力評議会(GCC)とFTA交渉を始める予定である。これは、湾岸の石油輸入を確保することが目的だとされる。インドとは今年中に交渉に入る予定である。日本はオーストラリア、スイス、南アフリカとFTA交渉を始める予定である。
 このようにFTA交渉の予定は多いが、交渉そのものは難航している。たとえば、日本はフィリピン、タイとまだFTAを署名するまでにいたっていない。フィリピンとは看護師、ヘルパー問題をめぐって合意に至っていない。ASEAN最大の人口を抱えるインドネシアとは今年中に締結するという予定は困難になっている。韓国とは昨年末に締結の予定であったが、難航している。これは靖国などの政治問題で外交関係が冷えていることによる。ASEAN全体とのFTA交渉はまったく進展していない。
 日本のFTA交渉の最大の問題は農業と労働の開放である。これらは途上国が最も要求している項目ある。そこで、日本は、3月7日以来、FTA交渉をEPA交渉に変えた。FTAは輸入関税を低くする、あるいは撤廃することに限られるが、ETA(経済協力協定)は、FTAに加えて、外国投資の規制撤廃、紛争処理メカニズム、知的財産権の保護などより“包括的”な貿易協定である。
 ETA交渉は、FTA交渉よりも時間がかかり、より複雑である。それゆえ、中国に遅れをとっている。日本は、ETAのモデルをつくり、それを、今後、ベトナム、ブルネイ、インドなどとの交渉のモデルとして相手国に提示していく。